オーディンに帰還したころには10月になっていた。
伯父上に笑顔で迎えられ、褒められた。
大変な喜びようである、どうかしたのだろうか?
ちなみに僕も大変喜ばしい。
なんとあのラインハルトがいまだに昏睡中である。
ブリュンヒルド付属の軍医に匙を投げられ、オーディン帰還と共に帝国病院に担ぎ込まれたのだ。
うん、そのまま死んでくれ。
伯父上から戦勝パーティーを開くとの旨、皆に確認をとったところ全員参加と相成った。
もっとも、オフレッサー装甲擲弾兵総監は部下に仕事を滞納していると、5人がかりで引きづられていってしまったが。
「リヒテンラーデ閣下、いかがいたします?」
「ゲルラッハか、よもや金髪の孺子が倒れるとはな……」
「ローエングラム元帥の配下の者たちでは、フレーゲル男爵の相手は務まりますまい」
「ここでエルウィン・ヨーゼフ殿下を擁立しても、即座に皇孫を娘に持つ二人に追われるだけか」
「はい」
「……やむを得ぬ。ブラウンシュバイク公に連絡を取る」
「では、エリザベート様で?」
「そうだ。が、手を結ぶのはリッテンハイム侯を排除するまで、その後はフレーゲル男爵を利用し排除する形になる。そうなればエリザベート様でも外戚問題はなくなる」
「あの二人の仲を裂けますでしょうか?」
「フレーゲル男爵からブラウンシュバイク公を裏切ることはあるまい。が、男爵を必要以上に優遇すれば公は勝手に猜疑心に陥ってくれるだろう。そうなれば進退をかけて男爵は動かざるを得まい」
「そううまくいくでしょうか?」
「いかせるのだ、帝国の未来が我らの手に懸かっているのだから」
戦勝パーティーの途中で伯父上が退出し、そのまま戻ってこなかったのだが、その理由が翌日判明した。
なんと従妹のエリザベートちゃんが次の皇帝に決まったからである。
うん、もう原作展開なんて忘れてたから誰が皇帝になるかなんて興味なかったけど、こうなると……どうなるんだ?
ラインハルトがいないからリップシュタットは起きないわけだが、さて?
アンスバッハさんがめでたきことですと、僕に教えてくれたのだが、申し訳ないことに殆ど上の空だった。
そして、新皇帝即位となったわけだが、原作でというかアニメや漫画でかわいくないガキが玉座に座ってるのもシュールなもんだったが、お人形さんみたいなエリザベートちゃんがちょこんと玉座に座っているのも、
また妙なものだった。
僕がそんな感想を抱いていると、宰相となった伯父上に名前を呼ばれる。
なんかしたっけ?
「ヨヒアム・フォン・フレーゲル伯爵。そなたを元帥とし、新たな宇宙艦隊司令長官に任ずる!」
おおー、フレーゲル伯爵すげー。
っていうか、僕か。
一個飛ばしで伯爵かよ。
あと宇宙艦隊司令長官とか、原作でも思ったけどミュッケンベルガーのおっさんどうなったんだろ?
ははー、と跪きながらもそんなどうでもいいことを考えていた。
なお、先の同盟領侵攻作戦の功績で、ファーレンハイトさんは上級大将に、双璧が大将へと昇進した。
それ以外の艦隊司令は据え置きとなったが、シュトライトさん、シューマッハさん、オーベルシュタイン、フェルナーくんら僕のところの幕僚は階級を一つ上げていた。
そしてこの日もパーティーである。
伯父上は仕事の都合上出席できなかったので、名目は僕の伯爵やら元帥やら司令長官やらの就任祝いみたいなものだ。
「シュトライト少将、なんか参加者少なくない?」
ようやく人ごみから開放された僕は近くにいたシュトライトさんに尋ねる。
確実に前日のパーティーより人が少ない。
にぎやかさは、オフレッサーのおっさんが前日最後まで参加できなかった腹いせに、幹部を引き連れ参加しているので大変にぎやかしいのだが。
もしや、それが原因か?
と思ったが、違うらしい。
どうも、僕の昇進やら何やらでエリザベートちゃんとの婚約を囁かれていた連中が、多数リッテンハイムに鞍替えしたらしい。
というと、僕が原作のラインハルトの場所にいるわけか?
まあ、どうせ門閥貴族なんて烏合の衆だし楽勝か。
とまあ、懲りない僕はこの後ファーレンハイトさんとオーディンの飲み屋に繰り出した。
無論、僕のおごりで。
「遅かったじゃないか、ミッターマイヤー」
「五分も遅れていないだろう、ロイエンタール」
「で、どうだった?」
「回復は神のみぞ知る、と言ったところだそうだ。あの藪医者の話では原因不明の病らしい、グリューネワルト伯爵夫人も大変心配しておられた」
「そう、か……」
「……」
「メックリンガーは早速今日のフレーゲルの昇進祝いに出向いたぞ。ケンプ、ワーレンもそれに倣うだろう」
「……」
「ビッテンフェルトはローエングラム伯を尊敬していたからな。とはいえ奴も軍人だ、フレーゲルに従わざるをえん」
「俺は、フレーゲルは好かん! だが、俺は帝国軍人であり、艦隊を預かる提督として軍令には従う!」
「そうだ、それでこそミッターマイヤーだ。そこが卿の限界でもある」
「っ! ロイエンタール、まさか?」
「……そうだな、卿は自分がファーレンハイトに劣ると思うか?」
「? いや、百戦して百勝できるとは言わんが、劣っているとは思わん」
「うん、俺もだ。しかし、この先卿も俺もファーレンハイトの下につくことになる。それが気に入らない」
「しかし、それは……」
「うむ、実に勝手な言い分だ。そして俺たちにはファーレンハイトの上、もしくは同格となる機会は用意されていた」
「……そう、だな」
「が、俺たちはローエングラム伯に夢を見た。いや、これは俺だけかもしれんが」
「いや、俺もあの人に託したものはあった」
「そうか。しかし、彼は夢半ばで舞台を降りた。次の幕には間に合うまい。であれば、俺の矜持を示すのはこの場においてしかあるまい!」
「リッテンハイム侯の治世を予想できても、行くのか?」
「戦功しだいでは、俺が奴の娘の伴侶となる可能性もありうる。そう悪いようにはせんさ」
「……もう、決めたのか?」
「ああ。それと、もう一つ大事な事があった」
「?」
「一度、卿と本気で戦ってみたかった」
「っ!」
「友として会うのはこれが最後だな。次は戦場で会おう、ミッターマイヤー」
「……ロイエンタールの馬鹿野郎」
「あの二人に大変な評価をされたファーレンハイトさん、一言どうぞ」
「よろしい、本懐である」
ちょ、おまっ!