『そっちの様子はどうだ? ボロディン』
『あまりそちらと大差ないよ、ウランフ。統率も何もあったものではないが、勢いだけは凄まじいものがある』
『やっかいなものだ。今はまだ優勢だが、いずれ戦力差から押し切られかねん』
『アルレスハイムは今のところ膠着しているが、ヴァンフリートはそろそろ持たんぞ』
『ラインハルト・フォン・ローエングラムだったか? ティアマトで討ち取っておけばというのは、無意味と知りつつ夢想してしまうな』
『アスターテもあの男の指揮か。こうなると先のイゼルローンが痛恨だな』
『幸いは、ビュコック爺さんが宇宙艦隊司令長官になったことぐらいか。なった途端にこれでは、だが』
『まあ、と……敵の再編が終わったようだ。メルカッツか、嫌になるほど堅実だ』
『過去二度ほどやり合ったが、そちらは?』
『これで六度目だ。そろそろ終わりにしたいものだがな!』
アルレスハイムで叛乱軍と遭遇してから一週間がたった。
初日の先制攻撃から叛乱軍は堅陣を引き、こちらの仕掛けに全く応じなかった。
一応、三日ほど色々とファーレンハイトさんが手を出して見たのだが、惑星を堅守しこちらの動きに釣られることは無かった。
仕方ないのでその後は四日ほど睨み合ったままである。
まあ、一番乗りに拘っている訳ではないのでゆっくりできるわけだ。
ここの叛乱軍とて、ヴァンフリートの本隊がアスターテに歩を進めたら引かざるを得ない。
アスターテを塞がれたら挟撃を受けるのだ。
僕らは労せずしてヴァンフリートが陥落しだい、逃げる敵を追撃すればいいのである。
いきなり戦闘突入と、テンションが駄々下がりだった僕だが、相手がガンガンこなかったおかげで平静を取り戻せた。
こちらは静かなものであるが、他の二方面は激戦の模様。
メルカッツさんの所は正面からの殴り合い、案の定ヒルデスハイムの馬鹿が先走りやがったのだ。
完璧な作戦を立てたらしいシュターデンがぶち切れたらしいが、今のところ互角に戦っているらしい。
もっとも、被害はメルカッツさんをしても5:3ぐらいの比率でかなりの損失を出してしまったようだ。
なお、先日入ったフェザーンからの情報ではウランフ、ボロディンのガン殴り部隊らしい。
そして本命というか、覚醒ラインハルトが率いるヴァンフリート方面は非常に優勢とのこと。
まあ、ただでさえ倍近い戦力差がある上に、覚醒済みのラインハルトが双璧やらの名将を率いているのだ。
これに勝てるとしたらヤンぐらいだろう。
こちらのアップルトン、アル・サレム組はギリギリで踏みとどまっているようだが、すでに戦力の三分の一は削られてしまったらしい。
対して、ラインハルト側は1割弱ほどの被害。
倍近い戦力差に、近日中に撤退すると見られている。
そして僕らのところはホーウッド、ルグランジェ組。
遭遇から八日目にして動きがあった。
『惑星より多数の大型輸送艦! 敵艦隊が動き始めました!』
どうやら住民の脱出のための時間稼ぎをしていたらしい。
「さて、どうする? まんまと時間を与えてしまったようだが」
ファーレンハイトさんが意地悪そうに聞く。
嫌だなぁ、分かってるくせにー。
「大丈夫だ、問題ない。叛乱軍は輸送艦の守りを優先せざるを得ない状況だ、イニシアチブは完全にこっちにある。オーベルシュタイン准将?」
「はっ」
この五日間、何もしていなったわけではない。
優秀な幕僚陣と指揮官たちが今後の作戦を練ってある。
僕の仕事は許可を出すことだけだ。
「叛乱軍の動きは、予想されていた案件の一つ、住民の脱出を支援することです。事前に検討してあります追撃プランBがこの状況に適しているでしょう」
このプランBは目下のように叛乱軍が住民の脱出を支援する場合の追撃計画である。
とことん輸送艦を優先して狙うように見せかけ、相手に有効な艦隊運用を取らせないようにするのだ。
その上で敵空母を優先して撃破し、乱戦に持ち込んだ上でワルキューレの大盤振る舞い。
最後に、僕がリップシュタットを見越して計画に盛り込んだ、装甲擲弾兵を強引に旗艦に突撃させて止めを刺すという流れである。
もちろん、原作のシェーンコップさんのパクリだ。
なお、プランAは叛乱軍がそのまま撤退する場合の追撃計画である。
こっちは普通の追撃戦で、ファーレンハイト艦隊が逃げる叛乱軍にずるずると出血を強いる流れになる。
さあ、これがうまくいけばリップシュタットで数を頼りに、乱戦から旗艦襲撃の策が出来上がる。
正直、オフレッサーのおっさん以外微妙そうな顔を浮かべていたが、きっと何とかなる!
多分、何とかなる。
……何とか、なるよね?
「全艦、前進!」
僕の不安をよそに、ファーレンハイトさんが号令をかけた。
何とかなった!
ゲロを自分で始末した僕は、すっぱい空気に包まれながら安堵の息をつく。
周りの冷たい視線に耐えながら、僕は未来のことだけを考えている。
なんでこうなったかといえば……
ちまちまとしたこちらの嫌がらせに切れたのか、敵艦隊の一方が猛然と襲い掛かってきたのが一時間ほど前。
予想以上に短気な叛乱軍指揮官に呆れながらも、予想済みであったため相手の一撃を受け流しながら乱戦に持ち込む。
当然、その間にもう一方は輸送艦群と戦線から離れていく。殿の面もあったのかもしれない。
空母の優先撃破はならなかったが、既に数が違うので問題ないと思う。
「ワルキューレを出せ! 揚陸艦に敵戦闘機を近づけるな!」
こちらから乱戦に持ち込んだわけだが、僕の予想以上に敵味方が入り組むな、これ。
道理で皆が微妙な顔をするわけだ。
ちょっとした事故でこっちの旗艦が落ちかねん。
ちなみに僕の乗る、分艦隊旗艦はヴィルヘルミナ。
ミュッケンベルガーのおっさんから貰ったものだ。
そんでもって、ワルキューレ発進の指示を出したのはシュトライトさん。
僕はすでに立っている余裕も、声を出す余裕も無く提督席に座っている。
艦がガリガリ揺れる。無茶苦茶怖い。
そんな状況が三十分も続いたであろうか、石器時代の勇者の声と共に中央のモニターが朱に染まる。
『おう、片が付いたぞ!』
ガハハと笑いながら、勇者は敵将の首を掲げた。