予想通り、前途多難である。
同盟領に侵攻する前に、イゼルローンで作戦を話し合ったのだが、当然まとまらなかった。
覚醒ラインハルトは一気に全軍でシヴァ星系辺りまで進出して叛乱軍に決戦を強いることを主張したが、ヒルデスハイムを筆頭とした貴族連中が強固に反対。
如何せん戦力の三分の一が反対だと、覚醒ラインハルトも腹立たしげに主張を取り下げるしかなかった。
いかにローエングラム伯で総司令官で元帥だろうと、帝国軍とは名ばかりの貴族の私兵には絶対的な指揮権が存在しない。
専制国家ゆえ致し方なしだが、兵力が兵力だけにまともに運用できれば同盟を打倒できそうな覚醒ラインハルトは悔しいだろう。
なんだかんだで、ラインハルトだけに手柄を立てられたくない貴族が集まっているようなものなので、一枚岩は程遠く、すでに空中分解寸前である。
メルカッツさんは完全にお飾りで、本人もそれを弁えているのかさっきから無言。
出戻りのシュトックハウゼン大将も、戻って早々こんな会合に参加せねばならないとは運の無い。
しかも、ちょっと前の同僚は出世しているという状況でだ。
一応、僕の要塞司令官赴任絡みが相当強引だったので、そのフォローに彼も来期には昇進して軍中央にポストが内定している。
が、先を越されたのは事実なので面白くは無いだろう。
早く要塞から出て行けといわんばかりの顔をしていた。
この作戦会議であるが、なぜか少将以上が参加条件なので、ブラウンシュバイク陣営は僕を含め参加しているのは3人だけである。
しかし、何故か貴族は30人ぐらい参加している。
まあ、僕もなぜか少将だったりしたしね。
ファーレンハイトさんは、ローエングラム陣営と貴族連中がいがみ合うのをニヤニヤして見ている。
ラインハルトにがんを飛ばしていたオフレッサーのおっさんは、飽きたのかさっき欠伸をしながら退室した。
そして、僕が会議そっちのけではやく終わらないかな~などと考えていると、
「フレーゲル参謀長は、いかがお考えかな?」
いきなりロイエンタールに話を振られた。
へ?
「え、えーと?」
「先の叛乱軍の奇策を見破ったフレーゲル閣下の作戦であれば、彼らも納得しましょう」
えー、なんて無茶振りですかー?
こんなときにオーベルシュタインがいれば丸投げできたのに!
うーん、うーんと、
「えー、では軍を三つに分けて、三方向から侵攻してはどうでしょう? 総司令はヴァンフリート方面から、我々がアルレスハイム方面から、副司令はティアマト方面からといった風に」
「わざわざこちらから兵力分散の愚を犯すというのか!」
「それでも各々4万以上の艦艇を有しており、叛乱軍の三個艦隊に相応しています。それに叛乱軍が戦力を集中して運用してくるのであれば、こちらも直ちに合流すれば対処できましょう」
ビッテンフェルトに怒鳴られたが、一応最後まで言い切る。
ローエングラム陣営の諸将はどこか呆れたような、貴族たちは逆に悪くない反応である。
そもそもこんな寄せ集めで、まともな運用を考えるなんて時間の無駄だ。
出兵目的が覚醒ラインハルトの出鼻を挫かせるものなのに、フェザーンの情報に踊らされて戦功を得ようって連中ばっかが集ったから本格的にどうしようもない。
こんなんを僚友として戦うなんて冗談ではない。
なので、僕は意図的に戦力を三分したわけだが、いまいち押しが足りないようだ。
「更に一番はやく合流ポイントにたどり着いた艦隊が、その後の戦略の決定を行うというのはどうでしょうか?」
あまりやりたくなかったが、ローエングラム陣営、貴族連中両方に使える餌を投げよう。
ローエングラム陣営から見れば、戦力的に自分たちが一番先にいけるのが分かるはず。
そして貴族連中は、あのラインハルトを仕切れるうえに戦功も稼げると錯覚してくれるはず。
問題はこんなアホな提案をした僕がアホに思われることだが、命には代えられない。
一番信用できる40000と共にのんびり侵攻し、叛乱軍がまとまってきたらさっさと逃げよう。
「さすがフレーゲル男爵。実に見事な作戦だ!」
黙れヒルデスハイム。
お前に褒められてもちっとも嬉しくない。
あと、こんな場で爵位でよぶな。
「卿らも参謀長の作戦なら問題ないというわけか?」
覚醒ラインハルトがなんか疲れたような顔で貴族連中に聞く。
ヒルデスハイムが代表でさようですなと答え、続けてなにやら言い始めたがどうでもいい。
その後、ローエングラム陣営が中心となって作戦の詳細をつめることとなったが、僕の都合とはいえメルカッツさんは絶対苦労するよな。
ヒルデスハイムとかが作戦通り動くわけねーもん。
ローエングラム陣営50000は、ヴァンフリート-アスターテ-ドーリアからエルゴンに抜けるルート。
メルカッツさんの貴族混成艦隊40000は、ティアマト-ダゴンからエルゴンに抜けるルート。
僕らの40000は、アルレスハイム-パランティアからアスターテを経由してエル・ファシルを通りエルゴンに抜けるルート。
そんなわけで合流地点はエルゴン星系。
それまでに叛乱軍が大挙して押しかけて来たら速やかに合流し、そうでなければ各星系を占拠しながらエルゴンへ。
その後は、一番乗りの陣営が方針を決定する。
どちらにせよ、ハイネセンまで行きたいのは同じだと思うけど。
一見僕らが一番不利に見えるが、それはエルゴンに一番乗りを考えた場合だ。
決定権なんていらんし、僕の考えではこのルートが一番安全なはずである。
そう考えていたのだが、所詮は僕の浅知恵。
うまくいくはずが無いのである。
「さて、早速叛乱軍のお出ましだな」
ファーレンハイトさんは実に楽しそうですね?
『敵艦数、およそ30000!』
『ヴァンフリート、ティアマト両方面でも叛乱軍と接触、戦闘が始まっているようです!』
「しかし、妙ですな? こちらの兵力分散にわざわざ付き合うとは」
ですよね、シュトライトさん。
なんでこっちにあわせたんだろ?
「惑星を守るように展開していますな」
フェルナーくん、それは当たり前のことじゃないの? いや、詳しく知らないけど。
「フレーゲル参謀長、いえ、分艦隊司令。ご命令を」
なんか意見くれません? オーベルシュタイン。
罠とか策とか、君なら分かるでしょ?
「では、一戦して相手の出方を見る! ホフマイスター中将、先陣は任せる!」
『了解しました!』
ファーレンハイト艦隊なら簡単にやられないはずだ。
先陣を任せたホフマイスターさんに、ファーレンハイトさんがなにやら指示を与えている。
いきなり戦闘とか、もう帰りたくなってきたよ。
あと、ファーレンハイトさん指揮よろしく。