駐留艦隊が入港してきた。
僕はそれを出迎えるため、幕僚を引き連れ宇宙港で待機している。
お、旗艦からゼークトのヒゲおやじが出てきた。
大勝利に関わらず、むすっとしている。
まあ、気持ちは分かる。
自分が招いた危機を、見下していた相手にフォローされたのだ。
面白いわけが無い。
「おお! 無事の帰還、このフレーゲル喜びに堪えません!」
満面の笑顔で近づき、拍子抜けするヒゲおやじを抱擁する。
「ゼークト閣下の仰った通り、叛乱軍め姑息な手を仕掛けてきました」
ヒゲおやじが目を白黒させている間に、親友のアルフレットくんのまねで手振りしながら演説っぽく畳み掛ける。
「が、見ての通り、閣下の策にて叛乱軍はご覧の有様です。このフレーゲル、感服の極みですぞ!」
有無を言わさず言い切った。
ヒゲおやじはしばし思考が追いついていないようであったが、僕の言葉が理解できたのか、「う、うむ。そうであったな」とかしきりにうなずく。
ふふふ、必殺の褒め殺し。
これでこのヒゲおやじは僕に逆らえまい。
正直、功を独り占めも考えたものの、あの戦闘を見ればシュターデンとかヒルデスハイムより使えると思うのだ。
来たるべくリップシュタット戦役に向けて使える提督は一人でもほしい。
なら恨まれるよりも、恩を着せたほうがいいと僕は判断したのだった。
帝都への報告はオーベルシュタインがそつなくこなしてくれた。
うーん、オーベルシュタインも僕の死亡フラグな気もするが、リップシュタットでこの人がやったのってヴェスターラントの惨劇を見逃したことぐらいだったよな?
もし、この先そうなったらシューマッハさんに従って亡命ルートしかないけど。
「フレーゲル閣下」
うわ、話しかけられた!
「な、なにかな?」
「オーディンへの報告はあれでよろしかったのですか?」
何かミスでもあったかな?
いや、この人完璧主義者な感じだしミスがあったら事前に言うよな?
「問題あったかな?」
「何故、功をゼークト大将と分けられたのですか?」
……なんだ、そのことか。
「別に大した理由は無いよ。変に妬まれたり、恨まれたししたくなかっただけだし」
あと将来を考えてっと、これは説明しようが無いしな。
「……差し出がましいことを聞き、失礼いたしました」
いや、別にいいけど。
しかし、なんでそんなこと聞くかね?
数日後、帝都よりの通信が届き、僕とゼークトのヒゲおやじの両大将は戦勝式典のため帰還することとなった。
さらに言えば、両名共に上級大将となるためイゼルローンの要塞司令官と駐留艦隊司令官は別の人間が着任することになる。
オフレッサーとその仲間たちも僕らと同じ艦艇で帰還するほか、駐留艦隊の幕僚も昇進による異動のため帰還を共にすることとなった。
オーディンに帰還した僕は、いくつかの驚くべき報告を聞くこととなった。
何と、ファーレンハイトさんが大将になっていた。
なんでもカストロプの動乱を鎮圧した功らしい。
あー、キルヒアイスがもういないからラインハルトが何もしなかったのか。
やはり、ヤン・ウェンリーは死んでいた。
フェルナーさんが調べてくれたアスターテの続報でヤン准将の名を確認できた。
これイゼルローン赴任前に知ってたら、今頃同盟の捕虜だったな。
危なかった。
しかし、キルヒアイスともども変なとこで死んじゃったな。
原作ではファンだったし、せめて冥福を祈ろう。
伯父上に褒められた。
まあこれはどうでもいい。
オフレッサーのおっさんは昇進を断ったらしい、その代わり戦闘に参加した部下全員の二階級特進をお願いしたようだ。
……いい人である。
イゼルローン攻防戦の勝利はある意味日常化した面もあるので、式典は先のアスターテの大勝利のときほど豪勢ではなかったが、いままでついでの昇進だったのが今回は主役となってしまったのでかなり緊張した。
そして、翌日の元帥府で一番驚愕する羽目になった。
「このたび、ブラウンシュバイク元帥府に配属を命じられました。パウル・フォン・オーベルシュタイン准将です」
なんだこりゃ。