なにがどうなっているのか、さっぱり分からない。
ヤンの半個艦隊かと思ったら、30000もの大艦隊がやって来た。
もう駄目かも分からんね。
半分ぐらい現実逃避しながらも、僕はたどり着いた味方艦の指揮官が面会を望んでいるとの報告を受け、会うことにした。
原作を考えれば、十中八九罠なのだが、最悪駐留艦隊が全滅している可能性もある。
ここでシェーンコップのおっさんが来たら、ヤンも生きてるかもしれん。
もう細部の記憶はあやふやだが、たしかローゼンリッターはアスターテに参加していたはずだ。
現れたのは、負傷の後も痛々しい黒髪の士官であった。
……ヤン。死んでるな、これは。
シェーンコップじゃなかった。
現実じゃこんなものかもしれない。
結局、歴史の修正力なんてものは物語の中だけなんだろう。
なんたら少佐と名乗った黒髪の男が興奮を隠さず、要塞の危機と駐留艦隊の全滅を叫ぶ。
それにしても、ちょっと負傷の程度がわざとらしく見える気がする。
原作知識の影響だろうけど、僕は罠だと思う。
司令部の面々が青ざめていく中、僕は一人そんなことを考えていた。
「それは、うぐっ!」
なんか叫んでいた少佐が蹲る。
僕はそばの人に助け起こすよう目配せする。
舌打ちが聞こえた。
……やはり、罠か。
突然、警報が鳴り響く。
ざわつく司令部を尻目に、少佐が仕込んであった武装を取り出した。
「段取りは少々異なるが、諸君らには人質になってもらおう!」
そう不適に笑う少佐。
即座に気づいた士官の一人が銃を手にするが、
「っ! ゼッフル粒子か!」
床に撒かれたお馴染みゼッフル粒子発生器を一瞥し、憤怒の相を浮かべた。
あっという間に武装した少佐たちが、僕らに降伏を勧告してくる。
ただ、ここまでなら原作を知っていれば、僕でも対処できる。
「では、排除をお願いします。オフレッサー装甲擲弾兵総監殿」
最悪を考えて用意してあった切り札を切る。
陸戦隊をゼッフル粒子散布下で抑えられるのは、同じ陸戦隊のみ。
「中々、食い甲斐がありそうだ!」
「なにっ?」
僕が右手を上げると、密かに待機していた石器時代の勇者が少佐たちに襲い掛かる。
装甲服を身にまとい特別製の戦斧を振り回すこの男に、複数かつ武装しているとはいえ携帯して隠せる武装では勝てるはずも無い。
戦闘とは名ばかりの一方的な鏖殺となり、ミンチメーカーの二つ名に相応しく、司令部は真っ赤な肉片でぐちゃぐちゃになった。
当然、勝ったのはオフレッサー。
勇者が血まみれでふんぞり返るなか、僕は胃の中身をぶちまけていた。
さて、ゲロを吐いている場合ではない。
司令部に飛び散った死体を片付けている間に、状況は大体終了していた。
味方艦に隠れていた揚陸艦は、あの後すぐ現場にすっ飛んでいった勇者とその部下達によって、無事鎮圧されたようだ。
また、負傷兵に偽装していた敵兵士達も、要塞内に散らばられる前に鎮圧に成功、なんとか首の皮一枚で助かった。
駐留艦隊は気がかりだが、それよりも射程ラインの叛乱軍30000のほうが問題だ。
「……あっ!」
いいこと閃いた。
「叛乱軍に通達。『ワレ要塞奪取ニ成功セリ』!」