== 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==
白いバリアジャケットに身を包んで、なのはは、いつでも戦える用意をしていた。
ジュエルシードを探す切っ掛けになったフェレット形態のユーノのアドバイスである。
ユーノの結界により、人払いの済んだ夕暮れ時の公園で、なのはとユーノは、やさぐれフェイトを待ち続けた。
第6話 やさぐれと白い服の少女②
なのはとユーノが緊張して待っていると何か聞こえて来る。
・
・
チャッチャッチャッチャッチャ~チャ♪
チャララ♪
チャッチャッチャッチャッチャ~チャ♪
チャララ♪
チャララチャ~チャ♪
チャララ♪
チャッチャッチャッチャッチャ~チャ♪」
なのはが呟く。
「歌ってるよ……。」
「そうだね……。」
二人の距離まで、かなりあるのに歌は鮮明に伝わる。
そして、歌が変わる。
「タンタンタンタン♪
タンタンタンタン♪
タ~ンタ~ンタ~~ンタン♪
タンタンタンタン♪
タタタ♪ タタタタタン♪
・
・
お待たせ……。」
プールバックを片手に登場したやさぐれフェイトに、なのはとユーノは、一気にやる気がなくなった。
「バリアジャケットまで着て、
何してるんだろう……私。」
「間違ってない!
なのはは、間違ってないよ!」
なのはを励ますユーノを無視して、やさぐれフェイトは、なのはに話し掛ける。
「戦うの……?」
「そういう可能性もあるかと思ったの……。」
「期待させて、ごめん……。
じゃあ、あたしも変身するから……。」
やさぐれフェイトは、三角形のプレート形態のバルディッシュを起動する。
「実は、変身するのは初めて……。
・
・
天光満つる所に我はあり……。
黄泉の門ひらく所に汝あり……。」
「ユーノ君!
あの言葉は!?」
「彼女のデバイスを使う時の呪文だ!
なのはのレイジングハートと同じ!」
なのはとユーノが身構える。
「出でよ、神の雷……。
インディグネイション……。
バルディッシュ・セットアップ……。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「呪文が違うっぽい……。」
なのはとユーノがこけた。
「何でなの!?」
「いや、呪文を知ってるのはフェイトだから……。
ちょっと、待って……。
知ってる呪文を全部試すから……。」
「い、今から?」
やさぐれフェイトは、無視して呪文を唱え出す。
ここで攻撃しないなのはは、本当にいい子だ。
「リ-テ・ラトバリタ・ウルス……。
アリアロス・バル・ネトリ-ル……。
我を助けよ、光よ甦れ……。
バルディッシュ・セットアップ……。
・
・
違う……。
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・
黄昏よりも昏きもの……。
血の流れより紅きもの……。
時の流れに埋もれし偉大な汝の名において、我ここに闇に誓わん……。
我等が前に立ち塞がりし、全ての愚かなるものに我と汝が力もて……。
等しく滅びを与えんことを……。
バルディッシュ・セットアップ……。
・
・
違う……。
・
・
土に根を下ろし、風と共に生きよう……。
種と共に冬を越え、鳥と共に春を謳おう……。
バルディッシュ・セットアップ……。
・
・
違う……。
・
・
たった一夜の宿を貸し、一夜で亡くなるはずの名が……。
旅の博徒に助けられ、たった一夜の恩返し……。
五臓六腑を刻まれて、一歩も引かぬ侠客立ち……。
とうに命は枯れ果てて、されど倒れぬ侠客立ち……。
とうに命は枯れ果てて、男一代侠客立ち……。
バルディッシュ・セットアップ……。
・
・
これも違う……。
フェイトの趣味は、理解出来ない……。」
「途中から、呪文でも何でもないような……。」
やさぐれフェイトは、諦めると溜息を吐く。
そして、バルディッシュを斧杖形態にすると話し掛ける。
「バルディッシュ……。
頑張れ……。」
((デバイスに丸投げした!?))
『がってんだ!』
それでもバルディッシュは、健気に応える。
なのはとユーノは、デバイスの素晴らしさだけが胸に染み入った。
「「「あ……。」」」
しかし、バリアジャケットは、無情にもバルディッシュの下の地面に落ちただけだった。
…
やさぐれフェイトが、バリアジャケットを拾い上げる。
「何故……。」
そして、なのは達に振り返る。
「変身するから、待ってて……。」
やさぐれフェイトは、プールバックからゴム付きのバスタオルを取り出すと首のところまですっぽりと被り、パチンパチンとボタンを留める。
そして、ごそごそと服を脱ぎ出した。
「ユーノ君……。
着替えてるよ……。」
「そうだね……。
ここで、攻撃したらいけないのかな……。」
「出来ないよ……。
こんな変身する魔法少女を攻撃なんて出来ないよ……。」
「…………。」
会話が止まる。
居ても立っても居られずになのはが、やさぐれフェイトに質問した。
「あ、あの、フェイトちゃん?」
「あたし、フェイトじゃない……。」
「え? で、でも……。」
「君に名乗ったのは、間違いなくフェイト……。
今のあたしは、フェイトの擬似人格……。」
「擬似人格?」
「頭打った時にフェイトの自己防衛機能が働いて出て来た……。
アルフは、やさぐれたフェイトって言ってた……。
一応、注意したいだけだったから、フェイトって呼んでもいい……。」
「名前……ないの?」
「好きに呼んでいい……。」
「じゃ、じゃあ!
やさぐれちゃん!」
「ん……?」
「あなたのことは、
今から、やさぐれちゃん!」
「…………。」
(あだ名のつもりなんだろうけど……。
やさぐれが入ってる……。
意味分かってないんだろうな……。
・
・
でも……。)
「それでいいよ……。
名前があるのは嬉しいから……。」
なのはは、満面の笑みを浮かべるが、隣でユーノは、微妙な表情をしている。
ユーノは、やさぐれるという意味を知っているに違いない。
「やさぐれちゃん。
プール行ってたの?」
「うん……。
バタフライを覚えたくて……。」
「どうして、いきなりそんな難しい泳ぎなの?」
「設計ミスで、時速20キロで流れる殺人プールを
泳がなくてはいけなくなった時のために……。」
「ないよ!
そんな流れるプールないよ!」
「そうかな……。」
「それにバタフライも間違いだよ!」
「でも、今日、覚えて来ちゃった……。」
「そ、それはいいことだけど……。」
ごそごそと動くやさぐれフェイトの下で、シャツの上にパンツが乗る。
ユーノは、赤くなりながら、それとなく視線を外す。
そして、事件が起きる。
「「あ。」」
パンツが、風に飛ばされた。
小高い上にある公園から、夕日に照らされてパンツが舞い上がる。
「…………。」
やさぐれフェイトは、ガシガシと頭を掻くとクセ毛を作る。
「まあ、いっか……。
パンツぐらい……。」
「よくないよ!」
なのはは、ユーノを肩に乗せたまま飛び立った。
…
空中でなのはは、パンツを握った。
少し湿って、カルキの匂いがする。
きっと、体を丁寧に拭かずにパンツを履いたに違いない。
やさぐれフェイトのずぼらさが見え隠れする。
「ユーノ君……。」
なのはは、湿ったパンツを握りながら呟く。
「私、ユーノ君にお願いしたいことがあったんだ……。
戦い以外に空を飛ぶ魔法を使わせてって……。
それがまさか……。
戦い以外に初めて使う空を飛ぶ魔法が、
パンツを掴むためだとは思わなかったよ……。」
「なのは?」
「はは……。
私の初めての空飛ぶ魔法は、パンツのためか……。」
「ノーカウント!
今のは、ノーカウントだよ!」
「……本当?」
「本当だよ!
これは、戦いだよ!
あの子だって、変身(?)してるんだから!」
「そ、そうだね。
そうだよね。」
一瞬、悲しい話になりそうになったが、ユーノのフォローで何とかなった(?)。
そして、やさぐれフェイトの下に戻るとやさぐれフェイトは、バリアジャケットと格闘していた。
「ぐぐぐ……。
赤い留め具が一向に開かない……。」
やさぐれフェイトは、バリアジャケットについている留め具を力任せに取ろうとする。
しかし、本来は、魔法で換装するためか一向に外れない。
「己……。」
そして、決定的な音がするとバリアジャケットが裂けた。
「…………。」
「信じられない……。
素手でバリアジャケットを引き裂くなんて……。」
「ユーノ君。
注目するところは、そこじゃないと思う……。」
やさぐれフェイトは、バリアジャケットを投げ捨てるとなのはに近づき、パンツを受け取る。
そして、服に着替え直すと変身自体なかったことにした。
「さあ、来い……。」
なのはの視線が下に下がる。
引き裂かれたバリアジャケットとビーチサンダルの魔法少女。
「戦えないよぅ……。」
「さあ、来い……。」
やさぐれフェイトは、昨日見た世紀末戦隊のような掛け声を繰り返した。