== 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==
アルフが起きてから五時間近くが過ぎ、もうお昼近くになる。
「あのやさぐれっ子は、
一体、いつになったら起きるんだい。
これじゃあ、ジュエルシードを探しに行けないよ。」
そして、目を擦り寝癖全開で、やさぐれフェイトが現れる。
「おはよう……。」
「もう、お昼だよ……。」
「お風呂入って来る……。」
やさぐれフェイトは、ダラダラと重い足取りで風呂場の方に消えた。
アルフは、それを見ると溜息を吐いた。
第3話 やさぐれ初日・昼
食パンに噛り付きながら、やさぐれフェイトは、テレビを見ている。
その後ろでは、アルフが丁寧に髪を梳かしている。
「ごめんね……。
召し使いみたいなことさせちゃって……。」
「いいさ。
これは、私の役目でもあるから。」
「フェイトは、いい家族を持ってるね……。」
「家族……。」
「うん。
フェイトは、そう思ってるよ……。」
「そうかい。」
アルフは、嬉しそうにやさぐれフェイトの髪をいつものように二つに結う。
そして、髪を整え終えた時、インターホンが鳴った。
「何で、この家を訪ねて来る人が居るのさ……。」
「多分、あたし……。」
やさぐれフェイトは、食パンを食べ切ると玄関の方へと走って行った。
そして、数分後、荷物を抱えて戻って来る。
「何だい? それ?」
「ノートパソコン……。」
「へぇ……。
・
・
は?」
「この家、パソコンないから……。」
「ちょっと、待った~!」
やさぐれフェイトは、首を傾げる。
「そんなもんを買うお金が、何処にあるのさ!?
いや!
そもそも、どうやって買った!?」
「ジャパネットたかた……。
深夜に踊ってた……。
使わないソフトてんこ盛りのノートパソコン頼んだ……。」
「お金は!?」
「その引き出しに入ってた……。」
アルフは、生活費が入っていた引き出しまで走る。
そして、中を確認して青ざめる。
「さ、三百円しか残ってない……。」
「プロバイダーの契約とか諸々をしたら、
ちょうど、それぐらいだった……。」
「明日から、何を食べて生活するのさ!?」
「アルフのドッグフード……。
一日七粒ずつ食べる……。
七粒で十日は、お腹が膨れる……。」
「ドッグフードは、仙豆じゃないよ!」
しかし、既にやさぐれフェイトは、箱の開封をしていてアルフの話など聞いていない。
そして、ノートパソコンのセッティングを始める。
「……これは、殴っていいのかな?」
「生活水準を安定させるために
パソコンは、必需品……。」
「そのせいで生死の危機に関わりそうだよ……。
・
・
ところで、ここの世界の言語なんて読めるのかい?」
「漫画読むために初期設定されてた……。」
(この子に罪はない……。
絶対にこの子の基礎理論を作った馬鹿が元凶だ……。
・
・
いつか、シメル……。)
アルフは、拳を握った。
…
三十分後……。
ノートパソコンで、インターネットの閲覧が可能になる。
「よし……。」
「一体、何を見たかったんだい?」
アルフは、やさぐれフェイトの後ろから、パソコンの画面を覗き込む。
「犯人探し……。
フェイトの頭を攻撃した……。」
アルフの眉が、少し吊り上がる。
「調べられるのかい?」
「予想……。
あの子、まだ魔法を使い慣れていない……。
きっと、一緒に居たイタチみたいな動物が協力者で、
あの子に力を与えたと思う……。
そして、バリアジャケットは、
魔導師本人のイメージに左右され易い特性から考慮すれば……。」
やさぐれフェイトの手が、マウスをダブルクリックする。
「きっと、あの歳で通う学校の制服が近いと思う……。」
そして、ある学校の制服の画像が映る。
「私立聖祥大附属小学校……。
ここが怪しい……。」
アルフは、唇の端を吊り上げる。
「さすが、私のご主人様だ……。」
「やっぱり、現地の情報を知るには、
現地の情報収集手段を利用するに限る……。」
「じゃあ、挨拶をしに行こうか。」
やさぐれフェイトが頷く。
やさぐれフェイトとアルフは、前回の白いバリアジャケットの女の子と接触するため、外出の準備を始める。
そして、家を出る際にやさぐれフェイトは、最後の生活費三百円をポケットに突っ込んだ。
…
私立聖祥大附属小学校の前を、やさぐれフェイトは、素通りした。
「何でさ!」
「今日、日曜日だった……。」
「が……。」
アルフは、精神的ダメージを受けた。
そして、項垂れながら話し掛ける。
「……じゃあ、今日は、ジュエルシードを探すのかい?」
「ううん……。
遊びに行く……。」
アルフが、やさぐれフェイトに迫る。
「何で、遊ぶんだ!
さっさとジュエルシードを探すのが先だろう!」
「…………。」
「じゃあ、生活費を稼ぐ……。」
「どうやって!」
「それは言えない……。
でも、持ち金を十倍にしてみせる……。」
「いや、十倍にしても三千円だよ……。
とてもじゃないけど、今月乗り切れないって……。
しかも、当初の金額が三ヵ月分とかだったら、
私達、餓死するよ……。」
やさぐれフェイトは、溜息を吐く。
「アルフは、細かい……。」
「至極、真っ当な意見だと思うけど……。」
「江戸っ子は、宵越しの金を残さない……。
こち亀の両さんなんて、
こんな修羅場は、何度となく踏み越えている……。」
「誰だか知らないけど、自業自得だよ。
そして、私達のこの状況も同じ。
まあ、原因は、あんたなんだけど。」
「だから、責任は取る……。
十倍にする……。」
「だから、三千円じゃ生活出来ないって……。」
やさぐれフェイトは、舌打ちする。
「うるさい……。」
「え?」
「あたしが、ご主人様……。
アルフは、黙ってジュエルシードを探していればいい……。
生活費は、何とかするって言っている……。」
「頼りにしていいのかい?」
「任せて……。
いざとなったら、体を売るから……。」
「絶対にするな!
それは、フェイトの体であんたのじゃない!」
「なるべく穢さないようにする……。」
やさぐれフェイトは、振り向くとアルフを置いて街へと歩き出した。
アルフは、心底不安になる。
「大丈夫なのかな……。」
不安は増す一方だったが、アルフは、仕方なくジュエルシードを探すことにした。
…
やさぐれフェイトは、ある店の前で三百円を握る。
「一攫千金を目論むなら、これしかない……。」
パチンコ店へ突入。
しかし、五分後には摘まみ出された。
「国家権力の犬め……。
何とか大人を味方に引き入れなければ……。」
やさぐれフェイトは、街の通りを見回す。
「あの人がいい……。」
やさぐれフェイトは、パチンコ店に入るであろう人物のズボンを掴んだ。
「あぁ?」
リーゼントに金縁のサングラス。
赤いシャツに白いジャケット。
胸元には、金バッチが光る。
「何だ? お前?」
「お願いがあるの……。」
「お願いだぁ?」
「うん……。
あたしは、一攫千金をするために
ここに入らなくちゃいけないから、
今だけ、保護者になって……。」
「…………。」
金バッチの人が、しゃがみ込む。
「パチンコやりたいのか?」
やさぐれフェイトは、頷く。
「あたし、最高のあげまん……。
連れて行って損はない……。」
「お前、意味分かって使ってるか?」
「付き合った男性の運気をあげる……。
エッチな方の意味じゃない……。」
「誰だ? こんなガキに仕込んだの?」
「基礎理論を考え人……。」
「訳分からねぇ……。」
「お願い……。」
金バッチの人は、溜息を吐く。
「まあ、いいや……。
付いて来な。」
「ありがとう、パパ……。」
金バッチの人は、ガクッと肩を落とすと、やさぐれフェイトとパチンコ店に消えた。
…
パチンコ店で、やさぐれフェイトは困っていた。
「三百円じゃ、玉が買えない……。」
金バッチの人を見る。
「千円分の玉から、三百円分売って……。」
「聞いたことのないことを要求するな……。
多分、十分と持たないぞ……。」
「大丈夫……。」
そして、機種を選ぶ。
「店に入る前から決めてた……。
これ……。
CRスラムダンク……。」
「お前が台決めたら、
俺は、必然的に付き添わないといけないじゃねぇか。」
「機種だけは譲れない……。」
「わ~ったよ。」
金バッチの人が台を決めるとやさぐれフェイトは、隣に座る。
金バッチの人は、何だかんだで三百円分の玉を分けてくれた。
そして、パチンコを開始する。
「来た……。
1で揃った……。」
「は?」
やさぐれフェイトは、金バッチの人にチョキを出す。
「これが実力……。」
「マジかよ。」
その後も確変が続くが、やさぐれフェイトはイライラしている。
「どうした?」
「三井のイベントが来ない……。
スラムダンクは、三井 寿の物語……。」
「違うだろ。」
「安西先生……。
カム ヒアー……。」
~ 三時間後 ~
「何故、来ない……。
何故、三井のイベントだけ起きない……。」
「そんなことより、
どんだけ、玉出す気だよ……。」
「三井のイベントが出るまで……。」
「その執念に、三井に対する愛は感じるけどよ……。」
「むぐぐ……。
今日は、閉店まで粘る……。」
「勘弁してくれ……。」
…
夜七時少し前……。
やさぐれフェイトと金バッチの人は、パチンコ店を出る。
「半分返す……。」
「半分って……。
四十三万もあるぞ。」
「生活費には十分……。」
「まあ、いいか。」
金バッチの人は、やさぐれフェイトの差し出す金を受け取る。
「これから、どうするんだ?」
「TSUTAYAに行って、DVDを借りる……。」
「そうか。」
「困ったことがあったら、言うといい……。
この恩は忘れない……。」
「既に百倍以上になって返って来てるけどな。
・
・
そうだ。
時間があるなら、付き合ってくれ。
今夜、麻雀するんだ。
その運で、代わりに打ってみないか?」
「何時間……?」
「この後、直ぐ。
お遊び程度で。」
「いいよ……。
TSUTAYAが閉まらないうちに飛ばす……。」
「やっぱり麻雀も知ってやがった。
誰だ? この子に教えたの?」
「基礎理論を考え人……。」
「訳分からねぇ……。」
やさぐれフェイトの実力は?
…
とある雀荘……。
やさぐれフェイトは、金バッチの人の代打ちをしている。
「ツモ……。」
「ちゅ、九蓮宝燈!」
「だけで、7回目……。」
「オイオイ……。
今日帰ったら、死ぬなんてことないだろうな?」
「大丈夫……。
それより……。
親が終わんないから終われない……。
ハコワレなしとは思わなかった……。
まだ、やるの……?
また、パチンコ屋みたいになるよ……?」
「そうだな。
そろそろ代わるか?」
金バッチの人の友達は、項垂れながら呟く。
「もう、勘弁してくれ……。
さっさと代わってくれよ……。
何処の玄人だ? その子?」
「時の庭園……。
次元の魔女に伝授された亜空間殺法を駆使する……。」
「鳴いてないから、
明らかに違うよな……。」
「細かいことは聞いちゃいけない……。
兎に角、これで終わり……。」
やさぐれフェイトは、立ち上がる。
金バッチの人が、やさぐれフェイトの席に座る。
「助かったぜ。」
「これだけ勝っとけば、負けないと思う……。」
「ああ、十分だ。」
「じゃあね……。」
「今度、何かあったら、
俺が助けてやるぜ。」
「期待してる……。」
やさぐれフェイトは、雀荘を出た。
…
麻雀終了後……。
やさぐれフェイトは、TSUTAYAに行って「グラップラー刃牙」を借りる。
「魔法少女と生まれたからには、
誰もが一生のうち、一度は夢見る地上最強……。
魔法少女とは、地上最強を目指す格闘士のことである……。」
やさぐれフェイトは、にやりと笑う。
彼女の未来が、明後日の方向に歩き出した。
「帰ったら、半分グラップラーみたいなアルフと見よう……。
・
・
あ……。」
やさぐれフェイトは、光るひし形の石を拾う。
「ジュエルシードが落ちてた……。」
やさぐれフェイトは、ポケットに突っ込むと家路の途についた。
フェイト → やさぐれフェイト : 運↑ EX