== 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==
フェイトは、時の庭園を訪れる。
しかし、今度の訪問は、意味が違う。
自分の意思で話し合うために訪れたのだ。
フェイトは、プレシアの下へと歩き出した。
第15話 フェイトとプレシアとやさぐれと
ある程度の日数を開けてからの訪問。
決意の意思を目に宿しながら、フェイトは、プレシアに話し掛けた。
「母さん。
只今、戻りました。
・
・
そして、母さんと話がしたくて訪れました。」
「そう……。」
プレシアは、何処か上の空で耳を傾けている。
「もう一人の私の記憶から、全てを知りました。
自分が作られたこと……。
母さんがジュエルシードを求める理由……。
・
・
そして、その理由がアルハザードへと向かうことで、
ジュエルシードは、次元震を起こすためのものであることも。
だから、私は……。」
フェイトは、最後の母親に逆らう言葉を口にするのを少し躊躇う。
やはり、その一言を言うのは勇気がいるのだ。
そして、プレシアが続きを促す。
「それで?」
「私は……違う方法を考えて欲しい。
母さんに時間がないのも分かっています。
それでも、他の人達に迷惑を掛ける方法を取って欲しくない。
母さんが望むなら、今まで以上に辛いことだって頑張ります。
だから……。
だから……。」
プレシアは、必死に訴えるフェイトを見続ける。
今までの焦っていた状態と違って、今日は、落ち着いてフェイトを見ることが出来る。
プレシアは、フェイトに話し掛ける。
「フェイト……。
いらっしゃい。」
その言葉にフェイトは、体を硬直させる。
また、鞭で叩かれることを想像した。
しかし、前に出る。
今日は、自分の気持ちを伝えるために来た。
だから、結果がどうあれ、いつもとは違うのだ。
プレシアは、フェイトが自分の前まで来るとマジマジとフェイトを見詰め、両手でそっとフェイトの顔を包む。
「やはり、貴女は、アリシアとは違うのね。」
「母さん……?」
「こんなに必死な顔をして……。
まだ、私を母さんと呼ぶの?」
フェイトは、少し悲しみを瞳に湛えると話す。
「私は……。
私は、アリシア・テスタロッサじゃありません。
あなたが作った、ただの人形なのかもしれません。
だけど、私は……フェイト・テスタロッサは、
あなたに生み出して貰って、育てて貰った……あなたの娘です。」
「……こんな人が母親でいいの? 貴女は?」
「私は、あなた以外、母さんを知らないから。
そして、母さんだと思っているから、
アルハザードへの道を開くのを止めに来ました。
この行動で嫌われるかもしれない。
でも、私が言わなければいけない。
それが娘としての私の役目……。
・
・
そして、それでも母さんがジュエルシードを求めるなら……。
私は、世界中の誰からも……。
どんな出来事からも……。
・
・
……あなたを守る。」
「馬鹿ね……。」
その言葉にフェイトは俯いた。
自分の言葉は……気持ちは、届かなかったと。
「私は、本当の馬鹿……。
こんな板挟みの選択をさせられてしまって……。」
プレシアが、フェイトの頬を撫でた。
「もう、大丈夫……。
ジュエルシードは、集めなくてもいいわ。」
「でも、それだと母さんの願いが……。」
「それも大丈夫……。
アリシアは、もう直ぐ目覚めるはずだから……。」
「でも……。
でも……。
母さんの時間は……。」
フェイトは、涙を溢す。
一番の理由……死が迫っている母親に尽くしたいこと。
そして、やっぱりプレシアが大好きで縋っていたくて、死という別れをしたくないのだ。
だから、優しい言葉を掛けてくれたプレシアの言葉は胸に残り、歯を食い縛って涙を流すしか出来ない。
「それも大丈夫……。
ちゃんと治療して来たから。
フェイト……今まで、ごめんね。
これからは、ちゃんと母親をするから……。」
プレシアは、フェイトを抱きしめた。
そして、髪を撫でて視線を落とす。
「…………。」
プレシアの顔が引き攣る。
クマのある三白眼の目が軽く手を上げる。
「ごめん……。
時間が切れた……。」
「台なしよ!」
プレシアは、やさぐれフェイトにグーを炸裂させた。
「また、この落ちか……。
読者も飽きる……。」
…
やさぐれフェイトは、プレシアに話し掛ける。
「どうした……?
急に潮らしくなって……?」
「何で、上から目線な言い方なのよ?」
「気にするな……。
このやさぐれさんに話してみろ……。」
「話したくないんだけど……。
貴女に話して解決するとも思えないわ。」
「話さなくても解決しない……。
そして、今は、記憶の制限がないから、
この会話は、フェイトにも伝わる……。
フェイトに話すもあたしに話すも、丸っきり同じ……。」
「雰囲気も大事なんだけど。」
「そんなにフェイトがいいか……。
あたしとあんな仲のくせに……。」
「あんな仲って、何よ?」
「目と目が合う……。
手と手とが触れる……。
あ~ん♪ 的な関係……。」
「小遊三か!」
プレシアのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。
「何で、知ってるの……?」
「アルフに教えて貰ったのよ。
あの謎の薬のCMが必ず入る番組。」
「見たの……?」
「仕方なくね。」
「じゃあ、分かるよね……?」
「何が分かるのよ?」
「あたしとの関係……。」
「分からないわよ。」
「体を重ねた仲じゃないか……。」
「ふざけないで!
サブミッションを掛けられただけじゃない!」
「あれだけ体を密着して、
あたしの体を弄んだのに寂しいこと言うな……。」
「誰が弄んだのよ!
訳の分からない技の実験台にしたんでしょうが!」
「ふざけるな……。
あれは、刃牙が研究し尽くした新しいサブミッションだ……。
決してふざけてなどいない……。
素人などには簡単に外せない崇高な技だ……。」
「私は、素人よ!
何を目的で掛けたのよ!」
「スキンシップ……。」
「聞いたことないわよ!
スキンシップを求めて、
母親にサブミッション掛ける娘なんて!」
「過ぎたことをネチネチと……。
だから、こんな魔王みたいなところに引き篭もる……。」
「だから、魔王の城って、言うんじゃないわよ!」
「うるさいな……。」
「貴女が思い出させたんでしょう!」
「分かったから、理由を言え……。
フェイトに優しくなった理由を聞いてやる……。」
「だから、何で、上から目線なのよ……。」
「言わないと更なるトラウマを引き出すよ……。
汚名を挽回して、名誉を返上させるような……。」
「私は、どんなトラウマを握られているのよ……。
いいわよ。
話してあげるわよ。」
「いい子だ……。
後で、食べ掛けのポッキーあげる……。」
「要らないわよ!」
「で……?」
(また、こんなどうしようもない空気で話をさせられるのか……。)
プレシアは、溜息を吐き、がっくりと項垂れると語り出した。
「貴女が地球に行った後で、病院に行ったのよ。
そこで、診察を受けて病気を治して来たのよ。」
「本当に……?
不治の病が数日で治るの……?」
(余計なことに鋭いわね。)
「治ったのよ。」
「あたしの薬のせいじゃないの……?」
「ち、違うわよ!」
「何故、怒る……。」
(あれが効いたなんて言えない……。)
「怪しい……。
まあ、信じてやる……。」
「それは、どうも。」
「信じてくれる友達いなさそうだもんね……。」
「大きなお世話よ!
何で、そんなに人の神経を逆撫でするのよ!」
「突っ込める人間が居るというのは、とても幸せなことだよ……。
プレシアの暗い人生の中で、
今、ささやかな光が差したんだから……。」
「私は、どれだけ暗い人生を歩んでいるのよ……。」
「冗談……。
子供持ちである以上、男が居たんだから、
少なくとも一人は理解者が居たことになる……。
暗くはないけど、灰色なだけ……。」
「殺すわよ?」
「魔法なしで……?」
「ぐ……!」
(誰かこの娘に天誅を……!)
やさぐれフェイトは、ガシガシと頭を掻いて、くせ毛を作る。
「まあ、大体分かったか……。
死なないと分かって心に余裕が出来たら、
浅はかにも自分の愚かさを認識したと……。」
「本当に殴っていい?」
「これは、フェイトの体だ……。
グーまでなら許す……。」
(人質を取られた……。)
「それにしても、単純な奴め……。
こんなことで潮らしくなるとは……。」
「本当に大きなお世話よ。
・
・
こんな馬鹿をしてる場合じゃないわ。
どうしようかしら……。」
「何が……?」
「フェイトのことよ。
あれだけ酷いことをしたのに……。」
「厚顔無恥……。
我田引水……。
唯我独尊……。
そんなプレシアが一体……。」
「真面目に相談しているんだけど……。」
「失敬……。
でも、今のあたしのプレシアのイメージだから……。」
プレシアは、青筋を浮かべた。
「まあ、しかし……。
これでもあたしは、女の中の女を自負する者……。
頼られたからには、期待に応えなければならない……。
プレシアにサプライズを用意しよう……。」
「本当に?」
「うむ……。
地球に行くといい……。
あそこに数々の仕掛けを用意した……。」
「仕掛け?」
「そう……。
あの街には、フェイトが馬鹿にされる要因がある……。」
「何でよ?」
「あたしが暴れたからだ……。」
「貴女、碌なことしないわね。」
「そのお陰でフェイトは、あの街に行けば、
後ろ指を差されること間違いなし……。」
「何てことをするのよ。」
「そのせいで、時には泣くかもしれない……。」
「貴女、何を仕出かしたのよ?」
「そこは、置いとけ……。
兎に角、泣いてる時がチャンス……。
そっとハンカチを差し出して慰める……。
行けるなら、肩も抱いてしまえ……。
これで、フェイトは落ちる……!」
「何の作戦なのよ……。」
「目と目が合う……。
手と手とが触れる……。
あ~ん♪ 的な作戦……。」
「繰り返すな!」
プレシアのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。
「でも、地球には行かなきゃでしょ……?」
「は?」
「ジュエルシードを返さないと……。」
「誰に?」
「管理局……。」
「無視すればいいわよ。
私、あそこの組織嫌いなのよ。」
「好き嫌いの問題か……!
数で負ける……!」
「負けないわよ。
いざとなったら、ジュエルシード砕いて撒けばいいのよ。」
「撒いて、どうする……?」
「次元震を押さえるために混乱するんじゃない?
その間に痕跡消して逃げるのよ。」
「あたし……。
自分の性格が歪んでるのを認識してる……。
それは、基礎理論を組んだ人のせいだと思ったけど、
プレシアの影響だった……。」
「失礼ね。
貴女ほど歪んでないわよ。」
「よく言う……。
砕いて撒くって、馬鹿じゃないの……?」
「勢いに決まっているじゃない。
貴女如きに真面目に答えて、どうするのよ?」
「絶好調だね……。
そして、話が訳分からなくなったのは確かだ……。
地球に何しに行くのか……。
管理局に接触するのか……。
フェイトと仲良し大作戦を実行するのか……。
話している間にこれだけ脱線するプレシアとあたしのセンスは侮れない……。」
「精神汚染されてる……。」
「さて、纏めようか……。」
「私には無理……。
この話を纏められないし、纏める要素も見つけられない……。」
「ふ……。
理解レベルの低い奴め……。
あたしが纏めてやろう……。
プレシアは、フェイトと一緒にジュエルシードを返しに地球へ行くのだ……。
そして、数々のあたしのトラップを掻い潜り、親子の信頼関係を取り戻す……。
危機を乗り越えた二人の間には、言い知れない連帯感が芽生える……。
・
・
訪れた管理局の犬の住む喫茶翠屋で高町なのはと接触し、
管理局の大ボスを呼び出す……。
ここで、プレシアが大人としての毅然とした交渉をして、
フェイトから尊敬の念で見られる……。
あら不思議……。
隙間風の吹いていた親子の間には、暖かい春風が包んでいる……。
・
・
どう……?」
「あの話がどうして纏まったのかしら……。
軽い洗脳を受けた気分で、実行したくなって来たわ。」
大丈夫か? プレシア?
「地球に行くわ。
行って、フェイトとの関係を修復する。
そして、管理局を倒してハッピーエンドに雪崩れ込むわ。」
「管理局を倒すのは違う……。」
こうして、軽い洗脳状態のプレシアは、地球へと向かうことになった。