== 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==
なのは達を追っていたクロノ達の前に有り得ないものが目に写る。
三頭身の巨大なのはが叫んでいる。
「暴れないで!
暴れないで!」
そして、もう一体……。
巨大化した銭形警部が叫んでいる。
「ルパン! 逮捕だ~!」
クロノは、激しく項垂れた。
「僕は、悪い夢でも見ているのか……。」
クロノは、事態を把握するために、なのはの居る場所へと向かうのであった。
第19話 未来のための作戦③
涙目で説明をするなのはと困った顔で補足をするユーノ。
二人の話で、ジュエルシードの発動した状況が分かった。
まず、巨大なのはについて。
これは、ジュエルシードが、スカートの中で暴れる銭形警部をやめさせようとする、なのはの願いを叶えたもの。
ただし、なのはを取り込んだわけではなく願いだけを取り込んだもの。
そして、巨大銭形警部。
これは、銭形警部自身を取り込んで、ルパンを捕まえようと巨大化させてしまった。
「あの人、連れて来たの間違いじゃないのか……。」
クロノは、激しく項垂れる。
「でも、この騒動で泥棒さんを見失っちゃったから、
また銭形さんに頼んで見つけて貰わないと……。」
「っ! まず、銭形警部を元に戻さないといけないのか……。」
「どっちにしろ、このままにしていたら大変だ。」
「そうだな。
役割を決めるよ。
ユーノは、ここいら一体に結界魔法を頼む。」
「分かった。」
アルフが、前に出る。
「それは、私も手伝うよ。」
「助かるよ。
銭形警部となのはが別方向に動き出しているから、
結界が二つ必要だった。
・
・
次に封印する人間だが……。」
なのはが、手を上げる。
「自分の封印は、自分でするよ。
早くなんとかしないと、
明日、学校でアリサちゃんやすずかちゃんに何て言われるか……。」
「私情が入っているが、
今回は、目を瞑ることにするよ。」
「ありがとう。
ユーノ君!
急いで結界張って!」
「はは……。
分かったよ……。」
なのはに引っ張られるようにユーノは、巨大なのはの下へと向かった。
フェイトが、アリシアを抱いてクロノに近寄る。
「私は?」
クロノは、アリシアとフェイトを見て、少し考え込んだ後で命令を出す。
「僕が、銭形警部を封印するから、
フェイトは、ルパンを追ってくれないか?
アリシアを抱いたまま、戦闘なんて出来ないだろう?」
「……うん。」
「見つけたら、後を追うだけでいい。
こっちが片付いたら、
ボク達も応援に行くから。」
「分かった。」
「じゃあ、アルフ。
手伝いを頼む。」
「あいよ。」
こうして、空で別々の目的に向かって分かれた。
…
フェイトは、アリシアを抱いてルパンを追う。
しかし、飛んで行く方向に迷いがない。
アリシアは、フェイトに質問する。
「どこに行くの?」
「公園……。
おじさんと初めて会った……。
きっと、そこに居ると思う。」
「ふ~ん……。
どんな人なの?」
「どんな?
・
・
上手く表現出来ない……。
でも、一緒に居ると何か温かい気持ちになるんだ。」
「そう……。
母様みたいね。」
「……うん、そうだね。」
フェイトが目的の公園に降り立つと目的の人物は、あの時と同じベンチで待っていてくれた。
フェイトは、アリシアの手を引いてルパンに近づく。
「おじさん……。」
「やあ、フェイト。
久しぶりだ。
・
・
本当に魔法使いなんだな。」
ルパンは、フェイトのバリアジャケットを見て、そう呟いた。
そして、アリシアの前にしゃがみ込む。
「初めまして。
君がアリシアかな?」
アリシアは、頷いた。
ルパンが、フェイトとアリシアに声を掛ける。
「二人で会いに来たってことは、
プレシアは、亡くなったんだな……。」
「……はい。」
二人は、プレシアを思い出して悲しそうな顔をした。
「プレシアに任されててな。
ジュエルシードをフェイトに返すようにって。
・
・
本当は、ジュエルシードを集めてたフェイトに
プレゼントするために頑張ってたんだけどな。」
「おじさん……。
ありがとう……。」
「いいさ。
プレシアは、優しいお母さんに戻ったかい?」
「はい。」
「思い出を残してくれたかい?」
「はい。」
「……よかったな。」
フェイトは、プレシアとの短い思い出が込み上げると頷いた。
そして、ゆっくりとルパンの手を取った。
「おじさんのお陰……。
母さんが、優しい母さんに戻ったのは……。」
「そんなことないさ。
フェイトの思いが通じたのさ。」
フェイトは、首を振る。
「途中から、おじさんじゃないかって思ってた……。」
「ん?」
「母さんが、アリシアを救おうとしていた時の機械……。
最初におじさんと会った時に見た機械にそっくりだった……。」
「そうか……。
ちゃんと覚えてたんだな。」
「忘れない……。
忘れないよ……。
おじさんとの大事な思い出だもん。
・
・
そして、小包みを出す時におじさんの名前を見て……。
そうしたら、嬉しくて……。
ただ嬉しくて……。」
「フェイト……。」
「そして、お礼が言いたかった……。
おじさん……。
ありがとう……。」
ルパンは、その言葉で満ち足りた気分になった。
しかし、フェイトは、直ぐに俯いた。
「だから、悔しい……。
おじさんは、私のために
こんなに頑張ってくれたのに……。
私は、お礼を言うことしか出来ない。
おじさんにありがとうの気持ちを、もっと伝えたいのに。」
ルパンが、フェイトの頭に手を乗せる。
「十分だよ、フェイト。
フェイトが幸せなら、おじさんも嬉しいさ。
・
・
それに頼っていいんだぜ。
フェイトは、まだ子供なんだから。
頼って、おじさんにカッコつけさせてくれよ。」
「おじさん……。」
フェイトが、ルパンに抱きついた。
「しっかりな。
お母さんが色んなものを残してくれた。
アリシア……。
アルフ……。
思い出……。
フェイトの宝物だ。
俺が、唯一盗めない宝物だ。
大事に大切に仕舞って置いてくれよな。」
フェイトは、頷いた。
ルパンは、アリシアを見る。
「アリシアには、何にも残してあげられないな。」
アリシアは、首を振る。
そして、フェイトに抱きつく。
「短い間だったけど、
私もフェイトに負けない思い出を貰ったよ。
そして、妹のフェイトを貰った。」
「い、妹!?
・
・
はは……。
フェイトも大変だ。」
ルパンは、姉妹の頭を撫でた後、ポケットから機械を二つ取り出す。
それを一個ずつ、フェイトとアリシアに渡す。
「これで、俺の役目は終わりだ。
プレシアとの約束も果たした。
それをちゃんと時空管理局に返して、
新しい人生を歩むんだよ……。」
「私……。」
「大丈夫さ。
アリシアも居る……。
アルフも居る……。
・
・
それでも、不安かい?」
「……ううん、大丈夫。」
「いい子だ。
フェイトもアリシアも、
困ったことがあったら、言いな。
おじさんは、違う世界にだって、直ぐ飛んで来てやるからな。」
「うん……。」
「あ、そうだ。」
フェイトが、ルパンを見る。
「いい女になれよ。
困ったことがなくても、会いに行くからよ。
十年後かな?」
「うん、母さんみたいな女の人になるよ。」
「私も!」
ルパンは、嬉しそうな笑顔を浮かべながら公園を出る。
そして、次元の待つベンツSSKに乗り込んだ。
「フェイト、アリシア、達者でなぁ! さいならー!」
手を振るルパンにフェイトとアリシアも手を振った。
そして、積極的にフェイトからアリシアの手を握る。
「行こう。
お姉ちゃん。」
「うん!
いい人だったね!」
笑顔のアリシアにフェイトも微笑んで返した。
…
その頃……。
海岸沿いの巨大なのはと巨大銭形警部を、なのは達が結界内で封印しようとしていた。
ぶんぶんと手を振って『暴れないで!』を連呼する巨大なのは。
それに攻撃をしようとして、なのは本人が項垂れる。
「ユーノ君……。
この子にディバインバスター撃つとするよね?」
「うん。」
「暴れてんのは、私になるのかな?」
「……違うと思うよ。
・
・
向こうを見なよ。
クロノは、手加減なしだよ?」
巨大銭形警部に魔力光が幾つも炸裂しているのが見える。
「相当ストレス溜まってたからね……クロノ君。
狙いが顔面に集中してるのが怖いよ……。」
「あそこまでしろとは言わないけど、
市街地に入る前にさっさと封印しよう。」
「分かった……。
でも、今回は、全力全開で撃たなくてもいいよね?
というか……撃てないよ。」
ユーノは、自分に向けて砲撃する状況を想像して苦笑いを浮かべる。
そして、数刻の後に巨大なのはと巨大銭形警部は封印され、元のジュエルシードに戻った。
ちなみに……。
後日、新聞の片隅に現地の住民からの投稿で巨大なのはの後頭部が掲載され、隠蔽は、失敗に終わっている。
…
その後、ルパンの行方を時空管理局は、捉えることが出来なかった。
ジュエルシード封印の際の魔力による貫通ダメージにより、銭形警部は失神。
一時間以上、目覚めることがなく、ルパンの追跡をするのは不可能になった。
この事件をクロノは、人生最大の失態の一つと後に語っている。
そして、フェイトとアリシアが取り返したということになっているジュエルシードを管理局に届けることで、一応の決着を見る。
このIFの物語では、フェイトとアルフがハラオウン家の養子になるのは変わらない。
大きく違うのは、アリシアもハラオウン家の養子になることと二人の姉妹の思い出の根幹に母親の愛があること。
そして、フェイトとなのはに築かれる友情も少し違う経路を辿ることになる。
その中にアリシアも含まれることで、また大きな変化を齎すのは間違いない。
未来は、一人の泥棒の介入で、少しだけ方向が変わったのであった。