== 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==
時空管理局のアースラスタッフによるルパン捕獲作戦が始まろうとしている。
しかし、当の本人を探すには、どうするべきかが問題だった。
問題のターゲットは、時空管理局のレーダーにも掛からない方法でジュエルシードを所持して、探し出すことが出来ないからだ。
そこで、この世界にあるルパンの情報から、ルパンに対するエキスパートを呼び出すことにした。
招かれたベージュのバーバリー製トレンチコートと同色のソフト帽を被った男は、姿勢を正して敬礼をするとこう答えた。
「ICPOの銭形警部であります!」
その大きな声に全員が驚き、一歩後退した。
第18話 未来のための作戦②
一同を代表して、艦長であるリンディが銭形警部に手を差し出す。
「ご協力感謝します。
我々だけでは、行方を掴むことが出来なくて。」
銭形警部が、リンディの手を握り返して話を続ける。
「いえ、こちらこそ。
貴重な情報を提供して頂き、感謝しております。
早速ですが状況をお伺いしても、よろしいでしょうか?」
「……あまり驚かれませんね?」
「慣れていますんで。」
「…………。」
(この世界に慣れるような文明はなかったと思ってたんだけど……。)
「どうしましたか?」
「あ、いえ、何でもありませんわ。」
…
銭形警部とリンディの話を聞いて、ユーノがなのはに質問する。
「あの人の言ってること、本当かな?」
「え~と……。
どうなんだろう?
少なくとも私の周りでは、
慣れるような不思議な現象は起きなかったよ。」
「そうだよね。
僕も、なのはの家に行ったけど、
魔法もなかったもんね。」
この世界の住人であるなのはの話を聞いて、クロノ達は、少し不安が増した。
…
リンディが、海鳴市の地図をモニターに映す。
「回収したジュエルシードの位置は、ここになります。」
モニターの地図が点滅する。
「これが参考になるかしら?」
銭形警部は、一点を指した。
「ルパンは、この付近に居る!」
「…………。」
場は、沈黙する。
銭形警部は、ジュエルシードの位置を一切、見ていない。
場の空気が言っている。
((((((((この人、勘で言っている!))))))))
銭形警部は、意気揚々と出発しようとしている。
当然、異を唱える。
クロノが、静止を掛けた。
「ちょっと、待ってくれ!
そんな説明もなしに納得出来ない!」
「うん? 何だぁ、君は?
子供が意見をするもんじゃない!」
「僕は、執務官だ!」
「執務官?
冗談はいかんなぁ……。」
「冗談じゃない!
貴方の勘の方が冗談でしょう!」
「勘?
ちゃんと根拠はある。」
「それは、何なんですか?」
銭形警部が、懐から写真を二枚出す。
「こっちがルパン。
こっちが相棒の次元だ。
そして、私の掴んだ情報では、
次元は、最近釣りに凝っている。
そこで、海岸線の近くを指したのだ。」
「じゃあ、海岸線の多いこの町から、
その一点を指摘した理由は、何なんですか?」
「勘だ。」
「やっぱり、勘じゃないか!」
掴み掛かる勢いのクロノをエイミィが押さえる。
一方で、なのはが、銭形警部の写真を見て止まる。
「あの~……。
警部さんの言ってることの半分は、嘘じゃないかも。」
クロノ達が、なのはに目を移す。
「その黒い帽子の人。
釣りしてました。」
「……本当なのか?」
「だから、言っただろう。」
「ただ……。
その人にジュエルシードを貰っちゃった……。」
また、話がややこしくなった。
「何で、捕まえる対象の仲間から、
ジュエルシードを貰うんだ!?」
冷静なはずのクロノが混乱している。
「本当にそのルパンが犯人なのか!?」
「間違いない!
今回の事件には、ルパンが関わっている!」
「根拠は!?」
「勘だ。」
「こんな不確かな情報で捜査なんて出来るか!」
リンディが、複雑な顔で命令を伝える。
「と、兎に角。
ここは、銭形さんの指示に従って、
行動を起こしてみましょう。
こちらは、何の手掛かりもないんだから……。
ね、クロノ。」
「艦長の命令なら従いますけど……。
僕は、絶対に見つからないと思います。」
リンディは、乾いた笑いを浮かべる。
リンディも見つからないと半分思っていた。
…
作戦が開始される。
一台のワゴン車の運転席に銭形警部。
助手席にクロノ。
後ろの席になのはとユーノ。
その後ろにアリシア、フェイト、アルフ。
アリシアは、一人残されるのを嫌って、大泣きしたための強制参加だったりする。
銭形警部が予想をつけたアパートに拡声器を使って怒鳴る。
「ルパン! 逮捕だ~!」
クロノが、激しく項垂れた。
「間違ってる……。
この方法で犯人が中に居るのを
確認するのは間違ってる……。」
人格者のクロノは、大ダメージを受けていた。
その後ろでなのは達も、フェイト達も、苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
…
しかし、クロノの予想と反して、アパートの中では、ルパン達が脱出の準備を始めていた。
「はは……。
とっつぁんを連れて来たか。」
「まあ、俺達の居場所を掴むなら、
間違った判断じゃないな。」
「じゃあ、行きますか。」
「行かれますか。」
ルパンと次元は、アパートを飛び出すとベンツSSKに飛び乗った。
…
一台の車が、クロノ達の乗るワゴン車の前をドリフトで駆け抜けた。
その車に乗っているのは、間違いなくターゲットの男だった。
「本当に居た!?」
「当然だ!」
銭形警部がアクセルを踏み込もうとするのをクロノが止める。
「待ってくれ!
ここから二手に分かれる。
僕とフェイト達が降りるから、
なのはとユーノは、銭形警部と一緒に行動してくれ!」
「「え?」」
半ば強引にチームを分けるとワゴン車から、クロノとフェイト達が降りた。
ワゴン車は、猛スピードでベンツSSKの追跡を開始しした。
ワゴン車の中でユーノが呟く。
「まさかとは思うけど……。
クロノ、あの人と行動をしたくないから、
あんなこと言ったんじゃ……。」
「はは……。
まさか……。」
((ありえるかもしれない……。))
…
クロノが、フェイト達に振り返る。
「空から追い掛ける。」
フェイト達は、頷く。
そして、アルフから質問が出る。
「何で、アリシアまで降ろしたんだい?
アリシアは、空を飛べないよ。」
「あんな乱暴な運転の人の車に
こんな幼い子を乗せていられない。」
フェイトが、遠慮がちに質問する。
「あの……。
なのはは?」
「……あ。」
「ひょっとして忘れてた?」
「あの車から早く脱出したくて、
うっかり忘れてた……。
・
・
ま、まあ、あの魔力で編まれたバリアジャケットなら、
事故が起きても怪我はしないだろう。」
アルフが、溜息混じりに声を漏らす。
「指揮官とは思えない発言だね……。」
「仕方ないだろう!
あんな常識がズレた人となんて、
一秒とだって居たくなかったんだから!」
「あれは、あんたの天敵だねぇ。
まあ、分からなくはないけどさ。
・
・
しかも、位置を当てられたのが、
余計に意味を分からなくするからね。」
「……全く持って、その通りだ。」
クロノは、ズーンと黒い気を放って項垂れた。
しかし、直に責任感から自分を立て直す。
「兎に角、空から追おう。」
フェイト達は、頷く。
フェイトは、バルディッシュを起動して服を漆黒のバリアジャケットに換装する。
クロノを先頭にアルフが続く。
フェイトは、アリシアを抱きかかえると空へと舞い上がった。
…
一方、海岸沿いの道をベンツSSKとワゴン車がカーチェイスをする。
車の往来が少ないため、両者の車は、猛スピードで鬩ぎ合っている。
しかし、暫くするとベンツSSKがスピードを落としてワゴン車の横につけた。
「とっつぁん。
久しぶり。」
「ルパン!
神妙にお縄に付け!」
「それは出来ないな。
ところで、何で、俺は、追われてるんだ?」
「時空管理局というところから情報があった!
また、宝石を盗んだようだな!」
「ちゃんと聞いたのか?
俺が盗んだのは、下手すると
『どっか~ん』するものなんだぜ?」
「何~!?」
後部座席から、なのはが銭形警部に声を掛ける。
「本当です!
とっても危ないの!」
「そんなものを集めてたのか。」
そして、再びルパンが銭形警部に声を掛ける。
「そんでな。
俺は、そろそろ用があるから、
銭形のとっつぁんには、ここで消えて貰おうと思ってな。」
「何?」
ルパンは、ニカッと笑うとなのはに叫ぶ。
「お嬢ちゃん!
しっかり捕まってろよ!」
ルパンが、ワルサーP38でワゴン車のタイヤを打ち抜いた。
ワゴン車は、がくんとスピードが落ちるとベンツSSKから、どんどん離されて行く。
「これでよしと。
後は、フェイトとの待ち合わせの場所に行けばOKだ。
次元、少し寄り道すっからな。」
「ああ、好きに……。」
バックミラーを見た次元が固まった。
「どったの?」
「ル、ルパン……。
とっつぁんが飛んでる!」
「へ?」
ルパンが後ろを振り返ると、空を飛ぶなのはに吊るされる形で、銭形警部が追って来る。
「ルパン! 逮捕だ~!」
「相変わらず、しつっこいな!
とっつぁんは!」
ベンツSSKは、スピードを上げるが、曲がり角を無視して飛んで来るなのは達に直ぐに追いつかれる。
「どうすんだ? ルパン?」
「しょうがない……。
奥の手を使いましょう。」
ルパンは、内ポケットから例の機械を取り出し、中に収められているジュエルシードを三つ取り出す。
そして、大きなカーブに差し掛かったところで叫ぶ。
「とっつぁん!
大事なもんを返すぜ!」
ルパンは、ジュエルシードを海に向かって投げた。
「「あ!」」
なのはとユーノが、飛ぶ方向を変える。
「こら~!
方向を変えるんじゃない!」
「ここで発動しちゃったら、大変だから!
銭形さん!
それを捕まえて!」
なのはは、銭形警部を両手で掴んでいるため、上手くキャッチ出来ない。
その役目を銭形警部に頼む。
銭形警部は、仕方ないと両手に一個ずつジュエルシードを捕まえた。
そして、直ぐ近くで、ユーノも一つ捕まえる。
「なのは!
このジュエルシードは、封印がまだだ!
直ぐにレイジングハートで封印して!」
「分かったよ! ユーノ君!」
なのはが、一度、陸地に下りようとすると銭形警部が叫ぶ。
「こら~! ルパンを追わんか!」
「ちょ、今は、それどころじゃ!」
「ルパン! 逮捕だ~!」
「あ、暴れないで!
暴れないでよ!
・
・
ふぇ!?
にゃあぁぁぁ!」
暴れる銭形警部が、なのはのバリアジャケットのスカートに潜り込んだ。
「何で、こうなるの!?
暴れないで!
暴れないでったら!」
そして、その願いがジュエルシードを通して最悪な形で叶えられる。
銭形警部の手で、二つのジュエルシードが閃光を放った。