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No.25676の一覧
[0] 【ネタ】 貴族な勇者様(ドラクエ3)[ささにしき](2011/01/30 09:18)
[1] 貴族な勇者様 序[ささにしき](2012/04/26 13:20)
[2] 貴族な勇者様2[ささにしき](2011/01/30 09:22)
[3] 貴族な勇者様3[ささにしき](2011/01/31 10:30)
[4] 貴族な勇者様4[ささにしき](2011/02/01 04:22)
[5] 貴族な勇者様5[ささにしき](2011/02/02 06:31)
[6] 貴族な勇者様6[ささにしき](2011/02/03 11:50)
[7] 貴族な勇者様7[ささにしき](2011/02/04 08:35)
[8] 貴族な勇者様8[ささにしき](2011/02/05 13:46)
[9] 貴族な勇者様9[ささにしき](2011/02/06 13:36)
[10] 貴族な勇者様10[ささにしき](2012/04/06 06:52)
[12] 貴族な勇者様11[ささにしき](2012/04/10 22:07)
[13] 貴族な勇者様12[ささにしき](2012/04/14 02:09)
[14] 貴族な勇者様13[ささにしき](2012/04/20 08:26)
[15] 設定とか色々[ささにしき](2012/04/17 08:32)
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[25676] 貴族な勇者様13
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:1904a605 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/20 08:26
  貴族な勇者様13

 

 

 ボランティア(無償奉仕)は非常に有難い行為だ。

 通常なら見返りに発生する賃金を計上する事無く労働力を獲得する事が出来る。財布を開かずに事を成せる素晴らしさよ。

 流石に自領民と同程度に扱き使うのは問題になるが、それでも人手が増えるのは助かる。名ばかりのタカり野郎でなければ大歓迎だ。

 さて、此処まで考えて見るとボランティアは受ける側としては是非にと飛び上がりたくなる程嬉しいが、果たしてどれだけ信用出来るものだろう。

 天災や飢饉によ災害に駆け付けるのは分かる。同胞を救いたいという思いは集団社会の一員として芽生えるのは自然な事。

 だが、その危機が人工的な場合としたらどうだろう。例えば強盗・誘拐・殺人など、下手すれば能動者の生命に関わる場合は。

 普通の人間ならばまず遠慮するんじゃないか。自らを天秤に掛けてまで他人を助けたい、そこまで行くと気分が良いというより気味の悪さを覚えるのは不自然だろうか。

 自殺願望があるとか極度の被虐主義なら分からなくもないが、真っ先に行き着くのはそいつの人格への疑心。

 偽善とは正に歪みの極致である。勇者と言う名の人柱に進んで志願する連中は得てして心が壊れているものだ。

 欠陥品が辿る運命はご存知の通り。破滅を避けるには身の丈を知る事が何より重要なのだ。が、この時代ではそういう現実主義は嫌われるものらしい。

 

 

 アリアハン湾岸を抜け、他大陸に向けて舵を取る船中。

 目的地までは最速でも一週間近く掛かる長旅だ。青空と澄んだ海原に目を奪われるのも初めの内で、乗船者は如何に暇を潰すか模索する様になる。

 「いやぁ、本当に助かりました。何とお礼を言えばいいか・・・」

 「いえ。これも勇者として当然の事です」

 何度も頭を下げる男の肩を、遠慮するなと叩く女。素直に年下へ礼が出来るのは褒められたものだが俺の内心は全く晴れない。

 俺はボーイに運ばせた料理を平らげた後、食後のワインを喉に流し込む事を延々と続けていた。今日は自棄に酒が不味い。

 「お兄さん。それ、美味しいの?」

 やたら絡んで来る餓鬼もウザい。黙れと一睨みくれてやった後は存在そのものを無視している。

 何故に俺が平民と同室しているのか、奴らが高級船に乗り込めたかと言えば、そこの馬鹿執事が色気を出した以外に有り得ない。

 「何時まで不貞腐れてるんだい。こっちで一緒に飲もうよ」

 手招きする執事は俺の命令を無視しただけでなく、主を危険に晒すという従者としては最低の選択をした。

 馬車から覗いた魔物共の胃袋に入る予定だったのがレイと飲んでいる親父プラス足下の餓鬼。無視して直進すれば良いのに態々Uターンしやがった。

 勢い良く群れに突っ込んだと思ったら「呪文の準備をして」だぜ。化物が猛スピードで迫ってくれば生存本能に従わざるを得ず、咄嗟に疾風を巻き起こしてしまった。

 それが引き金となった。今迄は獲物を嬲る狩猟者だった魔物は全力で打ち倒す敵として俺を再認識し、元のターゲットなど忘れた様に飛び掛かった。

 仕方無く剣を抜いて、隣の反逆者に指示を出そうとした俺が見たのは平民共の手を引いて戦場を離れる執事である。魔力が奔流が荒れ地を更に不細工にしたのは言うまでも無い。

 「てめえの処分は追々決めるとしてだ」

 俺の心情を知った上で尚も唇を歪ませる女の制裁は後にして、今は部屋の空気を汚す塵を分別するべきだ。

 グラスを置いてナプキンで食事の汚れを落とし、厚かましくも貴族の私室に居座る畜生に目を向けた。

 「過ぎた事を言っても意味がないがな。てめえらは何で護衛の一人も付けずに彷徨っていた。今は戒厳令が敷かれてる事は知っている筈だ」

 結界が弱まった事でアリアハン各地の魔物は力を増している。最高レベルの警備が配置された王都周辺すら一人歩きは厳禁だった。

 平民が襲われていたのは港より少し離れた荒野。湾岸防備隊の他はほとんど人が割かれていない、言わば穴。喰い殺されても文句は言えない。

 流れの商人だろうか。それにしては軽装過ぎるか。島国のアリアハンに行商に来るには船を漕がねばならない。傭兵を連れて来ない訳が無かった。

 「えっ、戒厳令ですか? 済みませんが聞いてないですねぇ・・・。何分、田舎から出て来たばかりでして」

 「そいつは不運だったな。ちなみに何処から?」

 「アニス。小さな小さな村ですよ」

 淀みの無い返答。アニスはアリアハンでも最小の村だ。ド田舎オブド田舎として有名で、赴任したくない土地第一位でもある。

 あんな僻地じゃ伝達が遅れる理由も納得が行く。一応の説得力はあるか。

 男の顔を眺めても如何にもお人好しといった感じしかなく、一見何の変哲も無かった。

 「何処へ行くんだい。いい加減に機嫌を直したら?」

 「これ以上平民と同じ空気を吸ったんじゃ肺が腐っちまう。暫く出歩かせて貰う」

 背に掛けられるハスキーにぞんざいに応え、木製のドアの鍵を外した。

 帰って来るまでに追い出しとけよと残して隙間に身を滑らせる。何となく、喉に魚の骨が引っ掛かっていた。

 

 部屋を出てから真っ先に向かったのは船長室。軽くノックをして入室する。

 「おっさん、ちょっと聞きたい事が――御免なさい」

 タイミングを誤ったらしい。今度からはちゃんとアポを取る事にしよう。

 どれだけ行為に時間が掛かるか分からないので一服するか。懐には実家から持ち出したとっときが何本かある。

 曲がり角を進んで甲板への階段を踏もうとした所で、「待って下さい」と切羽詰まった声を背に受けた。

 「僕に何かご用でしょうかホモぺド野郎」

 振り返った先にいた変態は、上半身裸で汗まみれに荒い息とどう見てもご休憩の最中だった。あるいは事後かも知れないが。

 ゴキブリを見る様に口を手で覆って距離を取る。特異な嗜好を持つ連中には慣れてはいるが、ホモに加えてぺドとは手の施しようがない。

 俺はこんな屑に命を預けているのか。今度からは別の業者に乗り換えなければなるまい。取引先のリストから変態事業主の名を削除しようと誓う。

 「違うんですよこれは。魔が差したと言うか、偶にはパン以外の物を食べたくなったと言うか。詰まりですな・・・」

 浮気現場を押さえられた男はこんな感じになるのだろうか。実際この男には妻子がいた筈であり、ショタ相手でも不貞になるのか。

 それを指摘すると船長が垂れ流す汗は一層勢いを増し、脱水症状を引き起こす寸前までになる。嫁さんに告げ口しない見返りに、往復の旅費をチャラにする約束を切り出したのは船長からだ。

 「乗客名簿ですか?」

 乗り込んだ客船は完全予約制。目的地次第で期間が一月になる事もあり、衣食住を賄う側としては客にもそれなりの代償を求める。

 俺の様な常連の会員なら話は別だが初物には敷居が高い。年齢・職業・家族構成から犯罪歴、趣味と根掘り葉掘り個人情報を提出しなければならない。

 この手続きが大変面倒で、豪華遊覧の旅を諦める者も少なくない。俺の水準からすれば全然普通だけども。

 一方でリスクに見合った安全は約束される。乗組員は超が付く一流所が集まっており、海を余す事無く知り尽くしている。待機する傭兵も一線級ばかりだ。

 万が一の事態が起こっても解決出来る面子が揃っている。乗客に武器の携帯を許さないのも自信の表れだろう。

 だが俺の辞書に安心の文字は無い。常に億が一を頭の隅に入れて初めて腰を下ろせるのだ。熟睡するには未だ、拭い去る箇所が残っていた。

 「応よ。現客リストは手元にあんだろ? 物々しい黒服に渡した奴の原本が」

 船内には華美な衣装で固めた成金達に混じって厳つい野郎共がそこらに存在した。

 堅気の人間と思えない眼光は、一般人にはまず気付けないだろうがフナムシ一匹逃すまいとギラついていた。

 俺まで疑うのは不愉快の極みが良い心掛けだ。毎年顧客満足度トップ3に食い込んでいるのはこういった細かい積み重ねがある。

 「申し訳ありませんがアルス殿、ウチにも守秘義務ってのがあるんですよ。信頼があるからこそパーソナリティを晒して貰える訳で」

 そんな船の親父だから、反応も予測できた事である。先程の変態性が微塵も感じられないカリスマ社長振りが窺えた。

 ダンディーな顎髭を蓄えたその様は威厳に満ちていた。船員一人一人が独立出来る力を持ちながら、被用者に甘んじている最大の理由はこの男なのだろう。

 それだけに残念であった。俺に弱みを見せてしまったばかりに、創業時におっ立てた企業方針を破らせてしまう事が。心苦しくはあるけど仕方無いよね。

 「ですから――「浮気」何でも言って下さい! お客様に満足して頂く事が最高の喜びですから!!」

 地位や名誉は時として人を狂わせる。半泣きでファイルを取り出す男の背中からは哀愁が漂っていた。

 

 丁寧に記録された帳簿を追っていく。万単位の金を毟り取るだけあって並んでいる名前は錚々たるものだった。

 各国の大臣クラスに上級貴族、やたら長ったらしいのは王族だろうか。税金の無駄遣いをしてないか心配になったが、自国の官僚が含まれていなかったので良しとする。

 それだけに怪しい。地方の田五作が一生費やしても稼げない運賃をどうやって賄った? 単なる好奇心を超えた何かに突き動かされページを捲る指は止まらない。

 アニスアニスアニス。独自の文化を育んだアリアハンの地名は特徴的なので被る可能性は低い。国名は省いてANの頭文字を探し出す。

 「クラーク、クラゴ・・・。出身地はアニス、こいつか」

 結局最終頁まで進まねばならなかった。アリアハン、クラークで最後って事は、ファイルのソートは予約順なのか?

 それに気掛かりがもう一つある。こいつらの直前に俺の名があったのだ。

 客を選ぶがこの客船の人気は相当高い。権力で無理矢理捻じ込んだ俺と違って唯の金持ちは厳正な審査と抽選を潜り抜ける必要がある。

 1週間前に席が埋まる事もざらだ。予約順としたら、前日に連絡した俺が最後で無ければおかしい。

 「船長。最後のクラークって奴だが、何時頃申し込んで来たんだ? とても優遇するメリットは無いと思うが」

 「――あ? はいっ、クラークさんですか? 少々お待ちを!」

 打ちひしがれて呆然とした船長は少し遅れて戸棚を漁り、別の資料を手に取った。俺に渡したのより更に分厚く、より詳細な情報を綴じ込んでいるんだろう。

 温くなった茶を飲みつつ待つ事数分。おっさんが指差した箇所に記された一文を見て、カップを取り落としそうになった。

 俺は口内の液体をぐびりと飲み下して、ポケットから数百枚の小紙束を取り出した。

 「この船の見取り図はあるか」

 資料にはこう記録されていた。申込者の死亡に伴うキャンセル枠での繰り上がり、と。慈善なんてするもんじゃないと改めて思った瞬間だった。

 

 

 


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