ある吸血鬼の手記:その2
「くっくっく。
貴様ら中々良かったぞ。」
機嫌よく倒れ伏す二人に告げた。
ま、二人仲良くお寝んねだ。
こちらの声は聞こえているはずもないか。
しかし、こいつらには驚いた。
思った以上に根性がある。
何度倒れようと立ち上がり、こちらに向かってきた。
その身体は私の魔法や茶々ゼロの攻撃によってボロボロだ。
身体のいたるところは凍りつき、凍りついた部分で切り裂かれていない部位など存在しない。
現在の状態もかなりまずい状態だ。
一応、手当てもするし、薬も使うつもりだが。
「茶々丸。
こいつらを手当てしろ。
それが済んだら病院に飛ばす。」
「このか様のAFを使われないんですか?」
「何でこっちに喧嘩を売った馬鹿にそこまでしなくてはならん?
それにこのかに何て説明するつもりだ?
喧嘩を売って命もとらず、手当てをして病院に転移すれば十分だ。
それ以上は必要ない。」
「分かりました。
手当てが終わったら、転送をお願いします。」
「ふん。
忌々しい封印がなければ、ここでなくても魔法が使えるのにな。」
まったく忌々しい呪いだ。
これがなければ別荘から転移させなくても済むから、別荘から飛ばすための複数の手順や魔法を省くことができる。
実際、別荘から飛ばすなど緊急時でもなければせんぞ。
さて、面倒くさいがじじぃに連絡を入れるか。
「茶々丸。
転移がすんだら、じじぃに連絡を入れるぞ。
面倒くさいが仕方が無い。」
「はい。
分かりました。」
それから数分後、茶々丸がじじぃに電話を入れた。
変わってからじじぃと話をする。
「変わった。
じじぃ、話がある。」
「ふぉ!?
何じゃな?
物騒な話は抜きにしてほしいぞい。」
「無理だな。
交渉に来た魔法先生を病院送りにした。
また、周りが騒ぎ出すだろうから、始末をつけろ。」
「また無茶苦茶なことを。
ワシ泣いちゃうよ?」
「ふん。
じじぃに泣きが入っても気持ち悪いだけだ。
切るぞ。」
「待つんじゃエヴァンジェリン。」
泣き言にかまわず電話を切った。
責任者が揉め事の処理をするのは当然だ。
後は知らん。
「しかし・・・・・・・。」
私は先ほどの二人の教師のことを思い出していた。
確かに、ここの腑抜けの魔法先生とは思えないほどの意思を感じた。
だが、何かが引っかかった。
あの必死な目。
恐怖を感じていながら、勇気で持ってその恐怖を押し込めて?
いや、それだけでない。
あれは何だ?
今まで何度も何度も見ていたはずだ。
あの目は・・・・・・。
「マスター。
神楽坂様の修行が終わりました。
この後の予定はどうします?」
「うん?
終わったのか。
よし、すぐ行く。」
私は立ち上がった。
あの目の事は気になるが、先に弟子どもの世話がある。
この私が弟子のために奮闘するか。
随分となまった物だ。
○年×月△日
いつものように修行が終わり、別荘から出る時間が来た。
今日も有意義な一日であった。
「なにが有意義よ。
このサディスト。」
「何か言ったか?
神楽坂。」
「待ってください。
アスナさん。
マスターは僕達のために一生懸命なんです。
魔法世界のような事があっても、解決できるようにと。」
「ぐっ。
それは分かるけど、限度って物があるでしょ?
今のこれはいじめよ。」
「修行に限度なんぞあるか。
ん?
限度?」
「どうかしたんですか?
マスター。」
「いや、なんでもない。」
そういえばあいつ等がやり過ぎとか言っていたか。
少しは加減するか。
そう思いつつ、一歩を踏み出す。
別荘の光景から家の中の物へと変わる。
いつもと同じ、いや、いつもと違う!?
「んん!?」
床が発光していた。
なんだこれは!?
「しまった。
転移魔方陣。」
うかつ。
気づいた時には教会の中にいた。
くうううううう。
神聖結界が。
神の力が私の力を押さえつける。
すでに登校地獄と学園結界で押さえられているのに、さらにこれか。
「闇に蠢き、人を糧にし、邪悪を振りまく者よ。
ここは神の御前にして聖なる場所。
お前の邪悪な力は全て封じておる。
長きに渡って行ってきた悪の清算をする時がきたのだ。
本来ならば問答無用で滅殺すべき所だが、神の身元である。
慈悲の心にて、懺悔を許す。」
は、お得意の神の慈悲に懺悔か。
そんなものは吸血鬼になった当初に卒業済みだ。
何度、神に祈ったか。
何度、元に戻して欲しいと願ったか。
もう祈り飽きたわ。
ゆえに、宣言する。
「ふん。
神の犬が何を言うかと思えば、慈悲だと? 懺悔だと?
私は誇り高い悪だ。
この心に一片の悔いもなかろうが。
神の犬よ。
好きにするが良い。」
そう言いながらもAFの念話機能を使い坊やに連絡を入れた。
(坊や。そっちはどうだ?)
(重装備の人たちに囲まれています。)
(ふん。そっちも押さえにかかったか。
こいつらは吸血鬼殺し専門の組織クルセイダーだ。
抵抗しなければ吸血鬼以外殺しはせん。
それを皆に告げてこっちにこい。)
(吸血鬼殺しの専門組織?
それじゃ、マスターを殺しにきたんですか?)
(それ以外には考えられんな。
神聖結界で雁字搦めだ。
そっちがその程度なら間違いなく、こいつらの狙いは私だ。)
(分かりました。
雷天でそっちに向かいます。)
(神聖結界のせいで魔法の力は使えない。
教会の前で解け。
急げ。
待ってるぞ。)
(分かりました。)
AFで召還しようにもそうすれば、さすがに妨害が入るだろう。
その点、坊やの雷天ならあっという間だ。
不意打ちにも向いている。
どーーーん。
凄まじい音と共に両開きの入り口の扉が吹き飛んだ。
そこに坊やの姿が見える。
さすがのスピードだな坊や。
にやりと口元を歪めた。
坊やの成長が自分のせいと考えれば気分がいい。
この忌々しい結界で坊やの魔法も封じられるが、この程度の輩に負けるほど柔な鍛え方をしてきたつもりはない。
「坊や。遅いぞ。」(存分にやってやれ。)
「すいません。
マスター。
すぐに助けます。」
坊やが手足を振るたびに人が飛ぶ。
くっくっく。
この闇の福音が鍛えた人間だぞ。
そこらの戦闘員が役に立つか。
口元が歪むのを止められない。
もっとも、止めるつもりも無いがな。
「少年。
その者は邪悪な吸血鬼だ。
神に逆らってまで助けるのか!?」
「知ってます。
でも、僕にとっては大事な師匠なんです。
だから、助けます。」
中々健気な事を言うじゃないか。
今度何かご褒美をやるか。
何がいいかな?
「少年を止めろ!」
「はっ。
お任せををををおおおおおおおお!?」
「ダメだ。
止まらん。
何をやっておる。」
「神よ。
お力をををををおおおおおおおお!?」
はははははは。
無駄無駄無駄。
お前ら如きに坊やが止められるか。
止めようと前に立つたびに吹き飛んでいる。
まあ、多少の足止めにはなったが、ここまでだな。
坊やが手を伸ばす。
レディへのエスコートとしては年が幼いが、まあ良かろう。
特別に許す。
「ナギ・スプリングフィールドの名を汚すのかネギ君!!!!!!!!!!!!!」
男の叫びに手を伸ばす坊やの動きが止まり、その声の主へと振り返った。
何をしている坊や。
お前は何をしにきた!?
「ナギ・スプリングフィールドが、何故、闇の福音を封印したのか。
闇の福音が危険だからだ。
父親がした英雄としての仕事を、君は邪魔するのか!?」
「ち、違います。
父さんは、そんなことのために封印したんじゃ。」
馬鹿な、助けに来た相手を放っておいて問答か?
それもナギの事を言われただけで。
苛立たしげに声の主を確かめた。
んん!?
あの男の目!?
そうだ。
先日、半殺しにした魔法教師と同じじゃないか。
あの目は何だ?
どこで見た?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!
思い出した。
私に毒薬を飲ませた老婆の目。
私を火あぶりにかけた村人の目。
正体がばれたたびに殺そうとしてきた人々の目、目、目。
あああああああああ。
どうして忘れていた!?
どうしてその事に気づかない!?
どうして、どうして、どうして。
もはや一刻の余裕も無い。
あの目は危険だ。
自分が弱者であること知りながら、脅威をもたらす物を排除するためにどんな危険も犯す。
私がもっとも恐れる物。
死をも覚悟した弱者達の目。
坊や、早くこの拘束を解け。
早く! 早く! 早く!
「君がその手を取ると言う事は、ナギ・スプリングフィールドの名前に傷をつける。
君は父親を汚すのか!?」
「ち、ちが・・・・・僕は・・・・・・・父さん。」
坊やの動きが完全に止まった。
何故だ。
坊や。
助けに来たんではないのか?
今になって怖気図いたのか?
「がふ。」
慣れ親しんだ痛みが胸を突き抜けた。
ああ、聖別された杭か。
これは助からんな。
しかし、坊やには失望した。
神の僕と対立してでも私を救おうとしたのだろう?
何故、たかがナギの名前が出ただけで、躊躇うのだ。
ナギも一緒か。
私を怖がらず受け入れると宣言しておきながら、呪いをかけて閉じ込めるか。
ああ、私は何を見ていたのか。
ナギは私が邪魔だったのだ。
だから、呪いをかけた。
だから、放っておいた。
そうで無いなら、何故迎えに来ない?
子供を作る時間はあっただろうに。
子供!?
はははははははははははははは。
何て間抜けだ。
子供がいるということは愛する相手がいたと言う事でないか。
なのに、私に振り向く?
私の物になる?
こんな女邪魔なだけでないか。
本当に私は大間抜けの大馬鹿だ。
坊や。
私を好きといったな。
だが、改めて分かった。
こちらこそ願い下げだ。
「破門だ。
馬鹿弟子。
所詮、人間か・・・・・・・・・・・偽善者め。」
ああ。
走馬灯は本当にあったのだな。
昔の光景が脳裏に浮かんでは消えた。
碌な過去で無いな。
ふ。
所詮、悪の吸血鬼などこんなものか。
最強を詠おうと、幸薄い人生だ。
「どうしたんだい?
エヴァ?」
「また、怖い夢を見たんでしょう?」
今まで記憶に薄れていた姿がはっきりと浮かんだ。
「パパ? ママ?」
「「お帰り。エヴァ」」
優しい笑顔で私に手を差し伸べてくる。
躊躇う事無く私はその胸に飛び込んだ。
「ただいま。パパ。ママ。
エヴァね。
怖い夢見たの。」
両親に抱きしめられる夢を見ながら、600年の生涯を私は終えた。
はい、ここまでがある吸血鬼の手記です。
どうもここまで読んで頂いてありがとうございました。
さて、ここまで読んでも話がすっきりしませんよね?
実はある意味ここからが推理小説の謎解きの場面になるんです。
作者曰く、
ここからがアンチなんじゃああああ
ですw
今までもアンチじゃないかとの突っ込みもあるでしょうが、作者からはこれからが本番だったりします。
どんどんアンチします。
おかしなところ満載になると思うので、ここまでで十分じゃと思われる方は不快になるまえにお帰りを。
心の広い方はどうぞこの先もお楽しみください。