ある魔法先生の手記:後編その1
○年×月△日
田村先生の話を聞き、私は彼に協力することにした。
闇の福音は恐ろしい。
封印が解けており、私がネギ君達を守ろうと動けば、恐らく消されるであろう。
しかし、これでも先生であり、立派な魔法使いを目指すものだ。
恐るべき陰謀が行われているのならば、この身を犠牲にしようと阻止しなければいけない。
田村先生がどうして協力するのかと聞いたときにこう返した。
「ありがとうございます。」
彼はただそういっただけであった。
泣きそうな顔で顔中をクシャクシャにしながら。
○年×月△日
職員会議が始まった。
ネギ君は生徒を傷つけたことがショックだったのだろう。
いまだに職に復帰してはいない。
これ幸いとガンドルフィーニ先生や田村先生が、学園長に要求を突きつけている。
「闇の福音の師としての適正に問題がある事は、この間の事件によって証明されました。
即刻、師を解任し、新しい師匠をあてがいましょう。」
「生徒でパクティオーを結んだ数がもはや異常です。
本来、パクティオーはパートナーとなるべきものを決めて、その相手と結ぶ物です。
魔法がばれたからとほいほい結んで良い物ではありません。」
「ネギ先生に直接の指導を。
明かに先生としても魔法先生としても未熟です。
間違っているなら、それを正す。
そうするためにも、魔法先生としての正体を晒してはいけないとの制限を撤回してして頂きたい。」
それらの正論を私は黙って聞いていた。
何も言わない。
いや、言えないのだ。
私もガンドルフィーニ先生や田村先生に交ざって言いたいことがあった。
しかし、そんな私に田村先生やガンドルフィーニ先生は諭した。
「闇の福音が完全に封印されていて、学園長が操られていないのならば問題はない。
だけど、そうでなかったら?」
「そうです。
いくら言おうと学園長の態度は変わることはないでしょう。
闇の福音のドールに正論をいくら言おうが。
そうなるといった私たちはどうなります?
問題が無ければ放置。
だが、問題だと闇の福音が判断したら?」
その言葉にはっとした。
あの悪の魔法使いが邪魔だと判断した人間を放置する?
馬鹿なありえない。
「わかっていただけたようですね。
その時は何か理由をつけて排除にかかるでしょう。
その時の被害は少ない方がいい。
例え、高畑先生のような例外を除いてほとんどの先生が私達と志を同じくしようが、闇の福音の危険に晒されるのは少ない方がいい。」
ガンドルフィーニ先生と田村先生は殺される可能性すらある事を承知で要求するつもりなのか。
その覚悟に胸が熱くなった。
「まあ、私たちもただでやられるつもりはないがね。」
ガンドルフィーニ先生が男前に微笑んだ。
そうだ。
まだ始まったばかりだ。
例え、誰が犠牲になろうとわたし達は学園を守らないといけない。
でなければ何のための先生か。
私は気合を入れなおした。
「何故です!?
今度の事故は明かにエヴァの指導が危険な物だと証明した。
危険だと分かっているのにネギ君や生徒達を福音に預けっぱなしにするのですか。」
「何度も言っておるが、これは学園長としての決定じゃ。
反論は許さん。」
「学園長。」
駄目だ。
何を言っても通じない。
二人の顔が絶望に沈む。
いや、二人だけでないこの場にいる高畑先生以外の魔法先生の顔には全員それが浮かんでいる。
「では魔法職員会議を終わる。
次は一般の職員会議じゃな。
言ったとおりネギ君はエヴァに任せたまえ、悪いようにはせん。」
「学園長。
私達は諦めませんよ。
生徒の未来を守ってこその先生です。」
「ふう。
忠告はしたぞい。
くれぐれもエヴァに手を出して事情を拗らせるようなことはせんようにな。
頼んだぞ。」
フォっフォっフォと笑っている。
こちらが真剣に意見しているのにその態度か。
すまし顔を殴りつけたくて仕方ない。
そう思っているのは私だけでなく、例外を除いた全員に苛立ちが浮かんでいた。
○年×月△日
「えっ!?
今何と言いました?」
「学園長に言ってもどうにもならないと判断したガンドルフィーニ先生と田村先生が直接闇の福音に交渉に向かったそうです。
交渉は決裂し、ネギ君たちを保護しようと闇の福音の別荘を襲い、返り討ちにあったという話です。」
「それは本当にガンドルフィーニ先生達が襲い掛かったのですか?」
「闇の福音の言うとおりならその通りですが。
だが、かなりの重症をおい、意識不明の状態の彼らには反論はできないから、闇の福音が言っていることが正しいかは分かりません。」
その情報に愕然とした。
やはり闇の福音に直接物を言うなど、無謀であったか。
しかし、これ以上ネギ君たちを闇の福音の好きにさせるわけには・・・・・。
あれから連日のように学園長に直訴していた二人は、焦ったのであろう。
直接、エヴァに交渉に行くと言って、闇の福音の家に向かった。
その結果がこれとは・・・。
やはり、闇の福音は信用できない。
また、学園長も闇の福音の人形だと判断するしかなさそうだ。
「これからどするんですか?
学園長は聞く耳を持たない。
いえ、自分で判断ができなくなっているのかも?
闇の福音との交渉も決裂し、ネギ先生たちは今どうなっているのか。」
深山先生が目に涙を浮かべてネギ君たちを心配している。
私は二人が怪我したと驚いてはいたが、意外には思っていない。
ネギ君たちを手に入れようとしている闇の福音から見て、あの二人は邪魔者だ。
こうなるだろうと予測していたし、二人も覚悟していた。
そして、今回の事で私も覚悟を決めた。
パソコンを立ち上げバチカンに連絡を入れる。
「これは?」
「バチカンの対吸血鬼の専門家。
聖なる十字騎士団(クルセイダー)です。
吸血鬼を倒すためなら、何でもする性質があるので躊躇っていたのですが、もはや猶予はありません。
本来なら私たちこそが直接闇の福音に立ち向かうべきでしょう。
ですが、力の差は歴然です。
ですから、本当に悔しいのですが、専門家に協力を要請します。
今のネギ君の周りの状況。
学園長が闇の福音の操り人形になっている可能性が高いこと。
ネギ君が闇の福音の僕として狙われていること。
このファイルに載せた全てを知らせます。
頼む。
助けに来てくれ。」
「野沢先生。」
私は祈りを込めて転送した。
幸いにも魔法先生のほとんどはこっちの味方だ。
そして、全員が闇の福音相手に勝てるとは思っていない。
玉砕では駄目なのだ。
この学園とネギ君の将来を闇の福音に支配されるわけにはいかない。
必勝でないと!!!
「野沢先生!
返事が。」
ある意味返事が返ってくるのは当たり前なのだが、深山先生もテンパッているのだろう。
メールが帰ってきただけで興奮に声を上げた。
そこには・・・・・・。
『貴君の情報はかなり重要であり、もはや一刻の猶予も無く邪悪な真祖を退治する必要があると判断した。
とはいえ、こちらもすぐには状況に対応できず準備も必要だ。
そちらの情報の詳細を望む。』
「やった。やったぞ。
はははははははは。
来るんだ。
助けに来てくれるんだ。」
「うわああああああん。
来るんですね。
闇の魔法使いの恐怖に震える私達を助けに。」
二人で抱き合って喜んだ。
女性に抱きついたのは後から思えば問題だったと思ったが、今は歓喜でそれどころではない。
「すぐに皆に知らせます。」
「待った。」
飛び出して行きそうな深山先生を制した。
「この知らせが闇の福音に届いたら、何が起こるか分からない。
ネギ君を守るためにも、一般人の犠牲者を出さないためにも、私達が勝利するためにもこの情報は秘密だ。
学園長は元より、高畑先生や反対派の人間には決して漏らさないように慎重にだ。」
「分かりました。
慎重に伝えます。
この情報が命綱であると。」
そう言って彼女は部屋を出て行った。
私はマホラの情報を伝える。
警備の情報から、魔法先生や生徒の行動、高畑の出張や勤務、学園長のスケジュールなど、決してもらしてはならない情報の数々を流す。
全ては闇の福音を滅ぼすために。
続きますw