改変の結果短くなったのですが、キリがいい所で上げざるをえませんでした!
ミッドチルダの首都から程ほどに離れている商業都市。
その近くの森に、一人の少年が立っていた。
少年は無言で両手を前に向ける。するとそこから紺色の魔力光が溢れ、60㎝ほどのスフィアを形作る。
そのスフィアから魔力光の紺を少し薄くした魔力の矢が続けざまに8本放たれた。
矢は100m程進んで木に当たると、10m程の高さの木は完全に凍り付いた。
『上出来ね。じゃあ今日はこれくらいにしておきましょうか。隔離結界を解くわよ』
「……ふぅ。あいよ」
レティニアの声とともに、どこかズレた色彩の世界が元に戻る。
隔離結界とは位相をずらす事、次元魔法の結界版と呼べる。
4次元に物体の影響という5次元目を足した世界を限定的に作り、その中で物体が壊れたりしても結界を解けば元に戻る。
似た魔法として封時結界があるが、これは時間信号をズラす事で
術者が許可した者と結界内を視認・結界内に進入する魔法を持つ者以外には
結界内で起こっていることの認識や内部への進入も出来なくなる。
しかし封時結界は結界を貼っている事が廻りから認識されてしまうというデメリットがある。
対して隔離結界は、別の次元に移動しているとも言えるため、秘匿性が高い。
何せ結界を展開した時の魔力残滓でしか知覚できないのだ。
魔力消費こそ封時結界より多く、100m四方の結界でさえ維持は2時間が限度だが。
もっとも、ミッドチルダ式の魔法に隔離結界はなく、これはレティニアのいた世界の固有魔法だったが。
「しかしようやく撃てるようになったのがアイスニードル程度か…まぁ当たった側から凍っていく時点で某物語RPGとは威力は桁外れだが」
『そういえばヴェルって無言で魔法使うわよね?父親も言っていたけど、EFB以外に魔法の名前なんかは言ったりしないの?』
「念じるだけでレティニアが形にするのに言う必要ないだろ。それとEFBはあくまで通称だ。決して固有名詞ではない」
『……相変わらずよくわからないけど。まぁ、私も自分が使う魔法に名前なんて付けていなかったわね。なんなら技名を叫ぶまで溜めて置いてあげましょうか?』
「絶対にお断りだ。何が悲しくて永久絶対究極氷結風斬とか技名叫んだり無駄に長い詠唱を唱えにゃならんのだ」
『でも詠唱をすることでかけた時間だけ魔力制御は安定するわよ?』
「無言で溜めさせてもらおう」
こうして氷の精霊レティニアから魔法を教わり出してしばらく経つ。
始めのうちは魔力を垂れ流すだけだったが、今ではこうしてスフィアを形成し、ある程度の指向性を持たせる事が出来るようになっていた。
こうして習うと分かるが最初の検査の時自分がどれほど危ない事をしたのか実感する。
そして、修業を開始して教えられた事なのだが凍結属性の魔法に関しては、レティニアがデバイスの代わりになれた。
原作のリィンフォースⅡのようなユニゾンデバイスも単体で魔法を行使していたのでこれはまぁいい。
レティニア曰く「ふぅん。私と似たような存在だろうけど、性能に絶対的な差があるわよ」と言われたが。
自分が凍結変換資質持ちで、レティニアが変換させた魔力と親和性が高いというのも理由として挙げられるらしい。
ただしレティニアのサポート付きで凍結魔法以外で出来る事は飛行魔法と結界魔法くらいであり
防御魔法は文字通り氷の盾で拘束魔法は四肢を凍結。
圧倒的に「凍らせる」事に特化したデバイス、とでも言えばいいのだろうか。
なにせ魔力を周囲に拡散し発動させるだけで分子の運動は止まり、無差別範囲攻撃EFBである。特化型というレベルではない。
そしてバリアジャケットだけはレティニアにも無理だった。氷の鎧程度なら出来るらしいが、スケルトンはお断りしたい。
それにしても……
「あの時お前が声をかけてくれれば検査であんな事にならずに済んだんじゃないか?」
『あら?独り言をつぶやく痛い子供になると悪いと思ったのだけど』
「お蔭でこっちはいろんな所から目をつけられて大変な事になっているんだが?」
『それは考え無しに魔力を垂れ流したヴェルが悪いわね』
「あーはいはいそうですね。あの時自分の魔力がとんでもない事になってるって判ってたら隠してたんだがな」
『これから大変ねぇ』
「お前な……」
と、そんなやり取りを行いながらここのところの出来事を振り返る。
首都クラナガンでの検査の翌日からそれはもうひっきりなしの勧誘。
地上本部からの勧誘、本局からの勧誘。果ては聖王教会からまで勧誘を受けた。
前者は「両親が海なので自分が陸に行く事はありません」と言って切り抜けたが
『高待遇だったのに、ヴェルは冷たいわね』
「氷の女王が住んでますから」
『ふふ、私色に染まってきたって事かしら?』
「自分でも外道だと思ってるのにこれ以上どう外道色に染まれと言うのか」
そして問題の本局、海である。
ハラオウン親子の感情を含んだ個人的な勧誘はまだしも、だ。
両親を通じて引き入れようとまでする姿勢には正直なところ辟易したものである。
やはりと言うかなんというか、ハラオウン親子がアレだったわけだし
自分に目を付けるだろう死亡フラグトップ3の一人が当然のごとく関わってきた。
完全凍結を欲しがる海の人間といえば、ご存じギル・グレアムである。
どうやらグレアム提督は父親と面識があったらしく、個人的に呼び出して俺を勧誘するように言ったのだろう。
ある日父親から「お前なんかかっこいい魔力持ってるらしいな!必殺技じゃん!」
という、いつかの予想に近い第一声と共にかかってきた次元間通信に
「まぁ、俺は管理局に入る気はさっぱりないよ」と告げると
「ほう…つまり孤高のヒーローを目指すわけだな!羨ましいぞ!」
という激しくどうでもいい事を言われたが、徐々に勧誘の回数は減っていった。
もしかしなくても父親はそこそこ偉いのか?と母親に聞くと
「5年前から次元航行船の艦長よー」
と、とんでもない答えを頂いた。艦長かよ。普通に大物じゃないか。
どうりでリンディさんの旦那と仲がいいなんて言ってたわけだよ。
流石に艦長ともなるといくら提督とはいえ圧力をかければ不審に思われるだろう。
そもそも熱血とネタを同一視してるような、一言で言えばバカであるうちの父親に後ろ暗い所などないだろうし。
そして、一番の死亡フラグである悪趣味生産機ことジェイル・スカリエッティは、何故かそれらしい気配がなかった。
知られたものと検査を受けてから1か月程はストレスがヤバイ事になっていたが
監視の目は海と陸の定期的な暴走の危険の検査という名目で行われる月1の勧誘以外にはこれといってなかった。
見逃される理由があるのか、目を付けられる理由がまだできていないのか。その辺りは不明だが
不測の事態に対応出来るようにするためにもある程度は魔力を制御できるようにならなければならない。
なので拉致されるという危険性は未だ拭えないものの、こうして表向き一人で郊外の森に来て魔法の練習をしている。
『まぁ、いざとなったらヴェルの言う永遠力暴風雪だったかしら?周囲を完全凍結させればそれで終わりなのだけど』
「漏れなく過剰防衛で過失致死がオマケでついてきそうだけどな」
さて、この数か月で年が一つ増え、原作無印まで後6年を切っている。
このままミッドチルダで生活していれば、StS関連の出来事以外は関わる必要はない。
戦闘機人がいつ頃制作され始めるのかは知らないが、巻き込まれる可能性を否定できない以上、最低でもナンバーズから逃げ切れる程度の力は必要である。
「とりあえずアイスニードルは覚えたから、フリーズランサーとアイストーネードとアブソリュートに。あとはフロストダイバーも欲しいところだな…」
『それってどういう魔法?』
「アイスニードルを前方向に無差別連射するのがフリーズランサー。アイストーネードは文字通り氷の竜巻。アブソリュートは一瞬で相手を氷の塊に閉じ込める」
『相手の回りごと凍結させるならアブソリュートもEFBも大して変わらないじゃない』
「狙った対象だけ閉じ込めればフレンドリーファイアで過失致死を回避できるだろ。そもそも凍結魔法の上位系が殆どEFBと大差ないから小技を覚えないと廻りを巻き込むのが怖くて使えない」
『それも確かにそうね…じゃあフロストダイバーっていうのは?』
「魔力を地面に通してデカい霜柱を自分の前から相手に向けて生やす」
『見た目はいいけど、自分の前から生やす必要はないんじゃない?相手の足元にだけ生やせば』
「それもそうだな……2DのしょぼいMMOの癖に見た目重視とかわけわからん」
『まぁ、相手の足元まで魔力を通す分多少の時間もかかるし、物質変換を持つ魔力を遠くに飛ばすのは制御が難しいわよ』
「しょぼい技の癖に高難易度とかやってらんねぇな…」
『地表表面に魔力を通して相手まで届かせるなら自分の前から相手まで霜柱が立つけど制御は割と簡単になるし発動も早いわ。でも奇襲としては後者の方がいいわね』
「成程、それなら見た目だけじゃないって事か。まぁ、魔導師はともかく、戦闘機人の連中は恐らく飛べないだろうからな。後はそうだな…いっそ空からつららを大量に降らせてみるとか?」
「牽制としてはそれなりだろうけど、自然落下のつららじゃスピードがないから避けられるわよ」
「あぁ、それも考慮しなきゃいけないのか…さすがアイシクルフォール。前がガラ空き以前の問題か……」
『でも上空から降らせるなら相当なスピードになるわね』
「確かに30㎝くらいのつららでも20mくらい上から落下させれば刺さるレベルになるな」
『ただ上すぎると落下までの時間が長すぎるし大気で減衰するから高さの調節が難しいわね』
「ほんと微妙なんだなアイシクルフォール」
『ふと思ったんだけど』
「ん?」
『最初から凍結属性の魔力なんだから、単純に収束して撃てばいいじゃない』
「それなんてれいとうビーム」
完璧なチートスキルだと思ったが、帰ってからレティニアと話し合った結果、なのはの純粋な魔力の収束と違い、属性を持つ魔力は周囲の大気魔力の影響を受けやすく、収束砲撃は難しいとのことだった。
つまりフェイトがサンダーレイジやプラズマスマッシャーという属性魔力を収束せずに用いる魔法がメインなように、凍結属性を持つ俺はブリザードやアブソリュートが技としての限界なのだ。
よって収束砲撃は出来ない。確かに念じれば純粋な魔力というのも出来るが、それは効率が悪く、飛行やバリア等の無属性魔法にリソースを向けながらでは、とてもじゃないが使えない。
フェイトが何故収束砲撃を使わないのか疑問だったが、変換資質持ちというのは無属性の魔力の制御の相性がよくないのである。
そしてフェイトの場合、雷属性を活かしたソニックムーブ等が使えるが、自分の属性は凍結。凍結で無属性魔法に近い事、と言ったら……
「ひたすら防御しながらの固定砲台…だと…?」
そう、白い悪魔と同じ戦法なのである。
『もっと優雅に戦いたいものよね』
「優雅って言われてもなぁ…セルシウスみたいに格闘してみるか?」
『セルシウスって?』
「お前と同じ氷の精霊みたいなもんで、格闘と氷魔法で無双するのが得意。近接は格闘、遠距離はフリーズランサーとアブソリュートのオールレンジ」
『へぇ、悪くないわね。それでいってみましょうか』
と、なんとなく自分の戦闘スタイルの方向性を固めていった。