数ある次元世界の中でも最も科学と魔法が発達した世界、ミッドチルダ西部にあるありふれた都市のひとつ
その郊外に建っている一軒の家のリビングには重苦しい雰囲気を持った男女が4人座っていた。
いずれもが管理局に少なからず関係のある人物であり、うち二人は現役の提督階級を持っているという有り様だったりする。
その提督職にあるディル・ロンドとレティ・ロウランはテーブルを挟んで向かい合い、隣には
それぞれ妻のルクレと本土防衛隊の前衛部隊長であるクイント・ナカジマが座っていた。
「それで、ヴェル君からの連絡は未だにないんですね?」
そう深刻な表情を浮かべながら問いかけたレティに対し、3週間程前忽然と失踪した本人の父親であるディルは
「あぁ。だがアイツの事だ、どっかで将来有望そうな女とよろしくやってんじゃねぇか?」
なんて呑気に返すと、その場の空気は途端に軽いものとなった。
レティの隣に座っていたクイントがその中でも一番気楽な声で言う。
「あぁ~ありえますねぇヴェル君ですし。でもウチとしてはスバルかギンガ貰ってくれないかなぁなんて。いっそ二人とも貰ってくれてもオッケーなんですけどねぇ」
「ほう、ヴェルの奴そんなにクイントちゃんのお嬢ちゃんと仲いいのか」
「そりゃなんたってうちの二人の全力全開の遊びに付き合ってくれてますからねぇ」
「ギンガちゃんもスバルちゃんもうちにもよく遊びにきてくれてるしねー」
そんなやり取りを聞いたレティは自分の知らないヴェルの姿を
初めて聞かされて少し驚いた表情を浮かべた。
「へぇ、学校じゃ程ほどの付き合いばかりのヴェル君がそんな事になってるんですか……」
「「いつか負ける気がする」なんて言いながらもギンガにストライクアーツ教えてますしねぇ」
「そういや…こないだ温泉入った時見たらガキの癖して腹筋割れてきてんだぜアイツ?」
「それはまた……魔法学校でも至って普通らしいとうちの息子が言ってましたけど?」
「本人は別に隠すのが好きだとかそういうわけではないらしんですけどね。そういうところギンガとスバルに見せたら一発で落ちると思うのになぁ」
「ハッ、アイツそういうの全然気にしない所は俺そっくりだからな!」
「ディルさんの場合は隠すくらいで暑苦しさが減ってちょうどいいと思うけどねー」
「おいおいそりゃないだろルクレ」
話が逸れまくっている事を4人とも自覚していたが、別にまぁヴェルなら大丈夫だろう
という事でお互い納得しているので、そのまま雑談モードへと入っていく。
「まぁ、ヴェル君は勘もいいみたいですしね。自分から危険なところに行くなんて事はまずないでしょうし」
「その割に何があってもいいようにってちゃんと考え込んでるんですよねぇ…時々妙に悟った顔しますし。ほんとギンガだけでももらってくれませんかね?」
「ククッ、ウチとしちゃ大歓迎だが、アイツの事だから既成事実の三つくらい作って詰まないと逃げると思うぜ」
「そうねー。ヴェル大人っぽいからそういう話もちかけてもすぐ流すしねー」
なんてちゃっかり親同士の情報交換がなされているなんて事をヴェル本人は気づける筈がない。
そして両親からオーケーサインどころかアドバイスまで貰ったクイントは
「なるほど……それじゃ今度ギンガに話して実践させてみますね!」
「ふふ、ナカジマ陸尉は随分ヴェル君に入れ込んでるのね。やっぱり一番弟子は違う?」
「いやぁ、あの歳であれだけ才能あるのに、あえて管理局以外の道も考えられる子って有望株だと思いません?」
「そうねぇ…管理局としては是非欲しいところだけど、男として見るならあぁいうのも悪くないわよね」
「思えば回りにいないタイプの男の子よねー。ディルさんだって管理局だしー」
「ヴェルの奴はいつの間に人妻キラーなんて才能を手に入れてんだ?」
「あ、考えてみればあるかもしれませんね。年上キラーな所。その辺りはディル提督に似なかったんでしょうねぇ」
「案外よろしくしてる女っていうのもまた人妻だったして?」
「可能性あるわねー。しかも今度は未亡人とかー」
「ディル君の事だからありえるわね……もし別の世界にいるなら、リンディあたりと鉢合わせしてるかもしれないし」
「おいおい、自分と歳の離れてない女からお義父さんなんて呼ばれたくねぇぞ俺」
「でも結局ヴェル君の結婚相手になりそうな女性ってどんななんでしょうね?」
「そういえばヴェルの好きなタイプ、なんて聞いたことなかったわねー」
「なんていうか、相手に合わせてる感じがして掴めないんですよねぇ」
ヴェルの予測は概ね当たっており、とりあえず連絡あるまでしばらくは待つか、という方向で決まった。
何故動かないのかといえば、広すぎる次元世界において、次元通信機もなく、GPSのような位置情報発信機もないのでは探しようがないからだ。
それでもここまで楽観的というのは確かに珍しいと言えるが、ディル・ロンドという探索活動中にしょっちゅう行方不明になる人間の息子という
不本意すぎる肩書きの影響も大きいのであった。
そんな行方不明、もとい絶賛巻き込まれ中の当人は
フェイトのセーフハウスで現在掃除中であった。
風邪の治ったフェイトは「休日なら国家権力から目をつけられる心配もないから」という理由で朝から探索に隣の街、海鳴市に出かけている。
日に日に焦りを募らせるフェイトに「まぁ休日だろうが外国人から話しかけられるのは確実だよね」とは言えなかった。
もっとも、本人が自分から動く、といっている以上、自分があれこれ言って原作ブレイクなんて事にしたくないのもあるが。
恐らく次に発動した時がフェイトとなのはの邂逅になるのだろう。
「原作でも問答無用だったけどアレ見ちゃってると落ち着け、なんて言えないよなぁ……」
『そうねぇ』
思い返すはなのはに先を越されまくり、母親の期待に応えられない焦りに満ちたフェイトの顔。
「誰にも迷惑かからない場所でならアルハザードへの道くらい開かせてやりゃいいものを」
『そういえばプレシアはどうやってアルハザードに行くつもりなの?』
「次元震を局所的に発生させて虚数空間への扉を開く。まぁ普通は考えつかない方法だな」
アルハザードに辿り付ける確率もあやふや、そもそも虚数空間から出れる確率すらあやふや。
それでも見つからないアルハザードにたどり着く一つの答えが虚数空間。
全ての確立を内包している場所ならアルハザードがある場所にたどり着く可能性だってあるという、まさに神頼み的な方法だ。
『私の隔離結界みたいなものなのね』
「あれはよくて5次元。虚数空間はそれ以上だろうな」
『ふーん、よくわからないけどそうなんだ?』
「俺が元の世界に帰れる確率さえ内包してるかもしれないけど。失敗すれば消滅するか虚数の海を永劫に彷徨うだけだろうが」
『ようするに自殺よねソレ』
「まぁな。それでなくても余命が短いってのに。誰も介錯してくれないから自殺するのも一苦労なんだろうさ」
リビングのフローリングを拭き取り終わり、使い捨てのウェットシートをゴミ箱に捨てながら
そんな事を話していると、この数週間ですっかり馴染みのある反応を感じた。
「ん?発動したって事は今日が月村家の森か」
『行くの?』
「んー……」
行った所で別に何かあるわけでもないというか、むしろ行くと余計な事が起きそうだし。
「パスだな。それより久しぶりにフェイトがジュエルシードをゲットするんだ、今日の夕飯は気合入れて作ってやるから買い出しだな」
介入なんてこれっぽっちも考えず、買い物袋と財布を持ってセーフハウスを出る。
と、いきなり結界が張られ、街から人が消えた。
「これは……広域結界か」
封時結界と違い、これは魔力を持つ人間とそれ以外を分ける単純な結界だ。
この結界はたまに魔力を持たない生物も紛れ込む上、バックアップ無しでは張れる時間の短い可能性のある大雑把なものだ。
恐らく結界を張ってるアルフは結界が安定するまでその場から動けなくなっているだろう。
フェイトを先行させるためとはいえ思い切った事をするものだ。
まぁ今回は月村家の敷地の森で目撃される心配は低いし、神社程に離れてはいないにせよ
街外れの月村邸に一気に向かうには一度広域結界を張って飛んでいった方が早い。
「しかし、隣町まで広げることはないだろうに…焦りすぎだろ」
『結界から出る?』
「結界破るのは流石にダメだろう。となると手持無沙汰だな……」
『それじゃ見に行ってみましょうか』
「……まぁ、暇だしなぁ」
というわけで氷の足場を久しぶりに発動させて空へ上がり、月村邸へ向かう。
巨大化した猫が視界に入ったので見渡せそうな場所まで一気に滑っていく。
敷地内を見渡せる場所を見つけ、そこに座ると、丁度フェイトがなのはに襲い掛かっている所だった。
「おぉ、焦ってる焦ってる」
『どっちが?』
「もちろん無表情を装ってるフェイトが」
いきなり攻撃されたなのはより、実はフェイトの方がテンパってると思う。
この前のディバインバスター狙撃の話を俺から聞いて以来、フェイトはなのはに警戒しまくりだったし。
なのはがレイハさんをシューティングモードにして向けた瞬間ちょっとフェイトの眉が動いた気がしたが
「あれだな、ビビったら負けって奴」
『なにそれ?』
「こないだテレビ見てたらサングラスかけたおっさんがそんな台詞をな。フェイトがやけに見入ってたから。あ、フェイト撃ったな」
巨大猫の身じろぎに一瞬気が逸れたなのはに容赦なくフェイトが電気変換された魔力弾を叩き込む。
不意をつかれたなのははシールドを張る余裕もなく直撃。
魔力衝撃の余波に吹き飛ばされたなのはをユーノが衝撃緩和魔法で受け止める。
気絶したなのはを一瞥したあと、フェイトは封印魔法を撃ちこむ。
しかしなのはの砲撃と違い、フェイトの直射魔法は貫通力がないので
猫の体内からジュエルシードを吐き出させるための魔法を先に撃つ。
猫が動かなくなり、体内からジュエルシードが吐き出されると、上空に暗雲を作り上げ、そこから雷の矢を無数に放った。
「ほう、儀式場を形成しての砲撃魔法ね……」
『あまり効率良さそうには見えないけれど』
「威力重視の溜め優先、というか撃てるだけ撃ってやがるな。フォトンランサーからプラズマスマッシャーとか凄い念の入れようだ」
『つまりそれだけ気合入ってる?』
「だろうなぁ……」
思えばフェイトが暴走状態のジュエルシードに封印魔法を撃ちこむのはこれが初めて。
はぢめてのふういん。多少オーバーキル気味になるのも仕方ないか。
「っと、終わったみたいだし俺も撤収しないとな。結界解ける前に隣町に戻らないと」
『まっすぐ買い物ね』
「そういえばフェイトの好物ってなんなんだろうな?好き嫌いないって聞いたから割と適当に作ってるけど」
『聞いてみれば?』
「空気読まずに念話しろと?まぁいいけどさ…」
隣町に戻り、丁度結界が解けた所でフェイト達に念話を送る。
(フェイト、いきなり広域結界でこっちまで覆われたんだが、アルフがやったのか?)
今まで帰ってくるまで特に何も聞かなかったので
このタイミングで念話は焦ってるだろうなぁ……
(えっ!?あ、その、そうです。でも回収は出来ました)
(アハハ、悪いねヴェル。いちいち結界範囲指定するどころじゃなくてさ)
(優秀なのはわかるが、加減を覚えろよ。まぁ、よかったじゃん。今回は、もう一人の魔導師は?)
(えーと、何故か、現れませんでした)
(ふぅん、風邪でもひいたかね?)
(あぅ……)
(ヴェル、フェイトをからかうのはやめなってば)
(ま、久しぶりにジュエルシード手に入れられたんだ。夕飯は気合入れて作ってやろう。といってもフェイトの金だが)
(あ、そんな事してもらわなくても……)
(そりゃ楽しみだね!)
(と、アルフはノリノリだからとりあえず肉は確定だな。アルフ、豚、牛、鳥どれがいいよ?)
(今日は牛の気分!)
(じゃあたたきにでもするかね。フェイトもヒレなら食べられるだろう?余ったらケバブにでもしよう)
(ヴェルが来てから食べものだけは充実してるよねぇ)
(食べる係冥利に尽きるだろ?)
そんなやりとりを交わし、更に探索を続けるというフェイトとアルフに一言告げ、自分は商店街へと歩く。
これから先、向こうも隠し通すのが辛くなりはじめるだろう。
何よりフェイト達がジュエルシードを集めて、プレシアがそれで何をするのかさえ不透明なのだ。
もし自分がいるときに執務官とか魔王と遭遇するような事になったらこの関係も終わりだ。
「次は温泉、ねぇ……」
『そうなの?』
「たぶんそのうち行くんじゃないか?周りに何もないから励起寸前で放置されてるだろうしな」
『一緒に行くの?』
「出来れば留守番していたい」
その日の夜、いつもより少しだけ明るいフェイトと
それを見て嬉しそうなアルフと一緒に牛肉のたたきをメインにした手料理を食べながら
この関係も少しだけ悪くはないと感じ始めた自分がいる事に気付いた、なんて事もなく。
『さっさとアースラこないかなぁ……』
『でもそれに乗ってるのって6年前に会ったあの親子よね?』
『そうなんだよなぁ…いっそオルレアンに……親父どころかクイントさんまで来そうだから頼むから来てほしくないなやっぱり』
『まぁ、あの人たちは来ないでしょうけどね』
『そもそも探す事自体無理に近いからな』
『きっと女とよろしくやってるとでも思われてるわよ』
『この年で女絡みの厄介ごとに巻き込まれたと思われてるとか不本意すぎるが否定できねぇのが辛い』
後書き
「モノを書く時はね 誰にも邪魔されず 自由で なんというか 救われてなきゃダメなんだ 独りで静かで豊かで…… 」
久しぶりに湾岸ミッドナイトを一巻から読み直してたら、急にマブラヴのSSが書きたくなったりしながらも、結局途中で投げてカスタムメイド3Dやってました。本当にサーセン。
無理ありまくりの世界観に無理ありまくりの設定を考えるのが好きなんです。
この小説を書くときも、後から後から増える出鱈目な原作設定に、「きっとこういうのはこう考えればつじつま合うんじゃね?」というのをメインに置いてます。
その結果、ストーリーがおざなりになってきて、今度はそっちに時間を取られてしまうという悪循環。
何より本編を見直しながら書かなきゃいけないというのも辛い。
というかアルフの声若杉だろう常識的に。
次話はどれくらいかかるか微妙な所です。
温泉の話だけで一話使い切るってのは多分無理なので、温泉とその次くらいまで書ければいいなぁ。
以下感想返し。
ポリンキーさま
フラグ立てたって害がないならこういう台詞も容赦なく言うのが主人公。
いやほんと、いつか誰かに言われると思ってました。
オリキャラの名前なんて適当で決めてるので
部屋に飾ってるHGUCνガンダムをぼーっと見てて付けた名前だったりしますw
管理局に入らないと隊作るなんて無理なので、可能性は低いと思いますwww
kyokoさま
いやほんと、一気に遅筆になってしまいました。
書いては消すのを繰り返す頻度が高くなる一方なんですよね。
エロゲに時間取られてるのもありますけど、やっぱりモチベーション維持って重要だと思います。
大丈夫、今はまだ…ヴォルケンいないから大丈夫……
こういう思考が一番危ないんですねわかります。
リラックスさま
病弱というわけでもないけど一端体長崩すとヤバイのがクローン。
本編でバルディッシュ待機状態でもバリアジャケットをよく着てるのは風邪対策なんですよきっと。
巣作りBETAさま
最高ですよね…MODが豊富すぎてキャラスロット50じゃ足りません。
げふげふ、本編ようやく確認する事が出来て、うろ覚えだったのをなんとか補完できるようになりました。
主人公は相手が死んでもいいならチートですが、相手を射程に入れるまでが大変なのは変わりありません。
一番相性悪いのがなのはやディエチみたいな狙撃タイプと遠距離で戦う事。
フリーズランサーは一発あたりの威力が低く、発射弾数で威力と命中力を底上げしてる技なので
一発の威力が高いものを撃たれると余裕で競り負けてしまい、相殺すらできません。
不便なチート、それがEFBというものです。
温泉すら回避したいと願う主人公を前に、お約束なんて多分起こらない!
A-Ⅲさま
主人公のジュエルシードは魔力枯渇状態であっさり封印できてしまったので
今回初めての暴走状態相手ということでフェイトの気合の入り具合を意識させてみました。
フェ「こういうのはビビったら負けだって張さんも言ってた…!」
Chaosさま
二重の意味で生きててゴメンナサイです。
再開未定、というより、次話完成未定って感じですね
時間がないとかじゃなく、書ける時は書ける、書けない時はいくら悩んでも書けないって感じです。
プロット無しの本当の地獄はここからだ……!