「ジュエルシードを渡してください」
そう言ってデバイスを俺に構えながら告げる少女―フェイト・テスタロッサ。
『これも原作キャラ?ずいぶん奇抜な恰好してるけど』
『薄幸少女に見えて実は一番目立ってるという矛盾した露出少女だ』
本人は否定するだろうが知ったことか。
しかしこの時点で彼女は活動してたのか……あぁ、ジュエルシードに気付いて駆け付けたものの、なのはに封印されて空振りしたって所か。
犬が見えないがおそらく隠れてるんだろう。そして俺がジュエルシードを持っていると気づいたのも恐らくあの犬。
俺が召喚された場所にも彼女は駆け付けたのだろう。あそこにはジュエルシードの魔力だけでなく
俺とレティニアの魔力残滓が残っていた。それを頼りにして犬が見つけたってあたりだろう。
これはまたどうにもならない展開になった、と思いながらも、どうするか考える。
逃げる?いやいや隠れてるけど後ろに犬っころがいるのが分かる。逃げ切れたとしても追われるのなら意味ない。
倒す?原作ブレイクお断りします。ならばここでの選択肢はこれだ。
「ジュエルシードって何?」
「えっ」
そう、自分はあくまでごく普通のミッド在住の子供ってだけで、「君の探しているのはこの石のことかね?」なんて弓兵口調で話すのはアウト。
とりあえず相手の話を聞く。聞いた上で考察したように明け渡してさようなら。これがベストだ。
「なんかいきなりデバイス向けられながら渡してくださいと言われても、これっぽっちも話が見えない」
「あ、あの、えっと…」
そりゃ混乱するわな。だがこっちは本来はもっと混乱してるような状況なんだ。
すると、やっぱり隠れていた犬がこちらに飛び出してきてフェイトの隣に立ちながら
「トボけるつもりかい!アンタがジュエルシードを持ってるのは分かってるんだよ!」
「と、言われてもなぁ…あぁ、もしかしてこれか?」
そう言ってジュエルシードを出す。ここで出すのが正解だろう。
「封印なんてしてないけど、魔力すっからかんだよこの…ジュエルシードっていうの?少しずつため込んでいってるみたいだけど発動するまでしばらくかかるんじゃないかな」
「えっ」
「俺を強制召喚したのがこの石の力っぽいから一応持ってたんだけど。
召喚された所にいたおっさんは気絶してたし、魔力反応もないから関係なさそうだしで
さてどうしたものかと周りを見渡してみればどうやらミッドと違う世界だからとりあえず色々と見て回ったんだが…。
あぁ、俺ミッドチルダの人間なんだけどさ。君は魔導師だよね?」
ミッドチルダと言った瞬間、二人の表情がピクリと動いた。
「そうです……貴方はミッドの人なんですか?」
「うん、しかも魔力はあるけどただの一般人だぜ?そもそもここ何処よって話だし」
「ここは、第97管理外世界の有人惑星、地球です」
「あーやっぱ管理外なんだ?科学技術はそこそこ発達してるみたいだけど、魔法技術関連のものが一切なかったからもしかして、と思ったけど」
「あの、とりあえずその石を」
「ん、あぁ。この石君のなの?じゃあ召喚したのも?」
「い、いえ、私じゃないんですけど……」
「…まぁいっか。とりあえず封印した方がよさげだしね。また魔力が溜まって発動しても困るし」
「あ、はい。ジュエルシード、シリアルⅡ封印っ」
ジュエルシードを封印して「よし、一つ目」なんて言ってるフェイト。
っていうかこれが原作でもフェイトの一つ目だったんだろうか?
……なんか違いそうだな、明らかに発動の仕方がおかしかったものなぁ…。
だいたいジュエルシードの魔力が一時的にしろ励起しなくなるほど枯渇してるとか尋常じゃないだろ。
調べていないしレティニアも専門外なのでよくはわからないものの、ジュエルシードとは願いを叶える機能が後付けされてるだけの魔力タンクだ。
空気中の魔力を一定のペースで溜め、満タンになったら放出、つまり発動する。
その時に魔力を消費する目的をスキャンして願いを叶える。つまり付近にある生物の思考や願望を読み取るのだ。
だが、願いの形というのは抽象的すぎるし、スキャンも完全な形では読み取る事が出来ないため、魔力の放出が不完全なまま終わる。その結果、願いが歪んだ形で叶えられたりするわけだ。
もちろん魔力をそれほど消費していないから、すぐに溜まってまた発動するわけだが
俺とレティニアを召喚したジュエルシードは溜めこんでいた魔力をほぼ全て消費しきっていた。
この石の魔力回復スピードがどれだけ早くても、次に発動するのは3日程はかかる。
もっとも、封印魔法なんざ使えないからその時はポイして逃げるつもりだったが。
さて、自分とレティニアという存在がいるだけで勝手に原作の一部がおかしくなっていってるのは確実。
ならばその中でなるべく違和感なく無印を無事終了させて、さっさとミッドに戻るに限るのだが。
「…でさ」
「な、なんですか?」
「帰る方法知らない?魔導師って事はどこかの次元世界から来たんだろ?俺は次元通信出来ないから管理局を呼ぶのも無理だし」
「管理局……あ、えっと、私はこの石を探すためにきたので、自分の家への転移ゲートしか…」
「マジで?あー…ちなみに君の家に行けばミッドに行くか連絡が付く方法はない?」
「庭園に行って母さんに聞いてみないと……」
「まぁ、別に俺は急いでるってわけでもないからさ、なんだか知らないけど切羽詰ってるみたいだし」
しかし予定外も予定外だ。
ここで彼女と遭遇とかこれっぽっちも予定に考えてなかった。
このタイミングで彼女と遭遇するのはちとヤバイ。俺はミッドの人間で、どちらかと言えば
彼女の、正確には彼女の母親、プレシア・テスタロッサにとってはただの邪魔でしかない。
プレシアに知られたら「邪魔よ」の一言で殺そうとしてくるかもしれん。
だからここはジュエルシード集め終わったらママンに聞いてみてよ、くらいの所にするのがベターだ。
それを実現するため、なるべく違和感のないように話す。
「でも、早く帰らないと心配されるんじゃないですか?」
「あー、まぁ俺の場合、回りは心配してくれるような人間がいないからね」
「それは……」
「まぁアイツなら大丈夫だろ、くらいで済まされてる予感しかしない……」
両親は言わずもがな、「面白そうなものでも見つけたんだろう」だとか言ってそう。
シャーリーあたりは「きっと自分探しの旅に出たんだね!」とか……もうやだあいつら。
「………あ、あの?」
「…ん?あぁゴメン。それでさ、現地の公的機関に保護してもらうって手も考えたんだが
この世界に管理局の手が入ってない可能性もあったし
魔法バレする危険を考えると迂闊に接触もヤバイと思って。で、どうするかなぁって考えてたら
なんか念話が聞こえたから自分以外にも魔導師がいると分かって探してたんだ」
「念話、ですか?」
「あぁ、この町一帯に男の子の声で広域念話。んで封時結界も張られてたから、こっちも広域念話で問いかけようかと思ってたんだが…君には聞こえなかった?」
「あ、はい。私の家は隣の町ですし、ジュエルシードの発動を感じてさっき来ましたから」
「ふぅん。てことは俺と君以外にも魔導師がいるって事だな。その人が最低でも次元通信出来るといいんだが……」
「………」
そんな事を呟くと、彼女は黙る。大方、犬と念話でもしてるんだろう。
まぁこれで、ほとんど嘘もない事実のみを伝えて俺は関係ないとわかった筈だ。原作は壊れたりしないはず。
「ま、とりあえず見つけてからだな。それじゃ魔導師さん、俺はもう一人の魔導師を探してみるよ。魔導師さんもジュエルシード集めがんb「あ、あの!」…ん?」
「ジュエルシードを探し終わったら、母さんに聞いてみます」
「ありがとう、助かるよ。念話は出来るようにしておくから、お母さんに聞いて結果が分かったら連絡くれないか?」
「えっと、見つかるまで寝る場所とかは?」
「まぁ、なんとかなるんじゃない?自然多いし」
「じゃあ、うちに来ませんか?私は石を探さないといけないけど、寝る場所くらいはなんとかしてあげられると思います」
「……有難い話だが、君も石を探さなくてはいけないだろう?」
「えっと、もう一人の魔導師も、私が見つけておきます。探索はアルフが得意ですから」
そう来たか…いや、予想は出来た筈だ。
どうする……このまま別れて次にジュエルシードが発動した時になのはに会うつもりだったんだが。
彼女の事情的に、自分が管理局に連絡を取るのを彼女は阻止したいのだ。
彼女は、プレシアがユーノが乗った次元航行船を叩き落とした事は知らされていないかもしれない。
だが、ジュエルシードというロストロギアを集める事を管理局に知られては厄介な事になる事は把握しているわけで。
であれば、だ。管理局との接触フラグになりかねない自分を軟禁したいって魂胆なわけか。
さて、彼女の家、つまり隣の街にあるセーフハウスに厄介になったとして、デメリットを考えると
プレシアに遭遇する可能性が上がる。なによりこれが一番大きい。
Sランク魔導師とはいえ流石に勝てないってことはないだろうが、もし消されそうになったら確実に厄介な事になる。
メリットはプレシアにさえ見つからなければ後は高町家フラグとさして変わらない。
むしろ関わる人数が減って願ったりかなったりな気もする。
犯罪者と知らずに厄介になってれば管理局から見ても俺には罪もなんもないし。
だがプレシアがなぁ…うーん……次元魔法というスキマ使いな時点で見つかる可能性があるのは避けたい。
というか今こうしてフェイトと話してるだけでも内心ビクビクものだ。
いつ空から雷が降ってくるかわかったもんじゃねぇ。雷ババァ怖い。
だが、ここで断るとさっきからこっちを睨むような目線で見てる犬が強制的にお持ち帰りとか言い出しそうだしなぁ…。
「……じゃあ、お願いしていいか?石を集めるもの手伝う」
本当はそんな気さらさらないけど流れ的に手伝いを買って出てみる。
小癪にも軟禁なんて考えた仕返しも少しだけ、ある。
しかしさっきから俺の言う事に動揺しまくってるなこの子。
「あ、あの、だ、大丈夫です。アルフもいますし」
「そ、そうだよ!アタシがいるから大丈夫!」
犬いきなりしゃべんな。
しかもなんでお前までどもってるんだよ。
「御厄介になるだけっていうのもあれだしさ、手伝える事ない?」
「ほ、本当に大丈夫ですよ!」
「そうそう!手伝うならご飯の用意とかそういうのでいいからさ!」
「そうか?んじゃそうさせてもらうよ」
そんなわけで、フェイトのセーフハウスにお持ち帰りされる……っていうか連行される事が決定した。
夜の街を歩く少女と少年と犬。フェイトは一個目のジュエルシードを難なく手に入れてどことなく嬉しそう。
こっちはプレシア的な意味でお葬式ムードだ。
フェイトより先に自分がプレシア的な意味のお葬式ムードになるとは思ってもみなかった。
……何?不謹慎?皮肉でも言わないとやってられんっての。
『ヴェル、本当にいいの?』
『…死亡確率は上がったけど、大人しくしてればフェイトがプレシアに報告に行くまでは高町家より介入フラグは少ない。まぁ襲われたら潔く逃げて今度こそ高町家行こう…』
『先行き不安ねぇ……』
『まぁ、StSよりは大分気は楽なんだけど、な』
『そうなの?』
『ラスボスのプレシアはランク的には条件付きのSSだが病弱で老い先も短く、全力攻撃には限度があるだろう。
条件ってのは間違いなく次元跳躍魔法による一方的な儀式系広範囲砲撃のことだろうから、中距離以内に入ってればいいとこ直射AAAあたりな筈だ。
近接なんか絶対出来ないだろうし、直射系での弾幕勝負ならこっちは理論上の弾無限だから押し勝てる。
正直な話、ナンバーズの二機連携から襲われるとかよりよっぽどマシだわ』
『そんなものなの?』
『こっちは魔力に関しても大分ズルできるからな。EFBだって溜めが長くなるけど魔力量換算でもう四方160mまでは広げられるし』
なんてレティニアと原作の危険度について話し合っていると
フェイトがいきなりはっとした表情になった後、また慌てた表情を浮かべながらこちらを向き
「あ、あの!」
「ん?」
「私、フェイト・テスタロッサと言います」
「アタシはアルフ」
「あぁ、そういえば自己紹介もしてなかったな。ヴェル・ロンドだ」
さて、フェイトの家についたら……とりあえず寝よう。
後書き
てなわけで逃げられずに連行されましたー。
ヴェルは魔法が使えるだけの部外者。
ならば高町家だろうがフェイトのセーフハウスだろうが
アースラ来るまで大人しくしてれば無問題!とか思ってる主人公です。
次回「プレシア様が見てる」には…多分なりませんね。
フェイトが報告しに時の庭園に行くまで割と平穏でしょう。
プ「何ジュエルシード探すのサボって男連れ込んじゃったりしてるわけ…?」
フ「ヴェルさんに私のお父さんになってもらったんです!」
プ「なん…ですって…?」
主「31歳差でも夫婦になれますよ(ニコ」
プ「な、何を言ってるの……私と貴方が夫婦になんて…///」