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No.25391の一覧
[0] 【チラ裏からきました】 「銀トラ伝」 銀河英雄伝説・転生パチモノ[一陣の風](2013/09/22 13:53)
[1] 「第4次 イゼルローン攻略戦   前編」[一陣の風](2013/09/20 15:12)
[2] 「第4次 イゼルローン攻略戦  後編」[一陣の風](2013/09/20 19:02)
[3] 「 28 Times Later  前編 」[一陣の風](2013/09/20 15:27)
[4] 「 28 Times Later  中編」[一陣の風](2013/09/20 15:30)
[5] 「 28 Times Later 後編  part-1」[一陣の風](2014/07/21 23:09)
[6] 「 28 Times Later 後編 part-2」[一陣の風](2013/10/09 23:13)
[7] 「 28  Times Later 後編 part-3」[一陣の風](2013/09/20 18:02)
[8] 「 28  Times Later   エピローグ 」[一陣の風](2013/09/20 16:52)
[9] 「 The only Neat Thing to do 」  前編[一陣の風](2014/07/21 23:47)
[10] 「 The only Neat Thing to do 」  中編[一陣の風](2014/07/21 23:52)
[11] 「 The only Neat Thing to do 」  後編[一陣の風](2012/04/29 11:39)
[12] 「The only Neat Thing to do 」 エピローグ[一陣の風](2012/04/29 13:06)
[13] 「銀河マーチ」 前編[一陣の風](2013/02/25 19:14)
[14] 「銀河マーチ」 中編[一陣の風](2013/03/20 00:49)
[15] 「銀河マーチ」 後編[一陣の風](2013/09/06 00:10)
[16] 「銀河マーチ」 エピローグ[一陣の風](2013/10/18 22:31)
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[25391] 「 The only Neat Thing to do 」  前編
Name: 一陣の風◆ba3c2cca ID:8350b1a5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/07/21 23:47
 【 一陣の風。春の、ひとりチャンピオン祭り。vol-4 】


 やっべ! とっくに終わっちまった!

それではしばらくの間、お付き合いください。



 ><><><><><><><><><><><><



「宇宙海賊ぅ?」
「ハデに行くぜ!」
「モーレツゥ~」


 第九話 「 The only Neat Thing to do 」 前編



 ー宇宙海賊

後年。
この名を聞いた、ヤン・ウェンリーは「懐かしい」と述懐したとされているが、それはこの時の俺も同じ思いだった。

「失礼。今、宇宙海賊と言われましたか?」
やっぱり俺と同じ思いだったらしいムライが、戸惑ったように聞き返す。

「そうだ。今回の君達の任務は、宇宙海賊の発見と撃滅にある」
シトレ中将 ー俺達の上官 は、ことさら重々しく告げた。
「今の時代に宇宙海賊だなんて、本当ですか?」

「これを見てくれ」
ムライの問いには直接答えず、シトレが後ろを指差す。
シトレの背後の壁が輝きだす。
「最近、単独航行中の商船が襲撃される事件が多発している」
パネルに映し出されたグラフを見ながら、シトレが解説する。
「特にエル・ファシル宙域での遭難が増加傾向にある」
「そこに何か理由が?」
「詳しい事は分からん。
 だが前線に近いせいで我々の警備が手薄になっているのは事実だ」
「そのせいで襲われる船が増えた」
「ふむ」
「それが宇宙海賊の仕業だと?」
「少なくとも報告では、そうなっているな」
「報告では……ですか」

 ヤバイ!
 ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!

俺の頭の中で警報音が鳴り響く。
コイツが…石の狸(シトレ)がこんな言い方をする時。
その背後には、それ以上の「何か」が隠れている。

「政治的な圧力ですか?」

 うわっ!
言っちゃったよ、言っちゃったよ。
 この人。
言わなくていい事、言っちゃったよーぉ。

「ムライ少佐。君が何を言っているか、分からんね」
案の定、シトレは白い歯をほころばせて、小さく笑った。
  恐っ!
「まぁ確かに軍に対して、航海の安全と平穏を願う船主達からの嘆願書は届いているようだが?」

 ー 瞳の青い猫でも連れていきやがれ!

俺は思わずツッコみを入れる。
もちろん、胸の中だけでネ。

「だが、そんな一般企業からの要請で、軽々しく物事を決定する統合本部ではあるまい」
目、笑ってないし。言葉の端々に毒を感じるし。
つまり、事実って事ですね。 やれやれ。

「それにだ……これは極秘情報なのだが……」
ホラ。まだあった。

「近々、エル・ファシルに対して、帝国軍の大規模な軍事作戦が行われるらしい」
フェザーンからの情報だな。
俺は原作知識を思い出す。 
奴等はそうやって相互に情報を流し、帝国と同盟を常に均衡させようとするのだ。

「そこで大規模な輸送船団が送られる事になった」
そんな俺の思考に気付くハズもなく、シトレは話を続ける。

「その輸送船団が今日から二週間後、出航する。
 それまでにこの宙域の安全を確保しなければならない」
「それなら、ちゃんとした艦隊を派遣すれば……」
「艦隊司令部によると、帝国軍の侵入に備えるのが精一杯との事だ」
「そんな無責任な……」

「グエン少佐に命じる。
 所定の戦力をもって、ただちにエル・ファシル星域に急行し、
 今から二週間以内に同宙域の脅威を排除し、
 もって輸送船団の安全なる航海を確保せよ」

『ぷいにゅ~』
と答える訳にもいかず、俺とムライは敬礼し拝命した。
そんな俺達にシトレは、やっぱりその褐色の顔から白い歯をこぼれさせ、微笑んだ。

 悪魔に見えた。


 ****

とりあえず、いろいろな事情を端折って一週間後。
俺は宇宙空母「サン・ミケーレ・アイランド」の艦長として、エル・ファシルにほど近い宙域を遊弋していた。

 いきなり墓地の島かよ!

「サン・ミケーレ・アイランド」は、搭載機数40機を誇る「リュウジョウ」級、宇宙空母の三番艦。
ちょうどワシントン級と、ホワンフー級の中間に位置する軽空母だ。
これが今回、俺に与えられた「所定の戦力」だった。
艦歴30年を超える彼女、ただ1隻が。


「少佐。こんな任務、さっさと終わらせて、ハイネセンに帰りましょう!」
朝食時。
副官のトリューニヒト中尉が、ぷりぷりと怒りながら俺に言った。

「どうかしたのかね。中尉」
律儀に目玉焼きを切り分けながらムライが訊ねる。
「私の部屋のシャワー。壊れてるんです。途中から水になったり出なくなったり。
 それにベッドのスプクリングが悪くて、寝返りを打つ度に嫌な音、立てるんです」
「うん。まぁ、築30年だからねえ……」
「それだけではありません!」
俺の曖昧な答えを無視して、トリューニヒトは叫ぶ。

 オヒオヒ。空気ヨメ。

「艦内はあちこち錆が浮いてるし、一部じゃ漏水してるし。
 トイレの便座は旧式だし。何故か髑髏マークの板張り廊下があるし……
 つか、そもそも。
 宇宙戦闘艦で漏水とか、板張り廊下ってなんなんですか!?」

ぜは~せは~ぁ、と。
息をつきながらトリューニヒトは一気に言った。

「何故、こんなオンボロ船が、まだ第一線で使われているんですか!」
「オンボロで悪かったですなぁ……」
俺の横で低い声が響いた。
俺の箸から味噌汁の具である大根の切れ端がポタリと落ちた。
 
 はああ。やれやれ。

「確かにこの船はオンボロかもしれませんが、その分。
 主砲から機関の螺子釘1本に至るまで。我々は、その全てを把握しております」
「トクナガ大尉……」
髪が、すっかり抜け落ちた頭をツルリと撫でながら、機関長が言った。

「古いって事は、それだけみんながこの船の事を熟知してるって事だからねぇ」
「サド軍医?」
朝っぱらから一升瓶とトラ猫を抱え込んだ軍医長が、その豊満な胸を揺らしながら笑った。

「我々はこの船の事なら、旋回時の癖や加速のラグまで、全て分かってます」
「シィマ中尉」
生真面目な言い方で、航海長が言う。

「船はオンボロ。乗組員もみな、ロートル揃いですが、まだまだどちらも十分、ご奉公できますぞ」
「ゴダイ中尉」
凄みのある笑みを浮かべながら砲雷長が告げる。

この四人に、副長のアキノ大尉。
整備技術長のナサダ中尉。
通信長のアイバラ少尉。
それと空戦隊を率いる大尉を含めた八人が、空母「サン・ミケーレ・アイランド」の主要幹部だった。
ちなみに、司令兼艦長が俺。ムライは主計長。
トリューニヒトは、もちろん俺の副官って立ち位置。

サド軍医長と空戦隊々長を除く六人は、全員、俺より年上で…とゆうより。
正直、俺の親とそう変わらぬ歳の、いわゆる「ベテランさん」ばかりだった。
つまり、それはー


「だからサァ、副官殿。ここはハイネセンの高級ホテルじゃないんだからぁ、多少の不備があっても、気にしない。気にしない」
そう言うとサド大尉は、赤い髪をなびかせ、ガハハハーと笑った。
この軍医長殿。
公式記録の年齢記載がファイル上から削除されているという、ありえない状況で……
いったい、どうやったんだか。つか、いいのかそれ?

 うん。黙ってれば結構、美人だと思うのになぁ……胸もでかいし。

「まぁまぁ、中尉。予算的な事もあるし、ある程度は我慢しなければ」
「そうそう。軍人たるもの、質素・倹約に努めなければな。我慢、我慢」」
俺の言葉尻を取って、また軍医長が大きな声で笑った。

 嗚呼。頭痛が痛い。


 ****

「まったく朝から酔っ払って、なんなんだ、あの女はっ」
艦橋に戻ってもまだ、トリューニヒトは文句を言っていた。

「船は廃艦寸前。乗組員は右を向いても左を見ても、みな老兵ばかり。
 こんな戦力で海賊退治をやれとは、シトレ提督はいったい何を考えているのでしょう」
「あらあら……」
「中尉。君は何故こんなボロ船と老兵が前線に出てると思う」
「司令?」

 ああもう、しょうがねぇなぁ……

「それはな、同盟がこの戦争に負けかけているからだ」
「グエン司令。何をおっしゃるんですか!」
俺の言葉にトリューニヒトが色をなす。

「一艦といえども、戦闘艦を率いる司令官が、そんな敗北主義者のような事をおっしゃるとは」
「だがな、中尉。残念だがそれは事実だ」
「ムライ少佐……」
「若い兵士達はみな、前線へ出る。それはしょうがない。けれどそれなら後方はどうだ。
 警備業務にしても輸送業務にしても、従事している兵。いや指揮官の年齢でさえ、徐々にその年齢は高くなっている。
 兵站は前線よりも重要であるハズなのに」
「つまり俺達は、ボロ船や老兵を使わなければ前線を支えられないー って事だ」
「それは……」

「それにな、中尉。これは政治の問題でもある」
「政治の?」
トリューニヒトの目が細まる。
近い将来。政治家に転身する予定のトリューニヒトとしては、聞き捨てならない言葉(フレーズ)なのだろう。
「どうゆう意味ですか?」

「多少の事だ」
「多少の事?」
「そうだ。軍事産業と政治家の『多少の事』が同盟を滅ぼす」
「利益を上げたい軍事企業が多少の性能の劣った兵器を納入する。
 利益を得たい政治家が多少の報酬を受け取り、多少の便宜を図る。
 その多少の便宜で多少の性能の劣った多数の兵器が納入される。
 その多少の兵器で多数の兵士が死ぬ。多少の事のせいで」
「……………」
「その穴を埋めるために。ここの連中は戦っている」
「老兵と。ボロ船と言われながらも戦っている」
「……………」

「なあ、トリューニヒト」
「はい・……」

「後方業務にこんなボロ船や老兵達が努めている理由。
 それは突き詰めていえば、そんな『多少の事』のせいだ。
 自分達の多少の利益を得るために、多数の兵士達の命を考えない、多少の企業のせいだ」
「そして、それを許す、多少の政治家のせいだ」
「シビリアン・コントロール。それは民主主義には絶対なものだ。
 だから。だからこそ……」
「だからこそ、貴様が政治家になった時に、その『多少の事』を忘れないでもらいたい」
「ムライ少佐。グエン少佐……」
「って、ことで許していただけませんか?」
俺は傍らに立つ人物に声をかけた。

「ほっほっほっ。ごめんなさい。気を使っていただいて」
穏やかな笑い声が響く。

「中尉さんもごめんなさいね。決して、そんなつもりはないのよ。
 ただ私達、年寄達が戦う理由を、多少でも分かってもらえたら、とっても幸いね。ほっほっほっ」
そう言ってアキノ副長は、優しく微笑んだ。


「失礼します」
「ザキ」
「がくっ」
「司令!?」
「ああ。いや、ごめん。大丈夫だ」
つい死んだふりをしてしまった。

「……これが索敵計画です」
冷ややかな眼差しで空戦隊々長が差し出すディスクを受け取って、トリューニヒトがコンピューターを起動させる。
俺の目の前に、立体的な映像が現れた。

「我々の現有戦力は40機。予備を入れても45機しかありません。
 そこで合理的な索敵を行うには……」
身をかがめる彼女の黒髪が俺の鼻先をくすぐる。


 ザキ・バシュタール大尉。
第8独立空戦隊を率いる、パイロット。
細身の体。長身。切れ長の瞳。薄い唇。
無重力空間でそれはどうよ? ーと、思う程の腰まで伸びた長い黒髪。

けれど、そんな彼女を何よりも印象付けるのは、その額の傷。
十文字に刻まれた、額の深い切創痕。

帝国からの亡命貴族の娘であったザキ大尉は、とある事件に巻き込まれ、スパイ容疑をかけられた事があったという。
 その時。
彼女は、自身の潔白と同盟への忠誠を示すために、自らその額にナイフで押し当て、十文字の傷を刻んだという。
俗に「バシュタールの悲劇」と呼ばれる、壮絶なエピソードの持ち主。

また、その凄まじい空戦機動から「宇宙が静止する刻」(彼女のスパルタニアン以外は、止まって見える)
とまで言われる操縦技術の持ち主。
そしてまた、ひと癖もふた癖もあるパイロット達を心酔させる、その「The Wounded Lion(傷だらけの獅子)」と称される、クールビューティーな顔立ち……

第4次イゼルローン攻略戦時に、パストーレ艦隊で無謀ともいえる突撃を共に敢行した戦友。
今回、配属先が空母と知れた時に、たまたま訓練中であった彼女の部隊を「今更、他の奴と戦えるか!」
と、ばかりに無理矢理、引き抜いてきたのだ。

「司令……」
そんな彼女が皆川純子ばりの声で呟いた。
「う、ああ?」
あわてて俺は戻ってくる。
「この計画で許可していただけますか?」
「うん。あ~その。えと……」

 いかんいかん。
ついその傷跡に見とれていたとは、口が裂けても言えねぇ。

「隊長さん。ここと、ここの索敵線。もう少し詰めないと、燃料に余裕がなくならない?
 もし万が一の事があった時に、心細くないかしら」
「ああ。確かに。ありがとうごさいます、グランマ。流石は伝説の大妖精ですね」
「あらあら」
「大妖精?」
「なんだ貴官は知らないのか?」
ザキが冷ややかな視線をトリューニヒトに向ける。

「この方は総撃墜数400機を誇り『全ての妖精(パイロット)達の母=グランマ』とも呼ばれる伝説的な女性なんだ」
「伝説の大妖精……」
「元、よ」
ほっほっほっー とアキノ副長は笑う。

「いずれ時間が空いた時に、是非とも搭乗員室においでください。
 皆、グランマのお話しを聞きたがっています」
「うふふ。こんなおばさんのお話しで良ければ喜んで」
「はい。ありがとうございます」

「よし。それじゃあ大尉。その修正案でもって索敵を実地してくれ」
「了解しました」
そう言うとザキ大尉は、見惚れるような敬礼をして去っていった。


「副長が伝説の大妖精……」
「ついでに言うとな、中尉」
惚けるトリューニヒトに、俺は言い足す 。

「この船の各科長は皆、その筋では名を知られた連中ばかりだ。
 それこそ『神様』扱いされる程の。
 けれど、出世より現場を選ぶ。そんな頑固で匠な連中ばかりなんだ」
「……………」
「だから迂闊な事、言ってると、後が怖いぜ?」
「!?」
トリューニヒトは震え始めた。

「でも何よりも恐いのは……」
俺は小さく独り言ちる。
そんな中に俺達のような「若造」を放り込んだ、シトレの思惑だったりするのだが……


 ****

「輸送船SY-3より入電! メイディ・メイディ・メイディ。
 ワレ正体不明ノ艦船ヨリ、攻撃ヲ受ケツツアリ! 位置ー」
通信長の声がスピーカーから響く。
「総員戦闘配置。空戦隊、出撃準備。航海長っ。該当宙域まで全速前進!
 機関長、出力一杯くれ! 通信長。エル・ファシルの司令部に状況を伝えよ」
俺は次々と命令を下しながら、艦長席に駆けつけた。

「司令。先行偵察と情報収集のために、待機中のスパルタニアンの緊急発進を進言します」
「副長の進言に感謝。飛行長、いけるか?」
「はい、艦長。 緊警隊の四機、即応します。技術長。願います」
「分かった。1分後に発艦シークエンス開始だ」
「こちら砲雷長。総員戦闘配置完了」
「艦橋、了解」
俺はそっと時計を見る。
総員戦闘配置を命じてから、3分半。 うん。やるじゃん。

「こちら機関部。出力120%。ただし全力発揮は30分だけです。
 それ以上は機関が爆発します」
「了解。スパルタニアンが発進すれば、すぐに原速に戻します」
「エル・ファシル司令部に通信完了」
「通信長。その後、SY-3からの連絡は?」
「メイディ以外の通信はありません」
くそ。敵戦力の通報くらいはあっても良いじゃないか……


「スクランブル。ホット・スクランブル! スパルタニアン緊急発進」
「シィン。ゲン。オーレン。ポリス。頼むぞ」
「『 アイ・ショーティー! 』」
軽い衝撃と共に、四つの光点が飛び出してゆく。

スパルタニアン、1コ小隊は通常3機編成だが、第8独立空戦隊はそれを4機で編成していた。
いわゆるロッテ?

「機関原速に戻せ」
「了解」
「やあ、艦長。状況はいかがですか?」
殺気立つ艦内の空気にも関わらず、サド軍医長がのんびりと現れた。

「軍医長。こんなトコで何、油売ってんですか」
「うん? ああ。もちろん医療科の準備ができてるよ~ 
 でもサ。それって駄目じゃん」
「は?」
「私が忙しいってコトは、この船にとって、あんまり良い事じゃないじゃん?」
「…………」
「だから私は極力、のんびり、ぶらぶらさせてもらうのサァ」

「ったくもう……」
 ーにゃはははは 
と、笑いながら、ふらふらと歩み去って行く彼女の背中に、トリューニヒトがやっぱり苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「まぁまぁ。中尉。そう怒るな」
「司令」
「彼女はこの艦のシビリアンだ。バカな事も言うが、俺達、兵学校出では思いつかんような鋭い事も言う。
 彼女を型にはめるな。はめればきっと、つまらん奴になる」
「…………」

「確かにその意見にも一理あるが、あの態度は関心せんな」
Mr.「秩序」が現れた。
「一度、貴様からちゃんと注意し給へ」
俺は、ダメージを受けた。
「俺、あのタイプに弱いんだよね」
俺は逃げ出した。
「その態度にも関心せんな」
だが回り込まれてしまった。
「部下の秩序を保つのも、上官の職務のひとつだと思うが?」
「……ごめんなさい」
GAME・OVER。それ以降、勇者の姿を見た者は誰もいなかった。しくしく。

「まあ。冗談はこれくらいにして」
冗談かよ! コイツ、マジ性格変わってきてネ?
「主計科。救護及びダメコン班の編成完了。現在、各ブロックで待機中」
「了解……ハァ」
俺はサイ(タメ息)を付くしかなかった。


 ***

「こちらブルーセクション・リーダー。当該宙域に到着」
「シィン少尉。状況送れ」
「輸送船SY-3を発見。動力停止。敵に囲まれています」
「敵戦力は?」
「……敵戦力、タナトス級巡航艦x1。カルディア級駆逐艦x2」
「タナトス級とカルディア級って……味方の船ではありませんか!?」
トリューニヒトが叫ぶ。

「味方が海賊船に? なぜ……」
「中尉。考えるのは後にし給え。輸送船を助けるのが先だ。だが……」
「ふむ。数が多いな。この船だけでは、ちとキツイか」
「あらあら。それでも……」
「ええ。副長。それでも、やらねばなりません」

「総員に告げる。間もなく会敵する。敵戦力は、巡航艦x1。駆逐艦x2だ」
低いどよめきが起こる。
誰もが激戦を予想しているのだ。

「確かに戦力的にはこちらが不利だ。
 だが、こちらには貴君等がいる。
 質はこちらの方が遥かに上だ。
 ベテラン諸氏の健闘に期待する」

「こちら機関部。いつでも全力発揮可能」
「こちら砲雷撃部。お任せあれ」
「通信部。ジャミング。いつでもいけます」
「航海部。どんな操艦でも命じてください」
全員の背が伸びたような気がした。

「医療班だよ~みんな私を頼らないでねぇ~」
最後のその軍医長の台詞に、副長が苦笑し、ムライとトリューニヒトが顔を歪ませる。
小さな笑い声が艦内に響いた。

 よし。やれる!

「ザキ大尉。空戦隊全機出撃。まずはこちらが先制する。
 巡航艦は任せて、そちらは警戒中の駆逐艦を頼む」
「アイ・アイ・サー。いくぞ、野郎ども!」
「イエス。ボス!」

 美しい航跡を残しながら、妖精達が宇宙(ソラ)を駆け抜けて行く。

「機関長。第一戦速。航海長。艦を巡航艦の真下に着けよ。
 通信長。ジャミング開始。砲雷長。まずはミサイルで先制する!」
「『 アイ・アイ・サー 』」

宇宙空母は亀のようなものだ。
腹はスパルタニアンの発艦のため、脆弱にできている。
逆にその分。正面と背中の防御は硬い。
だから俺は航海長に「下に潜れ」と命じたのだ。
つまりそれはー

「接近戦ですか?」
「ああ。こちらは一隻だしな。遠距離交戦では数が劣るこちらが不利だ。
 奇襲的な接近戦での速攻。それしかない」
「はぎゅぎゅぎゅ」
トリューニヒトが真っ赤な顔で、ハムスターのような息を呑む。
「やれやれ。お前と一緒だと、命がいくつあっても足りないな」
ムライが変わらぬ口調で言う。
「あらあら」
副長が、さも面白そうに微笑んだ。



「ところでドールトン嬢は今、どうしてるんだ」
はあ?
こんな時になんだ? このロ○コン少佐。
「ああ。スクールの友達ん家に泊まってる」
「施設じゃないのか?」
同盟軍では、出征する親を持つ子供の為に、無料で寝泊りできる宿舎が用意されていた。
けれど。

「なんかすごく仲の良いクラスメイトがいるんだと。
 んで、その親も軍人で、俺が任務中の時、ドールトンの面倒は、その人が全部て見てくれるらしい」
「そうなのか」
「なんかキャンプ気分で、その子と毎日、楽しく過ごしてるらしいぞ」
「うむ。それなら十全だ」
したり顔で頷く、ロリ○ン少佐。 困ったモンだ。
「なら貴様も元気で帰らないとな」
「は? お前、何言ってんの?」



「敵艦見ゆ!」
「オールウェポンズ・フリー!(全兵器使用許可)
 オープン・コンバット!(戦闘開始)
 オープン・ファイアー!(撃ち方始め) 
 オープン・アタック!!(やっちまえっ!)」 


 爆光が揺らめいた。




              「中編」につづく(ヤッパリネ✩


*作中の艦船に関する記述は「銀河英雄伝説フリバト!」を参考にさせていただきました。
*また「板張り廊下」ネタは、闇の皇子さまからパクりました。相変わらず、使い切れてはいませんが。 ありがとうございました(オヒ!



 ><><><><><><><><><><

アルカディアよ! 私は帰って……ごめんなさい(平伏
すいません。すいません。
やっぱりこれが一陣の風のクオリティ(限界ともゆふ)

しかもタイトルを読めば、その後の展開が丸っぽ先読みできる。
そんな稀有な作品です(鹿馬
あっ。でも野暮なことは言いっこなしですぜぇ。旦那様方(大鹿馬


どうかみな様。お見捨てなく、温い長い目で読み続けていただければ、これに勝る幸せはありません。
いわゆる私は、大きな薬罐のような人……(激鹿馬

それではこれからも変わらぬご贔屓の程、よろしくお願いします。


それから本作品はいわゆる「クロスモノ」ではありません。 決してありません。
そんなモジカラ。私にはありません。
ツッコみドコロは……宝庫?(弩阿呆


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