<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.25391の一覧
[0] 【チラ裏からきました】 「銀トラ伝」 銀河英雄伝説・転生パチモノ[一陣の風](2013/09/22 13:53)
[1] 「第4次 イゼルローン攻略戦   前編」[一陣の風](2013/09/20 15:12)
[2] 「第4次 イゼルローン攻略戦  後編」[一陣の風](2013/09/20 19:02)
[3] 「 28 Times Later  前編 」[一陣の風](2013/09/20 15:27)
[4] 「 28 Times Later  中編」[一陣の風](2013/09/20 15:30)
[5] 「 28 Times Later 後編  part-1」[一陣の風](2014/07/21 23:09)
[6] 「 28 Times Later 後編 part-2」[一陣の風](2013/10/09 23:13)
[7] 「 28  Times Later 後編 part-3」[一陣の風](2013/09/20 18:02)
[8] 「 28  Times Later   エピローグ 」[一陣の風](2013/09/20 16:52)
[9] 「 The only Neat Thing to do 」  前編[一陣の風](2014/07/21 23:47)
[10] 「 The only Neat Thing to do 」  中編[一陣の風](2014/07/21 23:52)
[11] 「 The only Neat Thing to do 」  後編[一陣の風](2012/04/29 11:39)
[12] 「The only Neat Thing to do 」 エピローグ[一陣の風](2012/04/29 13:06)
[13] 「銀河マーチ」 前編[一陣の風](2013/02/25 19:14)
[14] 「銀河マーチ」 中編[一陣の風](2013/03/20 00:49)
[15] 「銀河マーチ」 後編[一陣の風](2013/09/06 00:10)
[16] 「銀河マーチ」 エピローグ[一陣の風](2013/10/18 22:31)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[25391] 「銀河マーチ」 エピローグ
Name: 一陣の風◆fc1b2615 ID:e1de2eae 前を表示する
Date: 2013/10/18 22:31
風がそよぎ、花が咲き乱れ、蝶がてふてふと舞踊る。
柔らかな日差しがふりそそぎ、澄んだ空気が満ち溢れる。
まるで天国のような情景だった。
悲鳴が上がる。


 第 16 話 「銀河マーチ」 エピローグ


「パパ、ママ!」
イヴリンを、ウィリアムとアネットは抱きしめる。
無言で我が娘を抱きしめる。
優しく微笑みながら愛する我が娘を抱きしめる。

「どうする、お嬢さん」
あの紅いイヤリングの少女が訊ねる。
無表情に。感情のこもらぬ静かな声で、訊ねてくる。

「ここでこうして、大好きなご両親といつまでも過ごす? それとも元の場所に帰る? それとも……」
冷たい声で言い放った。

「ウチと一緒に船に乗って、河の向こうに行く?」

 ー KEKEKEKEKEKEKEKeeeeeeeee!
 ー ギッシャァァッァーーーーーーーーーア!

ウィリアムとアネットが変化した。
突然に。瞬きひとつする間に。
優しく微笑んでいたふたりが、醜く凶悪でおぞましい怪物に変化した。
イヴリンの悲鳴が上がる。


 ****

椅子が飛び、机が砕け、ボードが裂ける。
床が崩れ、天井が落ち、壁に大穴が開く。
もうもうとした埃が舞い上がり、息を詰まらせる。
まるで地獄のような情景だった。
悲鳴が上がる。

「なんであんなモンがあるんだ!」
俺はその、まるで「ロボット・ハ○ク」のような形状をしたパワードスーツを見て怒鳴った。
「あれはもう軍では使っていないタイプですね。旧式です。中古品でしょう」
もうもうたるダストの中で叫ぶ俺に、シェーンコップが憎たらしい程の冷静さで答える。

「旧式であろうが、中古であろうが、あのガトリングガンのパワーは半端ないぞ!」
俺達がバンデルの所へ踏み込んだ時。俺達を出迎えてくれたのは、一機のパワードスーツだった。
パワードスーツ自体は、そのコストの割りには戦力になりにくい……なにせ、一発のRPG(携帯式対戦車擲弾発射器)で行動不能になる。
機体は無事でも、その衝撃で中の人間が持たないからだ。故に運用が難しい。
さらに生産。運用。整備コストがバカ高い。 それなら戦車か装甲車をたくさん作った方がマシ。 って事で。
軍では第一線を引き下がって久しい。
だが、バンデルは何処かで中古ながらパワードスーツを手に入れ、稼働させているのだ。 

「いひゃひゃひゃひゃひゃああああ!」
外部スピーカーから、耳にさわる、甲高い奴の声が聞こえてくる。
「お前らみんな、皆殺しだぁ! きひゃひゃひゃひゃ!」

 - ブオォォォォォォォ! と。

手にしたガトリングガンが乱射される。
室内はまるで爆発したかのように、崩されていく。
部屋の隅で、ダンゴ虫のように縮こまったリンチが、子供のような悲鳴を上げる。

「くっそー! こんな事ならマジでRPGを持ってくるんだった」
「そんなモン、こんな室内で使ったら、バックブラストで俺達の方が危ない」
苛立たしく叫ぶ俺に、やっぱり冷静にシェーンコップが答える。

「んなこと言ってもなぁ、少尉さん。これじゃ身動きとれねぇぞ!」
再びガトリングガンが鳴り響き、壁が崩れる。
「弾切れを待つわけにもいかないし……」
「私がうって出ます!」
「おいおい、無茶言うな」
いくらシェーンコップでも銃弾より早くは走れない。
あれ? でもしかし、ここでも彼は死ぬハズはないのかな? かな?

「ザキ大尉。トリューニヒト大尉。聞こえますか?」
俺のそんな深慮に構わず、シェーンコップが二人に話しかける。
「聞こえてるわ」
「聞こえてるぞ、少尉」
それぞれ別の場所の身を隠している二人が、それぞれに答える。

「二人とも私の合図でスタングレネードを奴に向かって放ってください」
「おいおい。いくらスタン弾でも、パワードスーツにはきかないぞ」
「一瞬、気をそらせればいいんです。その隙に私が飛び出します」
「だからぁ、いくら君の戦斧が優れていても、アレにはきかないってばよ」
「分かっています」
「へ?」
俺の間の抜けた返事に、シェーンコップは凄みのある笑みを浮かべた。

「本命はあなたです」
「俺?」
「奴が私に気を取られている隙に、あなたのその銃で……」
シェーンコップは俺の手にする愛銃、コルト・パイソン357マグナム 6inを指差した。

「奴のモニターを。目を潰してください」
「できるのか?」
「マグナムなら貫通はできなくとも、ひび割れや機能不全を起こす事ができます」
「……分かった。任されよっ」
俺はパイソンを握り締める。

「いきますよ。3.2.1…Now!」



 ****

 ー KEKEKEKEKEKEKEKeeeeeeeee!
 ー ギッシャァァァァァッァーーーーーーア!
  
ふたりは……二匹の怪物は威嚇するように声を上げる。
「パパ…ママ……」
立ち尽くす我が娘に、二匹の怪物は吠え立てる。
身を震わせ、地響きを立てながら吠え立てる。

「パパぁ…ママぁ……」
そんな怪物に。醜悪な怪物達に。
イヴリンはゆっくりと近づいていく。
泣きながら、ゆっくりと近づいていく。

 ー KEKEKEKEKEKEKEKeeeeeeeee!
 ー ギッシャァァァァァッァーーーーーーア!

二匹は突きつける。
母であった怪物は、白く尖った針のような手を。
父であった怪物は、緑の刀のように硬い手を。
我が娘に突きつける。
拒絶するように。
突き放すように。
突きつける。

けれどイヴリンは、そんな二匹に近づいていく。
ゆっくりと。けれど、しっかりとした足取りで近づいていく。

 ー KEKEKEKEKEKEKEKeeeeeeeee!
 ー ギッシャァァァァァッァーーーーーーア!

二匹の怪物の手が、イヴリンのすぐ前に突き出される。
けれどイヴリンは臆する事なくその手に己が手を重ねた。

「ありがとう」

 ぽろぽろと。
泣きながら。涙をこぼしながら。
イヴリンは二匹の手を握る。
まるで針のように鋭利に尖った、白い母の手を。
まるでナイフのように鋭く硬い、緑の父の手を。

「パパ。ママ。 私を怒ってくれて、ありがとう」
ふたつの手に頬を擦り付け、愛おし気に呟く。

「私の事、怒ってくれて。 叱ってくれて、ありがとう……だから……だから、ごめんなさい」
しゃくりあげながら、イヴリンは言う。

「私、帰るから……ちゃんと帰るから。 あの場所へ。 あの時へ。 ちゃんと帰るから」

 そしてー

「ちゃんと生きるから」

 『 生きる 』
それはあの時。あの場所で。
ふたりがイヴリンに伝えた言霊。
大切な我が娘に最後に伝えた言霊。

「私、ちゃんと生きるよ。
 大切な人達が待ってるから。みんな心配して私を待っててくれるから。それから……」

イヴリンは満面の笑みを浮かべると、ふたりにきっぱりと言い切った。

「大好きな人待ってるから!」

気が付けば。父と母がいた。
ウィリアム・ドールトンとアネット・ドールトンがいた。
穏やかな表情を浮かべた、父と母がいた。
ふたりは優しくイヴリンを抱きしめる。
その髪をなで、その涙をぬぐいながら、優しく温かく抱きしめる。

「だけど…だけど今だけは……ほんの少しでいいから。 パパとママとこうしていさせて……」
泣きじゃくるイヴリンを、ウィリアムとアネットはー
父と母は優しく抱きしめた。



 ****

 - BAZoooooooooM! と。

スタン弾がパワードスーツの近くで炸裂する。
衝撃と大音響が、一瞬、奴をひるませた。

「おりゃ!」
とばかりにシェーンコップが戦斧を振りかざし飛び出す。
あわてて向き直ったパワードスーツが発砲する前に、シェーンコップは一撃を叩きつけた。
だがー

 - ぎゃいいぃぃぃぃぃん

鈍い音と共に戦斧は弾き返される。

「ひひゃははははぁ。ムダムダムダァァァァァァァ! 自由惑星同盟の技術力は、銀河いちぃぃぃぃぃい!」
バンデルが声高く叫ぶ。
「我が愛機の力が、お前と一緒だと思ったら大間違いだぞ! なめんじゃねぇぇええええ!」
あろうことか、バンデルはパワードスーツでシェーンコップにつかみかかろうとする。
あんなモノにつかまれたら、生身の体なんざ、簡単に引き裂かれてしまう。

「少佐、今です!」
「おお!」
その手をかわしながら、シェーンコップが叫んだ。
俺は踊りだすように飛び出ると、狙いを定め撃ち放った。

「おんどれぃ! イヴリンの仇じゃ!! 往生せいや!!!」
そう叫んでいたらしい。
本人はぜんぜん覚えてないけどなっ。
ともかく俺は、怨みと怒りと憎しみを込めて全弾、パワードスーツの顔面に叩き込んでやった。

「くわ!?」
バンデルが悲鳴を上げる。
全弾命中!
貫通こそしなかったものの、着弾の衝撃はモロ、奴の頭を揺さぶったハズだ。

「モニターがっ。目がっ。目がぁぁぁぁああ!」
思わず「バ○ス」と叫びそうな勢いで、バンデルはバルカン砲を乱射し始める。
正面モニターは見事にひび割れ、真っ白になっていた。

「ぐわああああああああ!」
それはもう、狙いもなにもない、ただ弾をバラまくだけの出鱈目な射撃だった。
「ひいいいい。くそっ。どこだ! どこだあああああ!」
引き金を引きっぱなしの連射。 弾がもつハズもない。
三分もたたないうちに、バルカン砲は沈黙した。

「くうう、く、来るな、来るなぁぁぁ!」
最早、冷静な判断もできないのか、ただその中にいれば安全なのに、奴は頭部のハッチを開放して顔をだす。

 - おいおい。戦車長の小銃弾による死傷率が高いのは、そうやって頻繁に顔出すからだよ。

「ふん!」
シェーンコップが必殺の一撃を叩き込む。 だがー
「きぇぇぇい!」
「なに!?」
その一撃をバンデルは人間離れした瞬発力で受け止めた。
いわゆる「真剣白刃取り」ってヤツだ。

「ふひ…ふは……ふはははははぁ。 残念だったなぁ、話し相手が居なくなって……」
「なに言ってんの、コイツ」
「今日のところは引いてやる。 だが今度会った時は…その時が、お前等の最後だ!」
言うだけ言うとバンデルは「ひひゃひゃひゃひゃっ」と笑いながら、戦斧ごとシェーンコップを放り出し、バーニアを吹かして飛び上がる。

「に、逃がすなバカモン! 何をやっている!!」
相手が逃げ出す段になって、ようやく勇気がわいたのか、リンチが立ち上がりながら叫んだ。
「さらばだ。背徳主義者ども! 星の裁きがいずれ貴様等に。 きひゃひゃひゃひゃあああ!」
「ま、待て!」
もちろん、そんなリンチの命令に従うハズもなく、バンデルのパワードスーツは飛び上がり、空の彼方に飛んで行……かなかった。

 - ゴズっ

飛び上がった途端。
バンデルのパワードスーツに、グランマの乗ったスパルタニアンが激突する。

「げぼおおおおおおおおっ」
バンデルが悲鳴を上げた。

何度も言うが、厚い装甲に守られたパワードスーツでは、着弾で中のパイロットが負傷する事はない。
けれど、その振動はモロに伝わる。
だから高速で激突したスパルタニアンの衝撃は、そのままダイレクトにバンデルに伝わったハスで……
うん。あれは相当に痛い。

「うふふ。まだまだ」
そのまま、スパルタニアンは縦に一回転。
ポーンと、パワードスーツを空高く放り投げる。 そしてー

「あらあら。トドメよ」
今度は横方向に360度の急転回。 狙いは正確。
落ちてきたパワードスーツをまるで、ゴールポストに蹴り込むように、地面に向かって弾き飛ばした。

「こんな重力下であの動き……スゴい」
ザキが感嘆するように呟いた。
同じくその機動を見ていた、第8空戦隊のパイロット達も震えながら頷いている。

 - ひゅるるるるるるぅぅぅぅぅ~ と。

パワードスーツが落ちてくる。
「ぎゃあああああああ!」
もう立て直す事もできないのか、バンデルの悲鳴と共にパワードスーツが落ちてくる。 そしてー

 - ドンがらがっしゃぁーーーーーーーーーん!

古典的な音を響かせながら、目の前のカンポ(広場)に墜落した。



 ****

「そろそろ時間だよ、お譲さん」
少女が声をかけてくる。
明るいブラウンのショートカットな髪。
どこか儚げで、けれど全てのモノを見透かすかのような、清んだ蒼色の瞳。
耳元の、その着ている服のラインと同じ色の、赤いスフィア(球体)なピアスを煌めかせながら、少女は言った。

「パパ……ママ……」
イヴリンはそっと体を離す。
もう一度、二人を強く抱きしめてから、ゆっくりと身を離す。

「もう行くね」
その目は赤く腫れ上がり、顔は鼻水で、ぐじゅぐじゃになりながらも、イヴリンはしっかりと言った。

「今度会えるのがいつかは分からないけど、それまでは、バイバイ」
小さく手を振る。
一生懸命に手を振る。
そんな我が子に、ウィリアムとアネットも満面の笑みで答える。

「あ、それからー」
イヴリンが、いたずらっ子のように言った。

「今度会う時はきっと、彼も一緒だから」

 - ギッシャァァァァァッァア!

その台詞に、再びウィリアムが怪物化した。
イヤイヤをするように、激しく吠え立てる。

 -ばこっ
そんな怪物を、アネットが張り倒す。 容赦なく。 手加減なく。 後ろ頭を力いっぱいひっぱたく。
しゅるしゅると、ウィリアムが元に戻る。しょうんぼりとうなだれる。
そんな優しい父と母の姿に、イヴリンは心の底から笑い転げた。

「いいお父さんとお母さんだね」
少女が言う。

「うん。ふたりとも、とっても大好きなパパとママなんだよ!」
向日葵のような笑顔で、泣きながらイヴリンは答えた。



 ****

「ふん、やったぞ! テロリストを捕まえたぞ!」
いち早く駆け寄ったリンチが、動かぬパワードスーツに片足を乗せ、ガッツポーズをしながら得意気に叫んだ。
バンデルは壊れたスーツの中で頭から血を流し、身じろぎもせずにうつむいている。

「この国家の反逆者め! 薄汚いテロリストめ! 私の正義の鉄槌の力、思い知ったか!」
「彼、なにを興奮してるのかしら」
「さあ、きっと全てを自分独りでやったんだと思ってるんじゃないかい」
ザキの問いかけに、俺は憮然と答えた。

「ほら貴様等、何をやっている。さっさとコイツを引きずり出して拘束しろ。 くっくっくっ。これで私は……」
満面の笑みを浮かべる。 やれやれ…… だが。

「薄汚い反逆者は貴様等だあ!!」
突然、パワードスーツから生身で飛び出してきたバンデルが、リンチを羽交い絞めにした。
「私は愛国者なのだ。それも自由惑星同盟にとどまらず、全銀河の愛国者なのだ!」
「あいつ……」
リンチの首を締め上げるバンデルを見て、トリューニヒトが息を飲んだ。

うわ~頭がざっくり割れてるよ。
うわ~右目なんて潰れてるし。
うわ~左手の指、三本しかないよ。
うわ~両足、変な方向に曲がってません?

「まるで痛みを感じてないわ……」
ザキが呟く。

「ひっひゃひゃひゃひゃっ。そうだ私は愛国者。正義なのだ。私は神の身使いなのだ!」
「だ、ダジゲテぐれぇーーーーぇ!」
「クスリ……だな」
流れ出る血で真っ赤になったバンデルの顔と、首を絞められ紫色になっていくリンチの顔を交互に見ながら、俺は言った。

「サイオキシン、ですか……」
トリューニヒトが何かを思い出すかのように囁いた。

 サイオキシン。
それは銀河英雄伝「紙」上、最強最悪の麻薬。
使用すれば至極の快楽。人間離れした力を得、痛みも悩み悲しみも、その全てを消し去る神の薬。
だが使用し続ければ、廃人確実。体も精神も蝕み、苦痛の内に悲劇的な死に至らしめる悪魔の薬。
自由惑星同盟でも、銀河帝国でも流通し、その被害者を広げていた。
そんなクスリをバンデルは自ら打ち、己が力を覚醒させていたのだ。

 - だからあの時。シェーンコップの戦斧を、白刃止めで受け止められたのか……

「きひひひひっ。そうだ、報道班員を呼べ! テレビを呼べ! 神の……星の御心を聞かせてやる!」
「頼むぅぅ。タジゲテぇぇぇ」
「この虚像に満ちた、薄汚い世界の真実を。愛国の名の元に肥え太る政治家達の真実を」
「ぐえぇぇぇぇ」
「そんな奴等と軍部の癒着。正義の名を借りた排斥。暴力。神は……あの星はそんな事は許さない」
「ぎぎぎぎっぎぎぃぃ」
「全てを話してやる。いひひひひひっ。この世界の秘密。真実。本当の愛国者。神。殉教者。御心」
「………ぶくぶくぶく」
「さあ早く、テレビカメラを連れて来い、すべてを教えてやる。すべてを語ってやる。ぎひひひひ。そうだ。
 すべては、あの星のため。
 すべては、母の星のため。
 すべては、我等のマン・ホームのためにいいいいいい!」 

 次の瞬間。
音もなく頭上から降ってきたシェーンコップが、一撃でバンデルの頭を粉砕した。



 ****

「じゃ、行こうか」
「あ、でも。私、何処に行けばいいか分からない……」
少女の声に、イヴリンは戸惑ったように答えた。

「大丈夫だよ」
「え?」
「ほら。もう分かってるだろ?」
そう言うと、少女はイヴリンの右手を指し示す。

「これは……」
イヴリンの右手が光っていた。 まるで光が包み込むように、イヴリンの右手が輝いていた。
「暖っかい」
イヴリンは感じた。 感じていた。
右手に宿る暖かな何かを。優しく包み込んでくれる、暖かな何かを。

「その右手の感じるままに歩いてごらん」
少女が言う。
「そしたらちゃんと帰れるから」
人好きのする、その笑顔で言う。

「うん、ありがとう。 あっ、そうだ」
イヴリンは左手を少女に向かって差し出した。

「これ、お友達用に買ったリボンなんだけど、よかったらもらって」
左手で握り締めていた小さな紙袋を差し出す。

「いいのかい?」
「うん。いろいろお世話になったお礼」
「そうか……じゃあ、喜んでもらっておくよ。ありがとう」
「えへへ、良かった。でも……」
「ん?」
「ありがとう。って言うのは、きっと私の方だね」
そう言うイヴリンの頭を、少女は優しくなででくれた。



  - Vesperrugo,fluas enondetoj……

 歌が流れる。
右手に導かれながら。ゆっくりと歩いていく。
イヴリンは謳う。
父と母に別れを告げるように。
少女に感謝を伝えるかのように。

 - Super la maro flugas,ili flugas kun amo……

たくさんの花が咲き誇る地に、イヴリンの奏でる歌が響いていく。
それはまるで本当の天使の謳声のようで。

 光が満ち溢れていく。
そんな彼女の謳声に、光が満ちあふれていく。
そんな彼女を、まばゆい光が包み込んでいく。

 - Oranga cielo emocias mian spiriton……

イヴリンはそっと振り向く。
そっと、父と母を振り返る。
ふたりは寄り添いながら。柔らかな笑みを浮かべながら。
愛しげに。幸せそうに。
いつまでも。いつまでもすっと。愛する我が娘に手を振っていた。

 - Stelo de l'espero,stelo lumis eterne……

やがてイヴリンは光の中に溶けていく。
光に包まれ溶けていく。
何事かをつぶやきながら。
父と母に。そして、少女に。
何事かをつぶやきながら、イヴリンは光の中に消えていった。

 - Lumis Eterne………



「おい。そこの女っ」
少女に前に、突然、ひとりの男が現れた。

「ここは何処だ。俺は何処に行けばいい」
尊大に言い放つ男に少女は答える。

「ーっかあ。そこの舟に乗りな。ウチがきっちり向こう岸まで送ってやるからサ」
そう言うと少女は、赤い林檎を音を立てて噛み砕いた。



 ****

目を覚ます。
瞳を開ける。
最初に映ったのは、無機質な白い見知らぬ天井だった。

 - あれ? 転生?

「ドールトン? 気が付いたのか、ドールトン? おい。サド! 気が付いたぞ! サド! おい! サドぉ!!」
バタバタと誰かが何処かに走って行く音が聞こえる。
「騒がしい奴だ……」
軋んだような声がする。

「……グエンくん?」
「まったく……何をあわててるんだか……」
声の方を見る。
そこにはやつれ果て、目を真っ赤にしたグエンがじっとこちらを見下ろしていた。

「いつものアイツらしくない……」
そう言うグエンの声は震えていた。

 ふと。
右手に暖かいものを感じる。
目をやれば、そこには自分の手をしっかりと握りしめている、グエンの無骨な手があった。

「あのね、グエンくん。 パパとママに会ったの……」
「そう……なのか?」
驚いたようにグエンが聞き返す。

「うん。なんだかとっても綺麗な場所で、パパとママに会ったの」
「……ふたりは何か言ってたかい」
「ごめんなさい。よく覚えてないや」
「そうか……」
「でも」
「ん?」
「でもとっても楽しかった。とっても嬉しかった」
「……うん」
「きっと、とっても素適な刻だったんだ」

「それでも……ウィリアムとアネットは、ちゃんとお前を帰してくれたんだな」
グエンはかすれた声で。
まるでふたりに感謝するかのように呟いた。

「違うよ、グエンくん」
「んん?」
「私は自分で決めたの。大切な人がいるからって。待っててくれる人がいるからって。
 大好きな人がいるからって。自分で決めて帰ってきたの」
ドールトンはそう言い切った。
言ってしまった。 けれどー

「大好きな人……よしっ。今度そいつを俺の前に連れてこい。お前をちゃんと幸せにできる奴かどうか、この俺が見定めてやる!」
返ってきたのは、そんな台詞だった。

「はあぁぁぁぁ」
「どうした、ドールトン。大きなサイ(ため息)なんかついて。どこか痛むのか!?」
「ホントに痛いわぁ……あのさ、グエンくん」
「な、なんだ?」

 「謳ってよ」

突然、言った。

「はいい!?」
「ねぇ、グエンくんの歌を聞かせて」
「バっ…何を言って。お前まだ意識がちゃんと戻ってないんじゃないのか?」
「もう、グエンくん。お願い」
「う、歌は苦手だ……」
「うそ。私知ってるよ。グエンくんがよく歌を口ずさんでるの。だから謳って」

「いやその……お前の前で歌うのは……恥ずかしい」

 - お前のような謳姫の前で

「ううん。そんな事ない。 私、グエンくんの歌、大好き。 グエンくんの声、大好き。だから、お願い」

 - そんなグエンくんが私……

「グエンくん…ねっ」
ドールトンが甘えるように言う。
グエンはしばらく困ったように押し黙っていた。 が。

「……フレアが燃えてる。星が瞬く……」
意を決したように低く歌いだす。

「グエンくん?」
「みんな知らない、我らの世界だ…銀河を呼ぼう。銀河をつかもう。銀河のマーチを歌うんだ」

「ちょっと、グエンくん」
「空よりでっかい。空より蒼い……」

「もうっ。どうしてこんな時に謳う歌が『銀河マーチ』なの?」
口を尖らせながら抗議する。

「飛んで行こうよ、我らの世界へ。銀河を呼ぼう。 銀河をつかもう。銀河のマーチを歌うんだ」
「もっとムードのある歌。謳ってよぉ」
そんなドールトンを無視してグエンは歌い続ける。

「孤独じゃないんだ。君もいるんだ」
「ほんとに、もうっ」

「明日があるんだ。お前の世界は…………」
突然、その声が途切れた。

「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……グエンくん?」

「………………………………」
「どうしたの、グエンくん?」
だがグエンは答えず、ドールトンの手を握ったまま下を向いている。

「グエンくん。手、痛いよ」
「………………………………」

そしてドールトンは気づく。
その震える肩に。
その低く漏れる嗚咽に。

「…………泣いてるの?」
「………………………………」



 「……バカね」


「銀河を呼ぼう……」
謳声が響く。

「銀河をつかもう……」
小さな嗚咽に混じって、謳声が殺風景な病室に響きわたっていく。

「銀河のマーチを歌うんだぁ」
小さく。けれど力強く。
嬉しげな。楽しげな。

 天使の謳声が響きわたる。



 ****

 三ヶ月後

「朝ご飯、できたよー!」
そして元気な声も響き渡る。

まるで何かの贖罪のように。
まるで誰かの謝罪のように。

ドールトンは驚異的な早さで回復した。

「うーん。臨床のモルモット・サンプルとして、もう少しこのままデーターを取れないかしら」
豊満な胸を持つ危ない医者が、危ない台詞を言い放つ。
もちろん俺が退院許可がおりる前に、ドールトンを強制的に連れ帰った事は、言うまでもない。

 そしてー
「いただきます」 
みんなの元気な声も響きわたる。

「やっぱり食堂より美味いなあ」
「お誘いに感謝です」
「良い匂いだ」
「うまうま・まるまる~」
「あらあら。本当に美味しいわ」
「ひゃぐひゃぐひゃぐ」

「何故に増えとるぅぅぅぅぅぅ~ぎゃぶり! ぶぎゃああああああああ!」
「本当に毎日、毎朝。ここは楽しいですねぇ」
悲鳴を上げる俺に記者は。 パトリック・アッテンボロー は、楽しげに笑った。 ヌッコロス!


「リンチ中佐は昇格の上、参謀本部付きになるそうですよ」
どこから情報を仕入れてくるのか、パトリックはいろんな事を知っていた。
「彼は今や、テロリスト集団を壊滅させた英雄ですからねい。当然でしょう」
そうだ。何故かあの時。
リンチがバンデルのパワードスーツに足をかけ、ガッツポーズをしている写真が新聞やTVで取り上げられ、リンチは反政府テロリスト集団「銀の星」を壊滅させたヒーローとして連日、報道されていた。
「彼は昇進確実。いずれ将官となって、何処かの方面軍の司令官にでもなるのでしょう」

 - きたな

俺はパトリックの話を聞きながら、心の底でそう呟いた。

なんの事はない。
無能なリンチを昇格させ、 エル・ファシルの司令官に着かせ、ヤンの出世の糸口を作る。
そんな歴史を作ったのは、他ならぬ俺だったのだ。
これがナニカが欲する『歴史』なのか。 ナニカが俺にやらせようとする『歴史』なのか。 やれやれ。

「『銀の星』は壊滅。けれど、その背景や金の流れは不明。
 噂される政治家との癒着も含めて。 こうなると首班のバンデルが死亡した事が悔やまれますねぇ。 ウラが取れない。 中尉はどう思われます?」
そんなパトリックの問いかけに、シェーンコップは口の端を歪ませたまま、何も答えなかった。

「それからトリューニヒト氏……ああ。お父上の方ですが。 彼は今期限りで議員を辞職するそうですね。
 それについて、ご子息であるヨブ退役大尉さんのご感想は? やはりお父上の跡をついで政界入りするのですか?」
「ノーコメント」
事件後、軍を辞する事を俺に告げたトリューニヒトが、パンケーキにバターを塗りながら答える。

「つまりは、政界入り……それも父親の地盤を継いで立候補するって事は否定なさらないのですね。 なるほど。
 ではその件について、同僚である、アキノ少佐や、ザキ少佐は、どうお考えですか?」

「あらあら……うふふ」
「ひゃぐひゃぐひゃぐ」
微笑みで返す、グランマ。
ひたすらパンケーキにかぶりついている、ザキ。

「今回の事件。一部には軍部の謀略説も流れていますが、それについて何かご意見はありますか、ムライ中佐」
「…………………」
「サド先生はどうですか?」
「うまうま・まるまる~」
ひたすら無言のムライ。
そんなムライの腕に寄りかかりながら、ひたすらゴロゴロする、サド。 

「これじゃあ、記事になりませんねぇ……やれやれ」
「記者さん!」

 - がっしゃん! と。
嘆くパトリックの前に、コーヒーの入ったカップを叩きつけるように置きながら、ドールトンが叫んだ。

「『夜討ち朝駆け』が記者さんの基本だそうだけど、これ以上、毎朝毎晩、五月蝿いこと聞きにきたら、コーヒー出さないわよ!」
プンスカとむくれながら、ドールトンは言う。
そんな彼女に、パトリックはニヤけた笑いを浮かべた。

「いやぁ、ドールトン譲は怒った顔も可愛いですねぇ。 ウチの娘の次に」
「Mr.パトリック……」
「中佐、顔が恐い」
「ほっとけ! ……で、例の宗教団体はどうだった?」
「ダメです」
俺の問い掛けに、パトリックはニヤけた笑みを引っ込めると、真剣な声で答えた。

「まだまだ情報が足りません。 何かを判断するには。 何かを断定するには、まだまだ資料が足りません」
「貴君のその態度には好感を覚えるよ」
「どうも」
けれどその言葉には、なんの感情もこもっていなかった。

「ですが……」
「うん?」
「私の個人的な感覚では……彼等は『クロ』ですね。灰色じゃない、確実な『まっクロ』」
「………………」
「まぁ、せっかく中佐からいただいたネタです。今後もしっかりと追わせてもらいますよ」
そう言うとパトリックは相好を崩し、美味そうに、ドールトンがいれたコーヒーを啜った。


「敬礼!」
「やあ、諸君。お早う」
俺達の敬礼に、グリーンヒル大佐が答える。 そしてー

「イヴリン!」
「フレデリカ!」
ハイ・タッチが交わされる。
それはあの日。あの朝。あの時と同じ光景だ。
少し違うのは、ドールトンの腰まであった髪が、ベリーショートになってしまった事くらい。
それでも陽の光を浴びて輝くドールトンの髪は、とても綺麗だった。

「あのさ、あのお店。再開したんだよ」
「えっ、ホント?」
「うん。ジェシカさんが教えてくれたの。ね、行こう!」
「グエンくん?」
「はいはい。行ってらっしゃい。彼女には私からも、よろしくと伝えておいてくれ」
「うん。ありがとう」
「でも」
「え?」
「知らない人について行ったり、知らないカバンに手を出したらダメだよ」
「ぎゃぶっ!」
「ふぎゃああああああああああああああああああああああ!」

「本当に毎日、毎朝。イヴちゃん家は楽しいね」
「……やっぱり、お前も、か…噛むか?」
手を差し出しながら、やっぱり親バカなグリーンヒル大佐が、親バカな発言を繰り返す。

 笑い声が響き渡った。

 日常が戻る。


 
 ****


「 フレアが燃えてる。星が瞬く。
 みんな知らない、我らの世界だ。
 銀河を呼ぼう! 銀河をつかもう!
 銀河のマーチを、歌うんだ!」

「失礼します」
俺が教官室で上機嫌に鼻歌なんぞ歌っていると、ひとりの少尉がやってきた。

「ムライ中佐の言いつけで、本年度の入学決定者のリストをお持ちしました」
今回の一件で、リンチが参謀本部付けに栄転した結果、俺が主任教官に任命されていた。
それにともない、俺は中佐に昇進。
他の、この事件に関わった連中も皆、一階級、昇進していた。

 - 口封じ? いやいや。

これは昇進のその時期に、たまたま、ちょうど重なっていただけさ。 きっとね。 ……がくがくぶるぶる。

「ご苦労。手間を取らせた」
「……いえ。それでは失礼します」
「ああ。ありがとう」
去りゆき際、彼のネームプレートがちらりと見えた。

 え? ミン……なんだって?

俺はしばらくの間、彼が出て行ったドアを、ガン見していた。


 え~と……
時を経て。
ようやく呪縛が解けた俺は、改めて届けられた入学決定者のリストをめくった。

 - ふむふむ。 おお、居た居た。 マルコム・ワイドボーン。
   相変わらず、トップ入学。 成績優秀ですこと。
   流石だねぇ~え。
   でもまあ、それよりも……… 


 パラ・パラ・パラ……………あれぇ?
 パラ・パラ・パラ……………おやぁ?
 パラ・パラ・パラ………………………
 パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ。
 パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ。
 パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ・パラ………

 うっそぉぉぉぉおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーお!?

俺の雄叫びが、学校中に木霊した。

ない・ない・ない!
彼の名前が!
ヤンの名前が!
ヤン・ウェンリーの名前が!

 どこにも……ない?



 来タヨォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーォ! コレッ
 来マシタヨォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーォ! コレッ
 コリャナンノマネ?
 フクシュウ? イヤガラセ? ソレトモ
 倍ガエシカァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーァ! オヒッ

  ネェコレ。 ドンナ死亡フラグ!? 



              つづく カシラン……



  <><><><><><>

「銀河マーチ エピローグ」をお届けします。
ホラね。
「王道」「テンプレ」で、なんの捻りもない、真正面な、安心のお話しでしょ?(鹿馬)

相変わらず、あれやこれやと詰め込みたがる悪い癖が抜けません。
もっと簡素で、読みやすいお話しが書けたらなぁ……(涙)
でも、まっ、いっか!(無責任・鹿馬)

そんな本作ですが、これからも長い目で御贔屓をいただければ幸福です。
それでは次回作も、よろしくお願いします。

 あ
調子にのって「その他」板に移転しました!(弩阿呆)

PS
2013 10/18 一箇所3回目の訂正。
あのホラ、原作でも第8巻、三回書き直したって言ってたし…(スキップボミング土下座)


前を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.023247957229614