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No.25391の一覧
[0] 【チラ裏からきました】 「銀トラ伝」 銀河英雄伝説・転生パチモノ[一陣の風](2013/09/22 13:53)
[1] 「第4次 イゼルローン攻略戦   前編」[一陣の風](2013/09/20 15:12)
[2] 「第4次 イゼルローン攻略戦  後編」[一陣の風](2013/09/20 19:02)
[3] 「 28 Times Later  前編 」[一陣の風](2013/09/20 15:27)
[4] 「 28 Times Later  中編」[一陣の風](2013/09/20 15:30)
[5] 「 28 Times Later 後編  part-1」[一陣の風](2014/07/21 23:09)
[6] 「 28 Times Later 後編 part-2」[一陣の風](2013/10/09 23:13)
[7] 「 28  Times Later 後編 part-3」[一陣の風](2013/09/20 18:02)
[8] 「 28  Times Later   エピローグ 」[一陣の風](2013/09/20 16:52)
[9] 「 The only Neat Thing to do 」  前編[一陣の風](2014/07/21 23:47)
[10] 「 The only Neat Thing to do 」  中編[一陣の風](2014/07/21 23:52)
[11] 「 The only Neat Thing to do 」  後編[一陣の風](2012/04/29 11:39)
[12] 「The only Neat Thing to do 」 エピローグ[一陣の風](2012/04/29 13:06)
[13] 「銀河マーチ」 前編[一陣の風](2013/02/25 19:14)
[14] 「銀河マーチ」 中編[一陣の風](2013/03/20 00:49)
[15] 「銀河マーチ」 後編[一陣の風](2013/09/06 00:10)
[16] 「銀河マーチ」 エピローグ[一陣の風](2013/10/18 22:31)
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[25391] 「銀河マーチ」 前編
Name: 一陣の風◆ba3c2cca ID:8350b1a5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/02/25 19:14
  フレアが燃えてる。星が瞬く。
  みんな知らない、我らの世界だ。
  銀河を呼ぼう! 銀河をつかもう!
  銀河のマーチを、歌うんだ!


  第13話「銀河マーチ」 前編


 ーピピピピッ

叫び始めた目覚まし時計を止め、私は目を覚ました。
軍人たる長年の習慣で、必ず六時には目が覚めた。
隣で寝る彼女を起こさないように、そっと体を動かす。

 ーまったく
何度言っても改めない。
寝るのなら自分のベッドで行け! と、何度も言っているのに。

気が付けば彼女はいつも私のベッドにもぐり込んでくる。
もぐり込んで、そして私の腕に抱きついて眠るのだ。

正直。私も男だ。
万がいち。万がいちにもー
間違いがあれば、どうするのだろう。
間違いでもあれば、どうする気なのだろう。

幸い、今までそんな間違いが起こった事は、一度としてない。
そんな軽率な行動を起こした事は、一度としてない。

そんな責任を取らねければならないような事は、一度としてしていない。

確かに。
責任を取るのは簡単だ。
責任を取るのは当然だ。

だが、物事には順序が…秩序がある。

結婚も。婚約も。
いやそれどころか、正式には交際もしていないのに、男女がひとつのベッドに同衾して良いわけがない!

だが、彼女はそんな私の思惑に気づきもせず、安らかな寝顔を浮かべ、私の腕にしがみついている。
だが、私はそんな彼女の穏やかな寝顔を見ると、何も言えなくなる。

 私は……


「ぎゃあああああああああああああっ」

遠くで。
正確には三軒先で。
微かな悲鳴が聞こえてくる。
今朝も悲鳴が聞こえてくる。

あれは我が盟友……いや悪友の朝の挨拶だ。
毎朝、鶏の鳴き声代わりに響く、目覚まし代わりの声だ。

彼女もまたアイツのベッドの中にもぐり込んでいるのだろうか。
またアイツにしがみつきながら眠っているのだろか。
また今は亡き両親の事を夢に見て、泣いているのだろうか。

それをアイツは、優しく抱きとめているのだろうか。
変わらず、添い寝させているのだろうか。
優しく甘噛みさせているのだろうか。


「・・・・・・うん…うにゃ・・・・・・はふぅ……」
そんなアイツの声に導かれたかのように、彼女が目を覚ます。
ゆっくりと目を覚ます。
起き抜けの、そのトロンとした瞳に私が映る。

「おひゃよ~ぉ」

うにうにと。
私の腕に顔を擦り付けながら、彼女は言う。

「おはよう」
私もつい、そう言って彼女の髪をなでてしまう。
そのウエーブのかかった、綺麗な紅い髪をなぞってしまう。
先程の思惑が霧散していく。


「晴れてる?」
「・・・・・・ああ」
カーテンの隙間から明るい光が差し込んでくる。
光が暖かな温もりを運んでくる。
その朝日に告げるかのように、私は答えた。

「今日もいい天気だよ。サド」


 ****

  フレアが燃えてる。星が瞬く。
  みんな知らない、我らの世界だ。
  銀河を呼ぼう! 銀河をつかもう!
  銀河のマーチを、歌うんだ!!

「銀河マーチ」
軽快なリズムと耳に良い歌詞。
それは自由惑星同盟「第二の国歌」とまで称される程の慣れ親しまれた曲。

そんな曲を鼻歌で歌いながら、俺は街中をゆっくりと走る。
吐き出す息が白い霧となって消えていく。
寒風が吹き抜けていくが、体はほどよく温まっていた。
毎朝恒例、健康管理のためのジョギングだ。

うん。変われば変わるものだ。
前世の俺ときたら、ジョギングなんてもってのほか。
仕事以外で動き回るのが嫌で、休みの日など、一日中、家の中でネットをしたりゲームを見たりして、一歩も外に出なかったものだが……

「なんだ。ご機嫌だな」
俺の隣を走る盟友。いや悪友が言った。
ムライ・F・ローレンス。

こいつと一緒に三十分かけて家の周りの数ブロックを、ゆっくりと一周する。
それが俺の毎朝の日課だった。

「分かるか?」
「そんなニヤついた顔をしていれば、誰にだって分かる」
途中、同じように走っている上官や下級官に会うが、敬礼はしない。
この時間はただ互いに軽く会釈して通り過ぎるのが、暗黙のルールだった。

「で、なにがそんなに楽しいのだ?」
「それは、禁則事項です」
俺は人差し指を立てながら答えた。
そんな俺の笑顔に、ムライは何も言わずに黙り込んだ。
きっと、俺の笑顔が眩しかったからだろう。


「それじゃあ、また後でな」
「……ああ」
ムライの家の前で別れる。
離れ際。

「さっき、とても恐しいモノを見た!」
家の中に入るなり、そう叫んだムライの声が聞こえてきたが……
うん? 何かあったっけ?


 ****

  空よりでっかい。空より蒼い。
  飛んで行こうよ、我らの世界へ。
  銀河を呼ぼう! 銀河をつかもう!
  銀河のマーチを、歌うんだ!!

銀河マーチの二番を口ずさみながら、シャワー室を出る。
体を拭きながら(スキンヘッドは、こんな時、楽だ)リビングに戻ると、そこではホットケーキの焼ける、良い匂いが漂っていた。

「グエンくん。朝ごはん、もうすぐ出来るよぉ」
毎晩、俺のベッドにもぐり込み。
毎朝、俺の手を噛み。
毎回、俺の腹を踏む超えて行く少女。
イヴリン・ドールトンが白いエプロンを揺らしながらそう言った。

「ほら。さっさと着替えてきてください」
「早くしないと、せっかくの料理が冷めてしまいますよ」
大尉と少尉がそう言う。

「だからなんでお前等、毎朝ここにいるんだ!?」
俺の怒号に、トリューニヒト大尉と、シェーンコップ少尉は、きょとん顔でこちらを見返した。


 トリューニヒト大尉
俺の副官。
おかしいだろ!? おかし過ぎるだろ!?
なんで少佐の俺に、大尉の副官がつくんだ!?
誰がどう見たって、おかしいだろ!!
これは絶対、彼の父親。
現・国防委員長で同盟議会第一党の、自由愛国党・副党首。
エリファズ・トリューニヒトが手を回したのだ。
もうこの時代でも軍人と政治家の癒着! が。
いや、いつの時代でもそうなのか……

つか、トリューニヒトはそろそろ軍を辞めて政治家になってもらわないと。
まさかこのまま軍人のままで、俺やヤンと共に戦う戦友。 なんて事はないだろうなぁ。
ちょっとそんな世界も見てみたいが「死んだらどうするぅぅ!」
そこまでの歴史改変を「ナニカ」は望んじゃいないだろう。

俺を転生させた「ナニカ」
俺をこの世界に放り込んだ「ナニカ」
こんな正史にもない、誰の知らない世界を俺に体験させている「ナニカ」
「ナニカ」はいったい俺に何をさせたいんだ!?


 シェーンコップ少尉
ついこないだまでは伍長だったのに。
おかしいだろ!? おかし過ぎるだろ!?
なんだこの異例な昇進の早さは!
ああ、分かってる分かってる。
つまりはそれこそが、彼の今までの「功績」によるものだ。 って事はな。

知力。体力。時の運。
そのどれを取っても一級品。二つ名でも付きそうなエキスパートだ。
だが……

 コイツ。どんだけヤバい事、やってきたんだ?

異例な昇進。
それは異例な功績を上げた「見返り」
特別な任務。特別な報酬。
それは……うん、きっと。
きっと。知らない方が幸せな事って。
きっと。世の中には沢山あるよね?

俺はシトレとの付き合いで、それを学んでいた。
きっとネ。 しくしく。


「にゃほ~司令官。おはよ~ん!」
ノックもせずに波打つ赤髪の女が、ムライの腕にそのでかい胸をすりつけながら入ってきた。

「だから俺はもう司令官じゃねぇから!」
再び怒鳴る俺に、サドは満面の笑顔を浮かべた。

赤毛の胸のでかい女。
サド・L・パッカナーレ。
「リューク・キャンセラー(死神返し)」の異名を持つ外科医。
その神技と呼べる手術の腕で、今までに死にかけの患者を何人も救ってきた。
陽気な美人。
けれど大酒飲みで、昼間から酔っ払っている変人。

同じく大酒飲みだが、生真面目で何の面白みのない男。
俺の「蜘蛛の糸」
ムライ少佐の家に入り浸っている、やっぱり変人。


「あ、先生。お早うございます」
ドールトンがエプロン姿でフライパンを持ったまま、サドに挨拶した。
「あ~イヴちゃん、おはよう。今日も可愛いわねぇ。お姉さんが抱きしめてあげるぅ。きゅっうう」
「きゃあぁぁぁ?」

その凶暴な胸に抱きしめられて、ドールトンがジタバタともがく。
くっそ~マジうらやましいぜ……って、おいおい。

「おーい。そこの少女好きのお姉さん。いい加減、ウチの娘、離してくれません? つか、窒息しちゃうよ」
「あらあら」
「へにゃあ~~~~ぁ」
顔を真っ赤にしたドールトンが目を回す。
凶器だ! あの胸は凶器に違いない!


「お早うございます」
トリューニヒトとシェーンコップが、サドとムライに敬礼する。
「おはよう」
「うにゃ~。おはよう、おふたりさん!」
ムライはきっちりと。サドは軽く手を振りながら。
それぞれに返礼する。

そのまま食卓につくとー
「いただきます」
和やかな朝食が始まった。


「いやだから、おかしいだろ! なにオマエ等、ひとン家で当たり前に飯喰ってんだ!!」

「宿舎の食堂は不味いんでね」
シェーンコップが律儀にホットケーキを切り分けながら言う。

「ドールトン嬢に誘われたもので」
ホットケーキにたっぷりと蜂蜜をかけながら、トリューニヒトが答える。

「うむ。良い匂いだ」
したり顔でホットケーキの香りを嗅ぎながら、ムライが唸る。

「うまうま・まるまる」
訳の分からない事を言いながら、サドがホットケーキにかぶりつく。


「全然、答えになっとらぁーーーーーん!」

「うるさいなぁ、グエンくん」
やっぱり絶叫する俺に、ドールトンが呆れたように言った。
「毎日、毎朝。同じ事言って、あきないの?」
「いやちょっと待て。なにその俺が悪いながれぶぎゃああああ」
「ふるふぁい!」

 ーがぶりっ と。

俺の手に噛み付きながら、ドールトンが言った。

「ふぃーの! ぐふぉんふぁ、ふぁんんふぇふぁふぇふぁほーふぁ、おひふぃい」
「いいの。ご飯はみんなで食べたほうが美味しい。だと?」
「ふぁんふぉーふぃ」
「その通り。だと?
 いや。だからと言って、何故、俺ン家なんだ!?}
「ふぉんふぉ。ふぉふぉんふぇふぁい」
「ホント。大人気ない! だと?」
「ふん」
「うん。だとぉ。おこちゃまめ!」
「ぎゃびゅ!」
「ぶぎゃらあうらあああああっ」

「ホント。毎日、毎朝。楽しいわねぇ」
サドの台詞に今朝も俺の家に笑い声があふれる。

 俺以外の………しくしく。


 ***

  孤独じゃないんだ。君もいるんだ。
  未来があるんだ。我等の世界は。
  銀河を呼ぼう。 銀河をつかもう。
  銀河のマーチを歌うんだ……

すっかりヤサグレてしまった俺は、「銀河マーチ」の三番を小さく歌いながら居間に移動すると、テレビをつけた。

「それではビビヤ公園事件の続報です」
浮かび上がった美人のニュースキャスターが、すまし顔で昨日起きた乱闘事件を報じていた。

「この事件における負傷者は、重体1名。重傷6名。軽傷121名。逮捕者は8名に及んでいます」

これは昨日。首都ハイネセン・ポリスのビビヤ公園で行われていた、反政府団体(おもに早期和平と、保証の充実を求める戦没者遺族の団体だ)の集会に、武装集団が襲いかかったというものだ。

「この件に関して政治結社『銀の星』と名乗る団体から犯行声明が出されておりー」

「この『銀の星』ってのは、自由愛国党の下部組織なんだろ?」
「確かに昔は党の支援組織でしたが……」
俺はホットケーキにバターを塗りたくっている、トリューニヒトに声をかけた。

「今は無関係です」
「本当かい」
「見ての通りですから」
山盛りのホットケーキを乗せた皿を持ったまま、トリューニヒトが俺の横に立った。

「あまりに過激過ぎて、党でも制御できなくなってきたんです」

「それによりますとー」
テレビに中の彼女は無表情に話し続ける。

「『我々、銀の星は愛国者の集団である。
 我々は、いかなる反政府・反戦活動も許さない。 卑劣で劣悪たる帝国主義者と、その同調者どもを総括し、粛清し、もって同盟の確固たる勝利への礎とするため、我々は武装闘争をも辞さない』
 との声明を出しています」


「こっちじゃもっと過激だよぉ」
行儀悪く、指についた蜂蜜を舐めながら、サドがネットのフォログラフイを浮かべ上がらせた。
「ほら、これ」
そこにはひとりの男の映像ととも、銀の星の『信念』と記された文章が書かれていた。 曰くー

「我らは銀の星の誇りにかけて、帝国主義者を見つけ次第処分する! 
 帝国主義者に裁判など不要である!
 法廷は我等の戦うべき戦場にあるのだ!
 いたるところに、人民の手で法廷を創り出せ!
 銃を持て!
 銃が裁判権を持っているのだ!
 卑劣なる帝国主義者ども。
 軟弱たる平和主義者ども。
 愚昧なる反自由主義者ども。 
 その唾棄すべき者達を粉砕し、征伐し、今こそ正義を我が手にするのだ!
 同盟万歳! 我等、銀の星に勝利の栄光を!」

「こいつ阿呆なのか?」
俺は浮かび上がる男の顔を見ながら思わず呟いてしまった。

「バンデル・メタリノーム。『銀の星』主催。コワモテだねぇ」
「元・陸戦隊大尉。戦闘で負傷除隊後、自由愛国党に入党。武闘派として頭角を現す」
「シェーンコップ少尉。知ってるのかい?」
「昔、誘われましたよ」
「誘われた?」
「ええ。一緒にやらないか? ってね」
「それ、やばぁい。やばぁいよ、シェンちゃん……」

「彼等のやり方はともかく、心情は理解できます」

「……それは本気で言っているのかね。大尉」
トリューニヒトの台詞に、ムライが無表情で訊ねる。
でも俺には分かった。 あ。こいつ怒ってる。

「はい。少佐。少なくとも軟弱な和平主義者より、彼等の同盟を思う気持ちは高尚です」
「…………」
「少なくとも自分と意見が違うというだけで、他人を問答無用で。しかも徒党を組んで襲うような奴等が、人間的に高尚だとは、とても思えんがな」
黙り込むムライの代わりに、俺が言う。

「奴等のような人種の危険性は、目的が正当であるならば、どんな手段もまた正当化される。 と、妄信してしまう事だ」
「そんな事は……」


「また彼等はその声明文の中で『今後、我々は武闘化をさらに押し進め、反社会的な団体、企業を標的とした聖戦を先鋭化させていく』とも述べており、当局では警戒を強めています」

タイミングよく?
アナウンサーがそう告げた。

 沈黙。
ちょっと気まずい雰囲気が漂う。
非難するような瞳が俺に集中する。
あれぇ? 俺のせい? 俺が悪いのか?
ぼ、僕は悪くない!


「はいはいはい。そろそろ出ないと、みんな遅刻するよ」
ドールトンの声が響く。

「あ。ヤバい、ヤバい」
俺はあわてて残ったホットケーキを口に放り込むと立ち上がった。
つられたように、みんなも一斉に動き出す。
空気が元に戻った。 やれやれ。
俺は感謝を込めて、ドールトンの髪をなでようとしてー

 ぎゃぶりっ。

やっぱり噛み付かれました。 しくしく。
 

 ****

「おはようございます。グエン少佐」
玄関を出た俺達に、ふたりの女性が声をかけてくる。
「グランマ!」
ドールトンが片方の女性に駆け寄り、しがみついた。

「あらあら。イヴちゃん。お早う」
そんな彼女をグランマ こと、アキノ大尉は微笑みながら、優しく抱きしめてくれた。

グランマこと天椎 秋乃(あまつち あきの)大尉。
総撃墜数400機を越す撃墜王。
年齢のため、すでに第一線からは退いたものの、その卓越した空戦技量と、明晰なる頭脳からなされる空戦理論。
そして誰彼構わず(階級さえも無視して)優しく微笑みを浮かべ接するその人間性故に、すべてのパイロットから、「偉大なる母・グランド・マザー」と呼ばれ、慕われていた。

「ザキお姉ちゃんも、おはよう」
グランマに抱きついたまま、ドールトンがグランマの隣に立つ痩身の女性に手を振る。

「おはよう、ドールトン嬢。今日も元気だね」
「私の事はイヴリンでいいよぉ、ザキお姉ちゃん。
 うん。私は今日も元気、元気!」
そんな満面のドールトンの笑みに、ザキ大尉も照れたように微笑みを返す。

 ザキ・ヴァシュタール大尉
現役スパルタニアン・パイロット。
古くからの戦友。
痩身な美人。腰までかかる長い黒髪。
切れ長な目。引き締まった唇。
そしてなによりも凄みを増すのが、その額に刻まれた十字の傷。
「ヴァシュタールの悲劇」と呼ばれる、壮絶な傷跡。
そしてそれは彼女は意思と強さと気高さの現れ。
現在最高のエースパイロットのひとり。

ふたりとも俺と同じく教官として士官学校に赴任していた。
そんな二人が、ドールトンと一緒に笑っている。

 -不思議だ。

俺は思う。
彼女の……ドールトンの笑顔は伝染する。
彼女の笑顔を見た者は誰でも、同じように微笑を浮かべる。
同じように楽しげ微笑む。
きっと、それが彼女の……


「イヴリン!」
少女の声が響く。

「気をつけ!」
同時にトリューニヒトが声を上げた。
俺達は姿勢を正すと、そろって敬礼する。

「おはよう、諸君」
敬礼の先。
そこには俺達の上官であり、士官学校の教頭でもある、ドワイト・グリーンヒル大佐が、愛娘のフレデリカと共に立っていた。


「おはよう。フレデリカ」
ドールトンとフレデリカがハイ・タッチを交わす。

「ねえねえ。ニュー・フラーリ広場の近くに、新しいお店ができたの。放課後、行ってみない?」
「わあ、行きたい行きたい。ねぇ、グエン君。行ってもいい?」
「はいはい。あんまり遅くならないようにな」
「わひ。ありがと」
「それと……」
「にゅ?」
「知らない人に付いていかないように」
「はぁ?」
「お菓子あげるからって言われても、良いトコに連れてってあげるからって言われても、付いて行っちゃダメだそ」
「ぎゃぶり!」
「ふぎゃあああああああああああああああっ」

「毎日、毎朝。イヴちゃん家は楽しいね」
「…それならば、お前も、か…噛み付いても良いのだぞ」
愛娘の笑顔に、グリーンヒル大佐の親バカ発言が炸裂する。

 うーん。
この人が後に、クーデターの首謀者になってしまうのか……。
人生って不思議だなぁ、


「じゃあ、行ってきます」
ドールトンがフレデリカと仲良く手をつなぎながら元気に走り出す。 と、思ったら、急に引き返してくると、そのままトリューニヒトに近づき、何事かを耳打ちした。

「了解です、ミス・ドールトン。お気遣い、ありがとう」
「うん。こちらこそ、ありがとう。じゃ、またね」
そう言うとドールトンは、トリューニヒトにハグすると、その頬にキスをした。

 ーなっ!?
まさかそんな? お、お父さんは許しませんよ!

「じゃ、改めて行ってきまーす!」
フレデリカと手をつなぎ、再び走り出すドールトン。
彼女の長い銀の髪が、天使の羽のように朝日の中、踊っていた。

「大尉。ちょっと話があるんだけど」
「はい?」


 ****

  フレアが燃えてる。星が瞬く。
  みんな知らない、我らの世界だ。
  銀河を呼ぼう! 銀河をつかもう!
  銀河のマーチを、歌うんだ!!

結局、トリューニヒトはあの時、どんな会話がなされたか、口を割らなかった。
ただ、ニヤニヤと笑いながら首を振るばかり。
 いーモン。いーモン。
もしドールトンが将来、トリューニヒトと結婚したいって言ってきたらその時は、艦隊全力で抹殺してやる!

「グエン教官。ちょっと来給え」
その時の事を妄想しつつ、俺が教官室で鼻歌など歌っていると、教官首座の男が俺を呼びつけた。

「はい、中佐」
俺はそいつの前に素早く移動する。
彼の名はー
 アーサー・リンチ。

そうだ。のちに「エル・ファシルの英雄」ヤン・ウェンリーを生み出す原因となった男。
のちにラインハルトの甘言に乗って、同盟に反乱を起こさせる張本人。
最初に会った時、思わず首を締めようとした事は、日記の秘密だ。
史実じゃ、それなりに優秀な人物として書かれていたような気もするが、実際のリンチは、ハナから嫌な奴だった。

細かい事は、ねちねちと言うくせに、肝心の所は部下に丸投げ。
何かあっても責任は取らず、保身に走る。
そのくせ、功績は独り占め。
自己中な小心者。
何故こんな奴が将官にまで出世するのか。

今でもその口元に薄笑いを浮かべ、おもねるようリンチは言った。

「来年の入校予定者の件は聞いていると思うが」
「はい、中佐」
「私と話をする時は気をつけだ!」

 ーぴしっ と、俺は姿勢を正す。 ちっ……

「予備試験で常に首位の学生を知っているか」
「マルコム・ワイドボーンの事でしょうか」
「そうだ」

そうだ。
そうだ。
そうなのだ。

「来年度。彼が本校に入学した際。彼の指導教官は私が直接務める。よろしいか」
「はい。中佐」
「貴様のような『アタマノ螺子ガ緩ンダ』奴に、彼のような逸材は任せておけんからな」
「はい、中佐」
「うむ。伝える事はそれだけだ、さがってよし」
「失礼します」
俺は敬礼し、180度回頭すると、自席へと向かった。

同僚達が憐憫の眼差しで俺を見ている。
きっと、俺の顔がこわばっていたからだろう。
リンチの理不尽な物言いに怒りのあまり、俺の顔が引きつっているように映ったのだろう。

だが俺は、笑いをこらえるのに必死だったのだ。
これが。これこそが俺の最近の上機嫌の理由。
つい「銀河マーチ」を口ずさんでしまう理由。

だってさ。彼が来るのだ。
そうだ。彼がやって来るのだ。
やっと彼に会えるのだ。

ワイドボーンの同期生。
「銀河英雄伝説」同盟側の主役。
我等の憧れ。
「魔術師」「奇跡」の、ヤン・ウェンリーに!

これが笑わずにはいられよか。
リンチがワイドボーンの指導教官になる?
結構、結構。好きにやっとくれ。
その間に俺は、ヤンとジャン・ロベール・ラップに唾つける……もとへ。よしみを結んでおくぜっ。

  空よりでっかい。空より蒼い。
  飛んで行こうよ、我らの世界へ。
  銀河を呼ぼう! 銀河をつかもう!
  銀河のマーチを、歌うんだ!!

再び「銀河マーチ」を口ずさみながら自席に向かう俺に、同僚達の目は、怯えたように震えていた。


 ****

 ーキンコン・カンコ~ン♪

俗に「ウェストミンスターの鐘」と呼ばれるチヤイムの音が響き渡る。
まぁ、それに関しては諸説あるそうだが、今のフレデリカには、そんな事どうでもよかった。
大切なのは、今日はこれで授業が終わり、これから友達と一緒に買い物に行ける。 と、いう事だった。

「行こう!」
そう言って手を差し出してくる彼女。
「うん」
その手をつかむと、仲良く教室から駆け出す。

「こらっ。廊下を走るな」
そんな先生の声に「ごめんなさい」と答えながら早歩きになる。
けれど角を曲がり、先生の目が届かなくなると再び駆け出す。
「えっへっへっ~」 と笑い合いながら。

フレデリカは手を見る。
つないだ彼女の手を見る。
しなやかで、柔らかくて。暖かなその手。
イヴリン・ドールトンの手をしっかりと握り締める。

去年、学期途中で転校してきた彼女。
少し紫ががった銀色の髪。碧の瞳。褐色の肌。
いつも笑顔を絶やさない、その表情。
生きている ーって事を感じさせるその快活な行動力。
そして細やかな気配りができる、その優しい心。

そしてなによりも驚かされたのはその謳声。
初めて彼女の謳声を聞いた時は驚いた。

 セイレーン。
その歌声で船乗り達を魅了し、多くの船を遭難させたと言われる、大昔のお話しに出てくる怪物。
クラスメイトはおろか、音楽の先生までもが、そのセイレーンのような謳声に魅せられ、彼女が謳い終わった後も、しばらくは身動きひとつできなかった。

やがて聞こえてる拍手と歓声。
ふと気がつくと、学校はおろか、ご近所のお家や道行く人達も、こちらを見ながら拍手と歓声を上げていた。

「お店はあっち?」
そんな天上の謳声を持った彼女が、その可愛い唇から言葉を紡ぐ。

「うん。もう少しだよ」
フレデリカと、ドールトンはすぐに仲良くなった。
まるでナニカに操られたかのように、ふたりは出会い、親友になった。

「えっへっへぇ。楽しみ」
満面の笑顔を浮かべるドールトン。
親友のその笑みに、フレデリカも知らず知らず笑顔になる。 本当に彼女の笑顔は不思議だ。
誰もがその笑みに触れると、幸せな思いを抱く事ができた。


「ここよ」
「わあっ、可愛い」
そこは小さなアクセサリー・ショップだった。
店内に並べられているのは、手作りの小物をメインとした、リーズナブルでとても可愛らしい品物ばかりだった。

「ここはね、戦争で家族を亡くした人達が集まって作ったお店なんだって」
「そう…なんだ……」
ドールトンの顔が少し曇る。
「このお店は、お父さんが教えてくれたの。一度行ってごらんって」
けれど幼いフレデリカは、そんなドールトンの表情には気付かず、どこか誇らし気にそう言った。


「うあわ。フレデリカ見て。このヘアピン。あなたにきっと似合うわ」
そんな気配を振り払うかのように、ドールトンが元気な声を上げる。

「ねえねえ。こっちのリボンは、イヴリンの髪にきっとぴったりよ」
「っじゃ、このヘアピン。フレデリカにプレゼントするわ」
「じゃあ、このリボン。イヴリンにプレゼントするね」

 ーくすくす 
と、笑い合いながら、レジへと向かうふたり。
料金を支払い、互いに互いの品物を渡し合う。

「似合う?」
我慢しきれず、買ったばかりのヘアピンを付けるフレデリカ。
「うんうん。すごく似合うよ」
「えへへ。ありがとう。じゃあイヴリンも……きゃっ!?」

突然、奥から出てきた男がフレデリカを突き飛ばし、謝罪もせずに店の外へと走り去って行った。

「フレデリカ大丈夫?」
「大丈夫だよ、ありがとう」
差し伸べられた手につかまりながら立ち上がったフレデリカが、ドールトンに感謝する。

「お嬢さん、大丈夫?」
店員の女性が声をかけてくれた。
「あ。はい。大丈夫です。ありがとうございます」
「こんな可愛い女の子を突き飛ばしておいて、謝りもしないなんて、失礼な男ね」
「いえ。あの本当に大丈夫ですから……イヴリン?」
なおも怒っている店員に礼を言って、その場を離れようとしたフレデリカは、親友が男が出て来た店の奥を、じっと凝視している事に気がついた

「今の男……」
「今の人がどうかしたの?」
「あいつ。どこかで見た顔だわ」
「知ってるの?」
「ううん。でも何処かで……笑ってた」
「え?」
「あいつ笑ってた。嫌な薄い笑い。アンドレアヌフスみたいな……」
「アンドレ……え?」
突然、ドールトンが店の奥へと駆け込んで行く。

「ちょ。イヴリン何処行くの」
あわてて後を追う、フレデリカ。
「お嬢さん達。そっちは入っちゃダメよ」
さっきの店員さんが追いかけて来る。

「イヴリン、どうしたの?」
バックヤードの中で、何かを探すように視線を彷徨わせるドールトン。
「イヴリンってば」
「お姉さん。ここに不自然なモノはない」
「え?」
そんなフレデリカに見向きもせず、ドールトンが店員に訊ねる。

「不自然なモノ?」
「例えばさっきまでなかった紙袋とか、ダンボールとか……」
「ええ? んと…ちょっと待ってね」
不審気に。けれどその店員は真剣に探してくれた。

「これは、なんだろう」
店員は一番奥の床の上に、無造作に置かれているカバンを示した。
「こんなカバン初めて見るわね…今朝にはなかったし……」
「待って!}
持ち上げようとする店員を止めて、ドールトンはゆっくりとチヤックを開ける。 そこにはー

 ー180・179・178……

規則正しく数字を減らしていく、毒々しい赤い輝きを放つタイマーが……

「お姉さん。みんなを外に出して!」
「え?」
「これば爆弾よ! 早くっ、早くみんなを外へ!」
「ば、爆弾!?」
「イヴリン?」
「……くっ。あいつ…銀の星の……今朝のテレビの……」
「爆弾って…本当なの?」
「急いで! お姉さん。フレデリカ。あなたも早く!!」
その剣幕に気圧されるように、フレデリカと店員はバックヤードから店の中へ。

「みなさん、すいません。緊急事態です。今すぐ店から出ていただけますか」
店員が店内の客に声をかける。
幸い、客はほんの三・四人。
みな、訝りながらも素直に店の外に出てくれた。

「お姉さん、ありがとう」
「いいから。さぁ、あなた達も早く」
三人そろって急いで店を出る。 けれどー

「あ。しまった」
そう言うと、ドールトンは身をひるがえした。
「お嬢さん!?」
「イヴリン、どうしたのっ」
「忘れ物っ」

「イヴリン!」
「だめ!」
追いかけようとするフレデリカを店員が羽交い絞めにする。

「いや。イヴリン!」
フレデリカは店の中に消えた親友に手を伸ばす。
その手の先でー

 爆発した。





        「中編」につづく


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♪ そーら行けぇ、キャプテン・ウル……なんでもない。

恥ずかしながら帰ってまいりました! 
「銀河マーチ」前編を、お届けします。
元タイトルは「パトリオット達の遊戯」でした。 相変わらず、ミエミエですね(鹿馬
実は本作。見切り発車です。
まだ全編書き終えていません(構想はちゃんと出来てるんだよ。ホントだよ(涙))
したがって、完結するのはいつになるやら…生温い目で見守っていただければ幸いです(ジャンピング土下座)

 それでは次回も、どうかご贔屓のほどを。 


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