-見知らぬ天井だ
どうやら、こんなお話しは。
どうやら、こんな書き出しで始まるのが。
どうやら、こんな「決まりごと」らしい。
なので俺はもう一度、呟いてみる。
「おぎゃあああ」
「まぁまぁ、元気な泣き声ね」
「ほんと。 元気な男の子だわ」
「うむ。これで我が家も安泰じゃな」
……え? 赤ん坊?
「 銀トラ伝 」 -銀河英雄伝説・転生パチモノ
俺には前世の記憶がある。
ぬう……
これもテンプレ?
ワン・パターン?
ありふれた書き出し? やれやれ。
さて。
前世での俺は、自分で言うのもなんだが、実に平々凡々とした男だった。
普通の家に生まれ、普通に成長し、普通に学生になり、普通に失恋し、普通に社会人になった。
取り得とてない。 ただの普通の一般人。
まぁ、多少なりとも他と違うのは、歴史好き。
特に戦史が好きなのと、ネット上にある「二次創作小説」を良く読んでいたくらいだ。
特に戦史は、史実を丹念に追った真面目な歴史モノから、いわゆる「火葬」とも揶揄される仮想戦記モノまで、なんでも読んだ。
同じくらいに「二次創作」にもハマり、面白い作品となれば夜が更けるのも気付かず、読みふけっていたものだ。
だから最初に「転生」に気が付いた時でも、びっくりしたが驚きゃしなかった。
だって良く読むSS小説の「転生モノ」そのままだったから。
うん。予備知識って大切。
だから俺は割とすんなりと、この状況に溶け込む事ができた。
まあ、素直に納得したか? と言われれば……あらあら、うふふ。
で。
俺の前世での最後の記憶は、目の前に広がるトラックの大きなボンネットと眩し過ぎるヘッドライトの灯りだ。
あっと思った時はもう、この世界に「おぎゃあ」と生まれ出ていた。
おかげで良くある、神のごときものにも、死神のごときモノにも、ましてや魔法少女のような存在にも。
そのどれひとつとして出合っていない。
なすべき事も、何も教えられていない。
いや、ただ単に記憶がないだけか。
あるいは、記憶を消されただけかもしれないが。
はっ。
もしかして、今にも空から眼鏡で赤のチェック(ここ大事)のミニスカートの美少女が落ちてくるのか?
もしかして、家に帰れば「遅いぞっ、お兄ちゃん。さ、さびしかったワケじゃないんだからネ!」とか言ってくれる金髪ツインテール(ここも大事)の可愛い妹が、なんの脈絡もなく出現しているのか?
もしかして、「ご飯できてるわ。それとも、お風呂が先かしら?」とか言ってくれる、黒い長髪、白いエプロン(これも大事)の妙麗なお姉様が迎えてくれるのか?
残念ながら。
そのどちらも今現在、実現していない。
そんな「状況」はない。
そんな「理想郷(アルカディア)」は存在しない。
ちくせう
この世界は-
訳の分からぬまま俺が転生してしまったこの世界は、そんなファンタジーとは程遠い世界。
そんなラノベ的世界とは程遠い世界。
ここは硬質な世界。
リアルでシリアスな世界。
幾多の「二次創作」でも読みふけった世界。
宇宙暦748年。俺は惑星ハイネセンで生まれた。
****
それにしても-
ロースクール生になった俺は算数の問題を解きながら考える。
円周率っておおよそ『3』で良いんだっけ?
俺が好きで良く読んでいたネット上の、いわゆる「二次創作モノ」では大概、こんな場合の転生者は、すでのこの世界で名の知れた者か、
あるいは主人公の側近か先輩かで、すでにある程度の武功を持ち、主人公と対等、もしくはそれに類する地位を得ている。
そしてすでに物語は、がっつりと「銀英伝」の世界へと突入している。
そんな話しなハズだ。
だが俺はまだ届かない。
そこまで行けていない。
まだ到達できていない。
なにしろ俺はまだ「子供」なのだ。
普通に育ち、大きくなり、年を重ねていく。
ただの、たんなる「子供」なのだ。
こんな無駄な転生話。需要なんかねえぞっ。
いつになったら正史に加入できるのか。
いつになったら、ヤンと共に戦えるのか?
やれやれ……先はまだまだ長い。
それまで俺は、敷かれたレールの上をただ素直に、まっすぐ走り続けるしかなかった。
それにしても-
ミドルスクール生になった俺は思う。
くそ、帝国公用語って面倒くさい
転生モノでもそうだが、物語に書かれていない『時』って、どんなモノなのだろうか?
そう。物語が紡がれる前の主人公達の話。
今まさに、その状況真っ只中にある俺は、そのことを考えざるを得ない。
こんな正史にも描かれていない世界。
どうすりゃいいんだ。
俺の知っているキャラクター達。
敵味方問わず、この時代に育つ、幾多のキャラクター達。
その誰もが今、どこでどうしているのやら。
ヤン・ウエンリーは父の言いつけに従って、壷を磨いているのだろうか。
ローエングラム……今はまだミューゼル・ラインハルトか- は、姉を奪われ怒り狂っているのだろうか。
ユリアンは……まだ生まれてないだろうなぁ。
他のキラ星の如く輝くキャラクター達も、未来のことも知らぬげに、今を生きているのだろう。
くそっ。 なんだか気になるなぁ。
いったい、どんな生活を……青春を送っているのやら。
俺のように試験の結果に一喜一憂し、女生徒の笑顔に気を取られ、俺にはない将来の夢を語っているのだろうか。
きっとそうなのだろう。
きっと誰も知らない、自分達だけの世界を楽しんでいるのだろう。
ハイスクール生になった俺は、そんなことを考えていた。
「卒業したら、どうするのかね?」
したり顔の担当教師が俺に訊ねる。
「士官学校に行きたいと思います」
俺のそのきっぱりとした答えに、担当教師は、にっこりと微笑んだ。
俺の住んでいた前の世界と違い、この世界の教師は自分の担任の学生が、どれだけ軍人になるか- で評価されるようだ。
ヤンやポプラン。アッテンボローといった連中が一緒に居れば、なにか気のきいたことの一つも言ってくれそうだが、残念ながら「あの時」まで、
自分の未来が決まっている俺には、それはもう既成事実として定まっていたことであるからして、なんの感慨もなかった。
予定調和- というべきか。
俺はなんの問題もなく士官学校に入学した。
同期生となるべきクラスメートが公表されるやいなや、俺は目を皿のようにしてその名前、ひとつひとつを確認していく。
いわゆる「730年マフィア」ほどではないにしろ、有用な仲間は多い事に越したことはない。
いた。
意外な人物の名前を見つけた。
へぇ、こいつ、俺とは同期生だったのか……原作にもアニメにもそんなことは一行として書かれていなかったが……
これも神の思し召し?
あるいは魔女のバァさんの呪いか。
あと知っている名前はほとんどない。
だいたい原作では、俺は何期生か、年齢すら知らないのだ。 仕方ないこととはいえ、やはり少々やるせない。
逆に、それなら少々の無理は押し通せるかもしれない。
俺はこの世界に俺を転生させた「ナニカ」に、密かにそう願った。
****
士官学校での三年間は、それなりに楽しかった。
もちろん、いろんな事はあった。
上級生の靴を磨かされた事も。
下級生に靴を磨かせた事も(決して強制した訳じゃないお! 自主的にやってくれたんだお!)
体育祭で棒倒しで、先端のリボン(嗚呼っ。リボン付だ!)を取るために腕を骨折した事も。
空戦シミュレーションでは、ゲロを吐きながら敵機を撃墜した事も(掃除させられました)
食堂で好物のプリンを得るために、狼のごとく激闘をくり広げたことも。
(俺の狼名は「変人」 おひっ!)
主計当番(ようするにコックさんの真似事だ)では「一緒にやらないか?」と主計長に誘われた事も。 嗚呼、思い出したくない!
また野外の模擬戦闘では奇襲をかけるため、自分の部隊を三日三晩、ほとんど飲まず喰わずで行軍させ敵の背後から突入。
撃滅して完全勝利した事も(演習終了後。部下役の同期生達からタコ殴りにされた事は言うまでもない。しくしく……)
艦隊戦のシミュレーションでは開始の合図と共に、ただひたすら相手の旗艦めがけて全戦力を突進させ、うむを言わさず撃沈した事も。
もちろん、こちらも被害甚大。 艦隊の大半が沈没した。
でも俺は気にしなかった。 勝てばいい。
そう。
これは所詮シミュレーションだ。
ただのゲームだ。
自分はもとより、兵士達が本当に死ぬわけではないのだ。
もちろん実戦では実践しない。
あの時だって、無益な突進は絶対にしない。
あんな無思慮な突撃は絶対にしない。
俺はその為に生まれてきたのだ。 たぶん。
『後ろへ前進!」
俺の前世からのポリシーでもある。
本当は俺、チキンでターキィーな野郎なのサ。
もっとも、教官達からの受けは悪くなかった。
『実に見事な軍人らしい敢闘精神の表れである』 だそうだ。
うん。ヤンが苦労するわけだな。
ああ。そういえば-
やたらと威張りくさる、クソ虫な若い指導教官を、闇夜、同級生数人で襲撃。
タコ殴りにした事もあった。
そいつの口の中に、食堂からくすねてきたジャガイモの皮を押し込んでやった時の爽快感!
もちろん実行には戦略級の作戦を立て、互いのアリバイを確認して、同期不在証明補完計画を実行。
戦術的には火力集中と一撃離脱を心がけた。
そのかいあって、事件は未解決。
犯人は不明のまま、事件はウヤムヤになった。
学校側も、その教官も、恥をさらすのが嫌だったのだろう。 そこまでは俺の狙い通りだった。
のだが、後日、その教官が憎しみのあまり、
艦隊中のゴミ箱を漁りまわって、ジャガイモの無駄捨てを糾弾する事になるとは……
俺はその時は、すっかりその「未来」を忘れていたのだ。
反省。
気が付けばいつの間か俺は「超・攻撃的」な男と見なされていた。
「アタマノ螺子ガユルンダ」の二つ名をもらったことは言うまでもない。
前世の俺は喧嘩のひとつもした事のない平和主義者だったのに……まさに「運命には逆らえませんので」だ。
****
「諸君、卒業おめでとう!」
シドレー・シトレではない士官学校の校長が壇上で長弁舌を振るっている。
俺は背筋を伸ばして、そのいつ終わるかも知れぬ話しを聞いていた。
今日俺は士官学校を卒業する。
ハンモックナンバー(いわゆる席次ってヤツだ)は、残念ながらあまりよろしくなかった。
4800人中、1888番。
実技や戦技では、結構いいところまで行ったのだが、いかんせん学科はどうしようもなかった。
それでもヤンの、4840人中、1909番よりは少しはマシだよな?
最終的な俺の成績は以下の通り。
戦史・85点。 戦略論概説・80点。 戦術分析演習・95点。
機関工学演習・60点。射撃実技・90点(好きなモンで)
戦闘艇操縦実技・65点。
おかしい。
俺の遠い先祖は確か「トンキン湾の人喰い虎」とまで言われた、エースパイロットだったハズなのに……
まぁ、しょうがない。
実際、俺はパイロットや作戦参謀を目指してるわけじゃない。
実働艦隊の指揮官を目指しているのだ。
もっとも「あの男」は、その性格から何事もそつなくこなし、それなりの成績を収めていたが。
なにしろ奴は俺のたったひとつの「蜘蛛の糸」なのだ。
正直、最初話しかけた時は、そのあまりに生真面目な返事と態度に、とても友達になれそうにない!
と、思ったものだが……
光と影。
磁石のマイナスとプラスが引き合うように、俺達は仲良くなった。
猪突猛進の俺を諌めるストッパーとして。
「アタマノ螺子ガユルンダ」俺の、理性的な頭脳として。
その頃からやっぱり、こいつも歴史の流れにのっていたのだ。
「醜悪で非人道的な専制制度を打破するために諸君等は……」
演説は続く。
俺はそっと周囲を見渡した。
俺と一緒に卒業する、戦場へと赴く戦友達を見渡した。
俺は知っている。
俺は知っていた。
この中の何人もが死ぬ事を。
この中の何人しか生き残れない事を。
-おい
俺は胸の中で呼びかける。
-おい。知ってるか。
四年間、共に過ごした仲間達に告げる。
-俺達は負ける
ひとりひとりの名前が呼び上げられる。
-イゼルローンで ティアマトで
呼ばれた奴は元気よく返事をし、立ち上がる。
-アスターテで アムリツィアで
ひとり、またひとりと希望と期待に満ち、恐れを知らぬげな顔で立ち上がる
-ランテマリオで マル・アデッタで
俺の順番が近付いてくる。
-俺達は負ける 完膚なきまでに叩きのめされる
あと五人。
-灼熱の炎の中で 極寒の宇宙(ソラ)の中で
あと四人。
-俺達は惨めな屍をさらす
あと三人。
-だから友よ。友たちよ。
あと二人。
-俺は……俺達は戦おう
あと一人。
-その最後の瞬間まで
「グエン・バン・ヒュー候補生。 卒業おめでとう」
「はいっ!」
俺は精一杯の声を張り上げると、恐れる事無く立ち上がった。
キタヨー! キタヨコレ! コレ、ドンナ死亡フラグ!?
-続く
続くのか。続けるのか。続けていいものなのか?
*****
初めまして。一陣の風と申します。
昨年来よりここに掲載された数多の「銀河英雄伝説」のSSに魅了され、自分のモジカラも考えずに投稿させていただきました。
これからどうなるのか。この後、どう展開していくのか。
作者にもほとほと心細い限りですが、どうか寛容なお心と、生暖かい眼差しで読み続けていただければ、これに勝る幸せは、ありません。
ちなみに私は、小説は読んでいてもアニメor漫画版は、ほとんど見たことがない(フランツ・ヴァーリモント少尉? ダレソレ?)愚か者なので、あまりにも不融合な点は御教授していただければ幸いです。
それではお付き合いの程、よろしくお願いします。
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【その他板、移転の口上】
みなさま、お早うございます。
一陣の風と申します。
初めての方は「初めまして」
すでにお見知りおきの方は「またお会いできて光栄です」
本作は長らく「チラシの裏」板に掲載させていただいていたものです。
そちらで望外のPVと感想をいただき、嘘つきピノキオの鼻 になった作者が、モジカラもそっちのけで「その他」板に移転した作品です。
内容はグエン・バン・ヒューを中心とした「銀河英雄伝説」のパチモノ(この表現は、おもったこと様(2ce30742)よりパクりました。改めて感謝)小説です。
非常にグダグダとした長い話です。
また、あちらこちらに、いろいろな間違え、錯誤、凡ミス等があるかもしれません。
なにせ作者が「SS界いちの無責任」を名乗っている奴なので(スライディング土下座)
ですので、もし読むに耐えない表現&間違い等がありましたら、御指摘いただければ幸いです。
ああ!
それから本作はいわゆる「クロスモノ」ではありません。
何か気になる点があったのなら、それはみな様の感性がより敏感なせい…(鹿馬)
それではこれからも御贔屓のほど、よろしくお願いします。
☆ このお話しは「らいとすたっふルール2004」にしたがって作成されています。
シン◆f430efb5 さま。御指摘ありがとうございました。