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No.25264の一覧
[0] 【習作】一見スタイリッシュにファンタジー (オリジナル・ダンジョン系)[根っこ](2011/01/04 20:54)
[1] 第一話[根っこ](2011/01/04 20:50)
[2] 第二話[根っこ](2011/01/08 12:04)
[3] 第三話[根っこ](2011/05/07 23:29)
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[25264] 第一話
Name: 根っこ◆dc9bdb52 ID:edf474cb 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/01/04 20:50
この世界には神が存在している。
法の神、混沌の神、力の神、堕落の神、商の神、森の神。
八百万とはいかないが、他にも数え切れぬ程に多くの神々が何処とも知れぬ場所からこの世界を見守っている。
人には理解不可能な理由で信徒に試練と奇跡を与え、人には理解できない目的を持ってこの世界へと干渉を行っているらしい。
詳しくは分からないと言うか恐れ多くて資料に残せないとかふざけんなと言いたくなる理由で分からないのだが、まぁそれは別に良いとして。

俺は今、美の神が作り出したダンジョンへと挑んでいた。

美の神
それは美しさ重視と言うか、醜い者に生きる資格など無いと断言しちゃうらしい超危険な神様である。
眼麗しい王族とかが信徒になれば過剰なほどに加護を与え、成金のむさいおっさん信徒が綺麗な物を持って来たら即没収。
他の神々にも言える事だが、基本的に信徒以外には無関心なのが救いなのか。
とにかく、外見が良ければ信徒になったりダンジョンに挑んでも超勝ち組一直線になれる人間から見ると極端な神様だ。
そんな神様が作り出したダンジョン、美形なら入った瞬間に華美華麗なチート武器防具が与えられたりする。
出てくる敵役の特徴が無いのっぺりとした魔物とも言いがたい何か、姿絵で見たのだがやられ役は手抜きにも程がある。
まぁ魔物と便宜上呼ぶのだが、それらの現れるのは強さも苦戦はしても確実に倒せる程度。
醜ければ醜いほど現れる魔物の強さも強くなるらしく、罰ゲームで挑まされた50代おっさん(彼女無し暦が年齢)に歴史的英雄クラスの魔物(のっぺり)が襲い掛かったとの逸話もある。
で、何故俺がそんなダンジョンに挑んでいるのか。

美形だから?
NO
美の神の信徒だから? 美の神の信徒になりたいから?
NO,NO


ダンジョンが安全だから?
YES,YES,YES!


神々が作り出したダンジョンでの死、それはゲームなんかと違い当然の如く死んでしまう。
だが美の神が作り出したダンジョンは、死んでも死なないというか持ち物の中で高価な物や美しい物を没収されるだけで死ぬことが無い。
入り口付近にある謎の寝室で眼が覚めて、何度でも挑戦することが可能なのだ(死体は醜いからだと言われている)。
さらに没収された高価な代物は、自分が殺された場所まで上り自分を殺した魔物を倒せば帰ってくる親切仕様。
不細工だともう来るなって感じで上る前にぶっ殺されるだが、まぁとにかくゲームっぽいのだ。
ちなみに美の神が作り出したダンジョンは外見が黄金の塔であり眩い位に美しいが、信徒の評判は微妙らしく『宝石ちりばめて欲しい』との意見もある。
デコレーションですね、分かります。


それで俺なのだが、この世界とかゲームとか言っている事から分かるように転生した元一般人だ。
能力チートもシステムチートも無し、家は小規模商人であり三男として生まれ、神の声が聞けるわけでもない転生しても一般人。
奴隷スタートになるよりマシなのだろうが、前世繰り越しでも商才が全く無いらしく兄達の下でずっと下働きしか出来ない。
色々試したが才能も無く、もう駄目だろうと思っていた時に知ったダンジョンの話。
超ハイリスクハイリターン、魔物を倒して神々から褒美と言う名のアイテムが授けられる冒険者達。
挑んでも才能無いから死ぬんだろうなーと話半分で聞いていたら、死ぬ事の無く安全だが外見で贔屓される美の神が作り出したダンジョン。
王族や貴族、運よく美形に生まれた奴らが挑むらしく一般人顔の自分にはやっぱり関係ないだろうと聞いていた時に閃いた案に俺は天啓だと感じたね。
それから休める時間に国立図書館と国中にある本屋をめぐり、美の神について今までに無いくらい勉強しました。
両親や家族は、ちょっと変わり者(才能探しに色々やった)の三男がまた何か始めたのだろうと静観。
勉強して勉強して、確信を持ってお金を貯めて、必要なものが全てそろった時に家族へダンジョンへと挑む事を告げた。
勿論反対されたが、挑むのが美の神が作り出したダンジョンだと知って許してもらえた。
両親や家族としては『この三男が挑んでもすぐ帰ってくるだろう』との考えだったのだろうが、俺は成功するだろうと確信している。


動きにくい執事服を着て、、武器らしい武器も装備せず一見丸腰でダンジョンへと挑む俺。

ダンジョンの入り口で守衛をしている、華美華麗な鎧を来た男に変人を見るような視線を浴びたが気にしない。
ダンジョンの中はやはり美しい大理石で出来た宮殿のようで、他のダンジョンを舐めているかのように一定間隔で灯りさえあった。
読んだ本にあった冒険者の項目に『たいまつ必須 ※美の神が作ったダンジョンは除く』と書かれている意味が一発で分かった瞬間である。
そんな風に考えていると、姿絵そのまんまなのっぺりした魔物が現れた。
色は半透明の人型、大きさは俺の腰より低く動きは遅い。
聞き込みや情報屋から得た知識が正しければ、ダンジョン中最弱な魔物の一段階上程度。
一般人顔であるはずの俺に、現れたのが最弱クラスの魔物。
数年前に得た天啓が、それからの努力や時間が無駄でなかった事の喜びを心の奥底へと沈めダンジョンへと入ってから形作っている穏やかな微笑を保つ。
ベルトに装着した専用ホルダーからステーキナイフ(食器)を焦らぬ様にゆっくりと取り出し、構えもせずに魔物のほうへと歩く。
魔物は最弱クラスに相応しい、分かりやすく体当たりをするモーションからゆっくりと体当たりを真っ直ぐに仕掛けてきた。

回り込むように、しかし実用的ではない無駄に洗練されたくるりと回転するかのような無駄な動きで魔物の背後へと回りこむ。
聞き込んだ弱点である核部分(半透明で分かりやすい)へと外さないよう、けれども動きの流れに停滞が無いよう気をつけながらナイフを突き刺した。
ナイフを魔物から抜き、ナイフにこびり付く魔物の破片を軽く払い、内ポケットから食事用のナプキン(紙)で拭き取りナイフをホルダーに直す。
ホルダーとは反対側に装着した小さなポシェットにナプキンを折り畳んで詰め込み、倒れた魔物へと背筋を伸ばしたまま腰を折るようにして礼をする。

顔を上げると、倒れた魔物がいた場所にある豪華で大きめな宝箱。

美しい者に与えられるはずの、美の神が信徒へとあたえる褒美がはいった希望の箱。
内心の鳥肌が立つほどの大きな喜びをまた沈め、焦らずそれが当然のように宝箱を開ける。
中に入っていたのは、執事服一式。
ご丁寧に、俺の持つナイフやポシェットもそっくりそのままな姿で入っていた。
宝箱の中を見た時に顔に出てしまった一瞬の動揺を隠すように顎に指を添え思案するような姿をとり、迷う場面ではないはずだと決断し執事服を取り出す。
予想通り下着は無かったので、服を着たまま服を着替える妙技を高速で流れるようにその場で行い身に着けていた物も全て交換する。
ハンカチが入っているはずの内ポケットへと手を入れて確認し、驚きを表に出さず外ポケットに入るはずの無い脱いだ執事服一式を入れた。
まるで四次元ポケットにはいる道具のように、ひょいと入ってしまったのを当然の事のようにしてもう一度空になった宝箱に対して一礼。
顔を上げれば宝箱は消え、魔物は現れる様子も無く静寂だけがダンジョンに漂っていた。
俺はそのまま真っ直ぐに、急ぐ事無くダンジョンへの入り口へと歩く。

数分でダンジョンを歩いて出て来た俺を基地外を見るかのような視線で見つめる守衛を完全に無視し、あらかじめとっていた宿屋の部屋にたどり着きベットに倒れこむ。

自然体であろうとし過ぎて、逆に力が入っていた体から力を抜くように深く息を吐く。
俺は、成功したのだ。
喜びのあまり叫び感情の赴くままに暴れまわりたい気持ちを、これからも必要になるだろう事から押さえ込む。


そもそも、美しさとはなんだろうか。
芸術に関わることも無く、美形でもない俺は断言してしまおう。
美しさとは『無駄』な物だと。
だがそんな『無駄』な物をありがたく感じる人間がいて、ましてや『無駄』を司る神が存在している。
前世は『無駄』な物にあふれていた。
『無駄』な情報に『無駄』な言葉、貴族でも金持ちでもなかった自分が享受出来るほどに『無駄』がそれこそ『無駄』なまでに溢れかえっていた。
才能も無く、外見も普通で、そんな俺の脳内だけにある『無駄』な知識。
転生した俺だけの物が此処にあった。
転生した事が、前世の俺の人生が『無駄』ではなかった事が、意味が此処にあったのだ。


流れそうになる涙を、歓喜の心を押し込めこれからも世話になるだろう微笑を浮かべて起き上がる。
これからなのだと、まだまだ始まったばかりなのだと心を諌めて。
明日の予定をあれこれと決めながら、この執事服を調べる為に神殿区域へと向かう。
商の神と知の神、どちらの神殿へ向かうかを決めぬままに。




流れるような無駄な動きは、一見すれば洗練されているかのように見えますが結局無駄な動きです。


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