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No.25216の一覧
[0] 【習作】るいことめい(佐天魔改造・禁書×ネギま『千雨の世界』)[弁蛇眠](2011/10/12 14:06)
[1] プロローグ[弁蛇眠](2011/09/02 02:14)
[2] 第一話[弁蛇眠](2011/09/02 02:15)
[3] 第二話[弁蛇眠](2011/09/02 02:15)
[4] 第三話[弁蛇眠](2011/09/02 02:16)
[5] 第四話[弁蛇眠](2011/09/02 02:16)
[6] 第五話[弁蛇眠](2011/09/02 02:17)
[7] 第六話[弁蛇眠](2011/09/02 02:17)
[8] 第七話[弁蛇眠](2011/09/02 02:18)
[9] 第八話[弁蛇眠](2011/09/02 02:18)
[10] 第九話[弁蛇眠](2011/09/02 02:18)
[11] 第十話[弁蛇眠](2011/09/02 02:19)
[12] 第十一話[弁蛇眠](2011/09/02 02:14)
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[25216] 第十話
Name: 弁蛇眠◆8f640188 ID:7255952a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/02 02:19
 涙子の電話が切れた後、愛衣は自らのアーティファクトである箒に飛び乗った。
 そのまま認識阻害の魔法を維持しつつ、空へ飛び出す。
 幸い目の前にはモノレールの駅がある。その路線に沿うように妖怪を追った。
 涙子の唐突な電話の切れ方や、周囲の状況を省みる。再度コールした電話も繋がらなかった。
 妖怪は涙子が乗るモノレールを急襲したのだろうか。様々な仮定が想起されるが、共通しているのはおそらく涙子が事件の中にいるだろう事ぐらいだ。

(それにしても速すぎる)

 空を駆る五体の妖怪の速度は異常だった。
 愛衣の飛行魔法とてそれなりに速い。以前在籍していた魔法学校でも上位の速さを誇っていたのだ。
 だが、とてもじゃないが追いつけるとは思えない。
 最悪の状況を想像する。車両の脱線事故。妖怪による虐殺。

(急がないとッ!)

 ギリっと奥歯をかみ締める。昨日とて死人は出なかったものの、多くの被害を出している。
 この《学園都市》という閉ざされた世界で、妖怪に抗う力を持つ人間は少ない。
 少なくとも愛衣は自分を含め三人しか知らなかった。自分と涙子と、そして高音だ。
 高音に至っては未だ戻らず、所在は知れない。
 自分しかいない不安がある。逃げ出したいと思う気持ちが残っている。
 されど、愛衣の矜持が逃避を許さないのだ。薄っぺらい正義感だと自分でも思うが、悪意を悪意のままに放置したく無いのだ。それで傷つく人がいるのならなおさら。
 なにより愛衣にとって、そんな薄っぺらいとも言える正義感を、誇りある矜持として称えてくれる師がおり姉がいた。
 二人のためにも、愛衣はこの時を逃げ出すわけにはいかない。
 悲愴にも思える顔に、闘志を灯す。口を真一文字に結び、妖気の残滓を見つめた。

「負けない!」

 自分に言い聞かせる様に叫びつつ、箒に更に魔力を流し込んだ。
 グングンと速度を増しながら、風を切って飛ぶ。
 やがて前を走るモノレールが見えてきた。車両がレールから落下する、などという状況には陥ってない様だが。

「これは……」

 車両内から妖力を感じる。まだ車両は遠く、正確には把握出来ないものの、昨日の《石喰い》と同じく規格外の妖力だ。
 少なくとも乗客が危機に陥ってるのは確かな様だ。
 涙子がいる、とは安心できない。彼女の心は昨日萎えていた。もしくは折れていたのかもしれない。
 状況の悪さに愛衣は苦心する。モノレール自体のスピードも落ちておらず、なかなか距離が埋まらないのも、愛衣に焦りを感じさせた。
 そこへ――。

「えッ――」

 背後からビリビリと威圧感を感じた。思わず首だけ後ろを見ると、そこには見覚えのある影が、目にも留まらぬ速さで飛んできた。

(――獣の槍)

 愛衣の真横をすり抜け、《獣の槍》は一直線にモノレールの車両に突き刺さる。

「わわわ!」

 槍が放った衝撃波に煽られ、愛衣は空中でバランスを崩しかける。
 なんとか体勢を戻し、モノレールを見つめる。

(獣の槍が飛んできたって事は、やはり)

 未だ状況は把握しきっていない。それでも涙子が戦ってる事だけは理解できた。
 槍のせいで離された距離を埋めようと、再び愛衣は加速した。
 そこでさらに――。

「えぇっ!」

 車両から愛衣の方向へ人影が飛び出してきた。



     ◆



 多くの人の声援を受けつつ、涙子は槍を構えた。
 一つを倒したものの、未だ《飛頭蛮》は四つも残っている。
 一連の攻防で、涙子は《飛頭蛮》が《石喰い》よりも遥かに俊敏なのを理解していた。だが、この狭い車両内が功を奏し、本来の力が使い切れていない様だ。
 そこに勝機がある。

(外に出られたら、一気にこちらが不利になる。せめて車内で数を減らさなくちゃ)

 視界の片隅ではRと呼ばれていた少年が、目から光線を発しつつ生首の一つと戦っている。周囲の会話を盗み聞くに、どうやら彼は人間ではないらしい。
 それでも、Rが生首の一つを相手どっているお陰で、涙子への負担は大きく軽くなる。どうにか手早く倒して、Rの救援にいかねばとも思った。

「このぉ!」


 横薙ぎの攻撃は隙が多い。多数の敵を相手取るのに、涙子は〝突き〟を選択した。
 《飛頭蛮》に向けて放たれた突きの連打も、生首ゆえの捉えどころの無い動きで、クルリクルリと避けられてしまう。
 なんせ生首一つで浮いているのだ。体も無いため、首が回転するだけで槍の突きは軌道が反らされてしまう。

「――くっ!」
『弱い! 弱いぞ! ケモノノヤリィィィィィ!!!』
『よくも我が同胞を屠ってくれたナァァァ!!!!』
『その血肉、残さず貪ってやるゥゥゥゥ!!!!』

 生首から放たれる呪詛の声。三つの《飛頭蛮》は、それぞれが別の弧を描きながら涙子に襲いかかる。
 牙が腕を霞め、噛み付かれた槍には鈍い衝撃が走る。涙子は劣勢ながら必死に攻撃に耐え、直撃だけは避けた。

「加害者が被害者ぶるな、生首!!」

 足元に迫っていた生首を、思い切り蹴り飛ばす。
 だが、その動作を隙と見た《飛頭蛮》が、横合いから涙子の肩口目掛けてぶつかって来る。

「かはっ!」

 突然の衝撃に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。空気が口から漏れ、無意識に涙が溢れる。

「お嬢ちゃん!」
「キャア!」

 見守っていた乗客が悲鳴を上げる。二人の男性乗客が涙子を援護しようと、自らの能力を発動させた。

「くらえ、バケモノォ!」
「みなさん、下がって!」

 周囲の乗客に被害が出ないように間隔を取りながら、手の中に現れた炎と電流を生首にぶつける。
 しかし――。

『カカカカ、温いゾ! ニンゲンンンン!!』

 炎と電流を浴びても、焦げ目一つつけず、むしろ嬉しそうに《飛頭蛮》は笑う。能力者の二人に興味を持ったのか、生首は男性乗客に襲い掛かろうとする。

「ひッ」

 二人の男性乗客は一瞬、声を失った。

「させるかぁぁぁぁぁ!」

 鳥坂が飛び出し、なけなしの力で折れたバットを振るう。薄っすらとしたバットを覆う光が、その時だけ激しく輝いた。

『なッァァァ!!』

 バットの軌跡に合わせ、《飛頭蛮》の一つの顔に裂傷を作った。ボタボタと真っ黒い血が滴る。

(ふむ、やはりこの〝光〟がバケモノに聞くようだな)

 鳥坂はバットを振るいつつ、冷静に状況を把握しようとしていた。
 チラリと先程部員が叩きつけた三脚を見る。どうやら原型を留めないほどに破壊された様だ。対して自分のバットもボロボロだが、そこには生首を叩いた回数と、元々の強度という差がある。

(直接叩いても、超能力でもあまり効果は無い。しかし、私のバットとおぜうさんの槍は効果がある。そしてRの光線。以前見た影)

 数々の断片が鳥坂の頭に過ぎり、おぼろげな推測を形作る。されど《飛頭蛮》はその暇すら与えない。

『痛いぞニンゲンンン!!! せめて一番美味そうなオマエだけで喰ろうてやる!!!』

 鳥坂に向かって噛み付いた生首を、鳥坂はどうにかバットで受け止めた。ギリギリと鍔迫り合いが始まる。

「フン! 私が一番美味いとは、生首も見る目があるではないかッ!」

 光画部部員達が心配そうな目を向けつつも、鳥坂の言葉に呆れた。

「だが! あいにくキサマに食わせる血肉の一滴も無いわ!」

 不敵な笑みを浮かべる鳥坂だが、こめかみには汗が一筋。上半身はなんとか拮抗させてるものの、下半身はズルズルと《飛頭蛮》に押されていた。

「うわぁぁぁ!」

 遠くで抑揚の無い悲鳴が上がる。Rが生首を押さえ込む事が出来なくなった様だった。倒れたRはそのままに、《飛頭蛮》の一つは乗客に襲い掛かった。

「なぬ、あ~るッッッ!」

 四つ残っている生首は、二つが涙子に襲い掛かり、一つは鳥坂が押さえている。最後の一つたる四つめの生首が自由になり、乗客を襲う。

「だから、やらせないって言ってんでしょ!」

 壁に叩きつけられていた涙子が、二つの生首を振り払い、乗客を庇うように突進する。
 牙を槍で受け止めたが、強靭な《飛頭蛮》の膂力が涙子に圧し掛かる。《槍》の柄が勢いに負け、涙子の額を打つ。

「――ッ」

 一瞬意識が飛び、ぐらりと体が傾く。
 そこを都合三つの《飛頭蛮》が飛び掛った。

『消えロッ!!! ケモノノヤリィィィ!!!』

 手足の肉を浅く抉られつつ、涙子は再び壁に叩きつけられた。今度は車両の壊れかけたドアだった。

「が……あッ!」

 三つの生首が、涙子を潰そうとミシミシとドアに押し付ける。特殊金属製のドアと《飛頭蛮》に挟まれた涙子は呼吸すらままならず、口から空気が吐き出されるばかりだ。
 メキメキと体中の骨が悲鳴を上げる。飛びそうになる意識を辛うじて保つが、手足が痺れて動かなかった。
 《槍》を手放さなかったのが幸いだ。この時、《槍》を離していたら、涙子の肉体の強化は消え、あっという間にミンチになっていただろう。
 金属が引き裂かれる音がした。やがて壊れかけていたドアの方が圧力に負け、金属の歪みが大きくなり、人が通れるほどの穴が開く。

「くはっ!」

 ドアの隙間から押し出された涙子は、胸への圧迫が消え、空気を勢い良く吸い込む。しかし、そこは空中だった。

(え?)

 走るモノレールが目の前に見える。
 涙子はモノレールから《飛頭蛮》に放り出されたのだ。
 周囲には高層ビルがいくつも見えた。
 未だぼやけた意識の中、涙子は槍を〝ウェイト〟としながら、どうにか体勢を整えようとするも。
 ドサリ、と背中に柔らかい感触が走る。
 落下するはずの体が何故か浮かんでいた。背後の気配に涙子は振り向く。

「さ、佐天さん!」
「え……佐倉、さん?」

 目先に愛衣の顔がある。
 箒に跨る愛衣が、空中で涙子をしっかりと受け止めていたのだ。



     ◆



 涙子と愛衣は箒でモノレールを追いかけるも、二人乗りのためスピードは明らかに落ちている。
 一向に近づけない中、涙子は愛衣に事のあらましだけを伝えた。

「急がないといけないですね。でも、車内となると私の魔法は危険かもしれません」

 愛衣の得意魔法は火。閉所では周囲への被害が多いのだ。モノレールの車両内となると、乗客への被害も考えられた。
 だからといって、愛衣の得意では無い小手先の魔法では、強力な妖怪を倒せるとは思えない。

「時間がない! 佐倉さんは車外で待ってて、私が一匹ずつ生首を放りだす!」

 常に無い気迫が涙子から立ち上っていた。愛衣はコクコクと頷くばかりだ。

「で、でも、どうやって追いつけば、このままじゃ――」
「大丈夫! 私一人なら追いつける!」

 そう言うなり、涙子は箒からモノレールのレール上へ向けて跳躍した。
 涙子の唐突な行動に、愛衣は目を丸くする。
 レールの上に降り立った涙子は、遠くに見えるモノレール目掛けて走り出した。
 体中が軋んだ。
 走るだけでも、先程の一連の攻防で受けた傷が鈍い痛みを発する。
 だが、涙子は止まらない、いや止まれなかった。
 強化された肉体が、莫大な走力を発揮する。
 本来ならばモノレールに追いつけるはずなど無い、しかしその距離は段々と離されなくなっていった。

「でりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 闘争心が声となって現れた。
 体をくの字に曲げ、前傾姿勢で走る。文字通り風を切りながら進んだ。
 やがて涙子が地面を叩く音は早くなり、ダダダダっと機関銃の様な激しい連続音へと変わる。
 脚が車輪の様に回転し、速度を増した。
 体が発する熱が湯気となり立ち昇る。
 ぶつかるは空気の壁、それさえを槍で破壊し突き進む。
 背後に衝撃波が幾つもの輪となっては消えていく。

「たかが電車一つ! 《獣の槍》を舐めるなぁぁ!!!!」

 ふと、《獣の槍》が笑った気がする。《槍》の中に眠る幾人もの使い手達も、さも当然という様にふてぶてしい笑みを浮かべた。
 涙子も同じく笑みを強くした。もはや《槍》に対する信頼は揺ぎ無い。

「負ぁ~けぇ~るぅ~かぁぁぁぁぁ!!!!」

 髪が綺麗な直線になってなびく。
 視界が狭まる中、モノレールがはっきりと近づいてきた。
 車両は目前だ。最後尾にある運転席で、車掌が目を丸くして涙子を見ている。
 涙子はそんな視線も気にせず、残りの距離を一気に詰める。

「とりゃぁぁ!」

 あと一歩という距離で、車両に飛びついた。なんとかモノレールの天井部分に辿り着くも、バランスを崩してゴロゴロと転がる。
 堅い金属板が、涙子の頬や関節を打つ。だが、まだ止まらない。
 転がった勢いを殺さずに立ち上がり、走った。
 目指すは先頭車両。強風の中を駆け抜けていく。

「見えた!」

 先頭車両を目先に捉える。風に紛れ乗客の悲鳴が聞こえた。
 中への入り口を探している場合では無い。
 槍を大きく構え、

「でりゃぁぁぁ!」

 振るった。
 しゃこん、と小気味の良い音を鳴らしながら、足元の天井板が三角形に斬り取られる。
 涙子は自ら作った穴に飛び込んだ。
 車内は阿鼻叫喚であった。涙子が離れていた時間は一分にも満たないが、血が床に幾つも広がっている。幸い鳥坂やRが奮闘したのだろう、怪我人は多いものの死人はいなさそうだ。
 涙子に勇気を貰った乗客は、余り効果は無いものの、能力を使って応戦していた。

「もうやらせるかぁぁぁ!」

 その一角の《飛頭蛮》目掛け、槍を突き出す。《飛頭蛮》は槍の一突きを辛うじて避けるものの――。

「頂きッ!」

 落ち武者の様に伸びた髪の毛を、涙子に掴まれていた。

「――佐倉さんッッ!!!」

 車外にも聞こえるように、大声を張り上げる。

『ガァァァ!』

 《飛頭蛮》の咆哮。
 それを気にせず、涙子は渾身の力で掴んだ髪を引っ張り、車両のドアに開いた穴に向けて生首を投げる。

「いけぇぇぇぇ!!!」

 車外へ投げ捨てたとて、空を浮かぶ《飛頭蛮》にダメージは無い。涙子の無駄な行動に、思わず生首は笑みを浮かべるが――。

「魔法の射手! 連弾・火の38矢!」

 愛衣の言葉と共に、《飛頭蛮》に炎の矢が突き刺さる。それは魔法の矢だ。モノレールを追いかけながら、タイミングを見計らっていた愛衣の魔法だった。

『ギャァァァァ!!』

 火達磨になりながら、《飛頭蛮》は苦悶の声をあげる。更に追い討ちをかける様に、連続して矢が突き刺さる。

『グァァァァァァァァァァァァァアアアアア!!!!』

 その度に火が強く燃えがあり、《飛頭蛮》の形を崩していく。合計三十八もの攻撃を受け、炎球の中に消えていく。
 涙子は生首の一つの消滅を見届けず、視線を車内に戻した。背にはドアの隙間から爆炎が上がっている。炎を背負い、涙子は叫んだ。

「あと三つ!」



     ◆



 残る《飛頭蛮》は三つ。
 だが、もう周囲の人間は満身創痍。まともに戦えるのは涙子と愛衣くらいなものだろう。

「でやぁぁぁ」

 槍を大きく振るい牽制しながら間合いを詰める。
 車外に放り出せば、愛衣が攻撃してくれる。涙子の目的は先程より楽になってきている。
 槍の一撃を《飛頭蛮》は歯で受け止めていた。涙子は好機と見て、その槍を噛んだままの生首を、先程作った天井の穴から外へ突き出した。

「今ッ!!」

 涙子の声と重なる様に、槍の切っ先に向けて魔法は放たれていた。

『ギャァァァァァアッァ!!』

 怨嗟の声が上がり、また一つ生首が塵となって消滅する。
 槍を空に掲げながら、仁王立ちする涙子は、残りの《飛頭蛮》を見据える。

「あと二つ」

 ワァァァ、と乗客から歓声が上がった。

『我らが同胞(はらから)をォォォォォ!!』

 目に血の涙を溜めながら、二つの《飛頭蛮》は怒り狂う。
 が、行動は冷静だった。涙子に真っ直ぐ突撃してくるかと思いきや軌道を変え、それぞれが車内に開いた別々の穴から飛び出す。

「なっ!」

 涙子は驚愕する。
 魔法を放ったばかりの愛衣は、二つの標的にうまく的を絞れず、散発的な魔法が生首を掠めるばかりだ。
 うまいこと車外に出た《飛頭蛮》は、障害物の無い空間で加速を増し、愛衣に襲い掛かった。

「きゃぁぁ!」
「佐倉さんッ!」

 涙子も慌てて天井の穴から車外へ飛び出す。
 そこで見た光景は、《飛頭蛮》の攻撃によりバランスを崩し、落下していく愛衣の姿だった。

「――いけない」

 涙子はモノレールの天井から、愛衣を受け取るために跳躍した。
 一方、涙子と《飛頭蛮》が消えた車内では、ほっとした空気が広がっていた。
 確かに槍を持った少女は心配だが、きっと彼女なら大丈夫だろう、というのが乗客たちのほとんどの思いだった。
 そんな中――。

「おい、予備のバットがあっただろう、よこせ」

 鳥坂が傷口に布などを巻きつけながら、ボロボロになったバットを投げ捨て、新しいバットを男性部員に所望する。
 光画部という部活は、何故か野球道具をしっかりと揃えている部活であり、撮影会とて例外では無い。
 男性部員はおずおずといった体でバットを鳥坂に渡す。
 鳥坂はバットを受け取るなり、グリップを確認し、ブンブンと何度か振った。
 乗客も、この事件の功労者とも言える鳥坂の行動に違和感を覚える。まるで〝まだ終わってない〟かの様に。

「あ~るよ! 轟天号の準備は大丈夫か」
「あい。鳥坂先輩」

 Rはボロボロの学生服ながら、ヘラヘラしながら車内の片隅に倒れていた自転車『轟天号』を持ってくる。
 モノレールはまもなく駅に着こうとしていた。割れた車両先頭の風防から、駅のホームが見える。

「あの、鳥坂さん。どうしたんですか?」

 さんごがおずおずと鳥坂に聞く。

「どうしただと? 何をいっておるんだお前は」

 鳥坂は呆れた様にさんごを、そして他の乗客たちを見る。

「決まっておろう。まだおぜうさんは戦っているのだ。加勢にいくに決まってるでは無いか」

 鳥坂は自転車に乗ったRの後ろに、更に立ち乗りの形で乗る。

「で、でも。あんなすごいバケモノを……すごい槍持った子がいるんですから、何も先輩が行かなくても……」
「ばっかもぉん!!」

 さんごの言葉に、鳥坂が怒る。

「少女が戦ってるのに、引き下がれるか! それに、おぜうさんのピンチを最後になって救う……見逃せないシチュエーションだ」

 鳥坂はグッっと拳を握る。
 モノレールはゆっくりとホームに入っていく。駅内にはレスキューチームや警備員(アンチスキル)がズラッと並び、駅の外には救急車も待機していた。
 その光景に車内から安堵の声が上がる。
 鳥坂はモノレールが止まる前に、Rへと確認した。

「あ~るよ、準備は大丈夫か」
「『大丈夫、問題ない』ですね、わかります」

 スパン、と鳥坂はRにツッコんだ。
 モノレールのドアが開き、一気に乗客が飛び出す。次々とレスキューチームなどに保護される中、装備を構えて待機していた警備員(アンチスキル)は目を疑った。

「一体どうやったら、こんな風になるんだ」

 目の前の先頭車両はまるで虫食いだ。辛うじて走行可能だった様だが、壁や天井にたくさんの穴が開き、床には血の痕が残っている。内装もまるで〝食いちぎられた〟様に破壊されていた。

「生首のバケモノってのもあながち――」
「どけどけーいっ!」

 警備員(アンチスキル)や乗客で混雑するホームを、一台の自転車が切り裂いた。
 鳥坂とRだ。
 自転車に二人乗りをした鳥坂達はホームを一気に疾走し、階段をもそのまま降りていく。
 周囲の制止の声に耳も止めず、ただひたすらに戦場へ戻ろうとしていく。
 生き残った乗客達も唖然とし、鳥坂を見送った。
 鳥坂達は速さに〝有無を言わせず〟改札口も突破する。
 駅から飛び出せば、遠くに涙子たちがビルの屋上を飛び越える姿があった。まだ戦いは終わってないらしい。

「行くぞあ~る! 向こうだ!」
「あいあい」

 鳥坂がバットで方向を示し、Rはその指示に従いペダルを漕いだ。
 車を次々と追い抜きながら、自転車は加速する。

「待ってろ、クソ生首どもぉ!!」



     ◆



 墜落しかけた愛衣を助け出した涙子だったが、状況は切迫していた。
 遮る物が無い外へ出た事により、《飛頭蛮》の動きはより俊敏になった。
 涙子は愛衣を抱えたまま、ビルからビルへ、屋根から屋根へ、と建物を跳躍していく。

「佐倉さん、ま、魔法使って!」
「や、ややってますす、よ!」

 涙子に抱えられ、ガクガクと揺れる中、愛衣は詠唱を繰り返し、散発的ながら魔法での牽制をしている。だが、魔法よりも《飛頭蛮》の方が遥かに素早い。必然、愛衣の魔法は掠る事さえ無く虚空へ消えていく。

『ヤリめェェェェ!!!!』

 甲高い奇声を発しながら、二つの生首が別々の弧を描き、涙子たちを襲う。

「このぉ!」

 槍を大きく振るも、刃を片方の生首が歯で受け止め、もう片方が涙子の肩口を抉る。

「ぐぅぅ!」
「佐天さん」

 痛みから涙子はそのままビルの屋上で膝を突き、愛衣を抱え落とす。愛衣も起き上がり、心配し駆け寄った。

「大変、傷が深い……」
「大丈夫、私まだ戦える」

 涙子は肩口を押さえながら立ち上がる。目には涙が溜まっていたが、依然戦意は揺るがない。
 上空を得物を狙う鷹の様に、《飛頭蛮》が周回していた。己の優位さを隠すこと無く、ニタニタと笑い続けている。

(佐倉さんの魔法が避けられて、私の槍が受け止められるなら――)

 涙子は愛衣に何かを告げ、二人は背後へと後ずさった。背中が壁に当たる。ビルの屋上の片隅にある、立方体の形をした昇降口へぶつかったのだ。
 もう逃げ場所は無い。
 されど背は壁に守られ、《飛頭蛮》の攻め手も限られてくる。
 相手が逃げ出さず、自分達を仕留めるつもりなら勝機はある。涙子はそう思いながら《槍》を構えた。

「ここで決めるよ、佐倉さん!」
「はい!」

 涙子の背中に隠れる様に立つ愛衣が答える。手には魔力が溢れ、準備は整っていた。
 二対二。
 数だけ見れば状況は互角だ。
 先に動いたのは《飛頭蛮》である。
 片方の生首はビルの床ギリギリを飛び、脚元から涙子たちを狙おうとしている。対してもう片方は頭上から急降下し、涙子たちを食い殺そうとする。
 身をすくませる奇声を発しながら、二つの妖怪(バケモノ)が高速で宙を駆る。

「行きますッ!!」

 愛衣が叫んだ。
 手には炎の魔法。燃え盛る炎球を涙子の持つ《獣の槍》に向けて投げつけた。

「りょぉーかい!」

 涙子はやや下に向けた《槍》の刃で炎を受け止めた。以前、超能力を斬った様に、《槍》は魔法をも斬り裂く。
 槍を中心に炎が破裂した。
 その無秩序に飛び跳ねる炎の破片は、脚元を高速で飛行していた《飛頭蛮》の片割れにも当たる。

『グギャァァァァ!!』

 苦悶の声が上がり、《飛頭蛮》は軌道を変えた。
 しかし、まだ《飛頭蛮》は残っている。涙子は槍をそのまま頭上へと掲げた。
 上空から襲い掛かる《飛頭蛮》を撃ち落そうとする。

『遅いゾォォ、ニンゲンン!!』

 涙子の《槍》は、いともあっさりと《飛頭蛮》の歯に受け止められた。
 だが――。

『ガァァァァァァァァァ!!!』

 《槍》の刃は炎を纏っていた。愛衣の魔法は不完全ながら、未だ形を保っている。
 例え刃を受け止めようと、炎が《飛頭蛮》を体内から焼いていく。肉を焦がされ、歯の力が緩む。

「貰ったぁぁぁぁぁ!!!」

 好機を見逃す事無く、涙子は柄に力を込めた。
 ずぷり、と《槍》が《飛頭蛮》を串刺しにする。

『――――――ッッッ!!!!』

 声にならない絶叫を上げながら、《飛頭蛮》は破魔の毒を受け、サラサラと塵になる。
 涙子は周囲を見回し、最後の《飛頭蛮》を探した。屋上の片隅、炎の破片を受けた《飛頭蛮》は片割れの消滅を見て顔に恐怖を浮かべている。
 どうやらそのまま逃亡に移ろうとしている様だった。
 このまま逃げられたら、涙子達に追いつける術は無い。一方的に人が殺されていくだろう。

「そんな事、させないッ!」

 槍を水平に持ち、体を低くして一気に詰め寄った。だが、生首の方が圧倒的に速い。

『ギャハハハハ、追いつけるかニンゲンン!!』

 安堵の笑みを浮かべながら《飛頭蛮》は叫ぶ。

「――逃がしません」

 涙子の背後で、愛衣が稟と言い放つ。
 ビルの屋上を覆うように、炎の矢が飛んでいた。涙子の攻防の間に詠唱していた魔法だ。矢は弧を描き、半球状のドームを形作っている。それはまさに炎の壁、炎の蓋だった。
 逃げ出そうとしていた生首は、炎の壁にぶち当たり墜落する。

『ウガァァァ!!!』

 されど、辛うじてビルの屋上を脱する。欄干にぶつかりながら、ビルの外へ落ちていく。

「往生際が悪いッ!」

 涙子も欄干を飛び越え、宙を舞う。
 ビルのすぐ脇は車一台が通れる程の狭い通りだが、幾つもの商店が見え、人もそれなりにいた。
 《飛頭蛮》はまばらな人波に向けて落ちていく。

(――ッ!!)

 ここまで来て、と涙子は思い、歯噛みしながらも槍を構えた。これから起こる災厄を出来るだけ小さくするために。
 そこへ――。

「速いだけの棒球。打ち頃の一球だ」

 通りの中央に鳥坂が立っていた。
 周囲の人波は、バットを振る鳥坂を不審に思い、避けて通っている。鳥坂の背後には疲れた様に自転車によりかかるRもいた。
 ポカンと開いたその場所で、鳥坂は不敵な笑みを止めずに、足場をしっかりと確かめてスタンスを取った。
 バットの先で涙子を指した後、しっかりと構える。
 待ち構えるは落下する生首だ。

「おぜうさん、構えろ! 私の打球は伸びるぞ!」

 落ちる《飛頭蛮》も鳥坂の姿に気付き、憎しみの表情を浮かべた。

『またキサマかぁぁぁぁ!!』

 鳥坂のバットが光を纏う。それは《霊力》と呼ばれるものだと、鳥坂は知らない。

「安心しろ、もう会うことはあるまい!」

 鳥坂はバットを振るった。足から腰へと綺麗に力が伝わっていく。バットは《飛頭蛮》の真芯を捉えた。

「吹っ飛べッ!!」

 飛んできた《飛頭蛮》に周囲の人並みが悲鳴を上げるものの、それは一瞬。
 鳥坂が勢い良く打ち返す。
 ややフライ気味に飛ばされた《飛頭蛮》は、一直線に涙子に向かう。

『アァァァァァァァァァ!!』

 生首の顔を恐怖が再び覆った。

「貰ったァァァァァァ!!」

 対する涙子は戦意を漲らせた表情で、《槍》を大きく構えてる。
 宙を舞いながら、構えた《槍》を勢い良く振り下ろした。その軌跡は《飛頭蛮》の額から顎先にかけてを横断し、綺麗に真っ二つにする。
 二つに分かれた生首は、怨嗟の悲鳴を上げながら消えていく。

「わわわわわ!」

 そして、慌てたのは涙子だ。勢い良く飛び出したものの、場所は空中。勢いをうまく使い、向かい側のビルの壁に槍を突き立ててしがみ付く。
 背後では、愛衣がビルの欄干越しにほっとしていた。

「うむ、なかなか良かったぞ、おぜうさん!」

 下では鳥坂が中指を立てながらハハハと笑っていた。Rも何故か似たように笑っている。

(あの鳥坂って人、変だけど悪い人じゃないみたい)

 周囲では涙子の姿や、鳥坂の行動に人が集まり、興味深げに見つめていた。

「あ、あの! ありがとうございます!!」

 涙子は鳥坂に向かい、声を張り上げた。

「はははは! な~に、助かったのはこちらだ!」

 鳥坂も大声で言い返す。
 ふと、遠くからサイレンが聞こえた。

「む、警備員(アンチスキル)か? おぜうさん、さっさと逃げる事を薦めるぞ。私もさっさとトンズラだ」

 鳥坂はヒラリと自転車の後部に飛び乗り、Rの頭を小突いた。Rもそれが合図と分かっているのか、自転車を漕ぎ始める。

「さらばだ! また会うときはお茶でも奢ろうッ!」

 そう言い残すなり、鳥坂の姿はあっという間に消えてしまう。

「あっ……」

 涙子としては、鳥坂に言いたい事、言わねばならない事が沢山あった。名残惜しいながら、どこか清々しさもある。

(台風みたいな人だな)

 涙子は口元で笑みを作った。

「さ、佐天さん! 急がないと、なんか来ちゃいますよ!」
「えぇ!?」

 ビルの壁に噛り付きながら、愛衣にせかされて見れば、通りの向こうに車が数台見えた。

(ヤ、ヤバイ……)

 涙子は壁を足場に一気に飛び上がり、愛衣と共に逃亡を開始する。
 空を飛び、屋根を跳躍しながら、涙子は愛衣に語り始める。涙子の意思、涙子なりの決意を。

「佐倉さん、あのね私――」



     ◆



 この日を境に、学園都市内のネットのあるブログで小さな論争が起きる。
 都市伝説を扱ったそのブログでは様々な記事が投稿されていた。
 その一つ『怪奇! 毛玉人間。夜の街に忍び寄る恐怖!』という、なんともチープな記事内で、毛玉人間なるものを庇護するコメントが増え始めるのだ。
 当初は、地面に付くほどの長髪で体を覆った不気味で汚い男、などというイメージが先行していた。先日の通り魔事件も悪いイメージを加速させ、気持ちの悪い容貌や、槍を持つ、包丁を持つなどという暴力的な風聞があっという間に広がっている。
 だが、次の日の電車の暴走事故を境に、毛玉人間を庇護するコメントが増えていく。
 この事件を解決したのがこの毛玉人間だ。事件の被害者と名乗る人間のコメントが書き込まれた。
 最初は冷ややかに対応されていたが、徐々に増えていくうちに、記事内での毛玉人間なる存在への評価が変わっていった。
 存在そのものへの疑いも、いくつもの撮られていた写真により、現実味が増していく。
 曰く『美少女だ』や『美女だ』というコメントに、一部の人間がイラストを描き上げて熱狂する場面もあった。『毛玉たん』などというトチ狂った愛称まで出来る始末である。
 しかし、ただ静かに小さく、その存在が《学園都市》の中に受け入れられていったのだ。



 第十話 END









 あとがき

 前回から一週間以上空いてしまいました。
 どことなくこのまま終わっても違和感無いですが、もうちょっとだけ続きます。
 感想お待ちしてます。


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