そして、君達が三脳と親しむ管理局最高評議会の面々は――――――今や真っ黒な魔力光に覆われていた。1:~12/25-60day~『闇の根源』『おお地球…………なんと美しい青か…………』『管理したい…………可及的速やかに…………草木一本……………生物の細胞の一片まで余さず管理したい』『飢餓…………内戦…………人の業に縛られし、今だ最上の力に目覚めぬ現地住民に、管理局の威光を知らしめたい…………』 傍らにたたずむ秘書官は、2年前から特に様子がおかしい3つを、汗しつつも監視していた。『秘書よ…………かの地に送り込んだ犯罪者達は…………何処まで勢力を広げて居るか…………』「はい、いまだUMINARIと呼ばれている地域の沿岸部に押し止められたままですね」『…………遅い!』『…………今だ国一つ落としても居ないとは…………』『…………忌々しきUMINARIの…………変態共め…………いまだ魔法文化を受け入れぬのか…………』――――――親の心子知らず、見たいな口ぶりである。「あの、恐れながら申し上げますが…………最近の強行的な命令系統に一般局員からの反発があがっています。管理外世界への理念にそぐわぬ介入も、噂ながら広まっておりますが」『…………構わぬ…………捨て置くがいい…………』『…………所詮はただの手駒…………いずれ我々のとった行動が…………次元世界の益に成るものと思えば…………』『…………あらゆる世界は…………魔法と我等の元に…………』『『『――――――管理ィィィィ!!管理されるべきなのだァァァァァァァァァァァ!!』』』 どうしよう、こいつら明らかにおかしくなっちゃってるよ? 泣きそうな顔で秘書は、先日のメンテナンスの結果を検分する――――――問題なし。 だがしかし――――――あの闇の航路が開く前までは、絶対にこんな黒い魔力光発してなかったし!?『時に秘書よ…………例の実験施設から…………人工魔導師計画の進展は届いて居るか…………?』「は、はっ――――――実験動物は極めて非協力的、量産化の成功例なし、とのことです」 それは、口封じと研究の発展をかねた、一石二鳥の策ではあったのだが…………『…………おそいぃぃぃぃ…………かの地球に送り込めば…………より効率的に魔法が広まるものを…………』『…………これでわぁぁぁ…………計画を早回しにした…………意味が無いではないかぁぁぁぁぁ!!』『…………次元世界の住民が風邪でも引いたらどうするゥゥゥゥ!?』――――――――――――風邪全然カンケイないわッッッ!!と、秘書脳内でツッコミ。『『『かくなるうえわぁぁぁぁ!!あのアンリミデッド・デザイアもぉぉぉぉ!!実験動物としてぇぇぇぇぇぇ!!!!!』』』 ゴゴゴゴゴ、と唸りを上げながら漆黒の魔力光を放つ培養層。 なんか重なり合った影(?)に角まで生えているように見えるのだが…………? 何にせよ、これはやばい――――――そう思った秘書官は脳内で様々な策を練る。 このままでは愛すべきドクターにまで危害が及ぶ可能性がある。 説明しよう――――――――――――三脳の秘書官は、悪の科学者ジェイルが秘密裏にけしかけた『戦闘機人』である。 其の名もドゥーエ、彼女は愛すべき主のため、意図せず次元世界の平和を支え続けているのだ!!2:~12/25-42day~『スーパークロノタイム(反逆編)』「いたぞ!そっちだ!!」 本局の施設内を武装局員が駆け回る――――――追いかける相手はもっぱら噂の黒いヤツ。 もちろんGではない、最近、よりにもよって本局内部で、最重要機密をものすごい勢いでハッキングする少年がいるのだ。 果たして一体何者か――――――今、ダストシュートに飛び込んだ少年はその仮面を外す。「くそう…………今日も2人の所在は突き止められなかったか…………」――――――クロノ・ハラオウンその人である。 今だ『無限書庫』に絶賛立てこもり中と黙されるアースラ・スタッフの中に居る、と思われている彼は、レティ提督が面会したのを最後に軟禁場所を移された母と、連れ去られたNEWフェイトの行方を追っていた。 薄暗いゴミための中を這い回り、デバイスを機動させる。 この5ヶ月で、本局内のサーバーから個人端末に至るまで、ほとんどの情報を漁ったはずである。 これ以上の秘密を探るならば、最高評議会まで疑う必要があるのだが…………流石にそこまでは手が伸ばせるかどうか。 だがしかし、度重なる情報収集の果てに、今管理局が正常に動いていないことは明らかになった。 本局上層部からの直接指示がちぐはぐな事、ロストロギアや押収品の横流し、意味不明な管理外世界への視察任務。――――――其の中でも『地球』への視察は群を抜いて多かったのが気になるが………… 『海』にしても各提督が自主的に管理世界を巡回している現状。 まともに機能しているのは『陸』位のものらしい、正直うらやましくなってきた。 果たして各部署、情報取り扱いのずさんさから、ここまで何とかやってこれたが、流石にそろそろ潮時か? だがしかし、母もさることながらあのNEWフェイトが裁判前に脱走するなど考えがたいことである。 地球の友人達から初めて届いたビデオレターを渡したときの、あの笑顔をクロノは忘れられぬ。 一刻も早く管理局の依託となって、なのは達に会いに行くのだ、と語った彼女をどうして疑うことが出来よう。 絶対に、何か厄介事に巻き込まれたはずだ。 そして真っ先に疑うならば、彼女の身柄を保護していた管理局だ――――――溜め息をついた、其の瞬間である。 突如空間に穴が開き、其処から槍の穂先が飛び出した。 其れがザシュッと閃くと、人が一人通れそうな裂け目になり、中から現れるのは赤毛の少年。 彼はもしや――――――――――――あの、黒い腕が現れた時の!?*「君は――――――アールワンと同じ、高次元存在か?」 自分より少し、年の頃は下であろうか? おそらくは話に聞く、ベルカ式のアームドデバイスなのだろう槍を右手に。 左手にはよくわからない『ガングリップ付きのスマートフォンの様なもの』を手にした少年へ向け、クロノは問う。「あの人と一緒にされるのは、甚だしく心外なんですが…………お久しぶりです、クロノさん。僕の主観では何年振りになるんだろうな?――――――そちらは海鳴以来ですか?」 会話が成り立った、確かにあの海上決戦では、ろくに話も出来ない時分であった故。 槍をひょい、と肩に担ぎながら其の少年は言う。「今回も、フェイトさんを助けに行こうと思ってるんですけど…………足が無いんですよ。僕一人なら『ゲート』を潜れば行けるんですが、フェイトさんが潜ったら最悪『金色の闇』と同化しちゃうかもしれません。と、いうわけでこれから指示する場所に船を一隻、よこしてもらえませんか?すでに『あの人』も敵地に向かっています――――――最悪待ちぼうけになりますから」 なかなか無茶なことを言う、自分はクロスオーバーな人なので、と続けるその意味もわからぬ。 そして『あの人』とは、一体何物であろうか? ずいぶん親しげに呼ぶ以上、アールワンではなさそうだが。――――――――――――だがしかし、手がかりの一切無い現状、クロノは其の賭けに乗ることにした。 母親は見捨てることになろうが、レティ提督から聞かされたとおり、NEWフェイトだけでも助けなければならない。「――――――君の名前を、おしえてもらえるか?」 デバイス間で情報を共有しながら、クロノは赤毛の少年に問うた。 S2Uに流れてくる無人世界の位置、違法研究所の間取り、研究されている『人工魔導師』の内容―――――― 恐るべき精度だ、まるで自身が見て来たかのように!!「エリオ・M・T・ハラオウン――――――かつては貴方の家族でした」 『ガングリップ付きのスマートフォンの様なもの』から放たれる光、其れを切り裂くと再び世界を隔てるゲートが開く。 駆け寄って其の真意を問いただす前に、エリオと名乗る其の少年は手で制する。――――――あまりゲートに近づかない方がいい、リンディさんと糖尿病に苦しみたくなければね。 最後まで訳のわからないことを言いながら、やがて少年の姿は消えた。「母さん――――――まさか隠し子なんて居ないだろうな――――――!?」* エイミィ・リミエッタは薄暗い無限書庫のカウンターに座り、次々と寄せられる『闇の書』の秘密をまとめていた。 まるで何かに導かれるように、続々と集まる情報。 いやそれにしても、まさか『闇の書』は『闇の書』でなかったなどとは、恐れ入る。 この数ヶ月篭っただけの価値は有る――――――情報収集は数だよ執務官!といった按配である。 だがしかし、そんな彼女の端末に一通のメールが送られた。 差出人は不明――――――定時連絡をくれるレティからでも、クロノからでもない。「…………これは!?」 人造魔導師研究所、違法な魔導研究所の在処、其処に行方不明のNEWフェイトが捕まっているという。 足元にいる子犬を抱きかかえ、エイミィは力の限り叫んだ。「――――――全員集合!!!!!!!!!!!!!!」 するとまあ、書架の影から出てくる出てくる――――――総計百名近いアースラの隊員達。 この数ヶ月の隠遁生活ですっかり蒼白くなったブリッジ要員、ヒゲを生やしっぱなしの武装隊。 どいつもこいつも無重力空間に慣れきって体が鈍っている体たらく。 だがしかし、この無限書庫における時間は無駄ではなかったと信じたい。 上から下まで、規律以上に結び付けられた其の絆、唯一無二とエイミィは誇りに思う。 そして、ずらりと並んだアースラ・スタッフを前に、まさにジャストなタイミングで開け放たれる無限書庫の扉。 逆光に染められたその黒いシルエット――――――セクシーも極めれば刃と同じになるって知ってたか? そういわんばかりの艶姿を晒す仮面の男、其の名も!!「クロノく――――――」「「「「「――――――――――――メンズナックル・ボーイ!?」」」」」(――――――えええええええええ!!??) 自分だけ取り残された?そんな不安を拭えないエイミィを置いて、クロ――――――メンズナックル・ボーイが告げる。「諸君――――――愛すべきアースラの家族諸君!すでに聞き知っているものも多いと思うが、今まさに管理局の舵は無軌道に取られ、其の道を見失っている。――――――何故、我等が艦長は、その姿を見せないのか?――――――なぜ、我等がこの手で救い得た少女が、其の行方をくらませたのか? 我等はその真意を確かめる、冒険に出ようと思う」「「「「「執務官!執務官!執務官!!」」」」」「否、自分はもう管理局と歩む道から離れ、真に次元世界の求める平和を切り開く、戦士となる覚悟を決めた。故に自分はこれから慣れ親しんだ船に乗り、まずは自身の意思でとある違法研究所を落としに行こうと思う。――――――法の傘から離れ、真実を追究する勇気はあるか?――――――――――――其の腕で、其の力で助けを求める少女を抱きとめる意思はあるか!――――――――――――――――――管理局へ反旗を翻すのが怖い臆病者は置いて行くぞ!?」「「「「「戦士!メンズナックル・ボーイ!我等のエース!!」」」」」「NO!ジャックだ!!――――――われらは、管理局から見れば次元航行船を乗っ取った悪人と思われるだろう!だがしかし、正しき管理局の理念は我々の胸に残っている!ならば我々はこの百名に満たぬ我々で!――――――最後まで、次元世界を守る存在であり続けよう!!」「「「「「いぇあ!GET BACK TO アースラ!アースラ!!」」」」」 こ い つ ら www 最!高!潮!である。――――――正直途方にくれていたエイミィ、しかしそんな彼女にクロノは手を伸ばした。――――――何かをよこせと手をくいくい動かしている。「はい」 抱えた子犬を渡してやる、反射的に背中をなでくりまわすも、其の正体に気づいたクロノ驚愕!!「ちょ!――――――こいつアルフなのか!?」「うん、日に日にNEWフェイトちゃんから送られてくる魔力が少なくなっていくんだって?仕方ないからみんなで考案したんだよ、子犬フォーム」「くろのぉ…………NEWフェイトを…………たすけておくれぇ…………」 わかった、皆まで言うなと手で制するクロノ、再び気を取り直すとカウンター上の端末を指差す。 ざっと目を通すも、やはり気になるのは差出人不明の、例のメールである。「――――――これは!!」「うん、ついさっき届いたフェイトちゃんの居場所。無人世界の、なんかの研究所みたいなんだけど…………信じても良さそう?」 なんか君も違法研究所落とすとか言っていたけれども、と疑問符を飛ばすエイミィに、S2U内のデータを見せる。「え!?同じ場所――――――」「これはさっき会った、高次元存在から貰った情報だ――――――ひょっとしたら自分の弟かもしれない」「なにそれ!?」「僕が知るか!?――――――ともあれ、だいぶ信じても良さそうな情報だ。寧ろ無視して事態が好転しそうにも無い、船を回せというのも、其の高次元存在がリクエストした。巻き込むみんなには、申し訳ないと思うが……………」――――――アースラぁぁぁぁぁ!ファイ・オーファイ・オーファイ・オー――――――「大丈夫、みんな乗り気みたいだし」「…………よし、みんなアースラに乗艦だ!!」 うおおおおおおおぉぉぉぉ!と、我先に無限書庫の出口に殺到するアースラスタッフ。――――――――――――だがしかし、彼等は尽く部屋を出たところで崩れ落ちた。「執務官…………すんません…………」「5ヶ月ぶりの1G…………きついっすぅぅぅ…………」「ちょwwwおまえらwww」 本当に上手くやっていけるのか――――――しかしクロノが不安に思ったその時である!! 100人乗っても大丈夫そうな大八車を引いてくる、なんか変なボディスーツを纏った女が彼等の前に現れた。 紫色のショートカットで、なんか胸のプレートにはイタリア語で『3』と書いてあった。「――――――乗っていくかい?」「――――――――――――たすかる」* そして、本局の管制塔は壮絶な騒ぎに見舞われた。 ドックに固定されたままのアースラが、始めのろのろと、宇宙空間に出た後は猛然と出航したのである。――――――――――――もちろん無許可だ。 慌てて現場に駆けつけた整備員や保安要員が見たのは、謎の大八車と地面を猛ダッシュした女性らしい足跡のみ。 すぐさまこのわけのわからない事態を上層部に報告、しかし、そんな彼等に返されたのは目を疑う指令であった。「アースラの追撃に…………巡航L級12番艦と、本局戦技教導隊…………全員!?」3:~12/25-42day~『造られた希望(ムーンチャイルド)』 ―――――そしてとある無人世界の岩の上で、真新しい研究施設を見下ろす影、二つ。「マッド共め…………古巣の中で、好き勝手に命をいじくっていると見える、が。――――――創造主気取りも今日で終わりだ。――――――――――――いけるな?『八頭身』」 エリオ・M・T・ハラオウンが空に目を向けると、其処にはふわふわと中を浮く気持ち悪いシルエット。『safe mode――――――start to zamber form』 当人は黙して語らず、だがしかし其の手に携えた『フェイトの愛機』が、変わりに主の奪還を誓う。 巨大に輝く刀身は、長い手足で振り回すのにうってつけですらあった。「――――――結構、それじゃあ、いこうか?」 右手に携えたエリオの槍が、ものすごい勢いでジェットを噴射する。 地をすべるように突撃する、やがてフェイトを守る騎士。――――――――――――目指すは彼が、かつて彼女に救われた違法研究所であった。* 違法研究者達は途方にくれていた。 モルモット――――――フェイト・テスタロッサの非協力的な態度は限度を超えていたのである。 すでに投薬や懲罰は限度を超え、これ以上は精神にも肉体にも致命的な決壊を招く恐れがある。 だがしかし、彼女の強固な精神をどうにか屈服させなければ、データを取るにも少なくない重軽傷者が出る始末だ。 スポンサーからは早く結果を出せと日々せっつかれる始末、そんな時である。――――――研究所の所長が、自分の下に少女を連れて来いと命じた。 頷く研究者達、所長は机の引き出しから、一枚の写真を取り出した。「ご機嫌はいかがかな?フェイト・テスタロッサ?」「いいわけないだろう…………それに…………今の私は、NEWフェイトだ…………」 手足を錠され、ボロボロになりながらも、そこんとこ大事よ?と笑いすら浮かべるNEWフェイト。 ふむ、と一つ頷いた研究所所長、何事か考えながらNEWフェイトの元へ近づく。「実は君の機嫌がよろしくないと、我々の理想はどんどん遠ざかって行く。どうか一つ、君も科学に貢献するため、おとなしく実験に協力してくれまいか?」「…………どうかな…………これだけの時間を使っておきながら…………いまだ一人も私の妹を生み出せないなんて、貴方達のおつむは飾りのようだ…………私の母さんなら…………今頃バレーボールのチームが出来るくらい…………たくさんの人工魔導師を生み出しているはずだぞ…………」――――――其れはそれで困らないかね?と問う所長。――――――ぜんぜん?と100%疑問符のNEWフェイト。「ところで母親か――――――君の母、プレシア・テスタロッサは我々の専門外だが、優秀な技術研究者として、名前くらいはしっているよ…………君に似て、実に美人だ」 懐から写真を取り出して、これ見よがしに眺める研究所所長。 NEWフェイトの目が見開かれる、気絶しながらも尚、握り締めて離さなかった母の写真。 その内容は不明だが、母の安否を示す大切なものであった。「それを…………返せ…………かあさんのしゃしん…………」 だがしかし、所長はライターを取り出すと、其の写真に火をつけて、ゴミのように地面に落としたのだ。 焼かれてゆく、母の肖像――――――唯一プレシアが生きていると証明する一枚が――――――「あ…………あ…………」「常々忘れないことだ――――――君の命だけでなく、君の大切なものも全て、我々が握っているということを」 だがしかし、その時である。 研究所全ての電源が、一斉に落ちた。 そして階下から響き渡る悲鳴、爆撃で受けたかのようにひび割れる天井。「実験体を独房に入れろ――――――絶対に死守するんだぞ!!」 手下の研究員に投げ渡すように、子供のように泣きじゃくるNEWフェイトを押し付けると、瓦解する天井の先、所長は見た――――――遥か上空で身の丈ほどもある大剣型デバイスを構え、こちらに稲妻の如く迫る魔道生物!――――――――――――なんだあれ!?なんなんだアレ!?ヤベぇ!!――――――――――――――――――逆襲と、NEWフェイトの奪還を誓った其の存在は『八頭身』! 其れは今まさに、大上段から、目を輝かせる所長へ向けて、その魔法刃を振り下ろし――――――*「畜生…………何がどうなってやがる…………?」 地下のシェルターを兼用した独房に向かう途中、研究者達は累々と倒れている警備員の姿を見た。 あるものは切り裂かれ、刺され、又あるものは電撃に焼け焦がされていた。――――――そして理解不能なことに、一部の警備員はなんか生臭かった。 NEWフェイトの髪を掴んで引きずりつつ、何とか彼は其の少女を捕らえる鉄格子までたどり着いたのだが…………「おい!貴様誰だ!?」 独房の中には何故か先客が居た――――――狭い部屋の壁に、槍を使って何かを刻み付けている。『助けは必ず来る――――――《ガンクロス》との誓いを忘れるな――――――』――――――――――――何のことだ?「……………だめですよ?…………女の子の髪をそんな風に乱暴に扱っちゃ…………」 振り向いた赤毛の少年は槍を手放し、その拳に紫電を蓄える。 身構える一瞬すらなく、それは見事、研究者の股間に叩き込まれた。――――――――――――陰茎とシナプスに直接響く電流!よく解からぬ白い液体を漏らし、悶絶しながら吹き飛ぶ警備員。「大丈夫でしたか?すぐ外に出ましょう」 袖で涙を拭われながら、フェイトは其の少年を見た。 自分よりも少し年上であろうか?優しそうで、頼りになりそうな赤毛の少年。「――――――貴方は?」「すいません、僕のことよりこの施設と研究員の顔を、出来ればしっかり覚えて置いてください。フェイトさんは、生涯もう一度だけこの施設を訪れて、彼等を倒し――――――世界を救います」 ひょい、とフェイトの体を抱えあげる少年――――――エリオ・M・T・ハラオウン。 其の姿を見るだけで、彼の触った場所からも、何故か彼女の体はびくんびくんと電流を受けたように甘くしびれるのである。* だがしかし、出入り口に向かう二人を――――――――――――研究所はただで通しはしなかった。 何かの研究対象であろうか、10メートルはある強大な人工魔道怪獣が正面エントランスで暴れ周り。 必死の形相でバルディッシュを振り回す存在が、その脅威を食い止めていた。「私のデバイス!?」 自身の切り札ともいえるザンバーフォームすら操るとは、一体何者か――――――八頭身!! 其の姿を見留めた、フェイトを抱きかかえていた少年はゆっくりと彼女の体を下ろし、再び槍を手に取った。「ここで少し、待っていてください――――――あの人を加勢してきます」 2対1――――――否、息のあったコンビネーションを見せる二人は其れ以上の働きで怪獣を圧倒する。 しかし、数の優位に多少の隙を見せたか八頭身――――――手にしたデバイスを弾き飛ばされる。「バルデッシュ!?」 放物線を描き、怪獣を挟んだ向こう側へ飛ばされるバルディッシュ・ザンバー。 怪獣の猛攻に少年と八頭身はたどり着くことの出来ぬ様、だがしかし、手足の封じられた自分になにができる!?――――――――――――その時、NEWフェイトの脳裏に電流走る!!「――――――ふぇ、フェイトそん!?」「――――――――――――!?」「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」 あろうことかNEWフェイト、体育ずわりの体制のまま、臀部を拘束振動させ地面を疾走してきたのだ!! これこそまさに!閉所空間専用立体高速機動《ヒップステップ》――――――早い話が『ケツだけ歩き』である。 ぷにんぽよんと壁や天井を跳ね回り、まるで白兜を思わせる動きで怪獣の背面に回りこんだNEWフェイト! 口にバルディッシュをくわえ、己が有る最大出力で魔力を開放する!!「ふぁるふぃっひゅ!(バルディッシュ!)」『yes master――――――Thunder Smasher』 再び少女の手に(口に?)戻る愛機、そして復活した魔法少女の放つ強大な一撃は、遂に魔導怪獣を轟沈させるに至った。4:~同日~『船出』 表でようやく戒めを解かれたNEWフェイト、八頭身の肩を借りて何とか立ち上がる。「いいですかフェイトさん、今の機動、絶対大人になったら使っちゃいけませんよ?」 M字開脚で疾走する保護者(予定)を想像して、頭が痛くなったらしいエリオ。 うんわかった、必殺技は出し惜しみしなきゃだね、とあんまりわかってないNEWフェイト。 しかし、背後に今だ佇む違法研究施設を見上げて、NEWフェイトはポツリと呟くのだ。「母さんの写真…………なくなっちゃった…………」 しかしさびしそうな少女と、其の肩にポン、と手を置く八頭身の姿を垣間見て。少年――――――エリオ・M・T・ハラオウンは、二人の手にそれぞれあるものを託した。 八頭身の手には自身の愛槍――――――ストラーダを。 そして、NEWフェイトの手には、色あせて少し古びた写真を、である。「――――――ふぇ!?」 其処に映っているのは穏やかな彼女の母親、それはいい。――――――しかし、其の傍らに映っているのは満面の笑みを浮かべたフェイト自身と。――――――――――――何故か難しそうな顔でこちらを向いているアリシアの姿である。「どういうこと?私、こんな写真取ったことないよ!?」「はははははははは、どうやら迎えが来たようですね。それではフェイトさん、貴方が次に僕と会うのは新暦の69年です。僕の方は――――――――――――ちょっといつ会えるのかわかりませんけれど」 懐から取り出した『ガングリップ付きのスマートフォンの様なもの』から光を放ち、紫電を蓄えた手刀で切り開く。 其の亀裂に、赤毛の少年が消えるのと同時に、頭上にはアースラが…………。 そして、仮面を被ったクロノ・ハラオウンが地表に降り立つ。――――――――――――のと同時に、なんか根暗そうな女が落ちてきた。「ふふふ…………私は『ハーヴェスト・オブ・ハーヴェスト』フィット…………私を倒した程度で教導隊を甘く見るなYO?所詮、私の得意戦技は…………魔力や体力の、緊急回復にあるのだから…………」「わかったからもうしゃべるな――――――何でいの一番に後方支援の隊員を追撃させたんだ教導隊」「――――――クロノ!!」 ふらつく足取りで少年に駆け寄るNEWフェイト、クロノは彼女をしっかり抱きとめると、決意を伴う口調で言った。「積もる話は後だ――――――NEWフェイト、これから『地球』に乗り込むぞ!!」――――――フィットのデバイスから放たれる回復魔法は、流石の戦技教導隊仕込であったとだけ、伝えておく。