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No.24888の一覧
[0] 【ネタ】ドールがうちにやってきたIII【ローゼンメイデン二次】[黄泉真信太](2013/02/17 03:29)
[1] 黒いのもついでにやってきた[黄泉真信太](2010/12/19 14:25)
[2] 赤くて黒くてうにゅーっと[黄泉真信太](2010/12/23 12:24)
[3] 閑話休題。[黄泉真信太](2010/12/26 12:55)
[4] 茶色だけど緑ですぅ[黄泉真信太](2011/01/01 20:07)
[5] 怪奇! ドールバラバラ事件[黄泉真信太](2011/08/06 21:56)
[6] 必殺技はロケットパンチ[黄泉真信太](2011/08/06 21:57)
[7] 言帰正伝。(前)[黄泉真信太](2011/01/25 14:18)
[8] 言帰正伝。(後)[黄泉真信太](2011/01/30 20:58)
[9] 鶯色の次女 (第一期終了)[黄泉真信太](2011/08/06 21:58)
[10] 第二期第一話 美麗人形出現[黄泉真信太](2011/08/06 22:04)
[11] 第二期第二話 緑の想い[黄泉真信太](2011/08/06 22:04)
[12] 第二期第三話 意外なチョコレート[黄泉真信太](2011/08/06 22:05)
[13] 第二期第四話 イカレた手紙[黄泉真信太](2011/08/06 22:05)
[14] 第二期第五話 回路全開![黄泉真信太](2011/08/06 22:06)
[15] 第二期第六話 キンコーン[黄泉真信太](2011/08/06 22:08)
[16] 第二期第七話 必殺兵器HG[黄泉真信太](2011/08/06 22:10)
[17] その日、屋上で (番外編)[黄泉真信太](2011/08/06 22:11)
[18] 第二期第八話 驚愕の事実[黄泉真信太](2011/08/06 22:12)
[19] 第二期第九話 優しきドール[黄泉真信太](2011/08/06 22:15)
[20] 第二期第十話 お父様はお怒り[黄泉真信太](2011/08/06 22:16)
[21] 第二期第十一話 忘却の彼方[黄泉真信太](2011/08/06 22:17)
[22] 第二期第十二話 ナイフの代わりに[黄泉真信太](2011/08/06 22:18)
[23] 第二期第十三話 大いなる平行線[黄泉真信太](2012/01/27 15:29)
[24] 第二期第十四話 嘘の裏の嘘[黄泉真信太](2012/08/02 03:20)
[25] 第二期第十五話 殻の中のお人形[黄泉真信太](2012/08/04 20:04)
[26] 第二期第十六話 嬉しくない事実[黄泉真信太](2012/09/07 16:31)
[27] 第二期第十七話 慣れないことをするから……[黄泉真信太](2012/09/07 17:01)
[28] 第二期第十八話 お届け物は不意打ちで[黄泉真信太](2012/09/15 00:02)
[29] 第二期第十九話 人形は人形[黄泉真信太](2012/09/28 23:21)
[30] 第二期第二十話 薔薇の宿命[黄泉真信太](2012/09/28 23:22)
[31] 第二期第二十一話 薔薇乙女現出[黄泉真信太](2012/11/16 17:50)
[32] 第二期第二十二話 いばら姫のお目覚め[黄泉真信太](2012/11/16 17:50)
[33] 第二期第二十三話 バースト・ポイント(第二期最終話)[黄泉真信太](2012/11/16 17:52)
[34] 第三期第一話 スイミン不足[黄泉真信太](2012/11/16 17:53)
[35] 第三期第二話 いまはおやすみ[黄泉真信太](2012/12/22 21:47)
[36] 第三期第三話 愛になりたい[黄泉真信太](2013/02/17 03:27)
[37] 第三期第四話 ハートフル ホットライン[黄泉真信太](2013/03/11 19:00)
[38] 第三期第五話 夢はLove Me More[黄泉真信太](2013/04/10 19:39)
[39] 第三期第六話 風の行方[黄泉真信太](2013/06/27 05:44)
[40] 第三期第七話 猪にひとり[黄泉真信太](2013/06/27 08:00)
[41] 第三期第八話 ドレミファだいじょーぶ[黄泉真信太](2013/08/02 18:52)
[42] 第三期第九話 薔薇は美しく散る(前)[黄泉真信太](2013/09/22 21:48)
[43] 第三期第十話 薔薇は美しく散る(中)[黄泉真信太](2013/10/15 22:42)
[44] 第三期第十一話 薔薇は美しく散る(後)[黄泉真信太](2013/11/12 16:40)
[45] 第三期第十二話 すきすきソング[黄泉真信太](2014/01/22 18:59)
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[24888] 鶯色の次女 (第一期終了)
Name: 黄泉真信太◆bae1ea3f ID:bea3f44c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/06 21:58
「マスター、何か僕にできることない?」
「ないね」

~十五分経過~

「マスター、何か僕にできることない?」
「ないなぁ」

~三十分経過~

「マスター、何か僕にできることない?」
「ある。その問い掛けをしないことだ」
「はいっ」

 これで静かになった。正直辟易していたんですよ奥さん。朝だってのに十五分おきに問いかけられて。
 この新入りの鋏持ち(今は直立不動で後ろに侍しておる)、コイツ等には珍しく、ゴム紐を通してやったことを恩義に感じているらしい。リサイクルショップで買ってきた肌着(五着入り千円)を着せるときも抵抗しなかったし、スカートもどきを作るときは率先してテスターを買って出てきた。
 うむ。まあ、こうでなくてはいかん。血も涙もないのは所詮陶製人形ゆえ致し方ないとしても、最低限の仁義は持っていなければな。
 ただ、問題もある。コイツ、常に何か活動したくてうずうずしているらしい。おかしい。どう見ても体の中に滾る血など通ってないんだけどなあ。
 それで冒頭の遣り取りと相成るわけだが、何かできることないか、と言われてもな。
 まず、手指が動かないから作業全般がほぼ不可能。剪定鋏だけはどっかから召喚して来れるが、生垣の刈り込みをさせるにも背が足りず、そもそもうちに生垣などない。
 昨晩はスカートもどきに使う布の裁断を試しにやらせてみたが、剪定鋏でまともに布は切れないらしく、すぐに「ますたぁ……」と情けない声を上げやがった。使えないことおびただしい。
 電話番、留守番、番犬代わりと考えてみたが、電話は留守電で充分だし、そもそも手が使えないから旧式の固定電話の受話器が持てない。留守番は下手をすると玄関先で死屍累々だから即座に却下。
 結局番犬代わり程度にしかならんが、それも家の中限定だ。迂闊に外で動いているのを見た人がいたら大惨事である。むう、別に他の連中と変わらんではないか。
 ん? いや待て。

「おお、そうだ。鋏!」
「……」
「……そーせーせき?」
「はいっ」
「なんか抵抗感があるが……まぁいいか。君に指令を伝えよう。ボロい我が家を守るため君がやるこの大使命だ。できるか?」
「……! できるよ僕! マスターが命令してくれれば、僕は何だって……!」
「じゃあ箸でそっちの茶碗からこっちの茶碗に豆を全部移してくれ。くれぐれも落とすなよ」
「……うぅ……」
「まぁそれは冗談だ。ちゃんとお前にできることだから安心しなさい」

 インスタントコーヒーと千切ったレタスとトーストと手抜きハムエッグ※ というインチキ朝食を摂り、僕は無人の家を後にした。
 (※ 小鉢にサラダ油を少し垂らし、卵を割りいれて上から薄切りスライスハムで蓋をする。ラップして一分チンして目玉焼きの出来上がり)
 教室に入ると早速石原が接近してきた。くそっ、あのニヤニヤ顔は何か既に情報は得てますよってことか。昨日のことはあまり思い出したくないぞ、いろんな意味で。
 そもそも、首尾は……うん。えーと、主観的要素を排して簡略に述べるとだな。
 うちのオンボロ人形にドール服が合うかどうか試しに行ったら、思いがけず無料で五体分も服を作って貰えることになりました。
 ……あれ? 大成功じゃね?
 おお、そうか。そうである。大成功じゃまいか。僕としては森宮さんを紹介してくれた石原に胸を張って応対すれば良いのである。
 良いのであるが、報告しながら昨日のことを思い出すと、何故かこの胸に敗北感が去来するのであった。

「へえ、そりゃおめでとう。上手いこと行ったもんだね」
「まぁな。思いがけず大勝利って感じだったぜ」
「ふーむ……で、それだけ?」
「は? いや、それだけも何も。あー、あと紅茶とクッキーご馳走になって、飲み方とか教わったな、うん」
「へえ」
「紅茶は美味かったし、クッキーは……手作りっぽかったけど不味くはなかった」
「ほうほう。それで?」
「それでって……森宮さんの弟くんに何やら美麗なドレス作って貰えることになって、帰ってきた」
「……はあ。……ま、いいか」

 ひらひらと手を振って石原は自分の席に戻っていった。わざとらしく首なんか傾げやがって。気になるじゃねーか。
 っていうかだな。なにを期待してるか知らんが、石原よ。そういう方面の進展はまず有り得んのだぞ。あの姉弟のラブ度見たら……。まだ、お前と僕の方が可能性として有り得るくらいだ。
 まあいいか。
 実は、紅茶とクッキーのお礼は用意してある。百均の近くの古道具屋で買った真鍮板金の手作りブローチである。値段はお察しだと思うが聞かないで欲しい。多分紅茶の葉っぱとクッキーの材料費くらいしか掛ってない。
 元はスペインだかどっかの土産物らしいが、なんとなくどっかで見たことがあるような形なんだよね。まあお人形には丁度よさげな大きさなんで、差し上げても失礼には当たるまい。使い道があるかは別として。
 いろんな意味で戦う前に敗北したとはいえ、これから度々顔を合わせる相手である。礼儀はしっかりせんといかんからな。元々の用向きは只でやって貰えるようになったんだから、尚更だ。
 ブツは昼休み、図書館で渡すことにした。呼び出すとか教室まで出向くという手段だと周囲に要らぬ誤解を招きそうで怖かったんですよ。ちょっと趣味や恋愛対象がアレではあるが、森宮さん美人だしなぁ。

 しかし、メシをさっさと切り上げて図書館に行った僕が目にしたのは、あまり芳しくない光景だった。
 真ん中で本を積み上げている森宮さんは確かに居た。だが、その隣で何か熱心に話し込んでいるのは、よりによって石原だった。
 ぐはぁ。なんてこった。
 いや、二人は知り合いだった訳だから、別に真面目な顔して何か話し合ってても別におかしくはないんだが、タイミング最悪だろ。見付かって追及され、プレゼントがどうとかいう話になったら洒落にならん。
 一番遠いところに陣取ってコソコソ見てみたが、二人の話はすぐには終わりそうにない。石原が珍しく難しい顔をしてるのも気になるが、近付いてったらここに居るのがバレそうだ。いや確実にバレる。
 暫く監視を続行したが、一向に動きそうもないので撤退しようかと思っていると、石原が立ち上がり、やれやれと首を振った。
 同時に、ヒソヒソ話が漸く普通の会話の音量になってくれた。

「……結局、暫くは様子見ってことだね。悔しいけど」
「そうね。ゲームとこちらの生活は関係がないもの」

 ゲームってーと、あれか。今度はお二人さんがやってるオンゲで揉め事が起きたって寸法だな。
 嵌った奴は真剣になっちまうって言うからな……。居るんだ、無料ってことで始めた癖にアイテム課金でバイト代全部吐き出してる奴とか。特に女子は費用はともかく、無駄にいろんな人間関係とかできちゃうらしい。
 石原が向こうの入り口に姿を消すのを、森宮さんは心配そうに見送った。石原の後姿も珍しく元気なく、やけにしょぼくれて見えたが、そこまで入れ込むほど嵌ってるのかよ。つか、揉め事は石原がらみかい。
 しかしドール趣味にでかい持ち家にあの弟くん、そんで今度はオンゲか……。一つ一つならともかく、ここまで重なって来るとちょっと森宮さんが境界線の向こう側の世界の人に思えなくもない。
 誰かのために一所懸命になれるってのは、良いとこだと思うし、好きなんだけどな。
 歩いて行って小さな声で呼ぶと、じっと石原の出て行った後を見つめてた彼女はびくっとして、こっちを向いたついでに顔を赤くした。あ、可愛い。いやいや大丈夫、聞いてません。内容までは。

「──昨日はありがと。あ、これ安物だけど、紅茶とクッキーのお礼ってことで」
「……! ありがとう。この少し使い込まれた感じ……素晴らしいわ」
「そんな喜んでもらうようなもんじゃないけど。人形の胸飾り辺りに丁度合うサイズかなって」
「そうね。象嵌細工ではないけど、真紅のオーベルテューレ版のブローチにぴったりなのだわ。流石にお目は確かね」
「……え、いや実はその辺は偶然なんだが」
「あら、偶然を装った必然かもしれなくてよ。全ては運命の糸車の紡ぐ糸が織り成すタペストリーの上の出来事なのですもの」

 判るような判らんような話をされたが、というか紡ぐのと織るのを一緒くたにしてええんかと思わんでもないが、取り敢えずよしとしよう。もう一度ありがとうと言ってくれた森宮さんの顔が上機嫌だったから。
 まあある種の関係については戦う前に敗北してしまったとはいえ、彼女は別の意味で特別な存在なのである。
 ドレス作りがどれだけ工数のかかるものかは知らないが、五体分となると膨大な手間が掛るはずだ。それを森宮さんの口利きのお陰で、渋ってた職人さんがロハでやってくれると言ってくれた訳だ。
 殊更にご機嫌取りまでするつもりはないが、やっぱり恩人が笑ってくれているのは気持ちの良いものだ。少なくとも、泣いたり心配そうな顔をされるよりは。

 まあ、出来上がるまでどんだけ時間が掛るか判らんので、当座のしのぎに幼児用の肌着を着せ、識別のためにそれぞれ別色のスカートを作る破目になったのは、痛し痒しだが仕方がない。
 なにしろ、家に戻ったらそそくさとどこぞに逃亡した黒いのは別として、残りの四つが喧しいのだ。
 それまで服を寄越せと煩いのは赤いのとせいぜいお貞だけだったのが、森宮邸で見たという美麗な人形に触発されたらしく、ツートンと鋏も騒ぎ始めてしまったのである。お陰で遅い昼飯もそこそこに百均に再出撃させられ、僕の日曜日は完全に潰れてしまった。
 このままで行くと次は上着とか言い出しかねん。それは勘弁願いたいものである。ただでさえ心許ない財布が悲鳴を上げ続けることになってしまう。

「おかえりなさい、マスター!」
「うおっ、大分張切っとるな鋏。不審者の侵入は許さなかったか?」
「はい、ばっちりです!」
「蒼星石は頑張っていたのです。言いつけられたとおり、ずーっと家じゅう巡回してたのですよ」
「ううむ、我ながらあまり想像したくない図だが……侵入されていないならば良し! ご苦労さま」
「えへへ……ありがとうございます……」
「あーっ、蒼星石だけずるいのー! ヒナもなでなでしてほしいのよ」
「ずるいかしらー」
「これは労働への報酬だからな。働いとらん残念人形まで撫でてやる趣味はない」
「なら、ヒナも働くのよ。しんにゅーしゃをげっきたいするのよー」
「かしらーかしらー」
「ん? かしら……だと?」
「……そうかしらー」
「……っておい。しれっと増えてんじゃねーよ」

 撫で損かよ。いやいやいやいや、そうじゃなくてだな。
 話を聞くと、鋏は確かに侵入者を許さなかったらしい。では何故新しいのが侵入できたかと言えば、理由は簡単であった。
 裏の縁側で仮死状態になっていた新しいのを、ツートンと赤いのとお貞が念動力で引っ張り室内に入れたのだそうな。侵入者ではなくて、コイツ等が外に落ちてた物を中に持ち込んだだけ。
 協力すれば障子やガラス戸を開閉できる程度の念動力を持っているのは知っていたが、見事にしてやられた形だ。ガラス戸をロックしとかなかった僕の責任てことかよ。嗚呼。
 手荷物扱いもアウトにしとくべきだった。っつーか、そういや漫画でも似たような展開だったっけか。

「は、放すかしら! カナはお風呂なんて必要ないかしらっ」
「いーや、お前は分解の上清掃が必要だ。持っただけで砂の音がシャラシャラするようなモノを家の中に置いとけるかっ」
「た、たすけてー! だめぇ壊れちゃうー!」
「うう……カナチビ、今は耐えるです。いつか生まれ変わって復仇の機会もあるかもですよ」
「カナ、気を確かに持つのよ。怖くない怖くないお前は新たな生命体として生まれ変わるのだ、なのよー」
「嫌ぁぁぁぁぁー!」
「はいはい解体終わり。やっぱゴム終了してるし。取り敢えずパーツごとに洗って干すからな……泥がひでぇ」

 しかしまた、酷いのが来たもんだ。
 服は最初っから裂けて半分しか残ってない。体中泥だらけ。今までの連中もそうだったが、コイツも手荒く遊ばれたらしく、あちこち剥げやら色褪せがある。
 コイツ等の不気味さを代表してるのが適当に入れられたドールアイで、例外なく藪睨みやら寄り目になってるんだが、新しいのはその点多少はまともな方。まあ、そこだけは良い。ていうかコイツ等自身で動かしたりする部分だけに微調整するのが異様に大変そうだから全員手付かずのままだ。
 遂に来たか、と思わされたのは、髪の毛だ。退色が物凄いうえ、緑色のスプレーで適当に色を塗り直されてる。マスキングもまともにされてなかったようで、顔全体に緑色の塗料の粒が散っている。
 毛の貼り付け際という生え際はもう見ないものとして、関係ない部分についたのは、ラッカーシンナーで落とすしかないだろうなこれは。
 それでまた表面の塗装とかが色変わりしたり、色褪せる訳か。処置無しだ。

「いっそ全部塗り直し、変なところは作り直し、髪の毛は貼り直しで完全お色直しした方がいいんじゃないだろか……」
「……ジュン」
「何だ赤いの。言っとくが僕にはその辺の技術はないぞ」
「判っているわ。貴方に財力や智慧がないことも」
「さらっと酷いこと言うのはあれか、お前の仕様かなんかか」
「事実を言ったまでのことだわ」
「あーはいはい。それで? たまには建設的な意見でも述べるつもりか?」

 赤いのはのそのそと歩いてきて、相変わらず苦戦しながらゴムを通している僕の手元を覗き込むような姿勢になった。構って欲しいのかもしれんが、生憎両手とも塞がっている。

「聞いて、ジュン」
「はいはい、聞いてますよ」
「私の姉妹は全部で七体。そのうち六体が既に姿を現した。残るはあと一体、私達の誰も見たことのないドールよ。それが姿を現したとき、私達のゲームは本格的に始まるの」
「そこだけアニメ版準拠なのかよ。……じゃあ、その七体目は多分偽物ってことになるなぁ」
「それは判らないわ。貴方の持っている漫画のとおり、実体を持たない幻影かもしれない」
「読んだのかよ。まあ大して有効な情報にゃなんなかっただろ? ギャップありすぎだし、既にどっちとも展開違ってる訳だし」
「どちらにしても、最後に残るドールは一体だけ。外のドールは壊れてしまう」
「随分潔い結末だな。普通の人形になる、とかじゃないのか」
「私達は人形だもの。人形の身体に宿った謎の神秘の生命体ではないの。……貴方には寂しい思いをさせてしまうことになるわね」
「いや、むしろ全部消滅してくれると有難い訳ですが」
「……寂しい思いをさせてしまうことになるわね?」
「……はい、そうですね」
「それで、ジュン……貴方には辛いでしょうけど、誰が残ることになっても恨みっこなしにして欲しいの」

 ああ、なるほどな、と僕は理解した。なんか悔しいが、コイツの本当に言いたいことが大体判っちまった。
 しかし大学生ジュン君じゃないが、そういう思いを向けられてもな。なんつうか。

 まぁ、なんだ。骨──はないから、全員分の残骸くらいは拾ってやってもいい。気分が乗ったら最後に残ったヤツと一緒に泣いてやるかもしれない。
 集めた破片は供養してやってもいいし、好きなところに持っていって埋めてやってもいい。行ける範囲ならな。
 ただ、一つだけ提案がある。

「待てないか、その開戦」
「……え?」
「七体目がいつ出てくるにしても、戦闘開始すんのは全員分のドレスが出来上がって来るまでは待ってくれないかな。──その間はお前の襲撃もナシでな、黒いの」
「! ……気付いていたの? 私が居たことに」
「おわっ、ホントにいやがった」
「カ、カマを掛けたって言うのぉ? いい度胸じゃなぁい。ジャンクに──」
「──はいそれダウトでお願いします」
「ぐっ……」
「多分、僕なんかよりは余程お前等のことを心配してる人がいて、その人の口利きでやっとお前等の衣装が作って貰えることになったんだ。その思いを踏みにじったらいかんだろうよ。……さて、かんせーい」

 余ってた肌着を着せて、干してる間に用意しておいた黄色のスカートを巻いてやって出来上がり。同時に、風呂場の入り口からわらわらと他の連中が寄ってきた。悪いことに全員である。
 洗ってスプレーが大分色落ちしてうぐいす色っぽい髪になった新しいのは、すぐに目を覚ましてかしらーかしらーと連発し始める。かしらーなのよーうるさいですぅきみもねなのだわくだらなぁい、と狭い風呂場はたちまち騒音の渦に飲み込まれる。
 僕は道具を抱えてそそくさと撤収した。正直煩すぎてやっとれん。

 まあ、なんだ。森宮さんと弟くんには悪いが、もう一体分追加で作って貰うことにしよう。大きさはツートンのやつと同じで。
 何ならうぐいす色だけ持って行って採寸して貰ってもいい。ボロなりに形は整ってるから、動き出さない限りは目を回すようなこともあるまい。
 折角綺麗な衣装を作って貰えることになったんだ。
 赤いのの話では七体中六体までは破壊される訳だから、多分殆どの連中にとって死に装束になっちまう訳だが、それだって構うまい。一生ウェディングドレス着て生活してる奇人が早々いるとは思えん。
 あれでも一応全員女の子らしいから、一度くらい綺麗なドレスを着させてやってもいいだろう。

 布団を敷いていると、黒いのが一人で先に上がってきた。勉強机の上に乗っかって、少し藪睨みの視線をこっちに向けている。
 くれぐれも襲撃すんなよ、と言い置いて僕は布団に包まった。わかったわよぉ、と間延びした返事が返ってきた。


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