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No.24888の一覧
[0] 【ネタ】ドールがうちにやってきたIII【ローゼンメイデン二次】[黄泉真信太](2013/02/17 03:29)
[1] 黒いのもついでにやってきた[黄泉真信太](2010/12/19 14:25)
[2] 赤くて黒くてうにゅーっと[黄泉真信太](2010/12/23 12:24)
[3] 閑話休題。[黄泉真信太](2010/12/26 12:55)
[4] 茶色だけど緑ですぅ[黄泉真信太](2011/01/01 20:07)
[5] 怪奇! ドールバラバラ事件[黄泉真信太](2011/08/06 21:56)
[6] 必殺技はロケットパンチ[黄泉真信太](2011/08/06 21:57)
[7] 言帰正伝。(前)[黄泉真信太](2011/01/25 14:18)
[8] 言帰正伝。(後)[黄泉真信太](2011/01/30 20:58)
[9] 鶯色の次女 (第一期終了)[黄泉真信太](2011/08/06 21:58)
[10] 第二期第一話 美麗人形出現[黄泉真信太](2011/08/06 22:04)
[11] 第二期第二話 緑の想い[黄泉真信太](2011/08/06 22:04)
[12] 第二期第三話 意外なチョコレート[黄泉真信太](2011/08/06 22:05)
[13] 第二期第四話 イカレた手紙[黄泉真信太](2011/08/06 22:05)
[14] 第二期第五話 回路全開![黄泉真信太](2011/08/06 22:06)
[15] 第二期第六話 キンコーン[黄泉真信太](2011/08/06 22:08)
[16] 第二期第七話 必殺兵器HG[黄泉真信太](2011/08/06 22:10)
[17] その日、屋上で (番外編)[黄泉真信太](2011/08/06 22:11)
[18] 第二期第八話 驚愕の事実[黄泉真信太](2011/08/06 22:12)
[19] 第二期第九話 優しきドール[黄泉真信太](2011/08/06 22:15)
[20] 第二期第十話 お父様はお怒り[黄泉真信太](2011/08/06 22:16)
[21] 第二期第十一話 忘却の彼方[黄泉真信太](2011/08/06 22:17)
[22] 第二期第十二話 ナイフの代わりに[黄泉真信太](2011/08/06 22:18)
[23] 第二期第十三話 大いなる平行線[黄泉真信太](2012/01/27 15:29)
[24] 第二期第十四話 嘘の裏の嘘[黄泉真信太](2012/08/02 03:20)
[25] 第二期第十五話 殻の中のお人形[黄泉真信太](2012/08/04 20:04)
[26] 第二期第十六話 嬉しくない事実[黄泉真信太](2012/09/07 16:31)
[27] 第二期第十七話 慣れないことをするから……[黄泉真信太](2012/09/07 17:01)
[28] 第二期第十八話 お届け物は不意打ちで[黄泉真信太](2012/09/15 00:02)
[29] 第二期第十九話 人形は人形[黄泉真信太](2012/09/28 23:21)
[30] 第二期第二十話 薔薇の宿命[黄泉真信太](2012/09/28 23:22)
[31] 第二期第二十一話 薔薇乙女現出[黄泉真信太](2012/11/16 17:50)
[32] 第二期第二十二話 いばら姫のお目覚め[黄泉真信太](2012/11/16 17:50)
[33] 第二期第二十三話 バースト・ポイント(第二期最終話)[黄泉真信太](2012/11/16 17:52)
[34] 第三期第一話 スイミン不足[黄泉真信太](2012/11/16 17:53)
[35] 第三期第二話 いまはおやすみ[黄泉真信太](2012/12/22 21:47)
[36] 第三期第三話 愛になりたい[黄泉真信太](2013/02/17 03:27)
[37] 第三期第四話 ハートフル ホットライン[黄泉真信太](2013/03/11 19:00)
[38] 第三期第五話 夢はLove Me More[黄泉真信太](2013/04/10 19:39)
[39] 第三期第六話 風の行方[黄泉真信太](2013/06/27 05:44)
[40] 第三期第七話 猪にひとり[黄泉真信太](2013/06/27 08:00)
[41] 第三期第八話 ドレミファだいじょーぶ[黄泉真信太](2013/08/02 18:52)
[42] 第三期第九話 薔薇は美しく散る(前)[黄泉真信太](2013/09/22 21:48)
[43] 第三期第十話 薔薇は美しく散る(中)[黄泉真信太](2013/10/15 22:42)
[44] 第三期第十一話 薔薇は美しく散る(後)[黄泉真信太](2013/11/12 16:40)
[45] 第三期第十二話 すきすきソング[黄泉真信太](2014/01/22 18:59)
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[24888] 第二期第二十一話 薔薇乙女現出
Name: 黄泉真信太◆bae1ea3f ID:94fc6b41 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/16 17:50
 ~~~~~~ その日、ある時刻から十数分前 ~~~~~~


「あ、マキちゃんさん出てきたですぅ」
「お話はもう良いのかしらー」
「お陰様で終わったわ。桜田君は?」
「ルミちゃんさんと出てっちゃったのー」
「用があるなら呼んでくるよ!」
「おやめなさい。二人には二人の事情があるのでしょう。今は二人きりにさせてあげるのだわ」
「それに……迂闊に出ていって誰かに見られたら……また犠牲者が……がくぶる」
「ちょっとぉ、犠牲者ってなによアンタ、自分だけちょっと見た目が良いからってぇ」
「い、いえ……そういう意味じゃ……うぅ」
「楽しそうで何よりだけど、その辺にしてくれる? 扉の向こうの男が呼んでるのよ。貴方達みんなをね」
「……それって……」
「悪いけど、刻限が来たってこと。欠片が一つに戻り、人工精霊が持ち主の下に帰る時が」

「……そう。仕方ないわ。最後に私達の大家に一言文句を言っておきたかったけれど」
「残念ですぅ……」「やっぱりボク呼んで来るっ」「やめるかしらー!」「断固阻止なのー」「っていうかぁ、人間の誰かに頼めばいいじゃないのよぉ」「いえ……そういう問題では……」

「あーあー、なんか収拾がつかなくなる前にこれ……っと、葵持ってってくんない?」
「なんだい恵、この紙袋……破れてるけど」
「さっきそこのマエストロから貰ったんだけどね」
「ジュンくんから? ……ああ、そうか。なるほどね……」
「この人形達が動かなくなる前に、一度だけ着せてやったって悪くないよね? 水島さん」
「……ええ。そのくらいの時間はあるでしょうよ。多分ね」


 ~~~~~~ 同時刻、近くの路上 ~~~~~~


 寒々とした月が出ている。日本海側は雪降りが続いているらしいが、こっち側は毎日晴天続きである。その分冷え込みは厳しい。もっとも雪の降ってる地域に比べたら屁でもないと笑われそうではある。
 商店街は、もう店閉めの時間帯を過ぎていた。あまり数が多くない飲食店やコンビニの類だけがまだ開いていて、独特の寂しさのある景色になっている。
 僕は自動販売機で温かい飲み物を買い、人形店の近くのベンチに森宮さんと並んで腰を下ろした。
 彼女には濃い目のお茶、僕には微糖の缶コーヒー。初めて買った時と同じ銘柄──もっとも、あのときはどっちも冷たいやつだったっけ。
 手渡すと、彼女は少し意外そうな表情で缶を眺めた。しかし、飲めない、と僕に突っ返してくることもなく、受け取った熱い缶を暫く両手で包んで暖を取る。
 普段は家族揃って紅茶党だという話だから、あの日以来緑茶など飲んでないんだろうな。それを知ってる僕が濃い目の緑茶を差し出してきたってことが想定外だった、ということだろう。
 まあ、逆に言えば僕の感傷的な演出は、結局僕の独り善がりでしかなかったということだ。彼女は去年の十二月のちょっとした出来事の内容まで覚えていなかったのだろうし、仮に覚えていても僕ほどその件に拘ってはいないのだろう。
 もちろん、彼女が考えるべきことは他にある。僕とのことなんぞ、それに比べれば取るに足りない。

「大変なことになってたんだなぁ」
「……『殻』がこれほど大きいとは思わなかったわ」
「うん」
「途方も無いお話で、まだ実感が湧かないのだけれど……でも、少しだけほっとしているの」
「え? 安心できるような話じゃないような。全然」
「私は、私に……森宮留美に何か厳しい過去があると思っていたの。アツシや姉様と血が繋がっていなかったり、大きな事件に遭遇していたとか……。でも、そんなことはなかった。森宮留美自身には、悲しい過去は何もなかったのだわ」
「……そっか」

 一歩離れてしまえば、そういう見方もできるのだ。
 微笑む彼女の顔には、何かを諦めたような色がある。自分の意識が森宮留美そのものではなくて、彼女に憑依したローゼンメイデン第五ドールだということを既に受け容れてしまったようだった。
 真紅が記憶を失ったまま彼女に憑依している、という話は店長氏が解説したものであり、直接の証拠は何もない。……とはいっても、あそこまで色々と並べ立てられては、納得してしまうのも仕方がないのかもしれない。まあ頑迷な僕ですら半分以上信じてしまってるんだから。
 僕も彼女も、未だに真紅の過去については断片的にしか知らない。知っているのはキラキーさんが手を回したという漫画に描かれた彼女の姿だけだ──アニメもあるが、あれはかなり筋が違ってるからまた別の人物だと思った方がいいよな。
 但し、石原姉妹をはじめとする皆さんが何も指摘しなかったところを見れば、漫画にはディフォルメや省略はあっても事態の流れに異動はなかったはずだ。そもそも、中途までがある程度忠実に事態を追ったものだったからこそ、監修者のキラキーさんがその後半に罠を仕掛けることが出来たわけだし。
 まあキラキーさんの思惑は置くとして、大まかな出来事の経緯と登場人物の性格を掴むだけなら、あの漫画は内容をそのまま受け取っても良いモノなのだろう。一字一句事実を再現しているかどうかは別として。


 ~~~~~~ 第二十一話 薔薇乙女現出 ~~~~~~


 会話が途切れて、何やら急に寒さが身に沁みるように思えてきた。森宮さんも同じらしい。小柄な身体を竦め、手元のお茶の缶に視線を落としている。
 店に戻ろうか、とは言いにくい。彼女が僕を呼び出したのはまさか気紛れじゃないだろう。
 空を見上げる。月はまだそこにあった。
 うちに帰ったら、今度は初めから、資料でなく一つの物語として読み直してみようか。
 そのときにはもうここに居る彼女は遠くに帰って行ってしまった後で、そして小煩い人形どもは動かなくなっているんだろうけどさ。
 しかしまあ、なんだ。
 前者が僕的に非常に寂しく切ないことには異論がないのだが、後者について些か残念な気分があるのはどういう訳だろう。
 つい変なことが気になって首を捻りかけていたところで、森宮さんが口を開いた。

「気絶から目覚めて、少し考えたの。自分が真紅だとして、何をすべきか」
「難しそうだな……何も憶えてないのにどうすればいいのか考える、なんて」
「ええ。真紅そのものが、どういう判断をするかは判らないわ。それは記憶が戻ってみなければ……」
「だよね。漫画で描かれたことが全部じゃないんだろうし。昔のマスターの想い出とか、ローゼンさんや他の姉妹とどのくらい一緒に過ごしたのかとか。人格や人間関係作った上で結構大切そうなのに、全然描かれてなかったような」
「さほど重要視していなかったのかもしれないわ。昔のことは憶えていても殆ど思い返すことがなかったのかも……。ドールにはその時のマスターと、目の前のゲームが全てで」
「そっちの可能性もあるのか……。なおさら考え難くなりそうだ」
「何があったのかさえ判らないのだから、何処まで行っても堂々巡り。だから私は……今の私、きっと森宮留美そのものでもなければ本来の真紅そのものでもない、曖昧な今の私自身が何をしたいのか、を考えることにしたの」

 森宮さんは両掌で缶を挟み、ころころと転がした。
 その顔色が冴えないままでいる理由は幾とおりでも考えられそうだし、どれか一つに特定もできまい。ただ、彼女は俯いてはいなかった。
 曖昧な立場であろうと記憶がブロックされていようと、やはり彼女の心は強くて、容易に折れないのだろう。キラキーさんは、現状の矛盾に気づく推理力ではなしに、案外この折れない心が怖かったのかもしれん。
 しかし、しかしだな。その肩が縮こまり、小さく震えているのもまた事実なのだ。
 何やらもやもやした気分が怒りに転化し始める。
 ちっくしょう、何やってんだアツシ君、じゃなかった桜田ジュン君。ここにお前さんが肩を抱いてやらなきゃならん相手が居るのだぞ。美登里と店内でイチャイチャ……いやドール鑑賞してる場合じゃなかろうが。
 些か理不尽過ぎる僕の内心のあれこれには関係なく、森宮さんは話を続ける。

「今の私達は、仮初の姿を与えられている可哀想なお人形ではないわ。人間の体に意識を植え付けられている──反対から見れば、私が「森宮留美」の体を乗っ取っていると言うこともできる……」
「うーん、その表現はどうかと思うけど。自分の好きでやってる訳じゃないんだし」
「ありがとう、気を使ってくれて……。でも、それが事実なのだわ。そして、この状態がとても歪なことも」
「……それはまあ……そうだよな」

「歪、では済まされないかもしれないわ。
 私達がここで生きている限り、身体の持ち主は限りある人生を失っていく。それが紛れもない事実なのだもの。
 だから……この身体は元の持ち主に返さなくてはならないと思うの。
 私達が人形のボディに戻っても戻れなくても、戻った先で壊されてしまったとしても……。
 他の子達が同意してくれるのか判らないし、本来のこの身体の持ち主達が喜ぶかどうかも判らないけれど。でも、それが自然であり、あるべき姿なのだわ」

「……そうだね」

──騙されていたと知った彼女は、元の持ち主に身体を返し、本来の姿に戻ることにしました。

 お話の上でならめでたしめでたしの一行で済まされてしまう出来事だ。
 しかし既に何年もこの状態を続けてきたとなると、「善良な」乗っ取り手にとっても容易い選択ではない。薔薇乙女さんとマスターさん達にとっては、生半可ではない決意が必要だろう。
 本来の姿に戻れるのかどうかも定かではないし、戻ったところで何が待っているか判ったものではない。森宮さんの言うようにキラキーさんに食われてしまう可能性さえもある。
 他人の身体を乗っ取っていることは相手を蝕んでいることと同じだ、と判っていても、自分の生死と引き換えになるかもしれないとなれば、実際のところ中々踏ん切りはつくまい。
 意地悪な見方をすれば、これは昔の記憶もキラキーさんに入れ込まれた記憶も持っていない、キラキーさんの怖さを肌では知らず、製本された絵と活字でしか見たことのない彼女だからできる思い切りなのかもしれない。無知ゆえの何とやらというやつだ。
 いや、多大なリスクは承知の上、なのだろうか。危険を冒しても敢えて自然な姿という原則に拘る潔癖さは、むしろ真紅というドール本来の性格を垣間見せているのか?
 その辺は、こじつければなんとでも解釈できる。素の状態の森宮留美さんも、もちろん真紅さんのこともつぶさに知っているとは到底言えない、部外者の僕には判らん領域である。
 僕が僅かなりとも見知っているのは、目の前の彼女だけだ。
 そして、その彼女は相変わらず……。

 いかん。どうにも僕では役に足りない。というか、考えてるだけで息が詰まってしまいかねん。
 森宮さんには本題が別にあるのかもしれんが、少しだけ空気を変えたい。そう思った。

「──そういや、僕達のお芝居の話なんだけど」
「……ええ」
「ごめんっ」
「……どうしたの?」
「さっき、事務室で話し込んでた時、話の流れでついバラしちゃった」
「ああ……」
「まあ石原達や加納さん姉妹には聞かれてないけど。でも人形どもが居たから今頃はみんなに広まってるかも」
「お喋りだものね、皆」
「うん。……まーそんなわけで、ごめん。無断で計画終わらせちゃったことになる」
「気にしないで。もう、お芝居をしていた目的は果たせたのだから。無理を言って困らせたのは私の方なのだわ」
「いやいやいや、そんなことはないって。むしろ、いい目見させてもらったって思ってるよ」
「いい目……?」

 森宮さんは申し訳なさそうな顔から、きょとんとした表情に変わった。
 ああ、こりゃアレだわ。
 思わず失笑してしまう。街路灯の薄暗い明かりの下で、森宮さんの顔はますます疑問を深めたような按配になってしまったが、ごめん。なんというか笑いが抑えられない。
 やっぱりこの子、全然判ってなかったんだな。いろいろ考えるのが好きそうなのに、なんか肝心のところで間が抜けてるんだなあ。
 よっしゃ、それなら、ひとつ解説してみせようじゃないですか。

 片手に飲みかけのコーヒー缶を持ったまま立ち上がる。そのまま、ベンチに座る彼女の前に位置を変えた。
 彼女の好きそうな理詰めっぽい口調で、如何に僕がモテないヤツであるか、そして付き合う相手として森宮さんがどれだけ高嶺の花である要素を備えているかを説明する。
 兎角要領よく説明するのが下手糞な僕である。出来は自分でも期待していなかったが、要領の悪いところが上手い具合に逆に働いてくれたらしい。
 仰々しい言葉を使いながら回りくどい言い方で話し、合いの手を時たま挟んで貰うと、意外にも如何にもそれらしい、勿体ぶった感じになってくれた。
 内容の方は何のことはない、公道で自分の恥を晒している訳だが、人影がないことと周囲の暗がりが良かったのか、応答を繰り返す内に森宮さんが次第に興味深く(まあ、ある意味他人事として、って感じでもあるんだが)聞き入る表情になっていったせいか。ともかく僕は顔も赤くせずにしゃあしゃあとその辺りを講義してみせた。
 あまり長くならないように努力をしたのは言うまでもない。彼女は寒い中に座り込んでいるのだ。此の期に及んで風邪でも引かせたらおおごとである。

 努力の甲斐あってか、彼女が寒そうな素振りや退屈そうな顔をする前に僕の講釈は終わった。
 さて。
 偉そうにした後で何なのだが、この講釈には元々オチが付くことになっているのである。
 相手が柿崎や石原姉妹辺りなら中途でそのことを理解して、話が一段落した後速やかに辛辣なツッコミを入れて来るはずだが、目の前の森宮さんはそういう部分で如何にもなお嬢さんであり、簡単に言うと真面目で素朴であった。オチを述べるのは自分でやらなくてはなるまい。
 判っていても急に歯切れが悪くなる。まあ、これもまた避けられぬ現実というか、致し方ない事柄なんだろうなあ。

「……でも。そんなお題目は抜きにしても、凄くその……なんていうか、嬉しかった」
「そう……?」
「うん。片想いしてる相手から、恋人ごっこのお誘いが掛ったんだから」

 森宮さんは微かに口を開いて、あ、というような小さな声を上げ、大きな目を見開いて僕の顔を見つめた。
 まあ、そうだろうな。僕のことはそういう目で見てなかっただろうから。あくまで、似たような趣味を持ってるちょっとおかしな奴、だったはずだ。
 何故かその反応に安心してしまう。
 真紅だから元々の契約者に惹かれてしまったのか、森宮留美さん本人がブラコンだったのかは判らんが、彼女の視線はずっとアツシ君改め桜田ジュン君に向いていた訳で。
 自分が別の方向をじっと見ている間でも、自分の方に向いてる視線に気付くタイプの人は当然いるだろう。むしろその間の方が周囲に敏感になる人もいるはずだ。
 だが、図書館の真ん中に陣取り、本をうず高く積み上げて平然と読書に励んでいた森宮さんである。興味が向かない方向からの視線には少なからず鈍感でいてもおかしくない。

「情けないけど、嫌味とかじゃ全然ないから。ま、まあ、もうちょいプライドの高い奴なら逆の反応したかもだけどさ。
 さっき長ったらしく説明したみたいに、僕ァその、そういうのは全然──無理だって思ってたから。嘘でもお付き合いができて素直に嬉しかった。
 だからありがとう、ホントに」

「いいえ、そんな……お、お礼を言わなければならないのは私の方だわ」
「いやいや、ホント嬉しかったんだって。なんか、今日の登校のときなんかさ、なんかえらく大勢の中で肩寄せあって、なんか本当に付き合ってるみたいだなって思ったし」
「あれは……でも、きっと」
「うん。まああれだけ集まったのは、向こうさん達の中で色々あってのことだったんだろうけどさ。まーそれも、僕達が付き合い始めたって思われたからかもしれないし。僕としては、掛け値なしに楽しかったなあ」
「そう……」
「だから、こー、なんか何度も繰り返すと軽い言葉になっちゃうけど、ありがとう。それから、僕が色々ぶち壊しちゃった段取りのことは、ホント悪いと思ってます。ごめんなさい、どうかこのとおり」
「そんな。悪いのは私なのだわ。貴方を巻き込んでしまったのも、こんな慌ただしい形にしてしまったのも……」

 森宮さんは慌てて立ち上がり、僕を押し留めるでもなく、自分も頭を下げる。いやいやそれは、と僕はまた頭を下げた。
 僕達は数回びょこびょこと頭を上げ下げしあい、それから、どちらからともなくふっと笑った。

「前にもあったわ、こんな風に」
「うん。あったあった」

 あれは確か、去年初めて森宮さんの家に行った日だ。あのときも同じように頭を下げあって、なんとなく可笑しくなって笑いあった。
 厳密に言うと始まりと終わりという訳じゃないが、一つの区切りには丁度いい符合なのかもしれない。
 胸の中に吹いている風の温度まで、あのときと似たようなもんだが……まあ、その辺は致し方ない。所詮は叶わぬ恋なのである。今晩は大いに不貞腐れて寝るとしよう。
 さて、それはそれとして、もう一つ謝ることがある。
 僕は笑いを収め、大事な話の腰折っちゃってごめん、と頭を下げた。彼女は真顔に戻り、いいえ、と首を振る。
 幕間の小話は終わりである。再び、スポットライトはベンチの前に立っているヒロインだけを照らし始めるという寸法で──

「──でも、少しびっくりしたわ。貴方が私のことを……なんて」

 森宮さんは何故か俯き、やや小さな声になっていた。
 それはいいが……あれ? なんで僕の関わる話が続いてるんだ。しかも微妙に……

「ん……まあ、そりゃあ、森宮さんは可愛いし、魅力的だし……」
「そ、そんなことはなくてよ。私なんか、本を読むこととお人形遊びくらいしか趣味がない、つまらない子だもの。柿崎さんの方がずっと活発で、生き生きして……輝いているのだわ」
「なんでそこで柿崎が……いや、あれはあれでバイタリティだけはあるけど。まあ彼氏持ちだったこともあるから、なんかああいうの好きな奴も居るんだろうけどさ」
「やっぱり……。私は未だ、誰かとお付き合いしたこともなかったから……」
「いやいやいやいや。そりゃ、廻り合せとか何とか、いろいろとあるし。あれだほら、蓼食う虫もってやつで──」
「──美登里も葵も、私なんかよりずっとお友達作るのが上手で……水島さんも加納さんも、ラブレターをくれた子に一々断るのが大変だったみたい……」
「うーん、まあ皆さん美人だし、そういうのはお得意そうでいらっしゃるから……って喩えが極端だってば。みんな僕とか凡百の人間とは次元が違う人々だよ。まあ森宮さんだってどっちかっていったらそっちの方の──」
「──でもっ」
「……で、デモ?」
「……あ、貴方の周りに居るのは、みんなそういう人ばかりなのだもの。どうしても比べてしまうのは仕方ないのだわ。そうでしょう?」

 彼女らしくない乱暴な動作で顔を上げ、僕の顔を睨みつけるように見据える。頬が真っ赤に染まっているのは、寒さのせいじゃあ、ないよな。
 えっと。その。なんだ。少し待て。
 頭がどうも上手く回らん。
 だが……その……よく判らんが、そういうことなのか?
 呆気にとられている僕の目の前で、彼女はやや口を尖らせ、半分泣き出しそうな顔になって早口で続けた。

「私なんて背も小さいし、ガリガリでスタイルも良くないもの。頭が良いわけでも何か特技があるわけでもなくて、ひ、人付き合いは良くないし、口を開けば偉そうなことしか言えなくて可愛くないから……だから──貴方は私のことなんて──」

 何だ。なんだなんだ。
 なんなんですか、この可愛い生き物。いやホント、むちゃくちゃ可愛いんですけど。
 漫画ではよくある形容だが、まさか現実にそんな気分になるとは思わなかった。

──でも、ああ、なぁんだ。そうだったんだ。

 鈍感なのは森宮さんの方だけじゃなかった。
 僕も同じ事だったわけだ。いや、僕の方がより頑固で、しかもでっかいミスまで犯している。
 森宮さんの好きな相手を間違えて、昨日の晩など堂々とそれを当の本人に告げていたんだから。当の森宮さんは、いつからかは判らんが、こっちに目を向けていてくれたのに。
 自分以外のこととして考えてみれば、あっという間に判ることだった。
 森宮さんのような御嬢さんがなんでまた僕みたいなブサメンでボンビーな奴を好きになったのかは、混乱してる頭では皆目見当もつかん。蓼食う虫の喩えなんだろうなと納得するくらいしかない。
 しかし幾らなんでも全然好意を持ってなかったら、彼女みたいな人が独りでわざわざ僕の家まで、しかもアポ無しで来るはずがない。同じ女子とはいえ、腐れ縁の柿崎辺りとは付き合いの長さも、そして性格や環境もまるで違うのである。
 まして、その後自分の家に呼んで夕食を御馳走なんて。そりゃ、アツシ君がその場で気付き、不機嫌になるのも当たり前である。
 いやいや、その前からかも知れないだろう。柿崎の話をした時、「勝てないと思った」とか言ってたのも、ひょっとしたらひょっとする。
 ああ潤、あなたは何故そこまで愚かなのでしょう。
 まさに漫画的にアホを体現している僕であった。
 何しろ、自分が森宮さんに告白してOKを貰うシーンを夢にまで見るほどだったのに、肝心の本人の気持ちに気付くことがなかったのだ。これはもう、色々とダメかも判らん。
 幸せ回路とか何とか、一体何だったのだろう。もうどうしようもない。アホもアホ、大アホである。

 ずっと見ていたいような森宮さんの表情だったが、多分それは数秒か、ひょっとするともっと短い間で終わった。折悪しく横合いから風が吹きつけてきたのだ。コンチクショウ。
 僕は寒さだけでなく震えている腕を伸ばし、思い切って彼女を抱き締めた。
 ちょっとがっついたというか、いきなりな動作になってしまったのはやはり僕である。場馴れしているイケメン兄さんの諸氏ならもっと上手いことやったに違いない。店長さんとかな。いやあの人はないか。
 森宮さんは驚いたように身体を強張らせ、コートの肩のところで不服そうな声を上げたが、少なくとも嫌だとは言わなかった。

「──ごめん」
「やっぱり、気付いていなかったのね」
「うん、もう全然。森宮さんの好きな人は他にいるってずーっと信じ込んでた」
「私も……」
「柿崎は違うって言ったのに」
「だって、とても仲が良さそうだったのだもの。息もぴったり合っていて、とても自然で」
「あはは、そりゃ、まあ……あいつとは長いからね」
「彼女のようにはなれない……。多分、いつまでも追い付けないのだわ」
「別にそっち方面に向かう必要もないと思うけどな。森宮さんは森宮さんなんだから」
「……そうかしら」
「そうだよ」

 言いながら、僕は腕に少し力を込めていた。きつかったかもしれないが、森宮さんもそのことについては何も言わなかった。
 二人共、自分達の言葉に虚ろな響きがあることに、なんとなく気付いていたのだ。
 彼女はこれから記憶を取り戻し、そして去って行く。そして、僕はこの世界に残るしかない。
 二人揃っての、いつまでも、はないのだ。というか、これから、もない。
 僕達はどうやら、二人揃って実に間の悪い性分らしい。
 別れが来るまでどれだけの時間が残っているのか判らんが、まあ段階としてはこんな最後の最後になって、お互いに相手の気持ちを知ってしまうとはねえ。いっそ知らない方が良かったかも──

「──えっと、熱烈な抱擁してるところ悪いんだけど」

 実に無粋な声が、結構近いところから聞こえた。
 ぱっと離れて背中を向け合う、なんてアクロバティックな動きは到底出来なかった。取り敢えず、二人してそちらを向く。そそくさと森宮さんが離れてしまったのは残念だが、まあしょうがないよな。
 声の主は腰に手を当ててこちらを見ていたが、やれやれというようにニヒルな笑いを浮かべた。流石、葵はこういう顔をさせるとよく似合っている。蒼星石に似合っているのかどうかは知ったことじゃないが。
 遅くも早くもない、ごく自然な足取りでこちらに近づき、良かったね、と僕と森宮さんのどちらにともなく声を掛ける。
 普段ならこういうときは若干黒い部分が見え隠れするのだが、光線の加減か、幾らか力の抜けた、良くも悪くも柔らかい感じの表情に見えた。

「二人共、ちょっと店に戻ってくれないかな。用件が済んでいたらでいいんだけど」
「ああ……僕の方はもういいけど……」
「ありがとう。……私も、もう済んだわ」
「……そう。良かった。おめでとう邪夢君……って言ったらいいのかな」
「お、おう、お陰様で……ってのも変だけど、サンキュ。で、どうしたんだ一体」
「うーん……」

 葵は小首を傾げ、それから微妙に乾いた笑顔になった。引き攣った、と言ってもいいかもしれない。
 なんだ。何事が出来したというのだ店の中の皆さんに。
 キラキーさんに見付かったとか? もしくは薔薇乙女さん達関連で意見の対立でも起きたか? いやいや、そういう種類の出来事ならもっと深刻そうな顔をしているはずだ。
 このシリアスな事態が進行しているときに、このなんとも言えない表情。どうもちぐはぐである。
 いや、待てよ。
 あれか。またしても、シリアスになりそうなところでアレなのか。
 確かにアレ関連だったら、何かまたやらかしたかどうにかなって、葵がこんな表情になっても不思議はない。
 この寒い中だというのに、嫌な汗が背中を流れ落ちる気配がある。

「ともかく、戻って見て貰うのが早いと思うよ」
「……判った」
「あまり驚かないでね」
「了解……」

 ほんの数十メートルの距離を、森宮さんと肩を並べ、葵の先導で早足で歩きながら……なんか物凄く厭な予感がしてくる。具体的に何、ではないのだが、どうも耳の後ろがざわざわする。
 そして、それは斜め上の方向で当たっていた。いつもどおりである。
 近所では唯一灯りがまだ灯っているドールショップの扉を開け、こんばんわと言うのも何なのでただいまと言った僕の目に飛び込んできたのは、あってはならないシロモノ達であった。
 さきほど全員で顔を突き合わせ、要領の良くない会話をしていたテーブルの上に勢揃いしていたのは──

「お帰りなさいマスター!」「ルミちゃんさんもおかえりなのー!」
「あらぁ、もう帰ってきたのぉ? ずっと外でイチャイチャしてれば良かったのにぃ」
「結局アオイちゃんさんが呼びに行ってくれたかしらー」「ありがとうございます……ぺこ」
「ジュン、あまり長いことレディを寒さに晒すものではなくてよ」「浮かれやがって、全くけしからんヤツですぅ」

「……あれ?」

 なんだこれ。
 聞き慣れた残念人形どもの声はするのだが、姿が見えない。
 その代わりに見えるのは、見えるのは……

「手指が動くっていいわぁ。これでカマキリスタイルからもおさらば、マウスとキーボードの同時使用もオッケーよぉ」
「本物のヴァイオリンも弾けるかしら! 大きさが合えばだけど」
「お掃除もお料理もやっつけられるですよー」「庭木の剪定もできるよ」
「ふふ……遂にこの日が来たのだわ。戸棚もドアも開け放題、一人で漫画の頁もめくれるのだわ」
「じゃんけんもあくしゅもじゆーじざいなのぉー」「漸く……口で言わなくても表情に出せるようになりました……にこ」

 隣で森宮さんが、まあ、と、なんとも力の抜けた声を出し、葵が振り向いて苦笑する。
 テーブルの上に居たのは、実物(と言っていいのか判らんが、とにかく実体を持っているらしい)は初めて目にする、ローゼンメイデンのドールズそのものであった。
 それも、どういうわけかアニメ版の方の。

 一体何が起きたというのか。謎は謎を呼び風雲急を告げる。
 ……いや、本来それどころではないのだが。しかしこうなんというか絶妙なタイミングで、またぞろ残念人形ズに関わる何やら碌でもない、しかも微妙にどうでもよくない事件が起きたのだけは確実であった。


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