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No.24888の一覧
[0] 【ネタ】ドールがうちにやってきたIII【ローゼンメイデン二次】[黄泉真信太](2013/02/17 03:29)
[1] 黒いのもついでにやってきた[黄泉真信太](2010/12/19 14:25)
[2] 赤くて黒くてうにゅーっと[黄泉真信太](2010/12/23 12:24)
[3] 閑話休題。[黄泉真信太](2010/12/26 12:55)
[4] 茶色だけど緑ですぅ[黄泉真信太](2011/01/01 20:07)
[5] 怪奇! ドールバラバラ事件[黄泉真信太](2011/08/06 21:56)
[6] 必殺技はロケットパンチ[黄泉真信太](2011/08/06 21:57)
[7] 言帰正伝。(前)[黄泉真信太](2011/01/25 14:18)
[8] 言帰正伝。(後)[黄泉真信太](2011/01/30 20:58)
[9] 鶯色の次女 (第一期終了)[黄泉真信太](2011/08/06 21:58)
[10] 第二期第一話 美麗人形出現[黄泉真信太](2011/08/06 22:04)
[11] 第二期第二話 緑の想い[黄泉真信太](2011/08/06 22:04)
[12] 第二期第三話 意外なチョコレート[黄泉真信太](2011/08/06 22:05)
[13] 第二期第四話 イカレた手紙[黄泉真信太](2011/08/06 22:05)
[14] 第二期第五話 回路全開![黄泉真信太](2011/08/06 22:06)
[15] 第二期第六話 キンコーン[黄泉真信太](2011/08/06 22:08)
[16] 第二期第七話 必殺兵器HG[黄泉真信太](2011/08/06 22:10)
[17] その日、屋上で (番外編)[黄泉真信太](2011/08/06 22:11)
[18] 第二期第八話 驚愕の事実[黄泉真信太](2011/08/06 22:12)
[19] 第二期第九話 優しきドール[黄泉真信太](2011/08/06 22:15)
[20] 第二期第十話 お父様はお怒り[黄泉真信太](2011/08/06 22:16)
[21] 第二期第十一話 忘却の彼方[黄泉真信太](2011/08/06 22:17)
[22] 第二期第十二話 ナイフの代わりに[黄泉真信太](2011/08/06 22:18)
[23] 第二期第十三話 大いなる平行線[黄泉真信太](2012/01/27 15:29)
[24] 第二期第十四話 嘘の裏の嘘[黄泉真信太](2012/08/02 03:20)
[25] 第二期第十五話 殻の中のお人形[黄泉真信太](2012/08/04 20:04)
[26] 第二期第十六話 嬉しくない事実[黄泉真信太](2012/09/07 16:31)
[27] 第二期第十七話 慣れないことをするから……[黄泉真信太](2012/09/07 17:01)
[28] 第二期第十八話 お届け物は不意打ちで[黄泉真信太](2012/09/15 00:02)
[29] 第二期第十九話 人形は人形[黄泉真信太](2012/09/28 23:21)
[30] 第二期第二十話 薔薇の宿命[黄泉真信太](2012/09/28 23:22)
[31] 第二期第二十一話 薔薇乙女現出[黄泉真信太](2012/11/16 17:50)
[32] 第二期第二十二話 いばら姫のお目覚め[黄泉真信太](2012/11/16 17:50)
[33] 第二期第二十三話 バースト・ポイント(第二期最終話)[黄泉真信太](2012/11/16 17:52)
[34] 第三期第一話 スイミン不足[黄泉真信太](2012/11/16 17:53)
[35] 第三期第二話 いまはおやすみ[黄泉真信太](2012/12/22 21:47)
[36] 第三期第三話 愛になりたい[黄泉真信太](2013/02/17 03:27)
[37] 第三期第四話 ハートフル ホットライン[黄泉真信太](2013/03/11 19:00)
[38] 第三期第五話 夢はLove Me More[黄泉真信太](2013/04/10 19:39)
[39] 第三期第六話 風の行方[黄泉真信太](2013/06/27 05:44)
[40] 第三期第七話 猪にひとり[黄泉真信太](2013/06/27 08:00)
[41] 第三期第八話 ドレミファだいじょーぶ[黄泉真信太](2013/08/02 18:52)
[42] 第三期第九話 薔薇は美しく散る(前)[黄泉真信太](2013/09/22 21:48)
[43] 第三期第十話 薔薇は美しく散る(中)[黄泉真信太](2013/10/15 22:42)
[44] 第三期第十一話 薔薇は美しく散る(後)[黄泉真信太](2013/11/12 16:40)
[45] 第三期第十二話 すきすきソング[黄泉真信太](2014/01/22 18:59)
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[24888] 第二期第十五話 殻の中のお人形
Name: 黄泉真信太◆bae1ea3f ID:72b2b65d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/04 20:04
  ~~~~~~ 下校途中路上 桜田潤の後方十数メートル ~~~~~~


「……さっきは御免なさいです」
「いいよ。雛苺や金糸雀に知られなくて良かった。二人とも真紅の件では慎重だからね」
「はい……。でもまさか、あんなことになるなんて」
「本物の動く人形がいるなんてね。あれには驚いたよ……」
「やっぱりあれがこの世界に『居たことになった』薔薇乙女なのでしょうか……ちょっと不気味過ぎて」
「あはは、それを考えると複雑な気分だけど……。でも、邪夢君も真紅もそうは思っていないみたいだね」
「当然なのです。二人とも薔薇乙女のことを漫画の中の存在だと思ってるのですから」
「ううん、そういう意味じゃなくて。邪夢君や柿崎さんみたいな立場だと思ってるんじゃないかな」
「ただの同名の別人、ですか。それにしてはレア過ぎるですよ」
「うん。確かに引っ掛る。……二人の見立ては多分外れているだろう。『何か』がきっとあるはずだ、この件には」
「そして、私達にはそれを解くことが求められている……ですか」
「断言はできないけれどね」
「でも何故なんでしょう。よりによってあの店なんて……金糸雀やデカ人間はよく出入りしていたはずですのに」
「その辺りも含めて、探ってみる必要はあるかもしれないね」


 ~~~~~~ 現在 ~~~~~~


「葵ちゃんと美登里ちゃんが揃ってるのって珍しい気がするわー」
「あは、この店では珍しいね。美登里は同人誌作りには絡んでないから」
「そーねー。あ、そうだ。次はあっちゃんも連れて来ない? 外に出るのって何か刺激になると思うんだけどなー」
「気を使ってくれてありがとう……アツシに伝えておくわ、美摘さん」
「礼を言う必要はねーですよ。ミッチーはどうせどさくさに紛れてイラストかドレスの依頼を出したいだけなんですから」
「あーあ、ばれてたかー」
「当然です。何かにつけて依頼してるのは何処の誰ですか」
「いいのよ美登里。美摘さんは経費は自分持ちで、売上は全部アツシに渡してくれているの。あの子のことを考えてくれて、本当に感謝するしかないのだわ」
「え、そーお? 照れちゃうなーあっはっはー」

 ほほー……流石だなリアルみっちょん。ドール関係の品物の買い方で豪快な人であるとは思っていたが、森宮さんの弟君に対しても太っ腹なところは変わらないようだ。
 しかし、その美談は美談として、困ったことになったものである。

 店のテーブルの上にはばらしーがお座りしている。テーブルの周りには椅子が並べられ、そこに僕等四人と店の人二人が座っている訳だが……。
 そう。上座の店長氏が居てくれたのは良いとして、この下座に就いたリアルみっちょん──加納美摘さんも既にいらっしゃった訳だ。今日はバイトではなくお客として来たらしいが、居座られていれば同じことである。
 しかも先に帰る気配は全くない、というかどうもこの面々を自家用車で送ってくれる気満タンらしい。いやそれは有難いことは有難いんだけどさ。
 僕としてはばらしーを作った人と直々に話をしたかったのだが、うーん。第三者の居る前でこの残念人形どもの話を始めてもいいものなのだろうかね。
 ここまで、僕等人形の居候先の面々は除いて、他の人々(といっても鳥海とここに居る三人だけだが)は言わば事故で巻き込んでしまった訳である。で、その都度必ず失神等の重大な被害を与えている訳だ。
 ぶっちゃけるとこっちもこっちで毎度毎度泡を食って対応に追われるパターンにはいい加減うんざりしてもいる。更にお目覚め後に必死に謝罪しつつ自分でもよう判っとらんモノについて説明するのも骨であるし、できれば回避したい。

 という訳で僕一人ならば即座に転進を決定して適当に何か安いアイテムでも買って帰ってたところなのだが……。
 森宮さんはちらっちらっとこっちを見るし、葵と美登里は何やらまたアイコンタクトを交わし始めているしで、いつの間にか退くに退けないというか用件を切り出さざるを得ない雰囲気になってしまっているのであった。
 加納さんと石原姉妹の会話が一段落したところで、遂に全員の視線がこちらを向く。致し方なく、僕は足元に置いた頭陀袋の中身をテーブルの上に置き、微妙に引き攣った感じになった加納さんのことは見ない振りをして、実は今日伺ったのは、と店長に向いて切り出した。
 二十代後半くらいに見える、妙に背の高いイケメン店長氏は、ふむ、と頷いた。何か動作が一々恰好良いのはどういう訳だ。

「このオンボロ人形と、その薔薇水晶ドールについてなんですけど」
「こちらはオールビスクのドールだね。ここまで大きいのは珍しいな……そちらは私が作ったカスタムドールだが」
「はい。でもコイツ等──いえこの子達には共通点があるんです」
「ほう。いや、ちょっと見当が付かないが」
「いや、店長さんには分かるはずです。っていうか……その」

 横目でミッチーことリアルみっちょんの加納さんを見る。できれば店長氏にはしらばっくれずに、あるいは察して気付いて欲しいのだが。
 しかし店長氏は小首を傾げるばかりで、加納さんは逆に興味津々といった体で黒いのに手を伸ばしかけている。危険が危ない。ていうかせめて弄るならばらしーにしてくれミッチー! なんでそっちの危険物に触りたがるのだ。
 しかし強いて止めだてして話を拗らせる訳にもいかず、僕は仕方なくばらしーをこちらに寄せた。

「薔薇水晶を作るときに、店長さんは何か埋め込みませんでしたか」
「埋め込む?」
「ええ。元のドールにはなかったモノを、この胸元の辺りに」
「……」
「そっちの黒いのにも、同じ物が埋め込まれているんです。それで……そのモノの効果で、コイツ等は──」

「──何すんのよぉこの人間!」
「きゃあああっ! う、動いたぁっ!?」
「どさくさに紛れて服脱がせようとするんじゃないわよぉお馬鹿さぁん!」
「な、なにこれぇ! キモ……わぷっ」
「ま、まあまあまあまあミッチー、それは言わない約束ってヤツですよ、ね」

 黒いの……いやこの場合ミッチー氏の方か。折角こっちが意を決して説明にかかったところでそりゃーないだろう。
 かくして僕の説明はいつもどおり残念なことに相成ったのであった。
 横槍が入るなら先程、石原姉妹のときに入ってくれたら良かったのだが。生憎何の妨害も入らなかったので、がっつりみっちり根掘り葉掘り解説させられたのだ。
 その辺は石原姉妹の性格もあり、よく知る仲であるだけに理解は早かったもののツッコミも容赦なかった。もう一度はご勘弁願いたい。
 ともかく、腰は砕けたが話は進めねばなるまい。ばらしーにも動いて良しと許可を与え、当人形がゆっくりと自分の作り手の方に顔を向けるのを確認して、僕も店長氏に視線を向けた。
 店長氏はイケメンを気難しそうに歪めてテーブルの上の騒動を見ている。むう、全く何も知らないということはなさそうではないか。


 ~~~~~~ 第十五話 殻の中のお人形 ~~~~~~


 取り敢えずミッチーしっかりしようぜ! の役目は石原姉妹が引き受けてくれたため、僕はガサゴソ動き回る黒いのを落ち着けと諭してこっちに抱き寄せ、膝の上に抱えて暫し様子を見るだけに留めた。
 ばらしーはぽてぽてと歩いて店長氏の前に行き、今は店長氏に抱かれ、目を閉じて髪を撫でられている。森宮さんは妙にほんわかした表情になっているが、肝心の店長氏は元来がそういう性質なのか仏頂面のままである。一応撫でてやってはいるものの、アニメの金髪あんちゃんの如くばらしーに愛を囁く風は全くない。
 人形どもが漫画に倣ってローザミスティカと呼んでいる謎の動力ユニットについて、店長氏が何か知っているのはほぼ確実である。ばらしーと黒いのが動いていることに不審を抱いていないことからも窺える。ならばこの温度の低さはどうしたことか。
 既成品を大改造した売り物とはいえ、ドレスと髪の毛(ウィッグというらしい)を付け替えただけのお手軽品ではない。大分お値段を張り込み、手指全部に球体関節を仕込んであるようなとんでもなく手の掛ったシロモノである。少なくともあちこち見てどっか壊れてないかとか、ここは苦労したんだよなあとか思っても良さそうなシチュなのだが。
 いやいやいや。そんな話は置いといて、言い出したことの続きに掛らねばなるまい。
 見たままではあるが、こんな感じで恰も自我を持っているが如く勝手に動いたり要らんことを喋ったりする状態なのだと説明する。ついでに後五つほど存在し、その全てがこともあろうに漫画のキャラクターになりきっていることも付け加える。
 店長氏はそれにも別段感銘を受けた様子はなかった。なんだこのむっつりイケメンぶりは。

「コイツ等の言うには、動いたり喋ったりできるのは胸に埋め込まれたユニットのお陰だそうで」
「……そうか」
「全員分のユニットを一つにすると何かが生まれるってことで、全部が一堂に会している今が好機とばかり争奪戦を開始するつもりでいるみたいで……まあ、今は停戦させてますけど」
「私は今から始めたっていいわよぉ」
「挑まれれば……受けて立ちます……」
「おい、やめれ。後腐れなく勝ち負けついたとして、負けた方の残骸やらゴミやらを掃除するのは誰だと思っとる。しかも他人様のお店の中だぞ」
「あの、そういう問題ではないような気がするのだけど……」
「ふん、やるっていうの? へっぽこの癖にいい度胸じゃなぁい。紐が鳴るわぁ」
「その言葉……そっくり返してあげます……!」
「ええい、話を聞かんかお前等」
「うっさいわねぇ。命令するつもりぃ?」
「これは私達の本能……宿命なのです」

「──争いは止めて欲しいな、この場では」

 その一言でばらしーはぴたりと動きを止め、既に烏の羽根っぽいものを二本ばかり召喚してやる気満々だった黒いのも黙った。やはりばらしーを作った人の言葉だけに重味があるらしい。
 僕とは違うってか。大家と云えば親も同然ではないかと怒ってやりたいところだが、生憎どっちもウチの居候ではなかった。むむむ、やはり連れて来るのは赤いのにしとくべきだったか……。
 店長氏は僕の方(黒いのの方かもしれんが)を見、それから他の面々を順繰りに見遣る。パニックから立ち直ったミッチーも含め、それぞれが何やら一言ありそうな風情になって店長氏を見返した。
 考えてみれば僕以外の四人は常連さんだな。何かしら暗黙の了解でもあるのかもしれん。
 一頻り見回した後、こちらにまた視線を向ける。何やら決意をしたような表情になっていた。
 こっちも煽りを食らって妙に緊張してしまう。膝に黒いのを載せ、召喚した黒い羽根(その辺に落ちてる烏の羽っぽい)を手に持ったまま、という実に間の抜けた姿ではあるのだが。

 ごくりと唾を飲む間もあらばこそ、店長氏は静かかつ多分エレガントに口を開いた。いやエレガントかどうかは僕には判らんので、まあそんな雰囲気ということで。イケメンは何かにつけて得である。

「……何を知りたい?」

 おおっ、これは定番の全て知ってます宣言!
 ついでに訊かれたことしか答えませんアピールでもあるが、そこんとこは気にしない。というかしょうがない。

「……塩入さん、このドール達のことご存知だったんですか」
「ああ。加納さんは見聞きするのは初めてだったのか。驚かせてすまない」
「いいえ、謝られるようなことじゃ……でもびっくりしました」
「あまり他人に話すような内容ではないだろう」
「そ、そりゃーそうですけどぉ……ねえ」
「うん。この子達のことを知っていたなんて……」

 店長氏のアピールに、加納さんだけでなく他の三人もかなり驚いている様子である。まあそりゃ当たり前だわな。物理法則を完全に無視した残念な危険物があるってことを知って黙ってた訳だから。
 とはいえ、べらべら喋るような話じゃないのも事実。訊かれなければ答えない、てのは正しい。

 さて。他の面々のことは置くとして、僕には訊きたいことがある。
 取り敢えずはその前に一つ。この件はまだあっちこっちに広がってないし、僕自身は偶然関わらせてしまった人以外にこの危険物どもの存在を広めるつもりは全くないことを店長氏に告げた。
 話が大きくなっても迷惑なだけだから、と言うと、森宮さんはすぐに同意してくれて、他の三人にも同意を取り付けてくれた。多分残念人形に関する実体験が為せる業だとは思うが、こういう時の掩護射撃は有難い。情けないが今まで全くなかったことである。
 隣に座る彼女に、ありがとう、と野暮ったく、但し素直にお礼を言い、本題に入る。

「こいつらの動力ユニットと、争奪戦の末に出来上がる物体のこと。あと差し支えなければ、店長さんがこんなヤバそうな代物をこの薔薇水晶ドールに入れ込んだ理由を知りたいんです」
「人形達が説明した内容では不足なのか」
「本当にコイツ等が言うとおりならユニットを一つに集めれば凄いモノが出来上がるって話なんですが、どうもギャップが酷いような気がするんですよ」
「ギャップ?」
「いや……言っちゃなんですが、ひどいミスマッチじゃないですか。こんなアンティーク人形どもがガタガタゴトゴト動いて戦い合うってのも、その果てになんか物凄いモノが出現するっていうのも」
「ふむ」
「コイツ等の言い分だと、ユニットはコイツ等を作った超絶究極な人が作ったモンらしいですけど、そんな凄い人がこんな訳判らん動力ユニットを託すには、こういう……アンティーク人形ってのは似合ってない気がするんです」
「……なんだかオブラートに包んでるつもりみたいだけどムカツクわぁ」

 どうもコイツは肝心なところで脱線させないと気が済まないらしい。文句言うのは取り敢えず全部聞いてからにせんか。
 取り敢えずさっき召喚した黒い羽根を髪の毛にぶっ刺して黙らせる。
 聞き分けが良いのは評価してやってもいいな。さっきは僕の言うことなど聞いてなかったが、まあ目を瞑ってやろう。
 黒いのを手荒く撫でてやりつつ話を続ける。手荒くと言ってもあまり強く撫でると髪の毛がゴッソリ逝きかねないのでその辺はソフトに。

「まるでどっかの売れない制作工房の人が、工房を畳むときに偶々手に入れたモノを片っ端から自分の作った人形に入れ込んだみたいに見えるなって」
「まあねー……完成度的にはそんな感じかも」
「どんな感じよ。ねえ、このそばかす女ジャンクにしてもいい?」
「やめいと言うに。まあ、漫画そっくりの名前を名乗ってる理由までは判んないっスけど」
「確かに……変だわ。連載が始まってから十年も経っていないもの。名前を付けられたのが最近ということはないはずなのに」
「いや、邪夢君と森宮さんには悪いけど、逆に漫画の作者が別ルートから情報を得て資料にした可能性はあるんじゃないのかな……?」
「そうですよ留美。残念なお人形の話じゃ盛り上がらないから、美しくて可愛い薔薇乙女って話にしたってセンもあるですよ」
「そうなのかしら……」

 森宮さんは首を傾げる。葵の意見は当然として、妙に美登里が押し付けがましいというか、慌てたように見えるのはどういうわけだ。
 さっきの一件といい、どうも双子がそれぞれ腹の中に何か一物抱えているように見えて仕方がない。
 まあ話としては判らないでもないというか、ありがちなことだ。確かに事実そのままじゃシュールギャグな四コマ漫画のネタくらいにしかならん。
 例の漫画の作者の人はドールマニアって話だ。Rosen工房のことで、柿崎の怪しい英語力(多分機械翻訳頼りだろうな……)でのネット検索程度じゃ引っ掛からなかったようなことまで何かのツテで聞き知っており、ネタに使ったのかもしれん。ディープな分野だけにありそうな話ではある。

 それは置いとくとして、コイツ等が知ってることと、事実にはだいぶ差があるはずだ。
 お父様の正体について、柿崎が調べをつけた話の方は、赤いのが力説していた話に比べて夢も希望もないというか非常にトホホではあるが、それらしいと言えばかなりそれらしい。どっちかと言われれば柿崎説が事実に近いように思える。
 となれば、コイツ等が聞かされていた話の核心にも当然怪しさが残る。
 七つの破片を集めて合体させれば究極だか至高だかのなんちゃらになるというのも、集めたらお父様が愛してやるぜヒャッハー(柿崎説明ママ)という「ご褒美」さえもまるっきり嘘の可能性がある訳だ。後者は、仮にそうだとすると人形どもが少々哀れである。
 まあ、七つ集めたら今とは違う何かが出現するというのは良しとしよう。ただ、それが何かは判ったものではない。有体に言って危険であり、ついでに言うとその被害を受けるのは当然僕である。実に恐ろしい。
 次に、動力源自体がどういう副作用を持っているのかも気になる。何なのかはこの際「物理法則を無視して何かとんでもない作用を齎している」で構わんが、長期的に見てどういう迷惑を周囲に振り撒くのか。
 どうやら休眠期がありそうだということも含め、聞いておきたい事柄ではある。
 前の休眠期の間に朽ち果てそうになっていたヤツもいるコイツ等である。どうやっても瀬戸物、あるいはプラ製の人形であり、腐る心配だけはないものの、次の休眠期が長かったら全部ただのがらくたに変わってる可能性が大だ。何しろ人間様の肉体と違って自己修復なんぞというものができぬただの人形なのである。


 慣れない長台詞の間に、ミッチーこと加納さんが気を利かせて全員に紅茶を淹れてくれた。あたふたしていたのに立ち直りが早いのは流石リアルみっちょんと言うべきか。
 店長氏は仏頂面のまま僕の話を聞いていたが、一段落つくと、何を思ったかばらしーを机の上に置いて部屋を出た。
 トイレかと思っていると、折り畳み椅子を二つ持って戻って来た。それをテーブルの周りに置き、僕も手を貸してばらしーと黒いのを座らせる。
 ふぅ、と息をつき、店長氏は紅茶を一口飲んだ。相変わらず一々動作が決まる男だ。羨ましい。

「君の訊きたいことは判った」
「いやあ、話が長くなって済みません」
「それは構わない。君にとっては大きな内容なのだろう」
「はは……まあそんなトコっス」

 実際のところ大しておおごとではないのだが。
 長広舌を揮ってみたとはいえ、残念人形の話など(秘密にしておく分には)さほど深刻な話ではない。美登里の手紙事件がなければ今日は真っ直ぐ家に帰り、柿崎に電話して全部ほん投げていたはずの案件である。
 ……しかし、どうも引っ掛る。
 正直なところ、僕が大したことないと感じているのと同様に、店長氏にとっても(本人が言ったとおり)、例えばこれを明かしたら世界が滅びるとか自我崩壊してしまうような重大案件とは思えない。もし単にバラしたくないなら、嫌だと言うか惚けていれば良かっただけの話だ。
 なのに何だ、全部知ってますアピールをした後のこの奥歯に物の挟まったような言い方、勿体の付けぶりは。何か別の事情でもあるってのか……?

「良いだろう、君の聞きたいことは全部答えよう」
「ありがとうございますっ」
「ただ、一つこちらから先に尋ねたいことがある」
「な、何っスか、あいえ、なんでしょうか」

「事実の皮を被った真実という名の虚構がある。そして、常識を覆すような信じ難い内容の事実がある。君が聞きたい話はどちらかということだ」

 いきなり妙なところに話が飛んだ。
 なんだって? 要するに一見辻褄の合うそれっぽい嘘と、どうにも嘘っぽい実話があって、どっちを話して欲しいかってことか?
 いや、そりゃ決まってるだろ。なんか救いを求めてやって来た小説の中の聞き手じゃないんだからさ。
 こっちはわざわざ寒風の中この店までお伽話を聞きに来た訳じゃない。そういうの確かに得意そうな人ではあるが。

「僕が知りたいのは事実だけです。どんな妙ちきりんな事実でも構いません。ていうか、もうコイツ等の出現でいい加減妙な事実には慣れっこですし」
「そうか。しかし、事実にはもう一つ問題がある」
「問題……いや、公開したら不味いとかってのは、気にしないでください。さっき言ったとおり、この件を触れて回るようなことはするつもりないですから」
「問題はそこではない」

 何やら、訳の判らんものの核心に触れてしまったらしい。
 店長氏は僕の隣に座った森宮さんから加納さん、妙に硬くなっている石原姉妹と順繰りに見回す。僕と人形二体は華麗にスルーであった。
 森宮さんは不安そうに瞬き、加納さんは何やら真剣な表情に変わる。美登里はごくりと唾を飲み、葵は何故か鋭い目付きになった。
 どういうことだ、と思っている暇もなく、店長氏はまた口を開く。

「事実は酷なものかもしれない。この場の何人かにとって。それでも事実を望むのか、ということだ」

 おいおいおいおい。
 話が見えん。事実が酷なものってどういう意味だ。しかもこの場の何人かって。
 そりゃあ人形を数に入れれば、ばらしーはともかく黒いのには酷な事実になるかもしれんが、どうもそういう口振りじゃない。そもそも今の台詞の前の仕種は、僕と人形二体をガン無視してたじゃーないか。
 まるで僕も人形か何かって感じで、一括りにしてるような按配だった。いや、それはいいんだが。

 顔を上げ、改めてぐるりを見回す。
 人形二体は取り敢えず行儀良くしている。表情がないので退屈なのか緊張してるのか判ったもんじゃないが、まぁこれはいい。
 石原姉妹は店長氏の顔を見ていたはずだが、すぐに例のアイコンタクトを交わしたらしく、今は僕の隣に座る森宮さんに視線を向けている。ちらっと見ると、加納さんも森宮さんを見詰めていた。
 今日の美登里は、というか石原姉妹は妙に情緒不安定というか、おかしかった。いや、加納さんも変だ。双子と示し合わせているみたいにも見えるじゃないか。
 店長氏の態度も奇妙さ大爆発ではある。そして、その妙な態度の先が今は森宮さんに集められている。
 理由は判らんが──

  ──全てを話して、真紅の覚醒を促すのです。

 まさかとは思うが……。

 視界の隅に、森宮さんの白い手が見えた。膝の上に置かれて、細かく震えている。
 視線を向けると、可愛い横顔は緊張で強張っていた。揺れる瞳は、今はテーブルの周りではなくて、集まった視線から逃げたいというように斜め上、ショーケースの向こう側にある小さな窓に向けられている。
 僕の位置からはショーケースが邪魔しているが、彼女の視点からなら、窓と、その向こうの小さな黒い空が丁度真っ直ぐに見えているだろう。ピンホールカメラというか、卵の殻を内側から突っついて穴を開けたように。

──「殻」か。

 連想したのは、もちろん偶然じゃない。
 森宮さんが言っていた「殻」。閉じ込められていると言っていたそれが頭に浮かんだから、つい窓とこの部屋をそれに当て嵌めてしまったのだ。
 この空気。店長氏と石原姉妹、そして加納さんのおかしな態度。そして、話を振った僕でなく、森宮さんに集まった視線。

──ああ、そういうことなのか。

 鈍いことにかけては定評のある僕だが、漸く大体の事情が呑み込めた、ような気がする。理屈でなく直感で、ってやつだ。
 ふーん。それがどう残念な人形の由来に関わってくるかは皆目見当もつかないが、そういうことなのだろう。
 実に気分が良くない。何故かと言われると説明できないが。
 僕の視線の先で、森宮さんは不安気にあちこち視線を彷徨わせていたが、やがて決心したように目を閉じ、また開いた。
 僕の方に顔を向ける。目が合って、彼女はふっと微笑んだ。
 その笑顔は何処かで見たように優しく柔らかく、そして──やはり何処か僕や柿崎なんかとは違う何かを感じさせるものだった。

「……私は構わないわ、ジュン。何があっても受け止める」

 多分、森宮さんには大体判ってしまったのだろう。酷な事実っていうのが何か。
 自分と僕以外のこの場の面々は何事かを抱えている。それが彼女自身に深く関わる事柄だってことは、この思わせぶりな態度から見てもう確定でいいだろう。
 そして、何事かについて完全な回答を持っているのがこの店長氏で、それが「事実」ってことだ。
 何者なのか判らんが、とにかく答えは彼だけが持っている。他の連中の素振りから見て、それだけは確かなことらしい。

「『殻』を破るときが来たのかもしれないわ。こんなに早く来るとは思わなかったけれど」

 それは僕にも判る気がする。きっと、彼女の感じていた「殻」とこの件は絡み合っている。
 僕と森宮さんとがちょっとしたごっこ遊びを始めたのも、元はと言えばこの(流石に店長氏までは範疇に入れていなかったが)連中を含む彼女の周囲に見せるためのものだった訳だし──まあ、それは置いとくとして。

──だけどさ、森宮さん。本当にいいのか?

 確かに顔は微笑んでる。だけど、瞳はまだ不安定に揺れているし、膝の上の手は小刻みに震えてるじゃないか。
 いいのかなぁ、とちらりと考えたが、僕は片手を伸ばして森宮さんの手に手を重ねた。
 森宮さんの手は小さく、冷たかった。まるでよく出来たドールの手のようにすべすべしている。まだ震えているその手を、できるだけそおっと包むように握る。
 本来僕の領分じゃないのは判ってる。アツシ君が一番相応しいんだろうし、お姉さんでもいいか。だが二人共この場には居ない。
 僕が店長氏及び石原達から、人間でなく人形の方に近い扱いを受けたように、森宮さんも口に出さずにじろじろ見られるだけで心細い思いをしていたはずだ。ならば僕にだってこのくらいの役得があってもいいだろう。

 手を重ねたまま正面に向き直ると、石原姉妹は相変わらず森宮さんを見詰めていた。もう確認する意味もないくらいだが、確実に「事実」とやらは森宮さんに深く関わっているのだろう。同時に、僕にはろくすっぽ関係ないことに違いない。
 しかしまあ、妙な按配になってしまったものだ。
 元々残念人形どものルーツを聞き出すという話であり、その目的は今でも変わっていない。ところが何故か、それは人形やら僕には碌に関わらない部分の方がメインになってしまう話題なのだ。
 今や残念な人形の由来そのものなど、確実にこの一同にはどうでもいい、瑣末で矮小な事柄になってしまっている。「事実」を語って貰って良いかどうかの判断を僕に委ねて(むしろ押し付けて?)いるだけ、と言ってもいい。
 しかも店長氏にも石原姉妹にも、何やら信じられない「事実」の方を語りたい、あるいは聞き出したい気分がてんこ盛りである。
 僕と森宮さん以外は最初からこの事を予期していたのかもしれない。そもそも石原姉妹がわざわざ従いてきたのはそのため、という可能性もある。
 理屈は判らんでもない。しかしこっちの視点で言わせてもらえばなんとも妙な話ではある。ていうか酷いとばっちりもあったものだ。
 今更ではあるが、人形周りの事実だけを述べてもらう、では済まないのかね。済まないんだろうなあ、この分じゃ。
 取り敢えず全員をもう一度見回し、森宮さんにぺこりと頭を下げる。

「──ありがとう。僕の我儘で、どうもあんまり嬉しくない話を聞くことになっちゃうみたいだけど」
「いいえ、それは……」
「いやいや、全部僕の判断。ただ責任取れって言われても困るけどさ」

 まあ、そういうことにしとこうよ森宮さん。ていうか、形だけでも僕が聞きたい話を聞くってことにしとかないと、こっちとしても人形の件をダシに使われて体良く利用されただけのようで業腹なのである。
 もう一方の手をひらひらと振り、また正面に座る石原姉妹に顔を向ける。

「それでいいよな? 石原……じゃなくて葵」
「僕には同意を求めるのかい? 別に構わないよ」
「この状況でチクチク皮肉るなよ……美登里は?」
「邪夢の判断でやっちゃってください」
「了解。二人共サンキューな」
「あ、私もそれでいいからね、留美ちゃんの彼氏」
「いや、か、彼氏って訳じゃ……ありがとっス」

 最後の最後で恰好の付かないこと夥しいが、赤くなった顔のまま店長氏に向き直る。彼は未だに取り澄ましたというか、少々面倒臭そうな仏頂面のままだった。
 取り敢えず答えることにする。
 同意は取り付けた。自分の肚も座って来た気がする。どんなに信じ難かろうと、事実の方を知りたいことに変わりはない。もちろん人形どものことも含めてだ。
 元々、作り話はあまり好きじゃない。耳触りが良いからって旨い話を聞かせてもらうなんて何の意味もないだろう。
 そんなことを言ってやると、店長氏は表情を変えずに頷いた。

「良いだろう。話そう。本来は誰かに気付いて欲しかったのだが、こういう形があっても良いのかもしれない」

 相変わらず、僕は人数に入っていないらしい。些かならずムカッとする態度ではあったが、僕はお願いしますと頭を下げた。
 後から考えれば、人数に入っていないのも、他の連中がこっちのことなど見ていないのも当人達にしてみれば当たり前のことではあった。
 彼等にはそれだけの余裕もなかったのである、と書くと偉そうだな。まあ、どの道僕にとってあまり気分のいい話じゃないことは全く変わらんのだが。


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