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No.24888の一覧
[0] 【ネタ】ドールがうちにやってきたIII【ローゼンメイデン二次】[黄泉真信太](2013/02/17 03:29)
[1] 黒いのもついでにやってきた[黄泉真信太](2010/12/19 14:25)
[2] 赤くて黒くてうにゅーっと[黄泉真信太](2010/12/23 12:24)
[3] 閑話休題。[黄泉真信太](2010/12/26 12:55)
[4] 茶色だけど緑ですぅ[黄泉真信太](2011/01/01 20:07)
[5] 怪奇! ドールバラバラ事件[黄泉真信太](2011/08/06 21:56)
[6] 必殺技はロケットパンチ[黄泉真信太](2011/08/06 21:57)
[7] 言帰正伝。(前)[黄泉真信太](2011/01/25 14:18)
[8] 言帰正伝。(後)[黄泉真信太](2011/01/30 20:58)
[9] 鶯色の次女 (第一期終了)[黄泉真信太](2011/08/06 21:58)
[10] 第二期第一話 美麗人形出現[黄泉真信太](2011/08/06 22:04)
[11] 第二期第二話 緑の想い[黄泉真信太](2011/08/06 22:04)
[12] 第二期第三話 意外なチョコレート[黄泉真信太](2011/08/06 22:05)
[13] 第二期第四話 イカレた手紙[黄泉真信太](2011/08/06 22:05)
[14] 第二期第五話 回路全開![黄泉真信太](2011/08/06 22:06)
[15] 第二期第六話 キンコーン[黄泉真信太](2011/08/06 22:08)
[16] 第二期第七話 必殺兵器HG[黄泉真信太](2011/08/06 22:10)
[17] その日、屋上で (番外編)[黄泉真信太](2011/08/06 22:11)
[18] 第二期第八話 驚愕の事実[黄泉真信太](2011/08/06 22:12)
[19] 第二期第九話 優しきドール[黄泉真信太](2011/08/06 22:15)
[20] 第二期第十話 お父様はお怒り[黄泉真信太](2011/08/06 22:16)
[21] 第二期第十一話 忘却の彼方[黄泉真信太](2011/08/06 22:17)
[22] 第二期第十二話 ナイフの代わりに[黄泉真信太](2011/08/06 22:18)
[23] 第二期第十三話 大いなる平行線[黄泉真信太](2012/01/27 15:29)
[24] 第二期第十四話 嘘の裏の嘘[黄泉真信太](2012/08/02 03:20)
[25] 第二期第十五話 殻の中のお人形[黄泉真信太](2012/08/04 20:04)
[26] 第二期第十六話 嬉しくない事実[黄泉真信太](2012/09/07 16:31)
[27] 第二期第十七話 慣れないことをするから……[黄泉真信太](2012/09/07 17:01)
[28] 第二期第十八話 お届け物は不意打ちで[黄泉真信太](2012/09/15 00:02)
[29] 第二期第十九話 人形は人形[黄泉真信太](2012/09/28 23:21)
[30] 第二期第二十話 薔薇の宿命[黄泉真信太](2012/09/28 23:22)
[31] 第二期第二十一話 薔薇乙女現出[黄泉真信太](2012/11/16 17:50)
[32] 第二期第二十二話 いばら姫のお目覚め[黄泉真信太](2012/11/16 17:50)
[33] 第二期第二十三話 バースト・ポイント(第二期最終話)[黄泉真信太](2012/11/16 17:52)
[34] 第三期第一話 スイミン不足[黄泉真信太](2012/11/16 17:53)
[35] 第三期第二話 いまはおやすみ[黄泉真信太](2012/12/22 21:47)
[36] 第三期第三話 愛になりたい[黄泉真信太](2013/02/17 03:27)
[37] 第三期第四話 ハートフル ホットライン[黄泉真信太](2013/03/11 19:00)
[38] 第三期第五話 夢はLove Me More[黄泉真信太](2013/04/10 19:39)
[39] 第三期第六話 風の行方[黄泉真信太](2013/06/27 05:44)
[40] 第三期第七話 猪にひとり[黄泉真信太](2013/06/27 08:00)
[41] 第三期第八話 ドレミファだいじょーぶ[黄泉真信太](2013/08/02 18:52)
[42] 第三期第九話 薔薇は美しく散る(前)[黄泉真信太](2013/09/22 21:48)
[43] 第三期第十話 薔薇は美しく散る(中)[黄泉真信太](2013/10/15 22:42)
[44] 第三期第十一話 薔薇は美しく散る(後)[黄泉真信太](2013/11/12 16:40)
[45] 第三期第十二話 すきすきソング[黄泉真信太](2014/01/22 18:59)
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[24888] 第二期第十一話 忘却の彼方
Name: 黄泉真信太◆bae1ea3f ID:db513395 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/06 22:17
 ~~~~~~ 一年前、初夏、某所 ~~~~~~


「同人誌ねえ。それも……よりによって」
「面白いとは思わないかい、自分達のことを書くなんてさ」
「ちっとも判らないわね、そういう心理は。貴女がする分には止めやしないけど」
「そうか……残念だな」
「本当は貴女も面白いかどうかなんて考えてないんじゃないの? あの子に見せるためなんでしょう、それが記憶を取り戻す一環になれば、なんて。ふん、虫の良い考えだこと」
「……敵わないな、君には。全部読まれてしまう気がする。双子の姉にも隠して居られたのに」
「当たり前でしょ。お父様が取り上げるまで貴女は私の内に居たのよ。随分中で暴れてくれたけどね。考えていることは大体把握できて当然だわ」
「僕の魂は別の所に在ったけど……そういう見方もあるね」
「ええ。ま、今になってみればどうでも良いことだけど。それより、何処まで細かく書くつもりなの」
「三部構成にして、一部は最後の時代で皆が目覚めたところから眠りにつくまで。二部は夢の中の世界で──」


 ~~~~~~ 現在 ~~~~~~


 僕と森宮さんは並んでバスの狭い座席に腰を下ろしている。彼女は安心したように目を閉じて、僕の肩に凭れている。
 いろいろあって疲れたんだろうな。いつもこっちを引っ張り回して行動してくれる訳だが、元々インドア派で体力は自信ないらしいし。
 なーんて冷静な観察をしてるように見えて、いやもう心臓バクバクですけどねこっちは。二度ばかり自分で自分の頬をつねってみたが、痛い。告白されたのは夢だったが、これは夢じゃないのだなあ。
 しかし残念なことに、バスで揺られるのは精々十五分かそこらなのである。それももう残りは停留所二つかそこらだ。夢の中の方がいつまでもこの状態が続けられて幸せかもしれん。

 ま、これも嬉しいイレギュラーだったと思えばそう悪くもない。最初はバス停で見送って終わりにしようと思っていたんだから。
 急に送って行かなくちゃならないような気になったのは、彼女がバスに乗り込むときだった。ちらっと僕の方を振り向いた顔が、なんというか……さっき残念人形どもを見ていたときの、あの哀しそうな表情だったからだ。
 何を抱え込んでるのか、なんで哀しげなのか、んなこたーどうでもいい。いや、どうでもよくはないが、今僕に出来る事は森宮さんを一人にしないことだと直感が僕に叫んだのだよ。
 下心? 野暮なことを聞いちゃいかん。そりゃ僕だって好きで彼女いない歴=満年齢の悲しき低スペック野郎やってる訳じゃない。下心がないと言えば嘘になる。
 でもまあ、暗くなったし送って行くよ、と言って隣に座っても、森宮さんはありがとうの一言だけで当然のようにしていたし、そのうちにうとうとし始めてこの状態だ。何と言うか……無防備過ぎて手を出しづらい。試されてるような気分にさえなる。
 こういうときに大胆なことができればなぁと思いはする。しかし如何せん色々な意味で裏付けがない薄っぺらな僕としては、彼女の寝顔と肩に凭れ掛る暖かい感触で幸せな気分になる程度が分相応なんだろうな。
 そして、そろそろ幸せな時間もおしまいである。僕はそおっと彼女の肩を揺すり、なるべく静々と立ち上がって窓枠の「つぎとまります」ボタンを押し込む。
 僕の動作と無粋なブザーの音で、森宮さんは目を覚ましたらしい。

「次で降りるよ。お疲れ様」
「ありがとう……つい、うとうとしてしまって」
「いやいや。バスの中ってなんでか判らないけど眠くなるよね」
「姿勢も振動も丁度良いのかもしれないわ、眠気を催すのに」
「ありそうだよな、それって。あ、あと暖房も」
「そうね……外に出たら気をつけないと」

 くだらない会話を交わしながら座席を後にし、お互いに忘れ物がないか確認し合いつつ乗車賃を支払ってバスから降りる。バスが行ったと思った途端に寒い風が横殴りに吹き付けて、僕は咄嗟に彼女の華奢な体を抱きかかえるようにして風に背中を向けた。
 長い坂の途中だけあって、風は暫く止まなかった。彼女の顔が風を受けないように胸のところに押し当て、安物のトレンチコートの匂いをもろに嗅がせることになってるなぁと情けない気分になりながら、僕は長い風が行き過ぎるのを待った。
 森宮さんは驚いたようにもぞもぞしていたが、じたばた暴れたりはしなかった。有り難いことだ。この体勢で暴れられたら僕が風に背中を向けた意味がない。
 風が穏やかになったところで、両手で肩を掴んで彼女を離す。イケメンさんがやれば見ず知らずの子でもフラグばっちりってところなんだろうが、生憎と僕は顔につけ行動につけ不細工野郎もいいところだった。

「……びっくりしたわ、唐突なんですもの」
「ごめん、なんか埃とか砂とか酷かったから」
「そう。でも大丈夫よ。そのためにフード付きのコートを着ているのだから」
「あ、そっか。気付かなくてごめん……」
「いいわ、気にしてないから」

 何気につっけんどんというか、つれないお言葉だったが、まあそこは良しとする。森宮さんの顔が赤いのは、怒ってるせいじゃなさそうだし。


 ~~~~~~ 第十一話 忘却の彼方 ~~~~~~


 迫り来る三学期末の試験のことやら最近の天気のことやら、バスに乗るまでの人形関係の話以外の──まあ、要するにどうでもいいような話をしながら歩いて行くと、バス停から森宮さんの家までは呆気ないほどの近さだった。
 既に真っ暗な背景に、森宮邸は前に見たときよりも若干大きく感じるくらいの存在感で建っている。インターホン鳴らしたらお手伝いさんが出てきてもおかしくない雰囲気だ。
 なんとなく、その佇まいと言うか存在感自体が僕を拒否してるように思えるのは、多分僕が半分くらい僻んでるからなんだろうな。
 サイカチじゃないけど、僕が非イケメン、非リッチ、かつ非力であり、付け加えることに非優秀ってのは紛れもない事実だ。柿崎が言うとおり、森宮さんみたいな人々と僕では生まれてからこれまでのカネの掛かり方が違う。
 彼女が割とぐいぐい僕を連れ回してるのと、高校に入ってから石原(葵)に結構あれこれ呼び出されては使い走りさせられてたせいで普段は意識してないが、アンバランスな取り合わせだよなぁ、僕にとっては。石原姉妹も森宮さんも。
 そういや、石原(美登里)に告白しようとして止めたのも、釣り合うか合わないかみたいなことチラッと考えたら急に一線の向こう側みたいに思えたからだったっけ。あの時よりは、今の方がちょっとはボルテージ上がってるんだろうな。僕の内部で。
 いいんだけどさ。所詮僕の森宮さんに対する想いなんて、アイドルに熱上げてるのと一緒なんだから。こうして一緒に歩いたり話したりできてるだけマシなんだろうけど、根っこは多分似たようなモンなんだ。
 でも、一緒に居てわいわいやってるだけに、アイドルに対して熱烈に入れ込んでるのとはまた違った、大袈裟に言えば覚悟みたいなものは持ってるつもりだ。特に例の──

「あらぁ、留美ちゃんお帰りなさい」
「ただいま、姉さま。遅くなってごめんなさい」
「いいのよぅ、まだ晩御飯食べてないものぅ。……あら、そちらは?」
「桜田君よ。今日はお邪魔させていただいたのだわ」
「すいません、ご心配お掛けして。僕の用事で時間取らせちゃったんで……」
「あ、いえいえ、こちらこそ妹がいつもお世話になって……」

 ぴょこぴょこと頭を下げるお姉さんは、綺麗にパーマ掛けた髪に大きめの眼鏡を掛けてる。
 ぽわぽわした、とても暖かい感じの人柄に見える。何でも微笑んで許してくれそうな──まるで、桜田ジュン君のお姉さんが現実に居たら、こうですよってな感じ。
 おい。如何に頭の鈍い僕でもこれは疑問を持つぞ。幾らなんでも、似通い過ぎてるだろう。
 この人だけじゃない。似てるのは、最も似てるのは──

「──お帰り。なんだ、そいつまた来たのか」
「アツシ!」
「アツシ君、そいつなんて言い方は失礼よぅ」
「あは、いいんです。前に伺ったときにちょっとお会いしてるんで」

 僕はそう言って愛想笑いを浮かべるしかなかった。そっか。名前は「ジュン」じゃないんだよな。なんかジュン君っていう名前の方が嵌ってる気はするんだが。
 なんなら名前を取り替えたいくらいで──いやいや。
 それはそれとして、無事に彼女をご家族の許まで送った訳だし、長居は無用である。
 それでは、と帰ろうとしたのだが、意外にも引き留められた。いや、お姉さんがお愛想で言うのまでは予想していたのだが、僕の古いトレンチコートの裾を掴んだのは森宮さんだった。

「一人暮しなのだし、今日はあんな昼食しか食べていないのだから、うちで食べて行きなさい。姉さまの作る料理は一級品よ」
「え、それはちょっと……悪いよ」
「いいのよぅ。一級品は言い過ぎだけど、いつも多めに作っちゃうから、良かったら食べて行って。ね?」
「送って来てもらったお礼の意味もあるのだわ。受け取って頂戴」
「……ま、一食分食費が浮くんだから素直に食べてけば?」

 最後のはちょっとカチンと来たが、事実ではある。確かに昼食はマーガリンと既製品のイチゴジャムを乗っけたホットケーキだったし、晩飯も最初から牛丼屋辺りで外食予定だった。
 柿崎は怪我の回復はカロリー摂取に尽きるとか言いながら焼いた端からガツガツ食っていたが(ちなみにいつもそうである)、森宮さんがあまり食べてなかったのは、後知恵で考えれば小食って訳じゃなくて口に合わなかったんだろうな。くっそ、自分に腹が立つ。柿崎を家にほっといても外食にすべきだった。
 ともあれ、ジュン君ならぬ弟のアツシ君も、冷ややかな視線で見てはいるものの何やら同意の言葉を述べたお陰で、結局僕は断りきれなかった。言われるままに森宮さん宅に上がり込み、晩飯をご馳走になることになった。
 いつぞやの客間にぽつねんと一人取り残されるのかと思いきや、今回はなんと居間のリビングに通された。
 え、言葉としておかしい? うちの「居間」は六畳の和室だからなあ。どういう訳かあの社宅は部屋数は無駄に多い(といっても一階がダイニングキッチンと風呂場を入れても五部屋、二階は二部屋に過ぎない)のだが、全て八畳以下なのである。
 それは置いておくとして、通された居間はうちの「居間」とはまるで違う、広くて如何にも昼間は明るそうな部屋だった。
 高い天井に綺麗な照明……なんて部屋の様子をじろじろと見ているわけにも行かず、ソファに座って点けられていたテレビなんかを見ていると、少し離れたところにどっかと弟くんが腰を下ろした。
 態度がでかいのは前からだが、まあ自分の家だし当たり前か、と思ってたら答え難いことをしれっと尋ねて来やがった。

「お前、姉ちゃんとどういう関係なんだよ」
「……んー、友達、かな」
「誤魔化すなよ。好きなんだろ、姉ちゃんのこと」
「……ノーコメントで」
「ふざけんな! こっちは真面目に訊いてやってるんだぞ」

 ふざけてるのはどっちなのか大いに疑問であるが、のらりくらりと躱すのはいけませんということらしい。
 しかしなぁ。僕が森宮さんを好きなのは別に構わんではないか。そりゃ向こうもこっちを好きになってくれれば言う事ないが、僕は実際に彼女が誰かさんと抱き合ったりしてるのを見てるんだよね。
 それでも森宮さんが好きなのだから、僕という男も随分浮かばれない人間ではある。

「で、僕が君の大事な姉さんを好きだったら、どうするんだ」
「やっぱりそうなんだな。最初からそう言え」
「いや、関係は友達さ。他にどうとも言いようがない。同級生でも同じ部活でもないし、趣味が同じって訳でもない」
「そんなの言い訳にもなってないぞ」
「悲しいけど事実を言ってるだけなんだなぁ。で、僕が森宮留美さんを好きだとして、それを確認してどうするんだ」
「……姉ちゃんの気持ちは知ってるのか」
「誰のことが好きか、ってこと?」
「うぁ……うん」
「あー、それは大体判ってるつもり」
「っ!!」

 あっさり言ってやると、弟くんの態度が急変した。がたがた震える手で飲んでた物をテーブルの上に置き、僕の方を恐る恐るといった風情で睨みつけて来る。
 悪いけど、僕みたいな素人から見ても迫力のない睨め付けだった。あまりにも態度がキョドり過ぎてる。半分ハッタリだったんだけどな……判り易すぎる反応だ、こりゃ。
 しかし、なんでまた急にガクガクし始めるんだ。別にいいじゃんか、あれだけおおっぴらに抱き合ってた訳だし。
 前にこの家に来たときに見た光景が今更のように頭の中で再生される。
 廊下で、ひょっとしたら僕に見られてしまうかもしれないのに(実際に見た訳だが)きつく抱き合う二人。なんか完全に二人の世界のオーラが出ていた。
 あれはガチだろう。余程の事情があって抱き締めなきゃならなかった、って訳でなければ。
 いや待て、まさか二人は既にプラトニックなラヴを越えてイケナイご関係まで行っちゃってるのか? それを僕に見透かされてると勘違いしてびくびくしてんのか?
 うわあ……うわあ……それはちょっと、流石に考えたくない。だが、ないかと言えばあってもおかしくないぞ。

「誰……だよ、それ」
「おい、それを僕の口から言わせるのか……まぁいいけど、彼女が好きなのは──」
「──っ! もういい、言わなくていい!」
「照れんなよ」
「照れる!? どういう意味だ」
「だって、森宮さん──留美さんが好きなのは君じゃないか、アツシ君」

 あーあ、言っちゃった。ま、仕方ないよな。
 それはいいんだが、弟くんの動きは見事に停止している。
 時間が止まった訳じゃーない。テレビは点きっぱなし、キッチンからは森宮さん姉妹の何気に楽しそうな声が聞こえて来る。
 タバコ吸える人ならここで一服、酒飲みならグラス持ち上げて傾けるって感じなんだろうなぁ。うむ。
 しかし残念なことに僕は未成年であり、もう一つ言うと目の前のテーブルには僕用の飲み物とかは用意されていなかった。残念である。

「ぼく、を……し、──姉ちゃん、が?」

 おーおー、動転しとる動転しとる。そっかそっか。
 悔しいが、正直なトコかなり可愛いというか、絵に描いたような頬染め美少年の一例だ。髪型はだいぶアレだが。
 この分では怪しいご関係ってのはなさそうだ。
 むしろ弟くんは結構鈍感で、自分はお姉さんを好きなんだけど向こうは別に彼氏が居るとでも思ってたか。なんかそれっぽい反応だ。
 そりゃ、普通じゃないかもしれん。でも冷静になって考えてみろ、弟くん。それほど接触が多いって訳じゃない僕でさえ思い当たるフシが幾つかあるのだ。当の本人である君の身に覚えがないとは言えないだろう。
 そんな風に言ってやると、弟くんは何やら意味のない言葉を発しながら頭を抱えた。身に覚えはバリバリにある、って感じだ。

「君も好きなんだろ、お姉さんのこと」
「──嫌いな訳ないだろ」
「おお、そっちは素直に認めるんだ」
「うるさい! お前みたいに普通のヤツなんかに何が判るんだ、僕達のことが」
「そりゃー何にも判んないけどさ」
「だったら茶化すの止めて黙ってろ! こっちは真剣なんだ」
「……ごめん」

 結局それっきり、弟くんは黙り込んだ。
 しかし、よく怒鳴られる日である。サイカチのは明らかに逆恨みも甚だしかったが、弟くんにはちょいとストレートに言い過ぎたかもしれん。まあ、あれですよ。こっちとしても嫉妬も若干入ってるのは間違いないんで、許して欲しい。
 まあ、普通のヤツ、ってのはあれだね。ゲス野郎とかビンボー人っていうのよりは良いカテゴリだ。ちょっぴり出世したな僕。でもこの家の人々とは別ってことなんだろうが、そこまでストレートに言われると今更腹も立たんよ。弟くんには、その一般的じゃない技能の面で借りもあるしなぁ。
 食事の支度ができた、と声が掛かった。僕がごめんなと言って立ち上がると、弟くんは顔を無闇にごしごしさすり、無言で立って僕を追い越してダイニングに向かった。
 まずかったなぁ。喧嘩する気はなかったんだけどな。

 晩飯は美味しかった。怒りとか失望で味も分からんとかいう事があるらしいが、残念ながら僕には当て嵌まらないか、そこまで追い詰められていないらしい。
 何故かは判らんが、なんとなく心に風穴が開いてるような気分ではあるんだけどね。
 しかし勧められるままに豊富な副菜に手を伸ばし、遠慮なく主菜を頂いて、腹が満たされるとなんとなく風穴なんかどうでも良いような気もして来る。僕は何処までも哀れな欠食児童みたいなものである。
 テーブルの向かいに座った森宮さんとお姉さんに手を合わせて、ご馳走様でした、を言ったときはもう、僕の風穴は幸せ気分で綺麗に塞がってしまっていた。我ながら簡単な人間だなぁ。
 帰りのバス停まで送るという森宮さんの申し出を丁重にお断りして、僕は森宮邸を出た。
 弟くんが玄関まで見送りに来たのは意外だった。何か言いたそうな顔をしてたけど、結局何も言わずにドアの向こうに消えたのは、何だったんだ。
 森宮さん本人は、門のところまで僕を送ってくれた。
 風は止んで、月が出ていた。後は最終のバスが出てしまっていないことを祈るのみだが、まぁ多分大丈夫だろう。終電の時間くらいまでは本数は少なくても運行してるはずだ。

「ご馳走様。ホント美味しかった。流石は森宮さんのお姉さんだなって思ったよ」
「そう言って貰えると姉さまも喜ぶわ」
「あはは。なんか、勝手に送って来て晩御飯まで頂いちゃってごめん」
「いいのよ。……私のこと、気にしてくれたのでしょう」

 なんでまた、そうやって寂しい顔するんだよ。ああもう全くこの子は。
 いや、余禄が大き過ぎて忘れていた訳じゃないぞ。ただ、バスに乗ってる間も、キッチンで食事の用意している間も、彼女はこの寂しそうで哀しげな顔を仕舞っていてくれたから、僕としては出来るだけのことはしたつもりになっていたんだ。
 だけど……最後の最後で、そんな顔するなんて、さ。
 どういう訳か、塞がったはずの風穴がまた開いてしまったような気がする。
 僕じゃ碌すっぽ慰めることもできないんだろうなぁ。
 でも、少しくらい聞いて上げても良いよね? ここでそんな顔してるってことは、訊いて下さいって言ってるようなもんだし……いや、そう思いたいし。

「……うん。今日はずっと気になってた」
「ごめんなさい、心配かけて」
「いやいや、気にはなっても何もしてあげなかったし、ホントこっちこそごめん」
「いいえ、貴方はいろいろ気を遣ってくれたわ。送って来てくれたのも、そうなのでしょう」
「まあ、暗くなっちゃうまで引き留めてたのは僕だし、女の子の一人歩きは危ないから」
「……ありがとう」
「いいって。僕の方こそ晩御飯……って、これじゃループしちゃうな」
「ふふ……」

 ループしてしまう理由は判ってるんだけどさ。
 なんでそんな顔するのか、その理由を聞きたいのに聞く踏ん切りがつかないからだ。多分、森宮さんも言い出したいのに言い出せないでいる。
 例の漫画ののり姉ちゃんの如く、うちの人形どもの来し方行く末の悲惨さに共感してしまったのか。いやそれはなかろう。とすると、例の「殻」のことなんだろうか。はたまた弟くんと喧嘩しちゃったとか、逆に好きな気持ちが一線超えそうで切ないとか……
 もっと言えば今日僕の家にいきなり現れたのも、同人誌を見せたいがためではなくて、そのことが関係してるのかもしれない。
 もう少し別の話題を……いやいや、見送ってくれてるのにあまり時間を取らせる訳には行かないし、さっきバス停までって話も断っちゃったし。

 ええい、覚悟決めろ僕。非力でも彼女の力になりたいんだろうが。
 背を向けて息を一つ大きく吸い、吐き出してから彼女に向き直る。

「──もし、こないだ森宮さんが言ってた「殻」のことなら、その──僕で良かったら、破るのを手伝うよ」

 びくり、と森宮さんの肩が震えた。
 多分、ビンゴだ。何が殻なのか、どういうモノなのか皆目判らんが。しかしそれが彼女の悩みなら、僕としては一緒に悩む分には何があっても構わない。
 途中でヘタレることはあるかもしれないけどさ、僕だけに。しかし今現在の意気込みは、何でも来い、なのである。

「殻を破った後、どうなるかは知らないけど。もしヤバイことになってもさ、独りで抱え込むよりは共犯者が居た方が気が楽だと思うんだ」
「……私はきっと、貴方に迷惑を掛けてしまう。それでもいいの?」
「別に全然構わないよ。僕みたいなないない尽くしのヤツでも、いや違うな、ないない尽くしだから、何かちょっとでも森宮さんの役に立ちたいんだ。力不足かもしれないけどさ」
「ありがとう、ジュン……」


 帰る道すがら、僕はずっとぼうっとしていた。
 彼女の口から出たのは思いも寄らないって種類の言葉ではなかったが、逆にそうではない故に、僕としては何というか、衝撃が大き過ぎた。
 赤いのを初めて見たときなんかも衝撃はでかかったが、あれとは全く別種の衝撃である。精神的ショックという点では共通しているが。
 ……今晩は眠れそうにない。とか言いつつ、多分しっかり眠りこけるんだろうけどさ。

 シリアスな気分でただいまと玄関を潜る。
 誰も返事をしないのは判っていたから別にどうでもいい。この時間帯は大抵僕の部屋でテレビでも見ているはずだ。チャンネル争いに敗れた連中は居間のテレビを見ていることもあるが、まあそんなもんである。ぐうたらしてる訳だが、連中の場合他にこれといって娯楽もないから仕方がない。
 ただ、何やら違和感がある。客間の方から何やら温かい気温を感じるような気がする。
 あ、おい。そうだ。ちょっと待て。まてまてまて。
 慌てて客間の障子を開けると、もわっとした暖かい空気と、真っ暗な中で赤々と燃えている石油ストーブ、そしてただ一体、オールヌードの状態で不貞腐れたようにバスタオルの上に横たわっている赤いのが目に入った。

「鼻の下を長くした下僕のお帰りね」
「……すまん」

 ストーブ消して行けば良かった、と思いつつ、僕はだわだわぶつくさ言う赤いのにスモックを着せてやり、明日の朝はまた薔薇パックかなとうんざりしながら小脇に抱えて自分の部屋に向かうのであった。


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