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No.24888の一覧
[0] 【ネタ】ドールがうちにやってきたIII【ローゼンメイデン二次】[黄泉真信太](2013/02/17 03:29)
[1] 黒いのもついでにやってきた[黄泉真信太](2010/12/19 14:25)
[2] 赤くて黒くてうにゅーっと[黄泉真信太](2010/12/23 12:24)
[3] 閑話休題。[黄泉真信太](2010/12/26 12:55)
[4] 茶色だけど緑ですぅ[黄泉真信太](2011/01/01 20:07)
[5] 怪奇! ドールバラバラ事件[黄泉真信太](2011/08/06 21:56)
[6] 必殺技はロケットパンチ[黄泉真信太](2011/08/06 21:57)
[7] 言帰正伝。(前)[黄泉真信太](2011/01/25 14:18)
[8] 言帰正伝。(後)[黄泉真信太](2011/01/30 20:58)
[9] 鶯色の次女 (第一期終了)[黄泉真信太](2011/08/06 21:58)
[10] 第二期第一話 美麗人形出現[黄泉真信太](2011/08/06 22:04)
[11] 第二期第二話 緑の想い[黄泉真信太](2011/08/06 22:04)
[12] 第二期第三話 意外なチョコレート[黄泉真信太](2011/08/06 22:05)
[13] 第二期第四話 イカレた手紙[黄泉真信太](2011/08/06 22:05)
[14] 第二期第五話 回路全開![黄泉真信太](2011/08/06 22:06)
[15] 第二期第六話 キンコーン[黄泉真信太](2011/08/06 22:08)
[16] 第二期第七話 必殺兵器HG[黄泉真信太](2011/08/06 22:10)
[17] その日、屋上で (番外編)[黄泉真信太](2011/08/06 22:11)
[18] 第二期第八話 驚愕の事実[黄泉真信太](2011/08/06 22:12)
[19] 第二期第九話 優しきドール[黄泉真信太](2011/08/06 22:15)
[20] 第二期第十話 お父様はお怒り[黄泉真信太](2011/08/06 22:16)
[21] 第二期第十一話 忘却の彼方[黄泉真信太](2011/08/06 22:17)
[22] 第二期第十二話 ナイフの代わりに[黄泉真信太](2011/08/06 22:18)
[23] 第二期第十三話 大いなる平行線[黄泉真信太](2012/01/27 15:29)
[24] 第二期第十四話 嘘の裏の嘘[黄泉真信太](2012/08/02 03:20)
[25] 第二期第十五話 殻の中のお人形[黄泉真信太](2012/08/04 20:04)
[26] 第二期第十六話 嬉しくない事実[黄泉真信太](2012/09/07 16:31)
[27] 第二期第十七話 慣れないことをするから……[黄泉真信太](2012/09/07 17:01)
[28] 第二期第十八話 お届け物は不意打ちで[黄泉真信太](2012/09/15 00:02)
[29] 第二期第十九話 人形は人形[黄泉真信太](2012/09/28 23:21)
[30] 第二期第二十話 薔薇の宿命[黄泉真信太](2012/09/28 23:22)
[31] 第二期第二十一話 薔薇乙女現出[黄泉真信太](2012/11/16 17:50)
[32] 第二期第二十二話 いばら姫のお目覚め[黄泉真信太](2012/11/16 17:50)
[33] 第二期第二十三話 バースト・ポイント(第二期最終話)[黄泉真信太](2012/11/16 17:52)
[34] 第三期第一話 スイミン不足[黄泉真信太](2012/11/16 17:53)
[35] 第三期第二話 いまはおやすみ[黄泉真信太](2012/12/22 21:47)
[36] 第三期第三話 愛になりたい[黄泉真信太](2013/02/17 03:27)
[37] 第三期第四話 ハートフル ホットライン[黄泉真信太](2013/03/11 19:00)
[38] 第三期第五話 夢はLove Me More[黄泉真信太](2013/04/10 19:39)
[39] 第三期第六話 風の行方[黄泉真信太](2013/06/27 05:44)
[40] 第三期第七話 猪にひとり[黄泉真信太](2013/06/27 08:00)
[41] 第三期第八話 ドレミファだいじょーぶ[黄泉真信太](2013/08/02 18:52)
[42] 第三期第九話 薔薇は美しく散る(前)[黄泉真信太](2013/09/22 21:48)
[43] 第三期第十話 薔薇は美しく散る(中)[黄泉真信太](2013/10/15 22:42)
[44] 第三期第十一話 薔薇は美しく散る(後)[黄泉真信太](2013/11/12 16:40)
[45] 第三期第十二話 すきすきソング[黄泉真信太](2014/01/22 18:59)
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[24888] 第二期第十話 お父様はお怒り
Name: 黄泉真信太◆bae1ea3f ID:db513395 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/06 22:16
 ~~~~~~ 一年前、春四月、某所 ~~~~~~


「最後のピースが揃ったね。ただの偶然なのかもしれないけど」
「どういうことを示してるんでしょう……六人揃ってしまうなんて」
「ゲームをするためでないことは確かだ。もうアリスは生まれてしまったんだし、僕達の能力は消え、ローザミスティカは形を失って命となっているのだから」
「そういう記憶を持たない子も居ますけどね。それとも思い出していないだけ、なんでしょうか」
「思い出したくないのかもしれない。思い出さない振りをしているのかもしれない」
「でもあの子は惹かれていますよ、ローゼンメイデンって名前に。漫画になった薔薇乙女に」
「……そうだね。きっと、彼女は本当に記憶を封じられているのだろう。……温情、なのだろうか。辛いだろうからね」
「私だって辛かったですよ。今は楽しくやってますけど」
「僕だってそうさ。でも、彼女の辛さは違う。多分彼女は、マスターとドールという関係を超えて愛していた。家族でなく、別の繋がりで愛したかったのだろう」
「それを言うなら私だって……」
「しかし君はそれを実行に移せるんだよ。いや、忘れていなかったからこそ、接点を求めて何年越しかの想いを遂げることができる。でも彼女は──」


 ~~~~~~ 現在 ~~~~~~


 春の彼岸まであと一月。十月後半と同じくらいの日の長さのはずなのだが、どうもそんな感じがしないのは、寒さのせいなんだろうな。
 最近は急激に暖かくなってきてはいるものの、まだコートが手放せない。
 ばらしーを……カタカタ震えてるのに気付いた森宮さんがさっきの白いタオルで包んでやったせいで、尚更赤ん坊みたいに見えるんだが、それをまさに赤ちゃん抱っこしている森宮さんは、なんか物凄く幸せそうだ。ばらしーの銀色っぽい髪の毛も、赤ん坊としては小さ過ぎる顔も、同じく長過ぎる手足も全部タオルの中ってことで、なんつうか本当に赤ちゃんを抱いてるようにも見える。
 なんか強烈に幸せオーラが出過ぎていて、隣を歩いてる僕としては何故か気恥ずかしくもあり、気分が伝染してきて心の中がなんとなく暖かかったりと様々である。
 ただ、ばらしー本人形の手が未だに震えているらしい、ってのが気にはなる。顔が青ざめたり熱が出たりする訳ではないから、カタカタ震えてること以外に何の兆候もないんだが、何か良からぬ事態が待っていそうな気がするんだよな。

 悪いことに、僕の予感は良い事は当たったためしがないが、悪い方のは結構な確率で的中するのである。


 ~~~~~~ 第十話 お父様はお怒り ~~~~~~


「ここです……」
「あら、意外にご近所なのね」
「え、ここ? マジで?」
「マジもマジ……大マジだぁ……です」
「まあ嘘ついてもしょうがないけどさ、いやしかし」
「このお宅がどうかしたの?」
「あー……いや、うん。なんつうか」

 ばらしーのお宅は予想外に、というか拍子抜けするほど近かった。僕の家、といっても社宅な訳だが、そこからほんの百数十メートルほどのところにある、ごく普通の家。
 ばらしーのようなドールの収集やらディスプレイを趣味にしている人のお宅と言うと、僕の中では今まさにそのばらしーを抱いているご当人やら例の場末のスナックみたいな名前のお店に居た(そして同人誌にも噛んでいるらしい)加納さんなんかのイメージが強いんだよな。小奇麗なマンションに暮らしてる独身の方か、お金持ちの道楽みたいな感じ。
 ドールそのものにべらぼうにコストが掛かるし(春休みに入れてるバイトの予想収入を軽く上回るよな、ばらしークラスのドールになると)、でっかいから置き場も大変だし、これだけでかいと食玩のフィギュアみたく本棚の上に並べときゃいいって訳にも行かないだろう。森宮さんちみたいにドール部屋作ったり、加納さんみたいに自分の部屋はドールのもの! みたいな人もいる。Nゲージを家中に這わせている人と同じたぐいだな。
 まあ、本人の道楽を家の外見で判断すべきではない。本当に好きで好きでたまらんなら、そういうことは関係ないんだろう。何の変哲もない自分の部屋、ドールにそこに居てもらうことに安らぎを覚える……とか、あるんだろうし。
 とはいえばらしーみたいな可愛いドールがウチみたいなボロ屋には流石に似合わんのも事実な訳だが。ばらしーは勝手に上がり込んで勝手に動き回ってるからアレだが、ディスプレイしろと言われたら飾るところがないよ。ホント。
 それはいいのだが、この家は僕も結構よく知っている人物のお宅だったりする。

「このお宅、変わってるのね。玄関に苗字が漢字とカタカナの両方で書かれてるなんて」
「うん。まあ読めないでしょ、これは……」

 梍。パソコンの文字変換では簡単に出てくるけど、いざ字だけ出されても「読めません」て人の方が確実に多いだろう。
 そんな訳で「サイカチ」と振り仮名が振ってあるのである。という話は、実は家の住人本人から聞いていたりする。
 なにしろこの家の住人は──

「──っんにちゃー」
「……はーい。……ってさささ桜田? なっ、なんでお前が」
「このおうちのお人形をお持ちしたのですけれど」
「あ、え、うぇええ? り、リアル真紅様!」
「はぁ? 何寝言ほざいてんだお前」
「お、お前は黙ってろ! このリア充野郎が!」
「お父様……ただいま……です」
「お、おあああ、ば、薔薇水晶。よく無事で帰って来たな」
「はい……」
「……話が見えないのだわ。ジュン、説明をして頂戴」
「いや、僕にも全く判らない」

 この男、ばらしーを受け取ろうとして落っことしかけたり、森宮さんにぺこぺこお辞儀したり僕に物凄い殺気を放ったりと忙しい限りである。
 お貞に連れられて向かったときの鳥海も大概会話にならなかったが、あれはまあ怪奇未確認歩行物体をいちどきに複数見たからであって、反応としてはごく普通だろう。ダンボールが勝手に開くまではごく普通の応対だったし。
 しかしこれは何というか。慌て振りにも程がある。暫く振りというのに同年生に様付けしたり身に覚えの全くないリア充呼ばわりはなかろうよ。様付けの方は、まあしたくなる気分は判らんでもないが。

 まあ、元々思い込みの激しいヤツではあった。
 コイツと知り合ったのは僕がこの街に引っ越してきたときだから、中学に入学したときと同時になる。同級生でもなければ頭の出来もあまり似通っていなかったが、それでもご近所ということで結構遊んだり、中二くらいまでは勉強教えてもらったりもした。
 なお、同学年なのに教えてもらう、というのは嘘ではない。まあ五教科の平均点が別のテストを受けてるように見えるくらい違ってたからさ。
 考えてみれば、僕が初めてローゼンメイデンの漫画に触れたのはコイツから借りてのことだったと思う。
 当時は──学年で言うと四年前だが、実質はもう五年前になるのか──丁度アニメを放映している時期で、今から考えると僕としても全く興味がない訳ではなかったんだな。借りた漫画やらアニメ第一期のフィルムブックは読み終わったらすぐに返してしまったが。
 鳥海のことは案外僕も笑えないかもしれない。まあ少ない小遣いを浪費してまで自分と同じ名前の主人公が出てくる漫画やらアニメの品物を買い漁ろうとは全く思わなかったが、最初のうちは素直な好奇心はあった訳だ。
 それはそれとして、当時はそれほどローゼンフリークでなかったはずのコイツが何故ばらしーの如き超高コストの(はずの)ドールを所有し、尚且つ魔改造まで施しているのだ。五年という月日の長さが、彼をここまで堕としてしまったのか。いや別に堕落したというわけではないが。

「リアル真紅様は置いとくとして、ばらしーを魔改造の末に謎の動力源ロザミまで仕込んで自動怪奇人形に仕立てたのはどうしてなのか、詳しく語ってもらおうかサイカチ」
「う、うるさい! おおお前にそんなこと教えたる義理なんぞないわい! リアル翠星石あんど蒼星石とお近づきになるだけじゃ物足りずに真紅様とイチャイチャしやがってこのリア充が」
「待て。その形容は多分とても嬉しいのだが、重大な事実誤認と意味不明ワードを含むぞ。お前が言うリアル真紅はこの森宮さんで確定として、蒼星石と翠星石って誰のことだよ」
「誰かだと? 石原さん姉妹に決まってんだろうがこのスカポン! あれをリアル庭師姉妹と呼ばずして誰を呼ぶのだ!」

 あーあーはいはい、なるほどなるほど。双子だから似てますって訳ね。
 確かに姉貴はロングで丁寧言葉で家庭科大好きで園芸も好き、妹はショートボブで僕っ子で技術科と園芸好き──……・・・・・・?
 ……確かに、かなり符合する。いややばい。共通点ありすぎヤバイ。今まで全然気にしてなかったが、列挙すると特徴そっくりじゃねーか。技術科はよう知らんが。

 嗚呼。思わず僕は嘆息してしまうのであった。
 どう見ても「合わせてる」ようにしか思えんじゃないか。石原姉妹よ、お前達まで隠れローゼン病に罹っていたのか。道理で森宮さんと話が合うわけだ。
 そんなに人気爆発したアニメでもなかろうになぁ。やっぱり僕とか柿崎なんて名前そっくりさんが身近に居て、しかも名前ネタで散々弄られたのを見ていたからか。
 よし、明日問い詰めてやることにしよう。今頃気付いたの? とかしれっと言われそうだが。

「まあ庭師姉妹だか庭獅子舞だか知らんが、別にお近づきになりたくてなった訳じゃないし、高校が同じってのも偶然だ。森宮さんが真紅に似てるってのは偶然──」

 待て。
 確かに真紅のコスプレとかしてる。深紅のビロードのワンピース着てたり、ボンネットまで着けて店番してたり。
 でもそれは真紅がお気に入りのキャラで、ローゼンキャラの中では自分に似ていて衣装も合わせ易かったからに過ぎない。そのはずだ。そして、似ているのは偶然だ。
 偶然だ、ぐうぜん……。
 偶然のはずだが、非常に偶然のはずなのだが。

 しかし、なんとなく、何処となく偶然じゃないような気がする。

 と何故か内心で冷や汗をかきつつ、僕はすらすらと続きを述べた。ここでそんな話に持って行ったら肝心の部分が疎かになる。

「──偶然つか、例の漫画のキャラの中で特徴が似てるのが真紅だったってだけの話だろうが。大体金髪でもないしあんな風に縦ロールもしてないだろう。言い掛りは止せ」
「う、ぐっ……」
「お父様……ふぁいとっ、……だよっ」
「うおおお薔薇水晶おぉぉぉぉ! 良い子だなっ! 僕は負けないぞお前の為に!」
「何と戦ってるんだ、何と。それよりな、ばらしーを何で所有してるのか、どうして自分で動くのかきりきり教えれ。こっちは時間がない」
「そそ、そりわ……」

 時間がないと言いつつ、結局その場では済まない話だということで、僕達はサイカチの部屋に通された。八畳くらいのフローリングで、パイプベッドと机が置いてある他は本棚と箪笥とクロゼットくらいしかない殺風景な部屋だが、一際異様なのは──床の間みたいになったばらしー用のスペースが確保されてることだった。
 ばらしーにはかなり小さめだが、だいたい六十センチドールサイズの洒落た机、一品モノと思しききらびやかな椅子。ちょっと中身が見たいようで知りたくないクロゼット。内張りがきっちり張られた鞄まである。どう見てもベッド代わりだが、薔薇水晶って鞄で寝るんだっけ?
 いや、失礼。異様じゃないな。ばらしーのためにそこまでカネを掛けているということだ。人形どもに要請されても中々モノを与えてやらない僕などとはえらい違いであるのは間違いない。
 しかし何気に着いて来てしまったが、時間大丈夫なのか、そこで「男の子の部屋ってどうして……」とか「薔薇水晶用の調度はもう少し大きさに合わせて……」とかぶつぶつ言ってる森宮さん。サイカチが地味に凹んでるじゃーないですか。

「ばらしーって九十センチクラスだよな。あんまりないサイズのドールだと思うんだけど、アイテムなんて普通に売ってるの?」
「数は少ないけれど、あるのだわ。それにその子ほどの大きさがあれば小物は子供サイズの実用品も流用できてよ」
「ふむふむ……」
「折角買い揃えてあげるのなら、高価なものである必要はないのだわ。むしろ手作りでも良いからサイズの合っている、その子の手でも使い易いものを……この子は実際に使えるのだし、人間と違って手指がそれほど自由にならないのだもの」
「うぐっ、うぐぐ……すいません」
「そうだよなあ……なるほど」
「桜田お前どっちの味方なんだ!」
「お前はいつから森宮さんまで敵に回してんだ。で、早いトコ本題に掛からんか」
「あ、うむ……実は……」

 サイカチのベッドに並んで座り、ホットミルクなんぞ頂きつつ話を聞く。
 それは別に驚愕の事実といった類の話ではなく、僕や鳥海に(多分柿崎にも)降り懸ったまさに災難以外の何物でもない事態に比べればよほど楽しそうな、否むしろ羨ましい事件だった。

「僕がローゼンに興味を持ったのはアニメの二期の放映中だ」
「ほう。そりゃそりゃ」
「だが、本格的に凝り始めたのはオーベルテューレの放映を見てからなのだ。もう見れないと思っていた薔薇水晶が、薔薇水晶がお父様に抱かれて幸せそうな顔をしてるではないか!」
「あれはとても良い演出だったのだわ。エンジュと薔薇水晶は愛し合っていたし、彼等にしても戦いだけが全てではなかったと判るもの」
「そう、そうにゃんですよ! 僕の小さな心臓はあれで射抜かれてしまった。もう後戻りは出来ない」
「……噛んでるぞ。それでばらしーを購入したのか?」
「最初はフィギュアだった。だが、足りない。薔薇水晶は薔薇水晶でなければならない。何も生み出すことも出来ず人形を人形としか思わない貴様には判るまいが、僕が欲しいのは薔薇水晶であって薔薇水晶の形をしたフィギュアではないのだ」
「歪んでんな……」
「だから……ドールを?」
「そうです。大きさも彼女に合わせなくてはならん。関節も全可動でなければ意味がない。僕は小遣いもバイト代もお年玉も使わず貯めに貯めた……ただそのためだけに」
「その割にはらき☆すたのフィギュアとかも棚の上にあるが……」
「お父様は……かがみんラヴ……なのです」
「ほぉほぉ」
「いちいち脱線すな! 薔薇水晶も余計なこと言うんじゃありません!」

 それで結局、貯めに貯めた(本人談)費用をはたいて、オーダーメイドで薔薇水晶のキャラクタドールを作らせたのが今年の春。片手くらいって言うが、まさか五万円では済まないよな……? 森宮さんの顔が引き攣る位だから、多分一桁上で間違いない。
 まあ全部が全部そのためだけに注力していた訳ではないんだろうが、凄まじい執念というか、何というか。
 その執念が実り、ばらしーが唐突に動き出したのがつい先日。どうやら僕の家にばらしーが姿を見せた一月某日からさほど遠くない日だったらしい。
 ……目出度い限りだな。願望成就って点では純粋に羨ましいが、そこまでの妄執ってのは僕には到底持てそうもない。

 しかしそうなると、ばらしーは後からロザミを獲得したのか?
 その疑いもある、と思い、何か異常があったかと尋ねてみたが、サイカチはぶんぶんと首を振った。時折ポーズ変えたりはしていたが、特に動かされた形跡はなかったという。何かが埋め込まれたら即座に判るはずだと。まあ怪しいものだが信じることにする。
 となると、製作時に埋め込まれてたのが最近になって発動したことになるな。ロザミには休眠時間みたいなものがあるのか?
 元々お貞やら鋏、ツートンといった連中を見てそんな気はしていたんだよな。長期間放置されていなければ、お貞の髪がグラデ掛ったり、びろびろで崩壊寸前の鋏のテンションゴムが切れずに残っていたり、ツートンの片面だけに黴が増殖することはなかっただろう。
 ふむぅ。
 これはサイカチでなく、ばらしーを作った製造元に確かめてみる必要がある。ロザミについても、Rosen氏にしても何か知っているかもしれん。まあ、こっちは興味がありそうな柿崎に任せよう。
 それは良いとして、僕に関わる問題は他にある。

「しかしお前、こんなに可愛がってるばらしーに『真紅も蒼星石も翠星石も倒せ』なんてよく言えたなオイ」
「え? な、ちょ」
「うちに初めて来た日にばらしーが言ってた。そのためにばらしーはウチを探して電話帳片っ端からめくったり、住宅地図確認したり、果ては例のアニメのDVD全部通しで見たりと涙ぐましい努力をしたみたいだぞ」
「なんてこと……地道過ぎるのだわ」
「えっええええ」
「そもそも、いくら各関節動くからって、ばらしーはアクションフィギュアですらないだろ。こんな壊れやすい子にプラの剣持ってセトモノの塊と戦わせるなんてひでぇ親父だ」
「そっ、そんなこと僕は知らないぞ。そうなのか薔薇水晶っ」
「私、がんばりました……ぶい」
「うわぁぁぁぁ……」

 何故かサイカチは頭を抱えてしまった。暫く待ってみたがこのままでは話が進まないので宥め賺し、それでも渋ってるのをどうにか喋らせる。
 話を聞いた森宮さんは、まあ、と口に手を当てて絶句する。僕はがっくりと肩を落とした。どっと疲れが出たような気がする。

「──じゃあ何か、お前は要するに僕に単純に嫉妬してたのか」

 それで動くようになったばらしーに、「お前は誰よりも素晴らしい。(リアル)真紅や(リアル)蒼星石、(リアル)翠星石なんかすぺぺのぺーだ。お前は僕のアリスなのだ」みたいなことを言ったということだ。どういう言い方だったのか大体想像がつくが、ばらしーには「真紅も蒼星石も翠星石も倒してアリスになれ」と思えてしまった訳だ。
 思い違い甚だしいと笑う勿れ。ばらしーも製作時期は全く異なるとはいえ、ロザミが中に仕込まれて行動している以上、そっちの欲求とごっちゃになってしまったのだということは想像に難くない。
 まあ、結果的に正解だったから良いようなものの、残念人形ズが僕の家に居なかったらどうなっていたことやら。いや、多分間違いなく愛でてましたけどね。びくびくしながら。

「お前、自分が傍目から見てどんだけ充実してるか判ってないだろう!? 僕と同じ非リッチ・非イケメン・非力のくせに、中学時代からいつも女の子と一緒でいちゃいちゃしてやがって」
「……まあ、中学時代よくつるんでた奴の性別に女性が多かったのは認めるが……って主に柿崎と石原(葵)だぞ? そっちの方向はないだろ……」
「しかも最近はリアル真紅様にまで手を出しやがって! これが怨まずに居れようか!」
「まあ人の言うことを聞け、いやそれより待て。手を出すとか出さないとかそういう次元じゃないし、まずその発想をやめれ。本人を目の前にして失礼にも当たるぞ」
「う……すまん。いやすみません」

 素直なのか捻くれてるのかよく判らんヤツである。
 まあ、僕なんかから見ればサイカチは僕をちょっとずつグレードアップしたみたいな存在で(学業は倍くらいか……)、こうしてばらしーを購入できるほどの財力というのも、何を結集しても僕には多分ない訳であり、コイツの思い込みフィルタを排除すれば僕がリア充なんてことは全くない訳だが。
 逆に全ての面で自分より下だと思い込んでた僕が最近可愛い子と出歩いてるから無闇に僻んでるのかもしれん。その可能性は大いにある。

 取り敢えずうちのボロ人形どもに戦いを挑むことについてはばらしーの勘違いということで、ばらしー本人形の保全のためにもこちらの住環境の安全のためにも、むしろ積極的に禁止するということで話をつける。
 残念人形ズのことについてサイカチがどれだけ把握しているかは謎だが、全く知らない訳でもないらしいので、その辺はパス。よく知りたいなら我が家に来て目の当たりにし、大いに驚愕すれば良い。気絶したらバケツの水でもかけてやろう。
 サイカチとしては僕に怨念を持つこと自体はさらさら悪いと思っておらず、むしろ当然と考えているようではあるが、まあリアル真紅様ご本人の前であるし、良い機会ということでその辺もさりげなく釘を刺してやる。奴っこさんは不服そうにしていたが、森宮さんのお言葉で態度が百八十度変わった。

「貴方はとても純粋なところを持っている。それを間違った方に向けず、近くから呼び掛ける小さな声に気付き、扉を開きさえすれば、きっと貴方にも春は訪れるのだわ」
「はっ、はいっ!」
「今は未だ最初の一歩を踏み出せないで居るだけで、目の前には扉があるのだもの。頑張って……」
「ありがとうございます!」

 森宮さん、なんかその漫画から持って来た言葉を繋ぎ合わせて言うの止めようよ。サイカチもそれで納得するのかよオイ。
 まあいいか。長居をする訳には行かないので、そこまでで僕達はサイカチ宅を後にした。
 あ、そうだ。そういや、もう一つ案件があったな。柿崎への手土産みたいなもんだが。
 去り際に玄関で、半ば忘れていたことを尋ねてみる。

「そういや、オーダーメイドって何処に頼んだんだ。興味あるんだが通販のメールとか残ってないか?」
「通販じゃない。最近駅前に出来た人形専門店があるだろ? ニセアカシアってとこ。あそこに直接頼んだからな」
「え?」
「店主の塩入さんて人が人形の製作もやってるんだ。依頼して三ヶ月近く掛かったけどな」

 僕は唖然として森宮さんを振り返り、彼女は知らないという風に首を横に振った。
 お父様イコール製作者でこそなかったが、意外に近いところに、ばらしーの製作者は居たのであった。


 ~~~~~~ 一年前、春四月、某所 ~~~~~~


「──そうでした。姉と弟では、あの子の望む関係にはなれませんね」
「うん。……法的にも、倫理的にも」
「……あの子が記憶をもし取り戻すなら、それはどんなときなんでしょう」
「好きな人が出来たときかもしれないな。昔の愛情を忘れさせてくれるほどに……」
「そんな人が現れるんでしょうか。そんな、都合の良い人が」
「現れるといいね……彼女のためにも、君のためにも」
「え……?」
「君は、彼女が記憶を取り戻すまで、彼に告白しないつもりなんだろう? 彼女に対してフェアじゃないから。違うかい」
「それは……」
「僕の淡い恋は本当に手の届かない所に行ってしまったけど、君の恋はまだそこにある。だから君のためにも、僕は彼女の記憶が戻ることを祈っているよ」



※18:07 ほんのちょっと訂正


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