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No.24888の一覧
[0] 【ネタ】ドールがうちにやってきたIII【ローゼンメイデン二次】[黄泉真信太](2013/02/17 03:29)
[1] 黒いのもついでにやってきた[黄泉真信太](2010/12/19 14:25)
[2] 赤くて黒くてうにゅーっと[黄泉真信太](2010/12/23 12:24)
[3] 閑話休題。[黄泉真信太](2010/12/26 12:55)
[4] 茶色だけど緑ですぅ[黄泉真信太](2011/01/01 20:07)
[5] 怪奇! ドールバラバラ事件[黄泉真信太](2011/08/06 21:56)
[6] 必殺技はロケットパンチ[黄泉真信太](2011/08/06 21:57)
[7] 言帰正伝。(前)[黄泉真信太](2011/01/25 14:18)
[8] 言帰正伝。(後)[黄泉真信太](2011/01/30 20:58)
[9] 鶯色の次女 (第一期終了)[黄泉真信太](2011/08/06 21:58)
[10] 第二期第一話 美麗人形出現[黄泉真信太](2011/08/06 22:04)
[11] 第二期第二話 緑の想い[黄泉真信太](2011/08/06 22:04)
[12] 第二期第三話 意外なチョコレート[黄泉真信太](2011/08/06 22:05)
[13] 第二期第四話 イカレた手紙[黄泉真信太](2011/08/06 22:05)
[14] 第二期第五話 回路全開![黄泉真信太](2011/08/06 22:06)
[15] 第二期第六話 キンコーン[黄泉真信太](2011/08/06 22:08)
[16] 第二期第七話 必殺兵器HG[黄泉真信太](2011/08/06 22:10)
[17] その日、屋上で (番外編)[黄泉真信太](2011/08/06 22:11)
[18] 第二期第八話 驚愕の事実[黄泉真信太](2011/08/06 22:12)
[19] 第二期第九話 優しきドール[黄泉真信太](2011/08/06 22:15)
[20] 第二期第十話 お父様はお怒り[黄泉真信太](2011/08/06 22:16)
[21] 第二期第十一話 忘却の彼方[黄泉真信太](2011/08/06 22:17)
[22] 第二期第十二話 ナイフの代わりに[黄泉真信太](2011/08/06 22:18)
[23] 第二期第十三話 大いなる平行線[黄泉真信太](2012/01/27 15:29)
[24] 第二期第十四話 嘘の裏の嘘[黄泉真信太](2012/08/02 03:20)
[25] 第二期第十五話 殻の中のお人形[黄泉真信太](2012/08/04 20:04)
[26] 第二期第十六話 嬉しくない事実[黄泉真信太](2012/09/07 16:31)
[27] 第二期第十七話 慣れないことをするから……[黄泉真信太](2012/09/07 17:01)
[28] 第二期第十八話 お届け物は不意打ちで[黄泉真信太](2012/09/15 00:02)
[29] 第二期第十九話 人形は人形[黄泉真信太](2012/09/28 23:21)
[30] 第二期第二十話 薔薇の宿命[黄泉真信太](2012/09/28 23:22)
[31] 第二期第二十一話 薔薇乙女現出[黄泉真信太](2012/11/16 17:50)
[32] 第二期第二十二話 いばら姫のお目覚め[黄泉真信太](2012/11/16 17:50)
[33] 第二期第二十三話 バースト・ポイント(第二期最終話)[黄泉真信太](2012/11/16 17:52)
[34] 第三期第一話 スイミン不足[黄泉真信太](2012/11/16 17:53)
[35] 第三期第二話 いまはおやすみ[黄泉真信太](2012/12/22 21:47)
[36] 第三期第三話 愛になりたい[黄泉真信太](2013/02/17 03:27)
[37] 第三期第四話 ハートフル ホットライン[黄泉真信太](2013/03/11 19:00)
[38] 第三期第五話 夢はLove Me More[黄泉真信太](2013/04/10 19:39)
[39] 第三期第六話 風の行方[黄泉真信太](2013/06/27 05:44)
[40] 第三期第七話 猪にひとり[黄泉真信太](2013/06/27 08:00)
[41] 第三期第八話 ドレミファだいじょーぶ[黄泉真信太](2013/08/02 18:52)
[42] 第三期第九話 薔薇は美しく散る(前)[黄泉真信太](2013/09/22 21:48)
[43] 第三期第十話 薔薇は美しく散る(中)[黄泉真信太](2013/10/15 22:42)
[44] 第三期第十一話 薔薇は美しく散る(後)[黄泉真信太](2013/11/12 16:40)
[45] 第三期第十二話 すきすきソング[黄泉真信太](2014/01/22 18:59)
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[24888] その日、屋上で (番外編)
Name: 黄泉真信太◆bae1ea3f ID:db513395 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/06 22:11
「本物のお姫様抱っこかしらー。ジュンもやるときにはやるのかしら」
「ばらしーもやってもらったのよー?」
「私は……寸足らず過ぎ……赤ちゃん抱っこになっていました」
「重そうだけどなんだか嬉しそうな顔してるね、マスター」
「あの少女が軽いのでしょう。もっとも私の下僕(ゲボク)としてはあのくらいできて当然なのだわ」
「チビ野郎のダメ人間のくせに、役得もいいところですぅ」
「どーでもいいけど、あんたたちいつまで人を黒ひげ危機一髪状態で居させるつもりなのぉ?」
「むしろずっとそのままで居ると良いのだわ」
「えんだぁぁぁぁぁ~~~~~いやぁぁぁ~~~」
「……オイコラ殴るぞお前等。ぼーっと見てる暇があったら客間に座布団でも敷かんか」

 特に体力自慢の癖にニヤニヤ笑ってるだけの柿崎。骨折してるから仕方ないとか言いつつ、何一つ手を出そうともしなければ帰宅しようともしないのはどういう了見だ。
 這ってでも手伝わんか、と言ってやると客間の押し入れだけは開けてくれた。全く食えない奴である。一応礼は言っておく。
 比較的協力的な鋏とお貞、それにツートンに念力で形だけだが手伝わせ、座布団を引き摺り出して並べた上に森宮さんを横たえる。ダッフルコート姿のままというのもどうかと思うのだが、脱がせる気力もなかった。
 しかしまぁ、なんだ。
 築半世紀のボロい日本間。集っている適当な衣装の古人形ども。パーカ姿の僕に似たような恰好の柿崎。
 ダッフルコート姿で仰向けに寝ているだけなのに、森宮さんは明らかに浮いていた。
 なんというか、単に可愛いってだけじゃない。整い方というか、緻密さって言うのか……

「生まれてから今までの金の掛り方の差だね」
「またお前は言い難いことをさらりと……ってか帰らなくていいのかよ」
「しょーがないじゃんバス間に合わないし。親父にはメシ外で食うって電話入れといたから夕方まで問題なし。あ、昼飯お願いね」
「じゃーさっき喰ってた糞不味いシリアル食わせてやんよ。親父さんの昼飯は?」
「あたしが作んないと、朝の残り物の温め直し確定かな」

 すいません、柿崎の親父さん。たまの日曜日だってのに。

「それにしてもなかなか目を覚まさないのです……」
「ヒナ知ってるの。こういうときは王子様のキスが必要なのよ」
「人工呼吸の間違いだろ。しかも失神してるだけだから関係ないぞ。息してるし」
「いや、案外目ェ覚ますんじゃない? 口臭いとか、気持ち悪いとか、実はキスされるのを待ってたりとかの理由で」
「なんだその最後のケースは」
「乙女心は複雑ってこと」
「幾らなんでもそのために屋外でぶっ倒れるような真似はせんだろ……」

 柿崎本人ならやってもおかしくない気もするが、森宮さんはそこまでキレちゃいないと思いたい。
 その他の理由も御免蒙りたいが、三番目を期待して迂闊なことをしでかすと僕の築き上げてきた何かが崩壊しかねん。それは最悪のシナリオである。
 取り敢えずは客間に寝かせたままで見守ることにする。まさか彼女を独り置いて部屋を動くわけにも行かず、暫くは手持ち無沙汰な時間を過ごすこととなった。

「そう言えば、二人はいつ頃から仲良しなのかしらー?」
「大分昔の話になるねぇ……」
「精々四年ちょい前だけどな」
「二人の馴れ初め聞きたいのー」
「馴れ初めってオイ。それほど濃いい関係じゃねーぞ」
「初めて話したのは中学の屋上だったかな。あれで桜田のこと大体理解したんだ、あたし」
「どんなエスパーだよ。まあ、インパクトの強い場面だったのは認める」

 それは、概ねこんな感じの接触だった。


 ~~~~~~ 番外編 (JAM & Kakizaki Overture) その日、屋上で ~~~~~~


 中学一年生も二学期に入ると、やれ文化祭だのなんだのとそれなりに忙しくなってくる。
 まあそういうのが好きな奴は俄然張り切り出す時期でもあるのだが、僕にはあまり関係なかった。ただし、まるきり人生裏街道って訳でもないんで、例えば文化祭ということになるとそれなりにやることは出てくる。
 まあ、なんかそう言うと凄い重要な役割に聞こえるわけだが、実態はと言えばクラス対抗の寸劇の脇役であった。台詞は殆どなく、クライマックスでも叫んで倒れてそれでおしまい。しかし、それが実に叫び難い台詞なのである。

「グレーチェーン!」
「灰色の鎖じゃないんだからさぁ、もうちょっと気合入れようよ」
「グレーーーチェン!」
「間延びし過ぎー」
「グレーチェンっ!」
「もうちょっと感情込めて」
「石原なぁ……んじゃお前代役で声だけ当ててくれよ」
「僕でいいの? 女子だけど」

 既にこの頃から石原(葵)はにっこり笑って人を斬ると言うか、愛想は良いが容赦はなかった。
 っつーか、後から考えると、どうも僕で遊んでいた気配が濃厚である。そもそも寸劇なんて音声別撮りだし、そんなに良い機材使うわけでなし、素人の大根劇である。脇役の一言にそんなに気を使う必要はないのだ。
 しかしその当時の僕としては文化祭の寸劇というものの実態を知らないこともあり、それなりに真剣であった。
 放課後に通し練習とプレスコ収録をやるというので、昼休み、僕は藁半紙に印刷された台本(学校の古い機材を利用するとコピー用紙もコピー代も掛らないのであるが、十部程度のものを刷るのは流石にどうかと思う)を持ってその辺をうろうろすることとなった。当然台詞の練習のためである。
 そんなことを考えてみたこともなかったが、改めて探してみると校内というのは何処に行っても人がいるものだった。人目につかないだけなら話は別なのだろうが、声というのは厄介である。
 校庭の端も考えたが、こんな日に限って野球部が昼練なるものを行っている。迂闊に脇で謎の言葉を叫んでいたらボールが飛んで来かねない。

 結局、行くところは一つだった。用のない者立ち入り禁止の屋上である。用があるんだから構わんだろう。
 校舎の中と違って声が響くこともなければ、周囲に誰か居ることもない(ことになっている。場所柄物陰でキスしてる奴が居たりするかもしれんが糞喰らえである)。おお、まさに理想的環境。
 施錠されていない防風・防火の重い鉄の扉を開けると、能天気な青空が目に飛び込んできた。御誂え向きに良い風も吹いている。いやあ屋上ってホントに良いものですね。誰も居ないのが不思議なくらいです。
 って、居ないよね? ね?
 きょろきょろと左右を見回す。うむ。取り敢えず視界内に敵影なし。後ろ手にそろりと鉄の扉を閉め、教室の並んでいる側の反対の隅まで歩いて行き、転落防止柵に寄り掛かって一つ咳払い。
 よし。もしものときに恥をかく覚悟は完了した。

「グレーチェーン!」
「ハーイ」
「グレーチェーーン!!」
「ニイハオ」
「グレーーチェーーン!!」
「ジャンボー」
「ななな何者っ」
「三度目で漸く気付くかっ」

 ポコッ、と後ろから丸めた紙か何かで頭を叩かれる。
 急いで振り向くと、そこにはまだまともに話したことのないクラスメートが立っていた。柿崎恵。
 始業式の日の自己紹介のとき、漫画的な演出なら僕の額には確実に縦線が入っていたであろう。別にコイツの自己紹介が寒いものだった訳ではなく、問題はその名前であった。
 恵と書いてメグと読む。まさに誰かさんと同じ、仮名で書くとどこぞの漫画の登場人物という人物だった。
 実のところ、僕が何かにつけて名前ネタで弄られるのはコイツが同じクラスだったからという理由もあるのだ。
 どの阿呆が言い始めたか忘れたが、ローゼンメイデンと僕と柿崎の名前を結び付けたヤツがいて、以来何かにつけてそのネタを繰り返すもんだから、そんな深夜アニメを知らないヤツにまで知れ渡ってしまった。どちらか片方だけだったら琴線に触れなかったかもしれないが、二人揃うと倍増以上の効果があるようだ。
 文化祭で寸劇に関わることになったのも、元はと言えばそちらのヒキだった。冗談半分に衣装デザインとかとんでもない事(ちなみにこの時点から卒業まで僕の家庭科の成績は見事なアヒルの行進であった)を言われてこっちに回され、それよりは役者の方がまだマシということで脇役をやっている次第。
 しかし衣装係ねえ。冗談でなくそっちをやらされる破目になりかけるとは思わなかった。全国の山田太郎さんや上杉達也さんの苦労が偲ばれるというものである。

「ってーな、なんだよいきなり」
「灰色の鎖がどうしたってーの? ったくでかい声でギャーギャーと」
「寸劇の台詞練習だ。悪かったな」
「はぁ。あんなんテキトーにやっときゃいいじゃん。どうせ当日になりゃまともに見てる奴なんかいないよ」
「練習すんのは人の勝手だろ。お前こそ何しに来てんだよこんなとこに」
「あたし? 天使様にお空に連れてって貰おうと思って──」
「頭大丈夫か? いてっ」
「例のネタ、例の。毒電波受信してたんだよ長瀬ちゃんの方が良かった?」
「なんだそりゃ。そーゆーなりきりならどっかそーゆー仲間んトコでやれ」
「ここに居るじゃん、もろ主人公が」

 よせ、マジで怒るぞ。既にいい加減厭になってるんだからな……しかし、ホントは何やってたんだよ柿崎。
 訊いてみると、柿崎はニヤリと厭な笑顔を浮かべて隅の方に僕を連れて行った。こいつとはあまりお近づきにならない方がいいかもしれない、と思ったのはこのときが最初だったが、残念ながら思ったときには既に遅かった。
 隅の方、といっても何もない。強いて言えば柵は屋上の縁に沿って巡らされてるから、角のところで直角に曲がってるだけの話だ。
 柿崎は軽い掛け声を掛けて、その柵を乗り越えた。制止する間もなかったし、その動作は何気に安定というか熟練していて、全く危なげなく見えた。今にして思えば、多分この頃既に柿崎は鳶の現場とかで遊びやら手伝いやらをしていたんだろうな。
 柵を背負うような形になって、柿崎は片脚を前に出した。そのときは実に危なく見えたが、これも後から思い起こせば両肘で柵の縦棒をしっかり確保していた。
 しかし、口から出たのは如何にも柿崎らしい言葉だった。

「こっから一歩か二歩先に歩いて行って、周り中ずーっと見てみたいと思わない?」
「うん、それ無理。落ちて死ぬだけ」
「なんでそう現実的かなー。その先に何かハッピーでアンビリバボーな世界が待ってるかも知れないじゃん? やってみなきゃ分かんないでしょ」
「そこから一歩踏み出した場所が現実じゃないところならその心意気や良しってところだろうが、見たトコ何もないけど、どう見てもばっちり現実の延長で、重力はおんなじように効いてるぞ。んで床はない」
「ま、そうなんだけどさ。なんかねー、空飛んで爽快感欲しいとかは思わないんだけど、周りに何もないトコでぐるっと三百六十度見渡してみたいって思うんだ」
「……ならサーカスのブランコ乗りとか目指せば?」
「あ、それいいかもしんない。まぁでも、それは将来の話だからさ──」

 柿崎は屈みこみ、僕からは死角になった部分に片手を伸ばした。屋上の周囲には雨樋代わりの溝が巡らせてある。そこになにやら物資を隠匿しているらしい。用意周到というか、如何にも現場的な発想だ。
 じゃーん、とやる気のない効果音を口で言いながら持ち上げてみせたのは……なんだ。ロープ? 麻縄とかじゃなくて、建築現場で使うようなごついやつだ。
 よく見ると、ロープらしきものは柵の根元に二箇所ばかり巻きついている。

「なんだそりゃ。レスキューの真似? それともロープアクションでもやるつもりだったのか?」
「いや、単に降りようかと思ってたんだけどさ。今日は中止。あんたに邪魔されて時間なくなっちゃった」
「壁際で降下したって周り中見渡すも何もないとは思うが……まあ僕の活躍で犯罪を未然に防止できたのならば実に結構なことだ」

 うむうむと頷いてやると、柿崎は何が気に入ったのかにやっと白い歯を見せた。
 名前に反してブサイクなのは僕も人後に落ちない訳だが、こいつも同様に美人とは言い難い。しかしなんというか、このときの柿崎の表情は──まあその後何度も見ることになる訳だが──まるで宮崎アニメのがきんちょの如き、あるいはじゃりんこチエ的な、一種独特な存在感のある笑顔だった。

 しばし、見惚れるのではなく呆気にとられてその顔を眺め、僕はあることを思い出した。時間なくなった、だと?
 腕時計を確認してみる。無情にも昼休みは残り数分になっていた。
 天を仰いで嘆息する。嗚呼、結局最後の昼休みはあちこち動き回っただけで無駄に終わってしまった。
 いつの間にか柵を再度乗り越えて戻って来た柿崎が、肩をぽんと叩いて先に帰って行く。僕は肩を落としてその後ろに続いた。
 教室に帰って来た僕達を見ていた奴は多かったはずだが、柿崎が僕をシメたというような噂が流れなかったのは不幸中の幸いだった。


「それでそれで? 台詞練習できなくてどれだけドヤされたのかしらー?」
「それが……結局一発OKだった。つーか台詞間違えとかがなければ特に撮り直すようなモンでもなかったんだよ最初っから……」
「純情を弄ばれたのですね……ジュンだけに」
「お前、今自分で上手いこと言ったと思っただろ……」
「恵さんはそれから降りてみたの? 随分危険な試みに思えるけれど」
「んー、次の日桜田も連れてまた行ったんだけど、ロープが没収されててパアになっちゃった」
「残念なのー。れすきゅーごっこ楽しそうなのー」
「なんで見付かったか謎だよねー。あんなトコ教員も碌に見回ってないのにさぁ。間が悪いとしか思えない」
「アホか。降りてたら確実にワイドショーのネタになるレベルの騒ぎだぞ」

 ついでに言えば失敗したら柿崎は大怪我確実。それは自業自得としても、成功しようが失敗しようが、岡部という何処かで聞いたような苗字の担任は下手すると監督不行き届きでクビ、学校そのものもワイドショーか何かの恰好の取材対象だったろう。周囲を巻き込んだ大惨事と言っていい。
 小市民的な幸せを重んじる僕としては、実行されなくて良かったとしか思えないのであった。
 但し、僕の小市民的な幸せが実現したかというとそれは正反対であった。柿崎に目を付けられ、更に文化祭以降、主に寸劇の関連で石原姉妹の関心も買ってしまったらしい。何かにつけて、というほどではないが、食い余りのチョコレートを頂いたりとか、お裾分けでチョコレート自体を頂く程度の関係にはなった。
 これが恋愛感情を伴っていればハーレム万歳といった按配だったのかもしれんが、如何せん僕である。石原姉妹にはどうやら意中の人がそれぞれ居たらしいし、姉の方は男子から、妹の方は主に女子からのラブレターがぽつぽつと届くような人物だった。言葉を飾らずに言えば僕は鼻にも引っ掛けられてなかったわけだよ。
 まぁ僕の方でも理想のタイプとかいうものが一応あったわけで、そこからは三人ともずれていた、ということにしておこう。二年の夏休みに石原(美登里)にラブレターを渡そうとしたが結局未遂で終わった件は僕の黒歴史の一つである。
 柿崎にしても、何かといえば僕を誘う、とかいうほどではなかった。むしろバンドをやるとかやらないとか言ってる時期で、そっちが主要な関心事だったらしい。ただ、何か変わったこと(確実に碌でもないことだったが)をするときは必ず僕の出番という話になった。
 今から考えると、柿崎は僕にとってのプチ涼宮ハルヒであった訳か。恋愛感情も何も無かった僕としてはいい迷惑だったとしか言えない。

「まあ鳥みたくスーッと飛ぶんじゃなくて、ふよふよ空中浮遊したいってことだから、黒いのの大家としては合格点だろ、相性とか」
「ちょっと待ちなさいよ。なんでこんなのと相性良いって話にされちゃうわけ?」
「あたしは嬉しいけど?」
「私は全っ然嬉しくないわぁ……」
「判らんでもないぞその気持ちは」

 奇っ怪残念人形とはいえ、黒いのが柿崎をこんなの呼ばわりするのはよく判る。
 流石にくたばったと思って快哉を叫んだってところまでは同意出来かねるものがあるが、そんな薄情極まりないことを言われても致し方ないかな、と思わなくもない。その程度には柿崎はイカレていた。
 主に迷惑を掛ける対象は中学校のときは僕だの僕の周囲だのであった訳だが、現在は恐らく黒いのが被害の大部分を引き受けているのだろう。哀れである。
 だがしかし。僕等がコイツ等の大家になった理由は、例の漫画の登場人物と同姓同名だからってことだけではあるまい。
 それなりの素養とか相性とかいうやつがあるんではなかろうか。となると、都合五体ばかり寄宿させている僕は置いておくとして、黒いのだけが柿崎の所に行ったというのは、柿崎との相性が良かったと考えるしかない。
 哀れよのぉ黒いの。お前は柿崎のパートナーとなるべき運命だったわけよ。くっくっくっ。

「しかしそれにしても……目覚めないわねぇ。つまんなぁい」
「あ、スルーしやがった」
「ヒナはもっと艶っぽい馴れ初めのお話が良かったのよ。あれだけじゃイマイチ以下なのー」
「この二人にそーゆーものを求めるのが間違ってるですぅ。期待するならこのお姫様と誰か王子様の恋話の方がいいのですよ」
「あら、この子はジュンの彼女さんなのではなくて? 寝言で何度も呼んでいた名前と一致しているのだわ」
「そう言えば、『森宮さん』って言ってたかしら」
「おお、何あんた、やっぱそういう関係の子なんだ。桜田のくせに上物捕獲したもんじゃん」
「まだ片思いの可能性も残ってるよ。油断は禁物だねマスター」
「……なんてコメントして良いか判らんが、取り敢えずお前等森宮さんが起きる前に視界から消えとけよ。また失神されるぞ」
「あーそれは同感。今度気ぃ失ったら目覚めるのは天国かもよ」

 いや流石にそれはないだろ。あと僕が人身売買のブローカーみたいな言い方するの止めてください。マジで。
 でも確かになあ。上物捕まえた、か。
 学年全体探せば他にも何人か居ない訳じゃないけど、僕とは異常なまでに不釣合いなくらいのお姫様ではあるよな。
 体育以外の成績も良いらしいし、あの邸宅に住んでるお嬢様だし。こっちはどちらも残念過ぎるわけで。なんか数字に出来るもので同い年の学生を二分するように線引きしたら確実に向こうとこっちに分かれてしまう僕たち二人なのである。大身の姫君と水呑み百姓というかなんというか。
 数字に出来ない部分でも……なあ。
 石原姉妹(主に姉)のお陰で美人にはそれなりに免疫はあるし、御嬢様だの美人だのでも性格がアレだと輝いて見えないなぁとは思うが、それにしてもやっぱしなぁ。まるで外国映画の中から抜け出てきたような整った顔立ち。ツーテールに纏めてるけど、実はかなり長い髪。繊細な細い手。そして、大きな瞳。
 今も僕の方を見詰めて瞬いているけど、例えば恐らく僕の目とか柿崎の目とかと比較したら……ってあれ。

「ここ……は?」
「森宮、さん?」

 起きてた、だと?
 やばいやばいやばい。素早く僕と柿崎は視線を交わす。

「クックック、此処は地獄の一丁目、あたしゃ三途の川の渡し守サァ」
「えっ……?」
「アホなこと言ってんじゃねえよ。僕のうちは魔窟か閻魔さんの屋敷かなんかか」
「間違ってないじゃん。てか今一瞬信じたよねー?」
「あ……いえ、そんなことは……」
「いやー絶対信じたね。眼が泳いだもん」
「小学生かおのれはっ」

 到底絶妙とは呼べないが咄嗟の遣り取りで間を持たせつつ、僕は片手でしっしっと人形ズに退却を指令した。ここで森宮さんに大量の動く人形を見られたら、またさっきと同じ状態に逆戻りである。
 しかし、僕と柿崎の時間稼ぎは空しく終わった。

「……動いてるのね」
「えっ、なになになにが? そりゃ生きてるんだから動くよ口も手も」
「そ、そうそう。動かなきゃ死体だし、話もできないじゃん?」
「貴方達ではなくて──」

 森宮さんは上体を起こした。
 恐る恐る視線の向く方を追って行くと、そこにはまだノソノソふよふよと緊張感なく移動し、戸口に到達してもいない赤いのと黒いのの姿があった。
 おい、しかも鋏とお貞、顔出してこっち向いてんじゃねーよ。全部見られちゃうじゃねーか。
 髪の毛が逆立つような気分で振り向くと、森宮さんはこれまでの中で一番強張った表情のまま、しかし気を失うこともなく依然として戸口の方を見やっていた。

「──その子たち、やはり動けるのね。自分の意志で……」

 静かな、しかしはっきりした声だった。
 視線だけがこちらに向き、僕は機械的な動作で頷いた。彼女が失神しなかったのは良いとして、これで残念人形ズが自動残念人形ズであることが彼女にばれてしまったのは間違いなかった。


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