【ごちゅうい】
当作品は PEACH-PIT先生の漫画「Rozen Maiden」及びそれを原作とするアニメーション(1期、2期(トロイメント)、特別篇(オーベルテューレ))を元ネタにした二次創作作品です。
基本的にパロディのようなものです。
原作を知らないとさっぱり展開が判らない上、特殊な書き方をしている関係上誰が喋っているかさえ判らなくなると思います。
原作未読/未見の方は楽しめない類のSSですので、判る方のみご覧ください。
なお、当作品は自ブログの方でも掲載しております。
私の書いたSSだけしか記事がないブログですが、Arcadiaが繋がりにくいときはご利用ください。
駄文墓場改1 でググっていただければ見つかります。
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僕の名前は桜田潤。
嘘や冗談じゃなく、どっかの漫画の主人公の勝ち組ヒキコモリ中学生(大学生バージョンもいるけど)と同じ名前だ。まぁ向こうはカタカナでこっちは漢字だけどね。
名前以外で似てるところは、残念ながら少ない。
あっちは中学二年で登校拒否中、資産家……って言うか有名古物商の息子で天才的な裁縫の腕を持ってる。おまけに美人の彼女と姉貴持ちだ。超優遇されたヒッキー。略してスーパーヒキー。
ていうか引き篭る原因もひ弱なエリートらしいっていうか、なんか共感しにくいのは僕が僻んでるからか。まあ、そういう話なんだからしょうがないけどさ。
対してこっちは高校二年で厭なことはいろいろあるけど無事通学中、貧乏会社員の子供でなーんの取り柄もない。彼女いない歴=満年齢で独りっ子。
あ、名前以外に似てるところが全然ないのか、っていうとそうでもない。チビで、メガネだ。
……なんか、言ってるだけで悲しくなってきた。
まあ、漫画の主人公と自分比べてもしょうがないんだけどさ。
少女漫画っていうか、そーゆう薔薇色漫画なんだから。主人公は何不自由ない立場にしとかないと、いろいろ面倒臭いんだろうし。
もっとも同級生の石原に言わせると、週刊少年誌の超人キャラ達と同じ名前じゃなかっただけマシ、らしい。確かにそうかもしれない。でもなんか、上には上って言うか下には下があるって感じで全く嬉しくない。
「また、その鏡に向かってぶつぶつ言ってるのね」
「いいじゃんか。少しくらい愚痴らせてくれよぉ」
「良くないわ。貴方はこの私の下僕なのだから」
「知ってるか? 下僕って書いて、普通はシモベって読むんだぜ」
「奴僕、家僕、下僕と並べればゲボクの方が合っているわ」
全く口の減らないヤツだ。
ああ、もう一つ似ているところがあった。
僕はコイツ──今は僕の後ろでまたなんか碌でもないことをやってる──を居候させてる。人形の癖に勝手に動き、喋り、横柄に命令してくる愉快なヤツだ。
ちなみに居候を始めたのは僅か一週間前だ。当然だが最初の日は血で血を洗う……ことはなかったけど、大騒動だった。恐怖と不安でその晩眠れなかったくらいだ。
コイツは既に僕との生活に馴染んだらしいけど、こっちは居候させる前の安穏とした生活が早くも恋しくなり始めている。
「ほら、また」
「るっせーな。それにこれは鏡じゃねーよ。パソコンのモニター。画像出力装置。わかる?」
「知っているわ。貴方の楽しい遊びを映し出す鏡でしょう」
「……まあ、間違いじゃないけどな」
テレビやDVD見る以外には検索とゲームくらいしかやってないしな。エロ画像はこいつがいると見れないし。
って、ンなことはどうでもいいんだ。
僕は机の上の漫画を取り上げてバシバシと叩いて示してみせる。大丈夫、古本屋で一冊五十円だったやつだ。ちなみに紙が黄ばんでるけど気にしない。読めればOK。
「そんなことより、お前あれだ。至高だか究極のスーパー少女になるためにアリスゲームやんなくていいのかよ。これまで一週間、お前がやったことって言ったら僕になんやかやと命令して小物買い揃えさせただけじゃんよ」
「……」
「まあ百均とリサイクルショップで揃ったから大した出費じゃなかったけどな。餌も要らないみたいだし。まーそれはいいんだけどさ」
「……」
「海原雄山……じゃなくてお父様の愛を得るためにまるで呼吸をするように身に染み付いて突き動かされてるんじゃないのかお前達薔薇の姉妹はさ」
「……」
「それはローゼンメイデンとして逃れられない宿命ではないのか。嗚呼!」
「……」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。
回転椅子をくるりと後ろ向きにすると、ソイツは目をぱっちり開けてこっちを睨んでた。赤い服を着た大きめの西洋人形。
正直、これが全自動で動いて僕に命令したりしてると思うとちょっとどころじゃなく不気味で怖い。
ていうか、もう会話はしてるけどね。それも一週間の間、毎日散々。
「なんだ急に、ネジ切れて物が言えなくなったとか?」
「……いいえ」
「じゃあ、どうしたんだよ」
「……驚いたのよ」
「はあ?」
「貴方は、どこまで知っているの」
人形はカタカタと震え始めた。こっちを睨んだままだ。
ちなみにカタカタってのは歯の根が合わなくてカタカタ言ってるわけじゃない。実際にカタカタ音を立ててるんだ。
正直に言う。これはかなりキた。
普段の姿でもやっと見慣れてきたところだってのに、その上カタカタ震えるとか反則だろう。
今更ながら不気味さで耳の後ろがぞわぞわしてきた。
「あ、あのな、えーと」
「有り得ない……有り得ないのだわ。人間がそこまで予備知識を持っているなんて」
「いや予備知識とかそんなことはどうでもいいからその」
「恐ろしい……なんてこと……なんてことなの」
「だからそのカタカタ細かく震えるのを止めませんかちょっとねえ」
「これも……お父様の与えた恩寵、いいえ試練なのかしら」
「あーーーっ、もう、だーーー!」
わしっと人形の両肩を掴む。カタカタいうのはどうにか止まったが、当然ながら至近距離でまじまじと見詰めることになってしまった。
うん、よーく見える。
蒼いドールアイ。ぽっちゃり系のいい子ちゃん顔(byどっかの漫画の第一ドール)。付け睫毛までよーく見えますとも。
顔の表面の焼付け塗装の、長年のなんやらかんやらで煤けてたり剥げ始めてたりするところとか。
おまけに掴んだ両肩の、固い陶器の感触とか、大分古くなってる衣装の脆そうな手触りとか。
そう。
これは紛う方なきアンティークドール。最近作られたもんじゃあない。当時モノの古いやつ。
見れば分かる。誇り高いかどうかは知らんが埃は確実に溜まってるし、あちこち劣化も進んでいる。保存状態が悪かったのかもしれない。いや、勝手に動いてるんだから状態悪いのは当たり前。
魔法みたいなもんで守られてる(んだろうなぁ)半永久的な無機の器を持った少女人形なんて上等なもんじゃあ、ない。 ただの人形だった。動いてしゃべることさえ除けば……。
「お前がマンガとかに意外に詳しいのはわかった。読みたいなら今度全巻買ってきてやってもいい(古本屋で)。だからその、カタカタってのやめて。俺が悪かった。ホントすまんです」
「……」
「正直調子こき過ぎてました。だからもう変なこと言うのやめて大人しくしててください。なりきりもしなくていいですから」
「……なりきり?」
「アリスゲームとか宿命とか言い出した俺が悪かった。つか、そういう反応されるとマジでそんなことやらかしてそうな雰囲気になってまた眠れなくなりそうだか──」
「──本当よ」
「へ?」
「私は究極の少女になるために生きている、少女人形。そのために姉妹同士で戦う宿命を負っている……」
「なんですとおぉぉぉぉぉぉ!」
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※実験のできない日にちょこっとずつ書いてたもの。
続くかどうかは気分次第です。