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No.24869の一覧
[0] 【連載中止のお知らせ】もう一人のSEED【機動戦士ガンダムSEED】 【TS転生オリ主】[menou](2013/01/22 20:02)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/05/04 00:17)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/05/04 00:17)
[4] PHASE 01 「リナの出撃」[menou](2013/05/16 22:57)
[8] PHASE 05 「インターミッション」[menou](2010/12/20 23:20)
[9] PHASE 06 「伝説の遺産」[menou](2010/12/20 23:13)
[10] PHASE 07 「決意の剣」[menou](2010/12/21 23:49)
[11] PHASE 08 「崩壊の大地」[menou](2010/12/23 11:08)
[12] PHASE 09 「ささやかな苦悩」[menou](2010/12/24 23:52)
[13] PHASE 10 「それぞれの戦い」[menou](2010/12/26 23:53)
[14] PHASE 11 「リナの焦り」[menou](2010/12/28 20:33)
[15] PHASE 12 「合わさる力」[menou](2010/12/31 14:26)
[16] PHASE 13 「二つの心」[menou](2011/01/03 23:59)
[17] PHASE 14 「ターニング・ポイント」[menou](2011/01/07 10:01)
[18] PHASE 15 「ユニウスセブン」[menou](2011/01/08 19:11)
[19] PHASE 16 「つがい鷹」[menou](2011/01/11 02:12)
[20] PHASE 17 「疑惑は凱歌と共に」[menou](2011/01/15 02:48)
[21] PHASE 18 「モビル・スーツ」[menou](2011/01/22 01:14)
[22] PHASE 19 「出会い、出遭い」[menou](2011/01/29 01:55)
[23] PHASE 20 「星の中へ消ゆ」[menou](2011/02/07 21:15)
[24] PHASE 21 「少女達」[menou](2011/02/20 13:35)
[25] PHASE 22 「眠れない夜」[menou](2011/03/02 21:29)
[26] PHASE 23 「智将ハルバートン」[menou](2011/04/10 12:16)
[27] PHASE 24 「地球へ」[menou](2011/04/10 10:39)
[28] PHASE 25 「追いかけてきた影」[menou](2011/04/24 19:21)
[29] PHASE 26 「台風一過」[menou](2011/05/08 17:13)
[30] PHASE 27 「少年達の眼差し」[menou](2011/05/22 00:51)
[31] PHASE 28 「戦いの絆」[menou](2011/06/04 01:48)
[32] PHASE 29 「SEED」[menou](2011/06/18 15:13)
[33] PHASE 30 「明けの砂漠」[menou](2011/06/18 14:37)
[34] PHASE 31 「リナの困惑」[menou](2011/06/26 14:34)
[35] PHASE 32 「炎の後で」[menou](2011/07/04 19:45)
[36] PHASE 33 「虎の住処」[menou](2011/07/17 15:56)
[37] PHASE 34 「コーディネイト」[menou](2011/08/02 11:52)
[38] PHASE 35 「戦いへの意志」[menou](2011/08/19 00:55)
[39] PHASE 36 「前門の虎」[menou](2011/10/20 22:13)
[40] PHASE 37 「焦熱回廊」[menou](2011/10/20 22:43)
[41] PHASE 38 「砂塵の果て」[menou](2011/11/07 21:12)
[42] PHASE 39 「砂の墓標を踏み」[menou](2011/12/16 13:33)
[43] PHASE 40 「君達の明日のために」[menou](2012/01/11 14:11)
[44] PHASE 41 「ビクトリアに舞い降りて」[menou](2012/02/17 12:35)
[45] PHASE 42 「リナとライザ」[menou](2012/01/31 18:32)
[46] PHASE 43 「駆け抜ける嵐」[menou](2012/03/05 16:38)
[47] PHASE 44 「キラに向ける銃口」[menou](2012/06/04 17:22)
[48] PHASE 45 「友は誰のために」[menou](2012/07/12 19:51)
[49] PHASE 46 「二人の青春」[menou](2012/08/02 16:07)
[50] PHASE 47 「もう一人のSEED」[menou](2012/09/18 18:21)
[51] PHASE 48 「献身と代償」[menou](2012/10/13 23:17)
[52] PHASE 49 「闇の中のビクトリア」[menou](2012/10/14 02:23)
[55] PHASE 50 「クロス・サイン」[menou](2012/12/26 22:13)
[56] PHASE 51 「ホスティリティ」[menou](2012/12/26 21:54)
[57] 【投稿中止のお知らせ】[menou](2013/01/22 20:02)
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[24869] PHASE 51 「ホスティリティ」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/12/26 21:54
「ふぅ……」

ビクトリア基地で特別にあてがわれた執務室で、フィンブレン・ギリアムは軍帽を置くと、仕事が一段落して息をついた。
一隻の艦長という役職は、士官学校で習ったよりも仕事がある。
指揮系統及び艦内クルーの掌握、艦内各部視察はもちろん、幹部クルーとの航路や作戦の調整、ユーラシア連邦軍と兵站手続きや艤装、クルー配置などの外交などなど。
これは一隻の艦長の役職というよりも、この大西洋連邦の機密の塊である、強襲特装艦だからこそだろう。
この艦に乗るまでは、まさか、戦場各地を転々とする特務艦の艦長代行を任せられるとは夢想だにしなかった。

「ラミアス少佐は運が良かったな……」

軍帽をデスクに置きながら、若い女性士官であり、現副長の少佐を思い浮かべる。
もし我々がアークエンジェルに拾われなかったならば、彼女が艦長となり、この職務を負わされていたことだろう。
あの若さで、しかも技術士官でこの重責は辛かろう。自分も、ほんの二度であるがドレイク級の練習艦の艦長を任されたことがあるから、予行演習はできているが。
とはいえ、ラミアス少佐をはじめ、ショーン中佐、バジルール中尉他、多くの優秀なクルーが居るからこそ、艦長代行として役目を果たすことができている。

「……思えば、第七艦隊所属の俺が、第八艦隊の艦を操るのは問題だろうな」

かなり今更であろう心配をする。まあ、この特務艦の艦長を一ヶ月程度勤め上げたという実績があれば、それなりの箔にはなるだろうが。
無論、そういう打算があって艦長の席についたわけではない。三百余名の命を預かる艦長として、全力を尽くしただけのことだ。
あのときの幹部会議でラミアス少佐が艦長職に就くと決まったのなら、自分はなんら反論を挟むことなく歓迎したことであろう。
ただ、優秀なメイソンクルーが長期間ただのお荷物になることただ一点が、耐えられなかったかもしれない。そういう意味では、俺が艦長に就くことに意味はあったか。

ふと寂寥感を覚え、家族の写真を見たくなったのだが、メイソンと共に宇宙の藻屑になったことを思い出し、頭に思い浮かべる。
美しい妻と、十一歳になって間もなくの娘の顔を思い浮かべる。宇宙には二年出ているから、だいぶ成長しているだろう。母親似だから、会うのが楽しみだ。

「ようやく、地上だ……。お前達の顔が見たいな。リアラ、アンネ」

それほどに、地球と宇宙の距離は遠い。生命の存在を拒む宇宙空間が距離を作り、鉄をも蕩けさせる大気圏が壁を作る。
同じ地球にいるということは、たとえ通信機器などの電子機器の機能を阻害するΝジャマーが雲を作ったとしても、同じ家の中庭にいるようなものだ。

「?」

軍人には禁物と言われている里心に耽溺していると、扉の前のインターホンの音によって現実に引き戻された。
家族の顔を脳裏から横にどけて、地球軍大佐の顔になってから応答する。
モニターには、顎が長くソバカスの多い南米系白人の軍人が立っていた。

「何か?」
〔こちら、大西洋連邦軍第七艦隊所属、ノビル大尉であります。フィンブレン大佐。お迎えにあがりました〕

第七艦隊所属。迎えに来た。もう、そこから先は聞かずとも分かる。

「……入りたまえ」

いつも通りの冷徹な声で応え、軍帽を被りなおし、扉を開けて立ち入るノビル大尉を迎える。
敬礼を交わしてから、体格のいい彼の小脇にある命令書を見やる。またも紙媒体か。
それを、垢ぬけない顔立ちに似合わぬ恭しい仕草で手渡され、命令書に目を通した。


『下命 地球連合軍 第七機動艦隊所属 フィンブレン・ギリアム大佐

貴官のこれまでの働きに感謝と敬意を表明し、第七艦隊への復隊を命ず。
第七艦隊隷下の士官諸士と共にスエズ基地に移動せよ。以後の命令は現地にて達す』

最後に第七艦隊司令のサインと、三軍統帥権を持つ元帥のサインが入る。地球連合大統領ですら覆せない命令書。
私がアークエンジェルの艦長席に座ることは、二度と無いということだ。
アークエンジェルの航海は、これから更に厳しいものになっていくだろう。そのために気合いを入れなおしていたのだが、その矢先でこれだ。
軍の命令というのは、いつも人の気持ちを水を差すように出来ている。

(いつも上申受諾は遅い割に、下命だけは早いのだな)

捨て鉢になって呟く。アークエンジェルの艦長の席。惜しくないといえば嘘になる。
だが、今までが異常だっただけで、これから軍という機械の中で正常な歯車となっていく、というだけだ。
ここまでアークエンジェルの艦長を務めてきたという箔がつき、より良い扱いが保証される。そう考えれば、そう腐ることは無い。

(できれば、最後までこの艦の行く末を見届けたかったのだが……)
「……何か?」

命令書を読んで複雑な感情を整理している『間』に、ノビル大尉が片眉を上げる。

「いや。……貴官が案内人か?」
「ハッ。道中、お体をお預かりします。出立は今日一七〇〇時を予定しておりますので、それまでに第二格納庫に集合してください」

今日の夕方。約八時間後か。ずいぶんと急ぐものだ。

「アークエンジェルの、アラスカへの航行はどうなっている?」
「第八艦隊が引き続き、その任にあたると聞いておりますが」
「……それでは分からん。護衛部隊の編成はどうなっている。これまで護衛を務めてきたパイロットは、ほとんどが第七機動艦隊所属のパイロットなのだぞ」

詰め寄る自分がヒステリックに映ったのだろう。ノビル大尉の目が丸くなっている。

「私も、そこまでは……この異動護衛の任以外には、小耳に挟んだ程度でしか存じません」
「……」

それもそうか。彼は単に命令書を渡し、かつ道先案内をしに来ただけであり、参謀部や情報部つきの軍人ではないのだ。
彼の所属に関してはよくは知らないが、物腰で、前線の戦闘員――特にパイロットだということくらいしか判別できない。
これ以上は彼と話すことも無かろう。軽口でも叩いて換気するか。

「スエズ行きのタクシーに、浮浪者が群がってこないだろうな?」
「連合軍旗かかげてハイウェイを飛ばしても、小石一つ飛んできません。ご心配なく」
「それならば、ゆっくりと空の旅を楽しむとしよう」

フラガ少佐とシエル大尉に、護衛戦闘機のパイロットでも頼めればいいが。
彼と彼女は一流のパイロットで、気心が知れた部下だ。ついさっき顔を突き合わせたばかりの軍人よりも、二人の方が信用できる。
さて、苦楽を共にした第八艦隊のアークエンジェルクルー達に、挨拶をして回らねば。彼らには、無事に辿り着いてもらいたいものだ。心底、そう思う。





静謐な暗闇に響く、甲高い足音。
丈の長い衣装を、暗闇の通路に満ちた人工の空気にたなびかせて歩いている。
自分が真っ直ぐ歩いているのかどうかは、足元をほんのりと照らす電子灯だけが頼りだ。
頬に感じる空気は、暑くもなく寒くもない気温。匂いはほとんど無臭。かなり快適な環境に近く、ここで寝転がればさぞかし快適な睡眠を摂取できるだろう。

だが、男にはここで寝転がるわけにはいかなかった。足音は自分のもの一つではない。後ろ左右に付き従う二つの足音がある。
暗闇に潜む妖の類ではない――先頭を歩く男は、それほど信心深くはない。男の護衛だ。
護衛の二人は、一語たりとも私語をせず、咳やあくびなどの生理現象を起こすこともしない。優秀な護衛だ。
この二人が、自分が突然床に寝転がったら、その無表情を少しでも歪めてくれるのだろうか? ……黙ったまま、冷徹な眼差しで見下ろされそうで、逆に怖い気がするが。

そういったくだらない考えが浮かぶくらいには、この通路は長かった。
いつまでも続くかと思われた暗闇の通路に、一筋の光が見えてくる。
先頭を歩く男は差し込んできた強い光に目を細め、その光差し込む外へと歩を踏み出した。

光ある外に立ち、暗闇から抜け出すと、そこは草原広がる大地であった。
人工的な空間から一転、緑豊かな空間。なだらかな丘陵に息づく生命の交響楽。
空にはぽっかりと白い雲が浮かび、鳥が飛び交い、蝶が蜜を求めて舞い、鹿や羊が草や木の実を食む。
その中にあって不自然な点といえば、青空に巨大な縦の線がいくつも並んでいることだろうか。
天を支える柱――こう表現すれば荘厳さを装飾できるのだが、と、それを眺める男は自嘲した。
あれはそういった神聖さや幻想とは程遠い、宇宙空間と生存空間を隔てる壁を支える人工の支柱だ。

「エリュシオン・ワン」。
宇宙に住まうプラント住民の慰安を目的に建造された、観光用のプラントだ。
ここで生育している植物や動物は全て地球から取り寄せたものであり、より地球に近い環境ということで、地球、プラント間の緊張が高まる前は、地球から来た観光ツアーの一スポットとして親しまれていた。
戦争中の現在も、数は減ったもののプラントからの観光客が途絶えることなく入っており、遠くでスポーツを楽しんでいるのが見える。
それを目を細めて眺めてから、先客の人影に目を向ける。

「先においででしたか。ライナー議員」

その背に穏やかに声をかけると、その人物――ライナー議員が、ゆっくりとした動きで振り返った。
青緑のロングコートにスラックス。白髪が目立ち始めた、短く切った黒い髪。赤い瞳に、小じわが刻まれた目元。
体つきは制服で体のラインが隠れているが、元は地球軍に所属していたため、がっしりとした体つきをしている。
四十代の半ばくらいの男は、後から来た男と、その護衛に視線を向ける。

「はい。いつも議員の机にべったりしていては息が詰まるし、心もささくれ立ってしまいます。
戦争中で仕事が溜まっているのは承知の上なのですが、これも仕事の効率を上げるためには重要なことなのですよ」

そう言いながらも、彼の表情は硬い。ライナー議員はゆっくりとした口調で答えながら空を舞うトンビを見上げた。
ガブリエル・ライナー。国防委員会の議員であり、第一世代コーディネイター。
そして、フィフス・ライナーの父である。

「……フィフスは、どうしていますか?」
「ご令嬢は、現在カーペンタリア基地に待機しています。再来月には、来たるアラスカ攻略作戦に参加します」
「過酷な作戦になるのでは?」

問いかけるガブリエルの表情は沈痛だ。

「地球連合には既にMSが配備されており、また対空防御も堅固です。厳しいものとなるでしょう」

彼に対し、男は気休めや虚言を弄することはできない。ただ事実のみを告げた。
ザフトのMSも徐々に高性能化してきたとはいえ、それは局地戦に特化して性能向上を図ってきたに過ぎず、降下作戦を実行できるような機体は未だにシグーやジンが中心だ。
地球連合もG兵器の量産モデルが大量に配備している。それに加えてアラスカの対空防御はすさまじく、前回のように降下作戦を行えばザフト側に多大なる損害を被るだろう。
男はガブリエルの不安を払拭するために、もう一つの事実も告げる。

「ですが、ご安心ください。ご令嬢は先日ロールアウトしたばかりの二機の最新鋭機のうちの一機、フリーダムに搭乗しています。
彼女の能力も併せて見れば、あの機体のコクピットは、この戦乱の世界で最も安全な場所と言えるでしょう」
「……そうですね。あれほどの高性能機にフィフスが乗るなら、安心です」

男の言葉に、まだ不満が拭いきれないという顔をしているが、とりあえず納得する。
スペック上の話で完全に安心しろというのは無理な話だが、安心材料の中で最も現実的な話でもある。
現実ならば受け入れて、それで納得しなければならない。「だがしかし」「でもそれでも」でいつまでも不安がっていては、政治的決断など不可能だ。

「あとは部隊の編成と集結が完了するのを待つだけです。ザラ議長閣下も心待ちにしていることでしょう」
「……何故、ザラに手柄を譲ったのです?」

話を完結させて立ち去ろうとする男を引きとめる。

「フリーダムとジャスティスの開発は、大きな功績でした。その功績によって、ザラが議長の席に座ることになったのですが……。
元々あれは貴方の着想であり、技術も貴方が持ってきたものであるはずです。なのに、どうしてザラにリークしたのですか?
もし貴方が着想と技術を発表していたなら、貴方が議長となり、目的へいち早く近づくことができたはずです。何故……」

ガブリエルの呈する疑問に、男は温和な笑顔で応えた。

「これも必要なことなのです。いたずらに目的へ邁進するだけでは、足元を掬われてしまいかねません」
「……基礎を築いている段階である、と?」
「ええ。そして、本当の敵を世界に知らしめるために」
「本当の敵?」

ガブリエルは彼の言葉に、思わず問い直す。
敵だの味方だの。そういった二極的な物言いを滅多にしない彼にしては珍しい。
彼も自分の言葉が意外に思ったのか、苦笑いをこぼした。

「それについては、まだお話しすることができません。どこに耳があるとも知れませんからね。
さて、私は次の議会で提案する議題の原稿を作る作業に戻ります。今回はご報告までに。それでは」

男は護衛を両側に伴わせて歩き去っていく。彼に付き従う護衛に、視線を送る。
青のザフト標準のノーマルスーツを纏い、遮光バイザーを下ろして顔を隠した小柄な子ども。
彼――彼女らは、男を守る忠実な護衛だ。一言も話さず、常にバイザーで顔を隠しているために顔は分からないが、ノーマルスーツからはっきりと浮き出る身体のラインから、少女であることがわかる。
無論、ただの少女達ではない。
以前、彼が暗殺者に襲撃されたことがあったのだが……相手がナチュラルだったとはいえ、銃器を持った八人を一分以内に素手で殺傷したらしいのだ。
それも、二人いるうちの一人の手で、である。片方は攻撃対応、もう片方は護衛対応を行ったとのこと。

「……貴方は、その子達を使って、どのように平和を確立するつもりなのですか……?」

彼に抱く疑惑が、口を突いて出てくる。
彼が望む恒久和平。だが、それだけとは思えない。それ以上の目的があるように思えて、仕方が無かった。
胸の中で膨らむ、言い知れない不安。
これが、我が娘の凶兆でなければいいのだが……。




「キラ……」
「アスラン……? どうして、ここに……」

朝日の光を背に立つキラ。薄闇に立つアスラン。
立場は違うけれども、志も、互いを想う友情も同じくした二人。
キラは驚きの表情を浮かべている。アスランは、何かを迷っているような複雑な表情を浮かべている。
その傍らで、リナは苦い顔をしている。

(ちょ……ど、どーなるの? どーすりゃいいの?)

自分はゲーム上でしかこの世界の行く末を知らないために、二人が今どんな感情を抱いて互いを見ているのか知らない。
キラの様子からして、アスランを憎からず思っているはず。少なくとも、これまではアスランやザフトを憎悪する様子は見受けられなかった。
だが、アスランはどうか知らない。
先ほど、キラを拉致すると言っていた。それはどういう感情から結論付けた目的なのか、察するのが難しい。

単にストライクのパイロットの捕獲か。それとも友人を想ってか。

アスランが事情を説明する時、そこに負の感情は感じなかったので、少なくとも殺害するつもりはないみたいだけど……。
そうこうしている内に、アスランがキラにゆっくりと歩み寄っている。
その様子はまるで無警戒で、彼が他の軍人を呼ぶという心配は全くしていないようだった。
まあキラの性格からして、友人であるアスランを味方に引き渡すことはしないんだろうけど……。

「キラ、会えてよかった。君の無事が確認できて、よかった……」

なんか薔薇の香りがするセリフだ。アスランってそういうキャラなの?
キラは驚きからようやく立ち直り、我に返った。

「君こそ……無事でよかった。あの黒いMSと戦って、どうなったのかって思って……」
「キラは優しいな。昔からそうだ」

懐かしむように遠くを見て、優しい笑顔を浮かべるアスラン。

「もうあの頃とは、だいぶ状況が変わってしまったが……やっぱり、俺とキラは友達だ。それだけは変わらない」
「……そうだね、アスラン。なんで皆、戦争なんてしてるんだろう」

一方キラは、あまりにも変わってしまった状況に、悲しげに表情に陰を落とす。
それを見てアスランは思う。やはり、キラは戦争をしていい人間じゃない。彼は優しすぎるんだ。

「俺だって、好きでやってるわけじゃない。だがキラが望めば、俺達が戦う必要は無くなる。
キラ。君の友人と一緒に、ザフトに来てくれ」

「なっ……!」

この驚きの声は、キラとリナ、二人の口から洩れた。アスランは続ける。

「俺はそのために、ここまで来たんだ。
君は前にこう言ったな。アークエンジェルに友達が居る、と。なら、その友達が一緒にザフトに行けば、全て丸く収まるんじゃないか?
戦争が終わるまでプラントに匿う。俺の隊長が便宜を図ってくれるそうだ。隊長は何故か人脈が太いんだ。数人くらいならなんとかなる」

リナは開いた口がふさがらなかった。
ザフトの白服というのがどれほどの権力を持っているのか知らないが、敵国の国民を匿うなんてリスクを負っても糾弾されないのだろうか?
いや、と、リナは思いなおす。
ラウ・ル・クルーゼ。
ゲームで強調されていた人となりは、すなわち破滅願望。
何故そんな願望を持っているのか、詳しいところは分からないが、人類の破滅を願っているような人間が、そんな平和なことをするだろうか?

間違いない。これは――罠だ。

アスランの思惑はどうだか知らないが、クルーゼの目的は間違いなく、キラの殺害だ。
キラはこの耳良い言葉に、乗ってしまうのではないか? 友達のためなら、軍務など放り出して、プラントに行ってしまうのではないか?
だめだ。行かせちゃいけない……!

「アスラン、それは――」
「……アスラン。残念だけど、それは無理だよ」

リナが口を挟もうとすると、キラが先んじて答えを出した。
アスランはその答えを予想していたのか、悔しそうに顔を顰めながら、問いただす。

「キラ、どうしてなんだ……?」
「それじゃ、根本的な解決にはならないよ。たとえ君についていって、僕達の身柄がプラントに保証されて、戦争が終わったら。
コーディネイターの僕はともかく、僕の友達とその家族は、行き場を失うんだ。
単に国同士の争いなら、僕は君についていったと思う。でも、ナチュラルとコーディネイター同士の争いだとしたら、きっとプラントは連合を倒した後、徹底的なナチュラルの弾圧を始めるよ。
もしかしたら、ナチュラルは全員殺されるかもしれない。連合が勝っても、立場は逆だけど同じことが起こるよ。徹底的なコーディネイターの弾圧。そして、きっとプラントに匿われていた僕も、友達も、全員処刑される。良くても、一生身分を隠して生活しないといけない。
君についていったら、僕達には不幸な結末しか待っていないんだ……」

それがこの戦争の恐ろしさだ。
通常の戦争のルールが適用されない、種の存続を賭けた殺し合い。
よく、SF映画などで、地球の資源や土地そのものを狙って異星人が攻め込んでくるストーリーがある。
人間を見つければ、軍人も民間人も、降伏も命乞いも関係ない。まるで害虫を駆除するかのように無感動に殺していく異星人達。
そのSF映画と、今の戦争と。どう違う?
異星人と地球人。コーディネイターとナチュラル。言葉が変わっただけで、内容は同じ。
そこに、民間人だから匿うだの。戦争が終わったからだの。そんな事情は一切通用しない。アスランはそこを勘違いしている。

「し、しかし……だからといって、それが地球軍に加担する理由にはならないぞ!」

アスランが食ってかかり、キラも沈痛な表情を浮かべる。

「僕だって、地球軍が正しいなんて思ってないよ。……でも、僕には、地球軍に、守りたい人を見つけたから……」
「……ナチュラル、をか?」

アスランの、まさか、と青ざめる。キラは、その問いかけに首を縦にも横にも振らず、ただ遠慮がちにリナに視線を向けた。

「…………この人は、コーディネイターだよ」
「えっ……」
「地球軍に……コーディネイター?」

キラの視線を追いかけると、その先にはリナが立っている。
アスランは、なるほど、と一人納得した。つまりは”そういうやり方”で彼女は地球軍に潜入したのだ、と。
それにしても、キラはこんな小さな女の子が好みだったとは……。幼馴染としてはショックを禁じえない。
しかし、その彼女を好きになったのは、この場合好都合だ。彼女がザフトと分かれば、キラも地球軍に留まる理由を失って、プラントまでついて来てくれるはずだ。早速ネタばらしといこう。

「……キラ。彼女の本当の名前は、フィフス・ライナー。ザフトのMSパイロットだ」
「え?」

ぱちくり、と瞬きするキラ。まさかって顔をするんじゃないよ。
違う違う! 手を横に振って否定の仕草。キラも勘違いしてる可能性もあるし、フォローいれとかないと。

「そ、そんなワケないでしょ! ほら、バラディーヤでキラ君も会ったよね? あのゴスロリのドレスを着た、ボクのそっくりさん。
この人、あいつと勘違いしてるんだよ」
「あの人ですか……」

キラも、フィフスを見たときはドッペルゲンガーと勘違いしたことがあるので、存外あっさり頷いてくれた。
結構付き合いも長いし、誤解が続いたままだとショックだったけど。良かった、そこまでは天然じゃなかったか。

「何……?」

天然な人がここに居た。

「じゃあ、お前は本当に……フィフス・ライナーじゃないのか?」

馬鹿な、と、表情が青ざめるアスラン。それに対してリナは冷ややかだった。

「そんなわけないじゃん。あいつは今カーペンタリアだよ? ボクはリナ・シエル。連合宇宙軍第七艦隊所属の大尉だよ」

マカリの話を信じるなら、だけど。もしかしたら本当にこの基地に潜入してるかもしれないし、プラント本国に戻ってる可能性もある。それを考え出したらきりが無いが。
アスランの様子からしても、フィフスのことを知ってはいても所在までは分からないみたいだ。

「くっ……! ……こうなっては、俺も逃げることはできないな……」

あれ? なんかあっさりと諦めたな。
肩を落とし、うなだれるアスラン。その表情は悔しげに歪ませている。
まあ、地球軍内でも五指に入る戦闘力の持ち主である二人に挟まれたら、諦めもするだろう。
アスランは大人しく捕まるつもりになったようで、キラが悲しげに表情に陰を落とす。

「アスラン……もう、やめよう。僕を誘うためにここまで来てくれたのは嬉しいけど、」

まずい。非常にまずい。アスランも焦っているが、リナの方が焦っている。
こんな基地の奥まで来て、しかも正体がバレた。見て見ぬ振りをして基地から脱出させることはできない。
地球軍がザフト兵を捕虜にしたらどうするか? 収容所に入れるか、処刑するか。今の地球軍の体制では、処刑する可能性が濃厚だ。

あるいは、アスランを政治的な取引に使うために終戦まで監禁する。その間、軍人による拷問や私刑があるのは間違いない。
彼はナチュラルを二度と信用しなくなるだろう。

そうなると、非常にマズい。
キラとアスランの共闘は、このガンダムSEED最大のテーマだ。アスランが仲間にならなければ、コーディネイターとナチュラルの橋渡し役がいなくなり、戦争はいよいよ歯止めが効かなくなる。

それと、そうなった場合のキラの思想の変化が気掛かりだ。
この一ヶ月足らずという短い期間だけど、キラ・ヤマトという人物が少しわかった気がする。
彼は、相手を撃つべきか撃たざるべきか。誰が本当の敵なのか。そういう葛藤を繰り返しながら戦うくらいが丁度いいのだ。
真面目で優しい 分、これと決めたら頑として譲らない。そういう性質を、大気圏突入の時やバラディーヤで垣間見た。
アスランを失ったキラが、どういう化学反応を起こすか予測できない。ザフトに行くか、地球軍を抜けるか、最悪テロリズムに走るかもしれない。

それはさすがに考えすぎだけど、とにかくここでアスランを失うわけにはいかないのだが……

「キラ、俺はもう逃げも隠れもしない。君と戦うくらいなら、地球軍の捕虜になる」
「アスラン、そんな……!」

考え事をしてる間に、周囲の時間は過ぎている。アスランは観念してキラに両手を差し出していた。手錠でもかけてもらうつもりか?

(き、君、あっさり諦め過ぎィ! 諦めんなよ! もっと熱くなれよぉ!?)

リナが内心で焦りまくっていると、アスランは沈痛な面持ちで、呟いた。

「キラ……すまない」

プシュッ。
圧縮空気が噴き出す、細い音。
どこから聞こえた? リナが内心首を傾げたとほぼ同時。
キラが突然身体の力を失い、崩れ落ちた。

「!? な、何を──」

一瞬、何が起こったのか分からなかった。
床に横たわる直前にアスランが左手で支えて、打撲は免れる。しかしそのアスランの落ち着き払った様子から、すぐにピンと来た。
何らかの方法で、キラを失神させた!?
そう気付いた瞬間、アスランがこちらに右手を向けて、再び圧縮空気が噴き出す音。

「くっ!」

チートボディーがなせる超反応でもって、その掌から体を逸らす。尾を引いて流れた長い黒髪の隙間を、何かが通り抜けた。
弾丸の類じゃない。針のように細いものだ。金属製ではないのか、それともツヤ消しをしていたのか分からないが、射出体の軌跡は見えなかった……。
その射出体の行方を見る余裕もなく、アスランがキラを床に寝かせて掴みかかってくる!

「くっ……! キラに、何をしたんだ!」

投げ飛ばそうというのか。その手を手の甲で打ち払い、重心移動で体をくるんと半回転。腹部にソバットを繰り出す。
しかしそのソバットを受け止められ、押し返してくる。くるんっと逆回転に回ってバランスが崩れるのを回避。

「キラは連れて行く! これ以上、ナチュラルに利用させてたまるか!」

こちらの運動能力を見て、リナを本能的に難敵だと判断したのか。今度は投げではなく拳打を繰り出してくる!
腕を立ててそれを受け止める。拳が二の腕に激突すると、その速度と重さで、ぎしっ、とチートボディーが悲鳴を挙げた。
なんて早さと、重さ。こんな華奢ななりをしているのに、威力がライザよりもはるかに上だ。
腕に走る激痛と痺れに、思わず顔を顰める。

「いっ……! お前、キラの話をちゃんと聞いてた!? キラは、自分から協力するって言ったんだよっ!」
「どうせ、友人を人質にしたんだろう!」

鋭い拳と蹴りの応酬をしながら、リナは言葉が詰まる。……いや、まあ、半分当たってるわけだが!

「その友人達も、自分から軍に志願したんだ! ワケも知らずに決めつけるな!」

ワンツー、繋げてストレート。アスランがそれらを腕でガードし、あるいは手で受け止め、壁に背中を押しつけられる。
とどめをかけようと、水平に脚を掲げてミドルキック。ドスンッ! アスランが横にかわし、壁に脚が叩きつけられた。
軸足のみで立っているリナに、アスランが同じくミドルキックを突き出してくる! 速い!
両手でミドルキックを受け止め、突き飛ばす。アスランはバランスを少し崩しただけですぐに体制を直したが、リナは大きくバランスが崩れて、片足で小さくジャンプをして後退する。

「うっ、くぁっ……!!」
「キラと友人達は、中立コロニーの民間人だ! 条約を破って軍事基地を作って、そうならざるを得ない状況に追い込んでおいて、何が彼らの意思だ!」
「くっ……その中立コロニーに、政治的な駆け引きもせずに直接攻撃を仕掛けた奴らに言われたくない!」
「甘いことを! 戦争中に、政治的な駆け引きなんてあるものか!」

実際、政治的な駆け引きをしていたら、その間にG兵器の開発が完了して連合に引き渡されてしまい、強奪はできなかっただろうが。
とはいえ、戦争中の中立宣言など形骸化されるのが常だ。戦争が終わった後に、その行為が正当か犯罪かが裁かれるのだろう。

少し離れた間合いを取り、対峙する。
手ごわい。MSに乗らなくても、アスラン・ザラというのはこれほどまでに強いのか。
ここで自分が大声を出して、他の軍人を呼ぶことは簡単だ。しかし、それでは意味が無い。キラとアスランの共闘が無くなれば、最終的に困るのは自分だ。
でも、どうしろというのだ? これからの戦いを考えると、見逃すこともできない。キラを連れて行かせるわけにもいかない。どうしても、地球軍の軍人という肩書が足枷になる。
説得すれば、最善なのだけど……できるか? 友情に訴えかけてみるか。

「キラは、君のことを友達だと言っていたんだ! アークエンジェルでも、大切な友達だって、いつも言っていた。
さっきだってキラは、君のことを説得しようとしていたじゃないか! そんなキラを力づくでねじ伏せるなんて……君のキラへの想いは、その程度だったのか!?」

「……っ。お前に、俺達の何がわかる!」

やべ、逆効果だった。
アスランが逆上して顔を引きつらせ、ワンステップで間合いを詰めてくる。
やばい。身体能力は同程度か、おそらくこっちの方が上なんだけど、体重差やリーチのせいで不利だ。
さすがに腐女子御用達アニメの主人公らしく、手足が長い。パンチやキックのリーチが段違いで、なかなか反撃の機会が窺えない。
アスランもそれを承知しているからか、自分の間合いを保ったまま打撃中心で打ち込んでくる。

「だいたい、お前もコーディネイターだろう! 何故地球軍の、ナチュラルの味方をする!」
「!? ぼ、ボクはナチュラルだ!」

そういえばさっき、キラがボクのことをコーディネイターって言ってた。
まさかキラに勘違いされていたとは……。

「そんな小さい体で、俺と対等に渡り合えるナチュラルがいるわけがないだろ!
プラントに来い! 地球軍はそうやって、お前も騙しているかもしれないんだ!」
「うくっ……」

――そんなことどうだっていい。地球軍の軍人であることには変わりないんだ。
そう反論したかったが、まず大前提であるナチュラルかコーディネイターか……それを「どうだっていい」で済ませてはいけないのだ。
アスランのフックをいなし、ローキックをブーツの裏でガードし、回し蹴りを屈んで回避しながら、リナは葛藤する。

ナチュラルなのか。コーディネイターなのか。自分はナチュラルだと確信していたが、ここ数日で自信が無くなった。
二種間の性能差、この世界について知れば知るほど、自分はコーディネイターではないのかと疑うようになった。
今はそんなことが大事か? と思われるかもしれない。が、これはリナにとって最重要事項であり、自身の信念、プライド、存在意義などの根底を左右するものであり、たとえ口先だけでも「どうだっていい」と済ませてはいけないのだ。

「地球軍として戦っているなら、知っているはずだ! この戦争の種類を! これはナチュラルとコーディネイターの戦争だ!
コーディネイターがナチュラルの中に居ても、ナチュラルの奴らは高い能力に嫉妬し、怯え、足を引っ張り、迫害するだけだ!
お前もナチュラルの中に居たコーディネイターなら、それを体験したんじゃないのか!?」
「……!?」


――コーディネイター! とっとと宇宙に帰れ!

――さすが校長の娘。コーディネイターでも仕官できるもんな。お嬢様は違うね!

――プラントじゃついていけないから地球軍に来たか? 賢明なことですな!


「だとしても……君に同情される謂れはない!!」

お前に迫害された辛さが分かるか。その体験の、記憶の意味が分かるか。
どれ一つとっても、意味の無いものじゃない。良い記憶も、悪い記憶も。全て自分を構成する大事なピースだ。
それを……


コーディネイターに莫迦にされてたまるか!!!



世界が、変わる。
また、あの感覚。ザフトを圧倒し、ハイペリオンを駆逐した時のそれ。

頭が澄み切っていく。雲間を突き抜け、紺碧の空に飛びあがっていくような高揚感。
何かが、あの時と違う。あの時は意識が跳躍しただけだが、今は大気圏離脱ロケットのように上昇し続けている。

これがSEEDなのか?

なら、なんで気が遠く……?


…………。






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