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No.24869の一覧
[0] 【連載中止のお知らせ】もう一人のSEED【機動戦士ガンダムSEED】 【TS転生オリ主】[menou](2013/01/22 20:02)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/05/04 00:17)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/05/04 00:17)
[4] PHASE 01 「リナの出撃」[menou](2013/05/16 22:57)
[8] PHASE 05 「インターミッション」[menou](2010/12/20 23:20)
[9] PHASE 06 「伝説の遺産」[menou](2010/12/20 23:13)
[10] PHASE 07 「決意の剣」[menou](2010/12/21 23:49)
[11] PHASE 08 「崩壊の大地」[menou](2010/12/23 11:08)
[12] PHASE 09 「ささやかな苦悩」[menou](2010/12/24 23:52)
[13] PHASE 10 「それぞれの戦い」[menou](2010/12/26 23:53)
[14] PHASE 11 「リナの焦り」[menou](2010/12/28 20:33)
[15] PHASE 12 「合わさる力」[menou](2010/12/31 14:26)
[16] PHASE 13 「二つの心」[menou](2011/01/03 23:59)
[17] PHASE 14 「ターニング・ポイント」[menou](2011/01/07 10:01)
[18] PHASE 15 「ユニウスセブン」[menou](2011/01/08 19:11)
[19] PHASE 16 「つがい鷹」[menou](2011/01/11 02:12)
[20] PHASE 17 「疑惑は凱歌と共に」[menou](2011/01/15 02:48)
[21] PHASE 18 「モビル・スーツ」[menou](2011/01/22 01:14)
[22] PHASE 19 「出会い、出遭い」[menou](2011/01/29 01:55)
[23] PHASE 20 「星の中へ消ゆ」[menou](2011/02/07 21:15)
[24] PHASE 21 「少女達」[menou](2011/02/20 13:35)
[25] PHASE 22 「眠れない夜」[menou](2011/03/02 21:29)
[26] PHASE 23 「智将ハルバートン」[menou](2011/04/10 12:16)
[27] PHASE 24 「地球へ」[menou](2011/04/10 10:39)
[28] PHASE 25 「追いかけてきた影」[menou](2011/04/24 19:21)
[29] PHASE 26 「台風一過」[menou](2011/05/08 17:13)
[30] PHASE 27 「少年達の眼差し」[menou](2011/05/22 00:51)
[31] PHASE 28 「戦いの絆」[menou](2011/06/04 01:48)
[32] PHASE 29 「SEED」[menou](2011/06/18 15:13)
[33] PHASE 30 「明けの砂漠」[menou](2011/06/18 14:37)
[34] PHASE 31 「リナの困惑」[menou](2011/06/26 14:34)
[35] PHASE 32 「炎の後で」[menou](2011/07/04 19:45)
[36] PHASE 33 「虎の住処」[menou](2011/07/17 15:56)
[37] PHASE 34 「コーディネイト」[menou](2011/08/02 11:52)
[38] PHASE 35 「戦いへの意志」[menou](2011/08/19 00:55)
[39] PHASE 36 「前門の虎」[menou](2011/10/20 22:13)
[40] PHASE 37 「焦熱回廊」[menou](2011/10/20 22:43)
[41] PHASE 38 「砂塵の果て」[menou](2011/11/07 21:12)
[42] PHASE 39 「砂の墓標を踏み」[menou](2011/12/16 13:33)
[43] PHASE 40 「君達の明日のために」[menou](2012/01/11 14:11)
[44] PHASE 41 「ビクトリアに舞い降りて」[menou](2012/02/17 12:35)
[45] PHASE 42 「リナとライザ」[menou](2012/01/31 18:32)
[46] PHASE 43 「駆け抜ける嵐」[menou](2012/03/05 16:38)
[47] PHASE 44 「キラに向ける銃口」[menou](2012/06/04 17:22)
[48] PHASE 45 「友は誰のために」[menou](2012/07/12 19:51)
[49] PHASE 46 「二人の青春」[menou](2012/08/02 16:07)
[50] PHASE 47 「もう一人のSEED」[menou](2012/09/18 18:21)
[51] PHASE 48 「献身と代償」[menou](2012/10/13 23:17)
[52] PHASE 49 「闇の中のビクトリア」[menou](2012/10/14 02:23)
[55] PHASE 50 「クロス・サイン」[menou](2012/12/26 22:13)
[56] PHASE 51 「ホスティリティ」[menou](2012/12/26 21:54)
[57] 【投稿中止のお知らせ】[menou](2013/01/22 20:02)
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[24869] PHASE 46 「二人の青春」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/02 16:07
C.E.65の夏。

その頃世間ではプラントがザフトを結成したり、ブルーコスモスの、コーディネイターに対するテロ行為が活発になったりと、この地球圏が徐々に不穏な空気に満たされていた。
おかげで、教官の喋り口調がやたらと右翼的になっていく。コーディネイターは怠け者だの、反抗的だの。聞いていてウンザリする。
そして教官からの視線が痛い。……この教官も、口には出さないものの自分のことをコーディネイターだと思っているらしい。
最初から程々に手を抜いていれば、コーディネイターと勘違いされることもないんだけど、ガンダムのパイロットを目指している自分としては、これは譲れない。

この世界に生まれた理由は、ガンダムに乗って無双することなんだと思っている。神様がそう定めたに違いない。
でなければ、こんなチートボディーを与えられた意味がわからない。キラってやつは、ゲーム内でもかなり優秀なキャラとして描かれているから、研鑽を怠っていては奴にガンダムの席を奪われる。
だから、座学の講義で自分が座る席は最前列だ。この席順も、親父のコネを使った。
もっとも、このコネを使ったことによる他の候補生からの批判はない。むしろ喜んで譲られた。そして珍しがられた。わざわざ教官に目をつけられるような席に座るなんてと。

俺からしてみれば、命にかかわる軍人の勉強を怠ける奴のほうがどうかしている。
怠けてたらメビウスだぞ? ストライクダガーだぞ? 下手したら戦車や戦闘機だぞ? そんな低コストのやられ役になってもいいのか?
俺は嫌だ。
ガンダムに乗って戦場で無双して、最後まで生き残りたい。幽閉はされたくないけど。
でもガンダムに――主人公機にあこがれるのは男の子の浪漫ってやつなのだ。今女の子だけど。


そして、やたら右翼的な喋り方をする教官の講義がようやく終わる。投射物の物理運動とかロケット飛翔体の航空物理学とか数学的な講義なのに、やたらとザフトについての雑談が混じった。
教官代えたほうがいいだろ、と胸中で呆れながらも、教材をまとめて鞄の中に放り込む。部屋に帰ったら、今日のおさらいをやっとかないとな……。

「よぉ、シエル。ちっと付き合えよ」

教官の教え方の悪さにうんざりとしつつ立ち上ると、ライザの誘いの声がかけられる。彼の席は後ろ斜めだ。
最前列の席のため、出入り口からは近く、そこにゾロゾロと人が集中している。
他の人に聞こえたんじゃないかな、とリナは要らない心配をしながらも、ライザの言葉と仕草を吟味する。
顎で指示するあたりがライザらしい。クス、と笑みを漏らして振り返り、視線を流した。

「ボク、君はちょっとタイプじゃないかなぁ」
「……いいから来い」

しれっとした口調の答えに眉間にシワを寄せるライザに、ジョークが通用しない奴、と唇を尖らせながらも素直に、いいよ、と頷いた。
もう日暮れも近い。常夜灯がポツポツと点灯し、床を冷たく照らす時間だ。候補生達の気配は遠く過ぎ去り、廊下には俺とライザの足音しかしない。
この軍学校はアメリカの西部にある。セミやヒグラシの鳴き声がしない夏というのも随分と風流の無いものだと思う。
早く寮に帰って、恒例のベッド大嵐(先輩方の嫌がらせで、朝直しておいたシーツなどの寝具が無残に乱れる現象)を直したいんだけど、班長の彼には従っておこう。

「取り巻きはどうした?」
「女を誘うのに、大勢で囲む奴があるかよ」
「……そうだね」

本当は色っぽい誘いでも何でもないくせに、こだわるなぁ。別に紳士的とか思わないぞ。
一つの棟を通り過ぎ、何故かボクシングコートのあるCQB実践訓練場に連れて行かれた。
ひんやりとした空気が漂っていて、見えるもの全てが紺色に見える薄暗い場所。すぐにライザが電灯のスイッチを入れ、色を取り戻した。
今は誰も使っていない。というか使ってはいけないのだが、何故かライザは鍵を持っていて悠々と中に入ってしまった。

「なんで鍵持ってんの?」
「てめえの親父殿に談判したら、快諾してくれたぜ」
「は……?」

あの親父、娘売ったのか!?
あんぐり、開いた口がふさがらない。どういう内容を談判して、どういう意図で快諾したんだ? 
確かにライザも軍人家系で親父はこいつの家と仲良しでも不思議じゃないけど、あの親父、まさか娘の俺を政略けっ、けっ……

「ていうかなんで脱ぐ!?」
「あ? 着たままヤるつもりか? てめえも脱げよ」

まてまてまてまて。当然のような顔をするな。上着を脱いだせいでライザの逞しい体つきが、ぴっちりとしたシャツの上から良く見えてしまう。
うわ、ライザって鍛えてるな……上腕二頭筋に何か詰め物してるみたいだ。首なんて、ボクのウェストくらいあるんじゃないだろうか。

「って、そうじゃない! ボクに脱げって、それって……こ、こんなところで……そうだとしても、早すぎるし……」
「? いいからヤるぞ。ここまで来てビビってんじゃねぇ。いいからこれ着けろ」
「つ、着けろ、って、ライザが着けるんじゃなくて!? そんな、女の子用のなんて用意よすぎ……ん?」

手元に放り投げられたのは、家族計画的なアレじゃなくて……バンデージと関節パット?
キョトンとしながらライザを見ると、脱いだのは上着だけで、拳にバンデージを巻き、膝と肘にパットを付けていた。
なにこれ。迫られていたと思ったら、いつの間にか格闘の準備をさせれてる。事態が掴めません。

「……どゆこと?」
「まだわかんねぇのか。同期首位のシエルサマに、CQBをご教授願おうってコトだよ。てめえの親父も承認してる。イヤとは言わねぇよな?」
「そ、そういうこと……」

弱弱しく納得してみせるのが精いっぱいで、へな、と思わず脱力。
脱げだのヤるだの、紛らわしい単語が多すぎる。いかん、自意識過剰だ。だいたい精神的には男同士だ、キモい。
しかしまあ、あのプライドの高いライザが教えてくれだなんて、殊勝なことを言うようになったものだ。
教官にすら助けを求めない彼が、まさか同期で、かつ見た目が幼い自分に言えるようになったのは成長したってことかな?
とりあえず、大人しく自分も上着を脱いでライザと同じように準備。リングに上がると、ロープを掴んで体を伸ばし、軽く関節を温める。

……なんだか、妙に緊張する。ライザと訓練するのは初めてじゃないけど、あの時は衆目環視の中だったし。
今の訓練場は外の風鳴りも聞こえてくるくらい静かで、この学校には自分達二人しかいないんじゃないかと思うくらいだ。
でもライザも容易い相手じゃないし、ちゃんと集中していかないといけない。さてさて、そろそろライザも上がって――!?

「わぁっ!?」

振り向いた瞬間、顔の横を拳が掠めた! 反射で頭を逸らしたけど、もし避けそこなっていたら、鼻と唇の間に命中していた!
いきなり人体急所への正拳突き!? 驚いて目をむいて、その拳の主であるライザに、

「は、はじめの合図も無いのにいきなりやってきたな!?」

非難の声を浴びせるも、そのライザの表情は冷酷な無表情を、貫いていた。

「何甘えたことぬかしてやがんだ。実戦に合図もクソもあるかよ」

表情と同じようにフラットな口調は、凄惨な怒りと冷たい響きを伴っていた。
なんで……なんでこんな表情ができる? こんな声を出せる? あの最初に会った時よりもはるかに凶暴な光を持った目で睨んでくる!?

「ら、ライザ……? くっ!」

続いて伸びてくる手を払う。何が起こったのかわからず、振るわれる脚を肩と腕でガードして、小刻みに突き出されるジャブを受け止める。
一つずつ処理しているようだが、全て同時処理だ。それくらいにライザの攻撃は的確で素早く、鋭い。
左右のジャブのフェイントをかけてきた。目の動き、ジャブとの筋肉の揺れの違いに気付き、フェイントの左が引っ込むのに合わせて、体を素早く差し込む!

「!?」

ライザの驚愕する表情が見えた。まさかフェイントの左に合わせて来るとは思わなかったのだ。
まるで自分から突っ込んでしまったのかと錯覚しそうなほどの、超反応。ライザはもうすでに本命の右を出してしまい、体が慣性で泳ぐ。
来る。ライザは確信していたが、それはコンマ数秒。伸びきった体はライザの意志を無視して硬直。

「げっ!!」

ライザの分厚い鳩尾に、リナのとがった肘が突き刺さる。
いくらリナが体格に見合わぬ怪力の持ち主とはいえ、ライザほど鍛えられた肉体に拳打は効きづらい。
しかし筋肉の継ぎ目である鳩尾に肘が極まれば、横隔膜が麻痺。酸素欠乏により、一瞬意識が飛ぶ。
その隙を狙い、リナはライザに背を向けるようにして体を捻り、鎖骨をライザの胸の下に押し当て、

「――ッハ!!」

ダァンッ!!
空気砲のように息を吐き出すのと、ライザの股の真下に震脚を刻むのは同時。
絞り込んだ力と踏み出した力をライザの肉体に叩き込むと、彼我の質量の差をものともせず、ライザの体を、まるでリニアカタパルトに乗せたメビウスのように弾き飛ばした。
ライザは喉から声を絞り出し、うめきながら悶える。それを見て少しやりすぎたか? と思ったが、まず叱咤の声を浴びせた。

「ライザ! 自分から教えてくれって言っておいて、不意打ちはないだろっ?」
「ぅ……るせぇ……教えてなんて……誰が頼むかよ、ガキによぉ」

苦しそうにしていたライザが、体を折りながら立ち上がる。さすがに鍛えているだけあって、回復が早い。
ライザの屈強な体から、闘志が立ち上るような気がした。……まだ来る! ライザの姿が膨らむ。そう錯覚するような突進。
リナは呼吸を鎮め、迎え撃つ。ボクシングスタイルで打ち込んでくる。それを受ける、いなす。ライザの手首をつかみ取り、二の腕を外に押し込みながら足払い!
ドゥッ! ライザの胸がしたたかにリングの床に打ちすえられる。

「がっ……!」

すれ違う形で、リナが立っていた場所にライザがうつ伏せに倒れ込み、ライザが立っていた場所にリナが立つ。
ライザの口から呼吸が絞り出される音が鳴る。受け身を取れないように転倒させたため、横隔膜を痛打し、ライザは一瞬呼吸困難になって悶絶した。

「そっちがその気なら、俺だって容赦しないからなっ! ライザ、立てよ!」

もう、完全に頭に血が上った。
あの高慢で、何かにつけて突っかかってくるライザが珍しく教えて欲しいって言うから、夕食前の大嵐を直す時間を潰して付き合ってるのに、不意打ちしてくるうえにその態度!
こうなったら、どっちが上かここでハッキリと白黒つけてやる。その鼻っ柱たたき折ってやるからな!

「……そういうのが気に食わねぇってんだよ、アマぁ!!」

ライザが突進してくる。負けじとリナも拳で迎え撃つ。
ライザはテクニックでは勝ち目がないと分かったからか、体格差を生かしたレスリングスタイルで突進をかけてくる。
リナはそんな真っ直ぐな動きのライザをスピードで翻弄しつつ、小柄ながらも鋭い拳と蹴りで応酬。しかしライザも屈強に鍛えられているため、すぐには倒れない。

「うあっ!」
「ぐふぉっ!!」

リナがライザの岩のような大きな拳を避け損ね、肩に受ける。ライザはリナの小石のように小さな拳に反応できず胸に受ける。
弾かれるように両者距離を開ける。ライザは息があがり、リナは肩に受けた拳に、いててと小さく呟いた。
両者とも同じく一撃を交換し合ったように見えるが、やはり反応できたが避け切れなかったリナと、反応すらできなかったライザでは内容が違った。
ライザは実力の違いを思い知るが、負けず嫌いゆえにおくびにも出さない。

しかし、それ故に引くこともしない。
性格もある。しかし別の意味でライザにとって、この少女の「ある部分」が絶対に許容できない。

「気に入らねぇんだよ……」
「ボクが子供だからか? そんなつまらないプライドで、ボクにこんな――」


「生まれつきの力だけで、俺の上に立ってるってのが気に入らねぇんだよ!!!」


「なっ……」

絶句し、目を見開くリナに構わず、満身創痍の身体を構えるライザ。
向かってくる。もうそのパンチのスピードは、最初ほどではない。しかしライザの咆哮に隙が生まれたリナは、二発、胸とお腹に拳を受ける。

「あっ! ぐっ……」
「俺はなァ、ベッケンバウアー家の長男だ。先頭に立たなきゃいけねぇんだ……。俺はな、周りの期待に応えるために、どこの誰よりもテメエを磨いてきた自負があるんだよ……。
それをテメエが! テメエみてぇな、楽して力を手に入れた奴が! 土足で踏み込んできやがって!! コーディネイターが!!」

……コーディネイター……!?

「お前に俺の気持ちが分かるかよ! 必死に積み上げてきたものを、コーディネイターだからって楽々その上に乗っかってきやがって!
出て行きやがれ! コーディネイターならプラントに行けってんだよ!」

そう訴えながら殴りかかってくるライザは、まるで泣いている子供のようで。
彼の表情は、泣いているのか、怒っているのか判断しかねる表情で……激情にひきつらせていた。
もうライザの身体は、リナの度重なる攻撃により満身創痍になっていた。筋肉の節々が痛み、膝が笑い、疲労によって拳に力を込められない。
さっきから受けているパンチも、痛いことは痛いが跡も残らなさそうな、弱々しいものだ。
しかし、リナはライザに劣らぬ激情を噴出させ――

ぱちぃんっ!!

「――!!?」
「もう一度言ってみろよ……」

リナの声も、平手も震える。
予想外の痛み。頬が熱くなる痛みに不意を突かれ、固まり、驚きに目を見開くライザ。
いつもリナの攻撃は、拳か蹴りだった。それが平手。いわゆる女性的打撃。
リナは端整で、髪も長く、男らしい要素を持たない少女らしい少女なのだが、その言動や仕草で、つい男扱いしていた。
だからライザにとって、平手打ちは不意打ちも不意打ちだった。平手打ちを女性から受けたことのある男性諸君はお分かりになるだろう。平手打ちは、痛みよりも精神的ダメージの方が大きいのだ。
その不意打ちの精神的ダメージは、激昂させていたライザを数瞬鎮火させた。

「なっ……お前、」「黙れ!!」

動揺の声を漏らすライザを怒鳴り声で遮る。
その声量と甲高さに気圧されて、思わずライザは黙り込んでしまう。

「ボクが……楽々だって? ボクのこと、何も知らないくせに……!! ボクが何もしないで、誰からもプレッシャーをかけられないで、ここまで来れたなんて絶対に言わせないんだよ!!」

ライザが黙り込んだことで、リナの噴火は抑えがきかなくなる。

「名門ってだけでミエ張ってる奴に! 何がわかるんだ! 家の名前を上げたいなら、学校じゃなく戦場でやれ!
ボクは違うんだよ! 家なんて関係ないっ……ボクは死にたくないからやってんだ! だから必死にやってるのに、お前は、お前たちは!! ボクの邪魔ばっかりして!! ゴッコ遊びならおウチでやれ!!」

村八分され。罵られ。無視され。
鬱屈し、凝縮されたストレスが喉から塊となって吐き出される。
ライザだけが悪いわけではないのに。ライザに八つ当たりしている。それを自覚している。彼なんてまともにぶつかってくるだけマシなのに。

またライザの腹に拳を打ち込む。ごふっ、と、肺から濁った音を漏らした。肋骨が折れたのかもしれない。
ビクッ、と小さな肩が震える。
やってしまった。人を傷つけた恐怖に、リナの大きな瞳から大粒の涙が、ぽろ、ぽろ、と溢れていく。ボクは、ここまでするつもりは、なかったのに。

「……お前らのなかよしこよしのお遊戯ゴッコに、ボクを巻き込むな!! 群れないと何もできないクセに!!
コーディネイターだ? ナチュラルだ? そうやって区別してる時点で、お前らは劣等感の塊なんだよ!! そんなお前らに、真剣にやってるボクを笑う資格なんて無い!!
嫉妬で他人を傷つけることしかできないバカに、これ以上付き合ってらんないんだ!! わかったら、これ以上ボクに関わるな!!!」

お願いだから、向かってこないでくれ。味方同士で痛い目を見るのも、見せられるのも、イヤなんだ。
ボクのことは”腫れ物扱い”で、よかったのに――なんで、放っておいてくれないんだ。
その思いを。訴えを。願いを。鉄の塊にしてぶつける。

「……そうか、それがお前の本音か」

その塊が効いたのか。……胸を押さえながら、先ほどの激昂とは打って変わって、低い唸り声のような声を漏らすライザ。
もう何度も打撃を受けて、満身創痍のはずなのに。膝も震えて満足に構えもとれないはずなのに。彼の声には、妙な凄味があった。

「……!!」
「お前が……なるほどな、そこそこ努力したってことは、認めてやる……。俺をここまでボコれるなんて、ただすばしっこいだけじゃあ……無理だからな。げほっ、ベッ!
……! だけどなぁ。生意気なんだよ! 気に入らねぇんだよ! ガキのなりして、必死こいて大人ぶってよ……ガキならガキらしく、ハナ垂れながらママのおっぱい吸ってろよ!」

血反吐を吐き捨てながら、リナの拳をガードし、また振るう。ライザにとって許せないこと。それは、女子供が戦場に出てくることだ。
女性蔑視と言えばそれまでだが、純粋に男としてのプライドであり、優しさの本質でもあった。
傷つくのは、手を汚すのは男だけでいい。男はいくら傷を負っても、傷痕ができたとしても、それは男にとって、家族を守ったこと、守りたい者を守るために戦ったという誇りになる。死も同様。覚悟はしている。
しかし女性が傷を負い、傷痕を残せば、それは単なる「汚点」だ。女性らしい白い肌を損なうし、それは男にとっても汚点となる。男が守れなかったという汚点に。


「ボクだって好きで、こんな身体で生まれてきたわけじゃない!!」

だがリナには、そんなことは関係なかった。
自分だって、男のほうが良かった。背が高くスラッとしたほうが良かったに決まっている。
美幼女に生まれてよかった? 確かに最初はそう思ったけど、いつまでも幼女なんて不便のほうが先に立つに決まってる。

「そうやって生まれのせいにするところが、ガキなんだよ!!」
「お前が言うなぁっ!!」

その後の口論は不毛なものへと発展していく。
二人共、考えるよりも先に手が出ていた。殴り、殴られ、蹴り、蹴られ。
二人の喧嘩は、消灯時間が過ぎ、部屋点呼がかかって二人の不在に気付いた教官が探しに来るまで続いた。

この日から、二人は目に見えて競い争うようになった。
二人共、別に示し合わせたわけでもないのに”相手のステージで勝ちに行く”という負けず嫌いを発揮させる。
リナは、重量級のライザの得意とするウェイトリフティングでライザに対抗し、ライザは、リナの得意とする射撃実習で対抗する。
だが、どうしても互角にはならない。
二人の技能の才能――いわゆる『スキル』は互角であろう。しかし、リナが先天的に持ち合わせている超人的な身体能力は、ライザの身体能力を遥かに上をいくのだ。
体力と回復速度が違えば、一日に積み重ねることができる訓練量もはっきりと差が出る。身体能力で負け、更に同じように限界まで鍛錬を積み重ねるならば、追いつくことができない絶対的な差が生まれてしまうのだ。

しかしライザは、それをおくびにも出さない。

「次は負けねえんだよ!」

お決まりでそう言い捨て、ライザは更に訓練を重ねる。

「次も返り討ちにしてやる!」

リナもそのライザの背に言い放ち、負けじと訓練を己に課す。
互いに敵意をむき出しにするが、いつか二人は敵同士ではなく、別の感情のもとに張り合うようになっていた。
すなわち、ライバル。
リナにとって、初めてそう認め合える相手。彼と対決した後、負の感情以外で戦っていることに気付く。
気負いなく張り合えるのだ。ライザとは。
訓練場での激しい口論と喧嘩で生まれた溝も、そうした関係を続けていく間に少しずつ埋まっていった。

リナにとって、ライザの存在は救いだった。
たとえ表面上はいがみあっていても。顔を合わせるたびに罵り合っても。
この世界で、シエル家以外ではじめて出来た人とのつながりだった。
ライザだけではないが、士官学校の三年間、リナの心が摩耗しきらずに済んだのは、ライザとの競争があったからだと言っても過言ではない。

士官学校を卒業して。
ライザと戦場で再会できたら。きっと彼と仲良くやっていこう。そう願ってビクトリア基地で再会を果たせたのだけれど、

その思いは果たせなかった。

ライザがちょっかいをかけてくる。からかってくる。……自分も照れ臭くて、言葉と態度に出せない。




言いたかった。



君がいたから、士官学校をがんばれた。




その言葉は、永遠に君に……届かないの?





ストライクダガーが、ライザが、燃える。

機体が発する稲光が、ライザを遠くにいかせてしまう。

君はそうやって、ボクの手の届かないところに行ってしまうのか?


「ライ……ザ……」

ハイペリオンのアルミューレ・リュミエールが光を消し、ビームナイフを抜き放つと、ストライクに向かってジグザグ走行しながら突撃を仕掛ける。
バヂッ、と一度表面装甲に電気が走り、無言のまま、まるで糸がきれた人形のように倒れ伏す、ライザとエドモンドの機体。
パイロットの無事は確認できない。ライザはどうなった? 確かめようと通信を何度も試みるけれども、二機とも通信途絶状態だ。

「……!!」

苛立ったリナは、戦闘中だということも忘れて機体を屈ませ、コクピットハッチを開けて外に飛び出る。
オートメーションで屈む挙動をするとはいえ、まだ十分に姿勢が下がっていない状態でも、構わずに飛び降りた。
高さ6m。普通の人間なら骨折してもおかしくないが、リナは身軽に着地すると、そのままライザの乗るストライクダガーのコクピットに向かって走る。
ドバッ! と、至近弾が弾け、土砂が地面から噴き上がった。爆風が身体を突き飛ばす!

「くぅっ……!!」

そこで、ようやく今ここが戦場だということを思い出した。
でもそれよりも。機甲部隊同士の砲弾の応酬ならば、早々こっちに弾は飛んでこないだろうと決めつけ、構わずにライザの機体に駆け寄る。
近くまで寄ると、どれほどの強力な力がストライクダガーを駆け抜けたのか、思い知らされた。
二機の表面装甲は薄く焦げ、装甲塗料が溶けてはげ落ちている。電子機器に使われている非金属素材が溶け、装甲の隙間から染み出て草原に落ちる。
まるで腐乱死体のようだ。その連想をして、ゾッと背筋が寒くなる。
ストライクダガーと、ライザの姿が重なってしまった。

「らいざ、ライザ……!! 開けろ、ライザ!!」

ごんっ、ごんっ。コクピット部分の装甲を叩くが、返事がない。当然なのだが、気が動転していてそれが思いつかない。
一瞬後、脚部のつま先にハッチ強制開放のキーがあるのを思い出してそれを叩く。が、それでもハッチは作動しない。
完全に電子装置が死んでいる。緊急脱出装置も試してみたかったが、あれはパイロットが無傷でなければ危険だ。もしライザが瀕死の重傷を負っていたら、緊急脱出の衝撃でトドメを刺してしまう可能性がある。
考えたくない。でも、どうしてもライザの死が頭にチラつく。

「……!!」

今もストライクと撃ち合い切り結んでいるハイペリオンを、憎悪の籠った瞳で見上げる。
悪魔の機体。不幸の使い。お前がいたから、ライザがこんな目にあった。
頭の中がヒリヒリと焼ける。万の罵言と鉛のような殺意がこみあげてくる。

よくも。よくも、よくもよくも……!!!

ボクから大事なものを奪ったな!!!!!



「なんで……こんなことを!!」
「お前が消えたら、いつでもやめてやるよ! 大人しく死にやがれ!」
「誰が! 暴力を振りまくだけのお前に、やられるわけにはいかない!」
「上等だ!! この手でブッ殺して、俺が最強のスーパーコーディネイターになってやる!!」

アルミューレ・リュミエールを展開したハイペリオンに、ストライクは決定打を見いだせないでいた。
キラはアークエンジェルに代わりのストライカーユニットを要求し、ソードストライク装備でハイペリオンと対峙しているが、シュベルトゲベールでも、アルミューレ・リュミエールを突破するのは難しいようだ。

エネルギー切れを待つしかない。そう判断したキラは、イーゲルシュテルンで牽制しつつマイダスメッサーを使い、ハイペリオンの動きを制限する。
シュベルトゲベールはバッテリーの消費が激しい。できればフェイズシフトも落として消費をさらに抑えたいところだけれど、敵はハイペリオンだけじゃない。
今もザフトは攻撃してきている。たまにジンや戦闘ヘリ”アジャイル”が飛来してきては、攻撃をしかけてくる。
”アジャイル”のロケット弾掃射を避ける。ハイペリオンにもロケット弾の一部が飛んでいったが、展開するアルミューレ・リュミエールに阻まれ、”アジャイル”は逆にイーゲルシュテルンで撃墜された。

「くそっ! 邪魔するな!!」

ハイペリオンが放ったビームを逃れた先に、ジンがいた。相手も、木々の間から突然白いG兵器が姿を現したから、驚いたのだろう。
咄嗟に重斬刀を抜き放ち、切りかかってきたところを逆に手首を掴み、ひねり上げて、手首ごと重斬刀をもぎ取る!

「ぐおおぉ!! な、なんてパワーだ!」
「悪いけど! ……くっ!?」

ジンのパイロットはG兵器のパワーに驚き、もぎ取られる力に体勢を崩されてボディが泳ぐ。
なんとか転倒しないよう踏みとどまるが、その背をハイペリオンが放つビームに撃ち抜かれて爆散する。
キラは、リナから教えてもらったCQBの動きをMSに応用してジンから重斬刀を奪い取り、その重斬刀を左手に構える。
……これでも、アルミューレ・リュミエールを突破するなど論外だろう。
だがシュベルトゲベールと合わせれば、なんらかの突破口になるかもしれない。フェイズシフトでも、刺突ならば貫けるのだから。
まるで宮本武蔵になったような気分で、二刀流の構えをとった。

「やれるのか、これで……でも、やるしか!」
「そんなナマクラで、俺に――ぐおおぉ!!?」
「!?」

重斬刀ごとストライクを切り裂いてやろうと、ハイペリオンが飛び込むが……その右肩から、ビームサーベルの刃が生えた。
カナードには、何が起こったのかわからなかった。しかし、キラには見えていた。
リナのストライクダガーが木々を縫うように突撃し、その肩にビームサーベルを突き出したのだ。
キラを倒す執念に駆られたカナードは、うしろから急速に迫ったリナ機に反応することができなかった。

「許さない……」
「て、めえ……!」

震える声がバイザーを押す。操縦桿を握る手が震える。
味方のはずのライザを。個人的な恨みで、エゴで、殺した。

「ライザが……お前に何をした? ライザは何も悪くないのに……お前は、お前は……」
「雑魚が、このハイペリオンに傷を……!!」

そうか。
その機体がそんなに大事か。


ライザをあんな風にしたのも、機体に触られたからか。そうか。


そんなくだらないことで。


頭の中で、ふつ、と何かが切れたような気がした。
心に燃える黒い炎は爆炎へと変わる。

それは、一筋に圧縮された鋭い殺意。




「もう死ねよ……」





リナの世界が、変わる。


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