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No.24869の一覧
[0] 【連載中止のお知らせ】もう一人のSEED【機動戦士ガンダムSEED】 【TS転生オリ主】[menou](2013/01/22 20:02)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/05/04 00:17)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/05/04 00:17)
[4] PHASE 01 「リナの出撃」[menou](2013/05/16 22:57)
[8] PHASE 05 「インターミッション」[menou](2010/12/20 23:20)
[9] PHASE 06 「伝説の遺産」[menou](2010/12/20 23:13)
[10] PHASE 07 「決意の剣」[menou](2010/12/21 23:49)
[11] PHASE 08 「崩壊の大地」[menou](2010/12/23 11:08)
[12] PHASE 09 「ささやかな苦悩」[menou](2010/12/24 23:52)
[13] PHASE 10 「それぞれの戦い」[menou](2010/12/26 23:53)
[14] PHASE 11 「リナの焦り」[menou](2010/12/28 20:33)
[15] PHASE 12 「合わさる力」[menou](2010/12/31 14:26)
[16] PHASE 13 「二つの心」[menou](2011/01/03 23:59)
[17] PHASE 14 「ターニング・ポイント」[menou](2011/01/07 10:01)
[18] PHASE 15 「ユニウスセブン」[menou](2011/01/08 19:11)
[19] PHASE 16 「つがい鷹」[menou](2011/01/11 02:12)
[20] PHASE 17 「疑惑は凱歌と共に」[menou](2011/01/15 02:48)
[21] PHASE 18 「モビル・スーツ」[menou](2011/01/22 01:14)
[22] PHASE 19 「出会い、出遭い」[menou](2011/01/29 01:55)
[23] PHASE 20 「星の中へ消ゆ」[menou](2011/02/07 21:15)
[24] PHASE 21 「少女達」[menou](2011/02/20 13:35)
[25] PHASE 22 「眠れない夜」[menou](2011/03/02 21:29)
[26] PHASE 23 「智将ハルバートン」[menou](2011/04/10 12:16)
[27] PHASE 24 「地球へ」[menou](2011/04/10 10:39)
[28] PHASE 25 「追いかけてきた影」[menou](2011/04/24 19:21)
[29] PHASE 26 「台風一過」[menou](2011/05/08 17:13)
[30] PHASE 27 「少年達の眼差し」[menou](2011/05/22 00:51)
[31] PHASE 28 「戦いの絆」[menou](2011/06/04 01:48)
[32] PHASE 29 「SEED」[menou](2011/06/18 15:13)
[33] PHASE 30 「明けの砂漠」[menou](2011/06/18 14:37)
[34] PHASE 31 「リナの困惑」[menou](2011/06/26 14:34)
[35] PHASE 32 「炎の後で」[menou](2011/07/04 19:45)
[36] PHASE 33 「虎の住処」[menou](2011/07/17 15:56)
[37] PHASE 34 「コーディネイト」[menou](2011/08/02 11:52)
[38] PHASE 35 「戦いへの意志」[menou](2011/08/19 00:55)
[39] PHASE 36 「前門の虎」[menou](2011/10/20 22:13)
[40] PHASE 37 「焦熱回廊」[menou](2011/10/20 22:43)
[41] PHASE 38 「砂塵の果て」[menou](2011/11/07 21:12)
[42] PHASE 39 「砂の墓標を踏み」[menou](2011/12/16 13:33)
[43] PHASE 40 「君達の明日のために」[menou](2012/01/11 14:11)
[44] PHASE 41 「ビクトリアに舞い降りて」[menou](2012/02/17 12:35)
[45] PHASE 42 「リナとライザ」[menou](2012/01/31 18:32)
[46] PHASE 43 「駆け抜ける嵐」[menou](2012/03/05 16:38)
[47] PHASE 44 「キラに向ける銃口」[menou](2012/06/04 17:22)
[48] PHASE 45 「友は誰のために」[menou](2012/07/12 19:51)
[49] PHASE 46 「二人の青春」[menou](2012/08/02 16:07)
[50] PHASE 47 「もう一人のSEED」[menou](2012/09/18 18:21)
[51] PHASE 48 「献身と代償」[menou](2012/10/13 23:17)
[52] PHASE 49 「闇の中のビクトリア」[menou](2012/10/14 02:23)
[55] PHASE 50 「クロス・サイン」[menou](2012/12/26 22:13)
[56] PHASE 51 「ホスティリティ」[menou](2012/12/26 21:54)
[57] 【投稿中止のお知らせ】[menou](2013/01/22 20:02)
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[24869] PHASE 36 「前門の虎」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/20 22:13
「ビクトリア基地……?」
「ビクトリアっていうと、ビクトリア湖のことか」

地球軍の事情についてあまり詳しくないキラとカガリが、リナに疑問の視線をぶつけてくる。
キラはしょうがないよね。彼はなりたてだし、学生だったから戦争について詳しくなくても仕方ないわけで。
だがカガリ、てめーはダメだ。仮にも一国の元首の娘なら戦争のことは把握してなさい、まったく。
はあ、と小さなため息をつくリナ。

「ビクトリアというのは、カガリの言う通り、アフリカ最大の湖、ビクトリア湖付近にある地球軍の基地だよ。
マスドライバー――宇宙にロケットを押し出すための巨大カタパルトのことなんだけど、それがある数少ない基地で、前にもザフトに狙われたことがあるんだ。
その時は、ザフトは地上支援の重要性を軽視したせいで長期戦に耐えられず疲弊して、防衛は成功したんだけどね」

ふぅ、とまず一息つく。キラが、そうか、と頷いた。

「……そういう、宇宙への架け橋がある基地に、またザフトが攻めてくるということですね」
「そうだね……ザフトも馬鹿じゃない、次はしっかりと地盤を固めて、地上支援も交えた立体的な攻撃を仕掛けてくるはずだ。
今度こそ、ビクトリア基地もやばいだろうね。MSはユーラシア連邦にも配備されつつあるようだけど、どうなるやら」
「それでお前達は、ビクトリアに行くのか?」

カガリが、低い声で唸りながら睨んでくる。
言いたいことはわかるけれど……それでも答える。

「……当然行くことになるだろうね。ボク達地球軍の重要な基地だ。支援の要請があったら、応えないわけにはいかない」
「ちょっと待て、お前達は私たちと連携して虎を叩くんじゃなかったのか!?
あれだけ偉ぶって高説垂れて、最後は見捨てるのか!? 地球軍はやっぱりそうなのか!」

やっぱりきた。リナは渋面を浮かべる。
カガリの中で、地球軍への不信感が募ってきている。その目はまるでバルトフェルドに向ける瞳のようだ。

「カガリ、待って。最後まで話を聞こうよ」
「っ……お前だってそうなんだぞ、お前も地球軍の軍人なら、アークエンジェルと一緒に行ってしまうんだな!」

キラが腕を取ってカガリを制止するが、まるで泣き声のように声を裏返してそれを振りほどく。
カガリのその怒鳴りに、キラは困ったように眉をハの字に曲げて、リナに助けを求める視線を送った。
参った。カガリに気付かれないようにひっそりと溜息をついて、頭を飾ってるボンネットを外して、頭をぽりと掻いた。

「落ち着いて、カガリ。確かにビクトリアから支援要請が来たし、ボク達は行くことになると思うけど、今すぐ行くとは言ってないよ。
それはボクが決めることじゃないけど……ギリアム艦長が一度約束したことを破る人とは思えない。
とにかくアークエンジェルに帰ろう。怒るのはそれからでも、遅くはないよ」

静かに諭すように語りかける。まるで接触信管の爆弾を扱うような気分だ。
とりあえず、激するほどの怒りは収まったのか、カガリは静かになる。しかし睨むような視線は変わらない。

「……わかった。とにかく、お前達の決定を聞く。決定次第では許さないからな」
「……」

相当おかんむりの様子のカガリ。リナは居心地が悪そうに視線を逸らして、うぅん、とうめくだけ。キラもカガリの扱いに困って黙りこくってる。
というか、地球軍に悪感情をもたれると、あとでかなり拙いことになる気がする。オーブのお姫様的な意味で。
でも、確か地球軍とオーブ敵対してた気がする。なんでだろう? オーブが何かやらかしたんだろうか。
まあそんなことは今はどうでもよくて。迎えの軍用車はまだかな……と、誤魔化すように、アークエンジェルが停泊している方向をじっと眺めるリナであった。


- - - - - - -


「統合本部から暗号通信があったのは、1335時だ」

アークエンジェル艦内の会議室で開催された緊急幹部会議で、ギリアムは開口一番から本題に入った。
面子はいつもの幹部士官達、加えて幹部士官ではないナタルとリナも席についていた。
皆緊張した面持ちで、静かに語るギリアムの言葉に耳を傾けている。

「ボイスメッセージが届いている。極度に圧縮、暗号化しているため、音質は最悪だが……まずはこれを聞いてくれ」

ギリアムが手元にあるコンソールを叩き、そのコンソールが音声を流す。
わずかな沈黙の後、壮年に入ったくらいの神経質そうな男の声が発せられた。

『……私は、ユーラシア連邦軍所属、ビクトリア基地司令部、総司令官のエドワード・ハーキュリー少将だ』

その声は少し機械っぽく響いている。圧縮と暗号化のために、再現度がかなり低くなっているようだった。

『諸君らの活躍ぶりは、ハルバートンから聞いている。あのクルーゼ隊の追撃を振り切り、並み居るMS部隊を退けてきたそうだな。頼もしい限りだ。
その実績を買い、アラスカに行く前に任務を授けたい。これは統合本部からの承認も得ている。
昨年三月、ザフトが愚かにも我がビクトリア基地に侵攻してきたことは、諸君らの記憶にもあるはずだ。
当時、我々の果敢なる奮戦によりザフトを撃退せしめたことも覚えているだろう』

ここでエドワードが一度息をつく。

『だが、かのザフトどもは懲りずに、またしてもこの堅牢強固なビクトリアを侵攻する作戦を展開しようとしているという情報が、ザフトに潜入中のスパイからもたらされた。
こちらは諸君ら大西洋連邦から受領したMSを配備してはいるが、ザフトも地上での戦争に慣れてきた頃だ。
間違っても、我らビクトリアの勇士が負けることなど有り得ぬが、万が一ということもある。
そこで、ザフトと度々実戦を重ねている諸君らの力を借りたい。
諸君はおそらく、地球軍でも屈指の実戦経験を重ねた部隊だ。その経験をビクトリア防衛に生かしてもらいたい。
ザフトの攻撃は二月十九日、一二〇〇時に開始されるという。それまでにビクトリアに到着するよう厳命する。
それでは諸君の到着を待っている』

その言葉を最後に、音声記録は再生をやめる。以上だ、と、ギリアムが締めくくり、にわかに会議室がざわめく。
そのざわめきは、その期限の短さだ。今日が二月九日だから、期限まで十日。ここからビクトリアまで四千km以上は離れている。
エスティアンは腕組みして何か考え事をしているようだったが、顔を上げたときにギリアムと目が合った。

「エスティアン中佐。十日より早く着けるかどうか? 航海長としての見解を聞きたい」
「……難しいな。もちろん今すぐ出発して、何も見向きせず真っ直ぐ飛べば、たとえ出力が落ちたアークエンジェルといえど二日足らずで着く。
だが、ここはザフトの勢力圏だ。多くのレーダー網や戦線を回避するために何度も迂回したり、あるいはザフトの地上部隊と戦闘になったりするだろう。
そういった障害を鑑みて、十日で四千kmを飛ぶというのはかなり厳しいぞ。……なにより、あの砂漠の虎もいやがるからな」

砂漠の虎。その単語を聞いて士官達が表情を暗くしたり、どよめく。それをギリアムが咎める。

「静かに。……ラミアス少佐、こちらの戦力は?」
「フラガ少佐のストライクダガーが隊長機として、ヤマト少尉のストライク、シエル大尉のストライクダガー、ケーニヒ二等兵のストライクダガー。計、MS隊4機です。
それに合わせ、”明けの砂漠”の装甲車両が12台。対装甲用の携帯火器複数……地球軍の現有戦力に換算すると、中隊支援火器3個小隊かと、思われます」
「そんなもんだろうな」

マリューの分析に、サイーブが頷く。彼とて、かつては大学の教授として教鞭を振るっていたこともある識者だ。
数的、物理的な戦力の理性的な見極めができる彼だからこそ、ザフトに比べ圧倒的に戦力の乏しい”明けの砂漠”をここまで生かしてこれたのだ。

「シエル大尉。ケーニヒ二等兵の仕上がりはどうだ?」

ギリアムに水を向けられ、リナは迷った。
正直言うと、彼個人の技量は学生だった身としては大したもので、ギリギリ前線に出せる程度にはなっている。
その証拠として、一昨日の”明けの砂漠”の暴走を止めることができている。トラックというすばしっこくて小さな標的は、それなりに練度が高くなくては捕獲できない。
しかし、やはり軍人としての能力は決して高くない。彼の奔放な性格が邪魔をしているのだろう。相変わらず部隊単位の作戦行動が、どうも苦手のようだ。
だが、兵器を出し惜しみできるほど今の状況に余裕が無いのも確かだ。今は一機、一台でも戦力が欲しい。
しかししかし、彼はキラの友人で、もし彼が死んだら、キラが戦場に出るのを渋るようになるかもしれない。
どうする、出すか? 出さないか? 出すか、出さないか、出すか、出さないか、きのこか、たけのこか……うぅぅん。

「……彼の操縦技術は成熟してきました。いい機会に、実戦を経験させてみることにします」
「わかった。ムウ少佐、ヤマト少尉とよく連携を確認して行動するように」
「全力を尽くします」

こくり、と頷いて黒髪を揺らすリナ。
さて、彼を死なせたらコトだ。自分で言い切ったのだから、全力でやらないと。
隣に座っているムウが、こつ、と肘を突いてきた。何? と、そっちに振り向くと、ムウがひそひそ声で心配げに囁いてくる。

「おいおい、大丈夫なのか? シミュレーターに立ち会ってみたが、あいつ、まだ連携は無理だろ」
「……心配が無いって言ったら嘘になりますが、射撃技術はそれなりに整っています。
大丈夫です、責任は持ちます。……ボクが彼の背後を守る形で、自由戦闘をさせたら形になるのではと思うのですが」

ということは次の戦闘は、ずっとトールのお守りになる。実際、かなり面倒だろう。
だけどこれで頑張れば、きっとキラも自分の働きを評価してくれるに違いない。彼の評価が上がると、きっと後の展開に有利だろう。主人公的な意味で。

「お前がそう言っても、最終的に責任持つのは俺なの! ったく、少佐にはなったけど、苦労が増えただけだな……」

ぼやいて溜息をつくムウ。ふふふ、中間管理職は大変だのう。
とはいえ、自分ももう大尉。一部隊の隊長を任されてもおかしくない地位なのだから、そのうちムウを笑えなくなるんだろうけど。
ムウとリナがひそひそと話していると、ギリアムが二人をぴしゃりと叱りつけた。

「フラガ少佐、シエル大尉、私語を慎め。
……話を戻そう。”明けの砂漠”との連携だが、MS部隊との戦闘には原則介入禁止としたい」
「それじゃあ、俺達はどうすりゃいいんだ。まさか出撃するなとは言わねえだろうな」

突然のギリアムの提案に、サイーブが眉をひそめる。
MS部隊との戦闘には介入禁止――これは、事実上ザフトとの交戦はほとんど制限されるということだ。ザフトの戦力はほとんどMSで構成されているのだから。
”明けの砂漠”を出撃させず、地球軍だけでバルトフェルド隊と戦う。それもひとつの選択肢だろう。
しつこく言うが、あんな装甲車や携帯火器でMSと戦うなど無謀もいいところなのだから、はっきり言って囮にもならない。
だがギリアム自身の口から「連携をする」と言ったのだ。あの大演説のあと、それを翻すことなどできないのだ。
ギリアムはサイーブの訝しげな視線を払うようにかぶりを振り、否定する。

「そういうことではない。……この土地に長く住むその知恵と、地の利を生かした戦い方があるということだ。
諸君ら砂漠の民が、先進国の軍隊とどう戦ってきたか――それを思い出してもらいたい」
「……ゲリラの本分をやれってことか」
「正攻法が通じないのは、貴方達が身をもって知っているはずだ」

ギリアムの提案に、サイーブは顔を顰める。
自分とて無策にMSの敵に突っ込んでいったわけではない。しかしどこかクリーンな戦法を立てていたということは否定できない。
自分はあの狂信的なアフガンゲリラとは違う。自分達の家族のために、主権のために戦っている正道の戦士なのだ。そう信じていたからだ。
だが、その正道を行くために多くの仲間を犠牲にしてきたのではないか?
今必要なのは正道を行くためではない。勝って、笑顔で家族の元に戻ることだ。
サイーブは思いをめぐらせた後、ふ、とギリアムに皮肉げな笑みを向けた。

「……まさか、正攻法の塊みてえな地球軍に、ゲリラ戦法を指示される日が来るとは思わなかったぜ。
いいだろう。俺達の底力を、ぬくぬくと育ったお前らに見せてやろうじゃないか」
「頼もしい限りです。……我々は、貴方達が仕事をやりやすいよう、適度に派手に攻撃を仕掛けよう」

ううむ、傍から見ていると、悪巧みをしてる二人組のようだ。越後屋と悪代官的な。
まあ戦争自体ろくでもないものなのだから、悪巧みには違いないんだろうけど。
ギリアムとサイーブがなにやら話しているが、艦の作戦とは関わりがなさそうなので聞き流すことにする。
その後、ギリアムが会議用のウィンドウに周囲の地形図を表示させ、レーザーポインターを手にする。

「さて、問題のバルトフェルド隊との交戦だが、相手も”明けの砂漠”ほどではないにしても、地の利に長けた部隊だ。
真正面から全戦力を叩き付けてくる……とは言いがたいな。これまでのバルトフェルドの情報から鑑みて、相当冷静で慎重なタイプだ。
こちらのMS隊、特にヤマト少尉のストライクにかなり警戒するはずだ。私がバルトフェルドなら、艦とストライクを分断して、まず艦とMS隊を叩く。
ストライクはこちらの戦力の要だからな」

むう、悔しいがそのとおりだ。自分でも、キラのストライクと並ぶ戦力とは言えないことはよくわかってる。
あーあ、なんでこんなことになっちゃったんだろ。最初はガンダムに乗るって意気込んでたのに、今やダガーのパイロットですよ。
③現実は非情である。チートボディー役に立たないなー。MS戦は無双できないし、フィフスにも手も足も出なかったし。
どうせボクなんて最初から最後まで一般兵で終わるんだ、ぐすん。帰ってきたとき、ゴスロリ衣装にクルーみんなで笑われたし。全てがイヤになってきたぞ。

「……シエル大尉」
「はい」

やべ。物思いに耽ってて聞いてなかった。

「聞いてのとおりだ。相互の連携確認を密にするように」
「了解しました、全力を尽くします」

テンプレ返答でその場を切り抜けよう、それしかない。
それにしても、またあの厄介なバクゥを相手にしないといけないと思うと、気が滅入る。
ジンの動きにはそこそこ対応できるようになったけど、バクゥはこっちの動きが重いこともあって、なかなか捉えるのが難しいのだ。
もっと近づけばなんとかなるんだろうけど、あのナリで意外に接近戦もできるから厄介だ。
とにかく、もっとトールにはマシになってもらわねば。トールに死なれても困るけど、自分が死ぬのが一番困る。

「では明日、二月十日〇五一五時に出航する。同時、作戦を開始。”明けの砂漠”も同時出撃する。
パイロットは十分に休息を取り、明日に備えるように。作戦開始は追って艦内放送で報知する。では、解散」

ギリアムが解散を宣言し、場の空気が緩み、リナも席を立って会議室を離れる。

出航までは時間がある。時間は午後6時。夕食が終わってから、リナはトール達の姿を探していた。
今日は作戦会議が長引いたため、幹部士官用の食堂で食事したから、自分の中で予定していた食事中の作戦会議が崩れてしまった。
艦内通話を使いたいけど、あれは相手がどこにいるか目星がついてないと使えないし。

「あっちも食事終わっただろうし、いるとしたら自分の部屋かな……」

しかしこの1Gっていうのは、この小さな体にはとても不親切だ。いちいち歩かないといけないのは面倒だな。宇宙だったら一回ジャンプするだけで壁から壁までいけるのに。
重力を感じると、足が地面を蹴っているというのを尚更実感する。もう地上に降りて一週間経つけど。
トールもひとところに居てくれたらいいのに、と勝手なことを考えながら、リナは学生達がいる居住区に向かって短い足を振って歩いていった。


- - - - - - - - - -


「だからね、ラジオ体操やったことない? あれと同じだよ、部隊行動なんて」
「え、ラジオ体操ってなんですか?」
「え」
「僕もです。ラジオ体操って初めて聞きましたけど……」

トールとキラを見つけ、部隊行動が苦手な二人に対して講釈を垂れながら歩いていたリナ。
二人を連れ立って、部隊行動のシミュレーションをしようと格納庫に向かって歩いていた。
士官候補生として、部隊をまとめる資質はとことん磨いてきたつもりだけど、それを一から説明するなんて七面倒くさいことはしない。
だから学生にわかりやすいよう、ラジオ体操に例えたんだけど……なんで知らないんだろう?
自分が住んでたところも、何故かラジオ体操が無かったんだけど。日本なのに。もしかしてこの世界にラジオ体操って無いの?
首を捻りながら、とにかく格納庫に歩いてくると、なにやら賑やかだ。

「サイ頑張れ!」
「この、くそっ! うわっ!」
「ほらほら、もっと動かないとやられちまうぞ」

ミリアリアの歓声と、サイの歯の間から漏れる呻き声。ハッチを開けると、やっぱりサイがシミュレーターを使い、ミリアリアが応援し、ノイマンが茶化していた。
並んで立って静観してるのはカガリだ。いつの間にか自然にアークエンジェルに入るようになっていた。
会議が始まるから、といって艦内で別れたけど、出て行ってなかったんだな。

「何やってんの?」
「あ、トール、キラ、シエルさん」
「シエル大尉」
「ああ、キラとリナか」

カガリとミリアリアとノイマンはこっちに気づいて振り返る。ノイマンは折り目正しい敬礼をしてくれたが、ミリアリアはしてくれない。
ノイマンに答礼。ノイマンはミリアリアが敬礼していないことに気づき、肘で小突いてせっつかれて、ようやくぎこちない敬礼をした。
サイはシミュレーターに集中してて振り返らない。というか余裕が無いんだろうけど。

画面が見えるところまで回り込むと、ダメージは50%超えしてるし、レーダーは敵の光点が点々と自機を取り囲んでいるのがわかる。
僚機は一機だけ。しかもその僚機も撃墜寸前。でもここまで囲まれても、まだ僚機が居るのはトールよりマシだ。
トールは持ち前の操縦能力で最後まで残るんだけど、僚機が全滅した時点で当然失格。
キラがサイの様子を見て、口を開いた。

「サイ、シミュレーターやってるんだ」
「結構すごいんだよー。バクゥを二つ落としちゃうんだからっ」

自慢げに語るのはミリアリア。ほー。シミュレーターとはいえ、なかなかやるな。

「その前に三回はやられちまうけどな」

ノイマンの突っ込みが入る。だめじゃん。がく、とリナを含めた三人が肩をこけさせた。
バクゥは滑るように動いて隙が少ないし背が低いから、射撃が当てにくいのだ。
しかしあの足の裏はどうなっているんだろう? 前回戦ったのは夜だったからよくわからなかった。
移動構造がわかれば、隙がわかるんだけどなぁ。

「うわー! ああ……やられた」

あ、サイが終わった。画面が暗くなり、評価が表示される。適性は……トールと同程度か。
サイはトールとは逆だ。操縦能力はそれほど高くは無いが、部隊行動が得意なようだ。
その証拠に、被弾率はトールよりは多く射撃技術もやや低いが、指揮に対する従順性が高く、生存時間もトールより長い。
なるほど、サイは部下にしても率いやすそうだ。兵士としては彼のほうが向いている。

「次、私にやらせろ」
「おいおい、遊びじゃないんだぜ」

カガリが順番を争うのをノイマンがたしなめる。
リナは、ふと好奇心が湧いた。カガリは確かのちにストライクルージュのパイロットになるはずだ。
なら、今の操縦技術を確かめてみたい。そう思って、ノイマンに口を出した。

「いいんじゃない? 次は激しい戦闘になるんだ。今のうちに体と体を慣らしておく意味でも、やっておいてもいい」
「りょ、了解しました」

ノイマンはさすがに階級差が激しいからか、従順にリナの言葉に従って引っ込んだ。
軍曹と大尉だもんな。階級振りかざすのってあんまり好きじゃないけど、好奇心に負けちゃったさ。ごめんね。
ノイマンに心の中で謝ってから、リナはカガリに、いいよ、と言って微笑んだ。カガリは現金に笑って、シートに座った。

「お前、話せるな! 恩に着る!」
「はいはい。一日一時間だよ」

いまどき誰も守らないようなルールを言って、カガリのシミュレートを横から見物することにした。

……ほほう。 ほー。 おぉー。ああ……え? ふむふむ。

「カガリって、MS操縦したことあるの?」
「……あ、いや、初めてだ。だけどこんなの、トラックと同じだ!」

全然違うよ、君。ドラえもんとガンダムくらい違うぞ。
言い訳がつかないくらい、カガリの操縦はサマになっている。ボクほどではないが、敵の攻撃によく反応しているし、武器の扱いも慣れている。
それだけでなく位置取りやフォーメーションもしっかりしているのは、MSを操縦したことのある人間にしかできない芸当だ。
もしかしてオーブでM1アストレイ操縦してたんだろうか。今の時点ってM1アストレイあるのかな。

「もしかして、シエルさんよりすごいんじゃない?」

ほほう、トール君。それはボクへの挑戦かね。いいだろう、君はカガリに技量が追いつくまで特訓しようか?

「やめてよね、ボクが本気を出したら、カガリが操縦でかなうわけないじゃないか!」
「…………リナさん……本当にやめてよね」

おぉ、キラの顔色が面白いほどどす黒くなった。黒歴史を突かれるのは辛いかね、ヨホホホ。

「それはともかく、思ったよりマシなのは驚いたよ。ここに『君のMS』があったら、活躍できるのに」

キラをからかうのはそれくらいにして、カガリを少しつついてみる。
オーブの姫だってバレバレだし、独自のMS作ってるのもバレバレなのだよ。SEED知識があるボク限定だがね。
カガリはそれを言われて、画面の中で操縦をミスって転んだ。
わあ、と、ミリアリアとサイとトールが驚いた声を挙げてる。カガリの顔が引きつった。

「あ、あるわけないだろ! だいたい、私がMSなんて持てるわけがない!」
「君個人はね」

と、意味ありげに言葉を残して黙る。なんのことだ! とカガリが憤慨しながらもシミュレーターを続けるが、あとは悲惨だった。
やっぱりカガリは基本的な身体能力は優れてるけど、精神的に脆いから、弱いところをつつかれると集中力が途切れる。
前半はリナに迫る戦いぶりだったが、後半はグダグダで……最終評価に「集中力に難アリ」とコメントされた。

「お前のせいだ! 変なことを言うから!」
「えー、別にっ、変なこと、言ってない、つもりだけど……いてっ!」

びしびしびし。カガリの駄々っ子アタックを防いでたけど、最後の一発をもらってガツンとリナの黒い頭が揺れた。
でもまあ、みんなからは生暖かい笑顔ながらも、「すごいじゃないか」「やるなあ」「生身でMSに立ち向かうやつは違うな」と、フォローに近い声援が送られた。
まあ実際すごい、けど、ね。やっぱ、MSを、独自開発……こら、そろそろ攻撃やめろ!


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