月明かりで青白く染まる砂漠に、爆炎と砂柱が挙がる。
いくつもの曳光弾が交錯し、砂煙が昇って風に消える。その砂煙は、夜の砂漠に映える白い機影によって次々と爆炎へと変わっていった。
その火と光の狂宴は、広大な砂漠にとっては線香花火にも劣る小火だ。
しかし、その中では巨大な爆炎が挙がるたびに確かに、命が散華していっているのだ。
その中で、己の命の炎を一際強く燃やしている、二つの若い命があった。
キラの駆るストライク。そして、それよりも動きが鈍いながらも奮戦する、リナの駆る砂漠戦用ダガー。
砂漠戦にOSを適応させたストライクが砂を蹴立てて駆けながら、空を飛び回る戦闘ヘリ『アジャイル』にミサイルを撃ち込み空中分解させる。
その背後に迫るバクゥの目の前に、スライドするように割り込むデザートダガー。
ジェットホバー機動の大きな特徴は、機体の向きに左右されることなく高機動を獲得できることにあった。
リナはその特性を本能的に察知し、ぎこちなさが残るもののそれを自分のものにしつつあった。
デザートダガーは既にビームライフルを構え、照準を正確にバクゥの眉間に合わせる。
「いつまでも調子に乗るなぁ!」
リナがコクピットで吼え、引き金を引いてバクゥをビームライフルで撃ち抜く。
しかし、撃破される直後放ってきた最後っ屁、リニアガンを右肩に受け、ビームライフルを持つ手を喪失してしまった。
コクピットを激震が襲い、ぐら、と機体が傾ぐ。
「うあぁっ……! ビームライフルが……」
バクゥの爆発をシールドで受け止めながら、コンディションセンサーが赤色に変わるのを見て顔を顰める。
ビームライフルがFCSから強制除外され、残る火器は後ろ腰にマウントしているバズーカとビームサーベル。
だけど、バズーカを使おうとするとシールドをパージしないといけない。ビームサーベルを使うときも同様だ。
でも、撤退という選択肢が無い以上、シールドだけで何ができるというものでもない。
バズーカを使うか。そう思って制御キーを叩こうとして、キラの通信が開いた。
「武器が無いなら、リナさんは下がって! 盾さえ構えてくれればいい!」
「っ……そうだとしても、君に頼りっぱなしは……!」
強がってはみせるものの、リナ自身もここに居ることは戦死に繋がることは知っていた。
しかしキラの拡大した戦闘力は、向かってくる者はもちろん、遠巻きに様子をうかがっていた敵機ですら次々と落としていく。
後ろに目でもついているかのような反応。巧みな射撃能力。ずば抜けた反射神経。まるでアクション映画の殺陣を見ているかのようだった。
キラの圧倒的な戦闘力の前に、ヘリはもちろんバクゥですら決定的な攻撃を与えることができずに炎の塊へと変わっていく。
だけどリナは知っていた。ただでさえ稼働時間の短いストライク。あれだけの大立ち回りをしていれば――
「くっ、エネルギーが!?」
案じていた傍から、ストライクが放とうとしていたアグニの砲門から光が消え、同時に全身がくすんだ灰色に変わる。
フェイズシフトダウン。エネルギー僅少。ストライクのボディから、目に見えてパワーが抜け落ちていく。
ということは、実体弾のミサイルやバルカンはともかく、アグニは使えないということだ。キラは重量のあるアグニをパージして、アーマーシュナイダーを引き抜いた。
バルカンやミサイルも残弾が心もとなく、先ほどから射撃していない。さすがのキラも、囲まれた状況でフェイズシフトが無くては、思い切った行動に出られないようだった。
「キラ君も限界か……これ以上は……っ」
いくらSEEDに覚醒しても、エネルギーが無いのでは何もならない。決死の覚悟で、リナはシールドをパージ。バズーカを左手に持たせた。
装甲を追加されたデザートダガーとはいえ、シールドが無くてはかなり心もとない。至近弾があるたび、背筋が凍る。
砂丘からバクゥが姿を現した。そちらにバズーカの照星を向けた、直後。
「地球軍のMSのパイロット! 死にたくなければ、こちらの指示に従え!」
「えっ!?」
突然通信が送られてくる。女の子の声だ。それも、キラと同じくらいの。びっくりして、照準がぶれてしまった。
そのおかげで射撃のタイミングを逸してすぐさまホバー機動。立っていたところにリニアガンが突き刺さり、砂柱が上がる。
こんな時に誰だ! と内心怒りと呆れで満たされるけれど、通信元を探査する暇はない。
だいたい、身元も明かさずに突然指示を出されても困る。指揮権はお前にはないぞ。
「いいから言うとおりにしろ! これからデータを送信する! そのポイントにトラップがあるから、そこにバクゥを誘い込め!」
「くっ、何を言ってるんだ君は……!」
いきなり横から口出しして、指揮を乱されては困る……のだが、今はそんなことを言っててもしょうがない。乗らなければ全滅しか道がない。
ならば正規軍の暗黙の了解――民間の戦闘介入不許可――を無視してでも、ここは賭けに出るしかない。アークエンジェルに支持を仰ごうと、通信を開く。
応答したのはオペレーターのナタルだ。
「アークエンジェル! 通信が――」
「こちらでも傍受しました。今、送信元の特定を行って――ヤマト少尉!」
何? そう思ってキラのストライクのビーコンを追うと、その指示されたポイントにジャンプしながら移動し始めた!?
そりゃ現場判断ではあってるけど、ボクに声をかけてくれたって! あー、もうっ!
「ここまで来たら仕方がないよ。指定ポイントに向かう! アークエンジェルはバクゥからの攻撃を避けるために、高高度へ退避を!」
「シエル大尉!? まだ送信元を――」
一方的に通信を切断して、バクゥに再び照準を向けてバズーカを連射。
キュンッ、という空気を切り裂く鋭い音を残して弾体が飛翔する。狙いは正確なのだが、弾速がビームや銃弾に比べて遅く、命中はしてくれない。
このバズーカは改良の余地があるな……と思いながら、ジェットホバーでヘリやバクゥの攻撃を潜り抜け、爆風や砂つぶてを受けながらも一路指定ポイントへとダッシュする。
それでも10秒強ダッシュすれば、再びジャンプ移動に切り替え、ストライクの横に並んで移動することになった。
ジェットホバーは高水準の機動力を発揮するが、複数のバーニアを常時半開パーシャルで噴射し続けるという性質上、
すぐにジェネレーターが上がる●●●ため、その機動性が発生できる時間が極端に短い。
ドムとは違うのだよ、ドムとは。悪い意味で。
機体をストライクと横並びにしてジャンプしながら移動する。
「キラ君! また勝手な行動して!」
「でも、あのままでいたら全滅していましたよ」
おーおー、涼しげに言ってくれちゃって。
リナは呆れるやら感心するやらといった様子でため息をついて、ヘルメットのバイザーを開けた。暑い。
一旦はダガーがストライクと並んだけど、出力の差のせいでストライクに置いていかれそうになる。
そこはデザートダガーの本領発揮、ジェットホバーで高速移動して距離を稼ぎ、なんとか追いつく。
モニターの一部に背部センサーの映像を投影すると、砂煙を挙げてバクゥ達がついてきてくれているのがわかる。
どうやらアークエンジェルは高度を上げてくれたおかげで、艦の撃沈を諦めてこちらに集中してくれるようだ。
「……それでも! 基本的にはボクとフラガ少佐の指示に従ってもらうからね! いい!?」
「了解です。……指定ポイント、到着します」
「よし!」
相変わらず淡々と返してくるキラ。その声には感情が篭っていなくて、何を考えているのかわからない。ちょっと許せない態度だけど、今はそれどころじゃない。
レーダーマップを表示する。指定されたポイントは100m手前。一見して、周囲と何も変わりが無いように見えるが、何か変化があったらトラップにならない。
追跡してきたバクゥに振り返る。ストライクと並んで、バクゥに対しバズーカを発射。牽制して、無駄なあがきをしているように見せる。
もう一度後退。ごうっ、と脚部バーニアが唸って、そのトラップの上に立った。
バクゥはこちらに近接兵器が無いと侮ったからか、全機がビームサーベルの刃を展開して跳躍し、まるで野犬が獲物を食い散らかそうとするように群がってくる!
「……!!」
「もう少し……今!」
それはどちらの合図だったか。バクゥの刃が届く寸前、2機が同時にジャンプ!
バクゥ達が、2機の居た場所に着地する。直後――
ボゴォンッ!!!
轟音。まるで足元から竜巻が発生したように一斉に砂煙があがり、バクゥ達を丸ごと飲み込む規模の地盤沈下が発生する!
バクゥ達はもう一度ジャンプして、もう一度こちらに飛びかかろうとしたが、遅い。踏ん張る地面が崩落して全機まとめて落とし穴に落ちていく。
そして、爆発。
光と爆炎の狂宴。爆発の連鎖。
盛大な火柱が上がり、爆風が幾重もの衝撃波を放射状に広げて砂漠の表面を波立たせた。穴から飛び散るのは、バクゥの残骸ではないか?
「うわっ……」
ジャンプした2機にも衝撃波が及び、ビリビリとコクピットが揺れる。キノコ雲が立ち上り、周辺にちょっとした砂嵐を生み出した。
炸薬の量を間違えたのではないか。そう思うほどの規模だった。着地して、未だ黒煙立ち上る穴を探査する。が、当然ながら大量の灼熱で何も見えない。
……後に、あれは埋蔵された天然ガスの爆発なのだと知ることになるのだが、このあたりの地形に詳しくない今のリナには知る由も無い。
どすっ。目の前に突き刺さるバクゥの頭部。びくっ、とリナは驚いて体を震わせる。
「……これはひどい」
などと冗談を漏らせるのも、戦闘の気配が過ぎ去っていくのを感じたから。
目元に流れてきた汗を拭い、はぁ、と息を吐く。疲労の溜息だ。そして自分の鼓動に耳を傾ける。トクン、トクン。小さな胸が鳴っているのを感じる。
はぁー……と、今度は深いため息。今度は安堵の意味。激しい戦闘、しかもあれだけ爆撃に晒された後だ。より一層、生を感じることができる。
そうやって戦闘後の余韻に浸っていると、通信が入る。
「ヤマト機、シエル機へ。敵ヘリ部隊の撤退を確認しました。……第一波が退いただけかもしれません。
戦列を立て直すことも含め、ただちに帰投してください」
了解、と応えて、キラを連れだって、高度を下げるアークエンジェルに向かってジャンプする。
「……ふぅ」
がぽ、とヘルメットを取って一息。髪を纏めていた紐も緩めて、ふわっと髪を流す。
まだ艦内でもないのにヘルメットを取るのは普通は駄目なんだけど、暑くて暑くてたまらないから。あと、髪がきつい、と感じてきた。
ジャンプして……着地。ずざぁ、と機体が砂を削って着地すると、ずしん、と小さく重たい衝撃が下半身に伝わって、
じわーーー……
「え? え、ちょ……あ……」
股間が緩む。一気に下半身に熱が集まって、前の身体よりも我慢が利きにくい女の子の身体は、その決壊が速やかにやってきた。
さぁっ。顔が青ざめる。次に、頬が紅に染まる。あ、だめ、だめ。だめだって……我慢……
股間に力を篭めて必死に耐えるのも空しく、ふるっ、と体が震えて、思わず快感に表情が緩んで、虚空を見つめた。
あっー……
……時間差で……粗相って、アリ……?
リナはアークエンジェルに到着するまでの間、もじもじと腰を揺すりながら生暖かい股間と格闘する羽目になった。
- - - - - - -
砂漠の地平線に光が溢れ。星空は巨大な陽光に隠れて青空にとってかわり、やがて朝がやってくる。
アークエンジェルは砂漠に着陸して、ストライクとデザートダガーは直立したまま待機することになった。”明けの砂漠”と接触するためだ。
結局、一晩中ザフトへの対処をしていた。ノーマルスーツに装備されている腕時計を見ると、もう朝の4時を回っていた。
ああ、眠い。ただでさえこの身体は長時間の睡眠を強要してくるのに、どうしてくれる、ザフトめ。
目をごしごし擦っていると、サブモニターにキラの顔が映った。
「リナさん、眠いんですか?」
「んー。まあね……キラ君は眠くないの?」
「僕は、あんまり。夜更かしって慣れてますし……」
ゲームじゃないだろうな。そんな邪推をしながらも、キラが元に戻っていたことに安心していた。
SEEDのせいでああなっていたんだろう。ゲームのおかげで、大雑把な情報は知っている。目からハイライトが消えるんだけど、それくらいしか知らない。
まさかあんな無口で無感動になるのがSEEDだとは思わなかったから、不安になったものだ。安心したら、尚更眠くなってきた……。
「ふあぁぁぁ……あふぅ……」
誰も見ていないコクピット。大きな欠伸をして、んーっと背伸び。頭がちょっとぼんやりするなぁ。
こんな欠伸を艦内や他の軍人の目に入るところでやったら、袋叩きに遭うだろう。パイロットの特権だ、ふふふ。
狭いコクピットの中だけど、身体が小さいから身体を伸ばすことができる。パイロットシートは身体に合わせて小さいけど、
コクピットそのもののサイズは変わらないから、この短い腕ならどこまでも背伸びができる。あれ、たいして嬉しくないぞ。
そうやってリナが無意識の自虐をしていると、何台ものジープが砂煙を挙げて走ってくるのをセンサーが捉えた。
どうやら、あれが助けてくれた一団のようだ。確かにいかつい男や髭の男とか、いかにも「やあぼくテロえもん」と顔に書いてある連中がジープから降りてきた。
正規軍としてはあまり係わり合いになりたくないような顔ぶれだ。本当にあれと話すの? と、不安になる。
『地球軍? コーディネイター? そんなもんよりアッ○ーだ!』とか言って特攻自爆しそうでイヤだ。そんなもん生で見たくない。
艦からギリアム大佐と副長のマリュー少佐、荒事が得意なエスティアン中佐と、重装備の警務科の兵士達が降りてきた。
武装した警務科の兵士も出てくるということは、当然か。こんな世紀末な連中と相対するというのだから。
(面倒くさそう……でもボクも参加しないわけにはいかないんだろうなぁ)
うんざりとした気持ちで見ていると、ムサい男ばかりの”明けの砂漠”メンバーの中に、金髪の少女が混じっているのが見えた。
女の子? もしかしてさっきの声の子か。そう思って、その少女の映像を拡大する。勝気で精悍な顔立ち、橙色の目と金色の髪の少女。
服装は野戦服のようなカーキ色のズボンを履いて、上には同色の旧式タクティカルベストを着けている。他のメンバーとは少々毛色が違うようだ。
うん……どっかで見たことあるな。絶対会った事無さそうな相手に既視感を感じるってことは、ゲームの登場人物の誰かなんだろうけど。
ギリアム大佐が、髭面の男達となにやら話している。
「まずは助力、感謝する。私はこの艦の運営と指揮を任されている第7機動艦隊所属フィンブレン・ギリアム大佐だ」
踵を揃えて敬礼するギリアム。低い声だが、髭面の男に何か思うところがあるわけではない。地の声だ。
髭面の男達は、値踏みするように大佐ら幹部士官を眺めてから、ふん、と鼻息を漏らす。
「俺達は”明けの砂漠”だ。俺の名はサイーブ・アシュマン。礼なんざいらんさ。わかってんだろ? 別にアンタ方を助けたわけじゃあない」
「……縄張りに入ってきたから、攻撃した、と?」
「それもあるが……まあ、今回は仇討ちみたいなもんでな。本来は、あんたら地球軍も力づくで追い出したいくらいだ」
その言葉に、ギリアムは表情に苦いものを浮かべた。
それもそうだろう。地球連合は極めて巨大な組織であり、その基を確かなものとするために反抗的な国家からはより多くの資産の搾取を強要してきた。
彼らが地球軍に反感を抱くのは当然であり、あの状況で地球軍を見放すか、ザフトに乗じて攻撃してきてもおかしくはなかったのだ。
しかし今回は仇討ちとやらで、あの状況を切り抜けることができた。それは素直に感謝すべきだとギリアムは思ったのだ。
「……今の我々は目的が一致していると思っていい、と?」
「そうなるな」
「それならば話は早い、我々と共同戦線を組んでいただけないだろうか? そちらからは地の利を。我々は最新鋭の兵器を用いて協力できる」
ギリアムの提案を聞いて、サイーブは髭を指で撫ぜた。地球軍はザフト同様に好ましくない。が、地球軍が開発したというMSは利用価値がある。
実際、現在の装備であるジープや携行火器では心許ないどころか、勝つ見込みは果てしなく薄いと思っていたところだ。
だがMSが戦力として加わったとなれば勝算が出てくる。ならばこの千載一遇の機会を上手く活用せねばなるまい。
いざとなれば、相手を捨て駒にしてもいい。おそらくこの大佐もそう思っていることだろう。だが約束する前に、相手の手札は知っておかねばなるまい。
「話をするなら、まずその厄介なものを下ろしてからにしてもらいたいもんだな」
そう言って、同盟の確約を引き伸ばすサイーブ。ギリアムは黙って左手を挙げて、銃を下ろさせた。
「あそこのMSも、だ。せめてパイロットの顔ぐらいは拝みてぇもんだな」
「……シエル大尉、ヤマト少尉! 降りて来い!」
ギリアムが、手招きをしてくる。
「っと、降りないとね」
その手振りを見て、ハッチを開放した。空調が効いたコクピット内の空気が逃げていき、早朝の砂漠の乾いた清涼な空気がコクピット内を満たす。
んー、いい空気。一回深呼吸して……予想より乾いていたので、けほ、と咳き込んで深呼吸をやめて、昇降用のリフトで降りていく。
降りながら、戦闘中に流れた汗を拭う。こんな空気が乾いた土地で汗を流しっぱなしにしてたら、すぐに乾いてカピカピになりそう。
キラも僅かに遅れて降りてきて、一同がこっちを見る。
ざわ、と動揺したのは”明けの砂漠”のメンバーだ。それはそうだろう。連合の正規軍のMSから出てきたのが年端も行かぬ少年少女なのだから。
「子供が出てきたぜ?」「ゲリラかアフガンテロみてえだな」「地球軍も末だな」「それよりもおっぱいだ」と言われたい放題。
……この前同乗してた民間人よりはやかましくはないけど、やっぱり腹が立つ。むぅ。ていうか最後の奴前に出ろ。
リナとキラ、二人揃って地面に降り立って歩み寄る……と、あの少女が苛立ちを露にして歩み寄ってきた。
その視線の先は……キラ?
「君は、あの時の……」
キラが、彼女を知ってるかのような口ぶりで少女を出迎えた。そして驚きの表情。
その少女はキラの言葉に答えることなく、ズンズンと砂漠に深く足跡を残しながら歩み寄ってきて――
「……っ!!」
「わっ!?」
突然、キラに殴りつけた!?
キラは驚きの声を発しながらも、そこはコーディネイター、掌で受け止めるのではなく手首を捕まえて止めた。
えーっと、なんでこの子はいきなり殴りつけたんだ。キラの顔を見るけれど、意外そうにしているだけ。
「……キラ君、この子になんかしたの?」
「な、なにもしてないですよ! ヘリオポリスで一度会っただけで……」
リナに何か誤解されていると感じたキラは必死に否定して、非難じみた視線を少女に向けた。
掴まれた腕を振り払おうと、ぐい、ぐい、と腕を引いたり押したりして暴れながらキラを睨む少女。顔が整っているだけに、怒り顔が余計に怖い。
その怒りぶりに、キラの心情は非難から戸惑いに変わって、困り顔になる。
「な、なんでいきなり、君は……」
「なんで……なんでお前が、これに乗ってるんだ!」
それを聞いたからか。生で声を聞いたからか。リナはこの少女の名前を突然思い出した。
カガリ。カガリ・ユラ・アスハだ……。