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No.24869の一覧
[0] 【連載中止のお知らせ】もう一人のSEED【機動戦士ガンダムSEED】 【TS転生オリ主】[menou](2013/01/22 20:02)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/05/04 00:17)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/05/04 00:17)
[4] PHASE 01 「リナの出撃」[menou](2013/05/16 22:57)
[8] PHASE 05 「インターミッション」[menou](2010/12/20 23:20)
[9] PHASE 06 「伝説の遺産」[menou](2010/12/20 23:13)
[10] PHASE 07 「決意の剣」[menou](2010/12/21 23:49)
[11] PHASE 08 「崩壊の大地」[menou](2010/12/23 11:08)
[12] PHASE 09 「ささやかな苦悩」[menou](2010/12/24 23:52)
[13] PHASE 10 「それぞれの戦い」[menou](2010/12/26 23:53)
[14] PHASE 11 「リナの焦り」[menou](2010/12/28 20:33)
[15] PHASE 12 「合わさる力」[menou](2010/12/31 14:26)
[16] PHASE 13 「二つの心」[menou](2011/01/03 23:59)
[17] PHASE 14 「ターニング・ポイント」[menou](2011/01/07 10:01)
[18] PHASE 15 「ユニウスセブン」[menou](2011/01/08 19:11)
[19] PHASE 16 「つがい鷹」[menou](2011/01/11 02:12)
[20] PHASE 17 「疑惑は凱歌と共に」[menou](2011/01/15 02:48)
[21] PHASE 18 「モビル・スーツ」[menou](2011/01/22 01:14)
[22] PHASE 19 「出会い、出遭い」[menou](2011/01/29 01:55)
[23] PHASE 20 「星の中へ消ゆ」[menou](2011/02/07 21:15)
[24] PHASE 21 「少女達」[menou](2011/02/20 13:35)
[25] PHASE 22 「眠れない夜」[menou](2011/03/02 21:29)
[26] PHASE 23 「智将ハルバートン」[menou](2011/04/10 12:16)
[27] PHASE 24 「地球へ」[menou](2011/04/10 10:39)
[28] PHASE 25 「追いかけてきた影」[menou](2011/04/24 19:21)
[29] PHASE 26 「台風一過」[menou](2011/05/08 17:13)
[30] PHASE 27 「少年達の眼差し」[menou](2011/05/22 00:51)
[31] PHASE 28 「戦いの絆」[menou](2011/06/04 01:48)
[32] PHASE 29 「SEED」[menou](2011/06/18 15:13)
[33] PHASE 30 「明けの砂漠」[menou](2011/06/18 14:37)
[34] PHASE 31 「リナの困惑」[menou](2011/06/26 14:34)
[35] PHASE 32 「炎の後で」[menou](2011/07/04 19:45)
[36] PHASE 33 「虎の住処」[menou](2011/07/17 15:56)
[37] PHASE 34 「コーディネイト」[menou](2011/08/02 11:52)
[38] PHASE 35 「戦いへの意志」[menou](2011/08/19 00:55)
[39] PHASE 36 「前門の虎」[menou](2011/10/20 22:13)
[40] PHASE 37 「焦熱回廊」[menou](2011/10/20 22:43)
[41] PHASE 38 「砂塵の果て」[menou](2011/11/07 21:12)
[42] PHASE 39 「砂の墓標を踏み」[menou](2011/12/16 13:33)
[43] PHASE 40 「君達の明日のために」[menou](2012/01/11 14:11)
[44] PHASE 41 「ビクトリアに舞い降りて」[menou](2012/02/17 12:35)
[45] PHASE 42 「リナとライザ」[menou](2012/01/31 18:32)
[46] PHASE 43 「駆け抜ける嵐」[menou](2012/03/05 16:38)
[47] PHASE 44 「キラに向ける銃口」[menou](2012/06/04 17:22)
[48] PHASE 45 「友は誰のために」[menou](2012/07/12 19:51)
[49] PHASE 46 「二人の青春」[menou](2012/08/02 16:07)
[50] PHASE 47 「もう一人のSEED」[menou](2012/09/18 18:21)
[51] PHASE 48 「献身と代償」[menou](2012/10/13 23:17)
[52] PHASE 49 「闇の中のビクトリア」[menou](2012/10/14 02:23)
[55] PHASE 50 「クロス・サイン」[menou](2012/12/26 22:13)
[56] PHASE 51 「ホスティリティ」[menou](2012/12/26 21:54)
[57] 【投稿中止のお知らせ】[menou](2013/01/22 20:02)
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[24869] PHASE 24 「地球へ」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/10 10:39
メイン格納庫では、戦闘への準備とは違った賑わいが起こっていた。
シャトルの前に避難民達がそれぞれの荷物を持って集まり、搭乗の順番を待っている。
避難民達はそれぞれ、ようやく戦闘艦から出られることに安堵を覚えて表情を緩めていたり、初めて大気圏突入を体験するため緊張していたりした。

「もうアレには乗れないな、俺達」

キャットウォークで柵に寄りかかりながら、その避難民を見下ろして呟くサイ。
もし自分達が志願しなければ、今避難民が乗り込んでいるシャトルに乗って一足先に地球に下り、戦争に関わらずに生きていくことになっただろう。
サイはシャトルに並んで表情を緩める避難民を見て、複雑な気分になる。

「しょうがないだろ? 俺達、キラと戦うって決めたからな」
「そうだな」

後悔の色がないトールの言葉に、サイは苦笑を漏らしながら振り返る。
トール、ミリアリア、カズィ。そしてサイ。アークエンジェルに残るのは、この4人だ。
この4人には既に階級が与えられていて、二等兵となっている。まだゼミ生だったのに、思わぬ早期就職になってしまった。
まあ今は戦争中で、もし地球軍が負ければ就職どころではなくなるのだから、悪いことばかりではないが……。

「フレイは……親父さんと一緒に地球に降りるんだってな」
「……ああ」

それを聞いて、サイは表情を翳らせる。
親が決めたとはいえ、婚約者のはずの彼女。一緒に居てくれるとは思ったが……この船は作戦を続行中で、いつ死ぬかわからない危険な場所。
サイは人が良く優柔不断なところがあるので、それを考えるとフレイを強く止めることはできなかった。

「ったく、サイももうちょっと強く言えば、フレイも残ってくれたかもしれないのにな」

トールの発破に、サイは小さくかぶりを振る。

「無茶言うなよ。親父さんと再会してあんなに嬉しそうにしてたフレイを見て、そんなこと言えるかよ」
「そりゃわかるけど……お人好しすぎるよ、お前」

トールの呆れ気味の言葉に、お前とは違うよ、と小さく返しながらも、言うことはわかる。
自分だって本心では、フレイに残って欲しいとは思う。が、ここは相変わらず軍艦であり作戦行動中で、
今回民間人が乗れたのは緊急措置であり、降りられる方法があるならば直ちに降りなければならないのだ。

「おい、新兵ども! シークェンスは始まってるんだぞ、持ち場につけ!」

船務科の少尉が、持ち場に着かずのんびりとしている4人に怒鳴りつける。

「は、はい!」

慌てて4人が返事をして、ついて来いよ、と怒鳴って通路を流れていく少尉の背中を追いかけた。
サイは追いかける直前、もう一度フレイの笑顔を振り返る。父親に向ける笑顔は、実に素直なものだった。しかし……

(フレイは一緒に戦ってはくれないんだな……)

フレイにとって、俺達はなんだったのだろう?
少尉を含めた4人を追いかけながら、シャトルに並んで、父親と談笑するフレイを思い起こす。サイは彼女の気持ちがますますわからなくなっていた。



- - - - - - -


ブリッジのフロントを輝かせる地球光。
まばゆいまでのその青い光は、ブリッジを煌々と照らして電子機器の灯りを曇らせていた。
フロントには防眩フィルターがかかっているはずだが、それぞれのクルーの顔も真っ白に照らされている。
真っ白な光に顔が照らされているために、皆顔色は良いように見えるが、それぞれ緊張に顔を強張らせている。
ここで皆を和ませる軽口の一つでも言えれば……ジョークに通じる語彙には疎い己に、ギリアムは悔しさを覚えた。

「艦長、時間です」

考えている時間が長かったのか。ついに大気圏突入シークェンスに入る時間が迫っていた。
敵部隊を予測よりも早く振り切り、アルテミスにも寄航せずヴェサリウスとも接触しなかったアークエンジェル一行は、敵部隊の攻撃を受ける前に大気圏突入シークェンスに至ることができた。
そして、第8艦隊も、”史実よりも”艦数が多い。その僥倖に、このアークエンジェルに乗る誰もが気付いていないだろうが……
時間を知らせたマリューに、うむ、と頷いて艦内放送のインカムに手を伸ばす。

「達する。艦長のギリアムだ。これより本艦は大気圏突入シークェンスを開始する。
これまで苦しく長い宇宙の旅だったが、それもこのシークェンスで一つの節目を迎えるだろう。アラスカに着くまで、あともう少し、皆の力を借りたい。
そしてアラスカの乾ドックで、クルー最後の一人が地上に降り立つまで気を引き締め、最高度の臨戦態勢を維持してもらいたい。
各員は臨戦態勢のまま待機。大気圏突入時は追って知らせる。避難民のシャトルは発進急げ」
「大気圏突入シークェンス、開始!」
「了解、セイル収納、仰角30度。突入ルート追跡――」
「前進微速、ヨーソロー!」


ギリアムの艦内放送が終わると同時、ブリッジがにわかに慌しくなる。
大気圏突入シークェンスの実行は誰もやったことがないのだ。シミュレーションで無いわけじゃないが、あんなものを真面目くさってやる人間などあまり居ない。
なにせ大気圏突入するシャトルを操縦するということ自体が少ないのだ。特にメイソンのクルーは、アークエンジェルに乗る前は想定していなかったといっていい。

「ノイマン曹長、肩が張ってるぞ。緊張しすぎだ!」
「は、ハッ!」

操舵手の彼をしかりつけるが、その言葉は自分への言い聞かせであることを自覚していた。

メイン格納庫では、避難民がシャトルに全員が乗り込み、今まさに出発しようとしているところだった。
MS並びにMAのパイロット要員は特にすることがあるわけではない。大気圏突入中は、出撃したくてもできないからだ。
キラとリナは自分のMSの整備も終わり、避難民を見送るためにシャトルの前に居た。
キラの想いはわからないが、リナは、本音を言うと清々した……ので、最後くらいは見送ってやろう、と思ったのだ。

(自分が守った人間っていうのがどんな奴らなのか、っていうのも知っておきたいしね)

一人ひとりの顔を記憶に刻もうとするかのように、ゆっくりと避難民の顔を順に見ていく。
諭そうとしてきた中年の女、叱りつけてきた壮年の男、ザフトの攻撃があるたびに泣いていた幼女……
特に前者二人は、自分を見つけると居心地の悪そうな表情を返してきた。避難していた先のモニターで、戦闘の様子を見ていたからだろう。
こんな小さな子供に守られて、自分はビクビクしていた……そう思っているんだろうか? それとも、守ってくれてありがとう、と素直に言えないから?

リナは彼らの考えていることを勝手に想像しながら、肘を掌で支えあうように腕を組んで見送る。

「行っちゃいますね」
「清々したよ」

感慨深げに言うキラに対し、リナは涼しげな表情で、本音をぶちあげた。
苦笑するキラ。リナは、なんだよ、と、大きめの瞳で見返す。言動は大人なのに、顔立ちが幼ければ表情も幼い。
本当に23歳なのかな? キラはそう疑ってみながら、試すように言葉を続ける。

「寂しくはない、ですか?」
「別に……軍艦に民間人のテンションを持ち込まれると、調子が狂う」

これもリナの正直なところだ。民間人と軍人。キッパリと住み分けていきたいのだ。
というか単純に、民間人が軍艦に乗っていたところで百害あって一利なし。あ、キラは別だけど。もう彼は軍人なので時効だ。
……なんか前もこういうことを考えた気がする。

「…………」
「……ハッ」

キラが妙に黙り込んだと思って振り向いたら、表情を翳らせてる。
まずい、自分達のことだと思ったか? ボクはキラ君を一度だって迷惑だと思ったことはないのに!

「き、キラ君は別……だから! キラ君は、頑張ってるよ! ボクよりも!」
「そうそう、お兄ちゃん頑張ったよね!」
「え?」

割り込んできた、リナよりも一回り幼い声。二人がそちらに顔を向けると、栗色の髪を頭の両側でリボンで結んだ幼女が、ちょこんと立っていた。
避難民の誰かの子供なのか。コズミック・イラに至ってオーバーオールとは珍しい。でもその服のおかげで、いかにも、という幼女だ。

(まがいものの人もいるけど……)

リナの横顔を盗み見る。彼女のエメラルドの瞳が、視線を向けられてることに気付いて半眼で見返してきた。

「キラ君、何か考えた?」
「いいえ……」

普通に幼女な人物が現れてホッとしているキラに、リナが釘を刺した。
なんでわかるんだ、とキラは理不尽な思いに駆られながら、とりあえず、二人の不思議なやり取りに首を傾げてる幼女に意識を向ける。
幼女はキラに注意を向けられて、にこ、と微笑んで、後ろに回していた手をぱっと二人に向けた。
その小さな手には、カラフルな折り紙で出来た花が二つ、握られていた。どちらもパステルカラーのピンクとブルーの花。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん! 今まで守ってくれてありがと!」

屈託のない笑顔で差し出されたその折り紙の花。キラはブルーの花を受け取って、リナはピンクの花を受け取る。
子供らしい、なんとも可愛らしいプレゼントではないか。キラとリナは知らず、笑顔がこぼれた。
特にリナはほっこり良い笑顔。くしゃくしゃと幼女の頭を撫でてる。

「綺麗なお花だね。大事にするよ。ありがと」
「えへへ……またね!」

幼女の親が彼女を呼び出して、短い脚を振って搭乗者の列に戻っていく。その親子の姿も、艦内放送の催促によってすぐにシャトルの中に消えた。
その姿を見送りながら、手の中の紙の花をくるくると回して、くすっと笑いをこぼした。

「守ってくれてありがと、か……」

そんなストレートな感謝の言葉がもらえるとは思わなかった。
子供の純粋さゆえだろう。それでもお礼の言葉をもらえると、自分が死ぬような思いをして戦った甲斐があった。
子供が作った割には結構しっかりした作りになってる。花びらも立っていて、めしべもちゃんと膨らんでる。きっと普段から折ってるんだろうな。
軍艦の中でいそいそと折っている先ほどの幼女の姿を想像すると、ふと笑みが漏れた。

「可愛い花ですね」
「うん。どこに飾っとこうか……」
〔レーダーより敵部隊の接近を感知! 総員、第一種戦闘配置! 対空戦闘用意! シャトルは緊急発進を! 甲板要員急げ!〕

キラと飾り場所を相談してると、突然の艦内放送。ついに追いついてきてしまった!?
避難民を見送ったら、第8艦隊から補給された機体を見に行こうと思ったのにこれだ。
避難民達は荷物のチェックもそこそこに、全員シャトルに収容されるとすぐさまハッチが閉鎖し、ラダーがはずされる。

「シャトル緊急発進! 気密チェック急げ!」
「推進剤充填完了! 発進位置につけ!」

シャトルの発進に慌しくなるメイン格納庫を背に、予めパイロット達が待機すると決めてあった各々の配置に向かう。
大気圏突入シークェンスに入ってしまった今、艦載機は出撃することができない。
だいたい、艦載機搭載型の戦闘艦が大気圏突入し、そこへ敵部隊の攻撃が加えられるという事例が今まで無かったのだ。
だから「今から出たら危険かもしれない」という、割といい加減な予測のもと、出撃が禁じられた。
その護衛も何もない宇宙を飛ぼうとするシャトルを、ふとリナは振り返った。

(無事に降りてほしい、あの子には……)

もしかしたら、あのシャトルは戦闘宙域の真ん中を飛ぶことになるかもしれない。
戦闘宙域には多くの流れ弾が飛び交う。無論、この広い宇宙だ。あんな小さい機体に流れ弾が当たる確率など、交通事故で死ぬ確率のほうが高かろうが…
それでも、今回は場合が場合だ。敵はこのアークエンジェルを狙ってくる。そうすると火線はアークエンジェルの周りに集中し、その近くか延長線上にいるシャトルは危険だ。

「……!!」

ふと、胸騒ぎがした。頭の中に、ビームに機体を貫かれて爆散するシャトルが浮かび、リナは身体を宙に止めた。
守らなければいけない、あのシャトルは……!
どうする。出撃は禁じられている。でも、あのまま放っておいたら、不安は的中するかもしれない。
そんな漠然とした不安だけで出撃が許可されるとは思えないし、命令違反などすれば、それこそ自分の方が危ない。

「リナさ……」

キラが、大気圏突入に備えなければならないのに、立ち止まったリナに声をかける。

「…………」

振り返ったリナに、キラは息を呑んだ。
泣きそうな顔をしている。その表情の理由は知っている。キラだってわかっているし、同じ思いだ。
なら、どうする……? 決まってる!

「リナさん、出ましょう!」
「え、でも、命令が……」

キラの思い切った発言に、リナは動揺した。
二人はすぐに気密区画に入ると、ハッチが開放されてシャトルが宇宙に向かって突進していくのが見えた。
そのハッチの向こうに見える宇宙で、大小様々な爆光や火線が一瞬見えた。もう、第8艦隊とザフトの戦闘は始まっているようだった。
リナの動揺をよそに、キラは、今まさに発進し、宇宙に消えたシャトルを指しながら続ける。

「あの人たちは、あんな無防備なシャトルで、戦闘が始まった宇宙に放り出されるんですよ。守ってあげないと……
それに、大気圏突入直前に出ちゃいけないって決まりはありません!」

キラは切なげに訴える。メインハッチが閉じ、気密区画のエアコンディションランプがグリーンに変わった。
格納庫の気圧が安定し、生身で出ても平気だという合図だ。気密区画に、リナの甲高い声が響いた。

「ば、バカを言うな! 決まりは無くても、出るなっていう命令が出てるんだ! 命令違反をしたら、タダじゃすまないぞ!」
「軍人は、民間人を守るのが仕事なんですよね!?」
「できたてホヤホヤが、知った風な口を――」

ぐわらっ!!
二人が口論している間に、大きな揺れが艦を襲った!

「うわっ!」
「あっ……!」

小さな悲鳴を上げながら二人は姿勢を崩し、無重力なために踏ん張りが利かず、リナはキラに身体を預けてしまう。
とすっ
リナの長い黒髪が散って、小さな身体がキラにぶつかる。ふわっ、とリナの柔らかい身体がキラの引き締まった身体に接して、キラに膨らみかけの胸を押し付ける形になってしまった。

(うっ……)

リナはキラの匂いを間近に感じると、あの夜のことが脳裏によみがえって、思わず赤面してしまう。
キラも同じ事を考えたようで、赤面して目を逸らしてしまう。

〔第二区画に被弾! 船務科ダメコン急げ!〕
〔艦載機搭乗員、ならびに航空科に通達! 突入まではまだ時間がある! 短時間でいい、艦を防御しろ! 出撃準備!〕

「……!! ほら、出撃命令だ! すぐに出るよ!」

キラを押しのけるようにして離れ、すぐさまロッカールームに向かうリナ。その後姿は、まるでキラから逃げてるかのよう。
一瞬リナの表情が赤面しているのが見えて、それを一瞬脳内でリピート再生してしまったキラは、遅れて後に続いた。

「あっ……は、はい!」


- - - - - - -


「ムウ・ラ・フラガ、出るぞ!」
「ストライク、キラ・ヤマト、行きます!」
「ダガー、シエル機、出ます!」

いつものメンツ。メビウス・ゼロ、エールストライク、ストライクダガーが、次々とリニアカタパルトで射出される。
三人ともノーマルスーツには着替えたものの、ろくにブリーフィングもせずに出撃した。状況は既に進行しており、一刻の猶予も無いからだ。
そして、戦闘目標もはっきりしている。アークエンジェルの護衛。これに尽きる。

〔大気圏突入開始まで、あと600秒だ。いいか、帰還命令は絶対遵守しろ! 大気圏で燃え尽きたくなかったらな!〕
「了解!」

ストライクダガーのコクピットにおさまっているリナの意識はアークエンジェルではなくシャトルに向かっていた。
サブモニターを操作して、シャトルを写す。よかった、まだシャトルは無事だ。大気圏突入コースをとり、機首を上に向けている。
もし掠りでもすれば、大気圏突入は不可能になり、大気圏で燃え尽きる恐れがある。アークエンジェルにはある程度の自己修復能力があるが、シャトルはそうもいかないのだ。

「!」

警報が鳴り、メインモニターに目を移した。HUDに二つのエネミーマーカーが投影される。ジンが、2機!
全身を緊張が支配する。ぴりっと脳裏が痺れて、手に汗が浮かぶ。
シールドがしっかり保持されていることを確認して、半身を隠す。くり、とレバーを巡らしながら、微妙にペダルを調節して、くる、と機体で一定の円を描く。
すると、ロックオン警報! 遠いのに!

「重粒子砲!?」

だが、あれはマズルフラッシュが激しいので、射撃の瞬間がわかる。ゆったりと機体を巡らせ、射線をずらしてやりながら……スロットルを全開にして鋭い機動で、ジンから放たれた光の奔流を回避、やりすごす。
重粒子砲の撃った反動で、ジンが固まっている! すかさずビームライフルの照準と直結しているガントリガーを動かし……射程に入った途端、ビームライフルを射撃!
反動から立ち直り、ジンを動かそうとするが、遅い。かわしそこね、左肩を撃ち抜いた。バランスを崩し、戦闘空域から離脱していくジン。

「……いける!」

シミュレーターをこなしまくったのが、効いている。少なくとも、重粒子砲を持ってるジンは撃墜できる!
しかし、調子に乗ったらいけない。あくまでシャトルとアークエンジェルの防衛が重要なんだ。
前線に出ようとする自分を抑えて下がり、もう一機のジンを探す。アークエンジェルに向かってるのかもしれない……いた!

「調子に乗ってぇ!」

アークエンジェルに向かっている! しかも、火線をくぐりぬけて至近距離から撃とうと急接近をかけている!
リナはカッと頭に血を上らせて、スロットルを全開! しかし、対艦攻撃をするジンは、どこで発射位置をとるかわからない。
致命弾を撃ちこまれる!? さぁ、と上った血が冷める。ジンが目の前で発射位置についた。しかし、一瞬間に合いそうにない――
駄目か!? 絶望的に胸中で叫んだ直後、
ビシュゥンッ!! 別の方向から真っ直ぐ伸びた閃光が、ジンを貫いた!

「!?」

爆散し、あらぬ方向へ吹き飛んでいくジンの残骸。キラが撃った? そう思ったが、キラのストライクは見当たらない。
その閃光の源を探ると、いた。MSだ。少し遠い距離だが、色合いからしてストライクとわかる。今のビームライフルの推定射程距離は……

「え?」

ストライクダガーと同じ? 不審に思って、その機体をストライクダガーのコンピューターに解析させる。
そうしている間にもそのMSが転針して、こちらをパスしてくる。シールドを振って「バンク」するその姿は……

「ストライクダガー!?」

リナが乗っている機体と全く同じ、先行量産機。誰が乗っているんだ!?
メインセンサーでその姿を追いかけると、3つほどのバーニアの航跡が合流していく。全て、地球軍のIFFを発信している。
それも、全て同じ型。ストライクダガーが、計4機……。いや、第8艦隊のほうを見ると、艦底に係留されたストライクダガーが次々と出撃していくのが見える。

「地球軍が、こんなにストライクダガーを……? いつの間に?」

そのストライクダガーが、倍に相当する数のメビウスを連れて第8艦隊の砲撃支援を受けながらザフトの艦隊に突撃をかけるのが、遠目に見えた。
ビーム兵器を携行したMSが量産されたこともあって、さすがに押されっぱなしということにはならないらしい。アークエンジェルまで到達するジンの数が目に見えて減った。
しかし、ザフトとてそう甘くない。地球軍のMS・MA混成部隊を突破する機がいる! ……イージスと、バスター。そして、ジンが2機とシグー!
そのうち、ジンとシグーはそれぞれ臙脂色、深い青で彩られている。パーソナルカラー?

〔あ、あの機体は……気をつけてください、リナさん!〕
「キラ君?」

キラが、妙にあせった声を挙げる。彼が焦るのはよくあることだが、今回はなにやら様子が違う。

〔前に、リナさんが出撃しなかったときに襲ってきた、連携する二機です! 気をつけてください!〕
〔だが、大気圏突入まで2分しかない。見ろ、アークエンジェルはもうだいぶ下だ!〕

ムウに言われてアークエンジェルを見ると、もうかなり地球に近づいていて、シャトルも更に小さくなっている。大気圏の炎で赤く染まっているのもはっきり見えた。
相対距離を見ると、今もかなりの速さで開いていっている。このままじゃ、置いてけぼりにされるんじゃ……?

「そろそろ戻る準備をしないと……くぅっ!」

慌てて機体を転針させようとしたら、あの5機が撃ってきた! 機体の周囲を火線が囲む。
特に砲撃戦用のバスター、バズーカを装備したノーマルカラーのジンが撃って来る。レーザー誘導のミサイルを、機体を思い切り動かして振り切る!

〔ああ、だから撃墜することを考えるな! 帰還しながら牽制しろ、それで充分だ!〕
「は、はい……!」

大いに賛成だ。手練れのあの5機とまともにぶつかりあって、勝てそうもない。たとえこっちにキラがいたとしても、同等のパイロットのアスラン・ザラがいる。
シールドでしっかり機体を隠しながら、ランダム機動でバスターの遠距離砲撃をかなり苦心しながらも回避し、近づこうとしてくるザフト量産機とイージスを牽制する。
ジンやシグーは、なんとか牽制はできるものの……イージスがとにかくすばやい。MA形態に変形すると、ゼロをも上回るスピードでアークエンジェルに飛び込んでいく……あれは、スキュラを撃つつもりだ!

〔アスラン!! だめだ!!〕

キラの通信が聞こえ、エールストライクのバーニアを最大に噴かして追撃しはじめ、すごい勢いでストライクの姿が小さくなっていく。

「キラ君!?」
〔あのイージスは坊主に任せとけ! 俺たちは引くぞ。援護してやる!〕
「はいっ! ――このっ、寄るな!」

リナの叫びもむなしく、機動力に劣るバスターとジンはその周辺に縫い付けることはできたが、ジンHMとシグーが巧みに機体を捻り、ストライクダガーを上回る運動性でアークエンジェルに飛び込んでいく!
くそ、キラ君はもうイージス相手で手一杯だっていうのに! CIWSが起動して対空砲火が開くが、MSの爆光は見えない。やはり取り付かれた!

〔くそっ、時間だ。シエル! 戻るぞ!〕
「はい……!」

最後にバスターとジンに3連射すると、スロットル全開でアークエンジェルに迫る。ムウのゼロは一足先に、アークエンジェルのデッキに着艦していった。
既に大気圏の炎がアークエンジェルの白い船体を赤く染め始め、艦自体のスピードも上がっているようだった。
大気圏突入の限界時間になったからか、対空砲火も閉じる。ストライクダガーも、過熱の警報を発したために急いで着艦しようとアークエンジェルに近づいたが、

「ま、待って! キラ君は!?」

彼の姿が無い。イージスを追い払ったにしては早すぎるし、もしかして取り残されたのでは……
アークエンジェルに彼の姿を探すように上申したが、その上申はすぐに取り下げられた。返って来たナタルの声には焦燥がにじみ出ていた。

〔まだ彼は帰還していません。電磁乱流が発生し、レーダーも使用不能です。しかし、限界です! シエル中尉、着艦してください!〕
「しかし、彼をこのまま置いていっては――」
〔彼より自分の心配をしなさい! 死にたいのですか!〕
「……っ!」

ナタルの叱咤が飛ぶ。唇を噛み、彼の無事がわからないことに胸が締め付けられる思いだった。
大気圏に突入して、あのストライクは無事なのか? それとも大気圏から逃れて、第8艦隊に合流したのか?
できれば後者であってほしい。そうすれば、まだ生き残る望みはある。着艦用のプログラムを起動する指が、震えている……

「…………了解。シエル中尉、着艦します……」
〔ヤマト少尉は、必ず生きて帰ってきます。信じましょう〕
「……うん」

弱弱しくナタルに答え、デッキに下りようとしたら……

「!?」〔あっ!?〕

アークエンジェルの機体に、何かが、文字通りの意味で取り付いた。艦内でも激震が走ったようで、ナタルの悲鳴が聞こえてくる。
なんだ、とメインセンサーを巡らせると、あの臙脂色のジンHMと青いシグーが、アークエンジェルの船体に抱きついているではないか!
正しくは、ブリッジの後方デッキにジンHMが。左舷ゴッドフリートの格納部分にシグーが抱きついている。
リナは知らないことだが、その二機にはフィフスとマカリが乗っている、あの二機だ。

「なっ……!」

慌ててビームライフルの銃口を、その二機に向けようとしたが、

〔よせ、撃つな! 爆発でもされたら、突入中のアークエンジェルはタダでは済まん!〕

ギリアムから直接回線で命令が飛ぶ。確かに、この振動の中で、機体の爆発しない部分だけを狙撃できるわけがない。
しかもあの二機、携行火器を全て捨てて抱きついている。重斬刀は持っているが、腕を動かしたら大気圏突入の衝撃で弾き飛ばされるだろう。
まさか、自分達と一緒に地球に来るつもりか。でも、火器の一切を捨てて、母艦の支援も期待できない地上まで、何故!?

〔決着は地上でつける。今は着艦だ!〕
「はい!」

理由は不明だが、とにかく着艦しよう。キラの無事を祈りながら……

「マカリ、マカリ……! やっと地球に下りるよ……!」
「ああ……眩しいな」

フィフスは、感激を抑えきれない声で叫び、マカリはモニターを輝かせる地球光に目を細めていた。

アークエンジェルは重力に引かれていき、その白い姿は地球光の中に消えていく。
アークエンジェルを中心に開かれた低軌道会戦は、その目的を達成、もしくは消失したために、互いの戦力消耗を避けるために双方撤退していった。
その宙域に、ストライクの姿はなかった……


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