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No.24869の一覧
[0] 【連載中止のお知らせ】もう一人のSEED【機動戦士ガンダムSEED】 【TS転生オリ主】[menou](2013/01/22 20:02)
[1] PRELUDE PHASE[menou](2013/05/04 00:17)
[2] PHASE 00 「コズミック・イラ」[menou](2013/05/04 00:17)
[4] PHASE 01 「リナの出撃」[menou](2013/05/16 22:57)
[8] PHASE 05 「インターミッション」[menou](2010/12/20 23:20)
[9] PHASE 06 「伝説の遺産」[menou](2010/12/20 23:13)
[10] PHASE 07 「決意の剣」[menou](2010/12/21 23:49)
[11] PHASE 08 「崩壊の大地」[menou](2010/12/23 11:08)
[12] PHASE 09 「ささやかな苦悩」[menou](2010/12/24 23:52)
[13] PHASE 10 「それぞれの戦い」[menou](2010/12/26 23:53)
[14] PHASE 11 「リナの焦り」[menou](2010/12/28 20:33)
[15] PHASE 12 「合わさる力」[menou](2010/12/31 14:26)
[16] PHASE 13 「二つの心」[menou](2011/01/03 23:59)
[17] PHASE 14 「ターニング・ポイント」[menou](2011/01/07 10:01)
[18] PHASE 15 「ユニウスセブン」[menou](2011/01/08 19:11)
[19] PHASE 16 「つがい鷹」[menou](2011/01/11 02:12)
[20] PHASE 17 「疑惑は凱歌と共に」[menou](2011/01/15 02:48)
[21] PHASE 18 「モビル・スーツ」[menou](2011/01/22 01:14)
[22] PHASE 19 「出会い、出遭い」[menou](2011/01/29 01:55)
[23] PHASE 20 「星の中へ消ゆ」[menou](2011/02/07 21:15)
[24] PHASE 21 「少女達」[menou](2011/02/20 13:35)
[25] PHASE 22 「眠れない夜」[menou](2011/03/02 21:29)
[26] PHASE 23 「智将ハルバートン」[menou](2011/04/10 12:16)
[27] PHASE 24 「地球へ」[menou](2011/04/10 10:39)
[28] PHASE 25 「追いかけてきた影」[menou](2011/04/24 19:21)
[29] PHASE 26 「台風一過」[menou](2011/05/08 17:13)
[30] PHASE 27 「少年達の眼差し」[menou](2011/05/22 00:51)
[31] PHASE 28 「戦いの絆」[menou](2011/06/04 01:48)
[32] PHASE 29 「SEED」[menou](2011/06/18 15:13)
[33] PHASE 30 「明けの砂漠」[menou](2011/06/18 14:37)
[34] PHASE 31 「リナの困惑」[menou](2011/06/26 14:34)
[35] PHASE 32 「炎の後で」[menou](2011/07/04 19:45)
[36] PHASE 33 「虎の住処」[menou](2011/07/17 15:56)
[37] PHASE 34 「コーディネイト」[menou](2011/08/02 11:52)
[38] PHASE 35 「戦いへの意志」[menou](2011/08/19 00:55)
[39] PHASE 36 「前門の虎」[menou](2011/10/20 22:13)
[40] PHASE 37 「焦熱回廊」[menou](2011/10/20 22:43)
[41] PHASE 38 「砂塵の果て」[menou](2011/11/07 21:12)
[42] PHASE 39 「砂の墓標を踏み」[menou](2011/12/16 13:33)
[43] PHASE 40 「君達の明日のために」[menou](2012/01/11 14:11)
[44] PHASE 41 「ビクトリアに舞い降りて」[menou](2012/02/17 12:35)
[45] PHASE 42 「リナとライザ」[menou](2012/01/31 18:32)
[46] PHASE 43 「駆け抜ける嵐」[menou](2012/03/05 16:38)
[47] PHASE 44 「キラに向ける銃口」[menou](2012/06/04 17:22)
[48] PHASE 45 「友は誰のために」[menou](2012/07/12 19:51)
[49] PHASE 46 「二人の青春」[menou](2012/08/02 16:07)
[50] PHASE 47 「もう一人のSEED」[menou](2012/09/18 18:21)
[51] PHASE 48 「献身と代償」[menou](2012/10/13 23:17)
[52] PHASE 49 「闇の中のビクトリア」[menou](2012/10/14 02:23)
[55] PHASE 50 「クロス・サイン」[menou](2012/12/26 22:13)
[56] PHASE 51 「ホスティリティ」[menou](2012/12/26 21:54)
[57] 【投稿中止のお知らせ】[menou](2013/01/22 20:02)
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[24869] PHASE 18 「モビル・スーツ」
Name: menou◆6932945b ID:bead9296 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/01/22 01:14
無重力帯というものは厄介だ。
物体が重力に引かれて下に落ちることがない、というのは便利に繋がることもあるが、相応の不便も付きまとう。
身体能力が低い者は無重力に翻弄されて宙で暴れるだけになるし、飛翔物体は驚異的な破壊力を持って人体や機器を破壊する。宇宙空間の真空状態はそれらの最たるものだ。
そして訓練された軍人にとっても、無重力は重要なものを磨耗していく危険を孕んでいる。そう、筋肉だ。
アークエンジェル他、おおよその宇宙戦闘艦には重力区画というものが存在しない。よって、地上の二倍ほどの運動をこなさなければ、全身の筋肉は想像以上のスピードで衰えていく。
それは、生まれながらにしてチートボディを持つリナにも言えることだった。
リナの身体は決して無敵ではない。普通の人間のようにお腹が空くし喉も渇き、食べ過ぎれば肥満になり、食べなければ飢えるし病も招く。
そして運動しなければ、その筋肉も細くなりリナの優位性は失われる。それは本人が最も恐れている事態だ。だから彼女も軍規に関わらず運動は欠かさない。

「はっ、はっ、はっ…」

艦内の回廊を、他のクルーと共にランニングをするリナ。運動用のマグネットつきのシューズを履いて走りこんでいる。
白いゆったりとしたランニングシャツを着て、綿生地の薄い水色のホットパンツを穿く軽装のもの。艦内は常に20度程度に設定されているため、薄着でなければかなり暑い。
リナは疲弊しにくい身体を持っているので、他のクルーよりも多く足を動かして走らないと疲れてくれない。
しかし、他のクルーより速く走ると……この狭い艦内だ。前の追い抜こうとすると衝突などの危険があるため、常に同じ背中を見ながら走らなければいけない。
自慢の長い黒髪を三つ編みにして、尻尾みたいに揺らしながら艦内を駆けていく。

時間は朝の0615時。
朝といっても、小さな窓の外を見ても夜みたいに黒い宇宙空間が広がっているだけで、太陽が昇ってくるわけでもない。
しかし、全ての宇宙に住む人間。プラントも連合もオーブも、全ての人間は地球の北半球の時間に合わせて生活している。
これは例え人種民族レベルで敵対していたとしても絶対変わらない、人類共通の普遍的なものだ。全人類の数字が0から9までと同じように。
それはともかく、朝の0615時だ。この15分前には全員目を覚まし、すぐに着替えて点呼がある。地球軍全体の規範であって、アークエンジェルもメイソンも変わらない。
そして今行っている体力練成の時間が始まる。およそ15分程度だ。
それぞれランニングやトレーニングマシンを使ったりするのだが、リナは走るほうを選んだ。機械に運動させられているような感覚が嫌だからだ。

「はっ、はっ、はっ。……」

息を切らせながら走っていたが、後ろからの視線に気づいてちらりと左後ろを振り返った。
後ろを走るのは、20代半ばほどの青年。階級は兵長だ。身丈が高く、リナの顔が彼のヘソに当たるほどの上背。
その男はリナにじっと見上げられて、のっぺらした印象の顔を、びく、と引きつらせた。

「ちゅ、中尉……どの、何か自分の顔についておりますか?」

上ずった声を挙げてキョドる男。リナはその顔立ちと篭った声に、内心引き気味になって口の端をひきつらせた。

「いや……その、兵長。ずっと、ボクを見てないか?」
「ハッ、中尉殿の後ろを、ずっと走っておりますので……中尉殿の背中しか見るものが、なくて」
「背中よりも……なんていうか、横から見られてる感じがしたんだけど……」

そうだ。この男はずっと左斜め後ろを、かなり至近距離を走っていたのだ。
それこそこの身長差だと、リナが速度を落とせば轢かれてしまいそうなほどに近く。今までシューズのかかとを踏まれなかったのが不思議なくらいだ。
なぜか男の視線は泳ぎっぱなしで、走っている熱とはまた別の汗をかいているような気がする。
しかも必要以上にどもる。何か隠している仕草のように見える。

「せ、僭越ながら……中尉殿の、き、気のせいだと思われます」
「……それはいいけど、近すぎると危険だから、もうちょっと離れて走ってくれないかな」

ちら、と前を見る。兵長が離れるのではなく自分が離れるという選択肢もあるのだけれど、自分の前を走っているのはホソカワ大尉だ。
彼はメイソンのクルーの中でもがっしりとした体つきをしていて、後ろの兵長よりも身丈も高く、その歩幅もあって自分よりも速い。
だから一番速い彼が先頭を走っている。リナはその次だ。基本的に足の速い順に並んで走るのが暗黙の了解になっている。
ホソカワ大尉は走るとき後ろに大きく足を振り上げる癖を持っているので、これ以上近づくと、草食動物を追いかける肉食動物のごとく蹴られてしまう。

「は……はぁ。ご命令であれば……」
「……よろしい」

彼はスピードを一時的に落として、すごすごと離れていく。その表情は何故か、すごくガッカリした表情だった。
一体なんなんだろう。リナは首をかしげながら、ホソカワ大尉の背中を見ながら走り続ける。後ろから響く、多くの足音。

(今日は妙にランニングするクルーが多いような……?)

疑問に思うが、あまり気にせずにランニングを続けるのだった。


- - - - - - -


(ばっか、兵長! お前近づきすぎるんだよ! 気づかれただろうが!)

兵長の背中をどつくのは、彼の上官の伍長だ。彼の背中に怒鳴るように語調を強めて、前を走るリナに聞こえないように囁く。

(す、すいません伍長殿……もうちょっとで、見えそうだったもので……)
(何が見えそうだったって!? 何が!?)

伍長の目が血走った。ふんす、ふんす。鼻息も荒い。兵長は問い質されてリナの「見えたもの」がフラッシュバック。鼻の下を伸ばし、表情を緩めた。

(あ、あの……シエル中尉の、ランニングシャツの脇から……膨らみかけの……が……)
(きっさまあああぁぁぁぁ……!! 見たのか! 見えたのか!? しかも気づかれなかったか!?
我々同志によって組織した「シエル中尉の桜色を観測し隊」が結成されて早や二日で、もう解散の危機に追い込む気か!? 軍法会議ものだぞ!)
(か、会議にかけられてもいいですぅ……あの青い果実にツンと尖った、桜色の先っぽ……ぐあっ! ご、伍長殿!
コクピットブロックにエマージェンシー! 脚部過熱、歩行能力に障害が発生であります…!)
(あああああこんなところでか!! 立て、いや起つな! 衛生兵! 衛生へーい!)
(伍長、殿……! 自分に構わず、先に行ってください……! そして、恋人のアメリアに、愛していたとお伝えください!!)
(ていうかお前彼女居たの)

(なんか後ろがうるさい……)

なんか後ろが、ボソボソとやたらと私語をしまくっている。何を言っているのかわからないが、ちらと振り返ると、
アークエンジェルとメイソンのクルーがなにやら仲良さげ(少なくともリナにはそう見えた)に会話に花を咲かせている。
さっき話していた兵長が、前かがみになってひょこひょこと老いた山羊のように走っている。なんで走ってる間に男の生理現象が発生したんだろう。

(エロ会話でもしてたのかなぁ……修学旅行か。でも、仲が良いなぁ)

今まで両艦のクルーはあまり個人的な交流が無かったように見えたから、多少の私語は目をつぶることにする。
それにしても、最近は男と個人的な会話をしていない。アークエンジェルに乗る前は一番話したいと思っていたキラは学生達と仲良く会話を弾ませている。
コミュニケーションがとりやすい食事の時間も、士官食堂と一般食堂で離れている。リナ自身は一般食堂でもいいと思っているが、他の士官との仲をおざなりにするわけにはいかない。
キラとまともに顔を合わせるときといったら、格納庫とシミュレーター室くらいしかない。一番話しているといえばムウか。同じ職業軍人で士官で、MA乗りだから話が合う。

(同じ学生同士のほうが気が合うのかなぁ……って、まだあんまり話してないうちに何考えてんだか)

何の心配もいらない超人に対して、何を思うところがあるというのか。それよりも、自分を鍛えることに集中しないと。
自分の思いに苦笑して彼のことを考えないようにして、ランニングに集中することにした。



- - - - - - -


「ふー……」

朝の体力練成の時間が終わり、一息つきながら女性士官用の更衣室に入る。アークエンジェルに勤めている女性士官は、平均的な戦闘艦に比べて割と居る。
マリュー・ラミアス副長。ナタル・バジルール少尉。ミリアリア・ハウ二等兵。あとはメイソンのクルーに三名いるが、今は省略する。
ロッカーは30ほどあるが、使われているのは6つだけ。自分の場合は大して量があるわけでもないけど2つ使ってる。単に広々と使いたいからという理由で。
そのうちの一つ(私服用)の前に立つと服を脱いでからタオルと替えの下着を引っ張り出し、シャワールームへと歩いた。
12歳児のようなすんなりとした身体。乳房はようやく膨らむ兆しを見せるけれど、まだまだ女性の凹凸に欠ける。
それが自分にとって大いに不満で、鏡に映った自分からつーんと目を逸らしてシャワールームに向かう。

「ふんふんふーん♪ ……ふん?」

鼻歌を口ずさみながらシャワールームに入ると、先客の音がする。誰だ。中を覗き込むと、仕切りのドアの上からウェーブがかった長い栗色の髪が見えた。
あの頭は……

「ラミアス大尉?」
「あら、シエル中尉。ランニングは終わったの?」
「はい、つい先ほど。……」

マリュー・ラミアス大尉だ。しっとりとした声は特徴がある。髪と同じ栗色の瞳を流し目でこちらに向けてくる。それが大人の色香を思わせる。
自分には望むことができないその肢体と仕草。とても3歳差とは思えない体格差。35cmもの差は、メビウスとジンの差をも軽く凌駕する。
ましてこちらの絶壁。いや、絶壁は言いすぎだ。膨らんでいるのだ。ただそれが……び、

「シエル中尉……? どうしたの、自分の身体を見下ろして絶望的なカオをして」
「誰が絶壁かっっ!! あっ……し、失礼しました」
「そんなこと言ってないじゃないの……」

『絶~』という言葉に過剰反応するリナに、マリューはいよいよリナが不憫になってきた。

「大丈夫よ、シエル中尉は大器晩成なだけなんだから。今こんなに可愛いんだから、将来性あるわよ?」
「……一生、この身体ってことはないですよね?」
「それはある意味羨ましいけど……あ、い、いいえ、なんでもないわ……」

途端にリナの表情が消えて虚ろな瞳でこちらを見るので、慌てて訂正するマリュー。怖い。思わず目を逸らす。

「とりあえず、シャワーを浴びなさい。いつまでもそうしていたら、風邪を引くわよ?」
「そうですね……っくちゅ」

言ってるそばからくしゃみ。マリューの隣のシャワールームに入って、シャワーからお湯を吐き出させる。
全身をお湯が包み込み、汗や垢と一緒に流れていく。清涼な感触に、はぁ、と快感の吐息。
特に宇宙艦艇は完全に密閉された空間なので、汗臭いのは致命的だ。だから、持ち込んだスポンジで丹念に身体を洗う。
「?」 視線を感じて、隣を見た。マリューがいつの間にか、まるで母親のような優しい目つきでこっちを覗き込んでいる。

「ら、ラミアス大尉?」
「シエル中尉、綺麗な肌してるわね……23歳っていうのが信じられないわ」
「ボクも信じられないですよ。早く成長してほしいです」
「本当、なんでかしらね。私としては、軍人の水準を満たしているのなら問題は無いのだけれど」

同感だけれど、やっぱりこんなロリボディよりも、マリューのようなグラマラスなボディのほうが好きなんだけどな……と、残念な気持ちになる。
シャワールームの中で身体を拭いて、身体にタオルを巻いて出て行く。着替えの軍装はロッカーの中。
マリューも、先に入っていたのに同じタイミングで出てきた。同じく身体にタオルを巻いている。たとえ同性であっても、タオルで身体を隠すのはマナー。
ぺたぺたとロッカールームに向かって歩いていると、
ぺろん。

「…………」
「…………」

身体に巻いたバスタオルが落ちてしまう。気まずい。マリューは苦笑している。いかん、しっかり結んだはずなのに。もう一度バスタオルを巻く。
ぎゅ、ぎゅ。……よし。ぺたぺた。ぺろん。

「…………」
「…………」

……二、三歩ほど歩いたら落ちてしまう。
まさか……

「引っ掛かるところが……」
「…………!」

マリューがよそを向いて肩を震わせてる。笑ってやがる……。上官じゃなかったら文字通りの空中コンボを放ってるのに。

(おのれおっぱい。脂肪の塊め! 自分は余裕があるからそんなに笑っていられるんだ。お前だって12歳のときはぺったんだっただろう!
胸囲の差が戦力の決定的差ではないことを教えてやる! そのうち!)

……ということは言えないので、とりあえずマリューの死角に入り、いそいそと着替えてロッカールームを後にした。

体力練成が終われば短い朝礼があり、それから食事の時間。
士官食堂でそれぞれ食事を受け取って食べる。宇宙空間では汁物は食べられない(食べれてもリキッドチューブだ)のが不満だ。
リナはトレイを受け取り、順に食事を受け取っていく。いつもどおりの景色だ。最後に飲み物を受け取ると、ことん、とトレイに置かれたリキッドチューブ。

「……パインジュース?」

黄色い帯に素っ気無いパイナップルの字。まごうことなきパインジュースだ。リナが昴であったときからずっと好きだったジュース。
目を丸くする。まさか軍艦で、こんなマイノリティなジュースが出てくるとは思わなかった。自分のトレイにジュースを置いた給養員に振り返った。

「中尉、パインジュース好きですよね?」
「マドカ少尉!?」

愛想の良い20代前半くらいの、栗色の髪の青年。階級章は少尉になっている。メイソンの元クルーだ。
6年前。士官学校で自分が曹長だったとき、彼は伍長だった。二期後輩というわけだ。シミュレーターで彼と一緒に訓練したことがある。
ただそれだけで、その後は会話を交わしたこともなかった。ただ、自分を侮蔑したり差別しない、数少ない士官候補生だったということは記憶している。
だから、彼の名前は覚えていた。マドカ・リリック。女の子みたいな名前……と言ったらきっと、あのキレる十代並みに殴られるんだろうな。
名前を言った途端、彼の顔が嬉しそうに華やいだ。

「俺の名前覚えていてくれたんですねっ」
「君、生きてたんだな……」
「それはこっちの台詞ですよ。中尉はヘリオポリスで、てっきり死んだと思っていたんですから……」

あれはボクも死ぬかと思った。できれば思い出したくなかったけれど、苦笑して誤魔化す。

「運だけはあるからね。ところで、ボクの好物がパインジュースだってよく知ってたね?」

好物をもらえたことに表情を緩ませながら問いかけると、マドカはまるで青春真っ盛りの男子高校生のようにはにかんで、

「……士官学校で、わざわざ外に出かけてパインジュースを買ってくるのを見ましたから」
「え!? み、見られてたのか……」

それを聞いて、かぁ、と頬を染めて困り顔になるリナ。
戦闘艦でもそうだったように、士官学校にもパインジュースというマイノリティな飲み物は置いていない。
それを探すために食堂でキョロキョロして、からかわれたこともあったくらいだ。
あまりにパインジュースに飢えすぎて、士官学校で数少ない休日に街に出かけて、パインジュースの缶を箱買いしたのだ。
人通りの少ない旧校舎の渡り廊下を選んだつもりが、いつの間にか彼には見られていたようだ。

「俺が資材運搬の手伝っていたときに見ちゃったんですよ。
誰にも見られないように、わざわざ旧校舎を通って帰るなんて……そんなに飲みたかったんですか?」
「~~~しょ、食堂にパインジュースがなかったんだぁ!」

顔を真っ赤に染めて、甲高い声で怒鳴ってしまう。しかもこんなところで言うな! すっごい注目されてるじゃないか!
でもマドカはまるで悪意のない表情で、にっこりと極上の笑顔で笑いかけてくる。それがリナの恥ずかしさを余計に助長してくる。

「でも、アークエンジェルにあってよかったですね。これからは一日一本は出しますから、楽しみにしててくださいね」
「し、しししししし知らぁん!!」

彼の声と周囲の視線を振り切るように、涙声で食堂の奥のテーブルに引っ込んでしまうのだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


L5宙域を抜けて丸三日が経った。
この三日、ザフトの攻撃も無く平穏に過ぎ去っていた。L5宙域哨戒中隊以来、全く戦闘が無かったといっていい。
それでもクルー達はギリアム中佐の指揮のもと、常に臨戦状態で対空監視を行い、常に強烈な緊張感と戦っていた。
それでもギリアム中佐の警戒は杞憂に終わり、既にブリッジのメインモニターからでも地球が見えるまでに近づき、アラスカは目の前……かと思われた。

しかし、ザフトはアークエンジェルを見過ごすほど甘くは無かった。

「ストライクとゼロ、ジンタイプ4、シグータイプ1と交戦状態に入りました。敵MS部隊、方位150より更に接近! 
距離1800。ジンタイプ2、ならびにシグータイプ1!」
「両舷全速後進、敵部隊との相対速度を合わせろ! 対空防御急がせ!」
「1番から5番、ヘルダート、左右から迂回させるコースでプログラムセット。続けて10秒後にゴッドフリートを拡散照準で発射!」
「了解! ヘルダート、プログラムセット! Salvo!」

ブリッジでは敵部隊の更なる増援に騒ぎ立て、その応戦に忙殺される。アークエンジェルから次々と火線が延び、敵部隊の光点の中へと吸い込まれていく。
高い運動性を持ったジンやシグーに艦の砲撃が早々当たるものではないが、充分牽制になるし、上手く火器を集中させれば充分な威力を発揮する。
実際、最初にザフトの攻撃部隊が攻めてきたときに一機のジンを撃墜することに成功していた。忘れてはならないが、艦砲は一撃でMSを屠るだけの火力を持っているのだ。
それでもこの戦力の差に、次第にアークエンジェルは押されつつあった。
アークエンジェルの堅牢な装甲によって、落とされはしないもののダメージが蓄積し、白い艦は見る間に弾着によって灰色に染まっていく。

「第2、第4ブロック火災発生! サブブリッジ中破! 主機出力12%低下!」
「船務科、ダメコン急げ! 消火班は鎮火を急がせろ! 救護班は負傷者を医療ブロックに収容、急げよ!」
「回避運動はもっと引き付けていけ! 動きを読まれているぞ!」
「くっ……! やってます!」
「できていないから言っている! 沈みたいのか!」

ブリッジでは怒号が飛び交い、キラとムウはその数の差に疲弊しつつあった。
エールストライクで飛び出したキラはジンを立て続けに2機撃墜するも、残りのジンとシグーに攻撃を受けてたじろいでいる。
ムウも集中砲火を受けてガンポッドを一つ失う。舌打ちしてジンに反撃し、左腕を破壊するが重斬刀による反撃を受け、ギリギリで回避。

「くっそぉー! 数が多い! やっこさん本気だなぁ!」
「フラガ大尉! 大丈夫ですか!?」
「キラは自分の心配だけをしてな!」

苦戦を強いられる二人だが、声を掛け合い、お互いをカバーしあいながら数で優るジンやシグーを相手に互角以上に戦っていた。

〔ヤマト! フラガ大尉! アークエンジェルは攻撃を受けています! 戻って下さい!〕
「くそっ! また増援か! うおっ!」

ムウがアークエンジェルの危機にうめくが、そこへジンの76mm機銃で狙われて、慌てて回避する。
キラも複数機から同時に攻撃を受けながらも反撃でジンを撃墜するが、とてもアークエンジェルを応援にいける状態ではない。
一方艦内のリナはまたも船務科にまわされ、ダメコンに奔走している。消火活動のために、消火剤を散布する任務を負わされていた。
だぶだぶの防護服を強引に着て消火チューブを持って出火しているブロックに駆け込む。防護服ごしでも感じる熱気に顔を顰めながらも、消化剤噴射口を向けてバルブを捻る。

「くぉのー! 艦内で死ねるかー!」

防護服の中で雄叫びを挙げながら、迫り来る炎に消火剤をばらまく。士官学校では艦のダメコンの課業もあるため、消火活動は慣れたものだ。
もちろん本物の危機は初めてなため、多少テンパり気味ではある。それでも優秀な船務科達の活躍により、アークエンジェル内は延焼せずに済み、ダメージは最小限に抑えることができていた。
しかし自然発火でも不慮の事故でもない、この火災。敵はアークエンジェルに次々と弾丸を撃ち込み、火災ブロックは次々と増えていく。
MAで戦うよりもきつい。早く出撃したい……と、リナは切実に願いながら、噴出口のバルブを捻るのだった。

「更にジン2、来ます!」
「迎撃急げ! 今取り付いているMSにはイーゲルシュテルンで対抗しろ! ヘルダートを照準を新たな目標にセット!」
「了解……マーク!」

ブリッジでは船務科に負けないほどに忙しなく敵部隊への対応に追われていた。しかし、アークエンジェルの搭載火器とて無限ではないし必殺でもない。
次々と増えていく敵。しかし、ギリアムは顔に一つも絶望的な色は出さず、ただ今できる最善の戦術を次々と下していく。
それでも更なるダメ押しに、さすがのギリアムも撃沈を予感し、胸中に撃沈の予感が去来。諦めかけてしまう己を必死に抑え込んでいた。
そこへ――

「むっ!?」

横合いから、大量の火線が敵部隊に降り注ぎはじめた。幾条ものビームとミサイル。リニアガンらしき閃光も見える。
突然降り注いだ飽和攻撃に、いくつかのジンが火線に晒されて光の玉に封じ込められ、シグーもダメージを負って後退していく。
振って湧いた幸運。MS部隊は後退していき、戦闘の気配が去っていく。
ギリアムは望遠レンズでその火線の元を観測するよう指示すると…見えたのは、地球軍の艦隊と、メビウスの編隊。

「どこの艦隊だ……? 通信を開け」
「ハッ――あっ、艦長、味方艦らしき艦艇から先に通信が来ました」
「早いな……メインモニターに映せ」

命令の直後、後退していくMSの光点を映していたメインモニターが、壮年の男の顔へと切り替わる。

〔危ないところだったな。こちら第8艦隊所属、先遣隊旗艦モントゴメリィ。艦長のコープマンだ〕
「こちら第8艦隊所属、強襲特装艦アークエンジェル。私は第7機動艦隊のギリアム中佐であります」
〔おぉ、ギリアム中佐か……久しいな。まさかその艦の艦長になっているとは〕

ギリアムはメインモニターに映った彼の顔に敬礼し、互いに顔を綻ばせる。二人は所属艦隊は違えど、かつては艦隊戦戦術で競い合った仲であった。

「それで、コープマン大佐はどのような目的でこの宙域へ?」
「うむ。我が軍の最高機密が単艦でザフト制空圏内を飛ぶというのだから、飛び出してきたのだよ。手土産も持ってな」
「手土産、ですか」

またぞろ、格納庫で眠ってるMAのような、得体の知れない実験的なMAでも持ってきたのだろうか。
ギリアムやマリュー、ナタルが揃いも揃って怪訝そうな表情を浮かべたので、コープマンは苦笑して掌を仰いだ。

「おいおい、嬉しそうではないな? 諸君らの苦境を察して持ってきてやったというのに」
「前例がありましてな……失礼しました。では、手土産とはどのようなものなのでしょうか?」
「それは、接舷してからの楽しみにとっておけ。それではまた会おう、ギリアム中佐」
「ええ、また後ほど」

通信が切断された後、ギリアムはシートに深く腰を落として、ふぅと安堵の吐息。
なにやら怪しいものを持ってきたようだが、援軍が来てくれた。それが何よりだった。
今までは友軍からの支援が期待できず、まともな軍事行動ができない状態だったが、これでようやく、戦争らしい戦争ができるというものだ。
長く苦しい戦いの連続で、ギリアムは少し楽観的になっていた。


- - - - - - -


「援軍が来たんですか? 連合から?」
「ああ、ネルソン級一隻に、ドレイク級二隻。艦載機も満載だってよ。これでようやくまともな軍隊になってきたな」
「そうですね……今まで僕達だけで戦っていましたから」

リナにムウにキラ。お決まりの三人が思い思いの感想を口にしながら、リナとムウはミストラル。キラはストライクに乗りこんで、補給物資の搬入に取り掛かる。
初めは戦うことと、アークエンジェルの乗員以外の連合軍人を毛嫌いしていたキラだが、リナとムウと接することで克服しはじめているようで、二人と一緒に増援に安堵している。
戦闘発進ではないので、各々のタイミングで格納庫から発進。接舷し、補給物資が詰め込まれたコンテナを搬出するネルソンに取り付いていく。
普通に空間作業をするだけなら、三人とも慣れたもの。バケツリレーの要領で物資を運び込み、最後の、精密作業に向いているキラのストライクがきちんとコンテナを並べていく。

「結構な量ですね……あといくつあるんですか?」

いい加減ループ作業に飽きてきたリナは、溜息をつきながらモントゴメリィの作業員にうんざりとしながら問いかける。

〔こいつで最後だ! これがとびっきりの手土産だぞ!〕
「?」

作業員に疑問符を浮かべて、モントゴメリィからミストラルのスラスターを精一杯噴かして出てくるのを見届ける。
一体何を引っ張りだそうとしているのだろう。ミストラル2機がウィンチワイヤーを利用して牽引している。結構な重さのものを持ち出しているようだが。
やがて見えてくるのは、「頭」。そして肩。まさか。

「MS!?」

リナは驚きと喜びが混じった喝采を挙げた。




久しぶりの投稿どぁー。PHASE 18をお送りいたしました!
ここまで読んでいただきありがとうございましたー。
最近更新速度が遅くなってしまいました…。それでも読んでいただける皆さんには本当に感謝です。

私は仕事が始まりまして、またも微妙に更新速度が落ちるやもしれません。
それでも、それでも読んでほしい! どうかこれからもお付き合い下さい…(礼)

あんまり長いと、あとがきが本編かっ てことになるので、感想掲示板で続き書きますねっ
次回! 汚いなさすが親父汚い
それでは次回もよろしくお願いします! 失礼します(礼ー)


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