パピリオが世界樹に到着すると大勢の魔法使い達が待ち構えていた、高畑が警察官に捕まっている間に集結していたのだ。
魔法使い達が集結する時間が稼げたのだから高畑の逮捕も無駄ではなかった。
しかし本当なら世界樹に近づけさせたくなかった、だから高畑は町中でパピリオに接触したのだ。
魔法使いにとって町よりも世界樹の方が重要なのだ、
町が大事なら争いの種でもある世界樹の近くに学校や町を築いたりしない。
そして横島の作戦でもここが予定作戦地域だった、先ほどの高畑は予定外だった町中での戦闘は避けたかった。
つまりこの状況はパピリオも望んでいた状況なのである。
「大勢いまちゅね~、パピに何の用でちゅか」
「先ほどは高畑さんがお世話になったようですね、
では改めて聞きます、あなた達はいったい何者なんですか?目的は何なのです?」
葛葉 刀子が答える、刀子は京都神鳴流の剣士であり陰陽術師でもある、正確には魔法使いではない。
眼鏡をかけストレートロングの髪をした美女、ちなみに20代後半のバツ1である。
京都神鳴流とは、魔を討つ為に組織された剣術の流派である、巨大な野太刀を使用し気を操る。
「質問の多いオバちゃんでちゅね、パピはパピリオ、目的は世界樹の魔力を貰いにに来まちた。
オバちゃんは誰でちゅか?パピに何の用でちゅか?」
「オ、オバちゃん!!! 私は葛葉 刀子ここの警備員です、
そして、世界樹から魔力を奪うと言うのならそれを阻止しあなたを滅します、
それが嫌なら今すぐ真帆良から出て行きなさい!!」
「怖いオバちゃん出でちゅね~ 怒り過ぎると皺が増えまちゅよ。
魔力ぐらい分けてくれても良いじゃないでちゅか、独り占めは良くないでちゅよ魔力はみんなの物でちゅ」
「ここは関東魔法協会の管理する地、勝手な真似はさせません!!」
「そんなの知りまちぇん、そんな人間が勝手に決めた理屈は魔族のパピには関係ないでちゅ」
「やっぱりあなた悪魔だったのね、だったらなおさら魔力は渡せません!!」
「あんまり無理をしない方がいいでちゅよ、もう無理の出来ない歳なんでちゅから、
帰ってダンナ様や子供の相手をしてた方が良いでちゅよ」
「悪かったわね!!私は独身よ!!」
「え!その歳で?それは・・・ 寂しいでちゅね、ごめんなちゃい無神経な事言って。
でも大丈夫でちゅよ、きっと今にいい人が現れまちゅよ?」
「悪魔が憐みを掛けるな!! 疑問形で慰めるな!!」
「冗談でちゅよ、ギャグパートはこれで終了、今からはシリアスモードでいきまちゅよ、
それで誰が相手でちゅか?一度に全員で来ても良いでちゅよ手間も省けまちゅし」
刀子の触れて欲しくない所を刺激しまくるパピリオ、刀子のこめかみに血管が幾つも浮き出る。
パピリオは今まで抑えていた魔力を開放して戦闘態勢に移行する。
その力に刀子は少し気押される、今まで対峙してきた敵の中でも文字通り桁外れの力を感じる。
「この人数に強気な発言ですね、ではその様にさせて頂きます、斬魔剣!!」
刀子は気丈にそう答えると一瞬で距離を詰めいきなり奥義を使用する、やはり激怒していた様だ。
それと同時にパピリオを囲むように移動していた魔法使い達も攻撃を開始する。
そして何百何千の攻撃魔法がパピリオに襲いかかる、辺りは轟音と土煙りで何も見えない、誰かが攻撃中止を命令し攻撃が止む。
魔法使い達はこれで終わったと思った、それほどまでに熾烈を極める攻撃だった。
「戦術的にみて少数を倒すには、退路を断ち集中砲火を浴びせた方が確実な戦果をあげらまちゅ。
この場合、包囲、殲滅という作戦をとった敵の司令官の判断は正しい。
ちかち・・・
こちらの戦力を把握する前に行動を起こすべきではなかったでちゅ」
攻撃が止み土煙りが晴れ無傷のパピリオが現れる、DVDで見たアニメの影響だろうかピエロなテロリストのセリフを言う。
魔法使い達はオーバーキルと思えたほどの攻撃に傷一つ付いて無い敵に愕然とする。
無傷なのは理由がある、予め文珠を装備していたのだそれも二文字入れられる双文珠【守/護】を持っていた。
【文珠】とは霊力をビー玉程度の大きさに凝縮したもので、漢字の念を込めることで様々な効果を起こす。
パピリオは普段から【守/護】と【反/射】の文珠をお守り袋に入れて持ち歩いている、
今回はある理由で【守/護】の文珠だけを装備していた。
もっともパピリオクラスの魔族だと素の状態でも無傷なのだが、今回は未知の魔法に対する保険として文珠を装備した。
「こんなものでちゅか?本気を出しなちゃい、でないと死にまちゅよ。
まずは倍プッシュでちゅ」
そしてパピリオは両手から無数の魔力弾を放つ、その数は先ほどの魔法使い達の攻撃以上だ。
魔法使い達は予想以上の力を持つ敵に対して焦り碌に連携も取れずに反撃する、中には恐慌状態の者もいる。
麻帆良の魔法使い達で大規模な集団戦の経験がある者は少ない、麻帆良内での警備では2,3人でチームを組むのが通常だ。
◆
「始まったみたいだな、こちらも行動開始だ」
「予定より時間は少し遅れているわね、パピリオったらやり過ぎなんだもの・・・
あの男の人は大丈夫かしら」
世界樹広場でパピリオと魔法使い達との戦いが始まった頃、眷属を通してその様子を確認した横島とルシオラは行動を開始する。
ルシオラが言っているのは高畑の事、
おそらく関東魔法協会の影響力は麻帆良の警察にも及ぶ、裏から手をまわして釈放されるだろ。
しかし一般人の目撃者がいれば噂となり社会的には死んだも同然だ。
二人は目的地に向かって歩いていた、周りは木々で覆われており少し寂しげな雰囲気だ。
横島はいつものGジャン・Gパンではなくスーツを着ている、バンダナも外し髪をオールバックにしている、
ルシオラも珍しくパンツスーツだ、もしもの戦闘を考えスカートではなくパンツを選択している。
そしてあるログハウスの前に着くとチャイムを鳴らす、
中からライムグリーンの髪をしたメイド服を着た無表情な少女が出てきた、
明らかに人間では無い耳に当たる部分からセンサーらしきい物が生えている。
「どちら様でしょうか?」
「夜分遅くに申し訳ありません、
私は横島心霊事務所の所長でGSの横島忠夫と申します、こちらは除霊助手のルシオラです。
ピエトロ・ド・ブラドー氏の依頼で伺わせて頂きました、
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル様は御在宅でしょうか?
これをマクダウェル様にお渡しくださいブラドー氏からの手紙です」
「少々お待ちください、今マスターに確認してまいります。」
メイド少女は手紙を受け取り主人にお伺いを立てに行く、
少しするとメイド少女が戻ってきた。
「お待たせしました、マスターが話を聞くそうです、どうぞお入り下さい」
「失礼します」
昔の横島を知る者がこの横島を見れば偽物だと思うだろう、
これは独立の為に習得した言葉使いだ、スーツも仕事で人前に出る時は必ず着用する。
若い横島が少しでもクライアントに信用される為にこのスタイルになった。
若手GSナンバー1と業界内では有名だが一般人であるクライアントには見た目も大事なのだ。
そして横島はリビングに通されると改めて挨拶をする、彼女については一通りピートに話を聞いている。
「初めまして、私は横島心霊事務所の所長でGSの横島忠夫と申します、こちらは除霊助手のルシオラです。
ピエトロ・ド・ブラドー氏の依頼で伺わせて頂きました」
「私がエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ。
まさか麻帆良で今一番警戒されている者が其方からやって来るとはな。
手紙は読んだしかし信用出来んな、
古い知り合いの名が出たので会ってやったが私を退治しに来たGSかもしれんからな」
「でしょうね、では今からブラドー氏に連絡します、直接お話し下さい」
「通信鬼」
横島がそう言うとルシオラは何処からともなく蝙蝠の羽根の生えた小さな魔物を呼び出し横島に渡す。
通信鬼とは神魔がよく使う携帯電話のようなモノだ。
「もしもしピートか?彼女は無事だ、
今のところ予定通りだ、そうだ、いま彼女と会ってる目の前にいるよ、
彼女と変わるからピートからも説明してくれ、じゃあ変わるぞ」
少し会話をすると通信鬼をエヴァンジェリンにさしだす、
エヴァンジェリンはいきなり変なモノを渡されて少し迷ったが受け取った。
ピエトロ・ド・ブラドーはヴァンパイアハーフでありGSでもある、外見は10代後半の美男子だが年齢は700歳を越える。
優しい性格で正義感が強く生真面目、神聖な力と吸血鬼の能力を同時に操ることができる。
現在はICPOの超常犯罪課、通称『オカルトGメン』に就職している。
「もしもしエヴァンジェリンさんですか?お久しぶりですピートです」
「ピート、本物だろうな?」
「本人ですよ、エヴァンジェリンさんと初めて会った時の事でも話しましょうか?
あれは確か・・・・・・」
ピートは淡々と当時の話を始める、どれも本人でなければ知らない事ばかりだ、
エヴァンジェリンも質問をしながら確認していく。
「確かに本人だな、ところでこの手紙はどういうつもりだ?」
「その内容通りです、時間が無いので手短に言います僕が彼らに依頼しました、
そこに居る人たちは僕の親友で信頼できます、必ずエヴァンジェリンさんの力になってくれます」
「ほほう、貴様がそこまで言うのなら話ぐらいは聞いてやる、
しかし最終的にどうするかは私が決めるぞ」
そう言うと通信鬼をルシオラに返す、
この会話に通信鬼を使ったのは携帯電話では盗聴の可能性がある為、
依頼人であるピートを知られる訳にはいかない、ピートには事前に通信鬼を渡しておいた。
まずは信用を得られたようでエヴァンジェリンから警戒の色が薄れる。
「茶々丸、茶だ」
「かしこまりました」
エヴァンジェリンは横島達の後ろで警戒していたメイド少女にお茶を用意させる。
ライムグリーンの髪をしたメイド少女は絡繰茶々丸といいエヴァンジェリンのメイド兼『魔法使いの従者』であり、
魔法と科学を融合させたガイノイドタイプのアンドロイドである。
「話を聞こうかGS横島忠夫」
「改めて説明させて頂きます、私たちはピエトロ・ド・ブラドー氏の依頼で参りました、
依頼内容は貴女の救出です」