横島とルシオラは世界樹に向かって歩いていた、世界樹周辺を観察するように歩いていた。
予定通り監視の気配も着かず離れずつい来ている、
横島達が観察するように歩くのは目的を世界樹と思わせる為の欺瞞行動である。
敵に誤情報を与え此方の情報は見せない、既に戦いは始まっている。
(ねえヨコシマ)
(ああ、わかってるしかし動くのが早いな)
此方を探っていた気配が近づいて来るのを感じた、横島とルシオラはテレパシーで会話する。
「ちょっといいかい?君たちはどこの高校かな?」
高畑は学校をさぼる学生を補導するふりをして話掛ける事にした。
二人は高校生に見えない事もない、これは話掛ける口実であり極端に不自然でなければよいのだ。
「いや俺たちは高校生じゃないんだけど、えっと・・・あなたは?」
横島もとぼけて聞き返す、目の前の人間が関東魔法協会の関係者であり、動きと気配でかなりの実力者だと解る。
彼はいわゆる秘密組織しかもオカルトグループの構成員である、合わせて言えば『秘密オカルト組織の構成員』だ、
怪しい事この上ない、仕事でなければ近づきたくないと思っている。
横島達が知っている関東魔法協会の情報は組織名と本拠地、魔法を主に使う事と世界樹と図書館島が重要施設である事ぐらいだ。
構成員数、目的、組織規模、トップの名前すら解っていない非公開組織が今回の相手なのだ。
「そうなのかい?僕は高畑・T・タカミチ麻帆良女子中学校の教師だよ学園広域指導員も兼ねている、まあ補導員みたいなものだよ。
高校生じゃないのなら身分証を・・・」
「じょ女子中学校だと!!!」
「そうだけど、それがどうかしたのいかい?」
「こんな親父が女子中学生に囲まれてるだとォっ!!」
「いや、あのね君」
「こんな所にも富の偏在が!!
可愛い生徒に『先生! 好きなんです』とか告白されたり!!
そんでもって『放課後に残って特別補修だ』とか言って青い果実を頂いたり!!
このロリコンめ!!!!
神は死んだー!! モテる男は許すまじ!
かくなるうえは俺が直々に天罰を・・・・・・は!! 」
横島は背後で突然黒いオーラが立ち上がり我に返る、
今まで対峙したどの魔族や悪霊もぬるま湯に思えるほどの恐ろしいプレッシャー。
横島はおそるおそる振り返り後ろを確認する、気配の元は当然ルシオラだ。
「それは私じゃ不満って事なの!? さっきもホテルで『愛してるよ』って言って可愛がってくれたのに!
あれは嘘だったの?! 本当はロリコンだったの!!」
「違うんだ!! さっきのは世の不条理に少し憤っただけで俺が愛しているのはお前だけだ。
それに俺は決してロリコンじゃない!!」
「本当? 信じていいのね?」
「信じてくれ、また昔の癖が出ちまっただけだ」
「だったら愛してるって言って」
「愛してるよ、世界で一番誰よりも」
「ふふふ、許してあげる」
「ごめんな不安にさせて」
「あ~ 君達もう良いかい?」
「す、すみません。
で?何でしたっけ」
「高校生じゃないのなら身分証があれば見せて欲しいんだけど、
あと名前も教えてくれるかな? これも仕事でね」
なにやら二人だけの世界に入って行きそうだったので高畑はとりあえず声を掛けた。
事前に聞いていた情報とイメージは違うが油断はしない、
話を元に戻し二人から情報を聞き出そうと改めて身分証の提示を求める。
「俺は高島忠介で彼女は高島蛍、身分証は今は持ってないっすね」
「困ったな、それなら電話して身分が確認出来る所は無いかな? 仕事先や家で確認が出来ればいいんだが」
「ごめんなさい最近は個人情報の管理はしっかりしないとだめから気軽には教えられないわ。
高畑さんの身分証を見せてくれたら教えますけど?」
「ぼっ僕かい? 初めてだね反対に身分証の提示を求められたのは」
(まさか逆に身分を聞かれるとは思わなかった、しかも言っているのは尤もな事だ無視できない。
名前は既に名乗っている、学園広域指導員としてここで偽名は名乗れない。
彼らにこの場で名前や身分の真偽は確認できない、僕を不審者と判断したのかもしれない。
なら見せるか? ここで身分証を見せてもそれだけで魔法関係者だとバレる事はない、
しかし既に魔法関係者だとバレていた場合を考えれば名前は確認させない方が良い。
だがこの話の流れで見せないのは不自然・・・ならば)
「すまないね僕も持ってないんだよ、さっき言ったみたいに今まで身分証の提示を求められた事がなかったものでね」
「名刺でもいいですよ?」
「そ、それも持ってないんだ」
「困ったわね」
「それじゃしかたないっすね、ここに連絡してみて下さい」
横島は紙に電話番号を書いて高畑に渡す。
高畑もようやく手に入れた手がかりに内心安堵のため息をつく。
「教えてくれるのかい? 助かるよ」
「麻帆良ホテルの電話番号です、連絡してみてください×××号室の高島で確認出来るハズです。
高畑さん良い人そうだしこれぐらい教えても大丈夫でしょ。
麻帆良の高校生が麻帆良のホテルに部屋なんてとらないですからね、高校生じゃないとわかれば問題ないでしょ?」
「あ、ありがとう確認してみるよ」
(それは知ってるんだよ!)
知ってはいるが目の前で電話して確認をとる高畑、話の流れ上しない訳にはいかない。
横島も馬鹿ではない、目の前の男が自分達の情報を手に入れようと接触してきたのは解っていた、
解った上でおちょくっているのだ。
横島忠夫は二枚目をギャグキャラに引きずりおろしてコケにするのが大好きなのだ。
「確認出来たよ、ありがとう。
ところで高島君たちは麻帆良へは何をしに?」
「観光ですよ、ここには世界一の図書館と世界一高い木がありますからね
街並みも外国みたいで綺麗だし蛍も楽しんでますよ」
「そうかい、さっきのお詫びに案内しようか?」
「それは悪いっすよ、高畑さんも仕事があるだろうし。
世界樹へ行くつもりなんですけどあのデッカイ木は何処かでも見えるから迷わないですよ地図もありますしね」
「そうかい? 悪かったね時間をとってもらって、それじゃ失礼するよ」
高畑は有益な情報を得られなかったが退散する事にした、
これ以上しつこく絡めば不自然になり本当に不審者になってしまう。
話を切り上げ学園長へ報告に戻るしかなかった。
(ルシオラ)
(まかせて)
横島はルシオラに合図して眷属に高畑を追わせて監視させる。
会う人間を辿って行けば組織の情報伝達ルートが解る、うまくいけば関東魔法協会のトップが解るかもしれない。
現在の処は横島達の作戦通りに事は進んでいる。
◆
「以上が直接会ってみて得られた情報です、有益な情報は得られませんでした。
これは勘なのですが彼等は裏の人間じゃ無いですね、裏の人間特有の薄暗さがありません、
しかし隙を見せないある種の緊張感がありました、おそらく彼等は・・・」
「ふぉふぉふぉ、正解じゃ彼等は霊能者」
高畑は学園長室へ戻ってきて近右衛門に報告をする、
精神的に疲れ、こころなしか眼の下にクマの様なものも見える。
接触したが有益な情報は得られなかったがそこへ自分の所見を報告にいれようとする、
しかし近右衛門の先読みした言葉に遮られる。
「なにか解りましたか?」
「留守の間にホテルの部屋を直接確認させてもらった、鞄には除霊具、壁には結界札が貼っておったそうじゃ。
お札のせいで部屋での様子は魔法では確認できんようじゃが。
明石君に情報を霊能者に絞って調べてもらっておる、すぐに正体は判明するじゃろ」
「霊能者・・・GSだったら厄介ですね。
GSはオカルト関係者だか表の人間です、GSに何かあるとオカルトGメンとGS協会が出てきます。
Gメンと協会の上層部とは暗黙の了解もあるが現場の人間にはない、公式に記録に残るとまずいですよ」
「いっそモグリのGSだったら闇から闇へなんじゃがのう」
「堂々と危ない事を言わないでください!それで今後の対応はどうするんです?」
「今の処は敵対行動もしておらんから実力行使も不可能じゃ、正体が完全に判明するまでは監視するしかないじゃろ。
彼らの目的もわかっておらんしな」
「しかし疑問もあります、彼らからは霊力が感知されていません。
感知されていればもっと早い段階で霊能者だと確認出来ていました。
彼等は囮で主力が他に居るのかもしれませんね」
霊力が感知されないのは横島達が力を抑え更に偽装している為である、
ワルキューレが春桐魔奈美と名乗り美神令子に接触した時に使っていた偽装術である。
一流の霊能者に通用した偽装術はあらゆる観測方法を用いても一般人としか判別されない。
魔族が人界で無用のトラブルを避け平穏に暮らすには便利な方法なのでワルキューレに教えてもらっていた。
対価として【文珠】を10個もっていかれたが・・・
「おそらく霊力は偽装術もしくは霊具によるものじゃろう。
囮は確かに考えられるの、他に不審者は確認出来ておるのかの?」
「いえ、今のところ麻帆良内では確認出来ていません」
「ふむ・・・」
コンコン
「学園長失礼します、例の二人のうち男性の方の身元が確認出来ました。
霊能者に情報を絞って調べたところ該当者がいました」
明石教授は学園長室に入り近右衛門に報告を始める。
「顔写真と身体的特徴がGS協会の免許取得者とデータが一致しました、
男性は横島心霊事務所の所長で横島忠夫です年齢19歳、
元美神令子除霊事務所所属、17歳で免許を取得、17歳の終わりに退社、19歳で事務所を立ち上げています。
しかし女性の方のデータはありませんでした」
「ふむ・・・やはりGSか、しかし若いの19歳で独立か、ならばかなり腕が立つと考えた方がよいの」
「さらにGS協会の深い部分のデータを探っています、他のデータでも『横島忠夫』で再照会を掛けています、報告は以上です」
「御苦労じゃった、何か解れば速やかに報告を頼む、下がってよいぞ」
明石教授が退室すると高畑は近右衛門に話しかける。
「GSでしたね、目的はなんでしょう?」
「情報が少ないの・・・何か目的があって麻帆良に来たことは確かじゃ、でなければ除霊具や結界札は必要ないからの~
しかし未だ具体的な動きを見せんし目的も伺えん、
これは相手の術中にハマっておるのやもしれん、後手にまわっておる気がする。
ここは奴に動いてもらって流れを変えようかの」
「もしかして彼ですか?
あの彼が此方の指示どうり動いてくれますかね」
「大丈夫じゃろ『目的不明の不審なGSと正体不明の謎の女』と言えば嬉々として動いてくれるじゃろ、
それに奴なら戦闘になっても大丈夫じゃろうて」
「彼は大丈夫でしょう彼は、しかしその周りの被害や騒動は誰が納めるんです?」
「タカミチ君よろしく頼むぞい」
(このジジィ!!)
今までに近右衛門が騒動を起こし高畑にしわ寄せが来た事は一度や二度ではない。
高畑は考える、転職と目の前の年寄の始末を心に天秤に掛ける。
考え抜いた末に何をしても無駄だと答えが出る。
そんな彼は麻帆良のトラブルシューターであり魔法界のトラブルシューターでもある、厄介事は彼に集まる。