「ネギ君が消息不明になりました!!魔法で追跡していましたがエヴァンジェリンのログハウス手前で音信途絶、
現在の所在が掴めません生死も不明です」
「何じゃと?!ネギ君が行方不明じゃと?!」
「非戦闘要員でも良い、誰かに確認に行ってもらってくれ所在の確認だけでよい、戦闘は避けるように」
近右衛門は指示を出すと明石教授はすぐさま学園長室を出ていく、
『英雄の息子』を預かる責任者として最優先事項はネギの身の安全だった。
『新たなる英雄誕生』のシナリオを書いたのは近右衛門だ、しかしそれは魔法界上層部の意向を受けて近右衛門が書いたもの。
それゆえの非戦闘要員まで動員してのネギ捜索だった。
明石教授が学園長室を出てると同時に翠の光が学園長室を満たす、
その光が止むとそこには4人の人影、横島とルシオラとエヴァンジェリンと茶々丸が現れる。
「挨拶に来てやったぞ近衛 近右衛門」
「初めましてだな関東魔法協会の爺さん」
「エヴァンジェリンと横島忠夫か、まさかそちらからやって来るとはの。
いろいろ聞きたい事はあるがまずはネギ君を何処にやったのか聞かせてもらおうかの」
近右衛門は突然の事態にも歴戦の魔法使いらしく素早く無詠唱魔法で拘束しようとする、しかし魔法が発動しない。
自分の中に魔力は感じる、だが拘束魔法、真実看破の魔法、攻撃魔法あらゆる魔法を行おうとするが発動しない。
近右衛門はこの様な事態は初めてだった、魔法が相手に効かない事ならば何度もあった、
しかし発動すらしない様な事態は初めてだった。
「・・・!!」
「挨拶も無しにイキナリかよ、でも無駄だよ爺さん魔法は使えないよ。
それに心配しなくてもネギとアスナちゃんはログハウスで寝てもらっているよ」
「魔法が使えんとは面白い話じゃ、いったい何をしたんじゃ教えてくれんかのう」
「それは企業秘密だ、タダでは教えられないな」
横島は近右衛門の状況を感じ取り魔法が使えないと警告する。
学園長室に来る前、横島がエヴァンジェリンの解呪をした時に『魔法は少しの間使えないからな注意してくれ』
と言っていたのはこの文珠【魔】【法】【使】【用】【不】【能】の効果の為だ。
横島も文殊がちゃんと効果を発揮している状況に安堵していた、
よく解らない魔法に対しては文殊といえどもその効果は保証の限りではない。
近右衛門もポーカーフェイスで秘密を聞き出そうとする、
敵の前で魔法使いが魔法を使えないという最悪の状況で冷静さを失わないのはさすが関東魔法協会の長である。
「・・・いったい何の用でここに来たのじゃ」
「爺さん、エヴァちゃんは麻帆良を出ていく」
「ほう、それは困ったのうエヴァンジェリンには麻帆良への侵入者の監視をして貰っていたんじゃが、
居なくなると監視に穴があいてしまうの」
「何も問題なかろう、『新たなる英雄』ネギ・スプリングフィールドが居るではないか、
私に勝ったんだ英雄ならばそのぐらい楽にこなしてくれるだろう」
「・・・ネギ君には無理じゃ、先の戦いもエヴァンジェリンが最初から本気なら勝てなかったじゃろう、
死んでは血が手に入らんから手加減しておったんじゃろ。
それにおぬしは女や子供を殺さないのが『悪の魔法使い』としての矜持と言っておったではないか」
「フン、当然だ。
しかし言い訳はしないさ私はボーヤに負けた、それが事実だ」
「爺さん、何故ネギをエヴァちゃんと戦わせるように仕向けた?
それにアスナちゃんは関係ないだろ二人とも子供だぞ、闘っているんだ怪我じゃすまない場合もある」
「我々には英雄が必要なんじゃ、しかし今のネギ君では実力不足、そこでエヴァンジェリンには乗り越えるべき試練になって貰ったのじゃ。
アスナ君の事は偶然じゃったがネギ君にパートナーの大切さを知ってもらうために黙認しておった、
ネギ君にはパートナーが必要じゃった」
「神楽坂明日菜はネギ・スプリングフィールドの、いや『新たなる英雄』の為の犠牲か、
やはり全てジジィの手の上だった訳だ『立派な魔法使い』が聞いて呆れるな」
「でも何故ネギなんだ? すごい潜在能力を持つ孫がこの学園に居るってエヴァちゃんに聞いたぞ」
「孫は西の長でもある父親の方針で魔法と係わらせずに育てておる、
孫には裏には関わらずに生きて欲しい、それはワシの願いでもある」
「勝手だな、ネギには試練を孫には平穏をか、爺さんちょっと我儘が過ぎるぞ。
もしそんな理由でアスナちゃんが怪我でもしてたら爺さんを・・・いや関東魔法協会をぶっ潰してたところだ」
「言い訳はせんよ、しかし魔法界にはどうしても必要な事じゃった」
「ふ~んだとさ、ネギ、アスナちゃん」
そう言うと横島は指をパチンと鳴らす、するとネギと明日菜が学園長室に突然現れる、
二人は初めから横島達4人と一緒に学園長室に来ていたのだが横島が文珠で【隠】して姿が見えないようにしていたのだ。
「そういう事だったんですね学園長先生」
「酷い!!学園長」
「・・・ネギ君アスナ君」
「解ったか二人とも、戦いなんてものは綺麗事じゃない。
爺さんは魔法界の為にネギを英雄に仕立てアスナちゃんを犠牲にしようとした、
その魔法界はエヴァちゃんに賞金まで掛けて殺そうとした、何も悪いことなんかしていない吸血鬼って理由だけでだ。
二人とも自分の意思で戦ったと言ったがこの事を知っていたらエヴちゃんと戦えていたか?」
「それは・・・」
「そんなの戦える訳ないじゃない!!」
「まあ、ネギも自分が殺されると思って戦ったんだろうけどな、
でもアスナちゃんにもしもの事があったら如何するつもりだったんだ?
共に戦うってのは仲間の命を預かるって事でもある。
ネギは先生でもまだ子供だ迷ったり悩んだりしたら来い、相談ぐらいには乗ってやる。
アスナちゃんも困った事があったら連絡してくれ将来の美女への先行投資だ、いつでも力になるよ」
横島はネギと明日菜に名刺を渡す。
横島が二人に近右衛門とのやり取りを見せたのは戦いの汚さを教えておきたかったからだ。
かつて横島も味方に捨て駒にされ殺されかけた、
仲間を裏切る行為を肯定するつもりはないが現実そういった戦いを行う者もいる。
横島は二人に他人の都合なんかで死んでほしくなかった。
そして二人の子供を自分達の都合で利用しようとする関東魔法協会の思惑、いや陰謀と言ってもいい計画ををぶっ潰したかった。
「そうだ爺さん良いことを一つ良い事を教えてやるよ、心配しなくてもエヴァちゃんの変わりはいるぞ」
「誰の事じゃ?麻帆良にそんな人材はおらんはずじゃ」
横島は文珠を四つ取り出すと文字を込め近右衛門に投げつける、文殊に込めた文字は
【登】【校】【地】【獄】
近右衛門はその文字を見て横島の意図を察する、因果応報これもエヴァを利用した報いかとそれを受け入れる。
近右衛門はエヴァンジェリンを嫌いではなかったむしろ好意を抱いていた、
それでも利用するような事をしたのは魔法界の事情、関東魔法協会の事情だった。
そしてエヴァンジェリンを狙う魔法使い達から守る意味もあった、方法は褒められたものではなかったが。
「ヨコシマ、挨拶も終わったし帰りましょ、パピリオも待ちくたびれるわ」
「エヴァンジェリンさん茶々丸さん本当にここを出て行くんですか?
僕はまだお二人にちゃんと謝れてもいないのに」
「エヴァちゃん茶々丸さんごめんなさい、私そんな事情があったなんて知らなかったから。
向こうでも元気でね」
「ネギ・スプリングフィールド、神楽坂明日菜、せいぜいジジィに利用されんように気をつけることだ。
魔法使いどもは自分の正義を押しつけてくるぞ、その正義を疑いもせずにな」
「ごきげんよう、ネギ先生、アスナさん」
「爺さん、魔法使いがまたエヴァちゃんを狙ったり、ネギとアスナちゃんを利用しようとしたら今度は容赦しないからな」
横島はルシオラとエヴァンジェリンと茶々丸を【転】【移】する為に引き寄せる。
一見さりげない動作もルシオラに加え美少女二人を抱き寄せる好意に内心ホクホクしていた、
間違ってもルシオラに知られる訳にはいかないが。
「ああ!こいつを忘れるところだった」
四人が翠の光に包まれ消える直前に横島は思い出したようにもう一度文珠を近右衛門に投げつける。
【魔】【力】【封】【印】
文珠は近右衛門に当たると光を発し魔力を封印する、エヴァンジェリン同様に侵入者を感知出来るぐらいの魔力は残して。
横島は女の子を利用するような人間に何もせず立ち去るほど人間が出来ていない、もっとも今の横島は魔族だが。
『飛べない豚はただの豚』の言葉もある『魔法の使えない爺はただの爺』だ、
それは魔法使いとして終わったも同然、その事実に茫然とする近右衛門。
そして横島たち四人は茫然とする近右衛門、悩むネギ、そして元気に手を振る明日菜を残し学園長室から【転】【移】した。
◆
「それではお心当たりは無いのですね?」
「ふぉふぉふぉ初耳じゃ、オカルト集団と魔族の戦闘か恐ろしいの~、生徒たちにも気をつける様に注意しておかんとな」
「その方が賢明かと、しかし魔族の方は除霊助手ですので問題ありません、
GSが魔族を使役したり契約によって力を借りる事は珍しい事ではありません。
むしろいきなり襲ってきた謎のオカルト集団の方が問題かと、なんでもオカルト集団には学生らしき姿もあったとか」
「それは困ったの~ 生徒を危険にさらすのは不本意じゃがオカルトを禁止する訳にはいかん、
下手をすれば中世の魔女裁判になりかねんからの~
それにオカルト集団と言うだけで危険な集団とは限らんかしの、
魔族との戦闘も何かの行き違いによる誤解の結果も知れん、なにせ相手は魔族じゃからの~」
「そうですね問題の魔ほ・・・失礼、問題のオカルト集団が情報公開してくれれば誤解は無かったかもしれませんね」
「オカルト集団が情報を秘匿するのは常識じゃしの仕方のない事じゃ」
「お詳しいですね」
「年の功じゃ、ふぉふぉふぉ」
エヴァンジェリンが麻帆良を去って二週間が過ぎたころ麻帆良学園理事長である近右衛門の元へ一本の電話があった、
相手はICPO(国際刑事警察機構)超常犯罪課、通称オカルトGメン日本支部支部長の美神 美智恵である。
用件は数日前の『GSの除霊助手の魔族が麻帆良で謎のオカルト集団に襲われた』事件についての聞き取りらしい、
その為に麻帆良学園理事長である近右衛門に連絡を取ったのだ。
しかしこれは表向きの話である、
美智恵は近右衛門が関東魔法協会の長であるのは知っているし、近右衛門もそれを美智恵が知っている事を承知の上での会話である。
これは美智恵は秘密主義の魔法使いを良く思ってないので嫌味を言い、
近右衛門は魔法使いの事情を話せないのでのらりくらり返事しているのである。
早い話が『早く吐いちまえゴラァ』『秘密は常識じゃボケェ』である。
「オカルト集団の特徴なのですが呪文を詠唱し杖を持っていたそうです、
まるで映画のハ○ーポッ○ーの様に」
「はて?演劇部が練習していたのを間違えて見たのかの~」
「襲われた魔族の少女は相手の顔をよく覚えていないらしいのですが」
「ほう、それでは捜査も大変そうじゃの」
「学生と思わしき人物が大人を『~先生』と呼んでいたようです。
今回は怪我も無いのでこの様な聞き取り調査のみなのですが、また同じ事があれば本格的に捜査せざるおえません」
「そ、それは怪我がなくて何よりじゃ」
そして近右衛門の手元には数枚の写真がある、差出人不明で普通郵便で送られて来たものだ、中身は写真のみ。
写真には世界樹でパピリオと戦う魔法使い達が顔まではっきりと写っていた。
近右衛門は美智恵からの電話でこの写真の送り主と意味が解った、
『大人しくしてろ、じゃないとコレを・・・』である。
魔法使いの報復を懸念した横島がルシオラの眷属が見たものを写真にし、それを近右衛門へ送った物である。
もちろんオカルトGメンに通報したのも横島である、美智恵もおおよその状況は理解している様だった。
「それでは体調の良くないところ御協力ありがとう御座いました」
「体調?」
「噂では近衛理事長は最近体調を崩されてお仕事が出来ない体になったとか。
もう御年なんですからお体を労りませんと」
「はて何のことかの?体はいたって健康じゃが、どこで聞いた噂かの」
「あら?噂もあてになりませんわね、どこで聞いた噂だったかしら?申し訳ありません」
「気にしておらんよ、ふぉふぉふぉ」
「ありがとう御座います、おほほほほっ」
近右衛門の【登】【校】【地】【獄】と【魔】【力】【封】【印】はまだ解呪が出来ていない、
八方手を尽くしているのだが魔法使いは秘匿主義なので堂々と解呪出来る人間を探せないのだ。
それに内外の敵に麻帆良最強の魔法使いが魔法を使えないと知られる訳にもいかない。
極秘に細々と探しているのだ。