「ヨコシマ、誰か来るわ」
「魔法使いか?どんな奴だ」
ネギと明日菜がログハウスに着く少し前、外を警戒していたルシオラが接近者に気付く、
横島はエヴァンジェリンと話し合っていて気が付かなかった。
「子供が二人、男の子と女の子が杖に乗って空を飛んで来るわ、
このままだとあと5分ぐらいで此処に着くわ」
「子供?!でも空を飛んでるんじゃ魔法使いだよな・・・
エヴァちゃん知り合い?」
「ああ、それはネギ・スプリングフィールドと神楽坂明日菜だろう」
「友達か?」
「いや、クラスの担任とクラスメイトだ、
お前達が此処に来たのがジジィに知れたんだろう」
「子供が担任?!どないなっとんねん!!
で?そのジジィってのは」
「近衛 近右衛門、ここ関東魔法協会の長だ」
「もしかして頭の長い妖怪爺か?」
「知っているのか?そいつが関東魔法協会の長だ。
一応人間だが」
「どうする?ヨコシマ」
「子供魔法使いが来る前に解呪しちまおう、
あとは知らんぷりして様子を見よう、
偵察に来たのなら無視、邪魔しに来たならその都度対応って事で」
横島はそう言うと偽装術を解き力を開放する。
まず最初に意識下からストックしていた文珠を六つ取り出す、そして魔法使いが敵と知って事前に考えていた文字を込める。
ルシオラもそれに合わせて偽装術を解き力を開放する、
パンツスーツから二年前の魔神大戦時のコスチュームに変わる。
二人は戦闘態勢に移行した。
「なるほどそれがお前達の正体か・・・恐ろしいな、
600年生きた私でさえそれほどの力を持つ者は見たことが無い。
ルシオラとやらの正体はお前達の話から魔族だと解っていたが、横島忠夫、貴様も魔族だったとはな」
「マスター!!危険です」
「問題ない、それにしても二人とも魔族だったとはな、アルビレオ・イマのイノチノシヘンでも解らないはずだ。
あれは人間を対象にしたアーティファクトだ、
魔族相手では記憶を読んだり能力をコピーしたり出来ないはずだ。
ククク、面白い!!
貴様たちを信頼し行動を共にしてやろう」
茶々丸はレッドシグナルが鳴りっぱなしだった、
センサーが横島とルシオラを危険だと判断し警告を発していた。
エヴァンジェリンは横島とルシオラを本能で危険と判断していたが、
理性の部分が敵ではないと判断し本能をどうにかねじ伏せる。
茶々丸もエヴァンジェリンの判断に従った。
「ありがとうなエヴァちゃん、
俺は生まれた時は純粋な人間だったんだけどな、ちょっとした事があって魔族になったんだ」
「ヨコシマ・・・」
横島は何でもないかのように気軽に言う。
ルシオラはそう言う横島を少し悲しそうな目で見ていた。
魔神大戦時に横島はルシオラとベスパの姉妹同士の戦いでルシオラを庇い致命傷を負った、
ルシオラは横島を救うために霊基構造の大部分を彼に与え消えてしまった。
美神令子は横島の子供としてルシオラは生まれ変わると言ったがそれは善意の嘘だったのだろう、
なぜなら転廻輪生するべきルシオラの魂のそのほとんどが横島の中に存在し、
その残りも霊破片として横島が持っているからだ。
ルシオラの復活は不可能に思えた、なぜなら人間の魂は粘土の様にちぎったりくっつけたりは出来ない。
そう『人間』なら不可能だ、しかし『魔族』では?
ルシオラは霊基構造の大部分をを彼に『与え』た。
ベスパは拡散していた魂の破片を『掻き集め』復活した。
つまり魔族なら魂の加工は可能、魔族になればルシオラは救える、
そして迷う事無く横島は魔族になった。
魔族になり自分に与えられたルシオラの魂を削り持っていたルシオラの魂の霊破片と融合させた。
「そんな事より邪魔が入る前にエヴァちゃんの呪いを解呪しちゃおう」
「簡単に言うがどうするつもりだ?私も研究したが結局は掛けた本人が解呪するか、
血縁者の血液を媒介にするしか方法は無かったのだぞ」
「これを使うんだよ、本当は秘密なんだけど信頼には信頼で応えないとな、
それに『エヴァちゃん』て呼んでいいって言ってくれたし」
「なんだこれは!!!
少し待て、茶々丸これからの事は記録するな、
先ほどこいつ等が魔力を解放していたデータも削除しろ」
横島はそう言うと再び意識下から手の平に文珠を六つ取り出すとエヴァに見せる。
エヴァンジェリンは『ちゃん』付けまで許可はしていないが既に諦めている。
そして見せられたビー玉の様な物体に途方もない魔力が宿っている事に気づき茶々丸にデータの削除を命じる。
「もういいか?これは文珠、ちょっと便利な俺の霊能だ、
使い方は時間がないからその目で確かめてくれ」
横島は文珠に文字を込める、【登】【校】【地】【獄】【解】【呪】
六つの文珠は横島の手を離れるとエヴァンジェリンの周囲を取り囲むように回り出す、
次の瞬、眩い翠色の光を発するとエヴァンジェリンに光が収束していく。
「どうだ?ちゃんと解呪できてるか?
感じからしたら成功してるっぽいんだけど、魔力は戻ってるか?」
「フフ・・・ アハハハハ!!解けた!! 解けたぞ!!」
力が沸いてくるアーハッハッハ!!」
「あー問題なく解呪出来たみたいだな、
それから魔法は少しの間使えないからな注意してくれよな」
「なんだと!!どういうことだ?!解呪出来たのではないのか」
「解呪は出来てるよ、魔法が使えないのはコレのせいだよ」
そう言って横島は先ほどスーツのポケットにしまっておいた文珠をエヴァンジェリンに出して見せる。
横島は魔族となってから文珠の制御数が飛躍的に増えた、複数同時制御もなんなくこなす事が出来る。
既に並行世界となってしまったが未来の横島は人間でありながら14個の文珠を制御している、
横島が魔族となり制御数、生産数、保持数、マイト数は大きくそれを超えた。
応用範囲も広がり、使用時のタイムラグも短縮した。
文珠は神器と言われるほど万能である、しかし昔はそれを使う横島が逆に枷となっていた、
人間としての認識の限界、意識・無意識の干渉、そしてなによりも『文珠使い』として初心者だった。
パソコン初心者にスーパーコンピューターを与えた様なもの、まったく使いこなせていなかった。
「これは・・・貴様は魔法使いの天敵だな」
「魔法使いが来るって聞いて用心の為にな、転ばぬ先のなんとやらだ。
子供魔法使いも飛べなくなって今頃は走ってるだろ、だから来るのにもう少し時間がかかるな」
「ヨコシマ、パピリオから連絡があったわ『お仕事終了』ですって」
「『お疲れさん、もう少し待ってて』って伝えといてくれ」
「OKヨコシマ、
それとこっちに来ていた二人が着いたわ」
>「バカネギ!!なに考えてんのよ!!」
「来たか、とりあえずは気づいてないフリしてよう、良いか?エヴァちゃん茶々丸ちゃん」
>「アンタ今魔法が使えないんでしょ?!
不審者が中に居るかもしれないのよ、堂々と入ってどうすんのよ!!
まずは外から中の様子を覗うもんでしょ!!」
「ふん、私は初めっから馬鹿どもの相手などする気はない」
>「あ!!流石ですねアスナさん、気がつきませんでした」
「わかりました」
>「まったく、エヴァちゃんと茶々丸さんにもしもの事があったらどうすんのよ」
ネギと明日菜の会話は横島たちに丸聞こえだった。
眷属で聞いた訳でも魔法を使った訳でも無い、ネギと明日菜の声が大きいだけだった。
特に明日菜の怒鳴り声はよく聞こえた。
「じゃあ、エヴァちゃん茶々丸ちゃん麻帆良から出ていく準備を始めてくれ」
「すでに茶々丸に命じて用意してある、いつでも出発出来る」
「荷物はここに纏めてありますマスター」
「エヴァンジェリンさん!!出て行くってどういう事ですか??!!」
突然ネギが窓を開けて会話に乱入してきた。
◆
横島はエヴァンジェリンに許可を取りとりあえずネギと明日菜を家に入れた。
「え~と、君たちは?」
「ネギ・スプリングフィールド、エヴァンジェリンさんと茶々丸さんの担任です」
「私は神楽坂明日菜、二人のクラスメイトよ」
「おれは横島忠夫GSだ、こっちは助手のルシオラ。
でも二人とも覗き見はいけないな」
「あら、ヨコシマがそれを言うの?
いっつも私のシャワーを・・・」
「ち!違うんや!!若さだ!若さがいかんのやー!!!」
ルシオラの思わぬ暴露に頭を抱え床を転げまわる横島、そんな横島を冷めた目で見るネギと明日菜。
ルシオラと暮らしているくせにいまだに覗きを続ける横島は確かに若い、
しかしルシオラも覗かれているのは分かっているのだからそういったプレイであるとも言える。
「そんな事より!!エヴァンジェリンさん、麻帆良から出ていくってどういう事ですか?!」
「そのままの意味だ、私は今からここから出ていく、それだけの事だ」
「学校はどうするんです!?真面目に学校へ行くって約束したじゃないですか」
「なに家庭の事情ってやつだ、サボる訳じゃない」
「け、けど!呪いは?」
「それならさっき俺が解呪したよ、それよりもどうして窓の外にいたんだ?」
「私たちはエヴァちゃんと茶々丸さんの家に不審者が来たって聞いて様子を見に来たのよ」
「そんなアッサリ解呪したって・・・僕それでエヴァンジェリンさんと命懸けで戦ったのに・・・」
「あら?命懸けで戦ったって、エヴァちゃんが前に戦ったのってもしかしてネギ君?」
「そうだコイツが英雄ナギ・スプリングフィールドの息子、ネギ・スプリングフィールドだ、
不本意ながら私は負けてしまったがな」
「10歳の子供を戦わせるって此処の魔法使いは頭がおかしいのか?
もしかして明日菜ちゃんもその時に戦ったのか?」
「エヴァンジェリンさんと戦ったのは僕の意思です、強制された訳じゃありません!!!」
「私はネギを助けたくて戦ったわ、自分の意思よ」
横島はここの魔法使い達がここまで酷い組織だったとは思っていなかった、
まさか女の子や10歳の子供を戦わせるとは、思わず嫌悪感が感想に漏れてしまった。
横島の周りにも戦う『女性』は多かったが『女の子』はいなかった、
かろうじておキヌがそれに当たるが彼女は幽霊時代からの事なので少し事情が違う。
他には人外の女の子たちにも多くいたが人間と人外では在り方が違う、
横島に神魔妖の垣根はないがそれは人間と同じ様に接するのとは意味が違う。
「子供を戦わせるのはいかんやろ、
たとえ自分の意思だったとしてもそれを止めるのが大人だし、
戦う必要があるのなら大人が戦わないと」
「ねえネギ君あなた学校の先生よね、例えば生徒が戦おうとしていたら貴方ならどうする?
戦いを止める?それともそれを戦うのを見過ごす?」
「そ、それは・・・」
「無駄だそれぐらいで止めてやれ、ぼーやはジジィの書いた『新たなる英雄誕生』というシナリオに踊らされたに過ぎん、
戦う意志さえもコントロールされた情報の結果だ、神楽坂明日菜はそのとばっちりだな」
「そんなまさか!! 学園長はそんな人じゃありませんあの人は立派な魔法使いです」
「甘いなぼーや、あの狸ジジィならそのくらいの事はやるさ、
好々爺に見えても奴は関東魔法協会の長だぞ、目的の為に非情になる事など当然の心得だ」
「エヴァちゃんなにか知ってるのか?」
「少し考えれば解ることだ。
魔法界は『新たなる英雄』を必要としている、
そしてジジィの元へ『英雄の息子』が来てそこには『悪の魔法使い』が居る。
後は小学生でも書けるシナリオだ、『悪の魔法使い』を『英雄の息子』が成敗して『新たなる英雄』誕生だ」
「そんなのエヴァちゃんの想像じゃない。
学園長先生は身寄りのない私を学校へ通わせてくれているのよ、普段だって気に掛けてくれているわ」
「他にもあるぞ、吸血鬼騒ぎは何故ぼーやだけが動いた?ジジィやタカミチは出張って来たか?
ここは関東魔法協会の本拠地だぞ吸血鬼騒ぎに気がつかない訳がない。
ジジィもタカミチも私が真祖の吸血鬼だと知っている、ぼーやは奴らからそれを聞いたか?
寮の風呂場や橋の戦闘跡は誰が始末した?用意が良過ぎるとは思わなかったか?
何故騒ぎを起こした私は何の罪にも問われなかった?」
「それは・・・」
「・・・」
証拠がある訳ではない、しかしエヴァンジェリンの説明には矛盾がなく説得力があった、
ネギは言葉を詰まらせ明日菜に至っては言葉すら出ない。
「・・・ルシオラ少し計画を変更していいかな?ちょっと寄る所が出来た、
エヴァちゃん茶々丸ちゃんも良いかな?」
「何を考えている?横島忠夫」
「立つ鳥跡を濁さずって言うし、黙って出ていくってのも何だしな」
「逆じゃないかしら?掻き回すだけ掻き回して逃亡っていういつものパターン」
「・・・なるほどな、確かに最後にケリを付けないと『悪の魔法使い』として名折れだな」
「マスターがあんなに楽しそうに」
横島がニカッと笑ってそう言うとルシオラとエヴァンジェリンは大凡察しが付いたようだ。
茶々丸はエヴァンジェリンの嬉しそうな笑顔に喜んだ。