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No.24750の一覧
[0] 【ネタ・習作】東方×ネギま【TS・転生】[SK](2010/12/06 00:21)
[1] 第1話[SK](2010/12/19 01:08)
[2] 第2話[SK](2011/01/30 23:57)
[3] 第3話[SK](2011/01/30 23:55)
[4] 第4話[SK](2015/05/16 23:00)
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[24750] 【ネタ・習作】東方×ネギま【TS・転生】
Name: SK◆eceee5e8 ID:89338c57 次を表示する
Date: 2010/12/06 00:21
 注意書き。

 ネギま主体の東方projectクロスです。基本はネギまです。
 死んで生まれ変わって神様から能力もらって、TSします。原作のキャラのカップリングがあって、ハーレムです。男女カップルでハーレムです。原作基本設定の改変もあります。ハーレムですけどメインは長谷川千雨さんになります。


――――――――――――――――





 冬特有の鋭い風が薄い窓ガラスを揺らしている。
 森の外れにたたずむ小さな店の中、カタカタとなる窓ガラスに目を向ける。
 カーテンはかかっていなかった。
 外は一面の雪景色。室内ではストーブがじんわりとした暖かさを提供してくれているが、わたしは鳥肌のたった腕を知らず知らずのうちにさすっていた。
 古い形の石油ストーブの前で、わたしはぽつんと椅子に座っている。

 ここは道具屋を自称する店の中。
 奥ではこの店の店主が、わたしのためにお茶を入れてくれている。
 鼻歌が聞こえそうなほどとは言わないが、それなりに上機嫌に店主は奥の炊事場からわたしにお茶か紅茶かコーヒーかと声をかける。
 わたしはお茶がほしいと、自分でも感じるほど覇気のない声を返してから、再度周りを見渡した。

 何の変哲もないように見える石ころから、発光ダイオードや半導体といったパソコンの部品と思わしき器具が並び、そうかと思えば本皮のケースに紙製の箱が積みあがり、その横にはわたしの知るものより三世代は遅れたパソコンが山となっている。
 ランプから始まって行灯や提灯のような骨董品もあるし、どうみても日本刀のような刃物が並んでいる。そしてその横においてあるコーラはどう考えてもすでに室温に戻っているだろう。
 今となっては懐かしいビン入りのコーラには飲まれていないことを証明するかのようにまだ王冠がついていた。わたしの世代ではほとんど見なくなった懐かしい形である。
 かと思えば、目をずらした先においてあるのはなかなかにあたらし目の携帯用音楽プレイヤーである。
 古臭いものが基本で、よくわらかないものが一割弱。最新機器は一分どころか片手で足りる。
 ついでに本があちらこちらで山となっている。新品といった感じではないが、どう見ても古具と骨董品しか並んでいない店内では、これらの本が店主の読み止しであると考えるよりも、古本である可能性を疑ってしまうのは仕方があるまい。
 再度視線を一周させて、ストーブに戻す。

 腕をさすれば、感触が戻り、頬をつねれば痛みが返る。
 夢ではない。幻覚でもない。幻想ではない。
 外は森が広がって、雪が積もり、白銀で染まった幻想のような様を見せてはいるが、ここは現実である。
 わたしは本当にここにいて、わたしは本当にこの店の中に存在していた。

 何をすべきかわからない。どうするべきかわからない。何をしてよいのかすらわからない。
 よくわからない状況で、よくわからない店の中、名だけを告げられた店主のお茶を待っている。
 わたしはどうすればいいのだろうかと考えながら、再度思考の海に沈もうとしたところで、店主がお茶を入れ終わったらしく戻ってきた。

 丸っきりの不審者で、わたしに名だけを告げて、人攫いよろしく、この店までつれてきたその人物。
 丸っきりの不審者で、わたしがまともな状態だったら決して誘いになんて乗らなかっただろうその人物。
 丸っきりの不審者で、ここがもしわたしの住む麻帆良であったなら、そんな誘いは歯牙にもかけなかったほどに係わり合いになるべきではないだろう変わり者。

 そう。よくわからないこのお店。名を香霖堂という古道具屋で――――


「やあ、千雨くん。お茶を入れたよ。上物だが遠慮せずに飲んでくれたまえ」


 ――――わたし、長谷川千雨にこうしてお茶を出す、商売人らしくないこの男性。
 この店の店主である彼の名は、森近霖之助というらしい。


   ◆


 わたしが香霖堂でお茶を振舞われる少し前。
 そのとき、わたしは一人でぽつねんと河原に立っていた。
 いや座っていたかもしれない。さすがに寝転がってはいなかったと思う。倒れていたということはあるまい。
 何しろあまりの混乱でそのときの記憶はほとんどないのだ。
 そんなわたしに声をかけたのが森近さんだった。

「へえ。君は生きているのか。外の人間が無縁塚でよく無事だったねえ」

 彼はわたしを見るなりそういった。
 わたしといえば、どうして自分がこんなところにいるのかもわからずに、混乱の極地にあったため、まともな返答も出来なかった。
 あー、とかうーとかつぶやいて返事を探すわたしに対して、彼は言葉を続けた。

「妖怪にさらわれてないことで何よりだ。博麗神社じゃなく無縁塚にいるってことは自殺かなにかする気だったのかい? 首吊り用のロープは持ってないが、いま外では死ぬまで死ぬかどうかわからない自殺がはやっているそうだね。炭をたいて煙を吸うらしいが、そのたぐいかな? 肉体が死ぬ前に精神が死んだと勘違いしたんだろう。精神が死ねば肉体も死ぬのは道理だが、肉体が死ぬことによっておこる精神の死は錯覚だよ。縁がなくなったなんて勘違いをしてここにくるなんて、君はよく早とちりだなんていわれていただろう?」
 一人でぺらぺらとしゃべると、したり顔かでうなずいた。
 それになんなんだ、その理論は? わたしは練炭自殺なんてしたことはないしする気もない。
 だが、わたしの疑問は口から出なかったため、彼はそのまま話を続けていた。

「結界は壁ではなく“区切り”のことだ。壁は越えるものだが、区切りは区別するものだからね。ゆえに結界がある限りそれを超えることはできない。君はきっと死んで冥界からこちらに流れ、こちらへ来て、また生まれなおしたんだろう」
 どうやら、わたしはいったん死んでいたらしいと心の中でうなずいてみる。
 驚きも飽和容量を過ぎれば沈静化するものだ。
「生き返ったということですか?」
 わたしが口を聞くと彼は少しだけ押し黙った。そのままわたしの顔を見ながら、やれやれといった表情で答える。
 まるで出来の悪い子に教えるように、彼はわたしに対して言葉を続ける。
「そんなはずがないじゃないか。生き返るにはきちんとした手順が必要なんだよ。閻魔の許しを得て魂が戻らなきゃならないだろう。君が生き返ったのならそれを自分で気づいていないはずがないじゃないか。君は一回無縁仏になったんだよ。仏として生まれなおして、人間に戻ったんだ」
 首を傾げるわたしに彼は続ける。

「生まれ変わるなんてのは、当たり前すぎるほど当たり前の現象だろう。知らないのかい? 生まれ変わるための本が、外の世界じゃ売られているって聞いているけど」
 そりゃ比喩だろ、とわたしは心うちでつぶやく。
 残念ながら宗教家でも哲学者でもないわたしは、生まれ変わるのが、生き返るより簡単だとは知らなかった。
 どうやらわたしが生き返ったと自覚していないのが、生き返っていない証拠らしい。こんがらがってきた。
 自信満々で語るくせに、しゃべってる内容は眉唾だ。
 信用していいのかこの男?

 足元には砂利が敷き詰められている。空き缶や紙くずのような生活観の漂うごみは皆無だが、家電製品のような大きなごみがぽつぽつと落ちている。さらに人の手がまったく入っておらず雑草がところどころに生えている。それでいて荒れているように見えないのはなぜなのか。それにコンクリートなどの整備は一切ない。おやおや、麻帆良の川はもっと整備されているはずじゃなかったか。
 そんな現実逃避を試みてから、その行為の間抜けさに苦笑する。地平線も見えないほどに続く川に、彼岸花が咲き乱れるこの川原。賽の河原、地獄の手前の一里塚。

「あの……ここは?」
「ここは無縁塚。もっと広義で言えば幻想郷さ。君は外の世界から結界を越えてやってきたんだろうね」
「幻想郷」
 当たり前のように未知の単語を出す男を見るわたしの目つきに不審が宿る。いや、これは状況を認識しているのに、それを理性が拒む抵抗だろう。
 わたしはすでにこのとき半分以上理解していたのだ。

「ああ。君たちの外の世界とは別の世界だよ。無縁塚は危ないから、ここに来た人間はたいていさらわれてしまうんだが、生きているとはなによりだ。僕はあまり遠出をしないから外の人間とは会う機会が無くてね。僕は森近霖之助。外の品物なんかを扱っている道具屋なんだが、ぜひ僕の店によっていかないかい?」

 わたしが、そんなとんでもないことに巻き込まれたんだということに。


   ◆


「じゃあコンピュータというのはその電気を源に動くのか。ケーブルをつなげるというのは知っていたんだけど……」
「ああコンセントケーブル……。ええ……はい、そうですね。でも、その、森近さんの言う式神……とは違って、情報を集めるのは扱う人ですよ?」
「式神だって扱うのは使用者だよ。なるほど、じゃあ電気は知り合いの魔法使いに聞くよ。彼女はこういうことが好きそうだ、興味を向ければ電気を探してきてくれるだろう。この前から山の河童とも知り合いになったらしいし。次はこれの使い方を知りたいんだが……」
「携帯プレイヤーですか? これは中に音楽の情報を入れる必要があって……」
 乞われるままに、彼の言うところの「外の道具」の使い方を説明していく。

「……ああ、じゃあコンピュータが働かないと使えないのか。きちんとした手順と形式で儀式をする必要があるとは、魔理沙が手こずる理由もわかるというものだ。じゃあ次はこのストーブなんだが、使い方のわからないボタンがあってね。一応使えてはいるんだけど」
「このストーブですか? ああ、このボタンは電気ストーブとの切り替えです。今は石油ストーブ、えーっと灯油を原料にして動いているんですが、コンセントをつなげれば電気でも動くんです。こっちのレバーは電気ストーブに切り替えたときの温かさの調整ですね。灯油ストーブと違って、電気は調整がきくので」
「うーん、またそれか。電池といい、電気で動くものが多いな。魔力や霊力で応用できればいいのだけどね。妖力でもいいが……きっと同じ冠を持っている霊力のほうが通りはいいだろうな。今度霊夢にでも頼んでみるか」
「……いや。えっと……代用ですか?」
「ああ。雨冠をしょっているということは両方とも天の力なんだろう? 天人に知り合いはいないが、天気を操るのは魔法か奇跡で応用がきくはずだからね」
 意味がわからない。

「んっ? どうしたんだい。ってああ、またよってきたのか」
 わたしの無言を勘違いしたのか、森近さんは、何かに気づいたように自分の足元に手をやると、蚊を追い払うようなしぐさをした。
 いまは冬だ。さすがにここが幻想郷とやらでも蚊はいまい。
「あの、なにをされているんですか?」
「しっしっ」と声を出す森近さんに声をかける。
「ああ、幽霊を追い払っているんだ。夏の幽霊は涼しいが冬の幽霊は冷たいからね」
 蚊やハエどころではない。ストーブ周りで手を振っていた森近さんは当たり前のようにそう答えた。

「え……」
「ほら、そっちにいった。まったくもう……」
 そういって彼が向けた視線を辿る。
 わたしの足元にうっすらとして煙があった。いや、と目を見張った。
 気づかなかった。
 固定観念とでも言うのだろうか。
 漂っている白いもや。
 外が冬景色だったし、吐く息も白く霧となっていた。
 だから、それに気づかなかった。気づいていたのに意識から外れてた。
 それとも今指摘されて見えるようになったのか。
 だまし絵のように、一度気づけばそれはあまりに明白だった。
 森近さんの周りから逃げ、わたしの周りに漂うそれは丸い形に尻尾のついた、おとぎ話そのまま幽霊の形を保っていた。
 うわあ、と椅子から立ち上がり、そのさまを見て不思議がる森近さんに、わたしは幽霊がいたことに驚いたことをつげ、例によって当たり前じゃないか、という切り口から始まる彼の講釈が始まるのだった。

「……ああ、外来人が妖怪より幽霊を怖がるというのは本当だったんだね。……んっ? ああ、外来人の話はこの本からだよ。一冊あげよう。この子が霊夢で、こちらが魔理沙。こっちに載っているのは吸血鬼に仕えているメイドだ。次に載っているのが僕だね。あとは薬師に姫に自警団か。いまのところ幻想郷縁起に取り扱われるほどに有名な人間はこれくらいだね。最も人間とは言いがたいものが多いけど、それは著者に問題がある。――――いや、内容が間違っていることは問題ないよ。正しいことだけを言うなんて芸当が出来るのは閻魔だけだ。本とは知識を得るためのものだが、知識を授けるものではない。その本質は想起と取捨の能力を磨くことだからね」

   ◆

 結局幽霊話のような雑談も含めて二時間ほど話していただろうか。
 店内には時計がないし、わたしは腕時計をはめていない。圏外の表示をむなしく光らせている携帯電話をみる必要があるが、それを人としゃべりながら行うのはいかにも不躾である。
 だから時間を常に意識していたわけではないし、気が急っていたわけでもない。
 だけど、森近さんとの話はなかなかに面白かった。こうして自分の状況を忘れて楽しむなんて事は無理だったが、それでも恐怖を紛らわせることくらいは可能だった。
 だが、わたしは否の返事を聞くことを恐れて、帰れるのかを聞くことをためらっていたし、森近さんはこの機会にとわたしに“外の道具”の説明を求め続けた。
 だから、きっかけを作ったのは、当たり前のように告げられた森近さんの言葉だった。

「うーん。なるほど。面白いな。助かったよ」
「いえ……たいしたことではありません」
「ふむ。その慎み深さを魔理沙や霊夢に分けたいやりたいくらいだ」
「はあ」
 首をかしげた。魔理沙と霊夢というのは先ほどからたまに告げられる名前だ。どうやら森近さんと親しい人物らしく、彼の言葉を信じれば魔女と巫女さんらしい。
「だが、僕もこれで対価を渡さないわけにはいかないだろうな。やられているからやり返すのはあの子達だけでいい。何かこの中から商品を上げるよ」
 そういいながら森近さんはごそごそと商品の山をあさり始めた。
 自分で選べるほど見る目があるとは思わないが、彼のほうにもわたしに選ばせる気はないらしい。
 彼は一分ほど探したあと、小さな提灯を取り出した。いや形状から言えば行灯か。

「懐中電灯があればいいのだけど、あれは電池が手に入らなくてね。行灯のようだが、これは持ち運べるようだし……ふむ、なるほど。少し余計だが、まあ使えるだろう。これを使うといい。対価は先ほどの情報で十分だ。正当な取引として君に上げよう」
「?」
 首をかしげた。なぜここで照明具なのかがわからなかったからだ。
「これから霊夢のところへいくんだろう?」
「えっと……」
 まだ理解できていないわたしに森近さんが言葉を続ける。
「外へ帰るんじゃないのかい?」
 その言葉に驚愕する。
「帰れるんですか!?」
 何を当たり前なことを、といった顔で頷かれる。
 おいおい、マジかよ。それを早く言ってくれ、とわたしはへたり込みながら呟いた。それなら八割り増しで愛想よくできただろう。

   ◆

「いい人だが、絶対おかしいよなあ。いや、それを言ったらこの状況がありえねえ。神隠しに幽霊、で挙句の果てに幻想郷かよ」
 わたしは呟きながら道を歩いていた。だが出るのはもっぱら愚痴である。
 周りを見渡せば森が広がり、道を視線でなぞれば先は森の奥へと消えていく。
「これ絶対に人の住むほうから離れてるな」
 道の舗装はだんだんと荒れてきている。
 何度も人が歩いているようにはとても見えない。
 まあそれでいいのだろう。博麗神社とやらは、この幻想郷とやらのはずれにあるらしいし。

「霊夢のいる神社はこの先の道を山に向かってずっと進めばでるよ。夜になると妖怪が出るからいそいだほうがいい。暗くなったらこれを使うといい。冬に入る前に無縁塚で拾ったんだ。僕は寒くなってからは、あまりあそこには行かないからね」
 だとしたら今日わたしが会えたのは偶然よりも僥倖だったのだろう。縁があったといっていたが、森近さんにとってもわたしは無駄ではなかったようだし、幸いだ。
 わたしは礼を言うと、彼から手のひらサイズの行灯を受け取った。ずいぶんと小さい。
「これをあげよう。もう冬に入っているし、僕はわざわざ幽霊を呼ぶ気もないから君が使うといい。普通の提灯としても使えるだろう」
 はあ、といいながら受けとった。

 十数分前に森近さんは、いまはわたしのディバッグのなかにしまわれている行灯を渡しながらいった。

「霊夢というのは幻想郷の結界を維持している巫女の名前だよ。彼女なら君を外の世界に返せる。ああこの行灯は暗くなってから使うといい。人里はなれたところは物騒だからね」
「……物騒ですか?」
「妖怪が出るんだよ。最近あまり人を食べたという話は聞かないけどね。外の人間は幽霊を怖がるくせに妖怪を恐れないから、そのままつかまってたいてい妖怪に食われてしまうと……ああ、これはさっきの本にも載ってるんだけどね」
 そこまで物騒だとは聞いていなかった。顔が引きつるのも仕方があるまい。
 だが、森近さんはそんなことを言いつつも、ここでわたしを神社まで送ってくれるという発想は無いようだった。
 わたしとしても、こんなおかしな世界で自分の常識を主張して見るのはためらわれた。わたしは当たって砕けるという発想が嫌いなのだ。
 元来の事なかれ主義の所為もあるが、あまりに森近さんの言葉に緊迫感がないから恐怖を感じ取れないのだ。

「大丈夫だよ。ちょっかいを出さなければ妖怪も人は襲わない。スペルカードルールにも負けた人間を殺してはいけないという文言が明文化されている。神社についたらお賽銭を入れれば霊夢が出てくるから、彼女に外へ返してほしいというといい。それじゃ、妖怪には気をつけて」
 交通事故を注意する学校の教師のごとく、そう平然と口にする森近さんのこの言葉をあとに、わたしは出来うる限りの速度を持って、博麗神社へ向かっていた。


   ◆◆◆


 急いだ甲斐があったのだろうか。
 森近さん曰く、妖怪に関わらなければ日が落ちる前に、妖精にからかわれなければ日が変わる前に着く、とのことだったから、わたしはどうやら厄介ごとからは逃れられたらしい。
 ちなみに、妖怪のほうが関わる時間は短いのかと問いかければ、その答えは関われば食べられてしまうし、関わらなければ逃げるだけだから時間はかからないとのことだ。
 なんともやる気にさせられる言葉じゃないか。

 幸いにして、博麗神社とやらにたどり着いたとき、まだ日は沈んですらいなかった。
 赤くなった夕日を浴びて、鳥居がその紅さを際立たせる。
 わたしは境内に入り、さてどうするかと周りを見渡した。
 すでに雪が積もり、境内を白く覆っているが、ある程度の掃除はされているのか、石段から本殿というのか神社の顔である賽銭箱までの道はその雪が取り除かれている。
 人気は無かった。雪はかたづけられており、巫女も神主も参拝客も見当たらない。
 しかし、道から外れた場所は雪が積もっており、そこに示される無数の足跡がこの神社が決して人の出入りが無いわけではないことを物語っていた。
 神社の裏手に続く足跡を見て、そちらにいるのかと考えながら足を進める。いや、足跡のほうへ進んだわけではない。まずは賽銭箱の前までだ。
 わたしは少し逡巡してから財布を取り出した。金をケチったわけではない。いつもの部屋に帰って、いつものように日常に愚痴を言いながらベッドに横たわれるのだったら、福沢諭吉のブロマイドだろうと躊躇はしない。
 純粋にあまりに人工的な音が排されたこの神社で、小銭を投下する音を立てることに少しだけ躊躇しただけだ。

 自分の小心に苦笑しながらも、これも何かの縁だろうとわたしは財布から小銭を根こそぎと、ついでに千円札を一枚取り出した。
 小学生にとっては大金である。
 賽銭箱に放り込むと千円札がひらひら舞い、小銭が大きな音を立てた。金が吸い込まれるの確認してから、控えめに手を叩く。二礼二拍に……たしか一礼だっただろうか。二度礼をして、二度叩いて手を合わせながらお辞儀を一度? さすがにそこまで神社の作法に詳しいわけではない。
 作法の不備は大目に見てもらおうと、手を合わせてお辞儀をしながら目を瞑る。
 どうか元の世界に帰してくださいと三度願って頭を上げて、

「…………」

 目を開けた瞬間に、わたしの目の前でわたしの顔を覗き込む女性の顔に息を呑む。心臓が止まるかと思った。

「…………」

 じっとわたしを見つめるその彼女。
 息が止まるほどのその美貌。声をなくすほどの存在感。
 だがわたしの言葉が止まったのは、それらすら霞むほどに、彼女の体があまりにありえない状態だったからである。

「外のようで外でない。外れた世界から来た少女。我々が外来人と呼ぶ存在とは異なるあなたは、ここではなく彼岸へ行ったほうがよいでしょう」

 言葉を失ったわたしに彼女は言う。
 わたしは返事ができなかった。
 そう、わたしにそう告げる彼女は、賽銭箱の上で、上半身だけを“スキマ”から覗かせていた。

「縁なき少女。あのものが開いた道を通り、本来ならば隔絶された幻想郷に立ち寄ったあなたは、迷い人ではなく客人として扱われることになるでしょう」

 彼女が手を伸ばし、その手がわたしの頬をなぜる。
 声が出せない。
 とんでもなすぎる。
 神か魔か、はたまたこれこそわたしの幻想か。

「生き返りたいのなら、三途の川を渡りなさい。ヤマザナドゥの元に行き審判を受けなさい。“地に足をつける程度”の能力を持つあなたは、あのお方にこの幻想郷にとどまるか否かを迫られる」

 歌うように告げられる。
 唄うように語られる。
 その言葉はどういう意味か。彼女の言葉はわたしが帰れるといった森近さんの言葉を否定する。
 帰れるかどうかがわからない、と彼女は言う。
 彼女は続ける。

「選択は慎重に。その決断はあなたの未来を決定する。あの方が“白黒をはっきりと”つけたなら、それは誰にも覆せない。もちろん、あなたがこの地に残ることを選択するのなら――――」

 彼女は、まったく意味の分からない言葉をいう。
 だがこの女性が愚かなのだとは、いくらなんでも思えない。ハッタリをいっているなど考えられない。
 わたしの直感が告げている。この女性の言葉を聞き逃すな。この女性はわたしが帰るためのすべての鍵を握っている。

 賢者は愚者には理解できないというけれど、愚者に理解できる言葉を話せなければ賢者ではないだろう。
 つまり、彼女は理解させる気がない。
 つまり、わたしは理解する必要がない。

 何も知らないさ迷い子の長谷川千雨。
 わたしはただひとつだけを理解すればそれでよい。
 そうつまり。


「――――幻想郷は、あなたを歓迎することでしょう」


 それだけを理解せよ、ということだ。
 そういいながら彼女は消える。
 隙間に消える彼女の姿を見ながら、
 奥からこちらに向かって歩いてくる足音を聞きながら、
 わたしはただ彼女のいった言葉を考える。その意味を考える。

 そう。
 この出来事。まさにこの日、この瞬間から、長谷川千雨と幻想郷のやたらと複雑な関わりがはじまったのだと、無知なわたしは考えて――――



   ◆◆◆



 ――――朝になった。

 長谷川千雨はいつものように、麻帆良学園にあるマンションの一室で目を覚ます。
 のびをして眠気を晴らし、ベッドから体を起こした。

 何か夢を見ていた気がするが、それは何一つ頭に残っていない。

 まあ、たいした内容でもないだろう。
 さて今日も学校だ。




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