夏の盛りも過ぎ、ようやく秋になろうかという季節。本来であれば、誰もが収穫を祝い、秋の訪れを楽しむ豊饒の刻だ。それは、自然の摂理。自然の流れだ。しかし、ヨセフグラードにおいては、その限りではない。そこにあるのは全く別の世界である。「押し返せ!帝国主義者どもを、祖国から蹴り飛ばすのだ!」怒号を飛ばす連邦軍は、反撃の時来たれりと意気軒昂。侵略者らの全てをなぎ倒さんとばかりに飛び込んでくる。雲霞の如く押し寄せてくるその様は、森が動くかと錯覚するほどの規模を誇る。対する帝国軍。消耗し、数を減らした彼らは市街地にこもり数的劣勢を補う戦術を取らざるを得ない。当然ながら、それは受け身に回ることを意味する。しかしその戦意はやはり、旺盛だ。いや、その怒号される激烈さで言えば連邦の比ではない程激昂する魔導士官を抱えている。「殺せ!三千世界で根切りにしてやれ!」敵兵が潜んでいると思しき区画ごと、爆裂式の集中運用で粉砕。区画が確保された瞬間に、随伴する降下猟兵が機甲部隊と合同で防衛線の穴を再編。それらの部隊を指揮する中佐の姿は見えずとも、声は連邦兵に聞こえるのだ。「咎人を地より消し去りたまえ。」囁かれる戦場の噂。狂った狂った魔女の噂。無慈悲な、狂気の、敬虔な唄い手共産主義者が過去の遺物と蹴り飛ばし、墓場に突き落としたはずの迷信。「悪しき者、そを主は肉片の一片まで消し去りたもうことを、欲したもう。」『科学』の時代だ。祈りなど、信仰など新しい共産世界に無用と豪語していた。誰もが、旧弊じみたそれに背を向けるべきだとされているのだ。だというのに。「我が魂よ、主を讃えよ。我が魂よ、怨敵を滅ぼすために奮起せよ。」嬉々として、バヨネットの中へ飛び込んでくるのは一体何だ?よろこばしげに歌いながら、祈りながら、囁きながら。あれは、何だというのだ。「おお、ハレルヤ!そを、そを、主が欲したもう!」朗らかな声。明らかに、戦場には場違いな声。そして、その声とは裏腹に次々に友軍が紅い花を咲かせている。火力を街路に集中し、接近阻止を試みているにもかかわらずだ。「・・・・・・おお、神よ。」誰が、口にしたのかは分からない。それでも。何かに縋ろうとするのは、不思議なことだろうか?連邦兵は、一世代前の迷信深さを笑った口でひたすら暴虐の嵐が通り過ぎることを願うほかにない。「殺せ!あの悪魔を殺せ!」いくばくか、勇気がある者は立ち上がる。そうして、彼らはバヨネットを煌めかせ戦場に赴くのだ。幾多もの勇士が立ち向かう。そして、ソレは嗤うのだ。「・・・神の地上の代理人に、弓引く分際で。」信じられないような、声色。この世のそれとは、到底信じられないような声色。「事もあろうに、神の地上の代理人を悪魔呼ばわり?」言葉に、言霊なるものがあるという俗説。それを笑い飛ばせる兵員が今日この場にいるならば、それこそが英雄だろう。神話の世界或いは、煉獄の世界において人ならぬ身でなければ。それに立ち向かう事など、能うはずもないのだ。「貴様らの様な輩に・・・異端の咎人に、神をも恐れぬ無神論者の分際で?」ケラケラという笑い声。いや、嘲笑だろうか?耐えがたい音をしばし、しばし口から発した後。静まり返った戦場にソレが囁かれる。「即決簡易裁判を執り行う、罪状、異端の咎。判決、死刑。」そして、それは銃剣を煌めかせながら吶喊してくる。全てをなぎ払わんとする決意と共に。連邦の官僚について、いや、共産主義国の官僚について世の中にはいろいろな逸話がある。たとえば、官僚主義的側面は信じがたいほど低い能率だというのは、まだ柔らかい部類の批判だろう。酷いものになれば、硬直しすぎた官僚制度のことを赤い貴族とまで揶揄する類のジョークも山ほどある。しかし、世の中には例外もある。民営化・民営化と馬鹿の一つ覚えの様に官僚制を叩き続ける連中すら税務署の効率改善を訴えないように。大多数の国民が別段勤勉であってほしいとは願わない部署に限っては克己心を発露していると誰もが感じるのだ。そして、内務人民委員部に関しては誰もがその勤勉さを心の底から認めるほどに人民に尽くしているという例外的な部署であった。といっても、ゲルマーニズ的に文化が欠如して機械的に非人間的な活動が行われているわけではない。かつて招かれたサーカスでは、その演奏が万雷の拍手で讃えられるほど文化的でもありながら誰もが勤勉に働く。これぞ、共産主義の勝利だと公式に宣言されたほどである。そう、『公式』に。そのように誉れ高い内務人民委員部の仕事は、多岐にわたる。当然ながら、その長であるロリヤの仕事は大変膨大かつ責任重大なものだ。並大抵の人間であれば、その職責の重さに耐えかねてシルドベリアで木を眺める余生を送りたがるほど。下手をすれば、職務の重さに耐えかねて不幸な事故すら起きてしまう。だが、ロリヤはこの点において人民に奉仕しうる革命的な労働者であった。なにしろ、彼には夢があるのだ。そのためであれば、彼は如何なる激務も苦としない。この日、ロリヤは手早く仕事を行っていた。いくつもの重要な書類。そう、とても重要な書類だ。彼は国内の安寧を保つという治安上の責任者でもある。つまり、彼は人民を守るために常日頃は反逆者を収容所にぶち込んでいた。だが、今は反逆者を前線に送り込むために必要な、免訴手続きと収容所への解放命令にサインしなければならない。仕事が変わろうとも、究極的な目的が同じなのだが。「同志内務人民委員長殿、ヨセフグラードに派遣された委員からの報告書です。」「御苦労。・・・ふむ、望ましくないな。早急に手当てしよう。」そして、ロリヤは連邦の首脳陣によってヨセフグラードに関する全権が委ねられた身でもある。本来であれば、軍が主導すべき案件だが連邦はシビリアンコントロールの確立した世界初の民主集中制国家だ。党の人間として、ロリヤはここで起きる問題に対応しなければならなかった。「脱走兵が多すぎて、銃殺隊が足りていない。収容所から、銃殺隊を前線に動かすべきだな。」ちなみに、脱走兵が起きる要因というものにロリヤをはじめとした内務人民委員部は全く興味がない。いや、厳密に言えば要因に心当たりはあるのだが、改善するよりも銃殺隊で脅す方が効率的だと判じているのだ。だから脱走が起きるのは銃殺隊が足りないからだと、大真面目に彼らは判断する。「困りました。すでに、収容所に残っている人員では到底足りません。人員を増員する必要があります。」「わかってはいるがね。君、今必要なのだよ。」足りませんでおわるのが、無能な官僚主義的硬直性であるとするならば。少なくとも、内務人民委員部は足りないものを補うための創造性を持ちあわせている。ちなみに。持ち合わせていなかった前のロリヤの秘書官はめでたくシルドベリアで再研修中だ。内務人民委員部は、無能を扶養し国家に損害を与えるほど堕落していないのである。そこは、高潔と義務感の砦なのだから。「同志ロリヤ、では政治将校達にも銃殺を行わせるのはどうでしょうか。」創造性豊かな官吏達は、しばし考えたのちに明瞭な代替案を提示した。それは、各部隊に配属されている政治将校たちを活用しようというものだ。「はて?銃殺の権限は与えていたのではないのかね?」「明文化されておりませんでした。この際、反動的将兵の罷免権に加えて銃殺権を加味すべきではないでしょうか。」「ふむ、そうすれば内務人民委員部の銃殺隊がかかわるべき案件が減らせる上に効率も良いな。」意見に耳を傾けていたロリヤはその意見に理があることを即座に認める。同時に、政治将校らに対して慣習的に認められてきた権利と職務を明文化することで確実に履行できるように協力すべきと決断。仕事の早いロリヤは、即座にその命令書の作成を指示。間髪をいれずにでき上ってくる命令書にサインし、遂行を命じる。そして、ロリヤはテキパキと事務仕事を行うと届けられた書類の中から厳封された一つの封筒に手を伸ばす。厳封されたその封筒は、ヨセフグラードに個人的に潜らせているチームから届けられたもの。まさに、数日前からロリヤが首を長くして待ち望んでいたものだった。「・・・ふむ、素晴らしい仕事だ。」届けられた報告書は、とある帝国軍部隊の動向についてまとめられたものだった。調査報告書、つまりは、敵情の分析という仕事ならばなるほど軍情報部でも良いのだろう。だが、ロリヤが欲しているのは無味乾燥な軍の報告書ではない。無能な連中ときたら、サラマンダー戦闘団の事を恐れるばかり。ロリヤにしてみればいちいち、その脅威について教えてもらわずとも知悉しているつもりだ。なにしろ、モスコーを直撃されたことすらある。そんな連中の恐ろしさを、いちいち無能な軍情報部に訊ねるだけ時間の無駄。仕方がないので、ロリヤは自分で特別チームと大量の要員を手配すると調査に取り掛からせている。命令はシンプルだ。『ターニャ・デグレチャフの追跡調査』実質的にただこれだけのために、対外情報収集局に新たな課を立ち上げて追跡調査を行わせている。名目こそ、対外情報収集だが要するにロリヤとってみれば彼の女神を追跡させることに意味がある。超長距離から捕えられた彼女の写真は、収容所からカメラの腕が良いという理由でカメラマンを出した甲斐があった。そう思いつつ、金髪を風に委ねながら歌うようにライフルとバヨネットを繰り出す彼女の写真をロリヤはファイルする明白な意思のこもった表情。澄み切った瞳。決意を噛みしめるかの様に結ばれた唇。全てが、全てが狂おしく渇望の対象だ。穢れを知らない無垢なイデア。恐れを知ることのない戦乙女。ああ、手に入れることをどれほど望んだことか。ほとんど、わが身を焦がさんばかりの熱烈な恋だ。予想通りに、あの女神は、理想は、イデアは、彼の用意した鳥かごに飛び込んできた。まさに運命を感じてしまう。いや、まさにこれこそが運命に違いない。「悪くない。調教するのが、本当に楽しみだ。」場所は用意した。ヨセフグラードだ。歓迎のための手筈も整えた。必要があれば、もっと大量の軍を送り込むことも辞すつもりはない。逃げ出す馬鹿どもを押しとどめるための手配は完了している。すでに大量の内務人民委員部の要員を送り込み政治将校も動員するつもりだ。ああ、本当にその時が待ち遠しい。ヨセフグラードにて友軍が大量の連邦軍に包囲されたと耳にした瞬間のB集団司令部の反応は迅速だった。少なくとも、包囲していた敵部隊を可能な限り迅速に撃破。そして、手隙になった部隊をかき集めて解囲のために一軍を捻出してのけた力量は賞賛されてしかるべきもの。誰もが、誰もが連邦軍予備兵力の強大さと重厚さに驚きを隠し得ない状況下でそれをやってのけたのだ。誇ってよい。後世の史家からは、その再編が悉く賞賛されていることを思えば彼らの偉業が理解できるだろう。ともかく。当人達にしてみれば、我武者羅に行った再編と救援部隊の派遣。初め、彼らはこれによって『奇襲された』ヨセフグラードを救援するつもりだった。だが派遣された救援部隊と現地部隊の報告から、即座に見方を変える羽目になる。信じがたい規模の敵部隊。信じがたい規模の火力投射。そこにあったのは、彼らが撃滅したと思いたかった連邦軍の予備兵力。当初の予定とは裏腹に、単なる救援部隊ではヨセフグラードは持ちこたえ得ないことが明白だった。かくして、彼らは決断を迫られることになる。再び、決戦を挑むべきだろうか?それと、今すぐに残存部隊をヨセフグラードから撤退させるべきだろうか?だが、戦局はそもそもそのような悠長な議論を許さない程、逼迫してしまっていた。『物資払底、残存弾薬些少、速やかなる救援を要す。』状況がどうにもならないと司令部で理解されるまでには、ほとんど時はかからずに済んだ。補給の断たれたヨセフグラードの部隊はほとんど身動きが取れないほど敵部隊に包囲されていた。連絡線すら遮断されては、戦争どころではない。かくして、最も迅速に身動きが取れ、なおかつ敵の重囲を突破し得ると期待される部隊がともかく先鋒として急派されることとなる。そう、ルージエンフ突出部戦で苛烈無比と恐れられた突破力を誇るサラマンダー戦闘団が、だ。そんな事情で、ターニャの率いるサラマンダー戦闘団は数日前に重包囲を突破し何とかヨセフグラード司令部との連絡を回復。以後、友軍増援部隊来援まで防衛線維持に従事させられているところだった。来る日も来る日も、コミーの大軍を機械的に相手していれば誰でも嫌になるに違いない。なにより、史実で全滅するか降伏するかを迫られるようなところだ。正直言えば、あまり長く滞在したいところでもなかった。つまり、理由が付けられるならば逃げ出したくてたまらない。外見とは裏腹に、非常に臆病なことを考えているターニャにとって逃げるための口実は非常に重要だった。なにしろ、敵前逃亡も死刑だ。銃殺刑が待っているのだ。まあ、本当に追い詰められたら究極の決断で亡命も考えることになるのだろう。だから。「・・・中佐殿、有線が全て断たれたため魔導将校による伝令で連絡線を維持したいとのことですが。」その話を司令部から寄こされた若い伝令将校が持ちこんできた時。鉄面皮の下では、思わずしめたものだと叫んでいた。連絡線維持のためにヨセフグラードをたびたび離れられる。そのような伝令という名目であれば、外に出ることも叶う。ごたごたしているうちにヨセフグラードが落ちそうになれば、戻らねば良いだけだ。だが、そこで飛び付くのは少々まずい。内心では、その提案を飛び上るほど喜びつつも敢えてそこで抑制。むしろ、反対だと言わんばかりにしかめっ面を浮かべて口を開く。「論外だ。単騎でのろのろと飛んでみろ。的以外の何物でもない。」実際、将校による伝令といえどもぐるりと囲まれているのだ。そう簡単にできることではない。反論の理由自体は、大変真っ当なものだった。友軍支配地域を横切ってくるだけで散々敵弾を浴びかけた若い伝令将校にも良く理解できる。それだけに、若い伝令将校は護衛を付ける必要性について即座に理解し提案した。「小隊ではどうでしょうか?」「無理だな。どうせ出すなら、ヴァイス大尉の一個増強大隊全力出撃しかあるまい。」小隊というのは、一応可能性はあるだろうと専門家としてターニャも認めるに吝かではない。だが、小隊ではターニャが加わる口実が乏しいのだ。小隊の伝令任務に、わざわざ戦闘団長が加わる必要性はどこにある?そうなれば、逃げがせる機会を逃しかねない。ならば。いっそのこと。いざという時の盾も兼ねて大隊を引き連れていく方がよほど賢明だった。「で、伝令任務に増強大隊を宛がうおつもりですか?」「連邦の包囲は分厚い。浸透しようにも、単騎では望めない。強行突破以外に道はないと判ずる。」口にしている自分が、難しい顔を造れているか。そう思いつつ、ターニャは淡々と数学の解法を解くかのような口調を維持して理を説く。事実、重包囲下にあるのだ。V○Bでもあればともかく、単騎で突破できるというのは夢物語。小隊を付けても、捕捉されれば全滅か生き残りが片道くらいはいけるかというところ。「御尤もではありますが・・・。しかしこの状況で、大隊を引き抜くのは許容できないかと。」「・・・よろしい。ならば、私が行こう。」だが、ここまで渋れば。口実として難しい事、戦力が必要なことを散々力説しておいたのだ。力量がある魔導師ということならば、自分はネームド。ライン戦線で、あの信じられないような資源と人的資本の浪費を生き抜いた古参兵。つまり、参加するにやむを得ない任務だ。通常であれば、誰でも眉をひそめるに違いない。なにしろ、統合部隊の指揮官がその場を離れるのだ。歓迎されないどころか、糾弾されても不思議ではない。だが、ヨセフグラードほど重包囲下におかれ戦力が枯渇している状況であればどうだろうか?指揮官の行うべきことは、せいぜい部隊の一員として眼の前の難敵とぶつかるほかにできることが乏しい。なにしろ、機甲部隊は四六時中敵と対峙。降下猟兵は大隊長に直卒されて機甲部隊と共に防戦に努める一方だ。魔導師部隊は、ヴァイス大尉が直卒してすでにターニャが面倒を見る必要はない。「この状況だ。私が抜けても、戦闘団は戦える。一方で、突破できるのは私くらいだ。」そういう状況ならば、一番可能性があるのは自分だとターニャは自負している。忌々しい精神の屈辱を耐えるならば、瞬間的な火力で敵をなぎ払う公算もあった。護衛として使える盾が無いのは、本当に不安だ。弾除けなしで戦争に赴くのは、賢いやり方でもない。だが、合理的に考えるとこれは非常時だ。通常のやり方に拘泥するのは、応用性と柔軟性のないアホだ。加えていうならば、恐怖に囚われて思考を停止するという愚行でしかない。本当に何が危険かという事を合理的に考えれば、死地から逃げることを選ぶのだ。それこそが、合理的結論である。「本当にそう伝えてよろしいのですか?」もちろん、それを悟られては職務の誠実な履行という点で経歴を傷つける。ここら辺には、若干の配慮がいることをターニャは知悉していた。苦渋の決断だという表情の裏腹で、計算を働かせる。如何にも、しぶしぶと。相手が望んだというような形式で許可を取らねばならないのだ。「もちろんだ。同意するのであれば、その旨電信で『同意』とだけ送るように。」つまりは、命令される必要がある。後は、それを上が公認すれば大手を振ってひっそりと逃げるだけ。まずB集団司令部にコンタクトが取れれば帰る時は最低でも護衛くらいは付くだろう。駄目ならば、危険すぎて戻れないと主張してみても良い。いや、戻るのは危険すぎるだろう。私にはたけーださんの包囲をもう一度潜り抜けようという気持ちは微塵もないのだ。危険だから残れと言われるだろうから、それ幸いとB軍集団司令部についていけばよい。ならば、片道突破するだけでよいのだから随分と可能性が見込める。部下を見捨てていくのは、心苦しいといえば心苦しい。だが、これは法律用語でいうところの緊急避難だ。板に1人しか掴まれないとすれば、仕方ないではないか。それとなく、周りに別れでもいうかという気分。だから、短くない付き合いであるヴァイス大尉を呼び出す。逃げ出すからには、それを糊塗しなければならないという事情もある。どの道、留守にするという事で呼び出し事後策を検討させねばならない。ならば、最前線で戦闘しながら対話するよりは後方にある指揮所で話す方が安全だろうと判断。そうして、呼び出したヴァイス大尉がようやく指揮所に顔を見せた時。大変タイミングの良いことに通信符牒を解読した通信兵も報告のために入ってきた。「・・・司令部は同意するそうです。速やかに進発せよと。」「よろしい。手筈を整える。ヴァイス大尉、留守中は貴官に任せる。」まさに、自由への逃走。いや、自由の回復というべきだろうか?どちらにしても、喉から手が出るほど渇望していたソレが許された。この気持ち、免罪符を得られたという事で思わず叫びたいほどだ。もちろん、教養ある人間としてそうはしたないことをするわけにはいかないが。「危険すぎます、中佐殿。」一方で、傍で聞いていたヴァイス大尉は大変憂慮してくれる。まあ、確かに行って帰ってくるのは危険すぎるだろう。片道だけでも、かなり厳しいのは事実だ。「承知している。未明にかけて敵の警戒が乏しい時間帯を狙うつもりだ。」もちろん、死ぬつもりは微塵もない。当然、安全には万全の配慮をとまではいかずとも可能な限り気を使う。それに、戻ってくるつもりはほとんどないのだ。「はっ、ですが・・・。」「なるべく、早く戻るつもりだが留守中は貴官に指揮権を委ねる。」「はっ、お任せください。」勢いよく肯定してくれる彼を見ると、やはり心が痛む。こんな非情な決断を下さざるを得ないとは。優秀な人的資本をこんなところに置き捨てていくのは、人類の収支にとって赤字に違いない。シカゴ学派的に考えるならば許されない所業だ。「・・・やれやれ。救援が間に合えば良いのだが。」心の底から、友軍部隊の救援が間に合う事を願う。コミーを吹き飛ばすに足る増援があれば、その力で持ってこの未来ある人的資本を救える。だが、史実では間に合わなかったのだ。せめて、伝令で増援の必要性を訴えることぐらいは誠実に行うべきかと思い定める。善良な一個人として、できることを素直に行うのだ。「やはり、厳しいでしょうか?」「いざとなれば、離脱も検討するべきだろうな。」そう、後は彼らの自助努力に期待するほかにない。まあ軍法無視は気がつかない振りをしてやっても良いだろう。それくらいは、柔軟性もあるつもりだ。それに、それならば自分の侵すべき危険もそれほど多くはないのだから。あとがき(`・ω・´) bやってやれないこともありませんでした。ほら、あれ、アレです。追い詰められると、なんかこう別の事やりたくなりませんか?更新してみるとか。いや、結局どっちも間に合わせました。(`・ω・´) やってのけた仕事が雑かもしれないけど、ともかくやってのけた・・・。>よむろみ様伏線をぼちぼち拾っていこうと思っております。>774様これからも、アレな作品ですがよろしくお願いします。あと、外伝の続きはさすがに書けませんでしたorzでは、今日は逝ってきます。追伸誤字修正しました。ZAP