とっぷりと陽も落ち、濃紺の天蓋に碧い月の輝く夜のバストゥーク。
バストア海から漂う潮の香りに鼻をくすぐられながら、俺は暗い建物の陰に息を潜めて身を隠していた。冷たい石壁の感触が鎧越しに伝わってくる。
四方は見る限り似たような、石造りの平屋に囲まれている。窓は小さく、入り口は大きな開き戸と、小さな勝手口がそれぞれ建物に備え付けられている。
港区の倉庫街。
ほとんどの倉庫から明かりが失われている中、かすかに窓から明かりが漏れている倉庫の向かいで、俺は陰に潜みながらその倉庫を睨みつけていた。
唯一人の気配を感じさせるその倉庫に、今のところ動きはない。
どの倉庫からも作業員が引き上げ、戸口を閉め切って明かりを落としてる中、いまだ煌々と火を灯しているのが一見奇妙ではある。だがこの倉庫はむしろ夜の方が忙しいのだと、レオンハートから聞き及んでいる。
「つまりそこが天晶堂の倉庫ってことだ」
倉庫から目を離さないまま、一人呟く。返答はなく、囁きは潮風に浚われていった。
今俺が見張っている倉庫こそ、天晶堂の所有するそれであり、同商会のバストゥーク支店でもある。
天晶堂は、ヴァナ・ディール全土にネットワークを持つ特殊な商業組織だ。
表通りに店舗を持たず、一般的にその存在を知る人間も少ない裏の組織である。だが彼らの眼鏡にかない幸運にも会員となれた人間は、天晶堂の持つ幅広い通商ルートからあらゆる商品の売買を行うことが可能だ。
それこそどんな希少価値の高い品も、市場には決して出回らない禁制品の類も。
冒険者たるプレイヤーからすると、ストーリー上でお世話になるちょっと変わった商業組合程度の認識が強いだろうが、その実態は海賊や盗賊とも平然と取引を行う危険な犯罪組織なのだ。ついでにゲーム中、冒険者に犯罪行為の片棒を担がせるようなクエストも出してくるので、なかなか食えない連中だ。
冒険者として活動する上でコネを作れれば心強いが……敵に回せば非常に恐ろしい相手になるだろうことは想像に難くない。
もしも俺の想像が正しければ、今回の一件には彼らが関わっている。少なくとも、彼らの取り扱う商品が。
ヴァラの安否が心配だ。もし既に天晶堂の手に落ちていたら。それともすべて俺の考え過ぎならどれほど良いか。
いや、今はそれを考えても埒があかない。とにかく報告を待って……。
「ん、来たか」
意識を目当ての建物へ戻すと、ちょうどその陰から小さな人影がそそくさとこちらに向かってくるところだった。
「どうだった、メル?」
通りを渡ってこちらの建物の陰に転がり込んできたのは、タルタルの魔道士、すっかり俺の相棒として認識されているメルだ。
モグハウスで寝こけていたのだが、いささか切迫してきた事態に、申し訳ないと思いながらも叩き起こさせてもらった。俺もレオンハートも隠密行動には向いていなかったし、ユーディットもタバサもどこにいるか分からなかったのだ。許してもらいたい。
「そのヴァラって子が捕まってる様子はないね。商品の花がないだとか、1人行方をくらませてる仲間がいるとかそんな話をしていたよ」
俺はメルの報告に眉を顰めた。
話を聞くに、今のところヴァラの存在が彼らに露見している様子はない。だがヴァラを追っていた人間がいる以上、誰かしらは彼女が花を持っていると考えている奴がいるはずだ。
それに、いなくなった仲間……もしかすると、かばんを取り違えた張本人はそれを仲間に報告してないのではないだろうか。
だとすると、あまりいい状況ではないかもしれない。
自らの失態を隠蔽したいと考えているのであれば、そいつがヴァラを捕えたときになにをしでかすかわからない。
脳裏にいやな結末がちらつき、頭を振ってそれを払う。
「それにしても、君もよくよく妙なことに関わってるね。本当なのかい、天晶堂の品物をその子が持ってるっていうのは」
「たぶんそこは間違いない。どうしてそうなったかは想像でしかないけど」
あくまで俺の予想だが、つまり事の次第はこうだ。
ヴァラとぶつかってかばんを取り違えたという男。状況から考えて、そいつは天晶堂の構成員の1人だったのだろう。取引の前だったのか後だったのかは判らないが、とにかくそいつはうっかりと商品の入ったかばんをヴァラのものと間違えてしまった。
それに気付いたヴァラはたいそう落ち込み、見かねたブリジッドが俺たちにかばんを取り戻すように依頼する。ここまではいい。
状況がややこしくなった要因は、その商品というのが夢幻花だったことにある。
だいじなものをそっくり無くしてしまったヴァラは、何かの拍子にかばんの中身を見てしまい、そして驚喜したことだろう。かばんには、真っ赤な花が入っていた。それもヴァラの好みにばっちり当てはまる"センスある"一品が。
これを新しいだいじなものにしよう、彼女はそう考えたのだろう。一片の悪意もない子供らしい無邪気さで、それが犯罪組織の売り物だとも知らずに。
そして今、ヴァラは追われている。かばんを間違えたことに気付いた男、あるいはもしかしたら、天晶堂の構成員たちに。
「そのヴァラって子が行きそうなところとかは判らないのかい?」
「そっちはレオンがあたってる」
今のところ、ヴァラは依然として行方知れずだ。彼女の家にも行ってみたが、まだ帰宅してはいなかった。
事態を知らない母親もいたく心配しており、俺たちはこちらからも正式に彼女を見つけてほしいと依頼を受けるに至っている。
そこで俺たちは二手に分かれ、捜索をすることになった。俺は天晶堂を、レオンハートは母親から聞き出したヴァラの行きそうな場所を探す手はずなのだが……どうやらこちらは空振りに終わりそうだ。
「色々と気になることはあるけれど、当座の方針はあるのかな、リック?」
「最優先はヴァラの身の安全の確保だ、これは揺るがない。ヴァラのかばんに関しては、悪いけど二の次」
「天晶堂の件は?」
問題はそこだ。
「返せるなら花を返して終わり、にしたいところだけどな」
正直それも難しいという気はしている。
まずヴァラが持っていると思われる花の状態がわからない。夢幻花には非常に枯れやすいという設定があったはずで、生花をそのまま商品にしてるとも考えにくいが、もしモノが悪くなっていれば返品では済まない。
それに相手は立派な犯罪組織だ。
彼らにも面子というものがあるだろう。
それに子供とはいえ、非合法な取引の一端に触れてしまった相手だ。はい返します、ごめんなさい、で何のお咎めもなしに見逃してくれというのも、いささか都合が良すぎる。俺たち冒険者が関わってしまえばなおのこと、である。
「ただはっきり言っておくと、ヴァラの安全さえ保証出来れば、俺は天晶堂の商売を邪魔するつもりも、彼らとことを構えるつもりもない」
「闇取引については見なかったことにするってこと?」
「そうしたい……メルがよければ」
ひとつには戦力的な理由がある。
向こうは組織、こちらは個人だ。万が一敵対する羽目になれば、明るい結末が待っている公算は低い。
よしんば戦闘を切り抜けたとしても、その先ずっと見えない敵に追われることになるかもしれない、なんてのはお断りだ。そもそも俺の対処できる"戦闘"になるとも限らないのだ。
それに、犯罪に加担するつもりはないが、もし接触するのであれば天晶堂とは友好的な関係を築いておきたい。
今後俺の身の振り方がどうなるのかにもよるが、少なくとも冒険者を続けていく上で、天晶堂の持つネットワークを利用できるならそれは大きなアドバンテージになることは間違いない。
彼らと敵対したところで、今の俺にはなんらメリットがないのだ。
そんなわけで、ここで正義感も露わに、当局に通報するべきだ! とか言われると閉口せざるを得ないのだが……幸いメルはその辺りの機微には聡い。
「それが賢明だろうね。天晶堂、ボクも噂は聞いたことがあったけど、あまり下手に関わりたくはない相手だよ」
「巻き込んで悪いと思ってる」
「リック? ボクは巻き込まれたんじゃないよ、自分の意志で関わってるんだ。君の仲間として」
「そう言ってもらえるとありがたいよ……」
そうこう話している間にも倉庫の方を見張ってはいたが……なにかしらの動きがある気配はない。
静かなものだ。向こうの倉庫の中にも人はいるはずだが、厚い壁に阻まれて中の音も気配も漏れ伝わってはこない。
出てくる者もなし、入っていく者もなし。
これ以上ここを張り込んでいても、ヴァラに関わる動きは起きそうにない。
そうと見切りをつけ、身を潜めていた物陰をそっと離れた。
だいぶ時間が経っている。これ以上無駄には出来ない。
「よし、移動しよう。レオンと合流して、」
「見つけたわよ!」
静寂を貫く少女の高い声に、弾かれるように顔を上げた。
まさかと思うが今のは。
「ブリジッド!?」
息を切らしながら物陰に駆け込んで来た少女は、紛れもなくブリジッドだ。ほつれた亜麻色の髪が数本、頬に貼り付いている。よほど急いできたのだろう。
てっきりヒルダさんのところにいると思っていたのに、なんだってこんなところに。
「何してるんだよっ、危ないだろ1人で」
「そんなことどうでもいいのよ!」
「そんなことってお前な……」
ただでさえ陽も落ちてから子供を連れ回して、ヒルダさんにお小言いただいたばかりだというのに。
しかもここらは、街の中でも灯りが少なく、建ち並ぶ大きな倉庫のせいで月明かりさえも途切れがちな薄暗い地区だ。すぐ目の前には正真正銘ヤバい連中の拠点もある抜かりなさ。
そんなところを女の子1人でうろついて、何かあったらどうするつもりだ。ヴァラに続いてブリジッドまで行方不明などということになったら目も当てられない。
というお説教をする間もなく、ブリジッドは急ききって口を開いた。
「だから、見つけたのよ!」
「見つけた、ってもしかしてヴァラのことか?」
だがブリジッドは首を横に振る。
ってことは、見つかったのは……。
「赤い鎧の男がいたの、私も顔を見たけど、間違いなくぶつかってきた男よ。今レオンハートがあとをつけてるわ」
「本当か!? 場所は?」
「鉱山区、早く来て!」
事態が大きく動き出す予感に駆られるまま、俺たちは少女の案内に従って駆けだした。
頼むから無事でいてくれよ、ヴァラ。
以前来たときと相も変わらず、鉱山区の路地は狭く薄暗く、入り組んでいる。
迷いなくひょいひょいと建物の間を駆け抜けるブリジッドについて回っているが、正直俺にはもう自分がどこを通っているのかさっぱりだ。時折、道というよりは壁の隙間のような場所を通るものだから、そのたびに鎧を着た体をねじ込むのに難儀する。
加えて灯りに乏しい今の時間、半地下になったこの辺りの道には、月明かりさえ満足に届かない。多少目が慣れたとはいえ、俺にはブリジッドの小さな背を見失わないようにするので精一杯だ。
「ホントにこっちでいいんだよな、ブリジッド!?」
「ヴァラに教えてもらった抜け道よ、間違いないわ。もうすぐ鉱石通りに出るはず」
確かにヴァラ情報なら道は繋がってるかもしれないが、子供が通ること前提の道ばっかりってのは、ちょっと盲点だったな畜生!
「ええい、落ちるなよ、メル!」
「大丈夫、しっかり掴まってるから!」
首に回された小さな手に、きゅっと、絞まらない程度に力が籠もるのを感じる。
どうしようもなくコンパスの小さいメルは、ヒュームである俺や、子供とはいえこの辺りを熟知しているブリジッドに自力で走って追い付いてくるのは、はっきり言って無理だ。そこで致し方なく、彼は俺の背中でくっつき虫になってもらっている。
にしても軽い。タルタルとはいえ、こうも羽根ほどの重さも感じられないと、もっと食って大きくなれと言いたくなってしまう……なんて、無関係な方に脱線した思考を呼び戻すように、メルが前方を指差しながら耳元で叫んだ。
「リック、前!」
「おぉっ!?」
息の詰まるような暗く狭苦しい路地の先は、今いる小路より多少は開けた、鉱石通りへとぶつかっている。ブリジッドの案内は正しかったようだ。
その壁と壁の間、辛うじて道を照らす月光の中に見えたのは、鎧姿のヒュームの男が駆け抜ける瞬間。そしてそれを追う、大きなガルカの姿が目に飛び込んできた。
大斧を背負った姿は間違いない、レオンハートだ!
路地を飛び出し、男を追うレオンハートに併走する。
「どうなってるんだ、レオン!?」
「感づかれた」
「何やってるのよ、おばか!」
レオンハートの頭をひとつはたいたブリジッドは、なんと器用なことに、路地を抜けるなりぴょんとガルカの背に飛びつき、メルと同じようにその大きな肩にしがみついている。
「すまん」
素直に謝るレオンハートは、どことなく叱られた犬のようでなんだか可笑しかったが、残念ながら今それを笑っている余裕はない。全力で走りながらも息切れしない肉体には感謝だが、一瞬でも気を抜けばすぐに男を見失いそうだ。
月明かりに辛うじて赤と判る鎧の男は、時折俺たちを振り返っては目に見えて焦った様子で逃げ続けている。
「あいつで間違いないんだな?」
「そうよ、あのセンスのない鎧、見間違えないわ!」
辛辣なブリジッドの言葉は、しかしファッションに一家言ある彼女ならばこそ見誤ることはないだろう。
道ばたの木箱や廃材を散らしながら逃げる男。
それを踏み越え、あるいは踏みつぶしながら追う俺とレオンハート、と背中の2人。
「話を聞きたいだけだぜ……だから待ちやがれっての!」
それを聞き入れるはずもなく、やがて男は一件の建物に逃げ込んだ。
この界隈には人の住んでいない空き家が比較的多い。ガルカの多い鉱山区でそうというと、転生の旅に出たのか、それとも鉱山事故で帰らぬ人となることが多いのか、真偽は分からないが、とにかくここらには住民のいない家屋が散見される。
男の逃げ込んだ先はやはりそういった廃屋のひとつのようで、戸口を塞いでいた板材が木戸の前に放ってある。おそらく引き剥がして不法侵入したのだろう。中からはランプと思しき灯りが漏れている。
俺とレオンハートは、戸口の両脇で一度足を止めた。背負っていた2人を下ろして中の様子を窺う。
人の気配は、少ない。中には先ほど逃げ込んだ男と、その男が怒鳴りつけている誰かがいる。友好的な様子ではない。
レオンハートと顔を見合わせ、ひとつ頷きあう。
タイミングを合わせて、戸を蹴り破って廃屋の中に踊り込んだ。
「な、なんなんだよ手前ら! 人を追い回しやがって!」
室内に飛び込むと、突然の追走と襲撃に泡を食った様子の男が喚き散らした。赤い鎧は確かに天晶堂の一員のものだ。
その傍らに、縄で手を縛られたミスラの少女が座り込んでいる。少女は突如現れた俺たちに身を堅くしていたが、一緒に入ってきたブリジッドの姿を見るや、黒目がちの目に涙を浮かべた。
「ヴァラ!」
「ブリジッドちゃん、助けてぇ!」
間違いない、あの子がヴァラ・モルコットだ。だがようやくの思いで見つけた探し人の姿に喜ぶ暇はなかった。
男はあろうことか、ヴァラの体を抱え上げると、その首筋に腰から引き抜いた短剣を押し当てた。ひっ、とかすれた悲鳴が上がる。あの野郎、小さな女の子になんてことを。
「おい、その子を放せ!」
「うるせぇ、手前ら何者だ、俺に何の用だ!?」
男はひどく混乱した様子で喚き立てている。前振りのない強襲に混乱しているのか、あるいは彼自身、ずっと警戒して神経を削っていたのかもしれない。組織の追っ手というやつに。
「落ち着け、あんたに用はない。俺たちが探してたのはその女の子だ」
「んだとぉ……?」
男の顔が怪訝なものに変わり、じろりとねめつけられた視線にヴァラが怯える。すると男は、なにか得心がいったような、口の端をひきつらせた笑みを浮かべた。
「そういうことか、目当ては種だな?」
「はっ?」
「どこから嗅ぎつけたか知らねえが、そうはいくもんか。こいつをブルゲール商会に届けなけりゃ、俺の首がなくなっちまう!」
「おいおい……」
混乱を通り越して完全に錯乱しちまってやがる。やっぱり商品を紛失したこと、天晶堂に報告をせず、1人で片を付けようとしていたのだろう。そこに俺たちが現れてしまったせいで、緊張が爆発してしまったのか。
「そんなものどうだっていいのよ! いいからヴァラを放しなさいよこのうすらトンカチ!」
「よせブリジッド」
「黙れガキ! そこのチビも余計な真似するんじゃねえぞ!」
くそ、意外と目端の利く奴だ。男の恫喝を受け、俺の陰で魔法を唱える準備をしていたメルが姿を晒す。こうなったらどうにか男を宥めるか、そうでなければ取り押さえるしかないが、せめてヴァラの安全を確保した上で動きたい。
馬鹿正直に全員が姿を見せる意味はなかったじゃないかと気づくが、まさに後悔先に立たず。今となっては後の祭りだ。
それにしても。
「聞けよ、俺たちは本当にあんたにも、その種とやらにも用はないんだ。その子さえ無事に戻るなら、あとはあんたの好きにすればいい」
「その手には乗らねえぞ! このガキが種を隠してるのは分かってるんだ!」
あ、こいつ。
どうも追い詰められすぎじゃないかと思ったら、まだヴァラからモノを取り戻してないのか。ヴァラを捕まえたのはいいが、種──おそらく無限花のだろう──の在処が分からず手をこまねいていたということだろうか。
ヴァラもヴァラでさっさと返してくれてりゃ、と思わなくもないが、今彼女が無事なのも種を握っていたからかもしれないと思うと、怪我の功名か、幸か不幸か微妙なところだ。
しかしどうする。
交渉の糸口を掴もうにも、男がこっちの話を聞いてくれるつもりにならなければどうしようもない。向こうは完全にこっちを敵だと思い込んでいる。そこが解消できなければ。
「そこをどけよ! このガキがどうなってもいいのか!」
「ひっ!」
「おいよせ!」
男の短刀をヴァラの首筋に押しつけられる。
言ってることが滅茶苦茶だ。ヴァラに何かあれば困るのは向こうも同じだというのに。だがもうひとつ間違えれば何をしでかすかわからない。
「いい加減にしろ、ザムエル」
対処を考えあぐねいていたところで声をあげたのは、油断なく男の挙動に目を光らせていたレオンハートだった。
ザムエルと呼ばれた男は、今レオンハートに気付いたように目を瞬かせ、その存在を認めるといかにも憎々しげな表情を露わにした。
「また、手前かよ、レオンハート……!」
「おい、知り合いか?」
「ユーディットのな」
どういう繋がりだか知らないが、それはもしかするとこの状況を打開する光明になるかもしれない。それを肯定するように、ザムエルはレオンハートの登場にたじろいでいる。
ここはレオンハートに任せてみよう。ひとつ目配せを交わし、俺は半歩後ろに引く。
入れ替わるようにして前に出たレオンハートが、腹の底に響く低い声で話し出した。
「早まるな、ザムエル。すぐ頭に血が昇り過ぎると言われなかったか」
「うるせえ、何だって手前が」
「我々が用件があるのはその少女だけだ。種とやらも、その子が持っているなら返そう」
「ぐ……」
同じことを言っているはずなのに、俺の時とは打って変わってザムエルは明らかに怯んでいる。顔見知りらしいというのもあるだろうが、声に籠もる圧力が違うというか、静かな語り口なのに相手に響かせる力がある。
ザムエルは俯き、かすかに震えている。短剣はヴァラの首筋から離れ、それを握っていた腕はだらんと脱力している。
これはいける、か……?
「その子を渡せ」
相手が戦意を失ったと見て、レオンハートはもう一歩前に出る。ザムエルは反応を返さない。もう一歩前へ。
ザムエルが動いた。予想外の方向に。
「ぬっ!?」
「にゃわぁっ!?」
甲高い悲鳴を上げながら、ザムエルに投げ出されたヴァラの小さな体が宙を舞う。
そちらはレオンハートが受け止めて大事には至らないが、こちらはそれどころではなかった。
「どけぇぇぇぇ!!」
腰だめに短剣を構えたザムエルが、倉庫の入り口に向け……つまりその前に立つ俺に向かって突っ込んでくる。
「ぐぉ……ッ!?」
一瞬ヴァラの方に気を取られたのがまずかった。咄嗟に動いた体は一拍遅く、いつかのように相手を投げ飛ばそうとする前に、俺とザムエルの体は完全に密着していた。
体重の乗った重たい衝撃が腹に響く。
「リック!?」
「が……ッッ!!」
俺がザムエルの体を押し退けるのと、岩のような拳が振るわれたのは同時だった。
レオンハートの強烈な一撃を顔面に受け、ザムエルの体はきりもみしながら吹き飛び、廃屋の壁に激突して崩れ落ちた。気を失ったのか、そのままぴくりとも動く気配はない。
「同じ過ちを繰り返すな、愚か者め……」
小さなつぶやきがレオンハートから漏れるのを聞きながら、俺もまた壁に背を預けてへたり込んだ。膝に力が入らない。情けないことにすっかり腰が抜けてしまった。
「リック、傷は!?」
「し、しっかりしなさいよ! 死んじゃダメよ!!」
へたり込んだ俺の姿に、泡を食った様子でメルとブリジッドが駆け寄ってくる。
わき腹を押さえる手に、冷たい感触。正直死んだ、と一瞬思ったのだが。
「は、はは」
「どうしたのリック、早く手当しないと!」
「慌てるな」
「けどあんなに深く……!」
縛られていたヴァラを解放してやりながら落ち着いた態度を崩さないレオンハートに、珍しく声を荒げたメルが噛みつく。
あんなに深く刺された。確かにさっきの場面を見ていたならそう思うだろう。っていうか俺もそう思ったし。
「冒険者たるもの、いかなる時でも備えるべし、だな……鎧着てて助かったぜ」
「え?」
恐る恐る手をどけると、その下からまっさらな銀色の板金が姿を見せる。
「流石はゲンプ謹製、傷ひとつ付いてない」
「あ……も、もう、驚かせないでよリックってば!!」
「いやすまん、俺も一瞬やられたと思っちまって。とにかく無傷だよ」
「ひ、人騒がせねまったく!」
切り傷ひとつ追ってないと分かったとたんに怒られる俺。安堵の裏返しなんだろうが、もうちょっと素直に表現してほしいところだ。
「本当に肝が冷えたよ、リック。多少の傷なら癒せるとはいえ……無事でよかった」
こっちは少し心配性な気もするが。心底安心した表情を浮かべるメルのフードを被った頭に軽く手を置く。メルは心底安心しきった様子で、その手に頭を委ねてきた。
「おう。まあ俺も自力でケアルくらい出来るし、そんな慌てなくても」
「ん……安易に魔法に頼らないの、回復魔法だって万能じゃないんだよ。そうでなくも、怪我しないに越したことはないよ」
「分かってる、俺だって痛いのはイヤだよ」
さて、ひとまず状況は落ち着いたが、片付けなければならない案件がまだ残っている。
視線をメルから転じると、解放されたヴァラが、ブリジッドに泣きついている。ザムエルに拘束され、張りつめていた緊張の糸がようやく解けたのだろう。
「全くもう、素直に約束を守ってればこんな事にはならなかったんだからね?」
「う、ひぐぅぅ、だってぇ……」
「だってじゃないわよ……本当に、無事でよかった」
「ボク、怖かったよぉ……!」
そういえばこの子、ボクっ娘だったなあなどと益体のないことを考えながら、堅く抱き合う2人の少女を眺める。
ヴァラはもちろんのこと、口では強気なことを言っているブリジッドの目にも、隠しきれない涙が浮かんでおり、2人を繋ぐ思いの強さが窺われた。ブリジッドも芯は心優しい少女だ。内心ヴァラの安否を思って気が気ではなかっただろう。
そんな美少女が抱擁しあう姿は、いつまでも水を差さずに眺めていたいものだが、生憎そうも言っていられない事情がある。
「ブリジッド、邪魔するようで悪いんだが」
「ッ! そ、そうね」
俺の声に慌てて体を離すブリジッド。涙を誤魔化すように目許を擦っている。赤くなって余計目立つぞ、と思うが、それを指摘されるのも恥ずかしいだろうからそっとしておく。
そして、まだぐずっているヴァラに向き直る。どうにか膝に力を入れて立ち上がり、彼女の前にしゃがみ込んで視線を合わせる。
「ふ、ぅぐ……」
「大変だったな、もう大丈夫だよ」
宥めるように、メルにしたように軽く頭を撫でてやる。警戒されるかとも思ったが、ヴァラはくすぐったそうにそれを受け入れた。
「えっと、お兄さんたちは?」
「冒険者さ。ブリジッドと、君のお母さんにも君を捜すように依頼されてる」
「ぅにゃ……ママ、怒ってる?」
「まさか、すごく心配してたよ」
それを聞き、ヴァラは安心したように息をついた。
だが続く俺の言葉に、彼女の表情が固まる。
「ただな、家に帰る前に、返さないといけないものがあるよな?」
「にぅ……それは……」
「心当たりあるだろ? 昨日拾った花の種、か?」
にぅにぅ、とヴァラは気まずげにもじもじしている。些か可哀想だとは思うが、こればかりはきっちり清算しておかなければ、後が恐ろしい。
「まだ持ってるんだろう、ヴァラ。出してくれないか?」
「で、でも、あれはボクの宝物に……集めた宝物、なくなっちゃったし……」
「わがまま言わないで、あんたそれのせいで散々な目にあったんじゃない!」
「でもぉ……」
なかなか強情な子だ。その種のせいで厄介なことに巻き込まれているというのに、まだこだわっている。
いや、もしかしたらまだなんでこんなことになっているのか理解できていないだけかもしれないが。
ため息が一つ漏れ、思わず苦笑が浮かぶ。
こうなったら、こっちも物で釣らせてもらおう。もしくは等価交換、正当な取引だ。
「それじゃあこうしよう、ヴァラ。君がその花の種を俺に渡してくれたら、俺も君に花をあげよう」
「お花を?」
「ああ、君の宝物になること間違いなしの、とっておきのやつだ」
「ほんとうに?」
「保証するよ」
ちょっとばかりずるい話だが、こっちはこの娘の好みを把握している。
FF11がまだゲームだった頃とは全く違う展開を繰り広げながら、結局このクエストの解決に必要なのが、小さなピュアレディを唸らせるセンスある一品になるとは。なんとも因果な巡り合わせだ。
それにまさか、こんな形でゲーム知識が役立つとは思ってもみなかった。
ともかく、ヴァラもどうにかそれで納得してくれたようで、渋々とだが、着ているチューブトップ型ワンピースの(真っ平らな)胸元をまさぐって、そこから小さな布袋を取り出した。
どこに隠すも何も、ずっと身に着けていたわけだ。ザムエルもとんだ灯台下暗しというか、ついぞそれを隠し通して見せたヴァラの強かなことというか。
受け取った袋の中身を確認する。指の先ほどの大きさの種が一握。潰れたり割れたりしている様子もない。
どうやら商品は無事なようだ。ほっと安堵の息を吐いた。
「やれやれ、これでどうにか一件落着、」
「で済むと思ったのか?」
唐突に響いた、俺のものでも、レオンハートのものでも、ましてや廃屋の隅でのびているザムエルのものでもない声。
ぎくりとして振り返ると、廃屋の戸口に見慣れないヒュームの男が腕組みしながら仁王立ちしている。その男の後ろからも、ガルカやタルタルを含む数人の男が現れ、俺たちを取り囲むように立ち並んだ。
何事か、突然のことに一瞬混乱しかけたが、男たちが揃って身に纏っている、ザムエルのそれと同じ意匠の赤い鎧を見て、自分たちが置かれた状況を理解した。
天晶堂。
なぜここに。
「感謝するぜ、冒険者さんたちよ。若いのと商品がそっくり消えちまってどうしたもんかと思ってたが、なかなか首尾よく見つけ出してくれたじゃないか」
「尾けてたのか」
「自分が誰かを追いかけるときは、自分も追われてないか気を付けるんだな。物知りナイトさんよ」
最初に声をかけてきた男は、にやにやといやらしい笑みを浮かべながら嘯いた。俺のことも知っているのか。いったいいつから目をつけられてた?
「タリブ……天晶堂の顔役だ」
「あいつが」
レオンハートがささやく。
覚えのある名前だった。確かバストゥークにおいて、天晶堂に絡むいくつかのクエストに登場するNPCだ。
どうやら彼は、あの倉庫の取りまとめ役の地位にあるようだ。そんな奴が出てくるとは、いよいよ笑えない。
張り詰めた空気に、ヴァラとブリジッドが震えながら身を寄せ合っている。
2人を守るように俺と、メル、そしてレオンハートが男らと睨み合うが、風向きはよくない。俺たちを取り囲む男たちは、すでに武器を抜いて臨戦態勢に入っているのに対し、こちらは柄に手をかけてすらいない。数も向こうのほうが上、ついでに姿を見せていない仲間がいないとも限らない。
「フライパンから飛び出して」
「火の中、だね」
俺の言葉をメルが継いだ。
「何をぶつぶつ言ってやがる。それより大人しく種を渡したほうが身のためだぜ」
手のひらに収まっている種に目を向ける。
別に俺自身これになんら未練があるわけではないし、もともとどうにか穏便に引き渡せないかと思っていたものだ。
しかしこの状況で素直に渡したところで、果たして俺たちは無事でいられるだろうか?
「どうした、早くよこしな」
「リック」
メルとレオンハートの目がこちらを向いている。わかっている、これを盾にして切り抜けるとか、そんなことができる状況じゃない。
となれば、考えるよりも大人しく従ったほうが身のためだ。
種の詰まった小袋をタリブに投げてよこす。
「ほら、言っておくが中身をくすねたりしちゃいないぜ」
「どうかな、確かめろ」
袋を受け取ったタリブは、それをそのまま脇にいた別の男に渡し、中身を改めさせる。
その間も、周囲を取り巻く男たちは決して俺たちから目を離すことはない。
大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。今なにを考えるべきか吟味する。この瞬間を突破する方法ではだめだ。状況を根本的に打開しなければならない。
「どうやら異常はないな。ザムエルも首の皮一枚ってところだ」
「そいつは何よりだ、俺も安心した。それで? 俺たちの処遇についても考えるべきだと思うぜ」
「……ほう?」
場の主導権は向こうにある。
だがこちらにもカードがないわけではない。
「ひとつ、この場で俺たちを始末するってのは、骨の折れる仕事になる」
これは事実。少なくとも事実にしてやる。
数の不利は大きいが、腕に覚えのある武装した冒険者が3人だ。ただみすみすとやられてやるつもりはこれっぽっちもない。
「……それで?」
「ふたつ、首尾よく俺たちを始末したとしても、あんたらは今後バストゥークじゃ相当仕事がしにくくなる。この場にいない仲間がそうする」
これは半分ハッタリ。恐らくユーディットは黙っていない……だろうと思いたい。
「どうだ、お互い妥協案を探るってのは。こっちはあんたらの損になることはしない。子供らだってそうだ、仮になにか言いふらしても子供の戯言で済むだろう?」
「口は達者だが、あまり調子に乗らない方がいいぜ。それを決めるのは俺たちだ」
そう返され口をつぐむが、タリブの表情にはどこか面白がっている気配が見える。
どう転ぶだろうか。
周りの男たちは無言で推移を見守っている。指示1つでいつでも俺たちに刃を突き立てられる構えのまま。
最悪の展開になったらどう動くか。とにかく俺とレオンハートで攻撃を引き付け続けるしかない。どうにか隙を縫ってメルとヴァラとブリジッドを逃がす。出来る気はしないが、そうなったらやるしかない。
脂汗がにじむ。
気迫で負けないようタリブを睨みつける。舐められたら終わる。
その根競べは、いつでも魔法を詠唱できるようこっそりと口の中を湿らせたところで終わりを迎えた。
不意にタリブが部下たちに手振りで指示を出した。
俺はとっさに剣を抜きそうになったが、部下たちに出された指示は攻撃ではなかった。男たちは得物を引くと、気絶したままのザムエルを抱えて廃屋から出て行く。
どういうつもりかと、視線で問うた。
「物知り何某なんて言うからどんな頭でっかちかと思ったが、なかなか胎が据わってるようじゃねえか」
「見逃してくれる、と思っていいのか」
「ただで、というわけにはいかないな」
「つまり?」
「ひとつ俺たちのために働いてもらう。その仕事を全うできたら、ガキども含めこちらからは手を出さないと約束しよう。だが」
ドスの利いた声音と鋭い視線が刺さった。
「もし下手な真似をすれば、もう眠れる夜は来ないと思え。クォン大陸にいようが、ミンダルシア大陸にいようがな。詳しくは明日、モグハウスに届けさせる」
そう言い残し、タリブも夜道へと姿を消した。
廃屋には俺たち5人だけが取り残された。
メルとレオンハートと顔を見合わせる。ブリジッドとヴァラは、抱き合ったまま腰を抜かしてへたり込んでいた。
「……助かった、のか?」
「……ひとまずはな」
「解決したとは言い切れないけどね」
それから3人で、大きな大きなため息を一つ。
そうして、この長い一日の騒動は、ひとまずの決着を見たのだった。
ブリジッドとヴァラをそれぞれの家に送り届け、心配をかけたままだったヒルダさんに(細部は省いて)説明をし、ようやく俺たちは帰途についた。
レオンハートとは途中で別れ、メルとふたり、のんびりと居住区へ向かって歩いていく。
タリブの言う仕事とやらが何かはまだ分からないが、ともかくこんな形で天晶堂に関わり、無傷で終えられたというのは大層なことだろう。
思い出すだけでどっと疲れが押し寄せてきた。
「今日はえらい目にあったぜ、まったく……」
「こっちのセリフだよ。さっきも言ったけど、君は本当に騒動に縁があるね」
「冒険者としちゃありがたい話だな」
荒事こそ飯の種、改めて因果な商売である。
最も、今回ばかりは実入りはないに等しいが。
「それにしても、だよ。どうして君はそうやって依頼を受けて、まずボクを呼んでくれないのかな」
見上げてくるメルの表情は大変不満げだ。タルタルなので可愛らしいばかりだが。
というか、拗ねてるのかこれは?
「そりゃ悪かったけど、最初はこんなことになるなんて思わなかったんだって。メルは寝てたし」
「真面目な話だよ、リック。今回はまだいいよ、でももしこれがもっと退っ引きならない状況で、しかもボクが助けに行けないようなところにいたらどうするつもりだったんだい」
「いや、それは……」
前回もそうだ、とメルは言う。
確かにパルブロでの話をしたときも、彼はずいぶん不服そうにしていた。そのときはそっちもコロロカの洞門で冒険してきただろうに、と思ったのだが。
今思えば、あれは俺がだいぶ強引に送り出したのだ。もしかして、そのこと自体が不満だったのか……?
怒っているのか、そう思ったが、どうやら違うらしい。
メル、何だってお前、そんな今にも泣き出しそうな目をしてるんだよ。
「ねえ、リック。もし君が本当に追い詰められて、どうしようもなく助けが必要なそんなときに、側にいて、君を助けてあげることが出来ないなんて……ボク、そんなのはいやだ。いやだよ……」
ぎくりとした。
それは、いつものどこか飄々としたメルの口から出たとは思えないほど、低く、憂いを含んだ声だった。
俺の手を強く握りしめ、すがりつくように見つめてくる姿は、まるで親に見捨てられそうな子供のようだ。
何故なのだろう。どうしてメルは、そんなにも"俺と一緒にいること"に拘るのだろうか。どうして俺は、彼にこんなにも弱々しい表情をさせてしまっているのだろうか。
判らないことは山ほどある。だけど今はひとまず置いておこう。こんな泣きそうな顔の"相棒"を問い詰めるのも気が引ける。
「ああ、ホントに俺が悪かった、すまんメル。だからそんな顔するなよ……こっちが困っちまう」
「ごめんなさいリック、ボクがわがままなのはわかってるんだ」
ぐしぐしと目をこすりながらかすれた声で言うメルは、なんていうか、タルタルということをふまえても本当に子供だ。
まったく、目許が赤くなっちまってる。
「謝るなよバカ。俺たちは相棒だ、だろ?」
「あいぼう……相棒、かあ。うん、そうだね。ボクたちは相棒だよ、リック!」
その響きに満足げな表情を浮かべるメル。泣いた子がなんとやらだ、いつも大人びてるくせに急に子供っぽくなるこの相棒が、実はいまだにちょっと掴みづらい。
いや、もしかしたら単に、メルは俺が思っているほど大人ではないだけなのかもしれない。そう感じさせる危なっかしさが、最近少しずつ見えてきた。
だとすれば俺とメルは、相棒としてそれなりに対等なのかもしれない。ただ助けられっぱなしの関係ではないのであれば、それは結構うれしいことだ。
「仕方のない相棒だぜ、これは俺が面倒を見てやらないとダメかな?」
「露骨に子ども扱いし始めたね。言っておくけどボクと君、それほど歳は変わらないと思うよ」
「マジで? 気になってたんだけど今いくつなんだ?」
「26歳」
「年上!?」
ぎゃいぎゃいと騒ぎながら、家へ帰る。家々の灯りが俺たちを迎えてくれた。
そして翌日、俺たちはバストゥークを発った。
※あとがき
3年ぶり……だと……?