パルブロ鉱山から戻って数日、ある晴れた日のこと。
「ああ、いたいた、探したぜ」
鉱山区のゲートを出てしばらく、南グスタベルグにある段々に岩を重ねたような小山の上で、尋ね人たちは焚き火を囲んでいらっしゃった。
「リッケルトか」
「・・・・・・」
棒きれで火を掻きながら、獅子のようなスカーフェイスをこちらに向けるガルカ、レオンハート。
その向かいのタバサは、ちらりと俺を一瞥したが、すぐに焚き火に視線を戻してしまった。まったくもって無愛想だこと、もう慣れたが。
岩のような体躯のガルカと、ヒュームの中でも小柄な少女が2人で焚き火を挟んでいる画は、不釣り合いなようでいてどことなく和みがある光景だ。
大男と小動物というか、トトロを思わせるというか。
どっちも寡黙で何を考えてるのかさっぱりだが。
この組み合わせの妙にわびさびを感じていると、そのトトロのほうが焚き火を見たまま口を開いた。
「新調したようだな」
「え? あぁ・・・・・・」
こちらも相変わらず言葉少ななレオンハートが言ったのは、白銀の鎧・・・・・・ではなく、つい先ほど手に入れた新しい剣と盾のことだろう。
鎧の方は彼らが戻ってきた日に見せてるし。
鍛冶ギルドのマスターであるゲンプの依頼は、鎧の他に名声という思わぬ、そして願ってもない見返りをもたらした。
ゲンプの信頼を受け、しかもたった2人でパルブロ鉱山に侵入し、帰還したというのは、俺の思っていた以上に俺に箔をつけてくれたようだ。
多少名を知られるようになると、今までよりもいくらか割のいい仕事(と言ってもまだお使いや素材集めだが)がもらえるようになった。
そこでこの数日はこつこつと細かな依頼をこなし、その報酬でようやく新たな装備を購入した次第だ。なお、ゲンプの伝手でいくらか割引してもらってるのは秘密。
今俺の腰にあるのは、片手半剣、いわゆるバスタードソード。背負ってるのは堅いマホガニー材と鉄板を合わせたラウンドシールドだ。
本当ならナイトらしくカイトシールドが欲しかったのだが、どうもバストゥークではバックラー系のスモールシールドが主流のようで、唯一見つかったラージシールドといえるのがこの丸盾だった。まあ丸盾も好きだし、これもそこそこ良いものなので、しばらくはこのままで問題はないだろう。どうしても欲しくなったら、それこそサンドリアにでも足を伸ばすしかない。
「ともあれ自分で装備も整えられたし、やっと胸張って冒険者を名乗れるよ」
「そうか」
そういえば、借りてた剣をなくしてしまったことについては、メルは何も言わなかった。
いや・・・・・・君の身を守って失われたなら本望だよ、ただそう言って笑っていた。
今思うとその表情はどこか寂しげで、メルにとって、あの剣は何か意味のあるものだったのではないかと思えてならないのだ。
彼への借りがもうどれほどになるかも解らないが、いずれきちんと返済できるまでは、一人前とは言えないかもしれない。
返せるものなのか、どう返せばいいかのも解らないのだが・・・・・・。
さておき。
「そういうそっちは・・・・・・」
こんなところで火を起こして何をしてるのか・・・・・・と思ったが、タバサの目線の先にあるモノを見て、疑問はすぐに氷解した。
串に刺して炙られているのは、腸詰めだった。使われてるのはおそらく羊の肉だろう。
「それ、ガルカンソーセージってやつか」
「ああ」
「・・・・・・」
ガルカンソーセージは、その名の通りガルカに伝統的に伝わる、大羊の肉を用いたソーセージだ。
ゲーム中では他の肉料理同様、VITや攻撃力を上げるがINTが下がる、典型的な前衛用のブーストアイテムだった。
効果も特筆するところはないが、その入手法が独特なのだ。それがグスタベルグにある特定の焚き火に肉をトレードして待つという面白いもので、他の料理と違い合成スキルはいらないものの、焼き上がるまでリアル1時間待たされる、手間はかからないが時間のかかる一品なのである。
その名前と調理法から、何かのイベントで集まっては皆でちょっとしたバーベキューをするなど、一部のユーザーに人気があったのを覚えている。
「グスタベルグにいるって聞いて何してるのかと思ったけど、ソーセージ焼いてたとは」
「タバサがな」
「あぁ・・・・・・なるほど」
確かにこの娘は、見た目に似合わぬ大食漢だ。どこかでガルカンソーセージのことを聞きつけ、レオンハートにねだったのだろう。
「・・・・・・なに?」
「いやなんでも」
納得してたら睨まれた。怖い怖い。
しかし、ただ炙ってるだけだというのに、あたりには香ばしい匂いがこれでもかと漂っている。
いかん、見てたら腹が減ってきた。時間もちょうど昼時だし、昼食もまだだったし。
今日はヒルダさんのところにでも行って、ソーセージで一杯やってしまおうか・・・・・・?
「・・・・・・もう焼き上がる」
「ん?」
「食っていけ」
「え、いや・・・・・・俺、そんなに物欲しそうにしてた?」
「ああ」
ううむ、これは恥ずかしい。そんなに表情にでる方じゃないと思ってたのだが。
が、腹が減ってるのは事実だし、せっかくご馳走してくれるということなので、ここはお言葉に甘えるとしよう。
レオンハートとタバサの間に腰を下ろし、焼きたてのガルカンソーセージを受け取る。軽く焦げ色の付いた皮の中から程良く肉汁が滴り、ますます食欲がそそられる。
軽く吐息で熱を冷まして、そのまま一口いただく。
「ん! こりゃ美味い!」
正直、大味なただの腸詰めを予想していたのだが、どうやらバジルのような香草を入れてるようだ。これが肉の臭みを消しており、なかなかどうして深みのある味わいになっている。レモンをかけるとさらに良いかもしれない。
材料は羊の肉だけだと思いこんでいたので、これは良い意味で想像を裏切られた。
タバサも小さな口でソーセージ黙々と頬張っている。
一見すると無言無表情のままだが、よく見ると目が輝いている。食事に関してはこっそりと表情豊かになることに気づいたのは、パルブロ潜りでの密かな収穫だ。
などと思っている間にタバサは2本目のソーセージに手を伸ばしていた。はやっ!
負けじと俺も残りのソーセージにかぶりつく。
やはり美味い、のだがちょっと気づいたことがある。
「でもこの味、ヒルダさんとこのソーセージにちょっと似てるような」
「逆だ。彼女の亡夫にソーセージの作り方を教えたのは、ガルカだ」
なんと。
ガルカに蒸気の羊亭と、バストゥーク名物には奇妙な符号の一致があると思っていたが、そんな背景があったとは。
ゲーム中じゃ語られない出来事をこうして知ると、ますます掘り下げてみたくなる。久しぶりに設定好きの血が騒ぎ始めたぞ。
「なあ、この焚き火ってゴブリンのキャンプ跡だよな。なんでそんなところで焼いてるんだ?」
そう、前述の通りガルカンソーセージは焚き火に肉を入れることで出来上がるのだが、その焚き火というのは、ゴブリンが野営している場所に他ならない。なんでそんなところで、と常々疑問だったのだ。
さらに言えば、冒険者の行うクリスタル合成ではガルカンソーセージが作れないことにも何か意味があるのかどうか。
レオンハートは、意外なほど饒舌にその理由を教えてくれた。
「ゴブリンは火を焚くとき、奴らしか知らない、独特の香りのする木を好んで使う。その香りが、味に深みを与える。最大の秘訣だ」
ははぁ、ゴブリンの香木、ね。
なるほど言われてみると、肉の匂いに混じって、かすかに嗅ぎ慣れない匂いが漂っている。これが煙に乗って、ソーセージを包み込んでいるわけだ。
蒸気の羊亭のソーセージにはなかった味の深みの秘密はここにあったらしい。
ディープ・パープルの名曲を口ずさみながらソーセージに舌鼓を打っていた俺は、何気なく景色に振り向いた。
遠目に、切り落としたような断崖の向こうのバストア海が見える。吹き上げる潮風に、目を細めた。
ろくに植物も育たない、鉱物資源ばかり豊富なこの荒れた大地は、俺にとって心に深く根付いたもう一つの故郷だ。
俺の冒険はこの地で始まり、何度となくここから旅立ち、そして帰ってきた。
まさかこうしてこの目でその地を見回す日が来ることになろうとは。夢に見たことはあっても、夢にも思ってはいなかった。
あの日、右も左も解らず1人でさまよっていたときには恐怖の対象でしかなかったというのに、今では岩壁ばかりが目に付く単調な風景さえ、この上なく愛おしく思える。
このソーセージと乾いた景色を肴に一杯やれば、さぞ美味いことだろう。今度は酒を用意することにしよう。今決めた。
じっと海風に目を凝らしていると、レオンハートもそれに倣っていた。
タバサも食事の手を止め、同じように海を眺めている。
この海の向こうに、あのころ夢中で駆け回った、まだ見ぬ冒険の舞台があるんだな・・・・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・たかりに来たのか?」
・・・・・・あ。
「あぁっ! 完全に忘れてた!」
そうだった、わざわざこんな所まで来たのは、ソーセージを食うためでも感慨に耽るためでもなかった。
「そうそう、タバサを探しに来たんだよ俺は」
「・・・・・・?」
「ユーディが呼んでたぜ。昼過ぎにベリゲン広場に来てくれってさ」
「・・・・・・そう」
返ってきた反応はそれだけで、タバサは再びソーセージの攻略に取りかかった。
頼まれていた言伝を終え、のんびりソーセージを味わった俺たちは、ぶらぶらとバストゥークへ戻った。
ユーディットとの待ち合わせ場所に向かうタバサとは商業区で別れ、俺はレオンハートと2人でクラウツ橋へと足を伸ばしている。摩耗した武器を研ぎに出していたというレオンハートに付き合うことにしたのだ。
ぶっちゃけ俺はもう用事があるわけでもないのだが、剣や鎧は眺めてるだけでも楽しい。武器屋などを冷やかすのは、俺の密かな楽しみになっていた。
「珍しいな」
「ん、なに?」
主婦や職人、冒険者で賑わう通りをゆったりとした足取りで進んでいると、独り言のようにレオンハートが口を開いた。視線だけは俺を向いていたので、俺に向かっていったのだろう。
「1人だろう、今日は」
「ああ、メルのことか・・・・・・アイツなら寝てる。ウィンダスに送る報告書でだいぶ根詰めてたからな」
曰くコロロカミッションの思わぬ敵、とのこと。
当たり前だが、国の公布するミッションに参加した場合、必ず報告義務が発生する。他国で行われたものについても、領事館を通す以外は同じだ。
束縛を嫌う冒険者相手のこと、大抵の場合は口頭で大雑把に済ますようだが、今回に関しては書面での提出を求められたらしい。それだけコロロカの洞門への注目度が高いということだ。
ウィンダスから参加した人間が少なかったことや、メルが全体を俯瞰しやすい魔道士であったことも、面倒な書類仕事の一因かもしれない。レオンハートらは特にそういうのは書いてないようだし。
メルは「こういうのは苦手なんだ」と嘆きながら羊皮紙と格闘していたが、あれはどっちかというと、生真面目に書きすぎるタイプだろう。ずっと俺のモグハウスで書いてやがったので、それくらいお見通しだ、うん。
ところで、目の前のガルカも今回の調査隊には参加したんだよな、そういえば。
「なあ、どうだったんだ? コロロカは」
ふと浮かんだ素朴な疑問は、素直に口をついて出た。
「聞いていないのか」
「メルに? そりゃ大筋は聞いたよ」
永きに亘り閉ざされ続けた海底洞窟の調査は、やはり一筋縄ではいかなかったようだ。
数百年前に閉じた洞窟の地図があるはずもなく、内部の資料がいっさい存在しない状態から調査はスタート。探索はその経路を探りながら行うほかなく、なかなか思うように歩みを進めることはできずにいた。さらに、洞窟内に棲息する無数のモンスターが調査隊の行く手を阻み、その掃討にも人手と時間を割かなければならなかった。
極めつけは、一体どこから入り込んだのか、洞窟内を闊歩する巨人族だ。凶暴な彼らの前に不用意に踊り出せば、瞬く間に壊滅的な被害を被っていたことだろう。
戦力的には倒せない相手ではなかったが、数で押せば相当な騒ぎになる。他になにがいるか解らない状況で、それはあまりに危険な賭けだった。
結局ギガースとの交戦は避け、それ以上の探索継続は断念。第一次コロロカ調査ミッションは幕を閉じた。
というのがおおよその成り行きらしい。
「けど聞きたいのはそういうことじゃなくてさ」
メルは言っていた。
暗くじめじめとした洞窟内は、水捌けも足場も悪く、お世辞にも快適とは言えない。けれど、そこに立ち並ぶ珊瑚や、海草のような植物、奇妙な形の岩石が作り出す光景は、まるで海の中にいるかのようで、とても美しかった、と。
次は絶対にリックも一緒に行くんだからね、とも言っていたことは黙っておくが。
けどそれは、あくまでウィンダスから来たタルタルから見た景色だ。
「ガルカの目にはどう映っていたのか・・・・・・よければ教えてくれないか」
ガルカたちはその昔、故郷であるゼプウェル島を獣人アンティカに追われた。
コロロカの洞門を抜ける際に、彼らは相当数の被害を出し、命からがらグスタベルグの地に落ち延びたそうだ。
彼らから見たコロロカの景色は、どうだったのだろうか。
「・・・・・・そうだな」
レオンハートは、珍しく言葉を探すように、ぽつぽつと話し始める。
「遠い、そう思った」
「遠い?」
「同胞の屍を踏みしめて進む道だ・・・・・・行きも帰りも、ひどく遠い」
ガルカに寿命という概念はない。
彼らはヒュームの倍以上の時を過ごし、時期が来るとどこへともなく旅立ち、まっさらな記憶と肉体に"転生"する。
もしかするとレオンハート自身、かつてコロロカの洞門を抜けたガルカの1人だったのかもしれない。彼の言葉は、そう思わせるほどの苦悩に満ちていた。
「だが」
レオンハートは顔を上げた。
「ユーディットが言っていた。この美しい珊瑚は我々の墓標にはもったいない、と」
そう思えばその景色も、案外悪いものではなくなった。
彼は、話をそう締めくくる。
「珊瑚の墓か、確かにガルカには繊細すぎるな」
「ガルカは繊細だ」
2人で声を出して笑った。
コロロカの話は、それで切り上げになった。
「ちょっと、そこの2人!」
なんだ?
武器屋での用事を終え、剣だの斧だの、端から聞いたら物騒極まりない雑談に興じながら歩く俺たちを突然に呼び止めたのは、背後から聞こえた少女の声だ。
振り返ると10歳か12歳ごろの気の強そうな女の子が、俺たちを値踏みするように見回している。
「白銀の鎧を着た黒い髪のヒューム、あなたが"物知りな"リッケルトかしら?」
その称号、付けたのはメルだが、いつの間に見ず知らずの少女に呼ばれるほど広まっていたのだろうか。確かに少しは名を覚えられるようになったとはいえ。
「そっちのガルカは"鉱石通りの"レオンね。確かに腕は立ちそうだけれど・・・・・・」
どうやらレオンハートのことも知っているようで、単にこの子が事情通なのかもしれない。
「はぁ、てんでダメね。どうして冒険者ってこうセンスがないのかしら・・・・・・まずは脚よ、サブリガを履いたら少しはマシになるのに」
で、初対面にしてひどい言われようなのだが、俺はこれを聞いて思わず顔がにやけそうになるのを我慢するのに必死だった。
この少女が誰だか解ってしまった。未来のファッションリーダーに名前を知られてるとはなんて光栄なのか。
「なんでみんなもっとお洒落に気を配らないのかしら、この間見かけたミスラも・・・・・・」
「それで、何の用なんだい、ブリジッド」
声をかけると、少女・・・・・・ブリジッドは、驚いた表情をこちらに向けた。
「まだ名前を言ってないのに・・・・・・私を知ってたの? 本当に物知りなのね、あなた!」
知っているとも。何を隠そう、俺も駆け出しの頃に彼女の洗礼を受け、あわやサブリメンへの道に脚を踏み入れかけた冒険者の1人だ。
その類い希なるセンスで、駆け出し冒険者にファッションのなんたるかを説き、右も左も解らない彼らにサブリガの刷り込みをかけるブリジッドは、ヴァナ・ディールでも指折りのネタ・・・・・・訂正、ファッションリーダーである。
一度バストゥークを訪れたことのある冒険者で、ブリジッドのファッションチェックを受けていない人間の方が少ないのではないだろうか。
なにせ、その筋では『サブリガの女神』とまで崇められる少女だ。彼女を知らない冒険者はモグリと言ってしまってもいいだろう。
まあサブリガがどんな装備かは・・・・・・あえて言及しないでおこう。
「いいわ、認めてあげる。あなたたち、私の依頼を受けるつもりはない?」
「依頼?」
レオンハートと顔を見合わせる。
てっきり装備にダメ出しされて、サブリガに着替えさせられるのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「私の友達が困ってるの。あなたたち冒険者でしょう? 力を貸してちょうだい!」
「なにがあった」
低く唸るようなレオンハートの声。
しかし物怖じしない子だ。俺がブリジッドと同じ年頃だったら泣いてる自信がある。
「昨日、友達のヴァラっていうミスラの子と散歩してたとき、変な男にぶつかられたのよ」
その名前には聞き覚えがあった。
ヴァラ・モルコットといえば、クエストの見返りにバストゥークの抜け道を教えてくれる子ミスラだ。各国に似たようなキャラがおり、彼女らのクエストは地味ながら、解決してるとしてないでは移動の利便性が段違いなのだ。
この2人が友達だったとは。確かにヴァラも、"ピュアレディ"を自称し冒険者にセンスを求める子だ、気が合うのかもしれない。
「それで?」
「そのときヴァラとその男が、かばんを落としてしまったの。男は慌てて拾って行ったけれど、あとで中身を確認したら、残っていたのはヴァラのかばんじゃなかったのよ」
「そいつが取り違えたってことか」
「ええ、きっとそう。それで、一緒にヴァラのかばんを探してくれないかしら・・・・・・あの子、自分のだいじなものをみんなかばんに入れて持ち歩いていたから」
ヴァラのことを思ってか、断られるかもという不安からか、話すうちにブリジッドの表情は曇っていく。
いくら勝ち気でも、ハイレベルなファッションセンスの持ち主でも、やはりまだ幼い少女であることは変わらないようだ。
だがなるほど、話は分かった。
「どうする、レオンハート?」
「構わん、今日は大した予定もない」
「決まりだな」
この子たちは、あの頃の俺たちにいろんな冒険や楽しみを提供してくれた、ヴァナ・ディールを形作る大切な存在だ。時には無理難題や、難解な仕事を言い渡されもしたが、ひいこら言いながら仲間と共に攻略に挑んだ時間は、今ではかけがえのない思い出になっている。
ブリジッドがそのNPCたちの代表のようにここにいる、というのは俺の勝手な思い込みが過ぎるだろう。
それでも、彼女らに少しでも恩を返すことができるなら、その程度の仕事はおやすいごようだ。
最も、そうでなくても、小さな女の子の依頼を無碍に断って、どうして胸を張って冒険者を名乗れるよう?
「受けるぜ、その仕事。ヴァラって子のだいじなもの、必ず見つけだそう」
そう答えると、俯き気味だったブリジッドの表情がパッと輝き、花のような笑顔が浮かんだ。
「あなたたち、きっと名高い冒険者になれるわ! サブリガを履けばもっとね!」
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PC環境がないため、スマホでの執筆、投稿テスト。