久しぶりに生きている人間に会った俺は、傷や包帯だらけ満身創痍の体ながらも常に周囲の警戒を怠らない彼女――スーダン=マールブルグにいくつもの質問した。
彼女の話によると、ポット村周辺で目撃された群れランポスの討伐クエストをギルドから受注したスーザン達4名は、ポット村をベースキャンプにして辺りを捜索中に、突然モンスターに襲撃されたそうだ。
その際にメンバーの2人は死亡したそうだ。
スーダンもその戦いで重症を負った。残りの1人は村に報告に向かったらしい。
真っ先に質問した現在地についてだが、ここはアメリカ、日本、ドイツ、アフリカではないらしい。ポット村まで歩いて1日だとか言われてもわからん。
「矢薙リョウはなぜここにいた?」
「……」
「おい、聞いてるのか?」
「あのさー、その本名で呼ぶのやめてくれ。あと貴様ってのもやめれ。」
できれば、尋問でもしてるようなしゃべり方もな。
「理由を言え。それが貴様の名なのだろう。変な名前だが気にすることはない。」
「なんか肩が凝るだろ?矢薙でいいよ。」
「では、ヤナギと。」
「……(呼び捨てかよ。俺は一応年上だぞ。)ああよろしく、マールブルグさん。」
彼女とは良好な関係を築くべきだ。年下のくせに偉そうだが、村とやらに着くまでガマン、ガマン。
ひょっとしたら、違うと思うがマールブルグは殺人犯の可能性もあるのだ。慎重に行動せねば。
しゃべりながらスコップを使い、死体に土をかける。目の前では地面が不自然に盛り上がっている。隣にも同じような膨らみ。
俺が装備をパクった死体はマールブルグさんの仲間だったようだ。彼女は埋めた二人の前に太い枝を刺しドッグタグを結ぶ。短く黙祷し埋葬を終える。
状況はいまだ不明。彼女と共に最寄の村までいけば何か判るはずだ。急いだ方がいい。
ポット村まで普通に歩いても1日以上かかるとのことだ。食事だってするし寝むりもする。持っていく荷物の量もかなりの量。
怪我人と舗装された道しか歩いたことがない俺では数日かかるだろう。
簡単な食事、大豆のような木の実をいくつか食べた後はひたすら歩く。それがもはや不可能だと知るのは歩き始めて30分もかからなかった。
スーザンが倒れた。
太ももの傷が開いているのか包帯が血の色に変わっている。
俺にできることは布を重ねて羽織らせるだけ。スーザンは明け方まで目を覚まさなかった。
不思議体験2日目の夜はこうして更けていく。未だ帰還のめども立たないことを嘆くべきか。重症とはいえ地元民との遭遇を喜ぶべきか。
第四話
翌朝。
私はゆっくりと体を起こす。一晩以上休んだ体はそれでも好調とは言いがたい。熱は引いたようだが、無理をすればまた上がるだろう。
皮袋に入った残り少ない水を一口。不味い。美味い水が欲しければ怪鳥の鳴き袋を利用したものを使うしかない。私のは安物の皮製だから仕方ない。
隣では、変な服を着た男が寝ている。矢薙リョウという呼び名も嫌いらしくヤナギと呼ぶことにした男だ。
ヤナギもぐっすりと眠っていて、夜の晩をしていた様子はない。
「おい起きろ」
ユサユサと揺すると矢薙リョウ目を覚ます。
「ああ、(やっぱこれは現実なんだな。)調子はどうだ?」
そんな質問に答える気はない。体調は最悪に決まっている。
「夜の番はどうした?モンスター共に襲われたらどうするつもりなのだ。」
「えと、ごめん。」
昨日、この男はトーキョから来たとか言っていた。確かポット村よりずっと東にある村だ。
以前、トーキョ村は街のギルドでハンターを募集していた。それ自体は小さな村では良くあることだが、ファンゴ一体の討伐クエストすら街ギルドに依頼を出すほどとは珍しい。トーキョ村は周辺の村にも依頼を断られたということだろう。理由は知らない。街で見るには珍しいクエストだったので覚えていた。
私は矢薙リョウへと視線を移す。
装備はガーティとビックスのものを拝借しているだけ。服装だって戦闘を想定してないない。挙句、ハンターですらないと言う。
この年でハンター登録すらしていない男が、村の外にいるとは珍しい。所属ギルドが刻まれているギルドカードは身分証としても役立つので、村を出る際には持ち歩くことが常識だ。
警戒すべきだ。山賊の類かもしれない。私に語った名前矢薙リョウも当然偽名だろうし、少なくとも真っ当な人種ではない。
私もヤツのことを詳しくはヤナギには話していない。蒼い飛竜のことなど話しても信じてくれるとは思わない。話さない方が良いだろう。
彼等の死んでいた場所の周囲の木々や草が焦げて一部は爆発した痕を見ても、ヤナギは疑問を口にはしなかった。上手く誤魔化されたか。
不審者なのは私も一緒だ。お互い信用などない。共にいるのは必要だから。彼は道案内が、私は介護者が。
彼とは良好な関係を築くべきだ。私は死にたくない。
「足手まといの私が言うことじゃないわね。けど気をつけて。」
問い詰めることはやめよう。彼が私のために寝ずの番をする必要はないのだ。
これ以上ギスギスした雰囲気では彼が私を見捨てるかもしれない。私はまだ死にたくない。
ヤナギが荷物をすべて持ち、私はゆっくり歩きながら進む。やはりペースが遅い。村に到着する前に水と食料を補給しなくてはもたない。
「ねえ、マールブルグさん?近くに川とかないかな?もう水がなくなりそうなんだけど。」
私の考えを読んだようなタイミングで彼が言う。
私はルートの変更を指示した。
川へ向かう。
スーザン=マールブルグは俺に対して偉そうな態度を取ることを多少やめた。どうやら仲良くしましょってことだろう…表面上は。
異論はない。森、傷、死体、帯刀等々、この不可思議な事態。物騒な電波女しか俺には頼れる人間はいない。
「なあ、地球って知ってる?」
「なんだそれは?」
(学校行けよサルかお前は。)
って言いたいけど心の中にとどめる俺は偉い。しかし顔に出ていたようだ。マールブルグさんは不満顔だ。
(はいはい、判ってるって。モンスターハンターごっこだろ。)
「じゃあ、鳥竜種と飛竜種の違いって知ってる。」
俺がそう聞いたら、体験談とか王立書士隊がどうのこうのとか得意気に話し始めやがった。
ドン引きだわ。
「聞いてるのか?」
「モチロンダヨ。スゴイベンキョウニナリマス。」
ああ、めんどくさいヤツだ。
「ふふん、そうだろう。さらにおもしろいのはだな、魚竜種とは~~」
(魚竜種とか聞いてねえっつの。てかガノトトス見たこともねえのかよ。俺は百匹は狩ったぜ。)
もちろん口には出さないけどな。
チグハグな問答をする俺たちは川へ向け進む。俺はおしゃべりで不安を紛らわせ、彼女は会話を続けながらも警戒を怠らず。
お互い信用はないが上手くやっていけそうだ。
数時間後―――
俺は圧倒的な存在と出遭うことになる。
(初稿:2010.12.08)
モンハン日記
プレイ時間 12:20
作成装備 レッドウィング(を明日には作ろう)
全然プレイする暇がない。
ところで、巷で話題の「端材バグ」。
逆鱗集めを気が遠くなるほど経験するころには金なんて関係なくなるのでしょうが、ゲームバランスが売りの1つなだけに残念ですね。
まあ、いっぱい端材集めてアイルーで着せ替えして存分に愛でろということなのでしょう(笑)