俺はなにかトンデモナイことに巻き込まれている。
交通事故、奇妙な死体、文明の気配がない森。
けれども、きっと助けが来る。もうすぐ家に帰れる。
そんなことを根拠もなく信じたい。だから見たくないものから目を背ける。しかし、目を背けた先にも現実は依然として存在する。
第三話
川があればそこに沿って救助隊が来る可能性もあるが、近くに川がある気配を感じることはない。死体の場所は回りには高い木もなくほどよく開けている。ヘリで来れば死体も回収できる。
救助隊がくることを俺は信じたかった。来るとしたら確実に徒歩かヘリコプターだろう。車が走れるような舗装された道はない。
2日外にいて飛行機が飛んでいるところさえ一度も見ていないが、俺はきっと東京とは少し違うんだろうと思うことにした。
ケータイはリュックと同じくここに来た時には持っておらず、腕時計はバイトの時ぐらいしかつけない俺はPSPで確認するしかない。
PSPに表示される時刻はトラックに衝突した時刻から変わっていない。再起動もできないので設定変更もできない。
(なんだか怖いなあ…ディスク抜いてもエリアロードできるってどうゆうことさ?)
死体の傍にいるなんてゾッとする。少し離れた草の上に座っていろいろ弄ってみる。が結果は同じ。蒼レウスはどこにもいない。
「だけど…はあ……なッ!?」
女性の驚いた声がすぐ俺のすぐ傍で聴こえた。
ゲームをやっているとトラックが突っ込んできても気づかない俺だ。目の前に女の子がいても気がつくはずがない。
画面から目を離し、女の子に目を向ける。
彼女の年は高校生程度か、化粧もせず手入れもしてないだろう顔つきは幼く綺麗な肌もあって中学生にも見えるかもしれない。
だがそれも街で見かける時に限る。
目を細め放たれる眼光は俺を威圧し、立ち上がることすら許さない。そんな形相の彼女の年齢は俺よりずっと年上にもみえた。
彼女の服装のこともあり年齢はよくわからない。
黒い髪の毛は適当に後ろで結われているだけだ。少し野暮ったい。首から下はさらにヘンテコ。きている服はボロボロの毛皮。
腰にはポーチがあり、色々な見たこともない物がぎっしり入っている。左手は簡易ギブスをつけているのか包帯でグルグル巻き。
左足の包帯の下に出血の後が見える。
そんな彼女は俺を睨みつけると右手で棒を振り上げこちらを威圧している。
(さ、殺気ってやつですか!?マジ怖っ!)
「え、えきゅすきゅーじゅみー……っじゃなくて、ここどこか判りますか?あなたは?」
救助隊の方が現れたら言おうと思って練習していた言葉をとっさに言ってしまい、慌てて言い直す。
「…貴様、ハンターか?ネーム、ランク、ホームを述べなさい!ギルドカードの確認を!」
勇気を出した俺の言葉を無視して、彼女は日本語でこちらに問いかけた…いや命令した。
(この女が殺人犯か?この傷ならあの足跡もこいつが?日本人なのか?コスプレ?ってか、お穣さん、こん棒振り回しちゃ危ないですよ?)
いくつもの疑問が溢れるが保留。中腰になり、彼女と目線を合わせ、ニコニコ愛想笑いして答えた。
「えっと、ハンターってなんのこと。ま、まさか念能力者とかですか?」
彼女がさらにイラついたことを理解した。
(子供扱いしすぎたか?馬鹿にしすぎた?)
「モンスターハンターに決まってるでしょ!ネームは?ハンターランクは?答えなさい!」
彼女は威圧しながら怒鳴りつけた。
ところで、ギルド所属者は例外なく『職業:ハンター』と公式書類に記入可能だ。
しかし、一般に『ハンター』と使う場合、モンスター討伐を扱うハンター『モンスターハンター』のことを指す。(彼女ももちろんモンスターハンターとしてハンターと言ったのだ)
他にも、山菜収集や魚釣りもギルドがクエストとして扱っており、こちらを専門にするハンターをモンスターハンターに対して、山菜ハンター・川釣りハンターと言うこと稀にある。(相手を見下す言い回しとして使われることが多いのだが…)
(モンスターハンターってモンハン的な意味で…そんな馬鹿な!?)
どうやら俺が考えないようにしていた馬鹿なことが、現実味を帯びてきたようで怖い。不安が大きくなった。
「俺は東京出身の矢薙リョウ。ランクは…えと、君は?」
ランクGの3と答えるか迷った。★3ってどう言えばいいか判らなかったから。
(ここは電波娘に合わせよう。ああ、本名は隠せばよかった。)
「私はスーザン=マールブルグ。所属はマールブルグ村。ランクは3。今は一時的にポット村に籍を置いてる。」
彼女は器用に棍棒を持ちながら、首に下げた二つのドッグタグらしきものを取り出し、リョウに見せた。
俺の念能力発言はスルーしたようだ。俺も彼女の名前はスルーする…スーザンにマールブルグってやっぱ怖い女だ。
「貴様もギルドカード出せ。ギルドカード交換。」
ハンター人口は多い。寒冷期のみハンターとして活動する農家もいれば、身分証代わりのギルドカードを作るために所属するものもいる。
ハンターズギルドに登録されたハンターは200万人を越えるとも言われているが、正確な人数を把握している者はいない。
ギルドの歴史はモンスターの脅威から身を守るために、付近の町村が共同で設立した自治組織がはじまりとされている。
昔から各村の自治組織は組織の垣根を越え協力して討伐に当たることが多く、横の統合が進み、自治組織の集合としてハンターズギルドという巨大な組織が誕生した。
現在、この膨大な員数を管理することは不可能であることもあり、ギルドは村や街にあるギルドの駐屯所にハンターの管理を移譲している。周辺の村々を大きな街が管理し、
その街を中央のドンドルマが管理することで、緩やかなピラミッド構造の中央集権組織、事実上の地方分権組織となっている。
話を戻すが、ハンター人口は多い。ハンターは受注クエストによって、所属する駐屯地(ホーム)から出向することもしばしばあり、活動範囲は広い。同じクエストを知らない者同士で受注することもある。以前は、ホームで発行するギルドカードの写しを大量に持ち歩き、名刺交換よろしく『ギルドカードの交換』を行っていた。最近では手間がかかるので、実際に交換することはなくなり、タグを見せ合うだけだが、いまだにこの作業をカード交換と言うことが多い。
「いや、持ってないんだ。すまん。」
スーザンはタグを元に戻して、棍棒だと思っていた木杖に体重を掛け言った。
「どうゆうことだ?貴様はハンターではないのか?」
「ハンターって名乗った覚えはないよ。」
「…そう。」
どうやらこのエボラ女は威嚇行為を謝るつもりはないらしい。
「俺からも質問してもいいかな?ここって日本?アメリカ?」
…違うらしい。
(マールブルグ村ってどこだっけ?エボラだからアフリカか?ドイツっぽい名前だけど)
互いを怪しみながらも彼女から情報収集。
この女の言うことが本当ならば、トラックに衝突して死亡または重傷のはずの俺は第二魔法体現者やら伝説の使い魔やら天の御使いやら次元漂流者やらそんな感じ。
(ああ、本当なんだろうなあ。空に飛んでいたデカイ鳥は竜だっただろうし。大きな蟲を見かけても気のせいだからって考えないようにしてたけど、サイズが明らかに異常だったし。)
つまり、助けは来ない。俺は帰れない。
(初稿:2010.12.04)
モンハン日記
12月5日 晴れ
プレイ時間 11:09
作成装備 鉄刀【神楽】 ・ アロイ防具一式
鉄刀作成。新モーション、気派大回転斬りがカッコイイ。
モンスターの外観もおもしろいですね。
ボルボロさん : 怒ると頭から湯気だすのは笑いました。
クルペコさん : 嘴が変だよ。唇?あとクマを召喚するのはもうやめて。
ロアルさん : このバナナ、動くぞ。
メディアインストールの猫とサウンドがかわいすぎる。
「きゅっきゅっきゅっにゃあ♪」