『人間としての強さは竜を前にして意味をなさない』
今より何年も昔。
とある少年が小さな猟団に拾われた。
女顔、剣道二段、高校一年生。甚だ不本意な渾名は、剣道少女。
猟団で狩りの基礎を学んでいた充実した日々は、女顔が災いし不幸な夜を経験したことで終わりを迎える。
隣の賢者タイム男を剥ぎ取り用ナイフで滅多刺しにした彼は全力でその場から逃走した。PSPだけを握りしめて。
その夜から時は流れ、彼は名前を変え、猟団を創設する。鷹の団団長、グリフィスの誕生である。
彼の剣術は対獣ではなく対人にこそ力を発揮した。その剣力で若く実力のあるハンター達を束ね、一流の猟団になるまでそう時間は掛からなかった。
こうして鷹の団のグリフィスは、美しい顔立ちと華麗な剣さばきの美少年ハンターとして知られるようになる。
金、女、名声、忠誠と栄華を手にし、この世の春を謳歌していた彼はしかし全く満足していなかった。
金や人脈を使い、金色に光る竜の噂を執拗に追い求めた。
地球帰還。そのために自らを鍛え、装備を整え、仲間を増やしたことを知る者はいない。
個人としてはこれ以上ないほどの戦力を整えた。
しかし、結果として精強なる鷹の団は、一匹の竜の前に壊滅する。
不思議なことに、絶望的な戦いの後でも唯一人だけが無傷であった。その理由も説明されぬまま鷹の団は解散した。
第十話
リョウとスーザンが蒼レウス対策を論じている時。
偵察隊はランポスの群れを発見していた。
「に、21頭!?」
偵察小隊は6名。単純計算で1対3.5。
ランポス、小型のT-レックスとも言うべき相手に対して、人間では1対1でも厳しい。それが21頭。絶望的である。
「お前らはここで援護しろ。オレが行く。」
しかし、臆することをしない者が一人。
その名はガッツバルト。
HR6。隻腕の凄腕ハンター。竜撃砲を装備した義手を身につけ、黒い鋼鉄鎧を着込み、漆黒のマントを纏う黒い剣士。
組み立て式のライトボーガンや投げナイフを装備し、爆薬すら扱う。
数多の竜種討伐を達成している凄腕のモンスターハンター。
そして背負うは身の丈を超える大剣――ドラゴンごろし。
彼は背中の大剣を抜き放つ。両手で持ってはいるが、磁石付きの義手は添える程度の力しかない。
大剣―――
『それは剣というにはあまりにも大きすぎた。大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。それはまさに鉄塊だった』
ガッツバルドはドラゴンごろしを手に突撃を開始する。
斬ッ!!
近くにいたランポスの首を飛ばす。返す刃でもう一頭。
一瞬で二頭を殺されたランポス達はガッツバルドに猛攻撃を開始する。
四方八方から飛び掛かられるが鋼鉄の義手とドラゴンごろしで防ぎつつも、ガッツバルドは攻撃の手を緩めない。
叩き斬り、串刺しにし、薙ぎ払う。一頭また一頭とランポス達はその命をドラゴンごろしに奪われていく。
「雑魚が、死にやがれぇ!」
叫びつつドラゴンごろしを縦横無尽に振り回す姿は、人間にしては強い部類と呼ばれるに値した。
しかし、ランポスの噛みつきだけは防げても、全ての攻撃を防げるはずもなく、ツメによる斬り裂きで少なくない裂傷を負っていく。
傷が隙を生んだのか、ランポスが黒い剣士の後ろから飛びかかろうとしていた。
そこで仲間の矢がそのランポスの肩へ突き刺さる。
怯んだ時には、目の前に義手が向けられる。
義手から轟音とともに放たれた竜撃砲は至近距離でランポスに命中し、肩から胸を吹き飛ばした。
「お前ら、遅せぇぞ!」
5人のハンター達は何もぼぉっとしていた訳ではない。皆が経験豊富な優れたハンターであり、ガッツバルドの強さに惹かれて集まった猛者たちだ。
ランポスを逃がさぬように戦域を半円状に囲み、包囲完了と同時に弓で援護を開始した。
そこからは一方的であった。
敵を引きつける剣士は多少の傷は負うが致命傷ない。致死毒や麻痺毒の矢の弾幕によってランポスは満足に戦えない状態のまま斬り殺されていった。
予想を裏切り人間側の圧勝。
それを行った剣士は、剣を地面に突き立て座り込んでいた。
どんな屈強な男も全力で戦えば疲れ、休憩もとる。
他のハンター達も戦闘終了と同時に気が抜け、思い思いの場所に腰をおろしていた。
彼らはガッツバルドに尊敬の視線と称賛の言葉を送る。
その感想は正しい。HR6のハンターと言えば、現役最高のハンターの一角である。
あのまま援護がなくとも独りで皆殺しにしてしまえただろう。彼らにとってそう思えるほどの剣の暴風を目にした。
地面に突き立つ巨大な剣。その柄近く、銘らしき物が彫られている。
その銘は『イトウシンジ』と有った。
偵察隊6名。彼らはランポスの大軍を討伐し多少なりとも油断があった。
一瞬、何を偵察しに来たのか忘れていた。いや警戒していても結果は変わらなかったかもしれない。
だから気がついたときには既に手遅れだった。
血の匂いに誘われて、現れる空の王。羽ばたく度に突風が巻き起こる。
空を飛ぶ蒼火竜の足の爪には人間が一人。今の今まで勝利に沸いていたハンターは、鎧を貫通し胸から爪を生やし、血の雨を降らせていた。
まるでおもちゃのように両爪で引きちぎられた彼は、重力に従って地面に激突した。
手や足が本来とは逆向きに折れ曲がり、臓物が飛び出し、もはやどこが顔のパーツだったかも判らない。
生き残った彼らに出来たことは武器を取り、戦闘態勢を取ること。
それはただの刷り込まれた条件反射。実際は虚勢。
一瞬でハンター達の士気は挫けた。
「か、勝てるわけがないよ。」
「う、撃て、撃て、撃てー!」
貫通矢、致死毒、麻痺毒などが即座に放たれるが、風で逸らされ、蒼い甲殻(重殻)の前に弾かれる。
虎の子の徹甲榴弾すら、爆発で多少の傷を与えたに留まった。
このような遭遇戦の場合、一時離脱が常套手段なのだが、空の化け物相手にできるかどうか。
当然彼らも前情報なしに討伐しようと思った訳ではない。
偵察隊6名全員がボーガンと弓で武装し、榴弾など高火力な弾丸も持ち込んでいる。彼らの財布を圧迫しただけあり、最低でも撤退には充分かと思われた。
上空からガッツバルドに放たれる火炎弾。
ドラゴンごろしでガードをすることで、皮膚を焼かれながらも致命傷は避けた。
「お前ら、足手まといだ。行け!!」
そう怒鳴りながらも、ガッツバルドの口元が自然と笑みの形をとる。
(こいつだ!!俺の仲間を、俺の腕を奪った化け物!!あの時は日の光を反射してやがったが、間違いねぇ!!この感じだ!!)
恐怖を、殺意が、ぬりつぶしていく。
(グリフィス。オレがこの剣でヤツを殺す!!)
逃げろと言われてもそう簡単には行かない。
弓の名人ポックル。
彼はガッツバルドに憧れるが、自身も優秀なハンターである。彼の放つ矢は百発百中で標的を射る。
先ほどガッツバルドの後ろから迫るランポスへ牽制の矢を放ったのも彼である。
しかし、そんな技能はなんの役にも立たなかった。
蒼火竜は上空から火炎弾を放ち続け、対処できなくなった者から脱落する。単純なルール。
火炎弾は地面に当たり爆発。爆炎をまき散らす。
最初に、ポックルが飲みこまれた。短剣と弓しか持たない彼に防ぐ術はなかった。
先ほど徹甲榴弾を放った女ハンターは高火力で後方から援護する役目だ。
腰にボーガンの弾薬を大量に持っていた。ランポス戦で使いやすいように安全袋から出していたのが不味かった。
そこへ至近弾が迫り、弾に着火。火達磨となる。動けなくなった後も火薬の火の勢いは止まらず、女はコゲ肉となった。
六名の内半数の三名が死んだ。
轟々と燃え盛り黒煙を上げる森。
片手槍と片手盾に鉄鎧を身に付けた重装備ハンターはその体力を買われ、食料や薬などの運搬を任されていた。
そして、ハンターの切り札の一つ、タル爆弾を背負っていた。リオレウス超級をぶっ飛ばすために大量の爆薬が詰め込まれていた。
彼は荷物全てを投げ捨て離脱を実行する。槍と盾だけを保持し全力で走り去る。逃走は仲間の命を犠牲にして成功した。
残りはポット村で合流したベテランハンター。
彼はベテラン故に、火竜への対処方法を知っていた。急いで投げ捨てられた荷物へ取り付く。
そこに降り注ぐ火炎弾。タル爆弾と誘爆が起こり大爆発。対処方法の実行を待たず彼は巻き込まれ弾け飛んだ。
辺りに轟音が響く。
彼は木の幹などにへばり付く焦げた肉片となった。
火の海と化した戦場では動く者をもはや確認できなかった。
蒼火竜は飛び去った。
届かない大剣に意味はない。怒りで人は強くならない。
残されたのは、倒れ伏し火に巻かれ死を待つ黒い剣士が一人。哀れな復讐者。
いくら強くとも空中から火炎弾を放つ相手に大剣一本で出来ることは少ない。致命傷を避けて防ぐことしか出来はしない。そして防ぐにも限界があった。
剣は届かない。
あの日の戦いの後、グリフィスは特殊な大剣と義手の作製を依頼した。設計図には仕様要求に対する注文がびっしりと書き連ねてあった。
その完成を見ずに、彼は3度目の死を選ぶ。縋りついたのは最後の希望。
(目が覚めればそこはきっと見慣れた街並みのはずだ。)
なかなか姿を現さないグリフィスへ職人が武装の完成を告げに来る。部屋に入り腐った変死体を発見した。
グリフィスことイトウシンジが再び動くことはなかった。
(初稿:2010.12.18)
(タイトル修正:2011.01.01)
モンハン日記
12月18日 プレイ時間:38:31
製作装備 下位ナルガ防具 ・ 海造砲
やっとHR3です。
ヘビィ使いに転向。剣士は廃業。
海造砲は反動が小さく必要素材が鉱石とチケットだけだったところが◎。
下位装備はコレで完成としましょう。所詮は上位までの繋ぎですし。
ナルガの骨髄でさえ物欲センサが発生した私ですが、今作でも逆鱗には苦労させられるのでしょうかねぇ。