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No.24567の一覧
[0] 【習作】リヴォルト帯剣騎士団(仮題)(オリジナル異世界ファンタジー戦記)[88](2010/11/26 18:40)
[1] 息子[88](2010/11/27 01:47)
[2] 狩人[88](2010/11/28 16:48)
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[24567] 【習作】リヴォルト帯剣騎士団(仮題)(オリジナル異世界ファンタジー戦記)
Name: 88◆38a4a931 ID:b513282d 次を表示する
Date: 2010/11/26 18:40
 リヴォルト王国は四方を山に囲まれた盆地を中央に据える国家。夏は冷涼な風が避暑地として、人々を誘い、冬はその厳しい寒さによって、人々の往来を制限する。

 一月に終えた今年一年の豊穣を願う神事は無事終わり、例年ならば、リヴォルト王国に住まう多くのリヴォルトの民はこの寒さの中で、去年の収穫から蓄えてきた食糧で飢えを凌ぎ、実りの春を望みながら静かに生活している頃であろう。

 その中でも、二月と言えば、最も寒く厳しい時期と言われ、凍て付く風は人をも切り裂かんとするばかりに勢いが強く、昼間であっても風が強ければリヴォルトの民は、外に出る事を取り辞めるほどであった。

 二月に入ってますますとリヴォルトの地は白く染まる。大地を染め上げる雪の多くは雲の水気を吸い取って重くなっているかように、人々の肩や頭に降り注げば水になって纏う衣服を重く、邪魔になるように作り変えていく。

 そんな水気を含む雪が、二月五日の朝には一旦止み、今は凍える風だけが音を立てているだけであった。雲は未だ、灰色に燻ったような薄雲が空を覆っているので、また、いつになるかは判らないが、降り出すかもしれなかった。

 リヴォルトの中心には、広い湖が大地を裂くように出来ている。この湖はリヴォニア湖と言う。このリヴォニア湖にはこんなお話がある。かつてここで仲の良い夫婦の神が、ある事を切欠に妻が狂い、夫が泣く泣く妻を斬り殺した悲劇の舞台とされていた。その時に夫が流した数多の涙が溜まって出来上がったのがリヴォニア湖だという伝説である。

 そのリヴォニア湖もリヴォルトを覆う寒さの前に、湖面は氷を張り巡らせて、その表情は、灰色の雲間から見え隠れする日の光で輝いていた。

 リヴォルト王国は建国されて未だ二〇年も経たない国家である。だが、そのような国家でさえ、今の大陸では古い国家であると見なされているほどに、新しい国家が生まれては、どこかで国が消えていった。

 そのような時代が延々と続いていたわけではない。

 三二〇年ほど前の事だ。今のように、混沌とした時代を終わらせ、大陸を統一した一つの大帝国が存在した。

 統一される以前は、多くの国家が無作為に乱立し、今と何ら変わりないほどに、皆が好き勝手に国家を作り、繁栄を個別に願っていた時代であった。

 その各国家で行われた領土と資源を巡る醜い争いの歴史を終わらせ、安寧とした日々を民に与えた大帝国はその後3百年もの間、栄華を誇る事となる。

 だが――決して永遠に続く事はなかった。

 帝国暦三百四年。求心力の落ちた帝国に地方を統治していた大貴族達が一斉に独立を宣言した。出来るならば、帝国側は軍事力によって鎮圧するべき事態であった。だが、すでに複数の地域に軍を派遣させられるだけの力も、地方を統治させるべき人材、徴兵すべき民らの心すらも失墜していた。

 帝国は、逆に反乱軍によって滅ぶ危険性すら現実味を帯び始めていたのである。その為、無駄な戦争を回避するために、帝国は独立を認めるしかなかったのだ。

 独立国も無駄な血を流さずに独立を公に認められる事に利を得て、交渉はそれなりに良い結果をもたらした。その場だけの、酷く小さな結果ではあったが、時の権力者達は一様に安堵のため息を漏らした事だろう。

 その結果――百以上もの国家が乱立して行き、世は乱れ、領土と資源の奪い合いが再び繰り返されたのである。

 始まりとなる大帝国崩壊から十五年という年月が流れた――帝国暦三一九年一二月二〇日。大陸中央の山間部に崩壊後、即座に建国したリヴォルト王国は、自国から西側に存在するグルンヴァルト王国に、宣戦を布告されていた。

 その翌年となる帝国暦三二〇年一月六日。グルンヴァルト王国は五万余という大軍勢を持ってして、リヴォルト王国領内に侵攻。リヴォルト王国は西のグルンヴァルト王国との戦を始めた。

 瞬く間に、国境を制圧されて最西端の城を落とされてしまったリヴォルト王国ではあったが、時期が冬という事もあり、内陸部への侵攻をなんとか防ぐことに成功していた。内陸から悪路をものともせずに馳せ参じてくれる貴族の援軍を待ち、リヴォルト王国は反抗作戦を行った。

 その後、山々から吹き降ろす凍て付く風に身体を裂かれながらも、両軍はぶつかり合い、勝った、負けたを繰り返していた。

 奪った城を拠点として、グルンヴァルト王国はリヴォルト西域を領土にしようと画策し、なんとかリヴォルト王国を交渉の場に引きずり出そうとしていた。そのためには、大きな戦いでの勝利が不可欠とグルンヴァルト王国は考えていた。

 対するリヴォルト王国はなんとしても、領土を取り替えそうと奮闘を重ね、小さいながらも勝利を飾る事を積み重ねていく。

 次第に、雪による補給線の断線なども起こるようになってしまうが、各領主らが厳しい環境下においても、援軍を送る事を厭わなかった。

 そして、遂に三万を超える大軍勢を厳しい冬の中で編成し、グルンヴァルト軍とぶつかり合った。

 リヴォルト軍は土地勘のある者を多く使い、地形的にも数的な面でも優位に立つ事に成功していた。











 リヴォルト王国西域ノイヴィート地区と呼ばれる土地にある平野近くでは、大軍の先鋒であろう数千余に追われるようにじりじりと後退していく少数の部隊があった。

 その地方は、リヴォルト王国の中でも比較的温暖である地域にも関わらず、その日も雪が舞い踊り、身体を凍らせるほどに風が吹き荒れていた。

 当初、優位に立って攻めていたリヴォルト軍であったが、予想だにしなかった出来事によって敗走したのである。

 既に、勝敗がついているものの、グルンヴァルト軍の追撃の熱が引く事は無い。

 それは突然の出来事だった。

 誰もが予想できない事態であったため、瞬く間にリヴォルトの軍勢は大混乱に陥った。

 西域地区領主であった者の率いる軍勢が突如、味方の側面を襲ったのである。その裏切りによって、前線と後続、延いては本陣までもが孤立するという異常事態となった。

 直ちに後退の笛が響き渡り、本陣と後続にいた部隊は撤退することが出来た。だが、前線に取り残された部隊は違う。

 既に、包囲されていた中を突破しての撤退戦となった。

 その真っ只中で長刀を振るう女が一人。騎馬に跨り、部下に檄を飛ばして必死の形相であった。それでも、肌は色白く、髪は長々とまるで舞い踊る雪のように白銀であった。

 アンネリーゼ・ヘルトリングは戦場の中にありながら、その容貌はとても美しかった。その上に、男に負けないほどの弓の名人。得物である長刀を持てば、男が恐れ慄(おのの)くほどの戦人(いくさびと)であった。彼女はリヴォルトにヴァルターありと他国にその名を轟かせる猛将にして戦神と恐れられた男――ヴァルター・ユーバシャールの弟子であり、右腕と呼ばれるほどリヴォルトでは名が知れていた。

 彼女は、銀色の鎧を着込み、手に握る得物である長刀を奮い、弓は背中に担いだまましっかりと戦い続けている。

 ヴァルターと共に、幾多の戦を駆け抜けた彼女の腕に並ぶ事の出来る男はまず居なかった。

 その彼女は、此度の戦で多くの者が逃げ出し、討たれた中。味方軍勢を逃がすために部下三十余騎、アンネリーゼのために――リヴォルトのために命を、部将であるアンネリーゼに預けた雑兵二百七十余を率いて、敵陣営に攻め入ったのである。

 自らの隊を餌にして、少しでも多くの味方を逃がすために。

「まだまだ! 気張りなさい!」

「応!!」

 アンネの檄に味方の騎士は奮い立ち、アンネのために死ぬ覚悟をした雑兵ら数百余が槍の壁を作り敵を牽制する。敵方は、分散し各個撃破に動いているものの、アンネ指揮のもとで即席とは思えないほどの連携を見せながら後退を続けていた。

 その防戦は見事なもので敵方も攻めあぐねている事が良く判ったほどである。浮き足立つ事も無く掛け声を出し、隊列を揃えて一斉に槍を動かし、矢を射るその姿は、もはや人ではなく、得体の知れない生き物のように生々しく動いているようであった。

 そのうちに敵方の後続が到着すると、唐突に追撃が緩んでいった。

 その事態に何事かと、アンネは思う。アンネの部隊を越えなければ、リヴォルトの軍勢を追撃する事は出来ない。そう思わせるために、地形が入り組んだ場所にわざと逃げる姿を見せつつも、敵を誘ってきたのである。

 だが、アンネの疑問は解消された。敵軍が割れて、その中央から一人の武将が見事な出で立ちで、前に進み出てきたのである。

「これ以上の戦いは無益だ! 貴公らの護るべき大将は何処へいった! 居らぬものを護って何の為になる!」

 その大声は風にかき消される事もなくリヴォルトの者らに届いていった。野次も返答も返って来ない。

 その時から、風すらも突然、吹く事をやめ、辺りは静かになっていった。リヴォルトの者らはただ、対峙する数多の敵兵を睨み付けているだけであった。

 何が、切欠だったのかは判らない。だが、風は止んでいて彼女の声を遮るものは何も無かった。アンネは無駄な口上だと笑った。

 暫くの静寂が訪れる。敵方はその笑い声に唖然とし、リヴォルトの者らは身体を打ち震わせていたからである。だが、すぐにその静寂は破られた。

 歴々三百余のリヴォルト兵らも大声を挙げて笑い立てたのである。

「何が可笑しい!!」

 この口上で、武器を捨てて戦が終わるとばかり思っていた武将は、予想を裏切られ憤慨した。粋がる女部将ならば、まだ判る。部隊を指揮するものとして常に気丈であれと教えられるのは当然だったからである。

 むしろ武将からすれば、同情に近いものを持って、先ほどの言葉を投げたのだ。それを、雑兵らにまで笑われては武将が怒るのも無理はないのかもしれない。

 彼女は捨石にされているものと見なされていたのだ。古来より、殿とは命を捨てて大将らを護るという意味合いとして使われる事が多く、武将もまたその一人であった。

 まして、目の前に居る女部将を知らぬグルンヴァルトの者は居ないだろう。それほどの傑物が今、まさに無駄死にしようとしているのだ。

 武将とて人の子である。同じ兵として、無駄な血を流させる必要はないという考えを持っていたのも頷ける。

 その怒りは、激昂というよりも、意味が判らないと憤るものであったのだろう。

 アンネは憤る武将に向けて、大声で答える。

「我らは大将のために戦をしているのではない! 気遣いは無用だ!」

 その返答に、敵方の武将は口をへの字に捻じ曲げてしまう。敵方は、ならば何故戦うのかを少なからず、考える者が現れた。それを見越したかのように再び、彼女は声を張り上げた。

「我ら、リヴォルトの戦人は国のために在らず! 我らはリヴォルトの民のために在る!」

 その言葉に、リヴォルトの戦人らは「おぉ!!」と大声を挙げる。その声はまさに雄性であり、敵方らには眩しく見えるほどに誇り高いものに見えていた。

 アンネは、白銀のような鎧を赤黒く染め上げながらも十二分に着こなしている。背中にはリヴォルトの国章を背負い、視界を妨げる兜を脱ぎ去っていた。僅かに刃が反り返している長刀を右手で握り、脇には太刀を差していた。あいにくと矢は此度の戦でとうに使い切っていたために持ち合わせてはいなかった。乗りこなす馬は軍馬の産地としても有名なリヴォルト西南部の逞しい体躯を持つ茶色の馬であった。

「グルンヴァルトの者どもよ! しかと我が名を刻むが良い! 戦神と謳われる猛将ヴァルターが一の弟子にして、リヴォルト神官ヘルトリング家部将、アンネリーゼ・ヘルトリングである!」

 口上が響き渡っては虚空に消えていく。それでも、その場に集まる者どもは一歩たりとも、動くことはなかった。いや動く事が出来なかったのだろう。敵方は呆気に取られてしまっていたのだ。

 敵の真っ只中と言っても差し支えない状況に置かれても尚、彼女は戦う事を辞めてはいなかったのである。

「此度の戦、我らの軍の裏切りにて敗走したが、我らが負けるは決して無い! 我らがここで果てようと、我らの仲間が貴殿らをこの地より追い遣ることは必至!」

 彼らには、その口上を理解はできた。だが、己にはとても実行する事など出来はしないだろう。そんな思いが敵方の兵には浮かんでいたのではないか。

 その瞳には、その表情にはどこか憧れにも似ていた。

 アンネは大声で喋った。その顔はとても喜々とした表情となっていた。死地に居るにも関わらず――その顔は、生に満ち溢れていたのだ。

 そんな彼女の口上は終わりを迎える。

「このアンネリーゼ・ヘルトリングの首が欲しければくれてやろう! そう易々と取れるものではないぞ!」」

 死に場所を見つけたとでも言うべきか。己の死ぬ価値を見出したと言うべきか。そんな考えを敵方に与えさせる暇を与えずに、勢い良く彼女は敵方数千余へ突進した。

 その見事な先駆けにリヴォルトの雑兵までも皆が戦人となったかのように、雄叫び挙げて後を追った。

「……見事」

 その口上と、雄叫びは先鋒より後ろに控えていた敵方の大将にまで轟くほどであり、それを聞いた大将は思わずそう言葉を漏らした。

 思わず零れたであろうその言葉を、本来ならばその場にいる将官らは諌める事を行ったかもしれない。あるいは何も言わなかったのかもしれない。だが、その騎乗する者らもまた、大将の零した言葉と同じ想いを持って、戦局を見据えていたのであった。

 アンネ率いる歴々の三百余は、騎馬を先頭に敵方の数千余の中へ入って、敵軍を縦横無尽に引き裂いた。

 アンネは雑兵や部将――武将にすら目もくれずに大将を目指していた。そして、それに付き従うリヴォルトの誇る戦人らが後を追い、同じように突撃していった。

 一隊千余ほどの部隊の槍の壁を突破すると三百余が二百五十余になった。さらに二つの部隊が立ちふさがると百五十余に、さらに騎馬隊らを突破した。

 雑兵は槍の矛で胸を貫かれた。それでも、止まらなかった。当に、心臓は潰れているにも関わらず、その雑兵は貫いた槍を握り返して、絶命した。

 騎馬の足が折れてその場に倒れこんだ。騎士は放り出され、孤立しながらも見惚れるほどの抜刀を敵方に見せ付け、数百という雑兵の群れの中に飛び掛って消えていった。

 そうして、敵軍の後方へと抜け出た時には、決死の覚悟を胸に秘めていたリヴォルトの精鋭となった三百余は十騎となり、雑兵は皆が誇りを持って散って逝った。

 いつのまにか雪が降っていた。白い白いその雪だけが、音も無く、亡骸の上にも、生きている者の上にも、等しく降り注いでいた。

 その雪のような白銀の髪の毛を振り上げながら突き進んだアンネは遂に、大将の隊を見据えていた。

 本陣に居た兵たちは皆、絶句する事になる。アンネの姿を見て、誰が生きていると思うだろうか。果たして、騎乗している者は本当に人間なのか。そんな疑問すら、グルンヴァルトの者らは思ったに違いない。鎧は赤黒く染まり、見える素肌は泥に塗れ、その泥をさらに血が染めていたのも関わらず、その姿をどう見繕っても、高潔なる者として見えていたからだ。

 誰かが息を飲み込んだ。誰かが戦の女神と上ずって呟いた。

 だが、アンネは既に限界を超えに超えていた。足の踏ん張りはとうに利かなく、矢尻が突き刺さり、まるでその矢尻が釜戸で焼かれたまま使われていたのではないかと思えるほど、焼けるような激痛がアンネの全身を走っていたそれでも、アンネは馬上より落ちることはなかった。

 その姿は美しく、気高いものであったが、それと同じように満身創痍だと誰でも判るほどでもあったのだ。それでも、敵方は誰一人として討ち取ろうと馳せ参じる様子はなく、その十騎をただ包囲こそすれど、見つめているだけであった。

「見事な突撃だった」

 その時だった。生き延びた十騎に静かなる賛辞の言葉が贈られた。

 敵方の包囲――アンネの目の前が綺麗に割れて、敵方の大将がアンネと対峙した。本当ならば、敵将の前に大将が立つ事など余程、自軍が負けている時か、あるいは敵将を捕虜にしている時くらいだろうか。

 それほどに、異様な光景であった。

「――御大将と、お見受けします」

 声は掠れに掠れていたがはっきりと聞き取れた言葉であった。全身は薄汚れ、美しかった長い銀色の髪も無残なほどに崩れていた。それでも、誰の目からしても彼女は美しかった。それは、感化されてそう見えたのかもしれない。兵として、彼女の生き様に羨望を抱いたからかもしれない。

 だが、事実。皆が息を呑んでいた。誰もがその姿に呑まれていた。

「御大将、その首……貰い、うけ――」

 最後まで言葉を続ける事は出来ずに、遂には戦場を駆け抜けた戦人は地に伏せた。生き延びた歴々九騎も同じように、あるいは馬首に覆いかぶさるようにぐったりと倒れた。

 誰もが、驚きそれは水面を揺らしたかのように波及していき、ざわめきを奏でた。

 彼女は、長刀を振るう事もできないであろう事に気付いているにも関わらず、グルンヴァルト軍の大将を討ち取る意志を未だ、持ち、腕を、長刀を振るおうという挙動すらを見せたのであった。

 思わず、グルンヴァルトの大将は天を仰いだ。彼女に生き延びる術が残されていないことを、悔やんだのだ。

 もっと、早く。目の前で今にも息絶えそうな者と対峙出来ていれば――そんな淡い恋心にも似た後悔が大将の胸の内に溜まっていた。だが、決して、口に出す事はしない。彼はグルンヴェルト数万を指揮する者にして、グルンヴァルトの戦人である。

「戦の仕来り故に、アンネリーゼよ。貴公の首は取らせて貰う」

 大将は、静かに、けれども覚悟を滲ませているのがありありと判るほどに低く、詰まるような声で言い放った。

 言い終わってから彼は、馬上から降り立った。

「お辞めください!」

 部下の言葉が飛ぶ。悲痛の一言だった。けれども、大将を止める言葉になりはしない。その言葉を聞かず、彼女の目の前に立ったのだ。

「しかし! 貴公の言葉、その重み、しかとこの胸に刻んだ!!」

 見事な口上を述べた。

 アンネは頭を上げた。大将と目が合った。大将の顔は酷く強張っており、への字の口が僅かに震えていた。

 アンネは笑っていた。当に、霞んでいた視界が急に色彩濃く見え始め、大将の顔すらも鮮明に見えたように思えるほど。

 アンネは最後の力を振り絞って身体を起こした。その行動に一同は唖然とし、騒然とする中――アンネは脇に差していた太刀を抜き去った。

 その場に居合わせた各々は呆気に取られた。大将の首を取られるのではないかと咄嗟に親衛隊が馬上より降り立ち、抜刀して走ってくる。

「辞めよ!!」

 大将の怒声がその走りを止めた。

「お手を煩わせる事は致しません――グルンヴァルトの者らよ。これがリヴォルトを愛する者の最後よ。しかと見るが良い」

 そう言って、喉に自らの刃を刺し込んで絶命したのであった。そして、それに習うかのように、生き延びていた九人の内、四人は綺麗に抜刀し、同じように喉元に刃を突き立てて、絶命し果てたのである。

 辺りには、奇妙な静寂が漂っていた。風は当に止み、雪も降るの止めたように、天を舞う事もなくなった。

 大地に雪が積もり、踏み荒らし泥となってはまたその上に雪が降っていき、終いには、薄く、うすく、白化粧をしたのであった。

 大将はその死体を見つめては、天を再度仰ぎ見て、暫くの間、動く事は無かった。









【あとがき】

お初にお目にかかります。88と申します。
初投稿にて、誤字脱字等の不備がございますかと思いますがよろしくお願い致します。

戦記ものを書きたいと思い至り、挑戦した次第です。
単発になるやもしれません。また、加筆修正などもあるやもしれません、悪しからずご了承ください。

お疲れ様です。


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