五話.「俺も大概チートだと思っていたけどさ…」
Side:太史慈
俺は黄蓋さまの下で兵として調練を行う新兵の一人、名前を太史慈っていう。史実を知っている方がいればこう思うはずだ。「なんでこの時期にここにいるのか」と。
俺は転生者だ。だから史実を知っている。だから手っ取り早く孫家のお膝元に来た。
早い段階から孫呉に仕えていれば、この英雄が女性にTSした世界で美人の嫁さんを貰って、結構いい給金をもらってにゃんにゃん出来るかなぁと考えてきたわけだ。
孫堅さま…いい。孫策さま…すごくいい。黄蓋さま…一生ついていきます。という風に、思っているわけだけど、さすがに王族には手を出すわけがない。
あれは、主人公キャラが落とすヒロインだ。俺じゃあない、断言できる。
確かに身体能力は高い、頭だって現代知識があるからある程度は出来る。だが、それだけだ。
それを使って何かをしろと言われても俺には何も出来ない。出来るのは新しい親父とお袋から貰ったこの人より頑丈なこの身体で戦うことだ。今までは山の動物を相手にしか戦ってこなかった為、勝手が違うことに頭がついてこなかったりしたが、最近慣れてきたこともあり黄蓋さまに見込みがあると褒められた。
内心踊りたい所だったが自重して今日も自分に磨きを掛ける。そんなある日、彼女?が新兵として黄蓋隊に組み込まれたのだ。同期の連中は彼女?に「いやっふー」と黄色い声を上げる。
黄蓋さまの隣にいたのは、長い薄紫色の髪、切れ長の透き通った蒼い瞳。褐色の肌に細く引き締まった体躯、艶を出しながらも品のある装い。ぶっちゃけたところ、男装した女性がいた。いたんだけど…俺の本能が言っている。あれは違う、騙されるなって……。
「こやつの名前は孫皓。堅殿の妹である孫静さまの一人息子じゃ。だからといって贔屓はせん。お主らと同じ新兵として組み込むことになった。……太史慈、孫皓の相手をしてもらってもいいかの?」
「はっ!」
俺は自分の槍を持って彼女?の前に立った。
「よろしくね」
そう言う彼女?に俺は周囲に聞かれないくらいの小さな声で一言、
「お前、男だろ?」
「…………あ゛-。よく分かったね」
マジで男なのかよ。まさか、他にもいるのか、こいつみたいなの…。
Side:黄蓋
「…………」
「…………」
互いに武器を構えて向かい合う孫皓さまと太史慈。
孫皓さまに関しては堅殿からワシ自身の目で実力を測るように言われている。
ただ、孫皓さまの相手をしてもらうのは新兵の中で頭一つ抜き出た存在である太史慈だ。彼は七尺七寸という恵まれた体に、切磋琢磨して自分の力を磨くという清き心を持っていた。好感が持てるし、これから策殿や権殿を支えていく武官の筆頭になりえるとワシは考えている。
しかし、彼は今伸び悩んでいる所が見られる。今回、孫皓さまと戦うことで、もし負けても何か得られるものがあると確信していた。
ワシが予想していたよりも彼らの能力は低くなかった。
向き合った瞬間から彼らから放たれる氣に新兵たちは次々と気を失っていく。ワシが鍛えた兵たちも彼らから放たれる氣に圧され後退りしている者が見られる。ワシ自身動きをとることが出来なくなっていた。
両者は何か動くきっかけを欲していた。息を呑むのも憚られる。その時、誰かが『ゴクリ』と喉を鳴らした。
それから、目を見張る彼らの攻防が始まったのだった。
「はぁああ!」
先に動いたのは太史慈だった。
その腕から捻り出される強力な一撃は、遠巻きに見ていたワシらに風を感じさせるほどの薙ぎであった。孫皓さまはその攻撃を切っ先で逸らし、一歩踏み込んだ。太史慈は槍を引き、孫皓さまに向かって突きを放つ。それを紙一重で避ける孫皓さま。しかし、次々に突きを放つ太史慈の攻撃に避け続けることを強要される。だが、その顔は喜びに満ちていた。ワシであればすでに捉えられているであろう高速の突きを涼しげに避け続ける孫皓さまに、ワシを初め遠巻きに見ていた全ての兵の視線が釘付けになる。よく見れば太史慈も笑っていた。
「いくぞ、孫皓!」
彼の槍の動きが変わる。大上段に槍を構える太史慈が地を駆けた。
大きく振るうことで遠心力を味方につけた彼の一撃が孫皓さま目掛けて振り下ろされた。その軌道を完全に見切った孫皓さまは隙を付いて彼の肩を目掛けて突きを繰り出す。太史慈は振り回すようにして強引に槍を振るって、その突きを払いのけた。
この攻防にワシは完全に興奮しておった。血沸き肉踊る闘いが、今目の前で繰り広げられておる。太史慈は完全に一皮向けたようだ、そして孫皓さまの強さは堅殿に通じる所がある。彼らの闘いは打ち合う度にどんどん研ぎ澄まされていく。そして、突然動きを止めた孫皓さまは太史慈に向かってこう言い放ったのだ。
「あははは、楽しいよ。太史慈……君の闘いぶりが“俺”の魂に火をつけた!」
太史慈の身体が『ビクッ』と震えた。彼はすぐに防御の構えを取ったが、槍を持ったまま前のめりに倒れた。彼の背後には、瞳を黄金色に爛々と輝かせる孫皓さまが立っておった。あの一瞬で彼の背中に回ったというのか…、なんとも末恐ろしいお方じゃな…。
Side:孫堅
祭とお酒を飲みに来たんだけど、彼女はすでに出来上がっていた。昼間、孫皓と太史慈っていう新兵の戦いを見て興奮したみたいで、お酒を煽る早さが尋常じゃない。
「堅殿ぉお、孫皓さまは逸材じゃぞー。いずれ策殿や冥琳と共に皆を率いていくことはもう間違いがないじゃろう。ワシは太鼓判を押すぞー」
そう言って、また杯を傾ける。『ゴクッゴクッ』と喉を鳴らして豪快に飲んでいく彼女の姿を見て、私は疑問をぶつけてみた。
「ねぇ、祭。孫皓はどっちだと思う?」
王として皆を率いていくのがいいのか、それとも臣下として雪蓮や蓮華を支えていくほうがいいのか。
「ふむ、そうじゃな…」
私は祭の答えを待った。
「あやつは…」
「孫皓は…?」
「見所がある“娘”じゃな。あれは堅殿に通じるものがあった。まぁ、ちと大人しい感じを受けたがの」
私は思わず机に伏した。
「私、言ったよね!孫皓は孫静の一人息子だって!」
「何を言っておるんじゃ、堅殿……いや、そういうことであったな」
「何?何を勝手に納得しちゃうの?違うのよ、本当に孫皓は私の子じゃ」
ないと言おうとした瞬間、祭がものすごく睨んできた。おかげで言葉を飲み込んでしまった。
「堅殿!いいんじゃ、いいんじゃぞ。もう苦しむことは無い。今、ここにいるのは、1人の母親とその愚痴を聞く1人の友人じゃ。本音を言っても誰も文句は言わんさ」
「いや…だから……」
「堅殿が何も言わずともワシはちゃんと分かっておる。つらかったのであろう、娘である策殿たちにも、幼馴染である結依殿にも明かすことが出来ずに、1人で悩んできたのだろう。もう、いいんじゃ。ワシは堅殿の味方じゃ、この先何があったとしてものう」
あ……ああ。祭の優しさがもの凄く、私の良心を抉っていくぅうう!なんで、こんなことに…。
孫堅の自室にて――
酔いつぶれた祭を部屋まで送っていき私は部屋に帰ってきた。
横になろうとしたら急に手首を掴まれ引き寄せられ、荒々しく抱きしめられた。こんなことをする人間に思い当たるのは1人しかいない。
「孫皓…、今日は疲れているの。お願い、寝かせ…て……!?」
彼の瞳を見て驚いた。なんと黄金色に爛々と輝いていたのだ。そして彼の身体はもの凄く熱を持っていた。
「孫堅さま……俺、俺…もう…」
これはきっと私が賊を殺しまくったり、血が滾るような闘いをしたりした後に陥るアレと同じものだろうと考えが及んだ。よくもまぁ、私が帰ってくるまで保ったものだと感心する。
「……いいわ。貴方の熱、私で治めなさい」
「すみません…」
そう言って寝台に孫皓は私を押し倒した。
まぁ、今までの中で一番荒々しく、そして強引で、逞しかったってことだけを記しておくとしよう。
…………
……
って、孫皓。何を!?ちょっと、そっちは駄目!!えっ、叔母たちは喜んでいた?だから私もきっとイケる!?
い、いやぁああああああ!やめ、アッ――――――――!!
あとがき
孫皓くんの本気は通常の三倍の速さで動く……だったらいいなぁっす。
読者の皆様、アンケートにご協力頂きありがとうございましたっす。これからも孫皓(改)伝をよろしくっす。では…
太史慈の部屋
こんにちは、あとがきの下に枠を勝手に作者が作っちまったのでちょくちょく出てくることになった太史慈です。よろしく。
アンケート結果について報告するぜ。
①については、「有り」や「延期」って言葉が書かれていたので第2部をまるごとそれに当てるらしい。作者が頑張ってプロットを作成してやがる。ざまぁ…。それから「風評を聞いて…」っていう意見も出たので、第1部にて孫皓になにかをやらせるらしいよ。孫堅ママの嘆きと一緒に…。
②については、「有り」という意見が多かったので、この場を借りて我らが主人公・孫元宋のステータスを表示するな。ただし、この板の孫皓は、王道チート主人公なので鋭い突っ込みは勘弁してくれ。
名前:孫皓 字:元宋 真名:鷲蓮 年齢:16歳
本来は統制9武力9知識8政務8なのだが、天気と自由が10というダブルコンボで普段は1/2状態。※興奮して血が滾ると瞳が黄金色になって本来の姿を取り戻す。おかげで瞬殺されたよ、トホホ…。
③については……。読者の皆様、俺と孫堅ママをそんなにいじめたいのか!?作者の奴、劉玄ちゃんが参加するはずだったプロット削除しやがったぞ!しかも、俺が胃薬を手に入れやすくするためにオリ医者キャラを作成しているし、真名を瑠音っていうそうだ。分かる人は分かるって言っているけど誰だ?
今回はこれで打ち切るとしよう。
本来ならここで次回予告なのだが、それは無しの方向で。一言いいか。
「孫堅ママに合掌ー!」
チーン………じゃっ、またな。