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No.24374の一覧
[0] 【習作】さいごのひとり【ホラー短編】[螺旋気流](2011/08/13 16:43)
[1] 【習作】トイレのナナコ4【ホラー短編】[螺旋気流](2011/01/20 17:01)
[2] 【習作】古屋敷の少女(ホラー短編)[螺旋気流](2010/12/30 16:18)
[3] 【習作】トイレのナナコ3(ホラー短編・続編)[螺旋気流](2010/12/11 22:46)
[4] 【習作】体育倉庫の夜(ホラー短編)[螺旋気流](2010/12/02 19:15)
[5] 【習作】トイレのナナコ2(ホラー短編・続編)[螺旋気流](2010/12/11 22:51)
[6] 【習作】携帯電話を拾った(ホラー短編)[螺旋気流](2010/11/24 19:06)
[7] 【習作】トイレのナナコ(ホラー短編)[螺旋気流](2010/11/30 17:13)
[8] 【習作】深夜の凶悪犯罪速報スレッド(ホラー短編)[螺旋気流](2010/11/18 23:29)
[9] 【習作】腕が追いかけてくる(ホラー短編)[螺旋気流](2010/11/26 01:44)
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[24374] 【習作】さいごのひとり【ホラー短編】
Name: 螺旋気流◆1b3d82b9 ID:ac288b81 次を表示する
Date: 2011/08/13 16:43


1・職員室の放課後



 坂田先生が、うっかりと自宅にテストの答案を置き忘れてしまったせいで、答案の採点をするのが遅くなってしまったのだそうだ。
 本来ならそれでも、数時間ほどで採点は終わるのだけど、今日は息子さんとの約束のために、早めに自宅に帰らないといけないらしい。

 そこまで聞かされて、何も言わずに済ますことなどできるわけもなかった。

 教育実習生というのは、なにしろ肩身が狭い。
 元々、教育実習というのは実習生自身で教育実習の依頼を学校に行い、学校側の厚意で受け入れてもらっているのが実情であり、大抵はコネを利用して自分の母校などに頼むことになっている。
 しかし、僕の母校は他校と合併という形で廃校になっていたため、大学での恩師にお願いして、なんとか紹介してもらったのだ。

 無理を聞いてもらったのだから、こちらも出来るだけのことはしなければならない。

「悪いね。本当は、実習生の子にお願いするようなことじゃないんだけど」

 僕が採点を代わると告げると、坂田先生は申し訳なさそうに頭を下げた。催促するようなことを言ったことを謝っているのだろう。
 そんなことで年下の僕に頭を下げるなんて、よほど真面目な方なのだと思う。

「気になさらないでください。何事も経験ですから、こういう仕事を任せられて嬉しいです」

 坂田先生は、この中学校で五年も教師を続けている古株の国語教師で、教育実習でこの学校を訪れた僕の指導教諭だ。
 40過ぎで家庭もあり、そのせいかとても落ち着いた風情の方で、どうも故郷で雑貨屋を経営している自分の父親に印象が重なる。

 そのせいか、仕事のミスの尻拭いでも、それほど面倒とは思わなかった。
 手を抜かずに採点しても、1時間やそこらで終わるはずだ。

「ありがとう。それじゃ、先に帰らせてもらうよ。他の先生が引き上げる前に、ちゃんと帰ってね」
「はい、気をつけます。坂田先生もお気をつけて」

 挨拶を交わして、坂田先生は鞄を手に机から離れる。
 心なしか早足で職員室から出て行く背中を見送ってから、僕は小さく息を吐いた。

 この学校はその規模の小ささのせいか、職員室もひどく狭く、壁一面に並ぶスチール棚と、背中越しに合わせられた十かそこらの机が並ぶだけで、人が歩き回れるようなスペースはほとんどない。
 だけど、今は机にいるのは僕以外には一人もいなかった。
 野球部の指導に当たっている体育の先生や、自分の作品の製作のために学校に残っているという美術の先生などはいる筈だけど、ここからは姿が見えない。

 まだ午後五時かそこらで、陽が落ちるような時間ではないけれど、職員室はひどく静かだ。
 奥の壁に掛けられた時計の秒針が動くたび、キチキチと、妙に耳に障る音が鳴る。

 一学年分、60枚の答案用紙は、職員室の隅に置かれた予備の机には少し多すぎるように見えた。





2・放課後のトイレ



 木造建築の校舎というのは、都会の方で育った僕にとってはちょっと信じられないものだ。

 建てられたばかりの頃には真新しい茶の色をしていたであろう校舎の壁は、古い老木のように黒い色をして、水を吸って歪んだ表面は触れると深い森の底に敷き詰められた土のような冷たさがあった。

 答案用紙の採点が半分を過ぎた頃、僕は急に催してトイレに向かうことにした。
 陽が傾いてきたせいか、生徒の少なくなった校舎の静けさに驚く。

「ずいぶん、減るもんなんだな」

 この学校には教師用のトイレというものがない。そのせいか、職員室から一番近いトイレでも、校舎の同じ階のちょうど逆端にあった。

 廊下を歩くと、床がギシギシと軋む。
 その音がやけに恐ろしく聞こえて、つい、音を立てないように気を遣ってしまう。

 校庭を見ると、野球部が体育の先生の指導を受けながら部活動に励んでいる。窓が全て閉じられているせいで音が聞こえず、どこか遠い世界の物事のようだったが、それでも少し安心した。

 けれど、まで辿り着いた僕は、そこで妙なものを見た。

「…………あれ?」

 女子トイレの扉にある小窓から、ひっきりなしに明滅している明かりが見える。
 それだけなら、蛍光灯の異常で片付けられるのだが、奥から少女の声が聞こえるのだ。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 途切れずに続く声は、まるでスピーカー越しに聞く遠い場所の声のように聞こえる。
 それでも、これが面白半分で出している声じゃない、本心から搾り出した声だというのは分かった。

 女性用のトイレに足を踏み入れるという行為に、少しの躊躇はあったが、少女の声はいまだ繰り返し謝罪の言葉を続けている。

 僕は意を決して、扉を開いた。



「なッ、なに入ってきてんだッ! 変態ヤロー!!」

 扉を開けると、目の前に二人の女生徒がいた。
 目を丸くしているうちに強く肩を押され、よろけているうちに二人揃って目の前を駆け去って行く。

 後には、僕一人だけが残された。

 蛍光灯の明滅は止まり、薄暗い女子トイレの中には静寂が横たわっている。
 暗い女子トイレの不気味な雰囲気に耐えかねて、僕は慌てて蛍光灯のスイッチを探した。

「ああ、そうか…………あの二人が……」

 そうして、スイッチを見つけたところで、先ほどの女生徒が蛍光灯を明滅させていたのだと気付く。
 スイッチは、ちょうどあの二人のいた場所にあったのだ。

 蛍光灯をつけて落ち着いて女子トイレを見回してみると、個室の一つの扉に、掃除用具入れから持ち出されたモップでつっかえがされているのが分かった。
 外側に開く構造の扉だと、こういう悪戯があるから、普通は内側に開くものなのだけど。
 そうした配慮がされていないのは校舎の古さのせいだろうか。

「えっと、誰か入ってるん……だよね?」

 少し言葉を選ぶように、おそるおそる声をかけると、消え入りそうな少女の声が答えた。

「……はい」

 怯えきった声に少し違和感を感じながら、僕はモップを外して個室の扉を開いた。





3・トイレの花子さん



 トイレの個室から出てきたのは、髪の長い、気弱そうな女生徒だった。

 さっきの女生徒二人もそうだったけど、目立たない顔立ちのせいか、実習で教えた事があるはずにもかかわらず、顔も名前も思い出せなかった。
 それでも名前を聞かなかったのは、やる気のない実習生と思われたくなかったからだ。

 話によると、その女生徒は、さっき逃げ出した二人の女生徒からイジメにあっていたらしい。

「……この学校にある噂なんです。放課後の、この女子トイレに、花子さんがいるって」

 学校の七不思議、などというものなのだろう。
 自分が学校に通っていた頃には聞いたことのなかった、学校で生徒達の中だけで伝わる噂話だ。
 でも、中学校で、というのは珍しいような気がする。

「放課後に、その個室に入って……『花子さん』って三回呼んでから、お願いするんです」

 開けられたままの個室の方をチラチラと気にしながら、女生徒は説明する。
 もちろん、個室の中にはお化けの姿なんてないし、蛍光灯はトイレの中を明るく照らしたままだ。

「『連れて行ってください』って……」

 『花子さん』に『連れて行って』ね。
 ぼんやりと僕が聞いたことのある“花子さん”の噂とはちょっと毛色が違う感じがする話だ。

「そしたら花子さんがやってきて、トイレの中にいる一人だけを、自分の世界に連れいていってしまうって……」

 連れて行くのは一人だけ。
 だから、二人で個室に押し込めて、あんなことをしてたのか。

「それで、あの二人に命令されて、その……儀式……を、やったの?」

 花子さんを呼び出すための、その行為を形容する言葉が思いつかなくて、とっさに“儀式”と言ってから、自分の口にした言葉の禍々しい響きに後悔する。

「はい……」

 まるで死刑を言い渡された囚人のように、少女は顔をうつむかせて、震える声で答えた。
 まずかったな、と反省しながら、僕はことさら明るい声を作って肩を叩く。

「さっきのここのトイレの蛍光灯がピカピカ点いたり消えたりしてたの、あれは、あの二人が君を怖がらせようとしてただけだって、分かるよね?」

「……やっぱり、そうですよね……? 二人とも返事してくれなくて、ずっと黙ってるから……」

 あの二人、無言でずっと蛍光灯を明滅させてたのか。まったく、冗談にならない遊びだ。
 イジメの犯人たちのやりくちに呆れながら、僕は嫌味にならない程度に笑いを交えて話を続けた。

「きっと、そういうのもあの子達の演出なんだよ」

 蛍光灯のスイッチに近付いて、パチパチとオンオフを切り替える。
 さっきと同じようにトイレの蛍光灯が明滅した。

「噂話とかもさ、こんな風に誰かが友達を怖がらせるために作ったものとかじゃないかな?」

 苦笑混じりに言ってみると、女生徒の顔が少しだけ緩んだように見えた。
 まぁ、ちょっとしか学校にいないような実習生じゃ、これぐらいが精一杯だろう。

 それに、そんなことよりもっと大きな問題がある。

「今日のことは、担任の先生にも話しておくから」

 僕の言葉で、女生徒の顔がみるみる硬くなるのが分かった。

「オバケなんかより、そっちの方が大事だよ。うまく力になれるか分からないけど……」

 言葉を選んでも、あまり効果はなく、その子の表情はみるみる暗くなっていく。
 僕自身、教師の側からこういう問題を解決するのが不可能に近いのが分かってるので、どうしても声に力を込めることができない。

「……あの、ありがとうございました」

 女生徒は言葉を濁すように、頭を下げて礼を言う。
 そして、まるで逃げるように足早に女子トイレから出て行ってしまった。

 それを見送ったところで、僕は突然、自分が重大なことを忘れていることを思い出した。

「あ、ちょっと待って……」

 そう、その女生徒の名前だ。
 つまらない見栄で名前を聞いてなかったのを思い出して、僕は慌てて彼女を追ってトイレを出た。





4・さいごのひとり



「……あれ?」

 廊下には、あの女生徒の姿はなかった。
 入ってきた時と同じ、人のいない夕方の校舎の、無人の廊下。

 踏み出すと、ぎしぎしと、廊下が軋んだ。

 階段を上っていったにしては、階段の鳴る音が聞こえない。
 帰宅するにしても、下駄箱は職員室の方にあって、廊下を端まで走らなければならない。

「あの子は何処にいったんだろう……」

 そう口にしてから、自分がひどく恐ろしい言葉を口にした気がして、僕は口を閉ざした。
 ゆるゆると息を吐き、寒気を押さえるように耳の後ろを撫でる。

 助けを求めるように、廊下の窓から校庭を見る。
 ついさっき練習に勤しんでいたはずの野球部員達の姿はどこにもなかった。



「……あれ?」

 真後ろで、囁き声が聞こえる。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 途切れずに続く声は、本心から搾り出したような少女の声。
 僕はその時、さっき出会った女生徒をはじめてみたときに感じた違和感の正体に気付いた。

 背後から聞こえてくる少女の声は、あの女生徒の声とは違っていた。
 きっと、この声は、トイレにいる一人だけを連れて行く、彼女の声なのだ。
 今まで彼女が現れなかったのは当たり前のことだ。最初はあの二人の女の子がいて、その後は僕がいた。だから儀式をしたあの女の子は連れて行かれなかった。


 だけど、今、トイレの中にいるのは一人だけだ。



 ゆっくりと振り向くと、女子トイレの扉が、半分だけ開いていた。



 そこに立っていたものは。

「ごめんなさい」

 彼女は、そんな言葉を口にしながらも、大きな口を三日月のように歪めて笑っていた。















「…………なんだ、答案用紙が置きっ放しじゃないか。いかんなぁ、これは」

 体育教師が、職員室の端の机に放置されたままになっていたテストの紙束を見て顔をしかめた。

「ああ、確か坂田先生が、実習生君に採点をお願いしてたはずだよ」

 紙束をひとまとめにしてから机に置き直していると、職員室に戻っていた美術教師が口を挟む。
 その言葉を聞いて、途端に体育教師が不機嫌な顔を浮かべる。

「校舎にはいないし、もうとっくに帰ったんじゃないですかね? まったく近頃の若い連中は」

 だが、美術教師が逆に不思議そうな顔をした。

「校舎にいない? しかし、鞄や荷物は机に残ってるようだが……ホントにいなかったのかね?」

 実際にそれらが残っているのを見て戸惑いながらも、体育教師は頷く。
 大きな校舎でもないので、実習生がまだ残っているならすでに見つけているはずだ。

 その返事に短く唸って、美術教師は口を開いた。

「…………どこにいったんだろうね」

 その言葉は、沈黙の降りた職員室の中に、不思議と長く響いて聞こえた。





END




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